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2019年7月

クリーン電力100%市場における原子力

カリフォルニア州のクリーン電力法案

昨年(2018年)8月下旬、米国カリフォルニア州議会の下院が、2045年までに州内の電力の100%を温室効果ガスを排出しない「カーボンフリー」のエネルギーで賄うとする法案「SB100」を可決した。この法案はカリフォルニア州議会のケビン・デ・レオン上院議員が2017年5月に起草したもので、1年半を経て州の上下両院で可決するに至った。

法案通過後、ジェリー・ブラウン知事の政治的な思惑などからこの法案の署名がどうなるか一部で心配されていたが、知事はグローバル気候行動サミット(サンフランシスコ市で開催)の直前の9月10日に署名を行い、カリフォルニア州の「2045年クリーン電力100%」法は正式に成立した。

ブラウン知事は、この署名の際に「カーボンニュートラル達成の行政命令」なるものを発表し、2045年までに電力だけでなくエネルギー全部を100%カーボンフリーにする方針を打ち上げた。これは電力の脱炭素化より格段に困難な目標だが、法律と行政命令(Executive order)の格の違いからか、こちらはあまり話題になっていない。

この「2045年クリーン電力100%」法は、これまで同州が進めてきた再生可能エネルギーを主体とする環境エネルギー政策を集約・展開したもので、CO2排出削減関連の規制としては米国内ではハワイ州の2045年までに再エネ100%電力やバーモント州の2032年までに75%再エネ電力などの政策と同じ方向のもの。

このニュースは日本の新聞やテレビでも報道されたが、テレ朝ニュースなど幾つかの報道機関では「クリーン電力100%」を「再エネ電力100%」と間違って「10日に成立した州法では、火力発電や原子力発電の割合を段階的に減らし、2045年までに再生可能エネルギーで100%賄うとしています」 などと報道していた。

世界第5の経済圏がとる現実的政策

カリフォルニア州は米国連邦政府とは別の独自の政策を進めており、例えばゼロ排出自動車(ZEV)規制に見るように以前から進歩的な環境政策を進めてきている。カリフォルニア州のGDPは米国・中国・日本・ドイツに次いで5番目の大きさであり、自動車・環境・電力・エネルギーなどにおけるその先進的政策は米国のみならず世界的にも大きな影響力を持っている。

このSB100法は同州が2002年に制定したRPS(再エネ利用割合基準)制度以降これまで進めてきた環境エネルギー政策を次のように集約・整理・展開したもの。
・ 2026年までに電力の50%を再エネで供給
・ 2030年までに電力の60%を再エネで供給
・ 2045年までに電力の100%をカーボンフリーエネルギーで供給

ここで「カーボンフリーエネルギー」とは、再生可能エネルギー(太陽・風力・小水力のほかに地熱・バイオマス・大型水力)、原子力、CCS(CO2回収貯留)付の天然ガス火力などのCO2を排出しない「zero-carbon resources」を指している。

一部報道では間違っていたが、このカリフォルニア州のSB100法は「再エネ電力100%」でも「化石燃料ゼロ」でもなく、また「クリーンエネルギー100%」(SB100は電力のみ)でもないことに注意が必要。

SB100法の前のカリフォルニア州の「2030年60%再エネRPS」法では、現在電源構成の15%を占めている大型水力を「適格な再生可能エネルギー」(eligible renewable)から除外している。当然、再エネではない州内の原子力発電(現在は2024年/2025年に停止予定のDiablo Canyonプラントのみ)、州外の原子力発電、新設の原子力発電(1976年モラトリアムでも制限)、水素発電、CCS付き化石燃料発電も除外している。

これに比べてSB100法ではCO2を排出しない発電はすべて認めており、その点で非常にフレキシブルになっている。州議会で最初は再エネ100%への流れで審議されていた法案が、CO2排出ゼロの目標に合目的的・現実的な内容で成立するに至った。

クリーン電力100%か再エネ電力100%か

「クリーン電力100%」か「再エネ電力100%」かは、現在でも議論されている問題である。米国では2015年にスタンフォード大学のマーク・ヤコブソン教授たちが出した論文に端を発した論争は訴訟にまで発展した。

ヤコブソンらは、米国において2050年~2055年には風力・水力・太陽光の電力のみで信頼性・経済性のある系統構成が可能とする論文を発表した。これに対して、著名なエネルギー・環境専門家21名が連名で反論を学術誌に掲載して、ヤコブソンらの解析は手法やモデルに過誤があり不当・不適切な仮定を用いていると指摘し、「このシナリオは興味を持たせるような仮説について不完全に行われた探索」として政策立案者にこのような再エネ100%のビジョンには注意が必要と勧告した。

この連名論文に対してヤコブソンは各項目に対して反論する論文を発表して、真正面からの対決となり遂にヤコブソンが名誉毀損の訴訟を起こすまでに発展したが、学術論争に法的な解決はそぐわないなどの議論を呼び、最終的に訴訟は取り下げられた。

