自動車

EV普及の代償 -- 「重量化」がもたらす見えないコスト

EV普及の裏側に潜む「カサンドラの警鐘」

2026年1月11日の日本経済新聞に「カサンドラの絶景:EV普及で道路に傷み、発電所建設で減る食料生産」という刺激的な記事が掲載されました 。この記事が引用している米ニューヨーク大学の研究によれば、EVトラックの増加による重量増が、都市インフラに深刻なダメージを与えることが予測されています 特にニューヨーク市では、EVトラックの普及により、2050年までに道路や橋の修理費が9〜12%も増加するという試算が出ています

Heavyev

本稿では、私が以前から指摘していた「EV重量化の問題」の本質を「バッテリーによる重量増」「安全性への影響」「社会コストの内部化」の視点から整理・解説します。

なお、本記事の内容を解説した動画をつくりましたので、合わせて御覧ください。

以下の内容は、本ブログの「電気自動車は重い! バッテリーはバラスト!? 」「電気自動車の大容量電池搭載による重量は安全を損なうのか? 自動車重量と衝突時死亡率の関係 」の記事に詳しい解説があります。

「重いバラスト」を運ぶEVの不都合な真実

EVがインフラを傷める最大の要因は、航続距離を確保するために搭載される膨大な重量のバッテリーにあります

  • 圧倒的な重量差: 同格のエンジン車(ICEV)と比較して、EVは驚くほど重くなっています。例えば日産リーフは、同格のガソリン車より328〜547kgも重く、これは乗員6〜8.5人分に相当します。大型のピックアップトラックでは、その差は700kgを超えます

  • 「バラスト」化するバッテリー: 米国の統計では、1日に200km以上走る日は年間のわずか4%に過ぎません 。つまり、大半の走行において、高価で重いバッテリーの大部分は単なる「バラスト(重し)」として運ばれているのが現実です 。この「無駄な重み」が、日々道路や橋梁に過度な負荷を与え続けているのです。

インフラ損傷に留まらない「安全性」への脅威

重量増は単なるコストの問題ではありません。交通事故における「他者の生存権」に関わる深刻なリスクを孕んでいます

  • 衝突時の死亡率上昇: 物理学の法則通り、衝突側の車両が重いほど、相手車両の死亡リスクは高まります。米国の研究では、車両重量が約454kg増えるだけで相手の死亡リスクは1.5倍に、約907kg増えれば2.2倍に跳ね上がることが示されています

  • 交通弱者へのリスク: 近年、米国で交通事故死者が増加している一因には、大型SUVやピックアップトラックの普及があります 。これらの車両がEV化でさらに重量を増し、かつモーター特有の鋭い加速性能を持つことは、歩行者や自転車にとって極めて危険な状況を作り出しています

「外部コスト」をどう是正すべきか:政策的視点

道路の損傷や事故被害は、市場価格に含まれない「外部コスト」として社会全体が負担しています 。この歪みを正す時期に来ています。

  • 重量課税の必要性: 重量増による社会的な外部コストは、炭素排出によるコストを上回るという指摘もあります。車両重量に応じた課税や通行料の設定によって、このコストを所有者が負担する「内部化」の議論が不可欠です

  • 現実的な選択肢としてのPHEV: 全てを巨大なバッテリーを積んだ純電気自動車(BEV)に置き換えるのではなく、バッテリー重量を抑えたプラグインハイブリッド車(PHEV)を賢く活用することが、インフラ保護と安全性の両立において現実的な解となるでしょう

結論:多角的な政策介入が急務

EV化による環境負荷低減という大義の影で、「車両の巨大化・重量化」という新たな社会問題が顕在化しています
私たちは、バッテリー技術の革新を待つだけでなく、車両重量に対する規制や、用途に合わせた適切なバッテリーサイズの選択を促す課税制度など、多角的なアプローチを検討すべき段階にあります。

| | コメント (0)

大型トラックでも主役は電池 -- 「最後の砦」だった水素は少数派のまま

「世界の資源市場とエネルギー転換を牽引する破壊的技術を扱う戦略リサーチ機関」と称するBloombergNEF社が、20259月に発表した「世界のゼロ排出中大型トラックの導入データ」から、ゼロ排出中大型トラックの分野の現状と将来について考察しました。

 「大型トラックでも主役は電池――「最後の砦」だった水素は少数派のまま」

  • データが示す結論:中・大型トラックでも主役はBEV、FCEVは少数派のまま。
  • 勝因=コスト・エネルギー効率・拠点充電の実装速度;まず短~中距離・定期便をBEVが席巻。
  • 政策の方向はMCS(~75MW)とデポ電化・系統強化へ集中、水素は産業用途に選択と集中。

Globalsaleszeroemissionmediumheavydutytr

図・データの出所: BloombergNEF,  Zero-Emission Commercial Vehicles Accelerating the Transition 2025 -- Factbook for Investors (September 18, 2025) https://assets.bbhub.io/professional/sites/24/Zero-Emission-Commercial-Vehicles-Factbook-2025.pdf

2019年以降の四半期データを見ると、ゼロエミの中・大型トラックの販売は電池式(BEV)が圧倒的多数を占め、燃料電池(FCEV)はごくわずかにとどまっています。市場が実績で選び、重トラでも電動化の本流は「水素」ではなく「電池」で固まりつつあることが読み取れます。

この数年、「長距離・重量物は水素」という仮説が繰り返し語られてきました。しかし実際の販売データは、重トラでもBEVが急伸し、FCEVは立ち上がらない現実を示しています。背景は単純で、総保有コスト(TCO)・エネルギー効率・インフラ整備スピードの三点でBEVが優位だからです。

拠点(デポ)からの充電整備が容易で、夜間充電で日次の運行を賄いやすく、電力直給の効率が高く燃料費の変動にも強い。加えて電池の価格・エネルギー密度・耐久が改善し、必要航続の多くをカバーできるようになりました。

一方、水素は燃料価格の高止まり、供給・圧縮・充填のインフラ投資が重く、車両側コストも下がりにくい。結果として、「まず導入が進む短〜中距離・定期ルート」はBEVが取り込み、ボリュームの大半を押さえています。

寒冷地の超長距離や連続運行などニッチは残り得ますが、図が示すのは「主戦場での勝敗」――大量導入フェーズの選択肢はBEVだということです。

政策も産業戦略も、この既成事実を前提に、MCS級の高出力充電、デポ電化、系統強化、電池サプライチェーンへ資源を振り向けるのが合理的です。水素は化学原料、合成燃料など“得意科目”に集中させるほうが、社会全体の最適に近づきます。

MCS(Megawatt Charging System)とは

Mcsoipl

すでに初期導入~公開運用が始まっている中・大型商用BEV向けの超急速DC充電規格で、最大約1,250 V × 3,000 A ≒ 3.75 MW。

これは日本の高速道路SA/PAに多いCHAdeMO 50 kW級(90150 kW級への更新も進行中)に対して、出力で約75倍に相当します。

対象はまず長距離トラックですが、路線・観光バス、建設・鉱山機械、港湾機器、中小型フェリー、(将来的には)eVTOL/小型コミューター機など航空分野への展開も見込まれます。

| | コメント (0)

中国、電気自動車の販売台数がエンジン自動車を超える

中国で、新車の販売台数で電気自動車がエンジン自動車を初めて超えたようです。

出所:Bloomberg NEF社のClean Transport部門長Colin Mckerracherの情報など

Nevinchina

上の図の"New-energy vehicle"とは、電池電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)などの電気自動車のこと。

この4年半で、電気自動車の新車販売台数のシェアはほぼゼロから50%に増加し、エンジン車のシェアはほぼ100%から50%に減少したことになります。

下の図の新車販売価格の推移では、2023年にはBEV(青色線)が最低になっており、PHEV(紫色線)の価格も急速に低下して、エンジン車(灰色線)より安くなり、ハイブリッド車(緑色線)が最も高価になっています。

Pricecars

なお、電気自動車の価格低下には最近のリチウムイオン電池の価格低下も効いているようです。↓

Liionprice

それにしても、日本の新車販売状況とは大違いですね。
日本の2023年の新車販売シェア%は下記ですので、中国で半分を占めている"New-energy vehicle"(BEV+PHEV)の割合は僅か3.6%!

