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《自動車から家・ビル・電力系統への双方向電力流通サービス》 V2Xの基本的事項と成功のための7つの要件

《自動車から家・ビル・電力系統への双方向電力流通サービス》
V2Xの基本的事項と成功のための7つの要件

自動車から電力系統への電力流通サービスは、自動車から電力を出すという意味で「Vehicle-to-(供給先)」と呼ばれており、略して「V2H」(Home、家)、「V2B」(Building、ビル)、「V2G」(Grid、電力網)、「V2L」(Load、負荷)と記され、これらを総称して「V2X」と表記される。

プラグインハイブリッド車や電気自動車の電池は大きな電力(パワーkWとエネルギーkWh)を持っており、また自動車は平均して1日24時間の内1時間程度しか稼働していないので、これら自動車が駐車中の23時間にその大きな電力をナノグリッド、マイクログリッドから商用グリッドまでの各種電力系統で利用することにより電力系統をよりスマートに効率的に運用することが可能になる。

ここでは、自動車から家、ビルディング、電力系統などの負荷への双方向電力流通サービスに関わる基本的な事項を説明し、これら自動車の双方向電力流通サービスを実用として成功させるための要件を示す。

なお、本稿は筆者による次の講演内容を整理したものである。

①「自動車による電力サービス(V2X)」 日経BP・Smart City Week・SCW2012 「V2H/V2G最前線・自動車が切り開くスマートコミュニティー社会」 パネルディスカッション(2012.10.31)

② 「地域のエネルギーシステムにおけるEV・PHVの新たな役割 – 期待される役割と課題、その将来性 – 考え方などの整理」 経済産業省・次世代自動車振興センター主催「EV・PHVタウンシンポジウムin大阪」 パネルディスカッション (2012.11.22)
筆者の講演スライド

A. 双方向電力流通サービスに関わる基本的な事項

1,自動車・電力系統の連系に用いられる車種

Slide1_2電力系統と電気的に接続可能な車種は、図表1の「次世代自動車」(エネルギー・環境対応型自動車)の中でも、「電動自動車」に分類されるハイブリッド車(以下、HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)および燃料電池自動車(FCV)の4車種である。

この電動自動車の中でも系統電力を自動車駆動用電池に充電して走行するPHEVとBEVは設備および設定の追加により系統との双方向の電力流通が可能になるので、自動車・電力系統の連系における最も重要な車種と見なされている。なお、PHEVとBEVの2車種を合わせて「プラグイン自動車」(Plug-in Electric Vehicle, PEV)と呼ぶ。

2,電動自動車のエネルギー・環境的な特長

次世代自動車は従来型のエンジン駆動の自動車よりエネルギー消費が少なく且つ環境影響が小さい特長がある。ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車などの電動自動車をガソリンエンジン車と同じ条件下で比較したJHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)の総合効率検討作業部会報告書(日本自動車研究所発行2011年3月)によると、図表2(下図)のように電動自動車(とくにプラグインハイブリッド車と電気自動車)の走行距離当たりの一次エネルギー投入量(左側の図)および炭酸ガス排出量(右側の図)はエンジン自動車より低くエネルギー・環境効果に優れていることが判る。

走行のエネルギーで見ると、ハイブリッド車はガソリンなどの石油製品により、燃料電池車は主に天然ガスなどの化石燃料による一方、プラグインハイブリッド車は石油製品と系統電力により、電気自動車は全て系統電力によるので、プラグインハイブリッド車と電気自動車などのプラグイン自動車ではエネルギー消費とCO2排出が少なくなる上に一次エネルギー源の多様化が可能になる。

Primaryenergykm_2Co2km_2


3,プラグイン自動車の充電に必要な電力

Slide3日本の自動車が将来電動化された時の使用電力は図表3のように、日本の乗用車が全部BEVになった時は全発電量の8%程度、全部PHEVになった時は全発電量の6%程度なので、車への充電を夜間8時間で行うとすると必要な発電量は20GW~29GWとなる。

日本は最大需要180GWの供給に十分な設備を現在有しており、夜間需要が90GW~120GWなので現有の設備で将来の自動車電動化の際の充電に対応できる。ただし、充電が集中しないような制御は必要であり、これは自動車・電力系統のエネルギー連系システムに組み入れて調整・制御を行なっていくことになる。

4.自動車電力の特長: kWh(エネルギー)よりkW(パワー)

Slide4自動車電力の特長は、電池が保有するエネルギー(kWh)より電池が供給できるパワー(kW)の大きさにある。

図表4は1台のプラグイン自動車の電池が供給できるパワーを15kWとして乗用車全部がプラグイン自動車になった場合の全供給電力を計算したもの。日本も他の主要国と同様に自動車が持つパワーは全発電電力(GW=100万kWの単位)の7倍程度以上の大きさになっている。

自動車の消費電力の大きさが全発電量(kWh)の数%(図表3)であるのに対し、自動車の供給可能なパワーは全発電電力の数倍あり、平均的に1日23時間は駐車中の自動車のこの大きなパワーを電力系統へのサービスに利用する価値は大きい。


