« 地球規模炭素管理のための大気中CO2の除去 -- ネガティブ・エミッション技術 -- ジオエンジニアリング | トップページ | ZEVの新カテゴリー「BEVx」とは? 小型エンジンと9リッター燃料タンク  BMW i3 RExとマツダ・デミオ・RE »

米国EPAのユーティリティファクターとPHEVテストデータ: メモ

EPAの燃費ラベル規則改定

Epafinalrule2011年7月に米国の環境保護庁(EPA)と運輸省(DOT)高速道路安全局(NHTSA)は、2012年以降販売される全ての新車(乗用車および小型トラック)に貼ることが義務付けられるウインドーステッカー(自動車燃料経済ラベル、Monroney sticker)に関する規則の改定を公布した。この規則改定は電気自動車やプラグインハイブリッド車などの系統電力を使用する車の本格普及に備えたもの。

EPAはこの規則の改定の1年前の2010年8月に規則改定案を提示して業界や消費者からのコメント・意見を募集し、それらを踏まえて上記の規則改定を行った。この規則改定案は電気自動車やプラグインハイブリッド車などの新型の車の燃費表示に関するEPAの提案とそれに至る外部を含めた検討の経緯・内容と改定の意図・内容も含めて、綿々と242ページに亘って説明したもの。これについては本ブログの「新車に貼るステッカーの案をEPAが発表、プラグインハイブリッド車用も。広く意見を募集中」の記事で紹介している。

EPAは、2011年7月の上記規則改定の公布に際して、規則改定案に対して提出されたコメント・意見とそれに対する応答・見解をまとめた369ページの「Response to Comments」を公表している。

規則改定案の作成経緯・意図・内容の説明から、それに対するコメント・意見を整理して公表、そして規則改定の決定公布まで、この種のルール決定におけるステークホルダーの意見を集約・反映する米国の丁寧なプロセスには感心させられる。

PHEVの燃費表示に関係するユーティリティファクター

Ufstatistical4_2[注: ユーティリティファクター、CDレンジ、CSレンジ、PHEV燃費などの基本的な事項については下記を参照されたい。
  「プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- ユーティリティファクタ,電力・ガソリン等価合成の考え方」自動車技術会の会誌「自動車技術」の2014年7月号掲載の解説記事
  「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領
  「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」]

公布された燃費表示の規則改定の中で、プラグインハイブリッド車(PHEV)の燃費に関係するユーティリティファクアー(UF)としては米国自動車技術会(SAE)が2010年9月に発行した規格SAE J2841で定義される値を使用することを決めている。

J2841では、従来から用いられてきたフリートUF(Fleet Utility Factor, FUF)とは別の個別UF(Individual Utility Factor, IUF)を定義している。従来からのFUFは車両の走行に関する統計データから

FUF={全車の系統電力による走行距離÷全車の系統電力とガソリンによる走行距離}
で求めていたが、IUFは
IUF={(各車の系統電力による走行距離÷各車の系統電力とガソリンによる走行距離)の全車平均}
を求める方法としている。

SAEとEPAの説明によると、FUFは集団の平均の燃料消費やCO2排出を推定するのに向いており、IUFは平均的なユーザーの燃料消費やCO2排出を推定するのに向いている。

この2つの統計処理方法により2001年の全米世帯旅行調査(NHTS)の自動車走行統計データからUFを求めると、右図に示すように新定義のIUF(多数日Multi-dayのデータを処理するので「MDIUF」と表記)の値は従来のFUF値よりUF=0.5近辺で15%程度高い値になっている。このことはUFの算出において適切な統計処理方法を用いることの重要性を示唆している。なお、J2841では1日のデータが主であるNHTSの統計データを「Commute Atlanta」(アトランタ市で実施された多数日の追跡調査)のデータで補完している。

Saej2841mdiufEPAのPHEV燃費計算で使用されるこのJ2841によるユーティリティファクターMDIUFを左図に示す。横軸のCDレンジ(Charge Depleting Range、系統電力で充電した電池による電力走行距離)は400マイルまでで、400マイル以上はUFは1.0となる。

