« 2025年6月 | トップページ | 2025年8月 »

2025年7月

碁盤の座標:各種方式の比較と今後の方向

囲碁の盤上の位置を表す座標には、いくつかの表記形式が存在する。たとえば、国際的な座標フォーマットである「英字国際式」では、左下を原点とし、横方向に英字(A~T)、縦方向に数字(1~19)を用いる表記が広く使われている。一方、日本国内では、新聞や雑誌などで、左上を原点とし、横に数字、縦に漢数字を用いる伝統的な「漢数字式」が用いられている。

新聞・雑誌・インターネットの囲碁対局サイト・棋譜AI解析ソフト・棋譜編集ソフトなどで、実際に使用されている座標形式は、おおよそ次のように整理できる。ここでは、複数の座標系を選択可能な「Kiin Editor」(棋譜記録ソフト)とLizzieYZY(AI棋譜解析ソフト)における命名を参考にして記載する。

1. 座標形式の主な使用例

1)漢数字式:原点左上 横:1 2 3 …、縦:一 二 三 …

* 別名:日本式、新聞式

例:新聞囲碁欄(読売新聞)↓

Yomiuri

 2)英字国際式:原点左下 横:A B C …、縦:1 2 3 …

* 別名:KGS式、IGS式

例:KGS(インターネット囲碁対局サイト)↓

Kgs

3)英字式:原点左上 横:A B C …、縦:1 2 3 …

* 別名:野狐式

例:野狐囲碁(ネット対局サイト)↓

Fox

 4)数字式(上から):原点左上 横:1 2 3 …、縦:1 2 3 …

* 別名:TLN2式(後述)

例:LizzieYZY(AI棋譜解析ソフト)↓

Lizzieyzy

5)数字式(下から):原点左下 横:1 2 3 …、縦:1 2 3 …

* 別名:BLN2式(後述)

例:LizzieYZY(AI棋譜解析ソフト)↓

Bln2_lizzieyzy

 6)両英字式:原点左上 横:a b c …、縦:a b c …

* 別名:SGF式

例:SGFファイル(棋譜記録フォーマット)↓

Sgf_axis

 2. ソフトウェアにおける座標選択の例

Kiin Editor(棋譜編集ソフト)では、次の4形式から座標を選択できる。

* なし(座標非表示)
* 漢数字式:原点左上/横:数字、縦:漢数字
* 英字式:原点左上/横:英字、縦:数字
* 英字国際式:原点左下/横:英字、縦:数字

LizzieYZY(AI棋譜解析ソフト)では、次の4方式から選択可能である。

* 英字国際式(デフォルト)
* 英字式(野狐式)
* 数字式(上から)
* 数字式(下から)

なお、雑誌『碁ワールド』(日本棋院)の記事中に掲載される棋譜は、基本的に座標表示なしである。↓

Goworld

 3. 座標形式ごとの読みやすさと直感性

これらの座標表記を用いた実際の棋譜を見比べると、形式ごとに読みやすさや分かりやすさに差があり、盤上の位置を直感的に把握しにくい場面も少なくない。

横・縦ともに数字で表す「数字式」の座標は、一般の科学・技術分野の図表でも広く使われている形式であり、視覚的な整合性が高く、直感的にも理解しやすい。将来、囲碁の座標表示をどこかで統一していくとすれば、各種の座標表記方式の中から、この「数字式」が有力な候補になると考えられる。

 4. 「数字式(上から/下から)」の比較

数字式には、「数字式(上から)」と「数字式(下から)」の2方式がある。
数学の座標平面に対応させて考えると、

* 数字式(上から)は第4象限、
* 数字式(下から)は第1象限

にそれぞれ相当する。

数学や物理のグラフになじみのある人にとっては、第1象限のグラフに相当する「数字式(下から)」のほうが自然に感じられるかもしれない。

しかし一方で、

* パソコン画面などでは「左上原点」の座標系が広く使われていること
* 日本で普及している漢数字式は「左上原点」であり、その縦座標の漢数字をそのまま洋数字に置き換えれば「数字式(上から)」になること