BEV 1.7 %
PHEV 1.9 %
HEV 55.1 %
ICEV 35.8 %

(日本自動車販売協会連合会の燃料別登録台数2023年1月~12月の統計、以上のほかディーゼル5.5%)

| | コメント (0)

「電気自動車の効率改善を評価する」 -- EPRI・NRDCのレポート

「電気自動車の効率改善を評価する」と題する報告書が2024年4月にEPRI(Electric Power Research Institute:米国電力研究所)とNRDC(Natural Resources Defense Council:自然資源保護協議会)から発表されています。

Epricover

“Valuing Improvements in Electric Vehicle Efficiency”
https://www.epri.com/research/products/000000003002030215

このレポートでは、2050年の電気自動車は、技術的改善などによりエネルギー効率を現在より約2倍に向上でき、電力消費をその分削減できると述べています。

エグゼクティブサマリーの概要部分の日本語訳は以下の通りです:
---------------------------
今日、内燃機関車から電気自動車への急速な移行は、脱炭素化への重要な道筋を提供しますが、自動車産業の再編成、電力グリッドの急速な拡充と更新、新たな安定した鉱物供給チェーンの構築が必要です。この論文では、NRDCとEPRIが、電動化に追加的かつ補完的な将来の車両効率改善が、インフラとエネルギー需要を軽減し、消費者コストを削減する上で果たす基本的な役割を探求しています。

電動化自体は主なエネルギー節約やその他の利点をもたらしますが、ここで検討されている追加的でしばしば見過ごされがちな改善は、車両に電力を供給するために必要な電力量を削減することにより、将来の大きな負荷を軽減することが予測されます。本研究では、主要な自動車技術の進歩を特徴付け、消費者、電力および充電インフラプロバイダー、自動車メーカーの視点からその潜在的な影響を検証しています。効率化と軽量化の手法により、今後30年間で1マイルあたりのエネルギー消費量を効果的に半減させることができます。

これらの手法が車両コストを上げることなく達成される場合、2050年までに走行したオンロード交通に対する消費者のエネルギーコストの節約額は年間2000億ドル以上に達すると、この研究は予測しています。これには、電気モビリティへの移行をサポートするために必要な物理的なグリッドと充電器の増強への投資が削減されることも含まれます。

さらなる研究が提案されており、提案された車両効率戦略のコストをより詳細に調査し、より少ないバッテリー材料でより多くの走行距離を得ることによるサプライチェーンの利益を推定し、より効率的な車両が消費者、自動車メーカー、送電網にどのように貢献できるか、さらに広範な評価を行う必要があります。
---------------------------

このレポートで想定している技術改善点とそれによる改善の値は下の表に示されています。これらの項目と数値は、2022年1月に発表されたMercedes BenzのEQXXコンセプト車のパワートレイン効率、空力抵抗係数、タイヤ回転抵抗、バッテリーおよび車両重量低減などの各種改善の効果を参考にしています。

Bevefficiencyassumption

これら自動車のエネルギー効率の向上効果を入れた米国の消費端の2050年の電力消費量は下の図のようになっています。

Ustotalannualdemand

図において左側のピンク色と空色のバーは運輸部門以外の建造物と産業の消費の2020年と2050年の消費量を示しています。ここでは、電力化率の上昇分は効率改善で相殺されています。

図の右側の緑色のバー4本が2050年の運輸部門の電力消費量で、左から現在技術、改良技術(Improved)、先端技術(Advanced)、先端技術+軽量化の各シナリオを想定したケースで、濃い緑色が中量車/重量車(MDV/HDV)、薄い緑色が軽量車(LDV)による値を示しています。

上のケースのほか、米国における車の走行距離(Vehicle-miles traveled; VMT)が都市設計/交通政策などにより想定より低くなった場合の電力消費量も評価しています。

筆者追記: これらのエネルギー効率の向上の予測は電気自動車(BEV)に限らずプラグインハイブリッド車(PHEV)にも同様に適用できると考えています。

| | コメント (0)

世界各国の自動車のパワートレインやニーズに関する意識(デロイトによる調査)

デロイト(Deloitte Touche Tohmatsu、世界四大会計事務所の一つ)による世界各国の自動車に関する消費者意識調査が発表されています。

この「2024年グローバル自動車消費者意識調査」には「世界26か国の自動車ニーズから、EVシフトとモビリティの「今」を推し量る」の副題がついています。

"2024 Global Automotive Consumer Study"(英語の報告書)

「2024年度版 グローバル自動車消費者意識調査」(日本語の報告書

この調査では、次の4つの重要な傾向が浮かび上がったとしています。

1. EVの勢いが鈍化しているため、現在の脱炭素化のスケジュールが危うくなっている可能性がある。
2. かなりの数の消費者が自動車ブランドの乗り換えを考えている可能性がある。
3. コネクティビティ機能への関心は、収益や利益に完全には結びつかない可能性がある。
4. 若い消費者は自動車サブスクリプションに関心を持っており、今後自動車を所有する必要があるかどうかを疑問視する消費者が増えている。

傾向1と傾向3については↓

傾向1:自動車電動化

自動車のパワートレイン(エンジン車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電池電気自動車など)に対する各国の傾向を次の図に示す。

Powertrain

国によって傾向は違うが、日・米について見るとエンジン車とハイブリッド車が好まれているのが判る。(米国 ICEV+HEV 81% vs. PHEV+BEV 11%、日本 ICEV+HEV 66% vs. PHEV+BEV 15%)

傾向3:コネクティビティ

コネクテッド・カーに関心を持つ人の間では、メンテナンス、交通/道路の安全性、より安全なルートの提案などの最新情報を提供する機能に対する関心が比較的高い。しかし、コネクテッド・テクノロジーに追加料金を支払う意欲は、先進国市場では比較的低いままである。

インド、中国、東南アジアなどの発展途上市場で調査された消費者は、米国、日本、ドイツなどの市場で調査された消費者と比べて、コネクテッド・カー・サービスに支払う意欲も高い。

インド:71%
中国:60%
東南アジア:55%
韓国:33%
アメリカ:25%
日本:23%
ドイツ:20%

| | コメント (0)

電気自動車の大容量電池搭載による重量は安全を損なうのか? 自動車重量と衝突時死亡率の関係

1,電気自動車と安全に関する最近の米国の報道

米国の環境対応自動車の情報サイトGreenCarReports.comに「電気自動車のエンジン自動車より余分な重量が道路安全を悪化するのか?」というタイトルの記事↓が掲載されていました。(2022年9月2日)

Will_the_extra_weight

これは、米国で近年自動車事故による死者が増加しており、その原因の一つが電気自動車が大容量の電池を搭載することによる重量増が他の自動車や道路使用者の危険を増しているのではないか、という内容の記事です。この記事は、その少し前(2022.08.31)にSlate.com(時事問題・政治・文化・技術などを報道する米国のオンライン・マガジン)に掲載された「自動車会社は電気自動車で致命的な過誤をしている」と題する記事↓から多く引用しています。

Slate_car-companiesl

これらの記事で言っていることは次のようなことです。

------------------------------------------------------------------------------------
8月16日バイデン大統領はインフレ削減法に署名した。この法律では電気自動車購入に7500ドルの補助など電気自動車導入促進を図っている。その翌日、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)は、2022年第1四半期の交通事故死者数は7%増の9560人で2002年以来最大になったと発表していた。

他の先進国では過去10年間に交通事故は減少しているのに対して、米国は逆でこの10年で30%増加してフランスやカナダに比較して交通事故死が2倍以上になっている。

この原因として幾つか挙げられる。例えば、米国は他の交通機関利用より自動車利用での移動が多い、自動交通カメラが少い、都市部の高速道路が多い、・・・。さらに重要な原因としては、米国ではSUV(スポーツ用多目的車)やピックアップ(小型トラック)の所有割合が多く、これらの車は大きく・重く・背が高いので、とくに歩行者や自転車の視認性が悪く衝突時に相手に与える衝撃が大きく、これらの死者は過去10年で40%増加している。

SUVやピックアップの電気自動車化はさらに重量が大きいので危険と言える。フォード社のSUVの「F-150」はエンジン車より700kg重く車重が約3トンある。

電気自動車の重さだけが安全を損なう原因ではなく、電気自動車の加速の良さも問題である。電気自動車の停止状態から60MPH(96km/h)までに加速するに要する時間では一番速いTesla Model X Plaidで2.5秒など、電気モーター駆動の特長から一般にエンジン車より格段に加速が良い。

電気自動車のこれらの問題には自動車会社や行政で解決可能なものがあり、Slateの記事の副題"It’s not too late for the U.S. to do something about it"にあるように「米国がこの問題を何とかするのは今からでも遅くない」。
------------------------------------------------------------------------------------

下の図は、筆者ブログ「電気自動車は重い! バッテリーはバラスト!?」 から再掲したものです。ここで引用している電気自動車(BEV)とその元のエンジン車(ICEV)の重量比較の図は2021年10月のNature誌掲載のShaffer等のペーパーから引用したものです。図では、Ford社のSUVのF-150、Hyundai社のコンパクトSUVのKona、および日産のハッチバックのLeaf Plusについて、電気自動車(BEV)と相当するエンジン車(ICEV)の重量を比較しています。

