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電気自動車の大容量電池搭載による重量は安全を損なうのか? 自動車重量と衝突時死亡率の関係

1,電気自動車と安全に関する最近の米国の報道

米国の環境対応自動車の情報サイトGreenCarReports.comに「電気自動車のエンジン自動車より余分な重量が道路安全を悪化するのか?」というタイトルの記事↓が掲載されていました。(2022年9月2日)

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これは、米国で近年自動車事故による死者が増加しており、その原因の一つが電気自動車が大容量の電池を搭載することによる重量増が他の自動車や道路使用者の危険を増しているのではないか、という内容の記事です。この記事は、その少し前(2022.08.31)にSlate.com(時事問題・政治・文化・技術などを報道する米国のオンライン・マガジン)に掲載された「自動車会社は電気自動車で致命的な過誤をしている」と題する記事↓から多く引用しています。

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これらの記事で言っていることは次のようなことです。

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8月16日バイデン大統領はインフレ削減法に署名した。この法律では電気自動車購入に7500ドルの補助など電気自動車導入促進を図っている。その翌日、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)は、2022年第1四半期の交通事故死者数は7%増の9560人で2002年以来最大になったと発表していた。

他の先進国では過去10年間に交通事故は減少しているのに対して、米国は逆でこの10年で30%増加してフランスやカナダに比較して交通事故死が2倍以上になっている。

この原因として幾つか挙げられる。例えば、米国は他の交通機関利用より自動車利用での移動が多い、自動交通カメラが少い、都市部の高速道路が多い、・・・。さらに重要な原因としては、米国ではSUV(スポーツ用多目的車)やピックアップ(小型トラック)の所有割合が多く、これらの車は大きく・重く・背が高いので、とくに歩行者や自転車の視認性が悪く衝突時に相手に与える衝撃が大きく、これらの死者は過去10年で40%増加している。

SUVやピックアップの電気自動車化はさらに重量が大きいので危険と言える。フォード社のSUVの「F-150」はエンジン車より700kg重く車重が約3トンある。

電気自動車の重さだけが安全を損なう原因ではなく、電気自動車の加速の良さも問題である。電気自動車の停止状態から60MPH(96km/h)までに加速するに要する時間では一番速いTesla Model X Plaidで2.5秒など、電気モーター駆動の特長から一般にエンジン車より格段に加速が良い。

電気自動車のこれらの問題には自動車会社や行政で解決可能なものがあり、Slateの記事の副題"It’s not too late for the U.S. to do something about it"にあるように「米国がこの問題を何とかするのは今からでも遅くない」。
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下の図は、筆者ブログ「電気自動車は重い! バッテリーはバラスト!?」 から再掲したものです。ここで引用している電気自動車(BEV)とその元のエンジン車(ICEV)の重量比較の図は2021年10月のNature誌掲載のShaffer等のペーパーから引用したものです。図では、Ford社のSUVのF-150、Hyundai社のコンパクトSUVのKona、および日産のハッチバックのLeaf Plusについて、電気自動車(BEV)と相当するエンジン車(ICEV)の重量を比較しています。

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図の「Leaf Plus」の元になっているエンジン車「Versa」は日産が海外で販売している車です。「Leaf Plus」は国内では「Leaf e+」(バッテリー60kWh、WLTC航続距離450km)として販売されており、標準型「Leaf」(バッテリー40kWh、WLTC航続距離322km)の高グレード版。道路運送車両法では乗員1人あたり55kgで計算しているので、Leaf e+は478kg増で乗員約8.5人分、標準型Leafは328kg増で乗員約6人分、同格のエンジン自動車より重いことになります。

2.自動車重量と衝突時死亡率の関係(米国の例)

自動車の重量が増加すると衝突事故時の安全性はどのように変わるのでしょうか? 一般に、重量が増えた方の車に搭乗している人の安全性は高まるが、衝突相手の車に搭乗している人の安全性は下がると考えられます。衝突する車との重量の差と被衝突車の乗員の死亡率については、次のような論文が米国で発表されており、その中で下の図のような関係が示されています。

Externalcostvehicleweight

Vehicleweightdifferencefatality

上の関係は米国8州の1980年以降の2車衝突による死亡事故の約485万データ(NHTSA所有のデータベース)から導出したものです。横軸が[衝突する車の重量―衝突される車の重量]で、この値がマイナス(左側)は衝突する車の方が軽い場合、この値がプラス(右側)は衝突する車の方が重い場合で、実線は衝突される車に搭乗している人の死亡確率、棒グラフは該当する車の割合を示しています。

この図の右半分で、1000ポンド(454kg)重い車に衝突されると同じ重量の車の場合より死亡リスクは約1.5倍に増加し、2000ポンド(907kg)重い車に衝突されると同じ重量の車の場合より死亡リスクが約2.2倍に増加します。

一例として、エンジン自動車とそれに電池を搭載して電気自動車化して重量が増えた場合について調べてみます。エンジン自動車・ICEV(1200kg)同士の衝突、このICEVと同程度の車格の中容量(40kWh)の電池搭載の電気自動車・BEV-1(1530kg)および大容量(60kWh)の電池搭載量の電気自動車・BEV-2(1700kg)が衝突する3ケースの場合について、上の図の関係が当てはまるとして車両の重量差から被衝突車乗員の死亡確率とそのリスクの同重量車衝突に対する増倍を求めてみると下の表のようになります。

Collisionriskexample

ある重量の車(この場合はエンジン車)同士の衝突の場合に比較して、そのエンジン車を元にした電気自動車(上の計算例では中容量と大容量の電池を搭載した重量の異なる2車種)が衝突した場合に、衝突された軽量の方の車(エンジン車)の乗員の死亡リスクは上の表のように衝突した車の重量に従って増加します。

上の図を提示したAnderson & Auffhammerのペーパーはそのタイトル「人を殺める重量:自動車重量の外部コスト(Pounds That Kill: The External Costs of Vehicle Weight)」が示すように車両重量の外部コスト(社会や環境など外部に影響するので支払うべきだが、市場取引に反映されていないコスト)を主テーマとしています。このような衝突事故の死亡リスクに関わる重量の車の外部コストは、米国における炭素排出による社会コストのレベルを超えるものなので、この外部コストを内部化する方策として車両重量に応じた課税などについて論じています。

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