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燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する

水素燃料電池車の導入には水素ステーションの整備支援や車の販売助成など政府による多額の援助が必要であるが、果たして燃料電池車に「水素を燃料とし、走行時にはCO2を一切排出せず、省エネルギー・地球温暖化対策に大いに寄与することが期待される・・・」と謳われているようなエネルギー・地球環境への効果はどの程度あるのか?

前の記事「自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、『バスに乗らない』フォルクスワーゲン社」の続きとして、本稿では「JHFC(水素・燃料電池実証)プロジェクト」によるWell-to-Wheel評価結果から水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド車、電気自動車)と比較してみる。

JHFCプロジェクトによる次世代自動車のWell-to-Wheel総合効率評価の結果から、標準ケースについては次のように言える。

「エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る」

評価方法・前提条件・各種ケースの結果など詳細については、JHFCプロジェクトの報告書またはこのブログの説明を参照下さい。

"Forget Hydrogen Cars, and Buy a Hybrid"

マサチューセッツ工科大学の雑誌「MIT Technology Review」の2014年12月12日号は"Forget Hydrogen Cars, and Buy a Hybrid"(燃料電池車は気にせず、ハイブリッド車を買おう)と題する記事を掲載している。

Forgetfcvmit_2

この記事で言っていること:

◎ FCVに関するメーカーの「燃料電池車は水しか出さない」などの宣伝文句は少し"misleading"(誤解を招く恐れがある)、車を動かす水素の大部分は現在天然ガスから製造しており、製造時に相当な量のCO2を大気に排出している。

◎ 市販されているFCVよりCO2排出の少ない車はいろいろあり、その一つハイブリッド車はFCVの約1/3のコストでリース可能。

◎ 米国環境団体UCSの計算ではヒュンダイの燃料電池車Tucson(ツーソン)はガロン38マイルのガソリン燃費相当のCO2を排出し、これは同じTucsonのガソリンエンジン車のガロン25マイル燃費よりは良い。しかしガロン38マイルより良い燃費の車は沢山あり、例えばトヨタのプリウスVはTucsonより少し車室が広くてガロン42マイル走る。Tucson FCVのリース料が月499ドルなのに対して、プリウスVは月159ドルでリースできる。

◎ 新技術によっていつかは水素がクリーンで安価になるであろう。再生可能エネルギー発電による電解水素や太陽光による直接水分解の可能性もあるが、現在のところ水素の燃料電池車の電気自動車に対する主たる優位性は燃料補給の速さにある。
(2014年12月17日追記)

「ZEV」と「EEV」

カリフォルニア州大気資源局による低公害車の分類の中に「ZEV」(Zero-Emission Vehicle)という最もクリーンな自動車を指す部類がある。八重樫武久氏は「Cordia」ブログの「エミッション・エルスオエア・ビークル」の中でZEVについて次のように述べている。

「ZEVの代表のバッテリー電気自動車(BEV)は、確かに走行時に燃焼による排気ガスを出しませんが、厳密に言えばその走行の為に、地球温暖化ガスである CO2は排出しています。当然の話しですが、充電の為に使用する電気は、どこか(elsewhere)で、エネルギーを消費し排出(emission)して作られたものです。」
このEmission Elsewhere Vehicle(どこか他所で排出する車)略して「EEV」という呼び名はStanford大学のLee Schipper教授が冗談めかしに作ったもので、八重樫さんがブログで紹介しているようにDaniel Yergin の著書"The Quest: Energy, Security, and the Remaking of the Modern World" (日本語版ダニエル・ヤーギン「探求――エネルギーの世紀」)の中で引用されている。カリフォルニア州大気資源局(CARB)で「ZEV」に分類されているバッテリー電気自動車が実際は「EEV」であるのと同様に、CARBで同じく「ZEV」に分類されている水素の燃料電池車も水素を製造する際にCO2を排出する場合は車以外でCO2を排出しているのでこれも「EEV」となる。