Bevheavy

図の「Leaf Plus」の元になっているエンジン車「Versa」は日産が海外で販売している車です。「Leaf Plus」は国内では「Leaf e+」(バッテリー60kWh、WLTC航続距離450km)として販売されており、標準型「Leaf」(バッテリー40kWh、WLTC航続距離322km)の高グレード版。道路運送車両法では乗員1人あたり55kgで計算しているので、Leaf e+は478kg増で乗員約8.5人分、標準型Leafは328kg増で乗員約6人分、同格のエンジン自動車より重いことになります。

2.自動車重量と衝突時死亡率の関係(米国の例)

自動車の重量が増加すると衝突事故時の安全性はどのように変わるのでしょうか? 一般に、重量が増えた方の車に搭乗している人の安全性は高まるが、衝突相手の車に搭乗している人の安全性は下がると考えられます。衝突する車との重量の差と被衝突車の乗員の死亡率については、次のような論文が米国で発表されており、その中で下の図のような関係が示されています。

Externalcostvehicleweight

Vehicleweightdifferencefatality

上の関係は米国8州の1980年以降の2車衝突による死亡事故の約485万データ(NHTSA所有のデータベース)から導出したものです。横軸が[衝突する車の重量―衝突される車の重量]で、この値がマイナス(左側)は衝突する車の方が軽い場合、この値がプラス(右側)は衝突する車の方が重い場合で、実線は衝突される車に搭乗している人の死亡確率、棒グラフは該当する車の割合を示しています。

この図の右半分で、1000ポンド(454kg)重い車に衝突されると同じ重量の車の場合より死亡リスクは約1.5倍に増加し、2000ポンド(907kg)重い車に衝突されると同じ重量の車の場合より死亡リスクが約2.2倍に増加します。

一例として、エンジン自動車とそれに電池を搭載して電気自動車化して重量が増えた場合について調べてみます。エンジン自動車・ICEV(1200kg)同士の衝突、このICEVと同程度の車格の中容量(40kWh)の電池搭載の電気自動車・BEV-1(1530kg)および大容量(60kWh)の電池搭載量の電気自動車・BEV-2(1700kg)が衝突する3ケースの場合について、上の図の関係が当てはまるとして車両の重量差から被衝突車乗員の死亡確率とそのリスクの同重量車衝突に対する増倍を求めてみると下の表のようになります。

Collisionriskexample

ある重量の車(この場合はエンジン車)同士の衝突の場合に比較して、そのエンジン車を元にした電気自動車(上の計算例では中容量と大容量の電池を搭載した重量の異なる2車種)が衝突した場合に、衝突された軽量の方の車(エンジン車)の乗員の死亡リスクは上の表のように衝突した車の重量に従って増加します。

上の図を提示したAnderson & Auffhammerのペーパーはそのタイトル「人を殺める重量:自動車重量の外部コスト(Pounds That Kill: The External Costs of Vehicle Weight)」が示すように車両重量の外部コスト(社会や環境など外部に影響するので支払うべきだが、市場取引に反映されていないコスト)を主テーマとしています。このような衝突事故の死亡リスクに関わる重量の車の外部コストは、米国における炭素排出による社会コストのレベルを超えるものなので、この外部コストを内部化する方策として車両重量に応じた課税などについて論じています。

| | コメント (0)

プラグインハイブリッド車による自動車電動化 -- バイオ合成燃料自給、CO2排出ゼロ

ポイント

  • 2050年の乗用車の構成をPHEV 80%・BEV 20%と想定
  • 乗用車の燃料消費は現在の1/10に低減
  • バイオ合成燃料でCO2排出はゼロ
  • 搭載バッテリーの総容量は半減
  • 燃料供給は国産バイオマスで可能
  • 製造に原子力熱利用で供給拡大
Titlepicture1a

VDAサイトの画像を編集)

2050年カーボンニュートラル(以下、CN)に向かって、乗用車のパワートレインをプラグインハイブリッド車(PHEV)を主として電池電気自動車(BEV)を従として電動化を行い、CNの電力系統からの充電とCNの合成燃料を現行の燃料供給インフラから供給すれば、




  • 電力および燃料走行のCO2排出ゼロ
  • ハイブリッド走行による燃料節減
  • 燃料供給現行インフラの流用

によって環境的・エネルギー的・経済的メリットを期待できます。現行の石油ベースの燃料供給インフラを「そのまま」流用して供給するのを「ドロップイン燃料」と言います。

この場合CNの合成燃料の量的・経済的な供給が課題ですが、PHEVBEVにより燃料必要量を大幅に削減できるので、経済性に優れるバイオマスベースの合成燃料を国内のバイオマスから供給する可能性が出てきます。2050年の乗用車がPHEVBEVから構成される場合の燃料必要量を推定すると、現在の乗用車の燃料消費量の約1/10となります。。

しかし、日本の2050CNを想定した場合、乗用車のほかの各種自動車に加えて各種産業においてもCNの燃料の需要があります。現在はこれら需要をCNの水素およびその化合物(アンモニアなど)として供給することを計画していますが、供給インフラを含む利用の便を考えるとCNの炭化水素燃料(とくに液体燃料)としての供給が望ましいです。

CNの炭化水素燃料としては、排ガス/大気中から回収したCO2と変動再エネ電力(太陽光・風力)から製造される所謂「eFuel」も考えられますが、製造に必要なエネルギーの量や製造のコストからみてバイオマスベースのバイオ合成燃料の方が優れています。バイオマスからバイオ燃料を工業的な熱化学的プロセス(例えば、バイオマスの水蒸気ガス化反応で合成ガスを生成し、これからフィッシャー・トロプシュ法でガソリン・軽油などを製造)を使用する際に、CO2排出を避けるためにはプロセスで必要な反応熱をバイオマスの燃焼で供給する必要があります。このプロセスに原子力熱を供給すれば、バイオマスから高収率でCN合成燃料を製造することが可能になり、バイオマスの使用量の削減/バイオ合成燃料の増産が可能になります。

このバイオマス+原子力によるバイオ合成燃料の製造を含めたPHEVによる自動車電動化の可能性について自動車技術会の2022年春季大会・学術講演会で発表をしました。

230

ここでは、この発表内容について説明します。

1.2050年に乗用車が必要とするCN燃料の量

2050年に乗用車が必要とする燃料の概略の量を次のようにして推定しました。

燃料使用量=PHEV保有台数x走行距離x燃料走行距離割合x燃費

以下、これらの各項目について想定した規模を説明します。

① 2050年の乗用車保有台数

2050年の乗用車保有台数は、普通・小型・軽自動車を合わせて7200万台と想定しました。これは2020年の登録車(普通・小型)3918.2万台と軽自動車3303.4万台の合計7222万台とほぼ同じ台数です。

② 2050年の乗用車のパワートレイン割合と台数の想定

2050年の乗用車のパワートレインの割合は、PHEV80%、BEV20%と想定しました。台数にして、PHEV 5760万台・BEV 1440万台となります。なお、PHEV導入の環境・エネルギーにおける重要性とその効果については、これまでの検討結果を自動車技術会の論文集に発表しております。今回のパワートレイン構成の想定には、これらも参考にしました。(自動車技術会の論文集2件のリンク12

③ 2050年の平均的PHEVの仕様

2050年の平均的PHEVの車格として、計算上、普通・小型・軽の各車種を総括・平均して、トヨタ・プリウスとトヨタ・アクアの中間のサイズ・仕様・性能のPHEVを想定しました。普通車と小型車を平均した車はプリウス・クラスと考えられますが、これに軽自動車を含めて平均したPHEVは、プリウスとアクアの中間のクラスになると考えました。

なお、今回の燃料量の推定には必要ありませんが、全体の20%を占めるBEVは将来、大型・長距離・高級感志向(例えば、電池容量60kWh以上)のグループと小型・短距離・経済性志向(例えば、電池容量15kWh以下)のグループへと二極化することが考えられます。後述の総電池容量の計算の際には、BEVの平均として1台当たり電池容量40kWhを用いました。

想定したPHEVのパワートレインはシリーズ・パラレルのスプリット方式でCDレンジはAEAll Electric)モード走行としました。このPHEVの走行距離に対する電池のSOC(充電率、%)および燃料消費率(km/L)の変化は下の図のようになります。PHEVの特性などについては、筆者の「自動車技術」誌掲載の解説を御覧ください)