5.自動車による電力サービス

Slide5自動車による電力のサービスには、図表5のように停電などの非常時の電力供給サービスと定常的な電力融通サービスがある。このようなサービスを、自動車から電力を出すという意味で「Vehicle-to-(供給先)」と呼び、略して「V2H」(Home、家)、「V2B」(Building、ビル)、「V2G」(Grid、電力網)、「V2L」(Load、負荷)、「V2X」(総称)などと表記する。

非常時の電力供給が短時間(数十時間以内)の場合はBEVを利用できるが、長時間(数日間以上)の場合は電池の保有電力に限度があるために燃料タンク(ガソリン、水素)を有するHEV、PHEV、FCVなどを利用する。

定常的なサービスは系統の電力変動を抑制する目的が主であり、この場合の電力融通はパワー(kW)は大きいが短時間で双方向(アップ・ダウン)になり電池の充電率(SOC)の変動は小さい。

自動車・電力系統の連系エネルギーシステムにおける広範な電力サービスの必要性を想定すると、PHEVは最適の車種と考えられる。


6.自動車と系統との接続

Slide6プラグイン自動車は、図表6のように時間・場所・機会(TPO)に適した方法で充電される。充電インフラは、①車の定置場所での普通充電(AC 100V、200V)、②走行の目的地における普通充電または急速充電(DC)、および③走行の経由地における急速充電から構成される。

車の定置場所(普通は家)の次に勤務先における充電がBEVの航続距離延伸やPHEVの電力走行割合の増加に効果があるので、米国では官民で勤務先充電設置のキャンペーンが進められている。

Slide7勤務先に充電設備があるとプラグイン自動車の系統との接続時間が増加するので、充電の機会・時間の増加とともに自動車の電力サービスに利用可能な時間も増加する。図表7は米国の自動車の走行統計から推定した自動車の系統接続率(ある時間に系統に接続されている車の全体に対する割合)の時間変化を示したもので、家での充電に加えて勤務先充電があると系統接続率の最低値が63%から83%に20ポイント向上することが示されている。Evsenaming1


世界の充電コネクター

下の写真は、米国のコンサルタント機関EVI(Electric Vehicle Institute)が作成した世界の充電用プラグとコネクターを一覧できるポスター。このポスターのPDFファイルはここからダウンロードできる。(2015.01.05追記)
Eviconnectors


7,通信制御・双方向電力流通パワーエレクトロニクス

Slide8車載のパワーエレクトロニクスに双方向電力流通機能を持たせ、プラグイン自動車が駐車して系統と接続している間は系統側からの通信による指令を受けて充電/放電をさせることにより、自動車と電力系統の連系が容易になる。

米国のAC Propulsion社はこのような機能を持ったパワーエレクトロニクス(図表8)を開発してきており、米国で進行中のV2Gの実証試験では実際に使用されている。V2Gを本格的に行うためには、このような通信機能のある車載の双方向電力流通パワーエレクトロニクスをプラグイン自動車に装備する必要がある。

自動車と系統との双方向の電力流通には200V(米国では220~240V)の普通充電接続が適しており、電流は系統側が許す範囲で大きい方が効果が大きい。米国自動車技術会の充電規格SAE J1772のAC Level 2は最大80A(19.2kW)まで規定しており、米国の多くの充電設備が30A(6.6kW)対応となっているので、将来この容量でのV2Gが想定される。(日本の充電設備は現在15A・3kW対応なので、充電時間やV2G対応から問題がある)

8.自動車の電力サービスの対価

Slide9自由化された電力取引市場においては、電池からの早い応答の電力サービスに対してそのサービス価値に見合う対価が支払われる仕組みになっている。定常的サービスで最も価値が高いのは電力系統の周波数などを安定化する「アンシラリーサービス」へのV2Gである。

図表9は、米国の独立電力系統運用期間(ISO)におけるアンシラリーサービスの取引価格の実績例で、早い応答の周波数制御へのサービスが最も高価となっている。これらの価格は電力量ではなく接続している時間に対して支払われる値である。

Slide10このような自動車の電力サービスへの対価によって、自動車オーナーは自動車保有の総費用(Total Cost of Ownership、TCO)を削減することが可能となる。図表10は各種自動車の購入費用とエネルギー費用の総額の比較イメージで、V2G可能なPHEVの購入費用は最も高いがガソリンや電気などの出費よりもV2Gサービスで受け取る対価が大きくなり、図に示すように車の使用に伴い総費用が低下する傾向が想定される。

9,自動車の電力サービスによる太陽光発電の安定化

Slide11日本の計画の2020年~2030年の太陽光発電導入量2800万kW~5300万kWに対し,その7割の2000万kW~3700万kWの変動が想定されており、系統安定化のためのピーク電力用発電設備が必要とされている。これに対して,プラグイン自動車の導入予想からV2Gによる安定化効果を評価すると図表11のようV2Gによる太陽光発電変動の調整が可能なことが判る。