バッテリー電気自動車(BEV)や水素燃料電池車(FCV)が再生可能エネルギーあるいは原子力によってつくられる電力や水素によって駆動される場合は発電や水素製造におけるCO2排出がゼロなので、この場合は「ZEV」と言うことができよう。

電気自動車と燃料電池車のエネルギー効率の比較

Bevfcvelecflowcompare_2ここで、バッテリー電気自動車(BEV)と水素燃料電池車(FCV)について電力からスタートした時のエネルギー効率、すなわち電力系統が供給した電力の内で自動車の駆動に使用されるエネルギーの割合を見てみる。

一次エネルギーに再生可能エネルギーを利用するCO2排出ゼロの典型的なケースとして太陽光発電を利用する場合は、左図(Wido@WidodhのTwitterから引用)のようなプロセスになる。再エネ電力が自動車の車輪を駆動するまでに、FCVはBEVに比べて多くのステップが必要となる。オンサイトの電気分解方式ならば図の水素を輸送する高圧ガストレーラー/液化水素ローリーの部分が不要になるが、何れにしてもFCVでは電気->水素->電気のエネルギー変換を経るためにこの部分でエネルギーの60%以上を失う。

BEVとFCVの電力系統から車輪までのエネルギー効率を数値的に比較するには、下の図にあるようにBEVは充電→モーターの段階を経由するのに対して、FCVは電気分解→圧縮/液化→(輸送)→燃料電池発電→モーターなどの段階を経由するので、これらの各段階の効率を評価・積算する。

GridwheelefficiencyGridmotorefficiencyGridmotorgermanreport

上の3つの図に例示されているケースのFCV/BEVのエネルギー効率の比は、

【Ulf Bossel】 19~23/69=1/3.6~1/3
【Eberhard & Tarpenning】 (0.7x0.9x0.4)/(0.93x0.93)=1/3.4
【日本産業機械工業会調査報告】 22.9/63.9=1/2.8
となり、上記の例では電力からスタートした時のエネルギー効率は燃料電池車は電気自動車の1/2.8~1/3.6と低い。このエネルギー変換による損失は供給する電力が再エネ電力でなくても同じである。

すなわち、同じ走行をするのに、水素燃料電池車は電気自動車の2.8倍~3.6倍の電力を消費することになる。この比較は各ステップの一般的な効率から求めたもので、個々のケースについては以下のJHFC総合評価で説明するように想定する具体的な条件における値を入れて計算することになる。

Well-to-Wheelによる総合評価

一般に自動車のエネルギー消費量とCO2排出量を評価する際に、エネルギー採掘の源まで遡って、そこから車のテールパイプまで途中のエネルギー変換プロセスにおけるエネルギー損失やCO2排出を含めて評価する「Well-to-Wheel」(油井から車輪までの意味、略してWtW)の手法が用いられる。

ここでは「JHFCプロジェクト」と略称される「水素・燃料電池実証プロジェクト(Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project)」によるWell-to-Wheel評価結果から考察を行う。このJHFCプロジェクトは経済産業省が実施する燃料電池システム等実証試験研究補助事業に含まれる「燃料電池自動車等実証研究」と「水素インフラ等実証研究」から構成されるもので、Well-to-Wheel評価に関しては2006年に発行された第1期報告と2011年に発行された第2期報告がある。

なお、Well-to-Wheel評価についてはこのほか下記に示すように、米国では自動車メーカー・国立研究所・石油会社による研究、日本ではトヨタ自動車・みずほ総研による研究などがある。

● GM, ANL, BP, ExxonMobil and Shell “Well-to-Tank Energy Use and Greenhouse Gas Emissions of Transportation Fuels – North American Analysis” (2001) Download

● GM, ANL, BP, ExxonMobil and Shell “Well-to-Wheels Analysis of Advanced Fuel/Vehicle Systems — A North American Study of Energy Use, Greenhouse Gas Emissions, and Criteria Pollutant Emissions” (2005) Download

● トヨタ自動車、みずほ情報総研 「輸送用燃料のWell-to-Wheel評価 日本における輸送用燃料製造(Well-to-Tank)を中心とした温室効果ガス排出量に関する研究報告」(2004) Download