Phev_characteristics

実際の走行では電池充電率(SOC)及び燃料消費率とも走行条件によって変動しますが,この図においては模式的に直線で示しています。

想定したPHEVの電力走行関連仕様として次の値を用いました。




  • 電池容量=9kWh(現行のプリウスPHV 6LA-ZVW52では8kWh
  • CDレンジ電費(AE Mode走行の電費と同じ)= 直流電力消費率8km/kWh=交流電力消費率7km/kWh(充電効率≡88%として)
  • CDレンジのSOC範囲=100%25%75%(電池のSOC25%まで下がるとエンジンが始動する)

④ 2050年の平均的PHEVの電力走行割合

CDレンジ走行距離(系統充電電力による走行距離)は《電池容量xCDレンジSOCCDレンジ電費》なので、このPHEVCDレンジ走行距離は9[kWh]0.75[-]8[km/kWh] = 54 kmとなります。

CDレンジ走行距離54 kmの車は、日本の乗用車の平均的走行パターンの統計値から求めた充電電力走行距離とユーティリティ・ファクター(電力走行距離割合=充電電力走行距離/全走行距離、略してUF)の関係(下図)からUF=0.7の値が求まります。

Phev_uf
上の図に示されている2つのUF値の中の「堀」の値は、筆者が自動車輸送統計報告書・登録車・距離帯別輸送人員(20043回調査分)の約10万の走行データに基づいて算出して2007年に発表したもの。「国交省」の値は、国土交通省が2009年に「プラグインハイブリッド自動車の燃費算定等に関する実施要領」の中で示したもので、2020年策定の「新燃費基準」でも同じ値が採用されています。

「堀」と「国交省」の値はよく一致していますが、国交省の値は統計処理に使用した車種・データ数・算出方法などは公表されていません。この件で筆者が「新燃費基準」策定に際してパブリックコメントを提出した内容・経緯はここにまとめてあります。

上の図のようなUFCDレンジ距離の関係から平均の電力走行距離割合を求める方法は、その前提として「充電は1日に1回,走行はCDレンジから開始,統計データと同じ走行パターン」を前提としており、勤務先充電などで充電機会が増える場合の電力走行割合はこれより増加し、燃料走行割合が減少することになります。

因みに、電動自動車に分類されているハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電池電気自動車(BEV)のUFの値は、HEV0BEV1PHEV01の間でその値は搭載する電池による航続距離(CDレンジ距離)から上の図で求める値となります。

⑤ 2050年の平均的PHEVの燃料走行割合

2050年の平均的PHEVCSレンジにおけるハイブリッド走行の燃料消費率として22.0 km/Lを想定しました。「e-燃費」サイトにおけるガソリン燃費の実績データ(20223月現在)は、アクア23.90 km/L、プリウス20.49 km/Lですので、想定した22.0 km/Lはこの中間の値になります。

電力走行距離/全走行距離=0.7になるので、全走行距離に対する燃料走行距離割合(1-UF= 0.3となり、燃料消費量はハイブリッド車の3割に減少します。

⑥ 2050年の平均的PHEVの年間走行距離:

2050年の平均的PHEVの年間走行距離は1台当たり平均6000kmと想定しました。この想定には、(a) ENEOS「家庭の自家用車による輸送需要の将来推計」(2021)の1世帯あたり7400km走行(ただし、2台所有世帯35%)、(2) ソニー損保「全国カーライフ実態調査」(2020)による年間走行距離の平均6017km(男性6293km、女性5741km)、(3) 政府統計「自動車燃料消費調査」(2019)によると自家用乗用車の普通車・小型車・ハイブリッド車・軽自動車の平均の年間走行距離は約7209km、などを参考にしました。

⑦ 2050年の平均的PHEV全台数の走行による年間燃料消費量

2050年の平均的PHEV全台数5670万台が、各車6000 x 0.3(燃料走行割合) = 1800kmの距離を燃料消費率22.0 km/LCSレンジ・ハイブリッド走行する時の燃料消費量は4.72x109 L/ = 1.572x1011 MJ/ = 3.76 Mtonoe/年になります。

ここで、「L」(リッター)はガソリン相当燃料の容積の単位、「MJ」(百万ジュール)および「Mtonoe」(石油換算百万トン)は燃料の熱量の単位です。(燃料容積⇔燃料熱量は33.36 MJ/L、燃料熱量MJMtonoe2.388x10-11 Mtonoe/MJ

なお、政府統計「自動車燃料消費調査」(2019年)による2019年現在の自家用の普通・小型・ハイブリッド車・軽自動車(計7221万台)による燃料消費量は41.0x109 L/ = 13.64x1011 MJ/ = 32.6 Mtonoe /年なので、2050年の平均的PHEV全台数による燃料消費量は2019年の11.5%に減少することになります。

⑧ PHEVによる駆動用バッテリー使用量の削減

乗用車が全部BEVになった場合と今回想定のPHEV 80%BEV 20%の場合の全電池容量を比較してみます。平均的BEVの電池容量として40kWh(日産リーフZAA-ZE1相当)を想定すると、BEV 100%の場合の全電池容量に比べてPHEV 80%BEV 20%の場合の全電池容量は、38%と小さくなります。(計算 (0.8x9+0.2x40)/1x40=0.38

一般に、自動車駆動用のLi-ion電池は製造時のCO2排出が大きいために、ライフサイクル評価(例えば)ではBEVCO2排出量はPHEVより大きくなる傾向があります。また、電池の重量エネルギー密度は液体燃料より約二桁低いため、航続距離を長くしたBEVは同格のエンジン車と比較して車両重量が30%以上大きくなります。

一方で、平均的ユーザーの走行実績から評価すると大電池容量を利用する長距離走行の機会が少ないという報告もあり、ユーザーの走行パターンに合ったパワートレインの選択が重要となります。将に、「電気自動車は重い! バッテリーはバラスト!?」です。

PHEVの比率を高めたパワートレイン構成の採用により、電池の使用量を減らすことができ、電池製造時のCO2排出削減・電池材料節減・車両重量低減などの効果が期待できます。

2.2050年に乗用車が必要とするCN燃料の供給

① バイオマス・原子力協働の合成燃料製造プロセス

バイオマス・原子力協働のCN合成燃料製造プロセスの概念を下図に示します。

Bionucsyntheticprocess

このプロセスは、バイオマス水蒸気ガス化反応によりフィッシャートロプシュ(FT)法・バイオ合成燃料の原料となる合成ガス(COH2)生成に必要な反応熱を原子力から供給する方法です。この方法については、私は2007年以降、国内外の学会で発表し、論文・書籍なども出しています。主なものは、2011年Elsevier ”Progress in Nuclear Energy”誌(英文)2016年動力・エネルギー技術シンポジウム2020年「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」Amazon-Kindle出版、2021年動力・エネルギー技術シンポジウム、などです。

この方法では反応熱を原子力から供給することによりバイオマスの燃焼が不要になり、その分バイオマスの使用量が節減(30%以上)でき、高収率の燃料製造が可能になります。

C(バイオマス中) + H2O + 原子力熱 --> CO + H2

生成する合成ガス(COH2)はそのままCN燃料として、あるいはフィシャートロプシュ反応などでガソリン・軽油などの炭化水素に転換しCNドロップイン燃料として、工場・自動車・機器で使用できます。バイオマスの水蒸気ガス化反応プロセスは実用段階なので、高温原子炉による加熱の部分の実証が必要となります。

② 必要なバイオマスと原子力の規模

バイオマス中のCの水蒸気ガス化反応に原子力の熱を供給して合成ガス(CO + H2)を製造する時の熱収支は

C + H2O + 原子力熱  =  CO     H2

393.73       131.36      283.12   241.94   [kJ/mol]

ここで、反応の収率を0.8、原子力の加熱効率を0.8、原子炉の設備利用率を0.85として、燃料供給に必要なバイオマス量と原子力熱量の規模を概算してみます。

上記の2050年の乗用車の年間燃料必要量3.76 Mtonoeを本方法で供給するとした場合,バイオマス必要量は3.52 Mtonoe、原子力熱必要量は0.942 Mtonoeとなります。バイオマス必要量は「バイオマス日本総合戦略」による年間賦存量1800PJ43Mtonoe)の8.3 %、原子力熱必要量は熱出力600MWtの高温ガス炉3基程度(これは電気出力100kWの軽水炉0.6基分の熱出力に相当)の規模になり、いずれも供給可能な範囲に入っていると考えられます。

因みに、この熱量3.76 Mtonoeの燃料を電気分解水素(電解効率3.9 kWh/Nm3)で供給する場合は6.8 GWhの電力を必要とし、これは設備利用率85%の100kWの軽水炉ならば8基を必要とします。当然ながら、バイオマスのようなCNの炭素資源が利用可能で炭素の水蒸気ガス化(吸熱反応)に対して原子力が反応熱を供給するプロセスでは、原子力の使用量は電気分解プロセスより格段に少なくります。

