研究開発

地球温暖化が進行中、気温記録更新の衝撃的グラフ

「地球温暖化が進行中で気温の記録を更新」というニュースがよく流れています。このことは、1850年以降の地球の温度変化を示した下の二つの図から一目瞭然です。しかも、今年(2016年3月まで)の温度が飛び抜けて高いことが判ります。やはり、このような定量的に示した図を見ないとピンと来ないですね。

この二つの図の作成者は、英国のReading大学の気象科学者でIPCCの第5次評価報告書の執筆者であるEd Hawkinsです。

"Global temperature changes since 1850"(出所
Fixed201611024x658

"Spiralling global temperatures"(出所
Spiral20162

上のスパイラルの図の加速度的温度上昇がさらに良く判る動画は、ここをクリックすると出てきます。

2016年4月の海と陸の温度も、NASA GISSによる下図のように記録更新中です。(出所
Cibmeljxiaacvzjpg_large

このような温暖化による異常気象が心配されます。これを避けるには、エネルギー・環境における革新的技術が必要ですね。

| | コメント (0)

Carbon-Negative Energy System -- Sustainable World Energy Supply and Global Environment Restoration Using Renewable and Nuclear Energies --

CnesestitleIn 2011, I published my work on "Nuclear Carbonization and Gasification of Biomass for Effective Removal of Atmospheric CO2" in the Elsevier journal “Progress in Nuclear Energy”.

Recently, I have worked to integrate the CO2 removal task for global environment restoration and the sustainable world energy supply into a nuclear-renewable hybrid "carbon-negative energy system”, and published the following report in June 2015 in Japan;

Masao Hori
"Carbon-Negative Energy System -- Sustainable World Energy Supply and Global Environment Restoration Using Renewable and Nuclear Energies --"
NSA/COMMENTARIES-S No.2, June 2015, Nuclear Systems Association
(85-page Japanese text, ISBN978-4-88911-310-5)

As the report is written in Japanese, I uploaded the Executive Summary in English here for reference. This content was also presented at “The 20th National Symposium on Power and Energy Systems” sponsored by JSME in June 2015 in Sendai, Japan.
(The executive summary can be downloaded from "http://www.ne.jp/asahi/mh/u/HoriCNES_ES.pdf")

Carbonenergybalance2Summarizing the report roughly;


♦ Investigated is a nuclear-renewable hybrid, carbon-negative energy system which supplies energy sustainably to the world and sequestering carbon from the global carbon cycle to control atmospheric CO2 concentration.

♦ Judging from the current global warming trend, it is considered necessary to deploy and operate such a system around middle of 21st century.

♦ In the conceptual system presented, carbon will be effectively removed from the global carbon cycle by the biomass-nuclear synergistic process to produce biochar and biofuel.

♦ Typically, with this carbon-negative energy system in Year 2065, primary energy is supplied by renewable and nuclear energies without fossil fuels, 75% of primary energy is used for generating electricity, 25% of primary energy is used for production of hydrocarbon fuels, and 1.1~4.5 GtonC of carbon is sequestered as biochar from the global carbon cycle.

♦ Amount of biomass processed is within the estimated range of bioenergy potential by several investigators, and amount of nuclear energy supplied is less than the maximum nuclear supply capability by an FBR-Plutonium recycling scheme.

♦ The task of removing CO2 and supplying fuel is a gigantic international public-works project, and it would evolve into creating new big environment/energy businesses.

The report “CARBON-NEGATIVE ENERGY SYSTEM” (Text in Japanese. 85 pages) was published in June 2015 by Nuclear Systems Association, Japan. Instruction for free download of this Japanese report will be auto-replied to email sent to "hori@syskon.jp" with “CNESPDFfile” in the subject.

The Executive Summary of this book was selected by Google Geoengineering Group in its "Review of the Year 2015 in Climate Geoengineering Research and Discussion" which ensembles selected research papers, review articles, editorials, discussion papers, and some influential newspaper articles, a compilation to get to the most important papers that are broadly discussed or bring new insights. (2016.01.10)

| | コメント (0)

21世紀中葉までに「カーボンネ ガティブ・エネルギー システム」を構築・運用へ

化石燃料をフェーズアウト、再生可能エネルギーと原子力によって地球環境の回復と持続的エネルギー供給を行う『カーボンネ ガティブ・エネルギー システム』を21世紀中葉までに構築・運用する、このようなビジョンを本にまとめました。

題名: 「再生可能エネルギーと原子力による 『カーボン ネガティブ・エネルギー システム』 地球環境の回復と持続的エネルギー供給」
《NSA コメンタリー別冊シリーズNO.2》
著者: 堀 雅夫
発行: 原子力システム研究懇話会2015.6.16発行
B5版 本文76頁 ISBN978-4-88911-310-5

Horicnescover【内容紹介】

地球温暖化対策として大気中からCO2を除去する方法の一つに、バイオマスから炭(すみ)をつくる方法がある。炭は地上に放置しても数百~数千年間安定なので地球規模の炭素循環の外と考えられる。

原子力を利用してバイオマスからバイオ炭をつくり貯留・利用し、残りの炭素成分からバイオ燃料をつくり化石燃料の代替をすれば、大気中CO2の除去とクリーン燃料の供給が行える。すなわち、エネルギーを供給しながら、ネガティブ・エミッション(負排出)ができる。

このプロセスは原子力なしでも可能であるが、原子力利用によってバイオマス処理量に対する炭素除去効果を格段に向上できる。地球上のバイオマス成長による炭素吸収量は現在の世界のエネルギー消費によるCO2排出量より約一桁大きいので、このプロセスを使用すればバイオマス成長量の1割程度を処理すれば大気中CO2を減少に向けることができる。

現在の地球温暖化の進行状態から、世界が必要とするエネルギーを持続的に供給しつつ大気中からCO2を除去することが可能な「地球環境保全と世界エネルギー供給を統合したシステム」の構築・運用は喫緊の課題と考える。本書は、再生可能エネルギーと原子力による「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」の21世紀中葉におけるイメージとビジョンを提示している。

このコメンタリー「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」は、地球環境の改善のために、化石燃料をフェーズアウトして、原子力・太陽光・風力・バイオマスなどのエネルギーを総動員して、大気中CO2の除去と世界のエネルギー供給を統合的に行う原子力-再生可能ハイブリッド・エネルギーシステムのコンセプトを提示したもの。

