AIによる棋譜の解析・評価レポートの作成 ― 第2回 プロの棋戦の場合
「AIによる棋譜の解析・評価レポートの作成」テストの第2回として、今回はプロ公式戦を題材にした。
使用棋譜
第51期天元戦 挑戦手合五番勝負
一力遼天元 ― 志田達哉八段 第3局
対局日:2025年11月9日
配信:日本棋院 囲碁チャンネル
1.棋譜の LizzieYzy による解析
棋譜解析条件
使用ソフト:Lizzie Yzy 2.5.3
エンジン:OpenCL 18B s-913
GPU:NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti
解析時間:1手あたり 15 秒
解析結果
① 解析済み SGF 棋譜 ダウンロード
② Hawk Eye のスクリーンショット画像
(正確度・一致率・損失目数の分布などを表示)
2.レポート作成
上記の解析結果①②を、生成系AIである ChatGPT 5.1 Thinking にアップロードし、
次の3ステップに分けてプロンプトを入力し、レポート作成を指示した。
ステップ1:全局レポートの作成
ステップ2:ローカル局面+部分図の作成
ステップ3:Word レイアウトの作成
なお、碁盤の座標表示には BLN2式を用いている。
各ステップで得られた ChatGPT のアウトプットに対して、内容面での疑問点、囲碁用語としての表現、図の見やすさなどを指摘し、そのフィードバックを反映した修正を重ねることで、最終レポートを作成した。
以下に、AIが作成した棋譜の解析・評価レポートを示す。
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AIによる棋譜の解析・評価レポート
第51期天元戦 第3局(一力遼天元 vs 志田達哉八段)
BLN2座標を使用
BLN2座標:(x,y) 形式で、xは左→右、yは下→上に1〜19
図A 総譜(全182手・BLN2座標)
1.全局の概要
対局:第51期天元戦挑戦手合五番勝負 第3局
黒:志田達哉八段 白:一力遼天元
コミ:6.5目 結果:白番中押し勝ち
解析条件:Lizzie Yzy 2.5.3 + KataGo(OpenCL 18B s-913)
GPU:NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti 1手あたり15秒
序盤は右上・左下の星から、右辺〜下辺へと展開する現代風布石で、AIの評価では40〜60%の範囲で揺れる互角の進行が続きます。
右下に白が掛かったあたりから戦いが本格化し、その後は
① 右下辺の折衝(白52・黒63 前後)
② 右辺〜中央の覇権争い(黒71〜81 前後)
③ 上辺〜中央〜左辺の拮抗(84〜128手)
という三つの山場を経て、少しずつ白がリードを広げ、そのまま押し切った一局というのがAIの見立てです。
終局時点の評価では、白が地合いでおよそ8〜9目リードしている形勢になっています。
2.形勢が大きく動いた局面
(1)右下辺の折衝:白52・黒63 前後
図1 右下辺の攻防(白52〜黒63)
白の52 (14,6) から、右下辺〜右辺にかけての攻防が始まります。
・実戦:白52 (14,6)
白勝率は約38.6%で、前手から約9.3%下がり、白が1目弱不利(約−1.2目)の評価になります。
AI第1候補は (16,4) の抑えで、勝率は約48.0%。実戦よりも約9%高く、白から見て互角〜わずか有利を維持できる打ち方です。
白がやや踏み出し過ぎたあと、黒にとっての大きなチャンスが来たのが黒63の局面です。
・実戦:黒63 (16,8)
黒勝率は約40.7%で、直前から約18.5%下がり、ほぼ互角〜白わずか有利(約−0.9目)まで形勢を戻してしまいます。
・AI第1候補(白62直後=黒63の局面): (16,6)
勝率は約59.2%で、ここで(16,6)を打てば黒が明確に優勢になる局面でした。
AIの主候補の(16,6)への出ならば右下の白石により強く圧力をかけながら、右辺〜下辺にかけての黒地も堅実に拡大できる一着と評価されています。
(2)右辺〜中央の覇権争い:黒71〜81 前後
図2 右辺〜中央の勝負所(黒71〜81)
戦いの主戦場が右辺〜中央に移ったあたりが二つ目の山場です。ここでは「大場に回るか、局所にこだわるか」という選択が何度も現れます。
