エネルギー/技術・研究

「ゼロ炭素社会を目指して ― 原子力に期待される役割」――『原子力年鑑2023』執筆原稿

日本原子力産業協会は、1957年から毎年『原子力年鑑』を刊行している。私は2018年から2022年にかけて、「原子力年鑑2019」から「原子力年鑑2023」まで5年連続で、「Part II 将来に向けた原子力技術の展開」第1章「ゼロ炭素社会を目指して ― 原子力に期待される役割」の執筆を担当した。

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各回の原稿は、発行年の7月までの1年間の動向を踏まえながら、テーマに関わる現状と将来の方向を論じている。

最終回となった「原子力年鑑2023」(2022年10月発行)では、以下の目次のもと、刷り上がり5ページにまとめている。

1. CO2排出削減への国際的な取り組み
2. 世界のエネルギー消費とCO2排出量
 (1) 一次エネルギー
 (2) CO2排出
 (3) 電力セクター
3. 世界の2050年CNシナリオにおける原子力
4. 日本の2050年CNシナリオにおける原子力
5. ゼロ炭素社会を目指す原子力
 (1) 導入速度大・必要土地面積小の原子力
 (2) 電源構成と原子力のフレキシブル運転
 (3) ゼロ排出の水素など燃料への原子力
 (4) 大気中CO2除去への原子力利用
 (5) 今後のエネルギー政策

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以下、「原子力年鑑2023」の私の執筆原稿を掲載する。

ゼロ炭素社会を目指して -- 原子力に期待される役割 --

1. CO2排出削減への国際的な取り組み

地球規模の温暖化が進み世界各地で異常気象が観測されている。温暖化の主因は温室効果のある気体、とくに二酸化炭素(CO2)の大気中における濃度上昇と推測されており、CO2の主な発生源であるエネルギー供給における対策が喫緊の課題となっている。

CO2などの温室効果ガス(GHG)による地球温暖化への対応については1970年代から議論されていたが、1992年の「気候変動国際連合枠組条約(UNFCC)」によるリオデジャネイロにおける「地球サミット」の頃から国際的な枠組みを設定した環境条約の署名などの国際的な対応が本格化した。

この気候変動枠組条約締約国会議(COP3)の第3回(1997年・京都)で「京都議定書」が採択され、先進国など締結国は温室効果ガスの排出削減について定量的な約束を行った。

その後COPは毎年開催され、2016年にパリで開催されたCOP21において「パリ協定」が採択された。パリ協定では世界共通の長期目標として「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」を掲げ、各国は温室効果ガスの削減目標(NDC)を作成・提出と削減目標を達成するための国内対策を取ってきた。

21年11月に英国グラスゴーにおいて、COP26が開催され、パリ協定からの継続課題(市場メカニズムの実施指針、透明性枠組みの報告様式、NDC実施の共通時間枠等)で合意に至り、パリ・ルールブックが完成した。

一方、科学的・技術的・社会経済学的な見地から包括的な評価を目的とする国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の評価報告書が8年ぶりに改定され、第6次報告書(AR6)および政策決定者向けの要約(SPM)が作業部会(WG)ごとに順次公開された。

この間、2020年初からの新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックによる経済停滞はエネルギー消費に大きな影響を及ぼした。

また、20222月のロシアによるウクライナ侵攻、それに対する西側諸国によるロシアからのエネルギー資源の輸入抑制・禁止措置は、欧州および世界のエネルギー資源確保やエネルギー 価格などに大きな影響を及ぼしている。

各国は当面はエネルギー確保のために、需給がタイトになった天然ガスから石炭への転換などの対策を講じており、地球環境対策よりもエネルギー確保を重視せざるを得なくなってきている。

これらは、高効率火力発電、ヒートポンプ熱供給、プラグイン自動車などによる着実なエネルギー効率向上によって地球環境保全を進める現実的な方策を推し進めている。

長期的には太陽光・風力などの変動再エネとともに相当量の原子力導入が必要との考えが世界的に強まっている。

2. 世界のエネルギー消費とCO2排出量

(1) 一次エネルギー

2000年~2021年の世界の一次エネルギーの消費量と各エネルギーのシェアの変化を図1に示す。2021年の一次エネルギー消費は経済のパンデミックからの回復によって5.8%増加し、2年前の2019年を1.3%7.7EJ)超えている。

この2年間に、国別では非OECD諸国が15.3EJ増(内中国が13.7EJ増)、OECD諸国は7.5Ejの減となった。

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 図.1 世界の一次エネルギー消費[i](2000年~2021年)

(2) CO2排出

2007年から2021年までの各年のエネルギー関連のCO2排出量を図2に示す。

2020年のCO2排出量は1945年以来最大の6.3%減で2012年以前の水準に戻っていたが、2021年のCO2排出量は経済回復に伴って増加し2019年と比較して0.6%の減となった。

長期的傾向として、OECD諸国のCO2排出量は横這いから減少傾向にあるのに対して、非OECD諸国のCO2排出量の増加が続いている。2021年は、2019年と比較して、OECD諸国は6.5%減、非OECD諸国も2.6%増となった。

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図.2 世界のエネルギー関連CO2排出量(2007年~2021年)

(3) 電力セクター

2020年と2021年の世界の電源別の発電量と構成割合を大きい順に表1に示す。

表1 世界の電源別発電量(2020年~2021年)

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2021年の発電量は28,466TWhとなり前年比1,577TWh5.9%の増加で、発電量の増加はリーマンショックから回復した2010年の6.4%に次ぐ大きさ。2021年は水力以外の電源は増加しており、その中でも再エネの増加が16%で最大となっている。一方、原子力発電も増加したが、シェアは10%以下に下がった。

原子力の本格導入が始まった1970年代後半以降の原子力発電量の推移を図3に示す。1996年には発電量に占める原子力発電のシェアが現在までの最高の17.4%になり、2006年には発電量が2,803TWhに達した。その後、福島第一原子力発電所事故などにより2010年代前半にOECD諸国の発電量が低下した後、中国など非OECD諸国の導入増加により世界全体では再び増加に転じた。2021年の世界の原子力発電量は、これまでの最高だった2006年の発電量と殆ど同じ2,800TWhにまで増加した。

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 図3 世界の原子力発電量(1977年~2021年)

3. 世界の2050年CNシナリオにおける原子力

温暖化を抑制するために2050年カーボンニュートラル(CN)に注力したエネルギー需給シナリオは多くの機関で検討されている。国際エネルギー機関(IEA)は、2021年にCOP26に向けて2050年ネットゼロ排出(NZE)の報告書[ii]を発表し、2022年にはこの中の原子力を取り上げた特別報告書[iii]を発表した。世界中で燃料価格が高騰し供給保障上の懸念が高まるなか低炭素エネルギー・システムへ移行を目指す国では、原子力発電が重要な役割を果たすことを強調している。

NZEシナリオでは、電力は2020年の26,778TWhから2050年の71,164TWhへ2.7倍に増加し、2050 年の最終エネルギーの約50%になる。

電源構成では、再エネは2020年から2050年へ発電量は8倍に増加し、シェアは29%から88%に上がる。再エネの中では太陽光が29倍と増加のトップ。原子力は同じ期間に発電量は2倍に増加するがシェアは10%から8%へ減少する。

2022年に発表されたIPCCの第6次報告書(AR6)では気温上昇を1.5℃に抑えるためのシナリオ評価を行っており、その97ケースにおける2050年発電量に占める原子力のシェアは図43)のように1%29%と幅広く分布している。IEANZEシナリオの2050年原子力シェアは7.7%IPCCシナリオ評価の中央値の7.6%に近い値になっている。

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 図4発電量に占める原子力の割合(IPCC・IEA)

IEAのほかBNEF(ブルームバーグ社傘下のエネルギー関連研究機関)、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)、Shellなど6機関による2050年の世界電力供給に関する16のシナリオの比較[iv]でも、発電量に占める原子力のシェアは10%以下が多く、その中央値は8.1%である。この中のBNEFRedシナリオのみが2050年原子力シェア30.8%で突出している。

一方、変動再エネの2050年電力に占めるシェアは34%96%で中央値は59.3%と大きい。

4. 日本の2050年CNシナリオにおける原子力

2020年10月、日本政府は「2050 年カーボンニュートラル」を宣言した。2021年4月には、2030 年度の新たな温室効果ガス削減目標として2013 年度比 46%削減(さらに50%の高みに向け挑戦)の方針を示した。

政府は、このような温暖化対応を経済成長の制約・コストとする代わりに、成長の機会と捉え積極的に対策を行い「経済と環境の好循環」を作るとして「グリーン成長戦略」を発表した。[v]

この宣言におけるカーボンニュートラルは温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにする(ネット・ゼロ)を意味しており、排出せざるを得なかった分は同じ量を吸収/除去することで差し引きゼロにしていく。

RITEによる2050年CNのためのシナリオ分析[vi]では、参考ケースと再エネ・原子力・水素・CCUS・需要応答などの課題克服・利用拡大を想定した5ケースの評価を行っている。この中の原子力の上限を20%(上限50%は別途実施)に想定した「原子力活用シナリオ」の場合の電力および非電力の最終エネルギー消費を表2に示す。

 表2 2050年の最終エネルギー(電力・非電力)

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最終エネルギーは、現在の電力26%・非電力74%から2050年の電力46%・非電力54%と電力化が進み、発電量は1,020TWhから1,350TWh30%増加する。原子力活用シナリオの結果では、原子力は設定した上限一杯まで入り、電力コストを参考ケースの24.9/KWhから24.1/KWh(上限20%の場合)~19.5/KWh(上限50%の場合)へ低下させる。

5. ゼロ炭素社会を目指す原子力

 (1) 導入速度大・必要土地面積小の原子力

エネルギー効率の向上のためには、熱需要などをヒートポンプを利用して電力で賄い電力化率を格段に向上させる方策は効果的である。2050年を目標とした各種シナリオ検討では、世界の電力化率(最終エネルギー基準)は現在の約20%から205050%程度またはそれ以上となっている。さらに非OECD諸国ではエネルギー消費の増加が続くので、2050年まで世界的にゼロCO2排出電源の急増が必要になる。

電源容量増設のこれまでの実績を見ると変動型再エネよりも原子力の方が増設の速度が大きい。また、原子力は他のエネルギーに比べて電力供給に必要な土地面積が桁違いに小さい。開発が進められているモジュール式原子炉などにより建設費削減が可能になれば、原子力は2050CNの電源構成でこれまでのシナリオより大きいシェアを占めると考えられる。

 (2) 電源構成と原子力のフレキシブル運転

CO2ゼロ排出の電力システムは、①太陽光・風力など省燃料の変動型再エネ発電機器(VRE)、②短期変動に対する電池や需要応答などの即応型平準化機器・機能(Fast Balancing)、③長期変動に対する司令可能な発電機器(Firm)、から構成される。

電力取引市場ではこれらの構成要素から成る系統を競争的環境で運用していくことになるが、その場合原子力もフレキシブルな運転をすることにより収益を増す可能性が出ている。

フランスでは大型軽水炉の負荷追従運転が日常的に行われている。この技術・経験をもとに米国の電力取引市場において軽水炉のフレキシブル運転の経済性をシミュレーションで評価した例ではフレキシブル運転の方がベースロード運転より収益が向上している。

このように将来の電力市場では、原子力は容量市場での司令可能な発電能力(kW)のあるプラントの「kW」価値に「ΔkW」価値を加えることにより、「kWh」価値のマイナスより大きくなり得る。変動型再エネの割合が増えた市場では原子力のフレキシブル運転はその必要性に見合う対価を得ることができる。

既存軽水炉のフレキシブル運転利用に加えて、負荷追従が可能で経済的な新型原子力プラントの導入は重要となる。電力システムにおいてVRE発電とFirm発電からなるシステム全体のコストを最低にする条件では相互補完よりも相互に相手を置換する関係になり、フレキシブル新型原子力プラントのコストダウンの達成はそのシェア拡大に反映される。