ここでは、2010年度に日本自動車研究所(JARI)が発行した報告書「総合効率とGHG排出の分析」にまとめられている上記JHFCプロジェクトのWell-to-Wheel評価結果を中心に以下の参考文献をもとに考察する。

【参考資料】

1.JHFC総合効率特別検討委員会「JHFC総合効率検討結果報告書」(日本自動車研究所発行2006年3月) Download

2.JHFC総合効率検討作業部会「総合効率とGHG排出の分析報告書」(日本自動車研究所発行2011年3月) Download

3.JHFC国際セミナー 企画実行委員会・総合効率検討作業部会 石谷久委員長 特別講演資料「総合効率とGHG排出の分析」 2011年2月28日 Download

このJHFC検討の目的について上記報告書の最初に次のように記している。

「2002 年度から経済産業省の補助事業としてスタートし,2009 年度から新エネルギー産業技術開発機構(NEDO)の助成事業「燃料電池システム等実証研究」として推進されたJHFCプロジェクトでは,燃料電池自動車を主とする各種の高効率低公害(代替燃料)乗用車のWell-to-Wheel総合効率のデータを確定することにより,燃料電池自動車の位置づけを明確にし,燃料電池自動車および燃料電池自動車用燃料供給設備の普及促進を図ることが目的のひとつに掲げられている。」

JHFCではこの調査の前に同様のWell-to-Wheel総合効率の調査を実施しており、この結果は2005年度に「JHFC総合効率特別検討委員会」による「JHFC総合効率検討結果報告書」(上記参考資料1)として日本自動車研究所から公表されている。今回参考にするWell-to-Wheel総合効率の調査(上記参考資料2)は2005年度までの結果を見直し、最新の車両の燃費データ・諸元等を用い,エネルギー消費量・CO2排出量に関わるデータやエネルギーパスなども最新の情報に基づくものを使用している。

2010年度調査では2005年度と同様に、燃料電池車を含む自動車・エネルギー・環境・水素エネルギー・燃料電池・インフラなどに関係する専門家・有識者・関係者による「総合効率検討作業部会」(石谷久委員長)を組織して、データ提供や助言を受けつつ進めている。

総合効率検討作業部会には次の35団体が参加している。

【大学・研究所】
新エネルギー導入促進協議会 東京工業大学 東京大学 横浜国立大学 筑波大学 工学院大学 国立環境研究所 産業技術総合研究所 日本エネルギー経済研究所 地球環境産業技術研究機構

【団体等】
日本自動車工業会 燃料電池実用化推進協議会 石油連盟 電気事業連合会

【企業】
トヨタ自動車 日産自動車 本田技研工業 GM ダイムラー スズキ マツダ JX日鉱日石エネルギー コスモ石油 昭和シェル石油 東京ガス 岩谷産業 大陽日酸 ジャパン・エア・ガシズ 新日鉄エンジニアリング 出光興産 栗田工業 伊藤忠エネクス シナネン 大阪ガス 東邦ガス

以上のほかに、オブザーバーとして経済産業省、NEDO、新日石総研、事務局として日本自動車研究所ほかが参加

Well-to-Wheelの範囲

WelltowheelevaluationWell-to-Wheelを総合した効率とCO2排出の評価は、図(水素燃料電池車の場合)に示すように一次エネルギーの採掘から、燃料製造、輸送、車両への充填を経て、最終的に車両走行にいたる全てのエネルギー消費を考慮した、総合的なエネルギー効率とCO2排出量を評価するもので、Well-to-TankとTank-to-Wheelに分けて評価しこれを総合してWell-to-Wheel評価としている。