【ジオエンジニアリング分野の重要資料に選定】

この「再生可能エネルギーと原子力による -- カーボンネガティブ・エネルギーシステム -- 地球環境の回復と持続的エネルギー供給」の英文要約(第1章の英訳、10ページ)が、ジオエンジニアリング分野の世界の重要資料の1つに選ばれた。

ジオエンジニアリング(気候工学)とは大気中CO2の除去などにより地球環境の改善を図る技術で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や気候変動枠組条約締約国会議(COP)での温暖化の評価や対策に関連して最近非常に多くの研究/発表が行われている。

世界の気候工学の関係者がGoogle社のメール同報配信システムを利用して情報交換や討論など活発な技術交流を行っている。このグループ(Google Geoengineering Group)が、2015年1年間に広く議論されたり新しい知見を提示した重要資料(研究報告、レビュー記事、論説、討論資料、影響力のある新聞記事など)約60件のリストを年末に発表した。その1つに「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」の英文要約が選ばれた。(参考記事

【入手方法】

1. 書籍(白黒印刷) 頒価 1,080円(税込み、送料別)
2. PDFファイル(カラー) 無料ダウンロード

ここに入手方法の案内があります。

| | コメント (0)

地球規模炭素管理のための大気中CO2の除去 -- ネガティブ・エミッション技術 -- ジオエンジニアリング

温暖化の「緩和」から気候の「改善・復元」へ

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書では、気候システムの温暖化については疑う余地がなく、人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可能性が極めて高いことなどが記述されている。

このような気温上昇に対して、その主因であるCO2などの温室効果ガスの排出を削減する「緩和策」と、緩和策が功を奏しても一定の気候変動による影響は避けられないので、その影響に対して予見的に対策をとる「適応策」が進められている。

緩和策には大気中のCO2増加を抑制する二酸化炭素回収・貯蔵 (CCS)などがあるが、緩和策をさらに進めて既に大気中に出ているCO2を除去して適切な濃度まで減少させる方策、あるいは濃度低下による温室効果減少と同様の効果をもたらす他の方策の提案・研究が行われている。

1srmandcdr
このように積極的に地球気候を改善・復元する技術は「ジオエンジニアリング」(Geoengineering)、「気候工学」(参考文献1)などと呼ばれている。これらの技術は「CO2除去」(Carbon Dioxide Removal、CDRと略記)と「太陽放射管理」(Solar Radiation Management、SRMと略記)に大別される。(図1) CDRはCO2を除去するので「マイナスの排出」の意味で「ネガティブ・エミッション技術」(Negative Emission Technologies、略してNET)とも呼ばれている。

技術開発・評価の取り組み

気候工学の研究には各国政府や科学財団などが資金的に支援している。民間でも英国のVirginグループ創設者のRichard Bransonやマイクロソフト社創設者のBill Gatesの財団などが資金的な支援を行っている。この中でもVirginグループによる「Earth Challenge」は大気中のCO2を除去する実用技術の実証に対し2500万ドル(25億円)の賞金を提供するコンペを2007年に開始して注目された。

気候工学技術については、欧米を中心に多種多様な研究・開発が進められているが、この技術の効果・影響に利害関係を有する地域・国・産業などが広範なため、単に科学技術的課題の解決のみならず、社会的・倫理的・経済的・政治的・国際的な多岐にわたる課題の克服が必要と考えられている。とくに気候工学技術の実証・実施においては国際的な合意が必要な場合が多いと考えられ、適切な統治(Governance)メカニズムを確立する必要がある。そのために気候工学に関する国際的な会合では科学技術的な情報交流のほかに、上にあげた広範な課題についても意見交換が行われている。

7netconfそのような国際会合の一つ、2013年9月に英国で開催された「ネガティブ・エミッション技術に関するオックスフォード会議」(Oxford Conference on Negative Emission Technologies)に参加する機会を得た。

9aqueenscollegeyard8meeting

この会議の議題は、CO2除去技術のレビュー、政策化の準備、新技術への社会の反応、研究のネットワーク化、エネルギー・環境への影響、研究優先度・技術評価のクライテリアなど。各国から招かれた専門家約100人が参加し、17世紀に建造された由緒ある大学構内で2泊3日5食の合宿・会食で討論を行った。

私は2007年からバイオマスと原子力を用いたCO2除去技術について研究し、国内外のバイオマス(参考文献2)や原子力(参考文献3)の学会で発表してきたのでこのオックスフォード会議に招かれたようだが、主催者の話では日本から招待したのは私一人とのことであった。

この会議では、成層圏へのエアロゾル散布などの太陽放射管理技術は、速効性や低コストが期待される一方で地球環境に対する意図しない影響が心配されており、対象外となっていた。

なお、会議の進行はChatham House Ruleで行われた。これは「参加者はこの会議で得た情報は自由に公開しても良いが、話した人などの所属・名前は公開しない」というルールで、公開性、情報共有、自由な討論を目指したもの。

以下、この会議で得た情報も含めて大気中CO2の除去技術について紹介し、地球規模のエネルギー・環境への対応について私見を述べる。

炭素循環と大気中CO2の除去技術

2globalcarboncycle図2に地球規模の炭素循環を示す。自然の状態では光合成に伴うCO2吸収と、呼吸およびバイオマス分解によるCO2放出が均衡して大気中CO2濃度は安定している。化石燃料燃焼による人為起源CO2排出の約半分が大気中に残るため大気中のCO2濃度が上昇してきた。

森林などの植生にはバイオマス成長(約60 GtonC/年、GtonCは炭素量にして10億トンの単位)の10年分の炭素があり、土壌中には20年分以上の炭素が存在する。これらの有機炭素は分解してCO2を放出し定常状態では成長量とバランスする。

海洋は大気より2桁大きい炭素を貯留し、大気との間で大量のCO2を交換し、現在は約2 GtonC/年のCO2吸収になっている。そのため海洋の酸性化が進んでいる。

なお、地中の永久凍土の中には土壌中より大量の炭素が閉じ込められており、もしこれが気温上昇により融解すると分解してCO2を発生しポジティブ・フィードバックで大量のCO2が炭素循環に加わることが心配されている。

この地球規模の炭素循環メカニズムから、現在研究されている下記のCO2除去方法が見えてくる。

① 大気中からCO2を回収・貯蔵
 ・大気中からCO2を直接回収
 ・自然の吸収作用(風化)を加速(陸上)