EPAテストのデータファイルにおけるPHEV燃費部分

Epaufdata2EPAでは燃費テストの結果をデータファイルにまとめて公開しており、2014年データファイルに記載されているPHEVは次の7車。

◉ Cadillac ELR
◉ Chevy Volt
◉ Ford C-Max Energi Plug-in Hybrid FWD
◉ Ford Fusion Plug-in Hybrid FWD
◉ Honda Accord Plug-in Hybrid
◉ Porsche Panamera SE-Hybrid
◉ Toyota Prius Plug-in Hybrid

この7車のPHEVの燃費・CO2排出およびユーティリティファクターの部分を抜粋して右図に示す。この部分は自動車メーカーのPHEV計算スプレッドシート(表計算ファイル)からEPAが公開用に抜粋したもので、スプレッドシートそのものはメーカーの所有物のため公開されていない。

右図の「Charge Depleting Driving Range」の欄に都市Cityと高速道路Hwyとそれらを複合したCombinedのCDレンジの距離が出ており、SAE J2841によるCDレンジとMDIUFと関係から各距離に相当す るMDIUFを求め、これらの値が「Individual Utility Factor」の欄に示されている。

UFが決まると、CDレンジの電費とCSレンジ(Charge Sustaining Range、ハイブリッド走行レンジ)の燃費から、PHEV合成燃費とPHEV合成CO2排出量が算出され、それぞれ「PHEV Composite MPGe」、「PHEV Composite CO2」の欄に示されている。

なお、米国EPAが認定したPHEV用のウィンドウステッカーの現行デザインでは、CDレンジの電費を発熱量で等価のガソリン燃費(MPGe)とし てCSレンジの燃費(MPG)と並べて表示しているが,両レンジの燃費をUFで合成したPHEV合成燃費は示されていない。しかし,ラベルに記載されている年間燃料費用や5年間節約金額などの算出にはUFを用いて計算したPHEV合成燃費が用いられている。

ここで注意する必要があるのは、ウィンドウステッカー記載の数値はユーザーが実際の条件(Real World)で達成可能と考えられる数値をより正確に反映するための「調整手順」(Adjustment Procedure)を経たものであること。プラグインハイブリッド車では、SAE J1711(HEV・PHEVの排ガス・燃費測定の推奨方法)によるテストで得られたCDレンジの燃費や距離などには0.7を乗じ、CO2排出量は0.7で除したものを記載する。なお、CSレンジの調整手順は従来車と同じ。

この「0.7ファクター」は実際の条件であり得る積極的(aggressive)運転、エアコン作動、その他の因子を考慮したもので、電気自動車およびプラグインハイブリッド車のCDレンジに適用される。自動車メーカーがEPAの事前承認を得ればこれ以外の調整方法も可能であるが、大部分は「0.7ファクター」の調整手順を選んでいるようである。

Blendedモードでは「All Electric Range」より「等価All Electric Range」を

Priusphv_epa_labelEPA の2014年燃料経済データファイルに掲載されている7車種のPHEVの内、Cadillac ELRとChevy Voltはレンジエクステンダー型のシリーズPHEVだが、他の5車種はパラレル型PHEVなのでCDレンジにおいて要求出力が設定より大きい時はエンジンが作動する所謂Blendedモードになる。

5車種のパラレル型PHEVの内、EPAの試験条件でBlendedモードになったのはPrius Plug-in HybridとPorsche Panamera SEの2車種で、他の3車種はCDレンジにおいてエンジンが作動しないAll Electric(AE)モードであった。CDレンジにおけるガソリン消費率は、一番右の欄の「PHEV Charge Depleting Fuel Consumption」に示されており、ここがゼロになっている車はAEモード、数値が記載されている車はBlendedモードの車である。

