炭素資源と原子力の協働プロセス -- 21世紀後半に向かうエネルギートランジションと原子力の方向
2025年3月13日に日本原子力学会・2025年春の年会において「炭素資源と原子力の協働プロセス -- 21世紀後半に向かうエネルギートランジションと原子力の方向」[2A01] の演題で発表を行った。
エネルギー利用によるCO2排出を実質ゼロにするためには、電力は原子力と再生可能エネルギー(主に変動再エネと水力)に依存し、非電力エネルギーはバイオマスなどの炭素資源を利用したクリーン燃料に依存することが必要になる。
本研究では、バイオマスと原子力熱を用いた協働プロセスにより生成される炭化水素燃料について、今世紀後半における世界的な供給可能性を評価した。また、このプロセスに炭化反応を組み込み、バイオチャーを生成して大気中のCO2を除去する効果についても検討を行った。
これらの結果から、今世紀後半に向かうエネルギートランジションにおいて、原子力は単なる電力供給手段にとどまらず、炭素資源と原子力の協働プロセスを通じて、燃料供給やネガティブエミッションの実現においても重要な役割を果たし得ることを示した。
The Synergistic Process of Carbon Resources and Nuclear Energy -- Shaping the Role of Nuclear Energy in the Energy Transition Toward the Late 21st Century
To achieve net-zero CO2 emissions from energy use, electricity must rely on nuclear power and renewable energy sources (mainly, variable renewable energies and hydropower), while non-electric energy needs must be met by clean fuels derived from carbon resources such as biomass..
This study evaluates the global supply potential of hydrocarbon fuels produced through the synergistic process using biomass and nuclear heat in the late 21st century. Additionally, it examines the integration of a carbonization process into this system to produce biochar, thereby removing CO2 from the atmosphere.
Based on these findings, in the energy transition toward the late 21st century, nuclear energy is expected to play a significant role not only in electricity generation but also in fuel production and achieving negative emissions through the synergistic process.
[予稿]
炭素資源と原子力の協働プロセス
21世紀後半に向かうエネルギートランジションと原子力の方向
The Synergistic Process of Carbon Resources and Nuclear Energy -- Shaping the Role of Nuclear Energy in the Energy Transition Toward the Late 21st Century
*堀 雅夫1
1原子力システム研究懇話会
今世紀後半に向かう地球環境保全のためのエネルギートランジションにおいて、バイオマスなどの炭素資源と原子力熱を用いた協働プロセスによる炭化水素燃料の供給可能性を評価した。これにより、原子力が燃料供給やバイオ炭生成による負排出を通じて、発電以外にも重要な役割を果たし得ることを示した。
キーワード:炭素資源,バイオマス、原子力熱利用,協働プロセス,炭化水素燃料,バイオ炭,負排出
1.炭素資源・原子力協働プロセスの利点
水蒸気ガス化反応に必要な熱を原子力から供給することにより、バイオマス量を3割以上節減できる。
2.世界へ適用した場合の炭素量/熱量収支と得られる炭化水素燃料量の試算
図のプロセスで、生成するバイオ炭(バイオマスの2割を使用)は地球規模の炭素循環から除外されるので負排出(CO2除去)が可能になる。
想定するバイオマス量の8割を使用して生成する炭化水素燃料量はIAEのNZEシナリオの2050年・世界の燃料供給量の値に近い。
なお、この原子力加熱方式には、850℃程度の高温を供給可能な原子炉(第4世代原子力システムの「VHTR 超高温炉」、JAEAのHTTR)の使用が望ましい。
3.21世紀後半における[バイオマス・原子力]燃料供給の可能性
上のケースの計算で想定したバイオマス使用量は国際機関による2050年賦存量の範囲内にあり、この熱供給と発電を合わせた原子力必要量は高速炉・燃料リサイクル方式の適時導入による供給可能量の範囲内にあるので、本方式による燃料供給はエネルギー資源的に可能と考える。
参考文献
[1] 堀 雅夫「原子力と化石燃料による協働的エネルギー転換プロセス」日本原子力学会誌, Vol.49, No.5(2007)
[2] Hori, M., “Nuclear carbonization and gasification of biomass for effective removal of atmospheric CO2”, Progress in Nuclear Energy 53 (7), 1022-1026 (2011) この論文のダウンロード - horipne11.07nuclearcarbonization.pdf
[3] 堀 雅夫「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」Amazon Kindle B083G1278K (2020) この書籍の原本(原子力システム研究懇話会発行コメンタリーシリーズ No.S-2)のダウンロード
発表パワーポイント↓
ダウンロード - hori_aesj_nenkai_25.03_f.pdf
口頭発表原稿↓
ダウンロード - e58fa3e9a0ade799bae8a1a8e58e9fe7a8bf.pdf
関連講演資料(24.03.18 NSA談話会)
「将来エネルギーシステムのコンセプト -- バイオマスと原子力による燃料供給と炭素循環制」パワーポイント・ダウンロード 概要報告・ダウンロード
追記:21世紀後半における日本のエネルギー自給の可能性
上記発表では、世界全体を対象に、バイオマスと原子力の協働プロセスによる炭化水素燃料の供給と、大気中CO₂除去の可能性を論じました。バイオマス由来燃料の製造プロセスで必要となる熱を原子力から供給できれば、必要バイオマス量を概ね3割程度削減できる可能性があります。
この考え方を日本に適用すると、国内で得られるバイオマスに原子力熱を組み合わせることで、輸入化石燃料への依存を下げて炭化水素燃料を国内で賄う道が見えてきます。さらに、電力は原子力・再エネを中心に供給し、燃料は「バイオマス+原子力熱」による合成燃料で補う、という組み合わせにより、将来のエネルギー自給の可能性が出てきます。
参考までに、IEA “World Energy Balance”に基づく日本の2023年の最終エネルギー消費は、
電力の最終エネルギー消費:3,165,121 TJ
非電力(燃料)の最終エネルギー消費:6,222,205 TJ
最終エネルギー消費合計:9,387,326 TJ
であり、最終エネルギーの電力化率は
電力化率 = 3,165,121 / 9,387,326 = 33.72%
となります。
現状では非電力(燃料)が約2/3を占めるため、国内バイオマス資源だけで賄える燃料は原子力熱を利用しても必要量の20%以下にとどまります。
そこで将来の日本において、電力化を進めて燃料需要を削減した場合に、国内バイオマス資源と原子力熱を組み合わせた合成燃料によってエネルギー自給が成立し得るかを別項↓で定量的に検討しました。
「電力化による燃料消費の削減 -- 21世紀後半に向かう日本のエネルギー転換」
http://hori.way-nifty.com/synthesist/2025/07/post-cf7002.html
これは、2075年をマイルストーンとして、想定する電力化率と必要燃料量、ならびにバイオマス賦存量とのバランスを分析したものです。電力化と燃料削減を通じたエネルギー自給の可能性を探る試みです。
日本のエネルギー自給の全体像(NotebookLMによるコンセプト動画)↓
「日本の2075年エネルギー設計図」
(2025.07.25)



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