② バイオマス中の炭素分をCまたはCO2として回収・貯蔵
 ・バイオマス発電とCCSの組合せ
 ・バイオマスから炭(バイオ炭と呼ぶ)生成と発電/燃料製造

③ 海洋の炭素吸収を促進する
 ・自然の吸収作用(風化)を加速(海洋)
 ・海洋の肥沃化による吸収の促進

英国王立協会(参考文献4)は2009年にそれまでに提案された気候工学技術を評価して、主な技術について表1のように効果・経済性・適時性・安全性の観点から評点を付けている。

3evaluation_2表にはIPCCで緩和策に分類されている「発生源でのCO2のCCS」と「植林」が参考として示してある。また、この表にはCO2除去(CDR)技術5方法のほかに太陽放射管理(SRM)技術5方法も掲載してあり、各方法の特徴・得失を理解する参考となる。

前述のVirgin Earth Challengeでは応募で集まった千件以上の提案を選考して、現在最終候補11件まで絞っている。その内訳を見ると、大気中CO2直接回収5件、バイオ炭3件、バイオ発電+CCS、加速風化、総合生態系各1件となっている。
 
今後各種の気候工学技術の研究・開発・実証が進むに従ってより的確な評価が可能になっていくと考える。
 
バイオマスと原子力を利用する方法
 
4biomassnuclear_2筆者が提案している大気中CO2除去方法は図3に示すように、バイオマスを炭化してバイオ炭を生成するプロセスとこの時に発生する約半量の炭素分を含む揮発成分を水蒸気ガス化反応を経てバイオ燃料に転換するプロセスから構成されている。

バイオ炭は空気中に置いても数百年から数千年安定なので地球規模の炭素循環から除外でき、一方バイオ燃料は化石燃料を代替できるので、この両方の効果を合わせて大気中CO2を収率良く除去できることになる。
 
このようなプロセスはバイオマスのみでも可能であるが、プロセスに必要なエネルギーを原子力から供給することにより、処理するバイオマス量に対する炭素除去量を60%程度向上させることができる。

エネルギーの必要性と供給可能性
 
大気中のCO2を直接回収する方法は空気中の濃度400ppm (0.04%)の希薄なCO2を地球規模で回収・分離を行うには大量のエネルギーを必要とする。

一方、バイオマスを利用してCO2を除去する方法は、バイオマスそのものがエネルギーを有しているので、外部からのエネルギー供給なしでもCO2除去は可能である。

バイオマス処理に原子力を利用するCO2除去の方法は、地球規模で行うには大量のエネルギーを必要とする。

5energycdr_2上記CO2直接回収法とバイオマス原子力法が必要とするエネルギー量の概算値を表2に示す。

表2には1GtonCのCO2除去に必要な熱エネルギー量(単位はGtonOE、石油換算10億トン)と年1GtonCのCO2除去率に必要なエネルギーを原子力から供給する場合のプラント基数(電気出力120万kW、設備利用率85%)を示してある。
 
現在のCO2排出率は全世界で約8GtonC/年だが、将来緩和策によって低下するCO2排出率のもとCO2濃度を低下させるに必要な大気中CO2除去率を6GtonC/年と仮定すると、表2の「大気中CO2直接回収」 と「バイオ炭+液体バイオ燃料」のプロセスのエネルギー必要量は約1.5 ~ 2.1 GtonOE/年と計算される。6nucsupplycapacity

原子力による電力需要および非電力需要へのエネルギー供給可能量(表3)から、適切な増殖性能の高速炉・燃料サイクルを2030年~2050年に導入開始することにより、21世紀後半には大気中CO2除去に必要なエネルギーを原子力から供給することは可能と考える。

エネルギーと環境を統合した方策

地球気候の改善・復元には、エネルギーと環境を統合した次のような方策により進めるのが効果的と考えている。

 ▼ 電力供給を化石燃料から原子力および再生可能エネルギーに転換し、非電力エネルギー供給を化石燃料ベースからバイオマスベースに転換していく。

 ▼ 非電力のエネルギー供給に現在一次エネルギーの70%程度が消費されているが、運輸用エネルギーの電動化などにより非電力エネルギーが消費する割合を50%以下にしていく。

 ▼ この非電力エネルギー需要に対して、バイオマス原子力法による大気中CO2除去プロセスで生成するバイオ燃料を供給する。

 ▼ バイオマス原子力法により大量のバイオ炭が生成するので、現在の工業用途以外に農業・林業(土壌改良材)、建設業(黒鉛構造材)などへ炭素・黒鉛材料の用途を拡げる。

 ▼ バイオ炭・バイオ燃料生成用のバイオマスは、農業残渣、森林廃材、植林の成長分、藻類などのエネルギー植物から確保する。

 ▼ 発電とバイオマス処理に必要な原子力エネルギーの供給確保のために、適切な増殖性能を有する高速炉・燃料サイクルシステムを適時に導入する。

 ▼ この地球規模の事業の円滑な推進のため、炭素プライシングによるCO2排出者からCO2除去者への資金流通の国際的枠組みを確立する。

地球規模の大規模な作業

大気中のCO2をバイオマスの炭化によって回収・安定化することは、「古生代にバイオマスが地熱で炭化して生成した石炭などの化石燃料を人類が燃焼してCO2を排出してきたこと」に対する「復元」の作業である。

これまでの人為起源CO2排出は地球規模のものなので、これに対する復元作業は当然地球規模のものになり、これまでに観測・評価されている気候変動の進行状況から、CO2除去の作業はここ数十年内に実施すべきものと考える。

【参考文献】

1. 杉山昌広 「気候工学入門」 日刊工業新聞社(2011)
2. 堀 雅夫 「バイオマスの原子力炭化・ガス化による大気中炭酸ガスの削減」 木質炭化学会・第5回研究発表会 (2007年5月)
3. Masao Hori, “Nuclear Carbonization and Gasification of Biomass for Effective Removal of Atmospheric CO2” Progress in Nuclear Energy, Vol.53, 1022-1026 (2011)
4. The Royal Society Working Group (Chair; John Shepherd), “Geoengineering the Climate: Science, Governance and Uncertainty” The Royal Society (September, 2009)

注: 
◉ 本稿は筆者所属の研究機関のニュースに掲載したものを編集。
◉ ネガティブ・エミッション技術オックスフォード会議における筆者の「配布資料」「ポスター」(何れも英文)はダウンロード可能。

追記:

2015年6月、このバイオマスと原子力を使用する大気中CO2除去・燃料供給方法に基づく『カーボンネ ガティブ・エネルギー システム』おまとめて本にしました。↓

「21世紀中葉までに『カーボンネ ガティブ・エネルギー システム』を構築・運用へ」

これは、化石燃料をフェーズアウト、再生可能エネルギーと原子力によって地球環境の回復と持続的エネルギー供給を行うシステムを21世紀中葉までに構築・運用する、このようなビジョンをできるだけ定量的に説明したものです。
(2015.06.19)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

バイオマス・原子力協働プロセスによる大気中炭酸ガスの削減

私は2007年頃から「バイオマス・原子力協働プロセスによる大気中炭酸ガスの削減」について研究を行っており、その結果を木質炭化学会米国原子力学会革新的原子力技術国際会議日本原子力学会などに発表してきました。

Horiessaynucleachar
「エネルギーレビュー」誌の2012年12月号に掲載した上記 「原子力で炭焼き」 と題する随筆はこのコンセプトの趣旨を書いたもので、技術的内容については下記のペーパーに英文で説明してあります。(興味のある方にはPDFファイルをメール添付でお送りします。)

Hori, M., “Nuclear Carbonization and Gasification of Biomass for Effective Removal of Atmospheric CO2”, Progress in Nuclear Energy (Published by Elsevier) Volume 53 Issue 7, p.1022-1026 (September, 2011)

このコンセプトの日本語での説明を以下に示します。これは日本原子力学会「2012年春の年会」(福井大学文京キャンパス 2012年3月21日)で発表した予稿を編集したものです。


Globalcarboncyclejバイオマス・原子力協働プロセスの地球規模炭素循環における効果

バイオマス・原子力協働プロセスを用いて、植生・土壌中のバイオマスなどの有機炭素を固体炭素化および燃料化することによる地球規模炭素循環への効果と、このプロセスに必要な原子力供給量とその供給可能性を示す。

1.大気中炭素の削減
 地球温暖化を抑制するために人為起源CO2の排出削減策が国際的に進められている。
 最近の研究では、大気中炭素量の2倍以上の炭素を含む永久凍土の[大気温度上昇→融解→CO2放出]の正フィードバックによる温暖化の加速的進行が示されており、大気中炭素量の削減は喫緊の課題となっている。

2.バイオマス・原子力協働プロセス
 本プロセス(下図)は、原子力熱を利用して、植生・土壌中のバイオマスを炭化する反応とその際発生する気化物を水蒸気ガス化する反応から構成される。
 炭化プロセスで生成する安定固体炭素の材料利用・貯留と、ガス化プロセスで生成する合成ガスの燃料化による化石燃料代替の両方の効果によって、地球規模炭素循環における大気中への炭素放出量の削減が可能になる。
 プロセスに必要なエネルギーを原子力から供給することは、炭素の転換率を最大にする効果がある。

Nuclearbiomassprocessj3.炭素循環への効果と必要原子力供給量
 参考ケースとして光合成による炭素固定量の1/10(年6Gton炭素)を本プロセスで処理する場合、年2.7Gtonの炭素を安定固体として循環から除き、年2.2Gtonの合成燃料を化石燃料代替することができるので、大気中炭素量は長期的に減少していく。
 この場合の必要原子力供給量は石油換算年1.7Gtonで、プルトニウムのリサイクル利用を適時導入すれば世界エネルギー会議・Bケースの発電に加えて本プロセスへの原子力供給は可能となる。
 なお、大量の炭素・黒鉛材料が製造されるので、現在の工業用以外に農林業(Biochar)・建設業(黒鉛構造材)などへ用途が拡がる。

4.地球環境復元の作業
 ①大気中炭素をバイオマスの炭化によって安定化することは、古生代にバイオマスが地熱で炭化して生成した石炭などの化石燃料を、人類が燃焼してCO2を排出してきたことに対する「復元」の作業である。これまでの人為起源CO2排出は地球規模のものなので、これに対する復元作業は当然、地球規模の大規模なものになる。
 ②処理するバイオマスには、森林などの木質(植生、土壌)のほか、栽培エネルギー植物(陸上、海中)や融解永久凍土などもある。
 ③実際に処理する規模は、地球温暖化の深刻度、実施中のCO2の排出抑制策の効果、生態系への影響などを評価して判断することになる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向

Renewableh2societyエネルギーキャリアーとして電気とともに水素を利用する「水素社会」は来るか? 水素のエネルギー利用について、需要・供給・利用の可能性・課題を展望・整理し、今後の方向について見解をまとめた。(左図は、「水素社会」のイメージの例)


1. 水素エネルギーの位置づけと利用の方向

Energyconversionapplication

エネルギーの利用においては、化学、熱、光、位置、運動などのいろいろな形態の一次エネルギーを、精製、化学反応、発電などの転換プロセスを経て、利用に便利なエネルギーキャリアーにして、これを利用プロセスに供給している。(右の表) 現在は、化石燃料から製造する「炭化水素」類と、各種一次エネルギーからつくられる「電気」が主要なエネルギーキャリアー(エネルギーを運ぶ媒体)である。

1次エネルギーのうち発電に使われている割合(電力化率)は、BP統計(2013年)によると日本やフランスでは52%、OECD加盟国では44%、世界全体では41%となっている。将来、地球環境とエネルギー供給を両立させるために電力化率を70~80%以上まで上げると想定して、残りの非電力エネルギーをどのようなエネルギーキャリアーによって運ぶのが良いかを考察してみる。

エネルギーキャリアーとして電気とともに水素を利用する「水素社会」については;

 ・エネルギーの脱炭素化を達成し、低炭素社会へ移行するには、エネルギーキャリアーとしての水素をCO2排出を抑制しつつ製造・使用していく「水素社会」の実現が必要との考えがある。

 ・水素社会によって達成し得ることに、エネルギー利用端での排出が水のみというクリーン性、燃料電池による動力への変換の高効率性、などがある。これと同じ目的のことが、例えば高密度・軽量の電池などの電力貯蔵方法が開発されたら、殆ど電気のみをエネルギーキャリアーとして使用する「電化社会」によって、達成することができる。

 ・さらに、水素エネルギーの実用化までに、製造・輸送・貯蔵・利用の各段階で多くの技術改良が必要であり、このような対抗技術の可能性と水素実用化までの障壁から、水素社会の実現に懐疑的な見方もある。

Hydrogensociety1

 ・左表に示すように、現在の社会はエネルギーキャリアーとして電力+化石燃料製品(ガソリン、軽油、灯油、都市ガス、など)を主に使用している「化石燃料社会」であるが、将来は;

1. 電力+水素を主に使う「水素社会」(電力+水素から'Hydricity'という造語もある)になるか?