③ 非電力エネルギー供給に占める自動車燃料需要の規模

今回想定した乗用車のPHEV 80%BEV 20%の構成全体のエネルギー別走行距離は、系統電力で76%、燃料で24%となり、系統電力充電による走行が約3/4を占めます。残りの約1/4の距離はCN合成燃料による走行にりますが、これに必要な年3.76 Mtonoeの燃料量は2050年の日本の最終エネルギー需要の中でどの程度を占めるのか、日本の2050年のエネルギービジョンから当たってみます。

総合エネルギー調査会・基本政策分科会で検討中の2050年カーボンニュートラルのエネルギー・シナリオ分析の中の「原子力活用」シナリオによりますと、2050年の最終エネルギー消費220 Mtonoeの中の電力102 Mtonoe46%)・非電力118 Mtonoe54%)となっています。現在(2015年)の最終エネルギー消費320 Mtonoeの中の電力は83 Mtonoe26%)、非電力は237 Mtonoe74%)となっており、電力化率にして26%から46%と進み、非電力エネルギーの比率が74%から54%と下がります。

この2050年の非電力エネルギー供給必要量全体に対する乗用車用燃料の比率は3.76/118と小さいので、自動車用にはバイオマスのみによる燃料製造のプロセスでも資源的に可能と考えられますが、CN非電力エネルギー全体の供給確保を考えるとCN炭素源としてのバイオマス資源の原子力熱供給による効率的な利用は重要と考えられます。

④ 原子力利用プロセスの特長

化石燃料・再生可能エネルギー・原子力などの一次エネルギーから電気・水素・燃料などのエネルギー・キャリアーを製造する際に、それぞれのエネルギーの特長を利用する協働的プロセス(1, 2, 3)を用いれば効率的・効果的なエネルギー転換が可能になります。

CNの水素・燃料の製造においても、炭素源のバイオマスと原子力の協働的プロセスによって、原子力本来のエネルギーである熱の直接(電気に変換しない)利用ができ、バイオマスの使用量を3割以上節減することが可能になります。

炭素資源としてバイオマスを使用する水蒸気ガス化のプロセス〈 バイオマス + 原子力 → CN燃料 〉において,プロセス中で発生するCO2を回収・貯留(CCS)すればネガティブエミッション(負排出)ができます。また、上の水蒸気ガス化プロセスの前段に炭化反応を入れることによりバイオマス中炭素分の半量程度までをバイオ炭(Biochar)として生成・貯留〈 バイオマス + 原子力 → バイオ炭 + CN燃料〉することでこれができます。バイオ炭は空気中に放置しても数百年~数千年間安定なので、地球規模炭素循環から隔離され負排出となります。バイオ炭は,土壌改良材などの農業・林業での利用のほか炭素材料を利用している各種工業で従来の炭素材料に代わって利用できます。

⑤ 原子力利用プロセスの開発状況

これまで世界的に高温原子炉の開発・建設は進めれてきていますが、現在試験・運転を行っているのは日本の高温工学試験炉HTTR(茨城県大洗、最高温度950℃、熱出力30MW)と中国の高温ガス炉実証炉HTR-PM(山東省栄成、最高温度750℃、電気出力210MW)です。

日本のHTTR2004年最高温度を達成し、水素製造のための熱利用系へ接続する設備を準備中で2029年から試験を開始する予定です。中国のHTR-PM2021年から発電用として運転中で、この炉を設計した清華大学ではこの原子炉の熱を利用してバイオマスから水素と合成天然ガス(SNG)を製造するプロセスのコストをAspen-Plusコードで計算しています。HTR-PMから過熱水蒸気をバイオマス・ガス化プロセスへ供給した場合、SNGのコストは天然ガスの市場価格と同等になると報告しています。

バイオマスの水蒸気ガス化プロセスへの原子力熱の供給は日本のHTTR(最高950℃)のような超高温原子炉(VHTR、この型の炉は第4世代原子力システム国際フォーラムで研究開発協力中)の使用が望ましく、この分野の研究開発の進展が期待されます。

Vhtr

なお、燃料製造に必要な炭素源として大気中などから回収したCO2を使用して再エネ電力で燃料化する「eFuel」方式も検討されていますが、これらのコスト評価の結果では現在の市場価格より1桁高いなど、バイオマスを炭素源とする合成燃料に比べて一般に経済性で劣っています。

3.まとめ

2050年CNに向かって乗用車のパワートレインをPHEVBEVにより電動化した場合の燃料必要量とCN合成燃料のバイオマス・原子力協働プロセスによる供給可能性について評価した結果;

1. PHEV 80%BEV 20%の構成で代表的な車種を想定した場合、系統電力による走行76%、燃料による走行24%となります。この場合の燃料必要量は現在の1割程度に減少します。

2. この燃料を、バイオマス・原子力協働プロセスによるCN合成燃料として供給する場合のバイオマスと原子力の規模を推定した結果、必要なバイオマス資源量および原子力量は日本のバイオマス賦存量および原子力導入実績から供給可能な範囲に入っていると考えます。

3. 想定した乗用車のPHEV 80%BEV 20%のパワートレイン構成では、100%BEVの場合より駆動用電池の全容量が4割以下になり、電池製造時のCO2排出削減・電池材料の節減・車両重量の低減などの効果があります。

4. ハイブリッド自動車技術をベースとして発展させたプラグインハイブリッド車を主体に乗用車の電動化を進めることによって、優れた環境・エネルギー効果を期待できます。供給するCN合成燃料の製造に必要なバイオマス資源と原子力設備は国内で可能な規模と考えられます。今後は高温原子炉を利用してCN燃料製造の実証が必要と考えます。

以上、概略の評価でありますが、プラグインハイブリッド車による自動車電動化とカーボンニュートラル合成燃料使用の方向は的確で、「燃料走行割合をユーティリティファクターから算出する」などの手法は有用と思っています。今後、この方向の具体的な計画・政策が進められることを期待しています。日本のハイブリッド自動車技術と高温原子炉技術をベースにしたこの環境・エネルギー技術は世界に貢献できるものと考えています。

Title1206sf

| | コメント (0)

電気自動車は重い! バッテリーはバラスト!?

・エンジン自動車に比べて電気自動車(BEV)はバッテリー搭載により車体重量が過大になる。
・平均的な自動車の走行パターンでは1日200km以上走行する日は4%(米国統計)と少ない。
・故に運転する日の大半ではバッテリー容量の一部のみ使用する。バッテリー重量の多くはバラスト(重し)の役!?

同じ車格の電池電気自動車とエンジン自動車を比較すると、電気自動車の重量はかなり大きい。下の図は、電池電気自動車(BEV)とエンジン車(ICEV)の両方が販売されている同格の車の重量を比較したもの。
 出所:Blake Shaffer, et.al., "Make electric vehicles lighter to maximize climate and safety benefits" p.254 Nature Vol 598 (14 October 2021) https://www.nature.com/articles/d41586-021-02760-8

Heavierelectricfleet

FordのピックアップのF-150,HyundaiのコンパクトSUVのKona、日産の乗用車のLeafの電気自動車と同格のエンジン自動車の重量を比較すると、電気自動車の重量はエンジン自動車より夫々706kg(32%)増、306kg(21%)増、547kg(46%)増と大きく増加している。 なお、日産の電気自動車Leafと同格のエンジン自動車は日産が海外でのみ販売している「Versa」になる。

上のLeaf Plusは、国内では「Leaf e+」(バッテリー60kWh、WLTC航続距離450km、車両重量1680kg)と呼ばれており、標準型Leaf(バッテリー40kWh、WLTC航続距離322km、車両重量1530kg)の高グレード版。標準型の電気自動車Leafと同格のエンジン自動車のVersaの重量を比較すると、電気自動車Leafの方が328kg重い。

道路運送車両法では乗員1人あたり55kgで計算しているので、Leaf e+は478kg増で乗員約8.5人分、標準型Leafは328kg増で乗員約6人分、同格のエンジン自動車より重い。

電気自動車がこのように過大な重量になる原因はバッテリーの重量によるもの。電気自動車で航続距離確保のために大容量のバッテリーを搭載すればバッテリー重量が増加し、それに伴って構造も強化するので車両重量が大きくなる。

この現実は、重量当たりのエネルギー貯蔵量の比較した下図から余程画期的なバッテリーが出てこない限り、避けられないことが判る。
 出所:https://www.jsae.or.jp/engine_rev/docu/enginereview_08_01.pdf