(3) ゼロ排出の水素など燃料への原子力

これまで原子力のエネルギー利用は発電用が主体であった。電力セクター以外の非電力エネルギーへも原子力の供給が可能になれば原子力の寄与は拡大する。そのためには、非電力エネルギーの水素・アンモニア・炭化水素などの燃料製造にも原子力供給を拡げていく必要がある[vii]

海水脱塩・運輸(舶用)・地域暖房などへの原子力供給についてはすでに一部で検討/採用されている。さらに、水素製造・合成燃料製造・製鉄などへの原子力供給、とくに高温ガス炉による高温熱供給が実用化すれば、利用価値・範囲が格段に向上・拡大する。

最近、再エネ電力から電気分解で製造する「グリーン水素」への期待が大きくなっている。水素単体・アンモニア・合成燃料(eFuel)として化石燃料製品に代わって非電力エネルギー供給を行う構想である。

同じ電気分解で水素を製造する場合、軽水炉などの原子力プラントから製造する水素は設備利用率が変動再エネの場合より格段に高く、原子力は水素経由で燃料などの非電力エネルギー供給の役割を担える。

さらに、原子力熱を炭素資源(天然ガス、バイオマス)の水蒸気改質/ガス化反応で水素/合成ガスを製造するプロセスに供給する方法は、既存の化石燃料ベースの方法から将来のCO2ゼロ排出の合成燃料製造へ技術展開できる利点がある。

(4) 大気中CO2除去への原子力利用

21世紀後半には年最大10Gton- CO2のオーダーの負排出(CO2除去)が必要になってくる。CO2除去の方法としては、バイオマス発電+CCSBECCS)のほか直接空気回収(DAC)など様々な方法が試験・検討されている。これらの中にはDACのように大量のエネルギー(電力・熱)を消費するプロセスがあり、CO2を出さない原子力はその重要なエネルギー源になる。

DACなどで大量のCO2を回収する場合、回収プロセスの大量エネルギー消費のほか、CO2の貯留の規模の大きさなどの課題があり、より難度の低い方式の検討も行われている。

その一つとして、バイオマスを炭化して炭(バイオチャー)にして、利用/貯留する方法がある。炭は、空気中に放置しても数百年~数千年間安定なので貯留が容易であり、また土壌改良材・工業材料・構造材料など農業・工業などの用途で安定的に使用できる。また、炭化プロセスにおいて同時に生成される揮発性炭素化合物から合成燃料を製造し、これで化石燃料を代替すればその分CO2排出量を削減できる。

このプロセスに原子力からエネルギーを供給すると、大気中CO2の除去と合成燃料供給の両方によるCO2除去効果はバイオマスのみ使用する場合に比べて60%以上向上する[viii]

今後、このような太陽光・風力・バイオマスなどの太陽エネルギーと原子力の協働的プロセスによってエネルギー供給をしながら地球規模の炭素循環を効果的にコントロールするシステムの構築・運用は重要になると考える。

(5) 今後のエネルギー政策

2020年から2022年にかけて、COVID-19のパンデミックとロシアのウクライナ侵攻によって、世界のエネルギー情勢に大きな変化が生じている。

今後、地球環境と両立する新しいエネルギー需給構造の構築に際しては、リスク・ベネフィットに基づく科学的・合理的なシステム選択がなされることが望まれる。それによって原子力がその特長を生かして電力および非電力供給において大きな役割を果たしていく際に、燃料リサイクルによる核分裂性物質の持続可能な供給確保が重要になってくる。

[参考文献]

[i]1~図3および表1のエネルギー統計値には「bp Statistical Review of World Energy 2022」(20226月)の値を使用

[ii] IEA, “Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector”(20215月)

[iii] IEA,"Nuclear Power and Secure Energy Transitions" (2022年6)

[iv] Resource for the Future "Global Energy Outlook 2022: Turning Points and Tension in the Energy Transition" (20224月)

[v] 日本政府「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(20216月)

[vi] 地球環境産業技術研究機構「2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(中間報告)」総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会・資料(20215月)

[vii]堀 雅夫「カーボンニュートラル燃料への原子力」日本原子力学会誌,Vol.63No.12 (202112)

[viii]堀 雅夫 「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」 Amazon Kindle, B083G1278K, 205ページ(2020年1月)

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電力貯蔵用の鉄-空気電池の進展

電力貯蔵用の鉄-空気電池(Iron-Air Battery)については、米国の新興企業 Form Energy が、ミネソタ州の電力共同組合 Great River Energy と共同で、開発と実証を進めてきました。

両社は2020年に提携し、20248月には実証設備の建設を開始、2025年後半から2026年初頭にかけて、1.5MW150MWh100時間持続の設備により、再エネ変動に対する需給調整能力の検証を実施しました。

2026
3月に入って、この鉄-空気電池の実用化が一段進んだことを示すニュースが相次ぎました。

Google、効率面での不利を承知の上で、Form Energy30GWh級鉄-空気電池に巨額投資」
  Energy Storage News, March 11, 2026
 
     https://www.energy-storage.news/google-bets-big-on-30gwh-of-form-energys-iron-air-battery-storage-despite-efficiency-trade-offs/

Form Energy、米国の新たなAIデータセンター向けに、12GWhマルチデイ-空気電池を供給することで合意」 
  Energy Storage News, March 27, 2026
 
    https://www.energy-storage.news/form-energy-signs-12gwh-agreement-to-supply-multi-day-iron-air-batteries-to-new-us-ai-data-centres/

以下、系統用電力貯蔵技術としての鉄-空気電池の現状と将来性を、簡単に整理してみます。

1
.数日間の電力貯蔵をねらう技術

太陽光発電などの変動性再生可能エネルギー(VRE)の導入が進む中、電力系統には需給調整機能の強化が求められています。

現在主流のリチウムイオン電池(LiB)は、数時間程度の調整には適していますが、気象変化に伴う数日規模の需給ギャップに対応しようとすると、コスト面で不利になりやすいという課題があります。

これに対し、Form Energyが開発している鉄-空気電池は、このようなマルチデイ(数日間)貯蔵を主な対象としており、近年、商用段階への移行が明確になってきました。

2
.技術概要:鉄の「さび」を利用する呼吸する電池
 
-空気電池の原理はシンプルです。
    •   
放電時:大気中の酸素を取り込み、鉄を酸化鉄(さび)に変える過程で電子を取り出す
    •   
充電時:外部から電気を与えて、酸化鉄から酸素を分離し、鉄に戻す

Ironair_battery

主な特徴としては、次の点が挙げられます。
    •   
材料の入手容易性
       
主原料は鉄、水、空気であり、リチウムやコバルトのような希少資源に依存しません。
    •   
安全性
       
水系電解質を用いるため、発火リスクが小さく、都市近郊やデータセンター併設にも適しやすいと考えられます。
    •   
長時間放電特性
        100
時間以上(約4日)の連続放電を視野に入れた設計となっています。

3
.「効率の低さ」をどう見るか

この電池で最も議論になりやすいのは、充放電効率(RTE)が4050%程度と、LiB(約90%)よりかなり低いことです。ただし、これを単純な欠点とみるだけでは不十分です。低効率でも経済的に成立しうる条件が存在します。

    •    設備コストの低さ
    LiB
のシステムコストが100ドル/kWh前後であるのに対し、Form Energyは鉄-空気電池について20ドル/kWh以下を目標にしており、商用案件でも30ドル台/kWhを達成したとされています。
    •   
余剰再エネの活用
   
出力抑制される再エネ電力や、価格がゼロまたはマイナスになる電力を充電に利用できれば、効率が低くても設備費の安さで全体として競争力を持つ可能性があります。
    •   
用途の割り切り
   
この電池は、LiBのような短時間・高効率用途ではなく、数日規模の安価な蓄電に用途を絞ることで価値を出そうとしている点に特徴があります。

L
 
4
2026年の商用化動向:AIデータセンター需要との接点

2026
年に入ってからの動きで注目されるのは、この技術が単なる実証段階を超え、大規模需要家向けの基幹インフラ候補として扱われ始めていることです。
    •    Google
による30GWh級の導入計画
      
ミネソタ州で、24時間365日のカーボンフリー電力供給を支える手段の一つとして、世界最大級の蓄電案件が動き始めています。
    •    Crusoe
社との12GWh供給合意
      AI
データセンターのような、大きくて比較的一定した電力需要に対し、再エネ主体の電源構成を支える補完技術として位置づけられています。
    •   
海外展開の開始
      2026
3月には、アイルランドで1000MWh級の案件も報じられ、米国外への展開も始まっています。

5
.将来性と限界

-空気電池の登場により、数日程度までの電力需給調整を、比較的低コストで電池が担える可能性が見えてきました。

しかし、例えば太陽光発電のみの系統の需給調整を行う時に出力抑制なしの場合は(日本の日照条件では)約2か月分の電力貯蔵容量が必要であり、変動再エネの比率が一定以上の系統では需給調整を電力貯蔵だけに依存することは現実的ではなく、他の発電手段との組み合わせが引き続き不可欠です。(参考資料3)

したがって、鉄-空気電池は「万能解」ではありませんが、リチウムイオン電池では高コストになりやすい数日規模の蓄電領域を埋める有力な選択肢として、今後の展開を注視する価値があると考えます。

参考
1. Form Energy, "Multi-day storage: the pathway to a reliable, clean, and secure grid"
        https://formenergy.com/technology/battery-technology/
2. Kirill Mikhailov, "Iron-Air Batteries — The Future of Long-Duration Energy Storage — Form Energy — Impact on Other Sectors" (Oct 16, 2024)
        https://medium.com/@kirillomikhailov/iron-air-batteries-the-future-of-long-duration-energy-storage-form-energy-impact-on-other-9e3e4dee92ec

3.「出力抑制(出力制御)を上手に使おう! 太陽光発電100%系統における出力抑制率と電力貯蔵必要量の関係」
http://hori.way-nifty.com/synthesist/2023/06/post-98e0ad.html

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Ted Nordhouseの視点「トランプの原子力エネルギー支持は気候の勝利だ」

米国の環境思想家・政策論者のTed Nordhousが、ワシントン・ポスト(26.01.12)に「視点:トランプの原子力エネルギー支持は気候の勝利だ」というオピニオンを掲載しています。なお、Ted Nordhausは原子力や技術革新を重視する立場で、Breakthrough Instituteの共同創設者です。

以下、1月19日に一般向けに公開された記事から内容を紹介します。
 "Viewpoint: Trump’s support for nuclear energy is a win for the climate"
 https://geneticliteracyproject.org/2026/01/19/viewpoint-trumps-support-for-nuclear-energy-is-a-win-for-the-climate

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この記事で著者は、環境問題に対して懐疑的なトランプ大統領が、原子力エネルギーの商業化と規制改革で気候変動対応にとって重要な進展を生みつつあると評価しています。主な論点は次の通りです:

  1. トランプ政権は気候変動を疑問視し、温室効果ガス規制やパリ協定撤退など環境団体の反発を招いたが、同時に新型原子炉の実用化への強力な推進を行っている

  2. 米国原子力規制委員会(NRC)の抜本的改革と、経験豊富な原子力専門家の任命により、先進的原子炉の迅速な認証・導入が進められている

  3. エネルギー省や国防総省が小型炉(SMR)の実証プロジェクトや配置計画に取り組み、州・民間市場にも大きな影響を与えている

  4. 先進原子力企業への投資が加速しており、株価上昇や投資熱が原子力産業への期待を示している

  5. 失敗の可能性は依然としてあるが、原子力が安価で拡張可能な低炭素電源として化石燃料依存の低減に寄与する可能性があると主張している。

記事全文のAI翻訳
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視点:トランプの原子力エネルギー支持は気候の勝利だ