2. 殆ど電気のみを使う「オール電化社会」になるか?

はたまた

3. 電力+合成燃料を主に使う「合成燃料社会」になるか?この場合の「合成燃料」とは取扱いの便利な液体燃料で、将来はCO2排出をゼロまたはマイナスにできるバイオマスから製造するバイオ燃料が考えられる。

あるいは、さらに異なったエネルギー社会になるかは、地球環境からの必要度とエネルギー技術の今後の進展・ブレークスルーに懸かっている。

今、「水素社会は来るか」と問われれば、「水素社会」の定義を左の表のように社会が使用するエネルギーキャリアーとして現在の「電力+化石燃料製品」に代わって「電力+水素」を主に使用する社会とするならば、「水素社会は来ない」と答える。

では、どのようなエネルギーを使用する社会になるか? 21世紀の半ば以降を考えると、エネルギーキャリアーとして定置用には電力を主に使用し、移動用には陸上は充電電力+炭化水素燃料(主に液体)、航空は水素(液体)を使用し、これらの電力、炭化水素、水素などの二次エネルギーを生産(発電、製造などのエネルギー転換)する一次エネルギーとしてはバイオマス・太陽光・風力・原子力などを使用することになると考える。この将来エネルギーシステムについては別項で扱うことにして、このブログのテーマである水素エネルギーについて以下考察する。

2. 「水素エネルギー利用」には二つの方法

トヨタの水素燃料電池自動車「Mirai」の発表に相前後して2014年に発行された

 ・ 経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会「水素・燃料電池戦略ロードマップ~水素社会の実現に向けた取組の加速~」(2014年6月) ダウンロード

 ・ 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「水素エネルギー白書」(2014年7月) ダウンロード

などの政府関係資料においても従前と同様に、下に定義する「単体水素充填貯蔵利用」と「製造水素直接利用」の二つの方法の両方を「水素エネルギー利用」として扱っている。それ故、以下、水素のエネルギー目的の利用をこの二つの方法に分けて両方のケースについて考える。

単体水素充填貯蔵利用
 単体水素を燃料電池自動車などに充填・貯蔵し利用するケース。充填する場所以外で水素製造する場合(オフサイト型)は充填場所までの単体水素の配送が必要、 充填する場所で水素を製造する場合(オンサイト型)は充填する場所までの天然ガスなどの化石燃料の配送または電力の送配電が必要。

製造水素直接利用
 天然ガスなどの化石燃料を配送して、目的の場所で改質反応などで水素を製造し、製造した水素を直ちにその場で燃料電池などに供給して利用するケース。利用する場所までの天然ガスなどの化石燃料の配送が必要。

これらの水素のエネルギー利用の可能性については、一般に次のように理解されている。

① 単体水素充填貯蔵利用

 (1) 水素を燃料とする固体高分子型燃料電池(PEFC)を動力源とする自動車の開発が進展しており、2015年頃には他の次世代自動車と性能的に競合可能なレベルのものが市販される。水素供給インフラは国・地方自治体などの補助により整備される。

 (2) 水素の入手が容易な場所においては、燃料電池利用の屋内フォークリフトや非常用電源など、水素の特性を活用した利用が進む。

② 製造水素直接利用

 (1) 天然ガス(都市ガス)、LPG、灯油などの化石燃料をエネルギー源として製造する水素による燃料電池は、家庭用、ビル用、地域用として導入される。

 (2) 固体酸化物型燃料電池(SOFC)技術の進展次第では、大型の自動車用として天然ガスなどの内部改質による利用が可能となる。

Airplanes_2水素の航空機燃料としての利用可能性

水素エネルギーキャリアーの航空機燃料としての利用は、航空機の排ガス影響などの地球環境的・国際的情勢で決まるタイミングで現実化する可能性があると考える。

 ・航空機の排出ガスによる温暖化影響は全排出の数%程度であるが、航空輸送量は増大傾向にあり、その環境影響に対する懸念が出てきている。そのため、航空機のエネルギー効率の改善努力が進められる一方で、水素の航空燃料としての利用可能性が欧州共同体・エアバスによって「Cryoplane」プロジェクトなどで検討されてきた。

 ・液体水素は航空燃料のケロシンに比べて同じ重量で熱量が約2.8倍と大きく、離陸重量を減らし最大積載量を大きくできる。しかし燃料搭載のスペースを設けたり、その他構造的には相当な変更が必要なためその実用化には早くても15~20年かかるとしている。水素の燃焼で排出するH2Oも温暖化ガスだが、CO2に比べて滞留する時間が格段に短く、その他の効果も含めてケロシンから水素燃料に変えることは環境上のメリットが大きい。

 ・水素の航空機燃料としての利用目的がCO2排出削減にあるので、水素の製造はCO2を排出しない再生可能エネルギーおよび原子力による方法になると考える。

 ・筆者の作成したエネルギー・環境ビジョン「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」では、大型航空機の燃料として水素を全面的に使用することにしている。


3. エネルギー目的の水素の供給

エネルギー目的の水素の供給について展望する。

3.1 原料と製造方法
 ・水素は電力と同様に、各種の一次エネルギーを原料として製造することができる。(左図の出所: http://images.thetruthaboutcars.com)

Hydrogeneu ・短期的には副生水素、短期~中期的には化石燃料(天然ガス、石炭)水素、長期的には再生可能エネルギー(含バイオマス)水素、原子力水素が利用される。水の電気分解による水素は、各種一次エネルギーによる電力を用いて短期的~長期的に利用される。

 ・水素製造には、副生、水蒸気改質、部分酸化、電気分解、光合成、発酵などの方法が状況に応じて用いられる。

 ・集中型製造(オフサイト型)には、水蒸気改質(天然ガス)と水蒸気ガス化(石炭)、部分酸化などが主に用いられる。分散型製造(オンサイト型)には、小型水蒸気改質(都市ガス)と電気分解(各種一次エネルギー発電)が主に用いられる。光分解などの自然エネルギー利用は、将来小規模に用いられる可能性がある。