Energydensity

そして平均的ドライバーにとっては、この重いバッテリーが役に立つ機会(年間の日数割合)はかなり小さい。GMは米国で販売したPHEV「Volt」の走行データを各車からインターネットで収集しており、その10,000台の400日のデータから車の使われ方を分析した結果によると、1日に200km以上走る日数は1年の4%(走行距離は1年の16%)となっている。
 出所:Patrick Plotz, Frances Sprei, "Variability of daily car usage and the frequency of long-distance driving", Transportation Research Part D: Transport and Environment, Volume 101, 2021. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1361920921004211

すなわち、この米国の統計によると運転する日数の大半では電池容量の一部しか使用されず、バッテリー重量はその多くが単なるバラスト(重し)の役をしていると言えそう。

プラグインハイブリッド車(PHEV)は、電気自動車(BEV)のこの欠点を補うので、これからの自動車電動化において重要な役割を担うと考えている。

| | コメント (0)

CO2排出が少ない自動車は? 自動車電動化を考える

地球環境のために電気自動車への転換が世界的に叫ばれている。NHKが「経済産業省は『2030年代半ばには新車の100%を電動車にする』という内容にする方向で調整しています」と解説し、自動車雑誌が「エンジン車全廃へ秒読み開始 世界で広がるエンジン車排斥でどうなるクルマ社会」と報じている。

一口に「電動自動車」「電気自動車」と言っても、人によってどのような車を指すかいろいろある。「電動自動車」の呼称・定義についてはここに詳しく解説しているが、ここでは次のように呼ぶことにする。

 エンジン車=燃料を内燃機関で動力に変えて走行する車「ICEV」
 電気自動車=電力系統から電池に充電してモーターで走行する車「BEV」
 プラグインハイブリッド車=電力系統から電池に充電した電気と燃料により走行する車「PHEV」

上のように政府が発表しメディアが報じれば、殆どの人はエンジン車はあと10数年で買えなくなると思う。これに対して自動車工業会の会長の豊田章男・トヨタ自動車社長が記者会見で、大手メディアに「電動化車両はEVだけではない!ミスリードやめて」と苦言を呈するのは尤もだと思う。


CO2は排気管だけから出るのではない

この電気自動車の騒ぎは、自動車のCO2排出を削減する手段として短絡的に「電気自動車」がプレイアップされたことだと思う。

ここで先ず自動車を含む陸上交通手段について、1km走るのにどのくらいCO2を排出しているか比較したTNMTのデータを見てみる。バスなどの大量交通機関もあるので、数値は乗員1名が1km走行する1人・kmあたりのCO2排出量(グラム数)で示している。

Average-carbon-emissions-produced-by-tra

上の図ではCO2排出プロセスを次のように5つに分類して各プロセスについて値を算出して合計している。

1.運行プロセス(直接)Operation(direct) 薄緑色
例:排気管からの直接排出、ブレーキ・タイヤの摩耗などによる排出

2.運行プロセス(間接)Operation(indirect) 濃緑色
例:充電までの発電・送電、給油までの燃料製造・輸送などにおける排出

3.メンテナンス (Maintenance) 濃灰色
例:車の維持に関わる排出

4.製造・廃棄処分 (Manufacture & Disposal) 灰色
例:製造・廃棄処分のための材料やエネルギーの排出

5.道路 (Roadway) 薄灰色
例:道路(橋・トンネル)の建設・維持工事・廃棄までの排出

なお、上の図の数値をインタラクティブに見るにはこのサイトにアクセスする。

自動車のCO2排出の優劣は?

上の図から自動車だけを抜粋した比較表を作ってみた。

Co2emissionvariouspowertrain

上の表のようにこの計算では、最もCO2排出の少ないパワートレインはプラグインハイブリッド車、次いで電気自動車、ハイブリッド車、エンジン車(ディーゼル)、エンジン車(ガソリン)の順になっている。

このTNMTの評価は欧州における一つの評価結果であり、その元のデータの出典と思われるものは示されているが計算過程などはノウハウになるのか公表されてない。これらの数値は国により、また関連分野の技術の進歩により変わり得るので、一つの目安と考えた方が良い。TNMTサイトの最初のところにも、「このグラフは科学的に証明された結果を示すものではなく移動手段別の平均的CO2排出量の最善の推量を提示したもの」との注釈が記されている。

自動車のCO2排出削減の方策について

今後の自動車のCO2排出削減の政策策定では、上にあるようにCO2排出に関する各プロセスの評価を含む幅広い視野から検討を行うことが必要と考える。

1.CO2排出は全プロセスで考える

単に直接排出(燃料)、それに間接排出(発電)を加える、あるいはWell-to-Wheel評価などで比較するのではなく、製造・メンテナンス、廃棄なども考慮するライフサイクルで評価することが、本当の削減効果を知るために必要である。上のTNMTの計算例で、これまでの通説と異なって電気自動車(BEV)よりプラグインハイブリッド車(PHEV)の方がトータルの排出が少なくなっていることは、今後の政策策定において多角的な評価が重要なことを示していると思う。

2.炭素リサイクルの燃料を使う

自動車用炭化水素燃料は将来カーボンニュートラルになっていくと考えて、将来のパワートレインを考える方が良いと思う。将来の燃料として、eFuel(回収CO2と再エネ電力から製造)やバイオ燃料(バイオマスから製造)を使用する場合は、炭素を循環使用しているのでカーボンニュートラルになる。

さらに、バイオ燃料製造に際して一部の炭素をバイオ炭として貯留すれば、このプロセスはカーボンネガティブになる。また、燃料化のためのバイオマスの水蒸気ガス化反応に原子力や太陽熱などのカーボンフリーの熱を供給すれば、バイオマスの燃料への転換を収率良く行える。

これらの燃料をエンジンあるいは燃料電池(SOFC)で動力化して、プラグインハイブリッド車(ハイブリッド車もあり得る)で使用すれば運行プロセスのCO2排出を小さくできる。将来のプラグインハイブリッド車では、全走行距離に占める系統電力で走行する距離の割合(ユーティリティ・ファクター、UF)が大きくなり、燃料使用量が大幅に減少する。例えばUF=0.85のプラグインハイブリッド車では、燃料必要量はエンジン車の場合の15%程になり、炭素循環方式での供給が可能と考えられる。

3.自動車と電力系統を統合した運用を考える

将来、V2G技術などを利用して自動車と電力系統を統合した運用(VGI、Vehicle-Grid Integration)を行うことになれば、太陽光・風力などの変動型クリーン電力が増加する電力系統の安定化によりCO2排出削減に資する。

車から系統に電力を融通する時、バッテリー容量は大きいが走行のための充電量を残す必要がある電気自動車と、充電量に起因する航続距離不安(Range Anxiety)がないプラグインハイブリッド車の両方の、それぞれの特長を生かしたVGIシステムの運用を考えていく。

続きを読む "CO2排出が少ない自動車は? 自動車電動化を考える"

| | コメント (1)

乗用車の新燃費基準、プラグインハイブリッド車関連へのコメント

2020年3月31日に国土交通省と経済産業省から「新燃費基準」(乗用車の2030年度燃費基準)が公布され、4月1日から施行された。

今回の省令・告示の一部改正は、「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会自動車判断基準ワーキンググループ」及び「交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会自動車燃費小委員会」合同会議のとりまとめ資料(以下「合同会議とりまとめ」資料)を踏まえたもの。

この省令・告示の一部改正に関して、国交省・経産省は212日から312日の間、パブリックコメント・意見募集を行っていた。今回の改正で電気自動車とともにプラグインハイブリッド自動車(PHEV)が規制対象になったので、筆者がこれまで研究してきた分野のPHEVのエネルギー消費効率の算定方法について3件のコメントを提出した。これらのコメントは今回の省令・告示の改正には反映されなかったが、将来参考になることを願っている。

以下、提出した3件のコメントについて追加の検討を行ったのでその結果を「合同会議とりまとめ」資料の該当部分を参照しつつ説明する。

A. Well-to-Wheel(WtW)評価ではなく、Tank-to-Wheel(TtW)評価を基準とすべき

・該当箇所

「合同会議とりまとめ」資料p.3の「エネルギー消費効率」

現行燃費基準におけるエネルギー消費効率(燃費値)は、燃料1リットル当たりの走行距離をキロメートルで表した値(km/L)である。新燃費基準では、外部から充電される電力を使用する電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車がガソリン自動車等とともに企業別平均燃費値の算定の対象となる。

その際、電力については発電段階に遡ってエネルギー消費を評価し、ガソリン等を燃料とする車両と比較可能な形にする必要があるため、新燃費基準では現行燃費基準のTank-to-Wheel(以下、「TtW」という。)評価に代えてWell-to-Wheel(以下、「WtW」という。)評価でエネルギー消費効率(WtW燃費値)を算定する。