テッド・ノードハウス(ワシントン・ポスト)/2026年1月19日掲載(転載)

パンデミック対応が多くの人に最低限の評価しか受けず、ひどい否認的対応とみなされた大統領が、コロナワクチン開発を主導した事実をドナルド・トランプは自ら語ろうとはしません。公衆衛生界では、今の政権の反ワクチン姿勢に多くの専門家が戦慄しており、当初トランプの野心的なワクチン開発スケジュールに懐疑的だった人も少なくありませんでした。

現在の第2次トランプ政権1年目においても、気候変動に対して同じようなダイナミクスが起きつつあるかもしれません。トランプはかつて気候変動を「中国の作り話」と表現し、米国をパリ協定から離脱させ、気候研究資金を大幅に削減し、温室効果ガス規制を撤廃するなど、環境派と民主党の強い反発を招いてきました。

しかし一方で、アイゼンハワー政権の「平和のための原子」イニシアティブ以来の、最も野心的な新型原子力技術の商業化への取り組みを開始しています。これは、小型で柔軟性のある原子炉を開発し、増大する電力需要(特にAIデータセンターの急増によるもの)に対応するためです。

トランプを愛するにしろ嫌うにしろ、新型原子力技術を迅速に実証・認証・商品化しようとする政権の決意は前例のないものです。原子力規制委員会(NRC)の抜本的改革を命じる大統領令が進行中であり、懸念されたような政治的な人事ではなく、どちらも核工学の専門家で規制経験のあるノー・ニエとダグラス・ウィーバーという、超有能な委員が上下院の超党派で承認されました。

年初にはNRCが規制コードの改訂を公表する見込みです。エネルギー省は今年、アイダホ国立研究所で複数の小型試験炉の審査、承認、実証を進めています。国防総省は基地への小型炉導入契約プログラムを開始しました。これに伴いエネルギー省は放射線健康基準を改編し、**疫学的な証拠が十分でない極微量の放射線を重大な健康リスクとみなす前提を見直し、実用的な曝露閾値を設定しています。**この基準はNRCや環境保護庁の基準改訂のテンプレートになる可能性があります。

連邦政策の急速な転換は州や民間市場にも影響を与えています。共和・民主両党の知事たちが新型原子炉の導入を競い、公益事業や州規制当局は長期電力計画に原子力を組み込み、設置場所やNRC認可準備を急いでいます。

民間部門では先進原子力市場が活況を呈し、カリフォルニア拠点のOklo社などが、許認可や実機建設以前に**初の原子力億万長者を生んでいます。**株式市場でも上場企業の株価が大きく上昇しています。これが単なるブームかバブルかは別として、原子力技術への熱狂は新しい革新的技術の必要性を示しています。

近年、「気候のムーンショット(大胆な挑戦)」が必要だという議論が多くありましたが、**トランプ政権の米国原子力産業再活性化の取り組みは、ムーンショットに最も近いものです。**そしてこれは気候変動に懐疑的で環境への関心が薄い大統領の下で起きています。

もちろん、ワープスピード作戦と同様に成功が保証されているわけではありません。成功しても気候変動問題が解決するわけではありません。しかし、安価で拡張可能な原子力エネルギーが化石燃料依存を減らし、クリーン電力を提供し、世界的排出量の深い削減に重要な役割を果たす可能性はあります。

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注釈:上の記事中の「ワープスピード作戦」(Operation WarpSpeed)とは、2020年にトランプ政権下で実施された、COVID-19ワクチンを前例のない速度で実用化した国家プロジェクトを指す。研究開発・承認・製造を並列で進め、政府がリスクを肩代わりすることで、通常10年以上かかるプロセスを1年未満に短縮した。本記事では、この手法になぞらえて、先進原子力の実証・認可・商業化を国家的優先事項として加速する動きを示している。

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「中国はいかにして原子力で米国を追い越したのか」(ニューヨーク・タイムズ)

2025年10月22日のNew York Timesに「中国はいかにして原子力で米国を追い越したのか」"How China Raced Ahead of the U.S. on Nuclear Power" (By Brad Plumer and Harry Stevens)と題する論考が掲載されています。

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この記事のポイント:

 ・中国は政府主導で、同型炉の繰り返し建設と標準化によりコストを半減。
 ・建設期間は平均5~6年と西側の半分。
 ・原発を「輸出産業」と位置づけ、CAP1000から第4世代炉・トリウム炉へ拡張。
 ・米国は民間依存で方向が分散し、産業基盤が脆弱。
 ・中国は実用化力で10~15年先行、「次のエネルギー覇権」を狙う。

要旨:

中国はいかにして原子力で米国を追い越したのか

  1. 背景:米国停滞と中国の急伸

2013年、米国で約30年ぶりに2基の新型原子炉建設(ジョージア州ヴォーグル発電所)が始まったが、完成は11年後、総費用は当初計画を170億ドル超過。米国では依然として建設の遅延とコスト高が続き、原子力拡大は停滞している。

一方、中国は同期間に13基の原子炉を完成、さらに33基を建設中であり、2030年には原子力発電容量で米国を超える見通し。原子力も太陽光・EVと同様に、中国の新たな「戦略産業」となりつつある。

  1. 中国の強み:国家主導の効率化と学習効果

中国の急成長を支えるのは、国家主導の一貫した支援体制である。

  • 資金支援:国有3社が政府保証付きの低利融資を受け、電力網も有利な買取価格を設定。
  • 標準化:ごく少数の炉型(AP1000改良型=CAP1000など)に集中し、建設手順・供給網を標準化。
  • 繰り返し学習:同型炉を多数建設し、作業員や溶接技術者が現場を横断して熟練度を蓄積。

この結果、建設期間は平均56、コストは西側の半分以下に安定。米国のような設計変更や訴訟リスクも少なく、認可から着工までの期間も極めて短い。

一方、米国では1970年代以降、安全規制の強化、金利上昇、スリーマイル島事故(1979年)による不信感で建設は停滞。多様な設計を試みた結果、予測不可能性が産業の停滞を招いた

Constructioncostsofnuclearreactors

  1. 中国の戦略:国内拡大から輸出・次世代技術へ

中国は既にパキスタンなど国外でも6基の原発を建設しており、次の段階として世界市場の供給者を目指している。
さらに、国内では次世代技術にも注力:

  • 4世代ガス冷却炉」を実用化(高温熱で産業用蒸気供給も可能)。
  • トリウム炉使用済燃料の再処理研究。
  • 将来的には核融合(fusion)にも巨額投資。

報告によれば、中国は「次世代炉の商業展開能力」で米国より1015年先行している。

  1. 米国の現状:民間依存と構造的弱点

米国も超党派で原子力を支持し始めており、トランプ政権は2050年までに原子力容量を4倍にする計画を掲げる。しかしその方法は、国家ではなく民間主導の技術革新依存である。

Google、AmazonOpenAIなどの大手が中小型炉(SMR)開発企業(KairosX-energyOklo等)に出資し、AIデータセンター電源としての利用を構想。
ただし、大型部品の製造能力や熟練人材が失われており、技術革新だけでは建設力の差を埋められない懸念が強い。
さらに、規制緩和や安全基準の見直しも政治的に難航している。

  1. 展望:世界市場をめぐる新たなエネルギー競争

原子力は再び地政学的ツールとなりつつある。原発輸出は数十年に及ぶインフラ・技術協力関係を生み、外交的影響力を拡大する。
中国は「太陽光・電池」に続いて原子力でも世界標準を握る構えを見せる。

米国が再び主導権を取り戻すには、単なる技術革新ではなく、国家的な再産業化と一貫した長期戦略が求められる。

 まとめ

中国は、

  • 国家主導の標準化・学習効果、
  • 迅速な認可制度、
  • 次世代炉・輸出の戦略的展開

によって、原子力の量・コスト・スピードのすべてで米国を凌駕した。
米国が多様化・民間依存で停滞する中、中国は原子力を「新たな国力の象徴」として世界市場を席巻しつつある。

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電力化による燃料消費の削減 -- 21世紀後半に向かう日本のエネルギー転換 --

この考察では、将来の日本において電力化を進めることで燃料消費を削減し、国内のバイオマス資源と原子力熱を組み合わせた合成燃料によりエネルギー自給が可能かどうかを定量的に検討します。2075年をマイルストーンとし、電力化率の想定と必要燃料量、バイオマス賦存量とのバランスを分析します。

本稿は、電力化と燃料削減を通じたエネルギー自給の可能性を探る試みであり、今後この方向の技術・制度の展開を期待します。本稿の概要解説(NotebookLMによるコンセプト動画)↓
日本の2075年エネルギー設計図」 

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筆者は、これまでバイオマスと原子力の協働プロセスによるCO2フリーの炭化水素燃料の製造について研究・発表(ダウンロード&2最近の発表)を行ってきた。このプロセスを日本の将来の燃料(非電力)供給に使用する場合の国内バイオマス資源による供給可能性を評価するためには、21世紀後半(そのマイルストーンとして2075年)における日本の燃料供給量の推定が必要で、最終エネルギーの電力化を向上させることによって非電力量をどこまで下げられるか考察を行った。

なお、燃料供給は、eFuel(直接空気回収DACにより回収されるCO2の水素添加/電解還元などで製造される炭化水素燃料)あるいは水素/アンモニア(再エネ電力によるグリーン水素、原子力によるピンク水素)などによっても可能である。しかし、これらの燃料はバイオマスベースの燃料に比べて、製造に多大のエネルギー(主として電力)を要し、製造コストも過大になる。これら将来燃料の優劣・得失の比較については別資料(例えば↓)を参照されたい。

Columbia Univ. (SIPA), “Opportunities and Limits of CO2 Recycling in a Circular Carbon Economy” (2021) Download

Nathan Johnson, et.al., “Realistic roles for hydrogen in the future energy transition” Download

以下、2075年の非電力供給について、(A)第7次エネルギー長期計画策定のための2050年シナリオ評価に基づく推定、(B)電力化率向上加速による削減、の順に考察する。

A. RITEの2050年シナリオ評価をもとに推定

2050年までの二次エネルギーにおける電力量および燃料(非電力)量の見通しについては、国のエネルギー長期計画などのエネルギー・環境政策との関連で各種のシナリオ評価など定量的な検討が行われてきている。本考察では、主として通商産業省の基本政策分科会に提示された地球環境産業技術研究機構(RITE)による以下の資料を参考にした。

1.総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 令和6年12月25日 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国のエネルギー需給分析」(2024123日提示の分析の更新版)参考資料1 地球環境産業技術研究機構(RITE)https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/066/068_008-1.pdf

2.総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 令和6年12月25日2050年カーボンニュートラルに向けた我が国のエネルギー需給分析」(2024123日提示の分析の更新版)参考資料1 「分析モデル、手法、シナリオの概要」地球環境産業技術研究機構(RITE)https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/066/066_s05.pdf

これらの資料の2050年までの二次エネルギー量の見通しを基に、21世紀後半、そのマイルストーンとして2075年の燃料供給量の推測を行った。

1.2015年~2050年の電力化における成績係数の推定

RITEの資料には、2015年と2050年の電力量・非電力量(燃料量)・電力化率が示されている。以下の考察では、RITEによる5ケースのシナリオの中の「成長実現シナリオ」の数値を資料の中の図から読み取って使用した。

本考察では、二次エネルギーの単位として、電力はWh(ワット・時)、燃料(非電力)はtoe(石油換算トン)を用いる。図・表などでは比較の便のため同じデータを両方の単位で示している。単位の換算は、1 [Mtoe] = 11.63 [TW]T(テラ)は1012乗、M(ミリオン)は106乗。

表 2015年と2050年の電力量、非電力量、全二次エネルギー量、電力化率

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二次エネルギーを電力と燃料(非電力)に大別したとき、二次エネルギーにおける「電力化率」(英語では、Share of electricity in the secondary energy または Electricity rate)は次の式で定義される。