B.  双方向電力流通サービスが成功するための7つの要件

前節で述べた双方向電力流通サービスに関わる基本的事項から、このサービスが実用として成功するための7つの要件を挙げて、以下に示す。

1. V2Xのそれぞれの目的に適ったタイプの電動自動車を使用すること

V2Xに適した車種は、電動自動車の中でも系統から充電が可能なタイプの自動車(プラグイン自動車、Plug-in Electric Vehicle、略称PEV)でプラグイン・ハイブリッド車と電気自動車の2型式である。その中でも電欠・航続距離不安がないプラグインハイブリッド車はV2Xにおける制約が少ないので最も汎用的に使うことができる。

2. 自動車電池が保有するエネルギー(kWh)を供給・利用するよりも、電池が供給可能なパワー(kW)の利用を主にすること

電力系統から見た時の自動車電池の特長は、保有するエネルギー(kWh)よりも供給できる高応答速度のパワー(kW)にあり、このパワー(kW)を電力系統で利用する時はその価値は高い。

3. 勤務先における200V普通充電のインフラを整備し、双方向流通の電力を可能な限り大きくすること

自動車と系統が接続(プラグイン)している時間は、平均的に定置場所である家の次に勤務先が長い。また、双方向流通の電力は大きい方が効果的なので、欧米並みの200V・30A・6kW級が望ましい。

4. 車載のインバーター/パワーエレクトロニクスに充電・放電の双方向電力流通機能を持たせ、流通先からの指令に従ってV2X可能な構造にすること

現行の多くの車載のインバーター/パワーエレクトロニクスでは、別途充放電可能なパワーコントロールユニットが必要なためV2X実用にはコスト・運用上の制約が多い。米国のV2G実証試験で使用しているような車載の通信指令によって作動する双方向充放電可能なパワーエレクトロニクス・ユニットが望ましい。

5. 自動車・電力系統を統合してV2Gを運用する場合は、自動車と電力系統を統合して運用する技術・制度および自動車から系統への電力サービスの対価の清算・支払の方式・制度などを確立すること

自動車・電力系統間の双方向電力流通による統合運用の方式・制度は、電力の発電・送電・配電の制度に含めて公共政策として確立する必要がある。例えば、自由化された電力市場のアンシラリーサービスにおいて、電池のような高応答速度の電力サービスに対してその価値に見合った価格が設定される仕組みなど。

6. 太陽光・風力発電などの変動安定化にもV2Gを利用する仕組みをつくること

太陽光発電や風力発電は天候の変化によって定格出力の相当な割合の変動が想定されており、系統安定化のためにこの変動分を他の発電設備から補うなどの調整が必要であり、自動車電池もその役割を担うことが期待されている。これについてもアンシラリーサービスの場合と同様に利用する仕組みをつくる必要がある。

7. 自動車と電力系統を連系・統合したトータルシステムとしてのグランドデザインから実証までの開発を関連業界が共同して実施すること

米国では数年前からV2Gの試験・実証が大学・電力会社・系統運用機関(ISO)が共同して実際の電力系統と電動自動車を使用して実施されている。また、最近は米国の電力会社・系統運用機関15社と自動車メーカー8社の共同による電力系統からの指令による充電制御の実証も始まっている。このような、電力会社・系統運用機関・自動車メーカーなどの関連業界が共同して自動車と電力系統を連系・統合したトータルシステムとしてグランドデザインから実証までの開発を実施していくことが必要である。

参考 本稿に関連する資料へのリンク

プラグイン自動車・電力系統間の双方向電力流通システム-そのコンセプトと効果
勤務先充電の重要性と米DOE・EDTAのチャレンジ
米国自動車技術会の新しい充電規格、コンボコネクターとは
自動車―電力系統のインタラクション ? 自動車が系統に接続される割合は?
エネルギー・環境対応型自動車の分類・呼称・略称
自動車から電力系統への電力融通(V2G)
電気自動車導入による電力需要増加
電気新聞で対談 「プラグインハイブリッド車を展望」

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コメント

非常に詳細なデータありがとうございます。

ただし、出典

ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車などの電動自動車をガソリンエンジン車と同じ条件下で比較したJHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)の総合効率検討作業部会報告書(日本自動車研究所発行2011年3月)

ということで、これは原発が稼働していた時代の古すぎるデーターです。すでに5年前です。

東北震災後少なくとも我が国では原発が全国でごく僅かしか(川内の2基90万kwhx2)のみであり、電気自動車の電気は大半が火力発電です。炭酸ガス排出はかなり増えていると思います。現在電事連が発表している電気事業者別排出係数は、沖縄電力以外はインチキだと思います。(原発が止まっているのに増えていないから)

とすれば、残念ながら、力作であるこの項の前提が成り立たっていません。

現在熊本地方では震度7級地震が3回起きており、最大加速度は1000ガルを遥かに超える1500ガル程度でした。

今後、熊本地震のデータから、1500ガル以上の安全性が前提となり、原発の再稼働は以前にもまして困難になると思います。

貴重な時間を割いて計算されるのであれば、日本自動車研究所発行2011年3月なんて古いデータを使われるのは無駄だと思います。

投稿: ドクトルT | 2016.05.06 10:54

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