を考えると、実務的には「数字式(上から)」への移行のほうがスムーズだとも考えられる。

 5. TLN2式とBLN2式という名称の提案

数字式の2方式の呼び名として、次の略称を提案したい。

「数字式(上から)」
→ Top Left Origin Numeric 2 Axis
→ 略称:TLN2式

「数字式(下から)」
→ Bottom Left Origin Numeric 2 Axis
→ 略称:BLN2式

TLN2およびBLN2の両方式は、数学的座標系との親和性が高く、人間にも直感的に理解しやすい形式であると考えられる。

TLN2式およびBLN2式では、盤上の位置表記に、数学で一般的な (x, y) 形式を用いる。

 6. TLN2式とBLN2式における代表点の例

19路盤で、いくつか代表的な点を TLN2/BLN2 の両方式で表すと、次のようになる。

| 盤上の位置     | TLN2式 (左上原点) | BLN2式 (左下原点) |
| -----------     | -------------------- | ------------------- |
| 右上隅の星     |         (16, 4)         |        (16, 16)       |
| 左下隅の三々  |         (3, 17)         |         (3, 3)          |
| 天元             |         (10, 10)        |        (10, 10)       |

実際の運用にあたっては、上下左右の4辺すべてに 1~19 の数値を表示しておくと、盤上の位置の把握がさらに容易になると思われる。

7. 追記:碁盤の座標方式の比較表

上で説明した碁盤の各種座標方式について、比較表を下に示す。

2

注記:本稿は2025.11.27に旧稿を全面的に改定しました。

| | コメント (0)

電力化による燃料消費の削減 -- 21世紀後半に向かう日本のエネルギー転換 --

この考察では、将来の日本において電力化を進めることで燃料消費を削減し、国内のバイオマス資源と原子力熱を組み合わせた合成燃料によりエネルギー自給が可能かどうかを定量的に検討します。2075年をマイルストーンとし、電力化率の想定と必要燃料量、バイオマス賦存量とのバランスを分析します。

本稿は、電力化と燃料削減を通じたエネルギー自給の可能性を探る試みであり、今後この方向の技術・制度の展開を期待します。本稿の概要解説(NotebookLMによるコンセプト動画)↓
日本の2075年エネルギー設計図」 

1b9be63dab8446a291998bc3e5d06130

-------------------------------------------------------

筆者は、これまでバイオマスと原子力の協働プロセスによるCO2フリーの炭化水素燃料の製造について研究・発表(ダウンロード&2最近の発表)を行ってきた。このプロセスを日本の将来の燃料(非電力)供給に使用する場合の国内バイオマス資源による供給可能性を評価するためには、21世紀後半(そのマイルストーンとして2075年)における日本の燃料供給量の推定が必要で、最終エネルギーの電力化を向上させることによって非電力量をどこまで下げられるか考察を行った。

なお、燃料供給は、eFuel(直接空気回収DACにより回収されるCO2の水素添加/電解還元などで製造される炭化水素燃料)あるいは水素/アンモニア(再エネ電力によるグリーン水素、原子力によるピンク水素)などによっても可能である。しかし、これらの燃料はバイオマスベースの燃料に比べて、製造に多大のエネルギー(主として電力)を要し、製造コストも過大になる。これら将来燃料の優劣・得失の比較については別資料(例えば↓)を参照されたい。

Columbia Univ. (SIPA), “Opportunities and Limits of CO2 Recycling in a Circular Carbon Economy” (2021) Download

Nathan Johnson, et.al., “Realistic roles for hydrogen in the future energy transition” Download

以下、2075年の非電力供給について、(A)第7次エネルギー長期計画策定のための2050年シナリオ評価に基づく推定、(B)電力化率向上加速による削減、の順に考察する。

A. RITEの2050年シナリオ評価をもとに推定

2050年までの二次エネルギーにおける電力量および燃料(非電力)量の見通しについては、国のエネルギー長期計画などのエネルギー・環境政策との関連で各種のシナリオ評価など定量的な検討が行われてきている。本考察では、主として通商産業省の基本政策分科会に提示された地球環境産業技術研究機構(RITE)による以下の資料を参考にした。

1.総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 令和6年12月25日 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国のエネルギー需給分析」(2024123日提示の分析の更新版)参考資料1 地球環境産業技術研究機構(RITE)https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/066/068_008-1.pdf

2.総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 令和6年12月25日2050年カーボンニュートラルに向けた我が国のエネルギー需給分析」(2024123日提示の分析の更新版)参考資料1 「分析モデル、手法、シナリオの概要」地球環境産業技術研究機構(RITE)https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/066/066_s05.pdf