          電力化率=電力量/(電力量+非電力量)

電力化率が201530%から205055%に増加していることは、燃料を使用して賄ってきた熱需要(熱機関を介する動力も含む)のかなりの部分を電力によって賄うように変わっていることである。

ここでは、2015年~2050年において電力および熱を必要としている元の産業用、運輸用、民生用(業務・家庭)などのエネルギー需要は変わらないと仮定して、熱の需要が電力の需要に代替される過程を定量的に検討する。

上記「2015年と2050年の電力量、非電力量、電力化率」の表のデータから、日本の二次エネルギー全体として電力化の進行をバルクに見た時の電力の非電力への転換係数に相当する値を算出した。ここではこの値を「修正成績係数」(Modified Coefficient of Peroformance, mCOP)と呼ぶことにする。

一般に、「成績係数」(Coefficient of Performance, COP)とは、ヒートポンプなどの電力駆動の熱機器の効率を表す指標で、以下のように定義されている。

    COP = 得られる熱量(または冷却量) ÷ 消費電力

例えば、あるヒートポンプが 1 kWh の電力を使って 3 kWh の熱を供給できるなら、COP = 3.0 となる。

現在進められている電力化においては、ヒートポンプが作動する低中温より高い温度の熱の供給や熱機関のモーター化なども含んで巾広く転換が進むと考えられる。そのため、電気抵抗加熱(熱損失がなければ、COP=1.0)も含めて、ここでは電力化全体でのCOPを考えることにする。

電力化は、燃料に変わって電力を使用するため、機械やプロセスのよりきめ細かい制御や調節が可能になり、エネルギー損失を減らすことができるので、熱力学的なCOP以上に電力消費を抑えることができる場合が多い。これらの効果を含めたCOPを修正成績係数(Modified Coefficient of Performance, mCOP)と定義する。

2015年の電力量をA1、非電力量をB12015年の電力化率r1とし、2050年の電力量をA2、非電力量をB2、電力化率をr2とし、2015年から2050年の間の修正成績係数mCOPとすると、これらの変数の関係は次の式になる。

A1/(A1+B1) = r1

A2/(A2+B2) = r2

mCOP = (B1-B2) / (A2-A1)

上の連立方程式を解くと

           mCOP = {A1(1-r1)/r1 - A2 (1-r2)/r2}/(A2-A1)

上の式に表1の数値を入れて2015年から2050年の間の電力化における修正成績係数mCOPを求めると mCOP = 2.97 が得られた。

また、mCOPを変えて2015年~2050年の電力の増加係数(A2/A1)の値を求めると、下の図の関係になる。これは、mCOPが大きいほど即ち電力をより効率よく熱に変換するほど、2050年の電力量の増加は小さくなる関係を定量的に示したものである。

Electricity_growth_vs_mcop_corrected

なお、ヒートポンプのCOPは、一般に空気を熱源とする場合は2.24.5程度、地中熱を熱源とする場合は5程度であるが、産業用の200℃以上も可能な中温用ヒートポンプではCOP1.52.5程度、高温用の電気抵抗加熱なども含めると平均的にはCOP = 2.02.5程度になるのではと推測される。一方、電力化に伴う調節・制御性向上による損失削減などの効果を含めると、2015年~2050年の電力化におけるmCOPの値として3程度は妥当と考えられる。

2.電力化率の2050年以降の上昇と2075年値の推定

2015年から2050年までに続いて、それ以降も電力化が進むが、燃料に頼らざるを得ない航空機や船舶の推進用需要もあるので電力化率の上昇には限度があり、90%程度で飽和すると推測される。

2015年と2050年の電力化率の値と飽和値約90%を入れたロジスティック曲線(補足説明、下のボックス内)を想定すると、下の図に示すように2075年の電力化率として約70%の値が得られる。


電力化率のロジスティック曲線による予測 

電力化率(二次エネルギーに占める電力の割合)は、経済の脱炭素化や電化技術の進展に伴い、長期的に上昇する傾向にある。特に再生可能エネルギーや原子力などの非化石電源との親和性の高い電力は、利用が拡大しつつある。

ロジスティック曲線の選定理由

本考察では、電力化率の長期的な推移を表現するにあたり、ロジスティック関数S字曲線)を用いた。これは以下の理由によるものである。

・   電力化率のように、初期は緩やかに上昇し、一定の成長期に急激に進展し、その後は飽和に向かって漸近するような現象には、ロジスティック曲線が適合的である。

・   ロジスティック曲線は、導入期・成長期・成熟期の3段階の遷移をパラメータによって柔軟に表現可能であり、実際の政策導入や技術革新と整合的に推計できる。

・   多くの社会・技術現象(例:インターネット普及率、携帯電話普及、都市人口率など)と同様に、上限(飽和点)を持つ成長過程を捉えることができる。

・   過去実績と将来の政策目標値(例:207570%など)を通るようにパラメータをチューニングすることで、整合性のある予測が可能となる。

なお、ロジスティック関数は、指数関数とは異なり、将来的に無限に成長することがなく、現実的な制約(例えば電力以外の用途が一定程度残ること)を内在的に反映できる。この点において、単純な線形回帰や指数回帰に比して、長期予測の安定性が高い。

以上の理由から、本考察では電力化率の年次推計にロジスティック関数を採用し、特定の飽和値(例:約90%)と中心年(例:2035年頃)を設定して将来予測を行った。

Electrification_rate_logistic_projection

因みに、航空機や船舶の動力需要の一部、小型/短距離のものはバッテリー利用により電力化されるが、大型・長距離の推進動力は燃料に頼らざるを得ない。現在、航空機と船舶が消費する燃料は、世界のCO2排出量の約 56% (航空業界が 23%、船舶業界が 3%前後)を占めている。将来の予測に関しては、航空業界の燃料消費は増加傾向にあるので約 45% に拡大する可能性があり、船舶業界も国際貿易の増加に伴い若干の増加(~4%)が予想されている。これらの移動体の推進動力用燃料とその他電力化が不利な需要を合わせて、燃料(非電力)量として二次エネルギーの10%程度、電力化率は90%程度の限度は妥当と考える。

3.2050年以降の電力化による2075年の燃料(非電力)量の推定

電力化率が205055%から2075年70%に増加するとして、2050年の電力量および非電力量をもとに、2075年の燃料(非電力)量を推定することにする。

ここでは、2050年~2075年においても電力および熱を必要としている元の産業用、運輸用、民生用(業務・家庭)などのエネルギー需要は変わらないと仮定して、熱の需要の電力の需要への転換を定量的に調べる。

2050年の電力量をA2、非電力量をB22050年の電力化率r22075年の電力量をA3、非電力量をB3、電力化率をr3とし、2050年から2075年の間の修正成績係数mCOPとすると、これらの変数の関係は次の式になる。

A2 / (A2+B2) = r2

A3 / (A3+B3) = r3

mCOP = (B2-B3) / (A3-A2)

上の連立方程式から

           A3 =  {(1-r2) / r2 + mCOP}A2 / {(1-r3) / r2 + mCOP}

           B3 = (1-r3) A3 / r3

2050年の値の電力量はA2 = 119 Mtoe、電力化率はr2=0.55 であり、前節の考察から2075年の電力化率はr3 = 0.70、2050年~2075年の修正成績係数は2015年~2050年と同じ mCOP = 3をとると、2075年の電力量A3 = 133 Mtoe、非電力量 B3 = 57 Mtoe が得られる。

2015年、2050年、2075年の電力量、非電力量、全二次エネルギー量、電力化率の値を下の表および図に示す。

表 2015年・2050年・2075年の電力量、非電力量、全二次エネルギー量、電力化率

Slide2

Energy_supply_2015_2075_mtoe_tw_20250713120301

4.国内バイオマス資源による燃料供給可能量

以上のように、2075年の燃料供給必要量は57Mtoeとなり、2015年の燃料量の3割以下(28.5%)に減少している。ここで、バイオマスと原子力の協働プロセスによるCO2フリーの炭化水素燃料製造を想定して、国内バイオマス資源による燃料供給可能な割合を計算してみる。

これまで実施してきた世界レベルでの解析では、炭素6Gtonを含むバイオマスを原料として原子力協働プロセスでは炭化水素燃料3.5Gtoeを生成するとしてきた。炭素1Gtonの発熱量は0.784Gtoeなので、原料バイオマスが有する炭素熱量の3.5/(6x0.784)74%の熱量の炭化水素燃料が生成されることとになる。

この値を使って、207557Mtoeの燃料を製造するに必要なバイオマスの炭素熱量は57/0.74 = 77 Mtoeとなる。日本のバイオマスの年間賦存量は「バイオマスニッポン総合戦略」(20063月)によると1757PJ 42Mtoeなので、国内のバイオマス資源によって、2075年燃料供給必要量の55%程度を供給できることになる。

[付記] バイオマスのエネルギー量[PJ]と含有炭素質量[MtonC]の関係について: 「バイオマスニッポン総合戦略」では、含有する炭素の熱量の78%がバイオマスのエネルギーになるとして41.9 [PJ/MtonC] を用いている。本考察においては、反応プロセスの収率・効率は別途勘案しているので、含有する炭素の熱量の100%をバイオマスのエネルギー量とする32.8 [PJ/MtonC] を使用している。

バイオマスからバイオ燃料を合成するプロセスに原子力熱を供給してバイオマスの効率的使用を想定した場合でも、上記2075年の必要燃料供給量は国内バイオマスによる燃料自給の目的達成のためにはまだ相当過大な値で、必要燃料供給量をさらに下げる必要がある。

ここで、国内バイオマスによる燃料自給のためには、燃料量をどの程度まで下げる必要があるか概算してみる。上に述べた、原料バイオマスが有する炭素熱量の74%の熱量の炭化水素燃料が生成されるとした値を使用して、日本のバイオマスの年間賦存量の1757PJ 42 MtonOEから製造できる炭化水素燃料量は31 Mtoeとなり、この程度まで必要燃料量を下げることができれば、自給可能となる。

B. 電力化率向上加速による燃料必要量の低減

1.燃料100%自給の電力化率

前節で説明しているように、RITEのシナリオ評価において2050年まで示されている電力化率向上のトレンドから2075年の電力化率70%とした場合必要燃料量57Mtoe/年の値を得た。これはバイオマス原子力協働プロセスを用いて日本のバイオマスの年間賦存量により必要量の55%を供給できるが、100%エネルギー自給するには必要燃料量を31Mtoe以下に下げる必要がある。

2075年の必要燃料量の全部を日本のバイオマスの年間賦存量から原子力協働プロセスを用いて製造可能な約30 Mtoe以下にするには、将来の電力化率をどのように向上していけば良いか、検討してみる。

日本の最終エネルギーの電力化率については、「2024年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2025)」(20256月資源エネルギー庁)に次の図で示されている。

_19652022

エネルギー白書によるこの図の電力化率の算出は「電力化率=電力消費/最終エネルギー消費 ×100」とあるが、非エネルギー用途(例えば、石油化学原料など)を含んだ最終エネルギー消費を分母に使っている。

本ブログは、最初この電力化率を元に考察したので、その結果は非エネルギー用途を含む非電力(燃料と原料)量を検討したことになっていた。今回、エネルギー用途の非電力(燃料)量について検討したので、以下は新しい検討結果に差し替えてある。

エネルギー用途に限定した最終エネルギーの電力化率は、IEA“World Energy Balance”記載の日本のデータから求めた。非エネルギー用途を分母から除外した最終エネルギーの電力化率計算に必要な値は次の通り。

2023年の日本のデータ

 全最終消費(全用途)= 10456809 TJ

 非エネルギー用途 = 1069483 TJ

 電力の最終エネルギー消費= 3165121 TJ

 非電力の最終エネルギー消費= 6222205 TJ

これから。最終エネルギーの電力化率=電力の最終エネルギー消費 / (電力+非電力の最終エネルギー消費) = 33.72% と計算される。

21世紀後半2075年頃に燃料自給が可能な必要燃料量を31Mtoe以下にするには、2023年の電力化率33.7%から電力化率をどのように向上して行ったら良いか計算してみた。