なお、現行燃費基準との連続性を確保するため、ガソリン自動車のエネルギー消費効率が現行燃費基準のTtW評価によるエネルギー消費効率と同じになるよう、WtW評価によるエネルギー消費効率をガソリンの上流側のエネルギー効率で除した値を新燃費基準におけるエネルギー消費効率とし、単位は「km/L」とする。

「合同会議とりまとめ」資料のp.8の「政府の取り組み」

⑥ 自動車ユーザーが実感しやすい数値であるTtW燃費値をカタログに表示する一方で、動力源が異なる自動車間でエネルギー消費効率の比較を可能とし、より性能の高い自動車の選択を消費者に促すため、WtWの考え方を浸透させるとともに、それに基づく表示についても速やかに検討すること。
⑦ 電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の普及と併せて、エネルギーミックスにおける電源構成比率の実現を目指すこと。

・意見内容
自動車のエネルギー消費効率の改良において、自動車メーカーはその責任において性能改善を図ることができる車両供給後のエネルギー効率、すなわちTank-to-Wheel(TtW)に注力していくのが役割であり、且つTtWのエネルギー消費効率は自動車メーカーの技術改良のための指標になり、またユーザーの自動車選択の目安になるものなので、自動車のエネルギー消費効率の基本的な考え方としてWtWではなくTtWを中心に据えるのが望ましい。

・理由

WtW評価については、「合同会議とりまとめ」資料の中の「政府の取組」の節で「動力源が異なる自動車間でエネルギー消費効率の比較を可能とし、より性能の高い自動車の選択を消費者に促すため、WtWの考え方を浸透させる」とその理念を示している。

A0_wtw_flow

Well-to-Wheel(油井から車輪まで)効率は自動車の総合的なエネルギー効率を示す指標の一つである。自動車駆動のエネルギーとしてガソリン、軽油、LNGのほかに電気や水素などが使用される場合、それらを製造・輸送で消費されるエネルギーを含めてエネルギー源まで遡って評価する考え方である。なお、「新燃費基準」ではWellは国内に限定しているので、上図に示される元の採掘源などのプロセスは含まれない。

「合同会議とりまとめ」資料では、今回対象になっていない燃料電池車についても中長期的視野にたって評価を検討するとしている。燃料電池車は我が国において将来の自動車の本命の一つとして推進されているが、この燃料電池車のWtW効率はJHFCプロジェクトによる各種自動車のWtW評価(JHFC総合効率検討作業部会 「総合効率とGHG排出の分析報告書」 日本自動車研究所 20113月)では、下図のように他の電動型自動車(HEVPHEVBEV)に比べて低く、水電解の水素を使用する場合はガソリンエンジン自動車と同程度となっている。このことは、当然ながら異なるエネルギーの自動車の選択においては、WtW効率のほかに広くエネルギーシステムとしての評価が重要であることを示している。
A1_primaryenergyperkmr06jpg

また、近時電源構成に占める太陽光・風力など再生可能エネルギー発電の割合が増加しており、これら二次エネルギーである再エネ発電量を一次エネルギー量に換算する際に発電効率100%あるいは一定効率(BP統計では約40%)を用いて逆算するなどエネルギー統計により一次エネルギーは異なった値になっている。WtW効率では、石油や天然ガスなどの油井・ガス田における熱量(今回は上流への遡及は国内に限定)をもって一次エネルギー源(Well)としていたのに対し、再エネ発電が増大していくとその一次エネルギーの定義の曖昧さからWtW効率の重要性、WtW評価の意義も変化している。

WtW評価は自動車のエネルギー消費特性の指標の一つとしては有用だが,電源構成などエネルギー転換・輸送の過程が変われば値が変化する。そしてこのWtTの部分は自動車メーカーの事業・責任の範囲外であり、自動車メーカーはTtWの部分の改良に注力していくのが本来の責務と考えられる。

「合同会議とりまとめ」資料の中に「なお、 現行燃費基準との連続性を確保するため、ガソリンを燃料とする車両以外のエネルギー消費効率は、WtW 評価によるエネルギー消費効率をガソリンの上流側の エネルギー効率で除した値を用いることとし、単位は「km/L」とする」とあり、次の式が図3-3に示されている。

エネルギー消費効率(燃費値)=TtW燃費(全車種)x WtT効率(全車種)/WtT効率(ガソリン車)

結局、エネルギー消費効率の数値はガソリンに換算したリッター当たりのkm、すなわちTtW燃費に戻している。これまでと違うことは、其々のエネルギー(燃料および電力)の上流(ただし国内)まで遡って精製・輸送や発電・送電・配電などのエネルギー効率を勘案していることである。この考え方は、次項に述べるガソリンと電池のエネルギー価値を考慮することにより最初からTtW燃費を算出した方が判りやすいと考える。

結論として、TtWのエネルギー消費効率は自動車メーカーの技術改良のための指標になり、またユーザーの自動車選択の目安になるものなので、自動車のエネルギー消費効率の基本的な考え方としてはWtWではなくTtWを中心に据えるのが望ましく、次項に述べるような其々のエネルギーの価値に見合った値(ガソリン換算のリッターあたりのkm)を算出すれば良いと考える。

B. プラグインハイブリッド車の燃費は電力⇔熱の変換率を設定してTtW効率を算出する考え方にすべき

・該当箇所
「合同会議とりまとめ資料」のプラグインハイブリッド自動車のエネルギー消費効率の計算式

B1_fephev_equation

筆者注: 「新燃費基準」に示されている上式は下図の「Blendedモード」の場合に適用するもので、分母の中の1/FeCDの項は系統からの充電電力で走行するCDレンジ(プラグインレンジ)においてガソリンエンジンが作動した場合のガソリン消費率である。分母の中のRCD/E1を含む項はCDレンジでの電力消費量をガソリン消費率に換算するものである。

CDレンジでガソリンエンジンが作動しない場合、すなわち下図の「AEモード」の場合は、分母の1/FeCDの項は不要でこの項を除いて計算することになる。上式の分母の第2項はガソリンのみで走行するCSレンジのガソリン消費率。

上式におけるFe(エネルギー消費率)はWtT効率を使用して一次エネルギー源(Well)におけるガソリン燃費(km/l)に換算され、電力はWtT効率の中に発電・送電・配電などの効率が含まれているのでその価値に見合う一次エネルギー(熱)に換算され、ガソリンのWtT効率で除すことによってガソリン量で表したTtW燃費(km/l)に換算される。

B0_phev

・意見内容

「合同会議とりまとめ」資料に提示されているプラグインハイブリッド自動車のエネルギー消費効率の考え方では、カタログ表示などユーザーに示す燃費値を含めて従来通りのTtW効率にするとしている。今回のWtW効率採用の目的である「使用する電力とガソリンのエネルギー消費を適切に評価・表示する」理念は合理的であるが、その方法としてはWtW効率を求めてからTtW効率に変換する考え方ではなく、最初からエネルギー的に意味のある電力⇔熱の変換率を設定してTtW効率を算出する考え方の方が良いと考える。

・理由
一般に電力とガソリンの2種のエネルギーにより駆動されるPHEVのエネルギー消費率を単一の代表的燃費値で示すには下図の算出プロセスが使用される(堀 雅夫、金田 武司 「電力とガソリンの等価合成によるPHEV燃料消費率の表示」 自動車技術会論文集(資料、2012年) Vol.43,No.6,p.1401─1405)。

B2_fig6fuelcalcflow05

2009年に規定したプラグインハイブリッド自動車の燃費算定方式(次項参照)では、上図で「電力・燃料エネルギー等価性」による電力消費量(kWh)をガソリンの量(リッター)に変換する際に、電力のkWh(electric)(電力の単位)をそのままの数値でkWh(thermal)(熱量の単位)に変換したものになる。化石燃料を火力発電で電力に変換する場合は、発電効率を50%とすると燃料の持つ熱量kWh(thermal)の半分の数値の電力kWh(electric)にしか変換できない。

「新燃費基準」では「電力については発電段階に遡ってエネルギー消費を評価し、ガソリン等を燃料とする車両と比較可能な形にする必要がある」としており、この点考え方は改善されている。熱力学的に意味のある変換率を適用したTtW効率は「使用する電力とガソリンのエネルギー消費を適切に評価・表示」したもので、エネルギー的に合理的であり企業別平均燃費にもカタログ表示燃費にも適用可能と考える。