評価の対象とする車種

JHFCの検討においては下記の5車種を対象としてWell-to-Wheel評価を行なっている。

●内燃機関自動車(ICEV) 燃料はガソリン、軽油、圧縮天然ガスの3種
   ガソリン(ICEV)
   ディーゼル(DICEV)
   圧縮天然ガス(CNGV)
●内燃機関ハイブリッド車(HEV) 燃料はガソリン、ニッケル水素電池
   ハイブリッド車(HEV)
●プラグインハイブリッド車(PHEV) 燃料はガソリン、リチウムイオン電池、電力走行割合は0.5
   プラグインハイブリッド車(PHEV)
●(バッテリー)電気自動車(BEV) リチウムイオン電池
   電気自動車(BEV)
●(水素)燃料電池車(FCV) 圧縮水素搭載、リチウムイオン電池
   燃料電池車(FCV)
評価対象の車種の基本性能は原則として同等としており、その他の前提条件、車種想定、各車種の燃費・電費などの具体的な数値およびその導出の基礎などは報告書に記載されている。

なお、想定しているプラグインハイブリッド車は「電力走行割合」ユーティリティファクターUF=0.5のもの。因みに、プリウスPHV(2012年式)はUF=0.48、ホンダアコードPHEV(2013年式)はUF=0.59、三菱アウトランダーPHEV(2013年式)はUF=0.72である。

Comparisonvehicles2JHFC報告書では、この一覧表に示す各種水素製造・輸送方式の燃料電池自動車(FCV)と比較の対象とする各種自動車(ICEV、HEV、PHEV、BEV)について定量的評価を行い結果を示している。

燃料電池自動車への水素の供給方式としては、JHFC プロジェクトの実証水素ステーションの各種方式を参考に、標準ケースでは化石燃料オンサイト改質8方式、化石燃料オフサイト改質6方式、商用電力オンサイト電解2方式の合計16方式を評価している。

Well-to-Tankの評価方法

Well-to-Tank評価とは、一次エネルギー(原油、天然ガスなど)の源の油田やガス田などから自動車のガソリンタンク・圧縮水素タンク、バッテリーまでのエネルギーの流れ(輸送、変換などのプロセス)を評価して、車載のタンク・バッテリーに単位(1 MJ)のエネルギーを入れるのに必要な一次エネルギー投入量と途中のプロセスで環境に排出するCO2排出量を計算することを言う。

検討の対象とするガソリン、軽油、電気、水素などの一次エネルギー源からタンク・バッテリーまでのエネルギーの流れ(パス)のそれぞれについて数値的に計算する。このJHFC報告書では80のパスについて計算してWell-to-Tankの一次エネルギーとCO2排出量を算出している。

電力の流れでは電源の構成によってエネルギー投入量とCO2排出量が大きく変わる。この検討における電源構成比には検討当時最新の経済産業省 資源エネルギー庁「平成22 年度電力供給計画の概要」(2010.3)による2009 年の推定実績を用いている。この電源構成による電力を「J-Mix」と呼びこの検討では「標準ケース」としている。

発電のCO2排出量は発電方式により異なり、この検討では電力中央研究所による電源別CO2排出原単位のデータと上記J-Mixの電源構成比から算出している。

Well-to-Tankの評価結果

Welltotankenergyco2図3-14は、標準ケース(日本の2009年の平均電源構成電力、J-MIX)におけるWell-to-Tankの燃料消費量とCO2排出量を水素燃料電池車の水素製造・供給16方式をエンジン自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車と比較したものである。

数値は、燃料1 MJ をタンク・バッテリーに充填するまでの(Well-to-Tank)エネルギー消費量(一次エネルギー投入量)および燃料1 MJをタンク・バッテリーに充填するまでに放出される(Well-to-Tank)CO2 排出量を示している。Well to Tank でのエネルギー消費量は上の目盛で,同CO2 排出量は下の目盛で読む。なお,圧縮水素の車両充填圧力は70MPa。

