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2017年9月

ブロックチェーン技術のエネルギー分野での利用

ビットコインから始まったブロックチェーン技術

「ブロックチェーン」(Blockchain)とは、電子通貨の「ビットコイン」の発明・発展とともに広まった技術で、これまでの金融取引が図1の左側のように中央管理型のデータベースに記録されるのに対して、ブロックチェーンでは右側のように取引記録がネットワークに参加しているコンピュータ全部に分散されて保存される。

図1の下側のように、記録がブロックにまとめてチェーンで繋がるように保存されることから「ブロックチェーン」と呼ばれ、従来の方法に比べて「改ざんが極めて困難なので安全確実(セキュア)、リアルタイムの自動処理なので迅速、システム構築費用が安く運用も低コスト」などの特長を持つ。

図1 ブロックチェーンとは (参考1参照)

Photo
このような特長から、決済・送金など金融ビジネスの多くの分野でブロックチェーンの利用検討・技術検証が始まっている。また、金融以外のいろいろな分野でブロックチェーンの分散型情報処理・記録技術を利用する試みが行われている。

電力系統へ適用する試み

エネルギー・電力の分野でも、「確実」「迅速」「低コスト」という特長を持つブロックチェーンを取引/情報処理/記録などいろいろなサービスに利用する検討がなされており、2016年初めころからそれらの実証・実用化が始まっている。

最初の試みは、2016年4月ニューヨーク・ブルックリンの住人2名の間での太陽光電力の販売・購入の取引にブロックチェーン技術を試用した実験。通りを挟んだ2軒の片方で発電した電力をもう一方の家が買う電力取引・決済に、ブロックチェーン技術を適用するデモを行った。これには、ブロックチェーン用にオープンソースで開発されたソフトの「Ethereum」が用いられた。

2016年5月には、米ナスダック社が太陽光エネルギー市場におけるブロックチェーン利用の方式を発表している。太陽光などの自然エネルギーには電力を証券化した「電力証書」の取引を行う市場があり、これを同社が開発したブロックチェーン利用のプラットフォーム「NASDAQ Linq」を用いて取引し市場を活性化するとしている。ナスダックのデモでは、西海岸で発電された太陽光電力をニューヨークでリアルタイムで購入し取引が正常に完了するのを示した。

ブロックチェーン技術は、太陽光・風力のような分散型・変動型の再生可能電力を、これまでのように電力会社が中央管理する方式ではなく、発電端と需要末端がpeer-to-peer(P2P)で直接取引し、これをスマートに処理するのに適している。このようなブロックチェーン技術を組み込んだ電力系統の構想も出ており、図2は新エネルギーの調査機関BNEFによる「Gridchain」構想である。

図2 BNEF Gridchain構想 (参考2参照)

Bnef_gridchain

この図は、分散している各種発電機器と需要端の家・自動車・ビルやマイクログリッドとの取引をブロックチェーンを利用してP2Pで直接行い電力や炭素価値の決済を行う構想を示したもの。

自動車充電でも利用

電力系統から電気自動車へ充電する場合の課金取引にブロックチェーン技術を利用する方式の開発も行われている。これはドイツの電力会社RWEの子会社のinnogy社による「Share&Charge」という方式。

この方式の構成は、①電力系統に接続された電気自動車用充電機に「スマートプラグ」という名前の充電機同定と充電量把握の機能をもったデバイスを取り付け、②自動車ユーザーのスマートフォンにインストールされたEthereumベースの専用アプリが充電取引を行ってそのデータをネットワークに送信し、③ブロックチェーンが取引の決済と帳簿保管をするもの。これにより、充電サービスに伴う課金・決済の手間を簡便化して、少額の取引が多い充電のコスト削減ができる。

2016年6月から実証試験を始め、2017年5月からドイツの電気自動車用充電網(100箇所以上)で実際にShare&Charge方式の使用を開始している。なお、この方式は普通充電(200V~240V)を主対象にしており、公共用のほか課金・決済が難しい個人所有の充電機を充電網に組み込むことができる。将来は系統との双方向の電力流通を行うことにより、充電のみならず自動車エネルギーによる系統の安定化などの調整サービスも可能になる。