・黒71 (7,7)
黒勝率は約26.6%で、前手から約11.6%低下。AI第1候補は (6,17) 左上方面の大場で、勝率は約38.3%です。上辺左寄りから中央を睨んだ大局的な一手で、局地戦より全局バランスを重視した打ち方になっています。
・黒79 (13,10)
黒勝率は約21.5%で、ここでも (6,17) がAIの第1候補(勝率約29.0%)。AIは一貫して「右辺の攻防をある程度で切り上げ、(6,17)で盤全体の大場に回るべき」と判断しています。
・白80 (12,13)
白勝率は約63.7%で、AIの最善は (6,17)(勝率約78.5%)。白もここでやや緩んでいますが、それでも依然として白有望局です。
・黒81 (12,15)
黒勝率は約17.7%で、直前から約18.6%の低下。AI第1候補は (13,16) (勝率約36.3%)の抜きで、右辺の局地戦と上辺側へ展開を見た味の良い手を高く評価しています。
この71〜81の流れを見ると、AIは常に(6,17)や(13,16)といった「全局を見た大場や味の良い手」を主張しているのに対し、実戦の黒は右辺の戦いにこだわり過ぎており、その差が白リード拡大の大きな要因になっています。
(3)上辺〜中央〜左辺の拮抗:84〜128手
図3 上辺〜中央〜左辺の仕上げ(84〜128手)
終盤に入った84〜128手の間にも、黒にとっての「最後の粘りどころ」がいくつかありましたが、AI視点ではいずれも十分には活かしきれていません。
・黒87 (3,14)
黒勝率は約9.9%で、前手から約16.2%の低下。AI第1候補は (9,12)(勝率約26.1%)で、中央〜右辺の白石にプレッシャーをかけつつ自陣も整える一手です。
・黒89 (8,13)
黒勝率は約7.6%で、AI第1候補は (3,17)(勝率約13.8%)。左辺寄りの急所を逃し、小場寄りの手を選んでしまった形です。
・黒97 (10,15)
黒勝率は約5.9%で、AI第1候補は (5,14)(勝率約15.3%)。
・黒121 (12,12)
黒勝率は約5.9%で、AI第1候補は (12,9)(勝率約16.3%)。
いずれも一発で逆転するほどの手ではありませんが、候補手との間に10〜16%前後の勝率差があり、終盤でも「少し甘い手」が重なった結果、白のリードが安全圏まで押し上げられたといえます。
3.Hawk Eye の統計から見える傾向
本解析のHawk Eye統計を見ると、両者の打ち筋の違いがよく表れています。
【黒:志田八段】
・正確度:約61.4%
・一致率:約60.4%
・最善手一致率:約50.5%
・目数の平均損失:約0.5目/手
・勝率の平均損失:約1.6%/手
・損失目数の分布(91手):0.5目未満66手、0.5〜1.5目13手、1.5〜3目11手、3〜6目1手、6目以上0手
【白:一力天元】
・正確度:約72.1%
・一致率:約71.4%
・最善手一致率:約52.7%
・目数の平均損失:約0.4目/手
・勝率の平均損失:約1.3%/手
・損失目数の分布(91手):0.5目未満73手、0.5〜1.5目12手、1.5〜3目4手、3〜6目2手、6目以上0手
大悪手の回数はどちらもほとんどなく、決定的な「一発のミス」で勝敗が決まったわけではありません。むしろ1〜3目クラスの「やや甘い手」の積み重ねが最終的な地合い差の主因になったことが分かります。
4.総合的なまとめ
AIの視点からこの一局を整理すると、次のようにまとめられます。
① 右下辺の黒63 (16,8) では、 (16,6) を逃したことで、黒勝率にして約18%分のチャンスを失った。
② 右辺〜中央の黒71・79・81では、局地戦にこだわる実戦手に対し、AIは (6,17)といった「大場への展開」を一貫して推奨しており、ここでの方針の違いが白優勢を決定づけた。
③ 終盤の上辺〜中央〜左辺(84〜128手)では、黒が87手 (9,12)、89手 (3,17)、97手 (5,14)、121手 (12,9) など、AIが示す粘りの急所に打てなかった結果、白のリードが安全圏まで広がった。
総じて、この対局は「一手の大事故」で崩れた碁ではなく、要所ごとに候補手から1〜3目ずつ外れていった積み重ねで差がついた一局と言えます。
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