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2019年3月

秀策の「耳赤の一手」と囲碁AI ~ 囲碁の友人への手紙

囲碁の友人の皆様へ

 

囲碁ファンの間では本因坊秀策が幻庵因碩との対局で打った「耳赤の一手」は有名ですね。

 

この一手について本因坊秀策囲碁記念館のサイトには次のように書いてあります。
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囲碁愛好家の間で今でも語り継がれている一局に「耳赤の一手」があります。棋力が著しく伸び、その名も全国に響き渡るようになった、秀策十八歳の時の逸話です。

 

 秀策は二度目の帰郷から江戸に帰る途中大阪に立ち寄り、当時準名人位(八段)として名をはせた十一世因碩と対局します。勝負は中盤まで因碩が有利な形勢で進み、秀策が長考を重ね百二十七手目を打ったその時「秀策の勝ち」を予言する男が現れます。その男は医師で、理由を尋ねる門人達に「あの一手で因碩師の耳が赤くなった。動揺し自信を失った証拠」と述べたそうです。

 

 予言通り形勢は逆転し、秀策が勝利します。この一手は、秀策の気力と天分が凝縮した究極の一手だといわれています。
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「耳赤の一手」は天元の一路上に打った黒127手目です。手合は秀策の定先です。

 

Earreddeningmove127

 

この手をAIに解析させたらどうなるでしょうか?

 

海外の囲碁ファンの間でもこの手は「Ear Reddening Move (Game)」として有名で、やはりAIの評価が気になるようです。

 

ロシア囲碁協会が2017年10月に耳赤の一手をAI解析した結果をツィッターで発信していました。AIのLeela、AQ、Rayなどの候補手として下の棋譜のA~Eを示しています。秀策の耳赤の一手(赤△)とは大分違っています。また候補手もまちまちですね。

 

Earreddeningmoveanalysis_russiangoa

 

ただ、秀策の頃はコミなしですが、AIの多くはコミ7.5目の中国ルールを用いているので、その違いはどのくらいかは判りませんが候補手に影響することは認識しておく必要があります。ここに紹介するAIの解析はコミありの碁としてのものです。

 

AIソフトも計算機のパワーも日進月歩です。今年(2019年)1月にExplore Baduk(囲碁探究という意味)のサイトに最近のAIを使用した解析が出ていました。

このサイトはブルガリアのSinan Djepovという18歳の少年が出しており、彼は既に欧州囲碁連盟登録者900人中20位のランクで欧州ユース囲碁チャンピオンになっており北京に囲碁留学もしています。

 

このサイトの記事によると、最近のAI各種で数十万回以上の探索をしても「耳赤の一手」は候補に上がってきていません。これらの評価で面白いのは、異なるAIでは異なる候補手と評価値を示していることで、この局面の選択肢の多さと囲碁の奥深さを示していると思います。

 

強力なAIを使用して探索数を増加していくと、新しい候補手が現れてきます。Leela(40Blocks Network199)による220万回にのぼる探索の結果は左上の這い(青◯)のみを候補手として示しています。この手の勝率は黒の15.8%となっていますが、コミなしの場合に換算すると黒が有利の可能性があるようです。なお、碁盤全体に数字が出ていますが、これは大橋拓文プロの記事に出ていた「じんましん」と呼ぶ状態で(他に)有力な候補手がなくAIが全探索モードに入った時に表示されます。

 

40blocks1991024x550

 

上の写真の左側に小さな棋譜が出ていますが、これは候補手を選択した後の変化の一例を示したものです。この棋譜をよく見ると13手目に「耳赤の一手」が出てきています。

 

著者のDjepov君も"It plays the Shusaku move after some exchanges on the left ! Indeed it is completely different than playing it first, but to me it was quite exciting to see it anyway being played."と「耳赤の一手」の発見に興奮しています。

 

この記事では「耳赤の一手」の評価として、この手を打った場合のAIによる勝率の変化も見ています。この手は勝率マイナス4.3%と出ており、著者も「決して悪い手ではない」と書いています。なお、「耳赤の一手」を打った後のAIによる白の次の手の候補は左上のハネ出しで、幻庵因碩が実際に打った手と一致していす。

 

「耳赤の一手」に関するAI解析の最新の情報はSensei's Libraryの"Ear-reddening Game"に出ています。

 

追記1:実験的"コミなし"Leelaによる解析

 

通常のLeela Zeroはコミ7.5目に設定されており、上の例でもその条件でコミなしの「耳赤の一手」局の解析を行っています。

 

一方、Leela Zeroソフトのコミを変更する試みも行われており、GitHubのサイトにその方法(Dynamical "komi")が報告され、Redditのサイトにその概要(NEW APPROACH SUCCESS!)が紹介されています。

 

このLeelaをコミなしにする方法を使って「耳赤の一手」局の解析を行った結果が"Life in 19x19"(囲碁関連の交流フォーラム)のサイトに"Experimental LeelaZero"のタイトルで掲載されています。使用したLeela Zeroはバージョン0.4・Network153です。このコミなしLeelaでは初手の黒の勝率は60%になるようです。

 

「耳赤の一手」(127手目)のコミなしLeelaによる解析結果は、下の図のように第1候補の手はコミ7.5目Leelaの場合と同じ左上の這いでした。この勝率は57.5%と黒有利な形勢になっています。その他の候補手は下辺の遮り(56.1%)、中央右の伸び(55.6%)、左辺の肩付き(55.4%)などコミ7.5目Leelaの解析と似たような候補を示していて、◯の「耳赤の一手」は候補に上がっていません。

 

Earrednokomileelas

 

このAIに「耳赤の一手」を打たせてみた場合は黒の勝率は51.8%と約5%低くなっていました。原文ではその後の手についてもAIに解析させた結果を出しています。
(2019.03.06)

[追記2] ELF OpenGoによる解析


Facebook社は囲碁AIソフト"ELF OpenGo"の開発を行っています。このソフトを紹介しているブログの中に「新しい ELF OpenGo と歴史的囲碁対局の解析」の英文記事が掲載されており、この中に「耳赤の一手」の解析結果が出ています。

Elf_ear-reddening

上の盤面で白126の次に黒の秀策が打った手が「a」の「耳赤の一手」ですが、ELF OpenGoが推奨する手は左上の「b!」とのこと。他の囲碁AIの結果とも一致しています。(2019.05.16)

 

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