これらの資料の2050年までの二次エネルギー量の見通しを基に、21世紀後半、そのマイルストーンとして2075年の燃料供給量の推測を行った。

1.2015年~2050年の電力化における成績係数の推定

RITEの資料には、2015年と2050年の電力量・非電力量(燃料量)・電力化率が示されている。以下の考察では、RITEによる5ケースのシナリオの中の「成長実現シナリオ」の数値を資料の中の図から読み取って使用した。

本考察では、二次エネルギーの単位として、電力はWh(ワット・時)、燃料(非電力)はtoe(石油換算トン)を用いる。図・表などでは比較の便のため同じデータを両方の単位で示している。単位の換算は、1 [Mtoe] = 11.63 [TW]T(テラ)は1012乗、M(ミリオン)は106乗。

表 2015年と2050年の電力量、非電力量、全二次エネルギー量、電力化率

Slide1

二次エネルギーを電力と燃料(非電力)に大別したとき、二次エネルギーにおける「電力化率」(英語では、Share of electricity in the secondary energy または Electricity rate)は次の式で定義される。

          電力化率=電力量/(電力量+非電力量)

電力化率が201530%から205055%に増加していることは、燃料を使用して賄ってきた熱需要(熱機関を介する動力も含む)のかなりの部分を電力によって賄うように変わっていることである。

ここでは、2015年~2050年において電力および熱を必要としている元の産業用、運輸用、民生用(業務・家庭)などのエネルギー需要は変わらないと仮定して、熱の需要が電力の需要に代替される過程を定量的に検討する。

上記「2015年と2050年の電力量、非電力量、電力化率」の表のデータから、日本の二次エネルギー全体として電力化の進行をバルクに見た時の電力の非電力への転換係数に相当する値を算出した。ここではこの値を「修正成績係数」(Modified Coefficient of Peroformance, mCOP)と呼ぶことにする。

一般に、「成績係数」(Coefficient of Performance, COP)とは、ヒートポンプなどの電力駆動の熱機器の効率を表す指標で、以下のように定義されている。

    COP = 得られる熱量(または冷却量) ÷ 消費電力

例えば、あるヒートポンプが 1 kWh の電力を使って 3 kWh の熱を供給できるなら、COP = 3.0 となる。

現在進められている電力化においては、ヒートポンプが作動する低中温より高い温度の熱の供給や熱機関のモーター化なども含んで巾広く転換が進むと考えられる。そのため、電気抵抗加熱(熱損失がなければ、COP=1.0)も含めて、ここでは電力化全体でのCOPを考えることにする。

電力化は、燃料に変わって電力を使用するため、機械やプロセスのよりきめ細かい制御や調節が可能になり、エネルギー損失を減らすことができるので、熱力学的なCOP以上に電力消費を抑えることができる場合が多い。これらの効果を含めたCOPを修正成績係数(Modified Coefficient of Performance, mCOP)と定義する。

2015年の電力量をA1、非電力量をB12015年の電力化率r1とし、2050年の電力量をA2、非電力量をB2、電力化率をr2とし、2015年から2050年の間の修正成績係数mCOPとすると、これらの変数の関係は次の式になる。

A1/(A1+B1) = r1

A2/(A2+B2) = r2

mCOP = (B1-B2) / (A2-A1)

上の連立方程式を解くと

           mCOP = {A1(1-r1)/r1 - A2 (1-r2)/r2}/(A2-A1)

上の式に表1の数値を入れて2015年から2050年の間の電力化における修正成績係数mCOPを求めると mCOP = 2.97 が得られた。

また、mCOPを変えて2015年~2050年の電力の増加係数(A2/A1)の値を求めると、下の図の関係になる。これは、mCOPが大きいほど即ち電力をより効率よく熱に変換するほど、2050年の電力量の増加は小さくなる関係を定量的に示したものである。

Electricity_growth_vs_mcop_corrected

なお、ヒートポンプのCOPは、一般に空気を熱源とする場合は2.24.5程度、地中熱を熱源とする場合は5程度であるが、産業用の200℃以上も可能な中温用ヒートポンプではCOP1.52.5程度、高温用の電気抵抗加熱なども含めると平均的にはCOP = 2.02.5程度になるのではと推測される。一方、電力化に伴う調節・制御性向上による損失削減などの効果を含めると、2015年~2050年の電力化におけるmCOPの値として3程度は妥当と考えられる。

