大型トラックでも主役は電池 -- 「最後の砦」だった水素は少数派のまま
「世界の資源市場とエネルギー転換を牽引する破壊的技術を扱う戦略リサーチ機関」と称するBloombergNEF社が、2025年9月に発表した「世界のゼロ排出中大型トラックの導入データ」から、ゼロ排出中大型トラックの分野の現状と将来について考察しました。
「大型トラックでも主役は電池――「最後の砦」だった水素は少数派のまま」
- データが示す結論:中・大型トラックでも主役はBEV、FCEVは少数派のまま。
- 勝因=コスト・エネルギー効率・拠点充電の実装速度;まず短~中距離・定期便をBEVが席巻。
- 政策の方向はMCS(~75MW)とデポ電化・系統強化へ集中、水素は産業用途に選択と集中。
図・データの出所: BloombergNEF, “Zero-Emission Commercial Vehicles Accelerating the Transition 2025 -- Factbook for Investors” (September 18, 2025) https://assets.bbhub.io/professional/sites/24/Zero-Emission-Commercial-Vehicles-Factbook-2025.pdf
2019年以降の四半期データを見ると、ゼロエミの中・大型トラックの販売は電池式(BEV)が圧倒的多数を占め、燃料電池(FCEV)はごくわずかにとどまっています。市場が実績で選び、重トラでも電動化の本流は「水素」ではなく「電池」で固まりつつあることが読み取れます。
この数年、「長距離・重量物は水素」という仮説が繰り返し語られてきました。しかし実際の販売データは、重トラでもBEVが急伸し、FCEVは立ち上がらない現実を示しています。背景は単純で、総保有コスト(TCO)・エネルギー効率・インフラ整備スピードの三点でBEVが優位だからです。
拠点(デポ)からの充電整備が容易で、夜間充電で日次の運行を賄いやすく、電力直給の効率が高く燃料費の変動にも強い。加えて電池の価格・エネルギー密度・耐久が改善し、必要航続の多くをカバーできるようになりました。
一方、水素は燃料価格の高止まり、供給・圧縮・充填のインフラ投資が重く、車両側コストも下がりにくい。結果として、「まず導入が進む短〜中距離・定期ルート」はBEVが取り込み、ボリュームの大半を押さえています。
寒冷地の超長距離や連続運行などニッチは残り得ますが、図が示すのは「主戦場での勝敗」――大量導入フェーズの選択肢はBEVだということです。
政策も産業戦略も、この既成事実を前提に、MCS級の高出力充電、デポ電化、系統強化、電池サプライチェーンへ資源を振り向けるのが合理的です。水素は化学原料、合成燃料など“得意科目”に集中させるほうが、社会全体の最適に近づきます。
MCS(Megawatt Charging System)とは
すでに初期導入~公開運用が始まっている中・大型商用BEV向けの超急速DC充電規格で、最大約1,250 V × 3,000 A ≒ 3.75 MW。
これは日本の高速道路SA/PAに多いCHAdeMO 50 kW級(90–150 kW級への更新も進行中)に対して、出力で約75倍に相当します。
対象はまず長距離トラックですが、路線・観光バス、建設・鉱山機械、港湾機器、中小型フェリー、(将来的には)eVTOL/小型コミューター機など航空分野への展開も見込まれます。




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