3.2 貯蔵方法
 ・貯蔵方法としては、ガス(高圧~常圧)、液体水素、有機ハイドライド、吸蔵金属、カーボンナノチューブなどが研究開発されている。

 ・吸蔵貯蔵技術にブレークスルーがない限り、水素燃料電池車のような小型の移動体の車上貯蔵は高圧ガス貯蔵に、船や航空機のような大型の移動体における貯蔵は液体水素になると考える。

 ・有機ハイドライドによる車上貯蔵も考えられるが、自動車の場合はタンク+脱水素機器が70MPa圧縮法より嵩張るのでメリットは少ないが、船や電車のような大きな移動体ならば可能性はある。(有機ハイドライドの得失については次項参照)。

 ・貯蔵媒体ではないが、水素を成分とするアンモニアのエネルギーキャリアーとしての利用は、アンモニアの電気分解合成と直接燃料電池が実用的になると、可能性が出てくる。

3.3 輸送方法
・輸送方法としては、タンカー・コンテナ船、トレーラー・タンクローリー、トラック、パイプラインなどが検討されている。

 ・オフサイト水素製造の場合は、利用の密度・規模により、タンクローリー配送あるいはパイプライン配送が選択される。海外からの水素の移送利用はタンカー・コンテナ船によることになる。液体水素、有機ハイドライド法など、それぞれ問題点があり、海外から水素の長距離輸送が実用的に成立するか疑問である。

Toluenebs有機ハイドライド法の得失

 ・有機ハイドライド法として最近提案されている「トルエン ⇔ メチルシクロヘキサン(MCH)」のサイクルによる水素化反応と脱水素反応を組み合わせた水素貯蔵は、体積貯蔵密度および質量貯蔵密度の両方で2010年DOE目標をほぼ達成している。

 ・有機ハイドライド法の問題点は、例えば上記トルエン⇔MCHの場合、脱水素反応時に 205kJ/mol の吸熱(水素化反応時には同じく205kJ/molの発熱)をすることで、水素を取り出すときに温度200~300℃の熱供給が必要なことである。この大きさは、水素の発熱量が240kJ/mol(LHV)で、1molのMCHに3molのH2が取り込まれるので、脱水素反応に水素発熱量の28%が必要で、水素燃料電池車のエネルギー効率(Well-to-Tank効率)を下げることになる。

 ・水素化時の発熱の有効利用が可能で脱水素時の吸熱に何らかの余剰熱が利用できる条件があればエネルギー効率低下の問題は軽減されるが、水素を固体高分子型燃料電池で利用する場合などは脱水素とともに水素精製が必要であることなど、実用利用に際しては課題がある。


4. 今後の水素エネルギー利用の方向

水素エネルギーに関して、その特性やこれまでの技術進展から将来の可能性を推測すると、次のようになる。

 ①エネルギー転換・利用の個別のプロセスで中で使用する水素量は増加する。例えば、天然ガスや灯油を燃料とする定置型燃料電池、あるいは天然ガスなどを燃料とする移動用燃料電池のように、水素がプロセス内で発生し直ぐに発電に消費されるような「製造水素直接利用」のケースは増える。

 ②増加する水素需要の中では、産業の上流側での合成燃料原料や製鉄還元材としての水素需要が大きく、この供給には将来、世界的には再生可能エネルギー起源の水素および原子力をエネルギー源とする水素(1)が利用される。

 ③しかし、単体水素をパイプラインやタンクローリーなどにより供給するオフサイト型あるいは単体水素を充填する場所で製造するオンサイト型による「単体水素充填貯蔵利用」は、ガソリンや灯油などの炭化水素燃料に比べると取扱技術上の難しさがあり、コストが高く利便性が低い。今後この単体水素利用を本格化するには、配送・充填・貯蔵などの水素供給インフラの技術・コストにおける相当なブレークスルーが必要である。

 ④一方、水素エネルギー利用の目的である環境・エネルギー上の効果(ベネフィット)を定量的に分析し、効果を把握しておく必要がある。燃料電池自動車に関して水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)が行ったCO2排出量とエネルギー使用量の他の次世代自動車との比較(報告書)はこの効果分析の例である。

  この比較から、「エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る」なる

 ⑤エネルギー利用の選択に際しては効果の比較や代替技術の有無などから判断することになるが、「単体水素充填貯蔵利用」はこのような水素利用が有利な或いは必須な限られた地域・場所・施設・機種において採用されることになる。

以上から、今後の水素エネルギー利用は次のように進むと考える。

「単体水素充填貯蔵利用」
 ・「単体水素がエネルギーキャリアーとして整備されたインフラを通じて大規模に流通・利用される」状況になるためには、水素の供給インフラ整備や貯蔵など技術・コスト上の課題を解決する必要がある。それ故、水素燃料電池自動車は、水素配送インフラが整備された限られた地域で導入される程度と考える。一方、水素利用の効果が大きい航空機動力、閉空間動力(フォークリフト)、独立電源(非常用電源)などの用途では単体水素充填貯蔵利用が進むと考える。

「製造水素直接利用」
 ・メタン(天然ガス、都市ガス)、プロパン・ブタン(LPG)、ガソリン・灯油・軽油などの炭化水素(現在は石油などの化石燃料起源)をエネルギー源とする定置用燃料電池利用(PEFC/SOFCなど、効率的には内部改質のSOFCが有利)は、上記の水素配送・貯蔵の問題がないので、家庭用、ビル用、地域用として導入が進むと考える。この際、発生する余剰電力を電力系統へ逆潮流させ合理的価格での売電を可能にすれば、電気・熱エネルギー利用の合理的・効率的運用が可能になる。

 ・これら炭化水素を燃料とする燃料電池は、今後移動用燃料電池としての利用が可能になる。ガソリンSOFCのような液体燃料の燃料電池が実用化すると、既存のガソリン配送インフラを利用できる上、コンパクトで効率的な電源であるため自動車での利が可能性になる。

 ・定置用および移動用として導入される燃料電池に使用される炭化水素燃料は、将来バイオマスを原料として原子力または太陽・風力などのCO2排出ゼロのエネルギーから合成される。

要するに、「炭化水素燃料を配送し生成する水素を直接その場で燃料電池で利用する」ような「製造水素直接利用」のケースは増加していくが、「単体水素を(配送・)充填・貯蔵して利用する」ような「単体水素充填貯蔵利用」のケースは効果の大きい用途に限定される。