2.電力化率の2050年以降の上昇と2075年値の推定

2015年から2050年までに続いて、それ以降も電力化が進むが、燃料に頼らざるを得ない航空機や船舶の推進用需要もあるので電力化率の上昇には限度があり、90%程度で飽和すると推測される。

2015年と2050年の電力化率の値と飽和値約90%を入れたロジスティック曲線(補足説明、下のボックス内)を想定すると、下の図に示すように2075年の電力化率として約70%の値が得られる。


電力化率のロジスティック曲線による予測 

電力化率(二次エネルギーに占める電力の割合)は、経済の脱炭素化や電化技術の進展に伴い、長期的に上昇する傾向にある。特に再生可能エネルギーや原子力などの非化石電源との親和性の高い電力は、利用が拡大しつつある。

ロジスティック曲線の選定理由

本考察では、電力化率の長期的な推移を表現するにあたり、ロジスティック関数S字曲線)を用いた。これは以下の理由によるものである。

・   電力化率のように、初期は緩やかに上昇し、一定の成長期に急激に進展し、その後は飽和に向かって漸近するような現象には、ロジスティック曲線が適合的である。

・   ロジスティック曲線は、導入期・成長期・成熟期の3段階の遷移をパラメータによって柔軟に表現可能であり、実際の政策導入や技術革新と整合的に推計できる。

・   多くの社会・技術現象(例:インターネット普及率、携帯電話普及、都市人口率など)と同様に、上限(飽和点)を持つ成長過程を捉えることができる。

・   過去実績と将来の政策目標値(例:207570%など)を通るようにパラメータをチューニングすることで、整合性のある予測が可能となる。

なお、ロジスティック関数は、指数関数とは異なり、将来的に無限に成長することがなく、現実的な制約(例えば電力以外の用途が一定程度残ること)を内在的に反映できる。この点において、単純な線形回帰や指数回帰に比して、長期予測の安定性が高い。

以上の理由から、本考察では電力化率の年次推計にロジスティック関数を採用し、特定の飽和値(例:約90%)と中心年(例:2035年頃)を設定して将来予測を行った。

Electrification_rate_logistic_projection

因みに、航空機や船舶の動力需要の一部、小型/短距離のものはバッテリー利用により電力化されるが、大型・長距離の推進動力は燃料に頼らざるを得ない。現在、航空機と船舶が消費する燃料は、世界のCO2排出量の約 56% (航空業界が 23%、船舶業界が 3%前後)を占めている。将来の予測に関しては、航空業界の燃料消費は増加傾向にあるので約 45% に拡大する可能性があり、船舶業界も国際貿易の増加に伴い若干の増加(~4%)が予想されている。これらの移動体の推進動力用燃料とその他電力化が不利な需要を合わせて、燃料(非電力)量として二次エネルギーの10%程度、電力化率は90%程度の限度は妥当と考える。

3.2050年以降の電力化による2075年の燃料(非電力)量の推定

電力化率が205055%から2075年70%に増加するとして、2050年の電力量および非電力量をもとに、2075年の燃料(非電力)量を推定することにする。

ここでは、2050年~2075年においても電力および熱を必要としている元の産業用、運輸用、民生用(業務・家庭)などのエネルギー需要は変わらないと仮定して、熱の需要の電力の需要への転換を定量的に調べる。

2050年の電力量をA2、非電力量をB22050年の電力化率r22075年の電力量をA3、非電力量をB3、電力化率をr3とし、2050年から2075年の間の修正成績係数mCOPとすると、これらの変数の関係は次の式になる。

A2 / (A2+B2) = r2

A3 / (A3+B3) = r3

mCOP = (B2-B3) / (A3-A2)

上の連立方程式から

           A3 =  {(1-r2) / r2 + mCOP}A2 / {(1-r3) / r2 + mCOP}

           B3 = (1-r3) A3 / r3

2050年の値の電力量はA2 = 119 Mtoe、電力化率はr2=0.55 であり、前節の考察から2075年の電力化率はr3 = 0.70、2050年~2075年の修正成績係数は2015年~2050年と同じ mCOP = 3をとると、2075年の電力量A3 = 133 Mtoe、非電力量 B3 = 57 Mtoe が得られる。