現行のEPAの規則では、ウィンドウステッカーに「All Electric Range」の値を記載することになっており、シリーズ型PHEVではこの値はCDレンジと同じで、パラレル型PHEVでもCDレンジでエンジン作動がなければCDレンジと同じ値になるが、パラレル型PHEVでエンジンが作動して Blendedモードになった場合は「エンジンが作動した時点の走行距離x0.7」の値を「All Electric Range」として記載する。[左の写真はPrius Plug-in HybridのEPA燃費情報を記載したウィンドウステッカー] Prius Plug-in Hybridでは「All Electric Range = 6 miles」となっており、「0.7ファクター」を用いて逆算すると6/0.7=8.6マイル近辺でエンジンが作動したものと思われる。

筆者は、パラレル型PHEVの場合にCDレンジでエンジン作動までに走行した距離(表示数値はその0.7倍)である「All Electric Range」はテスト条件設定に依存する値なのでウィンドウステッカーに記載する意味は少なく、むしろCDレンジでエンジン作動があっても、エンジン駆動分を差し引いた充電電力のみで走行した距離を表す「Equivalent All Electric Range」(EAER等価EVレンジ、EV走行換算距離などとも呼ばれている)を記載した方がユーザーに示す情報として意味がある、と考えている。同様の意見は規則改定案に対して提出されたコメント・意見の中にも出ている。

上記Prius Plug-in Hybridの場合のEPAテスト結果(Combined)のCDレンジの燃費0.2ガロン/100マイルとCSレンジの燃費の2.0ガロン/100マイルから、Prius Plug-in HybridのEAER(等価EVレンジ)=(1-GPM@CD/GPM@CS)xCDレンジ= (1-0.2/2)x11= 9.9マイルと計算される。

そして、Blendedモードの場合のユーティリティファクターUFは、UFの定義曲線図において横軸のCDレンジの代わりにこのEAER(等価EVレンジ)の値を用いるのがUFの定義に適うので、上記Prius Plug-in HybridのEPAテスト(Combined)の場合のUFは、CDレンジ=11マイル → UF= 0.29 の代わりに、EAER(等価EVレジ)=9.9マイル → UF=0.27 となる。

Porsche Panamera SEの場合は、EPAテスト結果(Combined)のCDレンジの燃費0.5ガロン/100マイルとCSレンジの燃費の4ガロン/100マイルから、EAER(等価EVレンジ)=(1-GPM@CD/GPM@CS)xCDレンジ=(1-0.5/4)x16=14マイルと計算される。それ故、UFはCDレンジ=16マイル→UF=0.39の代わりにEAER(等価EVレン)=14マイル→UF=0.35となる。

そもそも、米国EPA(およびその元のSAE J2841)のUFの定義曲線図の横軸は「Charge Depleting Range」となっており、日本の国土交通省のUFの定義曲線図の横軸は「プラグインレンジ/1日あたりの走行距離(km)」となっている。これらの表記はCDレンジがAEモードの場合は正しいが、Blendedモードの場合を含めると横軸は「外部充電電力による走行距離」とする方が良く、用語としては「Equivalent All Electric Range」、「EAER」、「等価EVレンジ」、「EV走行換算距離」などと表記する方が適切と考える。

参考: 日本、米国、EUのユーティリティファクター

Tableufjapaneuus3


Ufforjapaneuus_2
[注] 後日、説明を追加する予定。

|

« 地球規模炭素管理のための大気中CO2の除去 -- ネガティブ・エミッション技術 -- ジオエンジニアリング | トップページ | ZEVの新カテゴリー「BEVx」とは? 小型エンジンと9リッター燃料タンク  BMW i3 RExとマツダ・デミオ・RE »

自動車」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/6611/59389677

この記事へのトラックバック一覧です: 米国EPAのユーティリティファクターとPHEVテストデータ: メモ:

« 地球規模炭素管理のための大気中CO2の除去 -- ネガティブ・エミッション技術 -- ジオエンジニアリング | トップページ | ZEVの新カテゴリー「BEVx」とは? 小型エンジンと9リッター燃料タンク  BMW i3 RExとマツダ・デミオ・RE »