エネルギー分野での利用可能性

ブロックチェーン技術のエネルギー分野における利用可能性については、ドイツエネルギー機構denaとビジネススクールESMTの2機関がドイツのエネルギー産業界の役員クラスへの調査を行い、産業界の意見や、実施中・計画中のアクション、将来ビジョンをとりまとめている。(参考3参照)

調査に応じた70人の半数以上は既にブロックチェーンに関するプランを実施中または計画中で、その回答は、①21%がブロックチェーンは「ゲームチェンジャー」、②60%がさらに普及する、③14%が特定分野で利用可能、④5%が利用可能性なし、となっている。

可能性のある利用分野に関する調査の結果が図3の円グラフに示されている。円の大きさは回答数の多さを示し、円の色の濃さは利用の効果への期待の高さを示したもの。回答数が多かったのは、直接取引(P2P)、課金(Billing)、取引基盤(Trading platforms)などでの利用、利用効果への期待の高かったのは、安全確実性(Security)、分散型発電(Decentralized generation)など。

図3 エネルギー分野での利用可能性調査結果 (参考3参照)

Potentialusecase

回答内容を分析した結果として、ブロックチェーン利用によるコスト削減の可能性には限度があり、デジタル化により効率化が既に進んでいる分野では競争が厳しく、自動車充電の課金取引のように未だ市場が確立していない分野では可能性が大きいとしている。

分散型の再エネ電力・電池システムの集約に適用

地球環境からの制約が厳しいこれからのエネルギー・電力の供給は、化石燃料からカーボンニュートラルの再生可能エネルギーや原子力へシフトすることになる。太陽光や風力発電は天候まかせの変動型電力であり、一方原子力発電は定格出力運転が経済的・技術的に有利なベースロード電力である。火力発電の出力調整機能が使用できない将来の電力系統においては、供給変動・需要変動への対処は電力貯蔵に頼ることになるが、現在主流の揚水発電方式に加えて将来はリチウムイオン電池などの蓄電池方式の利用が大幅に増加すると見られている。

既に海外では、FITなどの再エネ発電の買取優遇制度の変更から、太陽光電力の自家消費・ピークシフトにより各発電端の経済性向上が可能な太陽光発電と蓄電池を組み合わせたシステムの発電端への導入が進んでいる。さらに、大手の電力会社・送電事業者がこのような分散型の発電・蓄電池システムを束ねて電力系統の調整力として利用する動きも出ている。

最近、この電力系統の安定化のための発電・蓄電池システムの集約にブロックチェーン技術を利用するプロジェクトを、欧州の大手送電事業者TenneT社とドイツの定置型蓄電池開発製造企業のsonnen社とブロックチェーン技術のIBM社の3社共同で行うと発表があった。(参考4参照)

このようなブロックチェーン利用技術が実用化すると、地域~家庭に分散導入されている風力・太陽光発電による変動電源と蓄電池(定置型および自動車搭載)から成る多数のシステムを電力系統と連系させて、各発電端と電力系統を統合して最適運用・効率化を図ることが可能になる。

今後も、エネルギー分野でブロックチェーン技術の「確実」「迅速」「低コスト」の特長を活かしたいろいろな新しい利用が進むものと期待している。


[参考]

1 図1の出所:経済産業省「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」報告書概要(2016年4月)
2 図2の出所:Michael Liebreich, BNEF. Anna Hirtenstein and Weixin Zha,"Bitcoin Technology Harnessed to Push Electricity Revolution"(2016.09)https://www.bloomberg.com/
3 2016年11月に発行した ”Blockchain in the energy transition -- A survey among decision-makers in the German energy industry“(エネルギー過渡期におけるブロックチェーン -- ドイツのエネルギー産業の政策決定者への調査)と題する全43ページの英文資料
4 大場淳一「蓄電池を「ブロックチェーン」で集約、再エネを安定的に利用」日経テクノロジー(2017年5月)

{注] 本稿は原子力システム研究懇話会発行・原子力システムニュースVol.28 No.1 2017年6月号に掲載した原稿を元に作成した。同じ内容の記事はユニバーサルエネルギー研究所のニュース配信・コメンタリー欄にも掲載した。


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