報告書に記載されている「標準ケース」の結果の整理(p.59)から主なものを下記転載する。

① 水素を製造するためには,現行のガソリンおよびディーゼル燃料を精製する以上のエネルギーを必要とする。
② 日本の平均電源構成を用いた水の電気分解による水素製造および電力発電は,現行のガソリンおよびディーゼル燃料以上に多くのエネルギーを必要とし,CO2 排出量も多い。
③ 現行のガソリンおよびディーゼル燃料以外で比較的必要エネルギーが少なく,CO2 排出量も少ないのは,オフサイトでNG 改質して圧縮水素(CHG)で輸送するパスと,オンサイトでの都市ガス改質のパスである。
④ オフサイト改質で製造した水素を液体水素(LH)にして輸送すると,CHG を輸送・充填するケースと比較して多くのエネルギーを必要とし,CO2 排出量も多い。


Tank-to-Wheelの評価結果

Ttwenergyconsumptionガソリン・軽油が燃料タンクに給油された状態、電気がバッテリーに充電された状態、水素が圧縮水素タンクに充填された状態から、自動車を駆動して1km走行するに要する「Tank-to-Wheel」エネルギー量(MJ)は、各自動車の想定燃費・電費から算出できる。図4-6はJC08モードでの走行の場合。

図4-6に示されているTank-to-Wheelのエネルギー消費率(MJ/km)の大小は其々の自動車のパワートレインの特長から説明できる。

●電気自動車(BEV)はエネルギーとして最も質の良い電気からモーター駆動による電力走行をするので最もエネルギー消費率が小さい。

●水素燃料電池車(FCV)は水素からの燃料電池発電を経てモーター駆動による電力走行になるので、燃料電池発電の損失の分だけ電気自動車よりエネルギー消費率が大きくなる。

●この図では、次にハイブリッド車(HEV)のエネルギー消費率が小さくなっている。ガソリンエンジンの動力を一部電力に変換して機械力走行に電力走行を組合せてハイブリッド走行するので燃料消費率がガソリンエンジン車(ICEV)の64%と効率的である。

●プラグインハイブリッド車(PHEV)は、充電電力による電力走行とガソリンエンジンによるハイブリッド走行を組み合わせるので、エネルギー消費率はハイブリッド車と電気自動車の中間になる。図4-6のハイブリッド走行の値1.17は1kmを全部ハイブリッド走行した時の値で、0.36は1kmを全部電力走行した時の値で、このJHFCの検討ではPHEVとしてユーティリティファクターUF=0.5の車を想定しているので1km走行のエネルギー消費率は1.17x(1-0.5)+0.36x0.5=0.765となる。
(図4-6記載の「*プラグインハイブリッド走行」の値の「0.59」は2009年7月に国土交通省が定めた「プラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)」の計算方法により 1.17x(1-0.5)=0.585 で算出したもの。この値はガソリン消費量のみで電力消費量は含まない。プラグインハイブリッド車のガソリンと電力の消費量を合算した値は上記の「0.765」となる)

なお、ここで充電電力におけるエネルギー消費率の値はバッテリーに充電された状態のエネルギー量(MJ)をベースにしており、通常の電費が充電器に入る前の交流電力を基準とする所謂「交流電力消費率」で表されるのと異なっているので注意が必要である。(JHFC評価では充電効率86%を想定している)

Well-to-Wheelの評価結果

Welltowheelenergyco2Well-to-TankとTank-to-Wheelのエネルギー消費量とCO2排出量を総合するとWell-to-Wheelの1km走行当たりのエネルギー消費量とCO2排出量の値が求まる。

標準ケース(J-MIX)におけるWell-to-Wheelのエネルギー消費量とCO2 排出量の算出結果(JC08 モード)は図5-3に示されている。この図でWell-to-Wheelのエネルギー消費量(左側)は上の目盛で,CO2 排出量(右側)は下の目盛で読む。

図5-3に示されている燃料電池自動車の水素製造供給16方式を、「オンサイト改質」、「オフサイト改質」、「水電解」の3種に集約して、これら集約3方式の燃料電池車のエネルギー消費量(一次エネルギー投入量)とCO2排出量をエンジン自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車と比較してみる。次の二つの図では集約したデータの最大・最小の値を線の上と下の位置で示し、最大最小の中間の値を点で示した。