計算の手法は、本稿のA章と同様の方法で、最初の年の値から順次2075年まで計算していく。

 2023年の最終エネルギーの電力の実績値 = 75.6 Mtoe

 2023年の最終エネルギーの電力化率 = 33.72%

 修正成績係数mCOP 3.0 (一定)

上の条件で、電力化率がロジスティック曲線で増加していくとして、2075年の最終エネルギーの非電力(燃料)が30 Mtoeになるようなロジスティック曲線上の2075年電力化率を求める。

その結果、電力化率を202333.7%から207579.3%に向上させると、次の図のように2075年の燃料必要量30Mtoeが得られた。

Trajectories_a_b_total_with_twh_a

なお、電力化率のロジスティック曲線は下図。パラメーターは、飽和値 K 90%、中心年 t0  2033.5899、成長率 r 0.048461 / 年。

Logistic_curve_fitted_b2075_30a

上に示したように、電力化率が2075年に約80%まで向上すると、必要な燃料は全てバイオマスと原子力の協働プロセスにより自給できることになる。

2.電力化率、世界の現状

世界の各地域の電力化率は、Enerdataの報告書"Share of electricity in final energy consumption"によると下の図のようになっており、その平均は2010年の約17.8%から2024年は3.3ポイント上昇して21.1%となっている。

World-electrification-rate-trend

Ember社のレポート"China Energy Transition Review 2025" (September, 2025) には、欧州・米国・中国・日本の電力化率の変化が示されている。このEMBER社の電力化率の推移の図も、IEAのWorld Energy Balanceのデータを用いて「最終エネルギー消費=全最終エネルギー消費ー非エネルギー用途」を分母にとり、分子は「電力の最終消費」により計算している。つまり 非エネルギー用途(石油化学原料など)を分母から除外したエネルギー用途のみの電力化率の値である。

Electrification_2000_2022b

上の図で特筆すべきは、中国の電力化率は20152023年に年平均約1ポイントで上昇し、2023年には欧米の約24%を遥かに超えた32%に達していること。上昇の主因は、産業・建物・輸送の各部門での電化の同時進行、特に世界最大市場となっているヒートポンプの普及が熱需要の効率化を牽引し、EVの拡大と鉄道・地下鉄の整備が輸送部門の電化を押し上げたと推察される。

EMBER社のレポートには、アジアなどの新興開発途上国の電力化率(下の図)も示されている。

Emerging-market-energy-leapfrog

新興国の約4分の1は、電力化率で既に米国を上回っている。このように、低コスト電化技術(PV・蓄電池・EV・ヒートポンプ)の波及によって、老朽インフラの制約が小さい国ほど、新規投資を電化前提で最適化しやすく、「リープフロッグ(蛙跳び的追い越し)」が現実化している。

3.日本の電力化推進

これまで考察してきたように将来的なエネルギー自給の鍵は「燃料を電力に置き換える」電力化であり、このエネルギーの構造改革はエネルギー政策で最重要と考える。

電力化を進める具体的な方策としては、例えば下記が挙げられる。

・熱の電力化:

家庭・業務用 → ヒートポンプ(COP = 34

産業用 → 中温~高温ヒートポンプ、インダクション加熱、マイクロ波加熱、抵抗加熱

・移動の電力化:

BEV/PHEVへのシフト

鉄道物流への回帰

 ・プロセスの電力化:

化学工業等での燃料加熱に代わる電気加熱

金属工業等での燃料還元に代わる炭素循環/電解還元

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21世紀後半における電力化の推進によって燃料の自給を確立することは、エネルギー安全保障、産業競争力の面で極めて重要です。これは、日本が抱える資源・土地・人口といった制約を克服し、エネルギー自立を追求するための、現実的かつ戦略的な方策と考えます。

(「B.電力化率向上加速による燃料必要量の低減」章の「1燃料100%自給の電力化率」と「2電力化率、世界の現状」節の内容は25.09.23に変更しました)

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海水ウラン:エネルギー資源か?

海水ウランのエネルギー:熱・仕事量・位置エネルギー

海水中には微量ながらウランが含まれており、その回収・利用がエネルギー資源として注目されることがあります。しかし、海水ウランは非常に低濃度であるため、エネルギー的に有望とは言いがたい側面があります。ここでは、海水ウランのエネルギー・仕事量・位置エネルギーについて考察してみます。

Seawateruraniumu2

海水中のウラン濃度

データ:

ウラン2-3 mg/ton (アトミカ)

ウラン3.3 μg/l (日本海水学会誌第41977年 菅野昌義)

 海水中のウラン濃度は0.0033 mg/l=3.3E-6 g/l

U235の発熱量

データ: U235の核分裂エネルギー(核分裂エネルギーWiki

1グラムのウラン235が全て核分裂を起こすと、およそ 8.2×1010 Joule のエネルギーが生まれる事になる。

1E6 Joule =2.78E-1 kWh  1 Joule = 2.78E-7 kWh だから 

 U235の核分裂反応による熱量は 22796 kWh(thermal)/g = 8.2E10 W sec/g

U235の発電量

発電の熱効率を33%(軽水炉の発電効率と同等)とすると

 U235の核分裂反応による発電量は 7600 kWh(electric)/g = 2.7E10 W sec/g

天然ウラン中のU235の割合

 自然に存在するウランの内ウラン235は0.72パーセント = 0.72E-2

海水1リットル中のウランによる発電量

海水中ウラン濃度 x U235割合 x U235の発電量

3.3E-6 x 0.72E-2 x 7600 =0.00018 kWh/l = 0.18 Wh/l

この電力はウランを含む海水1リットルを何mの高さまで持ち上げる仕事量(位置のエネルギー)に相当するか?

1 Joule = 2.78E-4 Wh だから、0.18 Wh/l = 647.5 Joule/l

位置のエネルギーはmghだから 1 kg x 9.8 x h =647.5 kg m2/sec2 (Joule = Newton x m)

h = 647.5/9.8 = 66 m

海水ウランはそれを含む海水を66mの高さに持ち上げる仕事エネルギーを有する。

(含有するU235全量を軽水炉で核分裂・発電させた場合)

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この程度のエネルギー密度では、例えばウラン吸着のためにウランを含む海水をポンプで吸着剤の層を強制循環する程度で吸着したウランのエネルギーは全部消費されてしまいます。現在は、装置を海流中に固定して自然循環で長時間かけて吸着する方法が用いられています。

海水ウラン抽出には、海中設置の吸着剤への吸着の後、吸着剤の洗浄によるウランの溶離・化学処理・イオン交換などのプロセスが必要で、これらに要するエネルギーを考慮するとエネルギー収支はマイナスになる可能性が考えられます。

また、吸着剤の繰り返し使用による性能劣化に対する再生工程・交換、材料製造、設備の製造・設置・交換のためのエネルギーも必要になります。

要するに、海水ウランは理論上莫大な資源量を有するものの、含有濃度が極端に低く、回収に要するエネルギーと得られるエネルギーの比を見ると、エネルギー利得が著しく小さくなる懸念があり、エネルギー資源としての実用性は疑わしいと言わざるを得ません。

補足: 海水ウランのエネルギー投資収益率の評価

上に示すように、海水ウランの濃度は極めて低いため、その回収プロセスに必要なエネルギーが、回収したウランから得られるエネルギーを超えるおそれもあります。このため、海水ウランのエネルギー資源としての実用性を確認するためには、エネルギー投資収益率の評価をする必要があります。

エネルギー投資収益率EROI(Energy Return on Investment)とは、あるエネルギー資源を採取・生産するために投入したエネルギー量に対して、最終的にどれだけのエネルギーが得られたかを示す効率の指標です。

 EROI  = (得られたエネルギー量)/(そのために投入したエネルギー量) [%]

Seawateru_eroi_ch

既存研究の概要

主要な評価研究

最も引用されているのは、テキサス大学のSchneider & Lindner2013年、GLOBAL 2013発表)による研究です。ブレード型吸着材技術を用いた海水ウラン回収のEROIを試算しており、ウランをワンススルー燃料サイクルで使用した場合、EROI1227の範囲になると推定しています。吸着材1kgあたりのウラン回収量(g U/kg)や化学品使用量の経済性など、不確定パラメータへの感度が高いとされています。(出所

別の試算(ポリエチレン系ブレード吸着材を対象)では、日本沖での試験実績(吸着量2 g U/kg6回再利用・毎回5%劣化)を前提にすると、EROI22と推定されています。(出所

陸上採掘との比較

フランスCEAによるレビュー論文(EPJ Nuclear Sciences, 2016)では、海水ウランのEROI12程度としており、これは陸上採掘(約300)と比べて300分の1以下であると指摘しています。(出所

エネルギー消費の内訳

参照パフォーマンス水準(2.76 g U/kg吸着材)において、エネルギー消費の主な内訳は、吸着材製造に使用する化学品(63%)、係留システムのアンカーチェーン製造・運用(17%)、吸着材製造プロセス(12%)となっています。(出所

近年の研究動向

2024年に16報、2025年に20報と研究論文数は増加傾向にあり、材料科学的なアプローチ(MOF、電気化学的手法など)で吸着性能の向上が報告されています。ただし、これら新材料についてEROIを正面から論じた研究は限られており、材料の吸着容量改善が主眼となっています。(出所

EROIの「最低ライン」をめぐる議論

エネルギー資源のEROIについて、どのくらいの値以上が必要か、その最低ラインについては研究者によって見解が異なっています。

Hallらの初期見解:EROI 3程度

エネルギー資源として有力な燃料源とみなされるためには、EROIが少なくとも3:1以上必要とされています。これはHallSUNY)が提唱したもので、もともとの「経験則」です。 出所

Hallらの後年の修正:EROI 1214が必要

Hallは当初、現代文明を維持するにはEROI 3で十分と考えていましたが、数十年の研究の末、EROI 1214が必要との結論に至りました。出所

「豊かな社会」には2030が必要との議論

Lambert et al.2014)は、社会的EROI2030:1、一人あたりエネルギー消費100200 GJ、エネルギー指数0.20.4が「幸福の閾値」であると示しています。出所

10」という数字も使われる

10」が「実用可能性の世界的な閾値」として広く参照されていますが、社会的要因や地域差によって、社会機能を維持するのに必要な最低EROIは大きく異なり得るとされています。(出所

上のように、エネルギー資源として現代社会を支えるために必要なEROIの最低ラインについては研究者間で議論があり、3〜5(Hallの初期推計)から12〜14(Hallらの後年の修正値)、さらには社会的豊かさの観点から20〜30が必要とする研究もあります。

海水ウランのエネルギー投資収益率EROI の推定値12〜27は、上の議論の文脈では下限付近に位置しており、陸上採掘(約300)との差は歴然としています。

(2026.06.12)

追記1:海底の「ウラン団塊」の可能性

深海底にマンガン団塊(Manganese nodule)のような“ウランの塊”が生成・存在する可能性を調べてみました。結論は、「その可能性は極めて小さい」でした。理由は↓

  • 外洋の海水ではウランは主にU(VI)の炭酸錯体(例:Ca₂[UO₂(CO₃)₃])として安定に溶存しており、酸化的・高炭酸塩の条件下で“固相として沈殿”しにくいから。飽和溶解度で濃度が縛られているわけではありません(平均濃度≃3.3 µg/L)。1 2

  • マンガン団塊はMn/Fe酸化物が超低速度で沈殿・凝集した「吸着材」のようなもので、ウランはその表面に“微量(ppmレベル)”で取り込まれるだけです。典型値は数ppm(例:3–8 ppm程度)で、「ウランの塊」にはなりません。3