「クリーン電力100%」か「再エネ電力100%」かは科学的・技術的な見解の相違だけでなく、米国の州の環境・エネルギー政策においても先に挙げたハワイ州などの「再エネ電力100%」に対してカリフォルニア州やニューヨーク州などは「クリーン電力100%」の政策をとるなど相違が出ている。

系統の再エネ割合と電力コスト

電力系統内の太陽光、風力などの変動型再エネ発電の割合が増えると、電力貯蔵と出力抑制(curtailment)が必要になり電力コストが高くなる。

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図1 米国の系統における再エネ割合による電力コスト(左軸)と出力抑制割合(右軸)の増加

この変動再エネの割合と電力コストの関係は系統の条件で変わるが、2014年以降に発表された電力系統脱炭素化の40論文の結果を検討したJenkins(MIT)のペーパーの中で変動型再エネの割合と電力コストの関係を示した図1は再エネ割合60%付近からコストの上昇が激しくなる典型的な例を示しており判りやすい。図1の右軸は再エネ発電の出力抑制を示しており、再エネ割合80%付近から急増してコスト増加の要因になっている。

脱炭素化のための電力系統構成要素

再エネ電力の短期的な変動の吸収は揚水発電・電池などのエネルギー貯蔵やデマンドレスポンスなどで可能だが、季節変動などの長期的変動の吸収を電池などで行うのはコストが掛かり過ぎて現実的でない。どうしても水力、原子力、化石燃料火力+CCS、バイオマスなどのクリーン且つ司令可能な(dispatchable)発電が必要になる。

この系統脱炭素化の分類構成について、Jenkinsは別の論文で図2のように

① 省燃料の変動再エネ(太陽光、風力、など)

② 即応型のバランス機器(短期変動対応の蓄電池、デマンドレスポンス、など)

③ 確実なクリーン発電(長期変動対応の司令可能な水力、地熱、原子力、火力+CCS、バイオマス、など) 
の3つから成るとして、系統条件に合った炭素削減の最適ミックスを計算する手法を発表している。


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図2 脱炭素系統の分類構成(省燃料変動再エネ+即応バランス機器+確実クリーン発電)

クリーン電力市場における原子力

世界的に電力系統の脱炭素化が進行しており、太陽光・風力などの変動再エネの割合は増加しつつある。このため、図2に示すように短期変動には電池などによる即応型のバランスが必要であり、長期変動には司令可能でCO2を排出しない原子力などの発電が必要になる。電力取引市場がこれらの構成要素を競争的環境で運用していくことになる。その場合原子力もフレキシブルな運転をすることにより収益を増す可能性がある。

フランスでは大型軽水炉の負荷追従運転が日常的に行われている。この技術・経験をもとに米国の電力取引市場において軽水炉のフレキシブル運転の経済性をシミュレーションで評価した例がある。

それは米国のSouthWestパワープールで原子力をNoFlex、Flex、FullFlexの3つの条件で運転した場合の評価。その結果は、FlexとFullFlex運転では20%~23%の時間は出力調整を行い設備利用率はその分下がるが、収益はFlexで+2.0%、FullFlexで+4.7%とベースロードのNoFlexより増加している。

このように、原子力は容量市場での司令可能な発電能力(kW)のあるプラントの「kW」価値に「ΔkW」価値を加えることにより、「kWh」価値のマイナスより大きくなり得る。変動再エネの割合が増えた市場では原子力のフレキシブル運転はその必要性に見合う対価を得ることになる。
クリーン電力系統の迅速な構築

パリ協定の目標「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ」ためには、世界の電力系統を出来るだけ早期に脱炭素化する必要がある。
もし世界全体がドイツと同じように積極的に再エネ電力を導入したら世界の電力系統は迅速にクリーンになるのか? この設問への一つの回答が図3に示されている。

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図3 世界の電力系統脱炭素化のスピード(再エネ導入と原子力導入の比較)

図3を見ると、ドイツの「エネルギー大転換」と同じ導入ペースを世界に適用する場合(Energiewendeの線)は世界のCO2排出量は下がらず横這い、エネルギー大転換では再エネとともに系統安定化のために褐炭・石炭の火力発電を用いているが仮に再エネのみの導入ペースの場合(EW Clean-add onlyの線)および再エネ導入の最速3年間のペースの場合(EW “Best Case”の線)は世界のCO2排出量はゆっくりと低下する程度。

これに対して、フランスとスェーデンの10年間平均の原子力導入ペースを世界に適用する場合(France NuclearとSwedish Nuclearの線)は2040~2045年頃には世界のCO2排出量をゼロにすることができる。

世界のクリーン電力系統の迅速な構築には、再エネ導入より原子力導入による方が格段に効果的と言える。

本稿は原子力システム研究懇話会の「原子力システムニュース」(2019年3月発行)の話題欄に掲載した記事を編集

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