PrimaryenergyperkmrCo2perkmr


なお、報告書には、筆者がJHFC評価結果から作成した上の二つの図のような縦軸にエネルギー消費量とCO2排出量をとり横軸に車種をとって端的に比較した図は掲載されていない。

JHFC「標準ケース」評価のまとめ

これらの図から判るように、JHFC標準ケースの燃料電池車のエネルギー消費量とCO2排出量には水素製造供給16方式でその大きさに差があるが、水素燃料電池自動車と他の次世代自動車とのエネルギー消費量とCO2排出量の比較結果は次のように整理できる。

エネルギー消費量(1km走行当たりの一次エネルギー投入量)

1,水電解水素を使用する燃料電池車のエネルギー消費量は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車はもとより、エンジン自動車よりも大きい。

2,最もエネルギー消費量が小さい燃料電池車でもハイブリッド車と同程度のエネルギー消費量であり、最もエネルギー消費量が小さい燃料電池車よりもプラグインハイブリッド車と電気自動車の方がエネルギー消費量が小さい。

CO2排出量(1km走行当たりのWell-to-Wheel CO2排出量)
1,どの燃料電池車のCO2排出量もエンジン自動車よりは小さい。燃料電池車水素製造供給16方式のCO2排出量の巾の中にハイブリッド車が入る。

2,最もCO2排出量の小さい燃料電池車でもプラグインハイブリッド車と同程度のCO2排出量であり、最もCO2排出量の小さい燃料電池車よりも電気自動車の方がCO2排出量が小さい。

報告書のWell-to-Wheel評価の「標準ケース」の結果の整理(p.90)にも次のように記述されており、上記と同様の結論になっている。

① 水電解を除くすべてのFCVパスで,ICEVより必要エネルギー,CO2排出量とも改善される。
② FCVとHEVを比較すると,必要エネルギーはHEVの方が少ないが,CO2排出量についてはFCVの方が少ない場合もある。
③ オフサイト大規模NG 改質CHG 輸送のFCVはHEVよりCO2排出量が少なくなっている。
④ オンサイト都市ガス改質およびオンサイトLPG改質のFCVは,ガソリンHEVに比べてCO2排出量が下回る。
⑤ CHG輸送とLH輸送のFCVを比較すると,必要エネルギー,CO2排出量の両方でLH輸送の方が大きい。
⑥ 必要エネルギー,CO2排出量とも最も少ないのはBEVおよびPHEV(EV)である。

以上、水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド車、電気自動車)および従来型エンジン自動車と比較した標準ケースの結果を総合して、

エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る
と言えよう。

なお、このJHFCの検討では上記日本の平均電源構成(J-MIX)を用いた「標準ケース」のほか、電力では一次エネルギーを一つに固定するケース(no-MIX)について、また水素製造では副生水素、バイオマス起源水素、再生可能エネルギー電力による電解水素(国内のほか海外のパタゴニアの風力発電、オーストラリアの太陽光・太陽熱発電の電解水素を船で輸送するケースを含む)についても評価している。

また、発電プラントや水素製造プラント(オフサイト大規模改質装置のほかオンサイトの都市ガス改質装置)でCO2を回収し貯留サイトまで輸送して貯留するCCS(CO2回収・貯留)のケースも評価している。これらの検討対象のエネルギーパスは80パスあり、主要なケースの各自動車のエネルギー消費率とCO2排出量についてはデータのほか比較図が示されている。

一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合

ここで一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合についてJHFC報告書の評価結果をもとに考察してみる。

天然ガスはシェールガス採掘技術の確立により一気に供給量が増え、石炭・石油よりエネルギー量当りのCO2排出量が少ないこともあり、天然ガスの輸送燃料としての需要は今後増大していくと見られている。(OECD/IEAのMedium-Term Gas Market Report

天然ガスの水蒸気改質法は、従来から大量の水素を安価に製造する工業的に主流の水素製造方式である。JHFC評価においてはFCVへの水素供給16方式の内6方式が天然ガスベースであるが、これら各種方式の中で水蒸気改質の水素製造法が最も効率が良いので、オンサイトおよびオフサイトの改質水素方式について評価する。