  • 逆にウランが固相に濃集しやすいのは還元的な堆積物中でU(VI)→U(IV)に還元される場面ですが、これは層状・分散的に固定されるのが普通で、大きな塊状結核を作るプロセスではありません。4 5 6

  • 例外的に“ウランをやや濃集させる”海洋固相としてはリン鉱石質の結核(海成燐灰石=リン酸塩結核)があり、数十~数百ppm程度までUが富むことがありますが、これも「ほぼウランから成る塊」ではなく、母相はリン酸塩です。7 8 9

Uranium_nodules_unlikely_en_4k_v2

要するに、深海の酸化的環境でウランそのもの(ウラニナイト等)の“大きな塊”が自然に成長する条件は整っていません。見つかる可能性があるのは、(1)マンガン団塊やFe-Mnクラスト中の“ppmレベルの吸着ウラン”、または(2)大陸棚~陸棚斜面の燐灰石結核や還元的堆積物中の“分散固定ウラン”であって、マンガン団塊のように「塊体としてウランが主成分」のものではありません。10 11

(2025.08.19)

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トランプ大統領、原子力産業の抜本的改革に向けた大統領令に署名

トランプ政権は、今後数十年にわたり大幅なエネルギー需要の増加が予測される中、国内での原子力発電導入を強化することを目的として、2025523日に4本の大統領令に署名した。これらの大統領令は、国家安全保障AI分野における競争力の鍵を握る原子力技術において、米国の主導権を取り戻すことを目指している。

ホワイトハウスでの署名式

大統領執務室で行われた署名式では、トランプ大統領が次のように述べた:

「原子力は今、熱い産業です。素晴らしい産業ですよ。でも、ちゃんとやらないといけない。今はとても安全で環境にも良いものになっている。」

Trumpsignswhitehouse

このイベントには、政府や業界の多数のリーダーが同席しており、内務長官ダグ・バーガム、国防長官ピート・ヘグセス、コンステレーション社CEOジョー・ドミンゲス、オクロ社CEOジェイク・デウィット、原子力エネルギー協会(NEICEOマリア・コルスニックらが出席した。

大統領令の概要

4本の命令は同日ホワイトハウスのウェブサイトに掲載された。それぞれの名称は以下の通り:

Whitehouse4exorders

  1. 原子力産業基盤の再活性化
  2. 国家安全保障のための先進型原子炉技術の配備
  3. 原子力規制委員会(NRC)の改革命令
  4. エネルギー省(DOE)における原子炉試験制度の改革

【1】大統領令「原子力産業基盤の再活性化」

「原子力産業基盤の再活性化」命令では、原子炉の認可手続きを加速し、国内の核燃料供給網を拡充することで、エネルギーの自立性と国家安全保障の強化を目指している。

この命令は、原子力発電能力の伸び悩みや外国製核燃料への依存を問題視し、今後25年間で原子力発電を4倍に増強する計画を提示。国内の核燃料サイクルの確立と先進炉技術の導入が不可欠であると強調している。

さらに、使用済み燃料の管理・リサイクル・再処理に関して、国内原子力企業との自主的な協定の締結を奨励しており、原子力発電の信頼性を確保しつつ、米国のエネルギー覇権を後押しする狙いがある。

また、熟練した原子力人材の育成も重視されており、教育プログラムや見習い制度の推進国立研究所の研究設備・知見へのアクセス拡大などを通じて、米国人の原子力産業への参画を後押しする内容が盛り込まれている。

【2】大統領令「国家安全保障のための先進原子炉技術の配備」

この命令では、III+世代の原子炉、小型モジュール炉(SMR)、マイクロ炉の迅速な導入が求められている。

具体的には、陸軍長官の主導で、2028年までに国内の軍事基地に原子力エネルギープログラムを確立することが指示されており、エネルギー省は技術面・規制面での支援を担う。

さらに、この命令では国際協力の強化も重視されており、国務長官に対して平和的原子力協力の新たな合意を締結し、米国製原子力技術の輸出促進を図るよう指示している。これは、米国企業を世界の主要パートナーとして位置づけ、技術的優位性と経済的安全保障を同時に強化する戦略と一致する。

【3】大統領令「原子力規制委員会(NRC)の改革」

「原子力規制委員会の改革命令」は、先進原子力技術の開発促進に向け、規制の壁を低くすることを目的としている。

これまでNRCは、審査が長期化・高コスト化することで、新型炉の導入を妨げているとの業界からの批判を受けてきた。一方で、「世界一厳格な原子力規制機関」としての評価もある。

今回の命令では、現行規制の包括的見直しと改訂を指示し、効率性と技術革新への対応力の向上を目指すとしている。トランプ氏は、米国の原子力発電容量を2050年までに100GWから400GWへ拡大する構想を掲げており、その実現には新技術の迅速な審査が不可欠である。

NRCは、組織構造や文化の改革も求められており、議会の方針に沿った柔軟性のある対応が期待されている。この命令は、安全性の維持と経済成長・エネルギー自立の両立を狙っている。

【4】大統領令「エネルギー省における原子炉試験制度の改革」

4本目の命令は、DOE傘下の国立研究所における原子炉試験制度を改革するもので、先進炉の審査・承認プロセスの迅速化を図っている。

中心となる施策は、国立研究所以外での原子炉建設・運用を可能にするパイロットプログラムの創設であり、20267月までの稼働を目指すとされている。

この命令は、米国の核技術革新における世界的なリーダーシップの回復と、外国技術への依存度の低下を目的としている。また、原子力がAIや水素製造などの重要産業を支える基盤エネルギーとなり得るという視点も示されている。

4本の大統領令の要点

米国のジャーナリストでエネルギー・気候変動・地政学を専門とするAlexander C. Kaufmanが、トランプ大統領が署名しホワイトハウスが発表した4本の大統領令を13要点にまとめています。        

  1. 米国の原子力発電能力を2050年までに4倍(100→400 GW)に増強

  NRCに対し、現在100GWの原子力容量を2050年までに400GWへ拡大するよう指示。これはバイデン政権の200GW目標を大きく上回る。

  1. 大型炉を少なくとも10基建設へ

  2020年代末までに完全設計された大型炉10基の建設を推進。最有力候補はAP1000型炉とされる。

  1. 核廃棄物の再処理と再利用の道を探る

  「産業基盤強化令」により、再処理の可能性調査を開始。過去の政治的経緯と国際的な懸念(核拡散)にも言及。

  1. NRCの人員削減と効率化

  政府効率省と協力し、NRCの再編に伴う人員削減を指示。ただし、新型炉審査部門など一部は増員の可能性も示唆。

  1. 放射線リスク評価モデル(LNTモデル)の見直し

  「線形しきい値なし(LNT)」モデルの見直しをNRCに指示。従来モデルに対する批判と論争も取り上げられている。

  1. 原子力サプライチェーンの強化に連邦資金を投入

  HALEU(高アッセイ低濃縮ウラン)など、先進炉用燃料の政府購入を通じ、製造業支援へ。

  1. 国立研究所以外での試験炉建設を認可へ

  DOEの支配下で、国立研究所の外部にも試験炉を建設できるようにする。

  1. 原発警備の軍事化緩和へ

  過剰な武装警備の見直しをNRCに指示。「信頼できるリスク」に応じた対応を求める。

  1. 米国製原子炉の海外輸出促進(新たに20か国を目標)

  「123協定」の新規締結を推進。ロシアのRosatomや中国の競合に対抗。

  1. 次世代炉の規制緩和へ

  第4世代炉(高温ガス炉など)を、研究炉や医療炉と同様に柔軟に扱う方針。

  1. 他省の審査実績をNRCが活用できるように

  DOEやDODが認可した設計を、NRCも迅速に承認できるような制度の導入を指示。

  1. 余剰プルトニウムの廃棄を中止し、燃料として活用へ

  廃棄計画を停止し、先進炉用燃料としての利用に道を開く。

  1. 閉鎖された原発の再稼働や建設再開を融資で支援

  DOE傘下の融資プログラム局(LPO)を活用し、休止炉の再稼働や新規建設を支援。ただし、同局の人員削減が進行中で、実現性は未知数。

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ダニエル・ヤーギンの論考「問題を抱えるエネルギー転換 ― 現実的な前進の道をどう見つけるか」

ダニエル・ヤーギンらによるエネルギー・トランジションに関する論考「問題を抱えるエネルギー転換 ― 現実的な前進の道をどう見つけるか
」が、Foreign Affairsの2025年3/4月号に掲載されています。ダニエル・ヤーギンはエネルギー経済と地政学の第一人者であり、『エネルギーのダボス会議』と称される『CERAWeek』の創設者です。

Daniel Yergin、Peter Orszag & Atul Arya
  "The Troubled Energy Transition: How to Find a Pragmatic Path Forward"
 「問題を抱えるエネルギー転換 ― 現実的な前進の道をどう見つけるか」
  Foreign Affairs, March/April 2025
    https://www.foreignaffairs.com/united-states/troubled-energy-transition-yergin-orszag-arya

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「問題を抱えるエネルギー転換 ― 現実的な前進の道をどう見つけるか」の要約

エネルギー転換の現実:理想と現実のギャップ

近年、風力・太陽光発電の導入が急速に進み、2024年には世界の電力の15%を占めるまでに成長しました。しかし同年、石油と石炭の消費量も過去最高を記録し、化石燃料の割合は1990年の85%から2024年でも約80%とほとんど変化していません。これは「エネルギー転換」というよりも「エネルギーの追加」に近い状況であり、再生可能エネルギーが従来のエネルギー源を置き換えるのではなく、上乗せされていることを示しています。

このような現状は、2050年までに「ネットゼロ排出」を達成するという目標から大きく逸脱しています。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに温室効果ガス排出量を2020年の33.9ギガトンから21.2ギガトンに削減する必要があると予測していますが、2023年には37.4ギガトンに増加しており、目標達成は極めて困難です。

複雑な要因と課題

エネルギー転換が期待通りに進まない要因は多岐にわたります。まず、必要な投資額が莫大であり、2030年までに年間4.5~4.7兆ドルの投資が主に途上国で必要とされています。また、気候目標は経済成長、エネルギー安全保障、地域の公害対策など他の目標と共存しており、これらのバランスを取ることが求められます。

さらに、地政学的な緊張の高まりも影響しています。ロシアのウクライナ侵攻はエネルギー供給のリスクを顕在化させ、多くの国が再び化石燃料の確保に注力するようになりました。また、再生可能エネルギーの拡大には大量の鉱物資源が必要であり、中国がこれらの資源の採掘と精製を支配していることが新たな制約となっています。

地域ごとの優先事項の違い

エネルギー転換の進展は地域によって大きく異なります。先進国では脱炭素化が重視される一方、途上国では経済成長や貧困削減が優先されます。例えば、マレーシアのアンワル首相は「移行の必要性は、生存の必要性とバランスを取らなければならない」と述べています。多くの途上国では、石油やガスが経済戦略の重要な要素であり、安価で安定した石炭の使用をやめることは容易ではありません。

現実的なアプローチの必要性

エネルギー転換は直線的ではなく、多次元的で地域ごとに異なる速度と技術の組み合わせで進行する必要があります。そのため、政策や投資の再考が求められています。また、炭素回収・貯留(CCS)、水素、地熱、大規模電力貯蔵、バイオ燃料などの新技術への投資も重要です。原子力エネルギーへの支持も再び高まっており、核分裂および核融合技術への官民の投資が増加しています。

このような現実を踏まえ、エネルギー転換は経済成長、エネルギー安全保障、そして現在エネルギーアクセスを持たない数十億人の人々への配慮を含む、より包括的なアプローチが必要です。

筆者コメント

この論考の一節(下記翻訳)で「必要なのは、今はまだ研究者の目にしか映っていないような新技術にも投資すること」と述べています。私は、3月に原子力学会で「炭素資源と原子力の協働プロセス -- 21世紀後半に向かうエネルギートランジションと原子力の方向」と題して、CO2フリー燃料の新しい製造プロセスについて発表しましたので、この部分が印象に残っています。