水素エネルギー利用の主流となる「製造水素直接利用」は燃料電池による高効率エネルギー利用が特長であるが、都市ガス(天然ガス)・LPG・灯油などを使用するので水素利用とは言え化石燃料製品利用である。将来これらの化石燃料製品をバイオマス原料のカーボン・ニュートラルさらにカーボン・ネガティブの合成燃料に変えて脱炭素・高効率のエネルギー利用にしていくことになる。

以上まとめると「将来の社会が使用する二次エネルギー(エネルギーキャリアー)は、電力が主でこれに合成燃料と単体水素が加わって構成され、これらの二次エネルギーは再生可能エネルギーおよび原子力から生産(発電・製造などのエネルギー転換)される」となる。

Books将来展望の参考になる資料

 ・水素の特性や水素のエネルギー利用の究極的目的から、「水素のエネルギー利用が好機であるか」、「各種一次エネルギーからの水素生産・利用のコスト・障害・技術開発必要性はどのくらいか」、などを冷徹に評価した上で、利用方策を策定することが肝要と考える。水素エネルギー一般に関するビジョンでは、米国のNational Research Council による「The Hydrogen Economy: Opportunities, Costs, Barriers, and R&D Needs」報告書(英文、The National Academies Press発行、2004年)が参考になる。

 ・長期的には、水素生産の一次エネルギーは、再生可能エネルギーや原子力に頼らざるを得ない。原子力水素に関しては、水素エネルギー協会の機関誌「水素エネルギーシステム」(Vol.33, No.1, 2008)掲載の「原子力と水素」、原子力水素研究会の「原子力による水素エネルギー」(原子力システム研究懇話会発行、2002年)とエネルギー高度利用研究会の「原子力による運輸用エネルギー」(原子力システム研究懇話会発行、2007年)、国際原子力学会協議会の「Nuclear Production of Hydrogen: Technologies and Perspectives for Global Deployment」(英文、American Nuclear Society発行、2004年。PDFファイルのダウンロード可能)などがある。


(2013年7月13日および2015年1月11日改訂編集)

関連ブログ:
「低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?」
「自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社」
「燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

成長に向けての原子力戦略として重要と考えられる事項

原子力委員会が「成長に向けての原子力戦略の検討にあたっての意見」を募集していましたので、次のような意見を提出しました。(2010年3月8日)

概要:20002100primaryenergy
エネルギー利用の過半を占める非電力利用への原子力の貢献について検討し、必要な研究・開発・実証を推進することは重要。(一次エネルギーの発電に使用されている割合は、日本約40%、世界約30%。残りは非電力利用)

[図は、日本原子力学会誌 07年5月号 (Vol.49, No.5, 2007)掲載の解説から]

意見:
◎ エネルギーキャリアーの中で、電気は最も便利であり、今後もその割合は増加し、一次エネルギーベースの電力化率にして50%~60%程度まで増大すると考えられます。この電力供給において、原子力の役割は現状よりもさらに増大していくべきことは当然ですが、残りの約半分を占める非電力エネルギー利用にも原子力は貢献すべきと考えています。
◎ 非電力のエネルギーキャリアーとしては、現在は化石燃料製品(ガソリン、灯油、都市ガスなど)が用いられていますが、資源および地球環境の制約から、今後は脱石油/脱化石燃料ベースの合成燃料(バイオ燃料を含む)や水素への転換が必要となってきます。
◎ 非電力エネルギーキャリアーとしては、液体燃料が最も便利なために炭素・水素からなる合成燃料が本命ですが、気体燃料の水素を利用する可能性もあります。
◎ 原子力による水素製造では、水を分解する各種のプロセスが研究されており、課題は大量供給時のコストです。原子力水素は、エネルギーキャリアーとしての利用よりも、例えば鉄鉱石の還元など産業の上流側における原料としての利用が多くなると考えられます。
◎ 炭化水素系の合成燃料製造では、炭素源として石炭やバイオマスを使用する場合、原子力による水素/熱を利用すれば、原料使用量と製造時CO2排出を抑えることができます。(原子力水素を利用すれば、CO2を炭素源とした合成燃料製造も技術的には可能)
◎ 要は、「今後想定されるエネルギー資源・環境などの条件から、原子力の非電力利用について検討・整理をして、必要な研究開発を推進していく」ことだと思います。

参考: 
① 堀 雅夫 「原子力による水素で新しいエネルギー社会に」 エネルギーレビュー 2009年5月号
② Masao Hori, "Synergistic energy conversion processes using nuclear energy and fossil fuels", International Journal of Nuclear Governance, Economy and Ecology, Vol. 2, No. 4, pp362-374 (2009) 解説・原稿

| | コメント (0) | トラックバック (0)

原子力による水素で新しいエネルギー社会に

Enerev0905coverエネルギーレビュ」誌が、2009年5月号で「電力の新時代―低炭素社会の実現に向けて―」の特集を組むことになり、同誌の編集長から「原子力による水素を利用して、新しいエネルギー社会づくりを目指す、夢のある技術」について書いて欲しいとの話が2月頃にあった。

丁度、2009年4月中旬にOECD/NEAと米国アルゴンヌ国立研究所が共催する第4回原子力水素生産情報交換会議がシカゴ郊外で開催されることになり、そこでの招待講演の原稿を作っていた時だったので、同じ趣旨で日本語のペーパーをまとめることにした。

ここ数年、原子力と化石燃料/バイオマスの両方を使用した協働的(Synergistic)プロセスを研究してきたので、これまで個々に発表した各種原子力利用プロセスの中で原子力水素に関わるものをまとめて解説することにした。

Table3ns現在考えられている原子力水素・熱の各種利用分野・用途(右表)の中で、取り上げたのは次の4技術である。

運輸部門: 炭素資源+原子力による合成燃料製造
鉄鋼部門: 原子力による炭素循環製鉄
発電部門: 炭素資源+原子力による協働的発電
環境回復: 原子力によるバイオマス炭化・燃料化による炭素固定とエネルギー利用

何れも、未だアイディアあるいは基礎検討段階であるが、実用化されれば将来の環境・エネルギー対策に大きな効果が期待できると考えている。

エネルギーレビュー誌掲載「原子力による水素で新しいエネルギー社会に」の原稿はここ、第4回原子力水素生産情報交換会議講演"Application of nuclear produced hydrogen for energy and industrial use"の原稿はここ、に置いてあります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