一方、エンジン自動車に天然ガス燃料を使用する圧縮天然ガスエンジン自動車(CNGV)の開発・導入が加速しつつあり、これが今後ハイブリッド自動車、さらにプラグインハイブリッド車と電動化していくのは当然の方向と考えられる。そこでガソリン燃料の場合と同様に天然ガス燃料の場合も、エンジン自動車・ハイブリッド自動車・プラグインはブリッド車について評価する。

一次エネルギーを天然ガスのみに固定して次世代自動車のエネルギー・環境性能を比較する際には、電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車(水電解水素供給)への電力の供給は天然ガス火力発電を想定することになる。

一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のJHFCのエネルギー投入量・CO2排出量の評価結果は報告書p.101の図5-12に示されている。この図に示されているデータをもとに、下記の7車種(エンジン自動車と次世代自動車6車種)について1km走行当りの一次エネルギー投入量とCO2排出量を比較してみる。

 ① 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGV「エンジン自動車」
 ② 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「ハイブリッド自動車」*
 ③ 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「プラグインハイブリッド車」*
 ④ 天然ガス火力発電の電力による電池充電のBEV「(電池)電気自動車」
 ⑤ 水素ステーションで都市ガスを改質する天然ガスオンサイト改質水素使用のFCV「燃料電池車(オンサイト改質)」
 ⑥ 集中型プラントで天然ガスを改質し水素ステーションに輸送する天然ガスオフサイト改質水素使用のFCV「燃料電池車(オフサイト改質)」
 ⑦ 天然ガス火力発電の電力による水素ステーションにおける水電解の天然ガス電力-水電解水素使用のFCV「燃料電池車(水電解)」

上で*印の車種についてはJHFC報告書では評価されていないが、筆者がJHFC評価のガソリンエンジン車のICEV-HEV-PHEVの関係からエネルギー消費量・CO2排出量ともにHEV/ICEV=0.65として推算した。なお、天然ガス燃料のPHEVの電力走行距離割合(ユーティリティファクター)はガソリン燃料の場合と同じUF=0.5を想定した。

一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のこれら7車種のエネルギー投入量とCO2排出量の比較を標準ケースと同じグラフ形式で表示すると下の2図になる。

PrimaryenergyperkmngCo2perkmng

上の2図から、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合の水素燃料電池車と他の次世代自動車および従来型エンジン自動車のエネルギー消費量とCO2排出量の比較結果は次のようにまとめられる。

エネルギー消費量(1km走行当たりの一次エネルギー投入量)

1.オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車・電気自動車より大きい。
2.水電解水素を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・電気自動車よりはるかに大きい。
CO2排出量(1km走行当たりのCO2排出量)
1.オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車のCO2排出量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車・電気自動車より大きい。
2.水電解水素を使用する燃料電池車のCO2排出量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・電気自動車よりはるかに大きい。
以上、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合の水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車および従来型エンジン自動車と比較した結果を総合すると、
エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る
という標準ケースと同様の結論になる。

Well-to-Wheel評価 – JHFCとトヨタ自動車の効率値を比較する

一次エネルギーとして天然ガスのみを用いた場合の次世代自動車のWell-to-Wheel(総合)効率の比較評価としては、本文に記載のJHFCの評価のほかに、総合資源エネルギー調査会・第28回基本問題委員会(2012.7.5)にトヨタ自動車が提出・説明した資料「水素・燃料電池自動車(FCV)の取り組み」の中の図(p.12、下記転載)がある。

Toyotafcv284p12

この図では、燃料電池車(FCV)と電気自動車(EV)の総合効率の値がJHFCの評価結果と全く逆になっている。

すなわち、JHFCの評価結果(10.15モードの場合)ではEVの総合効率がFCVの約1.3倍となるのに対し、トヨタ自動車の資料では逆にFCVの総合効率がEVの約1.3倍となっている

