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「マージナル電源」と「追加性」: 新たな電力需要の環境影響

「マージナル電源」と「追加性」: 新たな電力需要の環境影響

EV導入とマージナル電源

電力系統で需要が増減すると、それに応じて発電量も増減します。この増減に対応する電力を「マージナル電力」、その供給源を「マージナル電源」と呼びます。例えば、電力需要が増加した際に化石燃料発電(石炭や天然ガス)が追加で稼働すれば、この化石燃料発電がマージナル電源となります。

電気自動車(EV)が新たに市場に導入されると、それに伴い新たな電力需要が発生します。この電力需要が化石燃料をベースとしたマージナル電源で賄われる場合、EVの環境負荷は想定よりも高くなる可能性があります。特に、電気自動車の二酸化炭素(CO2)排出量を電源構成全体の平均排出係数ではなく、マージナル電源の排出係数で算出すると、日本の現状ではハイブリッド車の方がEVよりCO2排出量が低いという結果が出ることがあります。

Ev_marginal2

このように、EVの充電が再生可能エネルギーや原子力ではなく化石燃料をベースとしたマージナル電源で賄われる場合、CO2削減効果は限定的であるため注意が必要です。

クリーン水素と追加性の要件

現在、再生可能エネルギーや原子力を活用した水の電気分解による水素製造計画が世界的に進められています。しかし、新たに水電解装置を導入しても、その電力供給が既存の電力系統から行われる場合、環境負荷の低減効果は限定的になります。

欧州委員会(EU)や米国政府は、水素製造とクリーン電力を紐づける「追加性」(Additionality)の要件を設定し、この要件を満たす電気分解装置に対して補助金や税制上の優遇措置を適用しています。これにより、新たな電気分解装置の導入によるマージナル電力がクリーン電力で供給されることを確実にしています。

EUの追加性に関する要件は以下の3点です。

  1. 追加性(Additionality
    • 水素製造施設の運用開始前36カ月以内に新設された再生可能エネルギー設備からの電力供給を受けること。
  2. 時間的相関性(Temporal Correlation
    • 水素製造と再生可能エネルギーの発電が同一の時間帯(1時間単位)に行われること。
  3. 地理的相関性(Geographical Correlation
    • 水素製造施設と発電施設が同一の電力系統内にあり、適切に電力供給が行われること。

米国のインフレ抑制法(IRA)に基づくクリーン水素の税額控除でも、EUと同様の要件が設定されています。ただし、米国では原子力発電の利用や移行期間に関して緩和措置が設けられています。

生成AIと電力需要の増加

近年、ChatGPTや画像生成AIなどの生成AIの学習・運用には膨大な計算資源が必要であり、それに伴いデータセンターの電力需要が急増しています。

デジタル技術やAI技術の活用には次のようなエネルギー効率化のメリットもあります。

  • 需要予測や電力配分の最適化
  • 物流、製造、交通の無駄削減によるエネルギー効率の向上
  • リモートワークやオンライン会議の普及による移動エネルギーの削減

しかし、これらの省エネ効果は生成AIの消費電力を完全には相殺できず、データセンターのカーボンフットプリントは増加傾向にあります。

この問題に対応するため、アマゾン、マイクロソフト、Googleといった巨大テック企業は、自社のデータセンター向けにクリーンな電源を確保する取り組みを進めています。中でも原子力発電の活用が注目されており、次のようなメリットがあります。

  • マージナル電源の排除

化石燃料によるマージナル電源を使用せず、新たな電力需要の環境負荷を低減。

  • 追加性の確保

既存の電力網への負担を増やさず、新規原子力発電によって追加の電力を供給。

このような取り組みは、増加するデータセンターの電力需要に対応しつつ、環境負荷を抑える責任ある選択と言えます。

結語

将来的に、電力がすべて再生可能エネルギーや原子力といったクリーンエネルギーで賄われるようになれば、新たな電力需要の環境負荷に関するマージナル電源や追加性の問題は解消されるでしょう。

参考文献

  • 畑村耕一,「電気自動車の普及と自動車のWell-to-WheelCO2排出量低減の施策」エンジン・レビュー(自動車技術会)Vol.9, No.6 (2019)
  • European Union, "Commission Delegated Regulation (EU) 2023/1184"
  • JETRO,「グリーン水素の定義に関する委任規則」(2023.06
  • U.S. Department of the Treasury, “Final Rules for Clean Hydrogen Production Tax Credit” (2025.01)
  • Lawrence Berkeley National Laboratory, “2024 United States Data Center Energy Usage Report” (2024.12)

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