協働的エネルギー転換プロセス = 原子力は化石燃料・バイオマスに熱を供給、高効率エネルギー転換、炭素資源ノーブルユース

私は、ここ数年、原子力と化石燃料またはバイオマスの両方を使用して、発電、水素製造、合成燃料製造などのエネルギー転換を行わせる方法について、研究・調査を行っています。同じテーマについて、以前、このブログで日本原子力学会誌に掲載した解説の紹介をしましたが、以下、やや詳しく説明をします。

Synergisticfiguretable1一次エネルギーを転換
一次エネルギーの化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)、原子力再生可能エネルギー(太陽、バイオマス、風力、水力など)は、通常左図に示すように、より使いやすいエネルギー形態の電気、ガソリン・灯油・軽油・都市ガスなどの「エネルギーキャリアー」(エネルギーを運ぶ媒体のこと、二次エネルギー~最終エネルギーとも呼ばれる)に転換されて、エネルギー利用に供されている。

エネルギーキャリアーには水素や合成燃料も
現在のエネルギーキャリアーは、石油や天然ガスなどの化石燃料から製造されるガソリン・灯油・軽油や都市ガスなどの「炭化水素」と、化石燃料・原子力・水力により発電される「電気」が主であるが、将来は石炭や天然ガスの液化による「合成燃料」やバイオマスから製造される「バイオ燃料」、あるいは各種一次エネルギーから製造される「水素」もエネルギーキャリアーとして重要になってくると見られている。

Synergisticfiguretable2これまでの個別的方法
一次エネルギーからエネルギーキャリアーへの転換には、これまで、個々の一次エネルギーを単独に使用する「個別的」方法が用いられてきた。化石燃料と原子力を夫々、炭化水素、電気、水素に転換する代表的なプロセス例を右図に示す。この中で黒字で示すものは、既に実用段階のもの、青字は研究・開発段階のものである。

Synergisticfiguretable3協働的方法とは
これに対して、原子力と化石燃料またはバイオマス(再生可能エネルギー)の両方を使用してエネルギー転換を行わせる方法を「協働的」プロセスと呼んで、そのメリット、可能性などを調べてきた。左図では、協働的プロセスの中で原子力が絡む組み合わせ6通りを示している。原子力と化石燃料/バイオマスの両方を夫々の特長を生かして使用する協働的プロセスを創出することによって、高い効率で炭化水素、水素、電気などのエネルギー・キャリアーに転換できる可能性がある。

原子力熱を化石燃料・バイオマスへ供給
原子力をエネルギー目的に使用する場合、利用可能なエネルギー形態は実際的には熱のみである。熱エネルギーをタービン発電機や熱化学分解法によって電気や水素に転換する場合、熱力学的サイクルを経るために、高熱源と低熱源の温度で決まる効率の制限を受ける。協働的プロセスの狙いは、発電、水素製造、合成燃料製造プロセスにおいて、熱を必要とする化学反応に原子力熱を供給し、これを反応生成物の化学エネルギーに転換し、その後のプロセスで有効に利用していこうと言うものである。原子力熱供給がなければこれらの熱は化石燃料の燃焼などにより供給されるものなので、その分の化石燃料の節減に資する

Ijngee_scoverijngee_2
期待される効果
化石燃料やバイオマスと原子力の協働によるエネルギー転換プロセスにより、次の効果が期待できる。
◎ 化石燃料やバイオマスの燃焼不要によるこれら炭素資源の使用量の節減とCO2排出量の削減、炭素資源のノーブル・ユースの増進
◎ 化石燃料/バイオマスと原子力の両方を高効率で利用するので両資源の節約
◎ 高効率の資源利用と安価な原子力熱コストによる経済性。

Horiijngeepage1s_2具体的なプロセスなど詳しくは、下記のペーパーを参照されたい。

① Masao Hori, "Synergy of Fossil Fuels and Nuclear Energy for the Energy Future", OECD/NEA Third Information Exchange Meeting on the Nuclear Production of Hydrogen: Presentation (October, 2005)
② 堀 雅夫 「原子力は化石燃料に熱を供給しよう!! 高効率エネルギー転換、化石燃料ノーブルユース」 月刊エネルギー Vol.39 No.02 p.26-31 (2006)
③ 堀 雅夫 「化石燃料による協働的エネルギー転換プロセス」 日本原子力学会誌、Vol.49, No.5, p.359-364 (2007)
④ Masao Hori, “Synergistic Energy Conversion Processes Using Nuclear Energy and Fossil Fuels” Proceedings of International Symposium on Peaceful Applications of Nuclear Technologies in the GCC Countries, Jeddah, Saudi Arabia (November, 2008) (⑤の原子力国際ジャーナルに掲載)
⑤Masao Hori, "Synergistic energy conversion processes using nuclear energy and fossil fuels", International Journal of Nuclear Governance, Economy and Ecology (IJNGEE), Vol. 2, No. 4, pp362-374 (2009) http://www.inderscience.com

| | コメント (0) | トラックバック (0)

中東・湾岸協力会議加盟国の原子力国際シンポジウムに参加して

Programcover2008年11月3日~4日、中東の湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council、略してGCC)加盟の6ヶ国による初の原子力国際シンポジウムがサウジアラビアのジェッダで開催されました。豊富な石油資源を持っているGCC加盟国がエネルギー源として原子力利用の検討を始めたのです。私は、このシンポジウムに招待され、講演を行いました。以下は、シンポジウムの概要とGCCの原子力利用への動きです。

 <-- プログラムの表紙

シンポジウム開催までの経緯 -- GCCサミットによる原子力平和利用の決定 --

 (1) 2006年12月、リヤドで開催された湾岸協力会議に加盟しているアラブ首長国連邦・バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビアの6カ国の代表による第27回最高評議会(サミット)において、「国際基準・システムに調和した平和目的の原子力技術利用とそのための共同計画」が決定された。
 
 (2) 同月開催されたGCC加盟国の大学・高等教育機関学長委員会の会合において、上記決定に基づいて「原子力平和利用国際シンポジウム」を開催することが決議された。
 
 (3) このシンポジウムのオーガナイザーとして、GCCにおいて唯一原子力工学科を有するサウジアラビアのキングアブドルアジズ大学(KAU)が選ばれ、同国のアブドラ国王の支援で開催されるることになった。

続きを読む "中東・湾岸協力会議加盟国の原子力国際シンポジウムに参加して"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

優れもの | 囲碁 | 研究開発 | 自動車