トヨタ自動車によるCNGV-HV、FCV、EVの「燃料の効率」、「車の効率」、「総合効率」の値とJHFCによるこれらの効率の値を比較して下の表に示す。

Efficiencycomparisonjhfctoyota

この表のJHFC欄の効率値はJHFC報告書に記載されている評価結果から次のようにして求めた。

① JHFCの圧縮天然ガスハイブリッド車(CNG-HV)の値はJHFCの評価データを参考に推算(推算方法は本文の「一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合」に記載)した値から算出

② JHFCのTank-to-Wheel評価値はMJ/kmで示されているので、効率値にするためにトヨタ自動車のCNG-HVの「車の効率」34%を基準としてJHFCのMJ/km評価値 (10・15モード)から算出

③ 「総合効率」欄のJHFCの値はJHFCの評価値から算出した「燃料の効率」と「車の効率」の積として計算

この表から、FCVとEVの総合効率におけるトヨタ自動車の試算とJHFCの評価の間の差は、それを構成する「燃料の効率」と「車の効率」における以下に示すような両者の評価値の差に起因していると推測する。

① FCVの「車の効率」はJHFCの49%に対してトヨタ自動車は60%になっている。トヨタ自動車のFCVの「車の効率」の60%の値は、燃料電池での発電効率とそれ以降のインバーター・モーターなどの効率を含んだものとしては大きい値である。インバーター・モーターなどの効率から逆算すると燃料電池の発電効率は70%以上になり、現状の燃料電池効率がトップランナーでも60%程度(LHV)なのに対して大きな値を想定している。

② EVの「燃料の効率」はJHFCの40%に対してトヨタ自動車は32%になっている。トヨタ自動車のEVの「燃料の効率」32%の値は、天然ガスの「採掘・液化・運搬」効率85%、「送電」効率95%および「充電」効率86%を用いて「火力発電」の発電効率を逆算すると46%となる。この46%の値は現在発電効率57%(LHV、送電端)の天然ガス火力発電プラントが既に導入されているのに対して小さい値を想定している。

③ 上記の差に加えて、FCVの「燃料の効率」とEVの「車の効率」における其々約6%の差が両者の評価の差を大きくする方向に働いて、「総合効率」がJHFCの「EV:FCV=1.31:1」に対してトヨタ自動車の「EV:FCV=1:1.38」という全く逆の評価になったと推測する。

同じ天然ガス起源の燃料電池車とハイブリッド車・電気自動車の総合効率評価値にこのような大きな差があることは議論・憶測を呼ぶので、試算・評価の条件や根拠などが公開されていることが望ましい。
(2013年10月26日追記)

関連ブログ:
 ●『「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向』
 ●『低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?』
 ●『自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社』

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コメント

説得力のある素晴らしい計算を公開していただき、本当にありがとうございました。
このような情報をもっともっとアピールして国が間違った方向(水素社会の実現)に行かない様、国民皆で大きな声を出していかなければいけないと思います。トヨタもFCVを普及させたいあまりに、データを作ってしまう(改ざんと言っても過言ではありません)とは大企業としてあるまじき姿勢です。国民をバカにしています。わからないとでも思っていたのでしょうか?
またこの数字はおかしいと思っていたマスコミや自動車ジャーナリストもいたと思いますが、これまで指摘していないのも残念です。
莫大な借金を背負っている今の日本が多額の税金をつぎ込み進むべき方向ではないと思います。
物事は結果的には必ず正しい方向に進みます。それは誰が見てもEVの普及です。だったら早くEVを普及させ世界に良いお手本を見せるべきです。EVが普及すると日本がつぶれるなんていう人が居ますが、確かに石油業界や自動車部品会社など仕事が減り潰れるところも出てくるしょう。しかし、遅かれ早かれ必ず来る事なのです。世界に先駆け早く着手して早く切り抜けるのが最善の方法だと思います。このままでは、新興国に先を越され技術に溺れたガラカー大国で貧乏で哀れな国になってしまいます。

投稿: このままでは日本が心配 | 2014.12.10 20:23

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