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エイブラハム・ダービーが約300年前に木材から石炭へと燃料を切り替えて以来、技術革新はエネルギー生産のあらゆる進化の中心的要素であり続けてきた。

太陽光発電や風力発電のコストが大幅に低下したのは、クリーンエネルギー技術への投資、研究・開発・導入が進んだ結果である。しかし、電力以外の最終用途に対応するためには、さらなる低排出・ゼロ排出の新技術が必要である。

アメリカでは、超党派インフラ法、CHIPS・科学法、およびインフレ削減法が、再生可能エネルギーの成長、電気自動車の普及、そして炭素回収・貯留(CCS)、水素、大規模電力貯蔵といった技術を商業的に成立させるためのエネルギー技術革新を加速させることを目的としている。

しかし、これらの政策がトランプ政権の下でどの程度縮小され、再構成されるかを見極めるには、まだ時期尚早である。

今日注目すべきことは、既存および次世代の原子力技術がエネルギートランジション戦略と電力の信頼性確保のために不可欠な存在として再評価されている点である。それは、原子核分裂および核融合技術に対する官民の投資が増加していることに反映されている。

だが、同時に必要なのは、今はまだ研究者の目にしか映っていないような新技術にも投資することである。
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将来のエネルギー・トランジションにおける水素の現実的な役割 -- Nature誌のレビュー記事

NatureのReviews / Clean technology 2025年4月22日号にPerspective“Realistic roles for hydrogen in the future energy transition”「将来のエネルギー・トランジションにおける水素の現実的な役割」が掲載されています。

Title_20250507155601

主著者はImperial College LondonのNathan Johnson、それにエネルギーに関する論客のMichael Liebreich、気候エネルギー政策の専門家UC-BerkleyのDanniel Kammenなどが加わって、全部で6名、引用文献291件、全21ページの大作です。

“Realistic roles for hydrogen in the future energy transition”
     Nathan Johnson, Michael Liebreich, Daniel M. Kammen, Paul Ekins, Russell McKenna & Iain Staffel
閲覧・ダウンロード↓
     https://www.nature.com/articles/s44359-025-00050-4

論文内容は、多くの評価・データに基づく的確な検討など充実しており、引用文献も多く、参考になるレビュー論文と思いましたので、下記項目により紹介します。

  1. "Abstract"(要旨)の和訳
  2. ”Key Points”(キーポイント)の和訳
  3. 図の抜粋
  4. "Summary and future perspectives"(まとめと将来展望)の和訳
  5. 全体の要約

1."Abstract"(要旨)の和訳

水素は50年間にわたって革新的な燃料として推進されてきたが、その使用は石油精製と肥料製造に限定されている。水素が地球規模の脱炭素化を推進するためには、多くの障壁を克服する必要がある。本稿では、水素の生産から利用に至るまでの課題を検討し、その環境的および経済的な評価、論争点、不確実性を分析する。企業や政府が「クリーン水素」の現状および将来的な競争力を評価するためのエビデンスを提供する。

燃料電池車や家庭用暖房といった用途は、直接電化による代替手段の急速な進展により、最も有望性が低い応用分野である。一方で、水素は産業用途、長期間のエネルギー貯蔵、長距離輸送といった分野で可能性を有しているが、その競争力は、広範な導入によって大幅なコスト削減が実現されることに依存している。

現時点での水素製造コストの推定値は最大で5倍ものばらつきがあり、輸送・貯蔵コストを加味すれば、2030年の目標達成は困難であると考えられる。また、水電解やメタン改質(CCS付き)による水素製造は、全体システムや上流段階での温室効果ガス排出を増加させる可能性があり、加えて水資源の枯渇や有機汚染の問題もある。今後の研究は、こうした不確実性の解消に向けて取り組むべきであり、競争力のある優先分野に戦略的に水素を展開することが求められる。

2.”Key Points”(キーポイント)の和訳

・水素は多用途に使用可能な柔軟性を持つが、クリーン水素の導入は、直接電化などの代替手段と比較して、コストおよび持続可能性の観点で最も効果が見込まれる分野に戦略的に限定して行うべきである。

・システム的障壁を克服するためには、供給・需要・インフラが同時に発展する必要がある。しかし、水素の物理的特性――低エネルギー密度、可燃性、漏洩性、金属脆化性――は、あらゆる段階においてコスト、安全性、社会的受容性の課題をもたらす。

・数十年にわたり、クリーン水素経済の予測は「スケール拡大によるコスト削減」に依存してきた。しかし実際には、製造コストはエンジニアリングとエネルギー入力に大きく依存しており、加えて輸送、貯蔵、利用にかかるコストもある。これらは、太陽光発電や蓄電池のように急激なコスト低下を示す可能性は低い。

・クリーン水素が脱炭素化の目標に貢献するためには、サプライチェーン全体を通じて低排出でなければならない。システムレベルでの評価では、クリーン水素製造に伴う上流段階や副次的な温室効果ガス排出、さらには広範な環境影響が問題として浮上している。持続可能なクリーン水素の実現には、複数の前提条件が満たされる必要がある。

・短期的には、再生可能電力は水素製造に回すよりも、発電・暖房・輸送などに直接使用する方が温室効果ガスの削減効果が高い。長期的には、水素が余剰再エネ電力の電力系統への統合を通じて、その導入を促進する役割を果たす可能性がある。

・低炭素水素は、既存用途(石油化学や肥料など、世界のCO?排出の約2%に相当)の脱炭素化に不可欠である。また、鉄鋼、重量物輸送、長期貯蔵など、他の選択肢が極めて高コストとなる用途でも重要である。水素戦略は、これらの分野を優先的に支援することで、最大の効果を発揮すべきである。

3.図の抜粋

現在の水素製造・用途

Presneth2data

b. 現在の水素生産量は年1億トン(100 Mt)弱で、主に原料用途に使用されているが、エネルギー量にすると世界の最終エネルギーの3%程度。
c. 現在の製造の原料は主に天然ガスと石炭、それに化学プロセスの副生水素。クリーン水素は1%程度。
d. 用途は石油精製、アンモニアの製造原料、メタノール製造原料など。

水素の導入予測の変化

Production2

左側の線に示されるように2000年頃までの水素の導入予測には大きな期待が示されていた。
右側の最近の予測でも相当大きな値もあるが、平均的には2050年に300Mt程度で現在の生産量(100 Mt弱、生産の実績は点線)の3倍程度。

水素製造のコスト

Cost2

現在のクリーン水素プロジェクトにおけるコストは黒●。英国・日本・米国の目標コストは青色の線なので、プロジェクトでのコストと目標コストには大きな差がある。

水素の輸送に伴うCO2排出量の増加

Transporco2

船舶による輸送(上)では水素液化の転換プロセスのエネルギーが大きい。パイプラインによる輸送(下)では配管敷設などが大きく、距離に比例して増加。

4."Summary and future perspectives"(まとめと将来展望)の和訳

このレビューの重要な限界のひとつは、水素とその代替手段をアプリケーションごとに明確に比較することの難しさである。水素技術は、開発段階が大きく異なるさまざまな用途にわたって検討されており、必ずしもすべての用途に低炭素の競合手段が存在するわけではない。このような比較は、データの不足、不確実性、対象範囲やシステム境界の設定の難しさなどにより、複雑さを増している。また、コストが高くても、時間、地域、ステークホルダーによって重要性が異なる他の利点によって補われる可能性がある。我々は水素の用途を現時点での代替手段と比較しながら位置づけたが、経済的および環境的影響において多様な選択肢を定量的にマッピングするための研究領域は、今後さらに掘り下げるべき豊富なテーマである。

現在入手可能な証拠に基づけば、クリーン水素の支援は、石油精製や肥料製造といった回避困難な用途(これらは世界のCO₂排出の2%を占める)を優先すべきである。また、製鉄、長距離の重量輸送、長期エネルギー貯蔵といった競争力のある分野への支援も重要である。クリーン水素の大規模な製造と導入を実現するためには、コストおよび排出強度の低下が不可欠である。水素の物理的特性は、輸送および貯蔵インフラの技術的課題とコスト増大を引き起こす。さまざまな安全かつ効率的な水素貯蔵媒体が開発されており、地質貯蔵は長期エネルギー貯蔵に有望な選択肢として浮上しているが、低コストの大規模水素輸送技術はまだ確立されていない。天然ガスパイプラインの再利用により輸送コストを削減することは可能だが、技術的・経済的・安全上の課題が依然として大きい。現在のコストや技術仕様の多くは理論的なものであり、水素ネットワークを大規模に展開するためには、基礎的な化学や材料科学のブレークスルー長期的なコミットメントが必要である。

水素製造のエネルギー消費を大幅に削減する技術的改善は、熱力学的制約によって限界がある。ただし、廃熱を利用できる場合には固体酸化物電解セル(SOEC)など新しい技術が高い効率を実現する可能性を示している。水素製造における気候影響、特に機器製造に伴うサプライチェーン上の排出や漏洩については、どの生産経路を優先すべきかを明らかにするために、より明確な評価が求められる。これは、メタン漏洩の地理的変動や、水素生産が電力系統の脱炭素化に与える影響をより深く理解することを意味する。これらの要因は、今後のクリーン水素プロジェクトの排出認証に含めるべきである。他の環境影響についても未解明の点が多い。資源使用量の削減には、触媒技術や材料科学の進展が必要であり、さらにPFAS(有機フッ素化合物)による汚染も、新たな懸念として浮上しており、今後の研究が求められている。

水素への支援が断続的であったために、これまでに中止・頓挫したプロジェクトも存在するが、過去の失敗が水素の将来的役割を否定するものではない。将来の水素供給量やコストに対する不確実性が大きいため、用途ごとの優先順位付けは難しい。我々は、クリーン水素が安価かつ利用地点で豊富である場合に限って、多用途での使用が可能になると考えるが、それを実現するのは非常に困難である。むしろ短期的には水素の供給が限られる可能性が高いため、代替のない脱炭素手段が存在しない分野に絞って使用すべきである。サプライチェーンの発展が鍵を握っており、供給・需要・インフラが同時に拡大しなければ、ボトルネックが発生し、市場や調達・納入にリスクをもたらす。投資家や開発者にとってのリスクを低減するには、**導入の明確な目標と、それを支える政策手段(市場確約や差額契約など)**が必要である。政策と産業界の両方が、迅速なスケールアップとコスト削減を優先し、水素が明確な利点を提供する領域にのみ導入を進めるべきである。

将来的な研究は、ここで示されたフレームワークと既存の研究を基礎にして、水素の用途ごとの競争力をより正確に定量評価する方向で進むべきである。水素およびその代替技術の性質をより適切に特徴づけることで、モデルにおける技術表現が向上し、エネルギーシステムの脱炭素化を最適化する能力が高まる。また、クリーン水素のバリューチェーン全体にわたるコストと排出を明確に把握することで、各用途における限界的排出削減コストを文脈ごとに推定することが可能となる。これはクリーン水素と他の低炭素技術を比較する際の中核的な指標となるが、意思決定においては、公共の受容性、サービスの質、公平性など、技術以外の要素も考慮すべきである

クリーン水素の生産規模は拡大しつつあり、用途の優先順位付けも進んでいる。しかし、根本的な不確実性は依然として残る1975年、DellBridgerは「水素に関する国際的な計画」の必要性を提唱し、そこでは「水素の製造・輸送・利用に関する技術的・工学的問題、既存産業への影響、新たな水素産業の立ち上げにおける課題、そして何よりも資本要件と財政的影響」が論じられていた。これらの問いは、今日においても極めて重要なままである。