2015年、2050年、2075年の電力量、非電力量、全二次エネルギー量、電力化率の値を下の表および図に示す。

表 2015年・2050年・2075年の電力量、非電力量、全二次エネルギー量、電力化率

Slide2

Energy_supply_2015_2075_mtoe_tw_20250713120301

4.国内バイオマス資源による燃料供給可能量

以上のように、2075年の燃料供給必要量は57Mtoeとなり、2015年の燃料量の3割以下(28.5%)に減少している。ここで、バイオマスと原子力の協働プロセスによるCO2フリーの炭化水素燃料製造を想定して、国内バイオマス資源による燃料供給可能な割合を計算してみる。

これまで実施してきた世界レベルでの解析では、炭素6Gtonを含むバイオマスを原料として原子力協働プロセスでは炭化水素燃料3.5Gtoeを生成するとしてきた。炭素1Gtonの発熱量は0.784Gtoeなので、原料バイオマスが有する炭素熱量の3.5/(6x0.784)74%の熱量の炭化水素燃料が生成されることとになる。

この値を使って、207557Mtoeの燃料を製造するに必要なバイオマスの炭素熱量は57/0.74 = 77 Mtoeとなる。日本のバイオマスの年間賦存量は「バイオマスニッポン総合戦略」(20063月)によると1757PJ 42Mtoeなので、国内のバイオマス資源によって、2075年燃料供給必要量の55%程度を供給できることになる。

[付記] バイオマスのエネルギー量[PJ]と含有炭素質量[MtonC]の関係について: 「バイオマスニッポン総合戦略」では、含有する炭素の熱量の78%がバイオマスのエネルギーになるとして41.9 [PJ/MtonC] を用いている。本考察においては、反応プロセスの収率・効率は別途勘案しているので、含有する炭素の熱量の100%をバイオマスのエネルギー量とする32.8 [PJ/MtonC] を使用している。

バイオマスからバイオ燃料を合成するプロセスに原子力熱を供給してバイオマスの効率的使用を想定した場合でも、上記2075年の必要燃料供給量は国内バイオマスによる燃料自給の目的達成のためにはまだ相当過大な値で、必要燃料供給量をさらに下げる必要がある。

ここで、国内バイオマスによる燃料自給のためには、燃料量をどの程度まで下げる必要があるか概算してみる。上に述べた、原料バイオマスが有する炭素熱量の74%の熱量の炭化水素燃料が生成されるとした値を使用して、日本のバイオマスの年間賦存量の1757PJ 42 MtonOEから製造できる炭化水素燃料量は31 Mtoeとなり、この程度まで必要燃料量を下げることができれば、自給可能となる。

B. 電力化率向上加速による燃料必要量の低減

1.燃料100%自給の電力化率

前節で説明しているように、RITEのシナリオ評価において2050年まで示されている電力化率向上のトレンドから2075年の電力化率70%とした場合必要燃料量57Mtoe/年の値を得た。これはバイオマス原子力協働プロセスを用いて日本のバイオマスの年間賦存量により必要量の55%を供給できるが、100%エネルギー自給するには必要燃料量を31Mtoe以下に下げる必要がある。

2075年の必要燃料量の全部を日本のバイオマスの年間賦存量から原子力協働プロセスを用いて製造可能な約30 Mtoe以下にするには、将来の電力化率をどのように向上していけば良いか、検討してみる。

日本の最終エネルギーの電力化率については、「2024年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2025)」(20256月資源エネルギー庁)に次の図で示されている。

_19652022

エネルギー白書によるこの図の電力化率の算出は「電力化率=電力消費/最終エネルギー消費 ×100」とあるが、非エネルギー用途(例えば、石油化学原料など)を含んだ最終エネルギー消費を分母に使っている。

本ブログは、最初この電力化率を元に考察したので、その結果は非エネルギー用途を含む非電力(燃料と原料)量を検討したことになっていた。今回、エネルギー用途の非電力(燃料)量について検討したので、以下は新しい検討結果に差し替えてある。

エネルギー用途に限定した最終エネルギーの電力化率は、IEA“World Energy Balance”記載の日本のデータから求めた。非エネルギー用途を分母から除外した最終エネルギーの電力化率計算に必要な値は次の通り。