下表は2012年頃に市販されていたプラグインハイブリッド自動車(PHEV)について熱から電力への変換率(η)をパラメーターとしてPHEV燃料消費率を試算したものである(出所: 堀 雅夫 「プラグインハイブリッド車の燃料消費率─ユーティリティファクタ,電力・ガソリン等価合成の考え方─」 自動車技術(自動車技術会・会誌) Vol.68 No.7 2014年)。この表には、UF=0のハイブリッド車(HEV)とUF=1の(電池)電気自動車(BEV)についても、1>UF>0のPHEVの特殊ケースとして参考までに含めてある。

B3_07211

「新燃費基準」によるTtW燃費値は、上表の変換率η=0.5(消費電力量を発電するに要するエネルギーに等価のガソリン量に換算)のケースに近い値になる筈なので、数値的には妥当な算出方法と考える。

上表で変換率η=1.0のケースは米国EPAの方式(49 CFR Part 575)で、動力として使用する充電電力を熱として低く評価することになる。このため大きな電池を搭載してUF(電力走行割合)が大きい場合に、燃費値が実際に消費する一次エネルギーから計算した燃費値よりも良く出ることになる。上表から判るように、変換率ηが大きい程電力駆動に有利な燃料消費率になる。

なお、発電効率から得られる電力⇔熱の変換率を設定して電動車の燃料消費率を算出する方式は、1980 年代から米国で代替燃料による燃費の表示方法として検討されており、2000 年には DOE が CAFE基準に適用する電気自動車の燃費表示のためにこの考え方による「石油等価燃料経済計算」のルールを決めている。(U.S.DOE, "Petroleum-equivalent fuel economy calculation", Federal Register 10 CFR Part 474, (2000))

この計算指針では上記のエネルギー変換率ηの値として当時の米国の化石燃料発電の発電効率の平均値32.8% を用いている。ただし、電力消費量をガソリン消費量に変換する式の中に、充電電力駆動への大きなインセンティブとして”Fuel Content Factor”(値は6.67)なる係数を入れており、最終的なガソリンと電力の換算係数は、19.5~21.7[kWh/L]と発熱量で等価の換算の2倍以上となり、充電電力駆動に大幅に有利な燃費を算出するようにしている。

今後水素を燃料とする燃料電池(或いはエンジン)による自動車やバイオベースの合成燃料によるエンジン(或いはSOFC燃料電池)による自動車が導入された場合などは、これら燃料も電力と同様に環境性の良いエネルギーとして公平に評価する必要がありエネルギー的に合理性のある変換率の設定は重要になると考える。

「新燃費基準」は、WtW評価によりこれらの燃料のエネルギー源まで遡って評価した値が得られるので合理性はある。本項では、数値的には同じような値になるが、自動車が消費する異なるエネルギーについて熱力学的考察(WtW評価を含む)によりエネルギー価値を設定して最初からTtW燃費を算出する考え方について示した。

C. ユーティリティファクター(UF)導出の根拠・方法を明確にし検証可能にすべき

・該当箇所
「合同会議とりまとめ」資料の中の「新燃費基準について」の「表1 エネルギー消費効率」(p.4)に示されている「プラグインレンジに応じて算出されるプラグイン走行の割合」の「UF(RCD)」の計算式


C1_equationufrcd

筆者注: 当然だが上式は理論から導出されたものではなく、RCDとUFの関係の数値データがあってそれにカーブフィッティングして得られた近似式。図からRCDとUFをアナログで求めるよりもデジタル値が得られる点で便利。

・意見内容
自動車電動化が進みつつある現在、プラグインハイブリッド自動車の公的な判断基準として今後使用される機会の多い「UF」(ユーティリティファクター)の値は、十分な質と量の統計データに基づくもので、且つ第三者がそのデータの同定や算出過程の確認・検証ができる公開資料(望むべくは学会論文など査読を経たもの)が示されているべきで、今回の基準等の一部改正に際してUF提示の経緯を調査してその算出根拠の明確化・検証の措置を講じることを希望する。

・理由
この「UF」(ユーティリティファクター)の値は、国土交通省が2009年7月に公布した排出ガスと燃費測定方法に関わる「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部改正」時に、日本自動車工業会等に通達した「プラグインハイブリッド自動車の燃費算定等に関する実施要領」(国自環第86号、自動車セミナー(交文社), 48巻9号(通号566), p.71-79 (2009)に収録)の中に初めて示された。ただし、UFの値の根拠に関わる記述として「JCAPデータ自動車使用実態調査による」とあるのみで、提示されているUFの値には明確な算出根拠が示されておらず、またその算出方法を確認できる資料の記載もなかった。

このUFは、その後日本でプラグインハイブリッド自動車の燃費の計算に使用されたほか、WLTP(小型車の世界共通排出ガス試験法)への提示など今回の基準等の一部改正に至るまでに、国内外に日本の「UF」として公にその数値を示してきた。

日本の登録自動車および軽自動車のUFの数値については、これより前の2007年に自動車技術会論文集掲載の論文(堀 雅夫、金田 武司 「プラグインハイブリッド車導入の環境・エネルギーへの効果」 自動車技術会論文集 Vol.38 No.2 2007年)に発表されている。下の図はUF(論文内では「電力走行割合」と呼ぶ)の導出過程とUFの値を論文からまとめて示したもの。

C2_fig3ufbasic

国交省の「実施要領」に示されているUFの値と堀らによる登録自動車のUFの値を比較すると下図のように異なる統計データから導出されたにも関わらず二つのUF値は数値的によく似ている。

C3_ufcomparemlitandhori2j

2009年の「実施要領」通達と同じ頃の「自動車技術」誌(Vol.63, No.9, 2009)に交通安全環境研究所から「プラグインハイブリッド車の特徴とその評価に対する課題」と題する記事が掲載された。この記事の中に上記「実施要領」のUFと同じ値の図が掲載され、使用したデータとして「自動車の使用実態調査報告書(平成9年度県境負荷低減技術開発基盤等整備事業)、財団法人石油産業活性化センター(1997)」が示されていた。この資料は非公開であったが筆者が内容を調べた範囲では、信頼性のあるUF値を算出するに十分な質と量を有する統計データの存在は確認できなかった。

因みに、堀らによる登録自動車のUFの値は、国土交通省・自動車輸送統計報告書・自家用乗用車・距離帯別輸送人員の2004年の2月・6月・10月の約十万サンプルの統計データに基づいて算出したものである。ただし、2007年の堀らの論文中に書いてあるように(抜粋下記)、信頼性のあるUF値の導出には「実働一日当りの走行距離の分布」の統計値が必要と考えている。

「この統計の元データは,無作為に抽出した自動車の一定期間内各日の走行距離,走行目的,乗車人員などの調査であるが,現在入手可能な公開データはこれらを計算処理して走行距離帯別の輸送人員に整理したものである.本評価では実働している車の一日当り走行距離の分布が必要なので,統計データから計算される平均走行距離がTable 1の実働一日当り平均走行距離と合うように補正することによって,距離帯別の車両数の推定を行った.(走行距離帯別車両数のデータを入手できれば,より確実な推定が可能になる)」
 

[付記]
今回初めて役所によるパブリックコメント・意見募集に応募した。省令・告示の一部改正を4月1日から施行する前の手続きとしてのパブコメ募集が2月12日から3月12日まで行われた。締め切りから施行まで20日間のスケジュールなので、パブコメを反映した実質的な修正は難しいと感じた。

筆者は、2011年に米国の環境保護庁(EPA)と運輸省(DOT)高速道路安全局(NHTSA)が公布した規則改定(49 CFR Part 575 Revisions and Additions to Motor Vehicle Fuel Economy Label; Final Rule)のプロセスをフォローしたことがある。これは2012年以降販売される全ての新車(乗用車および小型トラック)に貼ることが義務付けられるウインドーステッカー(自動車燃料経済ラベル、Monroney sticker)に関する規則の改定で電気自動車やプラグインハイブリッド車などの系統電力を使用する車の本格普及に備えたもの。

EPAはこの規則改定(Final Rule)の10ヶ月前の2010年9月に規則改定案(Proposed Rule)を提示して業界や消費者からのパブリックコメント・意見を募集を行っている。この規則改定案は電気自動車やプラグインハイブリッド車などの新型の車の燃費表示に関するEPAの提案とそれに至る外部を含めた検討の経緯・内容と改定の意図・内容も含めて、綿々と242ページに亘って説明したもので読み応えがある。
 
 EPAは、この規則改定案に対して提出されたコメント・意見およびそれに対する応答・見解を「Response to Comments」というレポートにまとめ、2011年7月の上記規則改定の公布に際して公表している。これがまた369ページのボリューム。

規則改定案の作成経緯・意図・内容の説明から、それに対するコメント・意見を整理して応答を公表、そして規則改定の決定公布する。この種のルール決定におけるステークホルダーの意見を集約・反映する米国の丁寧なプロセスには感心させられた。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