水素のバリューチェーンのあらゆる段階には大きな障壁が存在し、代替のクリーン技術の方がより安価かつ利便性が高い場合も多い。水素はエネルギーシステムにおいて無数の役割を果たす可能性があるが、我々は、水素が他の低炭素技術と比べて明確な気候的・経済的メリットをもたらす用途にこそ、研究と投資を集中させるべきだと考える。たとえば、クリーン製鉄や低排出輸送のような技術中立的な政策設計を採用し、水素が最も競争力ある脱炭素手段となると見込まれる分野においてのみ、水素を優先的に支援すべきである

5.全体の要約

水素に託された希望と現実

21世紀における脱炭素社会の構築において、水素(H?)は多くの戦略的議論の中心に位置づけられてきた。エネルギーキャリアとしての水素には、再生可能エネルギーの不安定性を補完する能力、重工業や輸送分野における脱炭素手段、さらには系統調整機能としてのポテンシャルが期待されている。しかし、その導入には経済性、供給網、エネルギー効率、技術成熟度といった側面で数々の課題が存在する。このレビュー論文は、水素の導入が現実的に意味を持つ領域を明示し、逆に過度な期待を排し、戦略的に絞り込むことの重要性を強調している。

水素の用途分類 ― どこで使うのが現実的か

水素利用の適正分野は、以下の三つの軸で分析されている:
① 既存で水素を使用している分野(アンモニア製造など)
② 化石代替が困難な分野(高温熱、鉄鋼製造、長距離トラック・航空機)
③ 低炭素のために非効率でも導入が容認される分野(長期季節的エネルギー貯蔵など)

特に、産業部門では、グリーン水素による製鉄(DRIプロセス)や化学品合成の脱炭素化において重要な役割を果たす可能性が高い。輸送分野では、乗用車よりも、燃料密度が求められる航空・船舶・長距離輸送での利用が現実的であるとされる。対して、電気自動車やヒートポンプで代替可能な分野での水素の導入は費用対効果に乏しい。

水素の製造手段とその制約

将来の水素の製造手段には、主に次の2つがある。
・化石燃料由来(天然ガスの水蒸気改質)CCS付き 「ブルー水素」
・再エネ電力による水電解 「グリーン水素」
現時点でのグリーン水素のコストは高く、一般的には4?8ドル/kg程度とされている。

ブルー水素については、CO?回収率や供給チェーン全体での漏洩(メタン等)が問題となる。また、CCSの展開規模には限界がある。グリーン水素の普及には、再エネ価格の低下・電解装置の効率向上・系統連携の高度化が前提条件であり、今後10?20年の技術革新とインフラ整備が不可欠である。

水素の貯蔵・輸送とインフラ課題

水素の物理的特性(極低密度・漏洩しやすさ・金属脆化性など)により、貯蔵および輸送は他エネルギーキャリアと比して高コストかつ困難である。高圧ガス、液体水素、アンモニアやLOHCなどの化学キャリアに変換する手法はあるが、それぞれ効率・設備・回収プロセスに課題を抱える。

特に国際輸送では、液体水素輸送船やアンモニア転換技術に加え、受け取り側での再転換プロセスも含めて整備が必要となる。また、パイプライン敷設のための社会的合意や安全基準もボトルネックとなり得る。

持続可能性とシステム効率の視点

電気から水素、再び電気へという形の「Power-to-Gas-to-Power(P2G2P)」変換では、全体効率が3割を下回ることもある。よって、効率優先の視点からは、可能な限り直接電化を優先すべきである。

水素利用が正当化されるのは、「電化困難」かつ「CO?排出削減の代替手段が乏しい」場合に限る。再エネ電力の利用可能性と一致しない水素戦略は、むしろ社会全体の脱炭素化に逆行する可能性もある。

経済性と市場導入の見通し

水素の社会導入にかかるインフラ投資や補助金の規模は膨大である。仮に世界全体で水素を脱炭素化に広く活用する場合、年数兆ドル単位のインフラ整備と技術開発が必要になる。

しかし、用途を「コスト効率の高い分野」に絞れば、持続可能性と経済性のバランスがとれる。脱炭素化コスト($/t-CO?削減)での水素の位置づけを他手段(電化、バイオ燃料、CCSなど)と比較した上で、限定的導入が現実的である。

水素を「選択的に」活用する戦略へ

水素はエネルギートランジションにおける万能解ではない。むしろその導入には高コスト・低効率・複雑なインフラ要件が伴う。したがって、「水素がなければ脱炭素化できない分野」に焦点を当てて戦略的に活用すべきである。

特に、産業用高温熱、航空・海運、季節的貯蔵といった領域において、水素は他手段に比して現実的な役割を担う可能性がある。これに対して、乗用車や住宅用熱供給など電化可能な分野への水素導入は避けるべきである。技術的な可能性と社会的実装のリアリティを見極め、水素利用を「賢く限定する」ことが、実効性ある脱炭素化の鍵となる。

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炭素資源と原子力の協働プロセス -- 21世紀後半に向かうエネルギートランジションと原子力の方向

2025年3月13日に日本原子力学会・2025年春の年会において「炭素資源と原子力の協働プロセス -- 21世紀後半に向かうエネルギートランジションと原子力の方向」[2A01] の演題で発表を行った。


[要旨]

 エネルギー利用によるCO2排出を実質ゼロにするためには、電力は原子力と再生可能エネルギー(主に変動再エネと水力)に依存し、非電力エネルギーはバイオマスなどの炭素資源を利用したクリーン燃料に依存することが必要になる。

 本研究では、バイオマスと原子力熱を用いた協働プロセスにより生成される炭化水素燃料について、今世紀後半における世界的な供給可能性を評価した。また、このプロセスに炭化反応を組み込み、バイオチャーを生成して大気中のCO2を除去する効果についても検討を行った。

 これらの結果から、今世紀後半に向かうエネルギートランジションにおいて、原子力は単なる電力供給手段にとどまらず、炭素資源と原子力の協働プロセスを通じて、燃料供給やネガティブエミッションの実現においても重要な役割を果たし得ることを示した。

The Synergistic Process of Carbon Resources and Nuclear Energy -- Shaping the Role of Nuclear Energy in the Energy Transition Toward the Late 21st Century   

To achieve net-zero CO2 emissions from energy use, electricity must rely on nuclear power and renewable energy sources (mainly, variable renewable energies and hydropower), while non-electric energy needs must be met by clean fuels derived from carbon resources such as biomass..

 This study evaluates the global supply potential of hydrocarbon fuels produced through the synergistic process using biomass and nuclear heat in the late 21st century. Additionally, it examines the integration of a carbonization process into this system to produce biochar, thereby removing CO2 from the atmosphere.

 Based on these findings, in the energy transition toward the late 21st century, nuclear energy is expected to play a significant role not only in electricity generation but also in fuel production and achieving negative emissions through the synergistic process.

[予稿]

炭素資源と原子力の協働プロセス

21世紀後半に向かうエネルギートランジションと原子力の方向

The Synergistic Process of Carbon Resources and Nuclear Energy -- Shaping the Role of Nuclear Energy in the Energy Transition Toward the Late 21st Century

堀 雅夫1

1原子力システム研究懇話会

今世紀後半に向かう地球環境保全のためのエネルギートランジションにおいて、バイオマスなどの炭素資源と原子力熱を用いた協働プロセスによる炭化水素燃料の供給可能性を評価した。これにより、原子力が燃料供給やバイオ炭生成による負排出を通じて、発電以外にも重要な役割を果たし得ることを示した。

キーワード:炭素資源,バイオマス、原子力熱利用,協働プロセス,炭化水素燃料,バイオ炭,負排出

1.炭素資源・原子力協働プロセスの利点

水蒸気ガス化反応に必要な熱を原子力から供給することにより、バイオマス量を3割以上節減できる。

   Sgr_equation

2.世界へ適用した場合の炭素量/熱量収支と得られる炭化水素燃料量の試算

Aesj2025figures3

図のプロセスで、生成するバイオ炭(バイオマスの2割を使用)は地球規模の炭素循環から除外されるので負排出(CO2除去)が可能になる。

想定するバイオマス量の8割を使用して生成する炭化水素燃料量はIAEのNZEシナリオの2050年・世界の燃料供給量の値に近い。

なお、この原子力加熱方式には、850℃程度の高温を供給可能な原子炉(第4世代原子力システムの「VHTR 超高温炉」、JAEAのHTTR)の使用が望ましい。

3.21世紀後半における[バイオマス・原子力]燃料供給の可能性

上のケースの計算で想定したバイオマス使用量は国際機関による2050年賦存量の範囲内にあり、この熱供給と発電を合わせた原子力必要量は高速炉・燃料リサイクル方式の適時導入による供給可能量の範囲内にあるので、本方式による燃料供給はエネルギー資源的に可能と考える。

参考文献

[1] 堀 雅夫「原子力と化石燃料による協働的エネルギー転換プロセス」日本原子力学会誌, Vol.49, No.52007

[2] Hori, M., “Nuclear carbonization and gasification of biomass for effective removal of atmospheric CO2, Progress in Nuclear Energy 53 (7), 1022-1026  (2011)  この論文のダウンロード - horipne11.07nuclearcarbonization.pdf

[3] 堀 雅夫「カーボンネガティブ・エネルギーシステムAmazon Kindle B083G1278K (2020) この書籍の原本(原子力システム研究懇話会発行コメンタリーシリーズ No.S-2)のダウンロード

発表パワーポイント↓

ダウンロード - hori_aesj_nenkai_25.03_f.pdf

口頭発表原稿↓

ダウンロード - e58fa3e9a0ade799bae8a1a8e58e9fe7a8bf.pdf

関連講演資料(24.03.18 NSA談話会)
「将来エネルギーシステムのコンセプト -- バイオマスと原子力による燃料供給と炭素循環制」パワーポイント・ダウンロード 概要報告・ダウンロード

追記:21世紀後半における日本のエネルギー自給の可能性

上記発表では、世界全体を対象に、バイオマスと原子力の協働プロセスによる炭化水素燃料の供給と、大気中CO₂除去の可能性を論じました。バイオマス由来燃料の製造プロセスで必要となる熱を原子力から供給できれば、必要バイオマス量を概ね3割程度削減できる可能性があります。

この考え方を日本に適用すると、国内で得られるバイオマスに原子力熱を組み合わせることで、輸入化石燃料への依存を下げて炭化水素燃料を国内で賄う道が見えてきます。さらに、電力は原子力・再エネを中心に供給し、燃料は「バイオマス+原子力熱」による合成燃料で補う、という組み合わせにより、将来のエネルギー自給の可能性が出てきます。

参考までに、IEA “World Energy Balance”に基づく日本の2023年の最終エネルギー消費は、

 電力の最終エネルギー消費:3,165,121 TJ

 非電力(燃料)の最終エネルギー消費:6,222,205 TJ

 最終エネルギー消費合計:9,387,326 TJ

であり、最終エネルギーの電力化率は

 電力化率 = 3,165,121 / 9,387,326 = 33.72%

となります。

現状では非電力(燃料)が約2/3を占めるため、国内バイオマス資源だけで賄える燃料は原子力熱を利用しても必要量の20%以下にとどまります。

そこで将来の日本において、電力化を進めて燃料需要を削減した場合に、国内バイオマス資源と原子力熱を組み合わせた合成燃料によってエネルギー自給が成立し得るかを別項↓で定量的に検討しました。

 「電力化による燃料消費の削減 -- 21世紀後半に向かう日本のエネルギー転換
  http://hori.way-nifty.com/synthesist/2025/07/post-cf7002.html

これは、2075年をマイルストーンとして、想定する電力化率と必要燃料量、ならびにバイオマス賦存量とのバランスを分析したものです。電力化と燃料削減を通じたエネルギー自給の可能性を探る試みです。

日本のエネルギー自給の全体像(NotebookLMによるコンセプト動画)↓
日本の2075年エネルギー設計図」 

(2025.07.25)

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