2023年の日本のデータ

 全最終消費(全用途)= 10456809 TJ

 非エネルギー用途 = 1069483 TJ

 電力の最終エネルギー消費= 3165121 TJ

 非電力の最終エネルギー消費= 6222205 TJ

これから。最終エネルギーの電力化率=電力の最終エネルギー消費 / (電力+非電力の最終エネルギー消費) = 33.72% と計算される。

21世紀後半2075年頃に燃料自給が可能な必要燃料量を31Mtoe以下にするには、2023年の電力化率33.7%から電力化率をどのように向上して行ったら良いか計算してみた。

計算の手法は、本稿のA章と同様の方法で、最初の年の値から順次2075年まで計算していく。

 2023年の最終エネルギーの電力の実績値 = 75.6 Mtoe

 2023年の最終エネルギーの電力化率 = 33.72%

 修正成績係数mCOP 3.0 (一定)

上の条件で、電力化率がロジスティック曲線で増加していくとして、2075年の最終エネルギーの非電力(燃料)が30 Mtoeになるようなロジスティック曲線上の2075年電力化率を求める。

その結果、電力化率を202333.7%から207579.3%に向上させると、次の図のように2075年の燃料必要量30Mtoeが得られた。

Trajectories_a_b_total_with_twh_a

なお、電力化率のロジスティック曲線は下図。パラメーターは、飽和値 K 90%、中心年 t0  2033.5899、成長率 r 0.048461 / 年。

Logistic_curve_fitted_b2075_30a

上に示したように、電力化率が2075年に約80%まで向上すると、必要な燃料は全てバイオマスと原子力の協働プロセスにより自給できることになる。

2.電力化率、世界の現状

世界の各地域の電力化率は、Enerdataの報告書"Share of electricity in final energy consumption"によると下の図のようになっており、その平均は2010年の約17.8%から2024年は3.3ポイント上昇して21.1%となっている。

World-electrification-rate-trend

Ember社のレポート"China Energy Transition Review 2025" (September, 2025) には、欧州・米国・中国・日本の電力化率の変化が示されている。このEMBER社の電力化率の推移の図も、IEAのWorld Energy Balanceのデータを用いて「最終エネルギー消費=全最終エネルギー消費ー非エネルギー用途」を分母にとり、分子は「電力の最終消費」により計算している。つまり 非エネルギー用途(石油化学原料など)を分母から除外したエネルギー用途のみの電力化率の値である。

Electrification_2000_2022b

上の図で特筆すべきは、中国の電力化率は20152023年に年平均約1ポイントで上昇し、2023年には欧米の約24%を遥かに超えた32%に達していること。上昇の主因は、産業・建物・輸送の各部門での電化の同時進行、特に世界最大市場となっているヒートポンプの普及が熱需要の効率化を牽引し、EVの拡大と鉄道・地下鉄の整備が輸送部門の電化を押し上げたと推察される。

EMBER社のレポートには、アジアなどの新興開発途上国の電力化率(下の図)も示されている。

Emerging-market-energy-leapfrog

新興国の約4分の1は、電力化率で既に米国を上回っている。このように、低コスト電化技術(PV・蓄電池・EV・ヒートポンプ)の波及によって、老朽インフラの制約が小さい国ほど、新規投資を電化前提で最適化しやすく、「リープフロッグ(蛙跳び的追い越し)」が現実化している。

3.日本の電力化推進

これまで考察してきたように将来的なエネルギー自給の鍵は「燃料を電力に置き換える」電力化であり、このエネルギーの構造改革はエネルギー政策で最重要と考える。

電力化を進める具体的な方策としては、例えば下記が挙げられる。

・熱の電力化:

家庭・業務用 → ヒートポンプ(COP = 34

産業用 → 中温~高温ヒートポンプ、インダクション加熱、マイクロ波加熱、抵抗加熱

・移動の電力化:

BEV/PHEVへのシフト

鉄道物流への回帰

 ・プロセスの電力化:

化学工業等での燃料加熱に代わる電気加熱

金属工業等での燃料還元に代わる炭素循環/電解還元

-------------------------------------------

21世紀後半における電力化の推進によって燃料の自給を確立することは、エネルギー安全保障、産業競争力の面で極めて重要です。これは、日本が抱える資源・土地・人口といった制約を克服し、エネルギー自立を追求するための、現実的かつ戦略的な方策と考えます。

(「B.電力化率向上加速による燃料必要量の低減」章の「1燃料100%自給の電力化率」と「2電力化率、世界の現状」節の内容は25.09.23に変更しました)

| | コメント (0)

« 2025年6月 | トップページ | 2025年8月 »