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自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社

燃料電池車開発での自動車メーカーの国際提携

今年(2013年)初めから自動車メーカーの燃料電池車(Fuel Cell Vehicle, FCV)の国際共同開発の発表が続いている。

トヨタとBMWの提携

Toyotabmw1月24日、トヨタ自動車とBMWは燃料電池車の共同開発で正式合意したと発表した。トヨタは2015年に燃料電池車を市販する方針でこの提携により開発期間の短縮とコストの引き下げを目指し、 さらに20年にはBMWと共同で燃料電池の基本システム全般を新たに開発する計画。BMWはトヨタから発電装置などの基幹部品の技術供与を受け燃料電池開発を進め20年にも市販車を売り出す。

ルノー・日産とダイムラー、フォードの提携

Nissanforddaimlerjpg1月28日、ルノー・日産とダイムラー、フォードの3者は燃料電池車技術の商品化加速の合意をしたと発表した。3者の協力により燃料電池車の技術開発に関連する投資コストを低減させ、共通の燃料電池車システムを共同開発し、手ごろな価格の量産型燃料電池車を早ければ2017年に発売するとしている。

ホンダとGMの提携

Hondagm7月2日、ホンダとGMは2020年頃の実用化に向けた次世代型燃料電池システムと水素貯蔵システムの共同開発を行うことで合意したと発表した。両社はこれまでの燃料電池技術の知見を共有して小型・軽量・高性能・低コストの燃料電池システムと水素貯蔵システムを開発する。

水素供給インフラの導入支援などを閣議決定

Nihonsaikousenryakuこの間、政府は6月14日に「日本再興戦略」を閣議決定し、その中で燃料電池自動車について次のように示している。

○水素供給インフラ導入支援、燃料電池自動車・水素インフラに係る規制の見直し
・2015 年の燃料電池自動車の市場投入に向けて、燃料電池自動車や水素インフラに係る規制を見直すとともに、水素ステーションの整備を支援することにより、世界最速の普及を目指す。

さらに、日本再興戦略の「中短期工程表」では、「水素ステーションの先行整備は2015年までに4大都市圏を中心に100箇所、2016年からは普及の拡大」と記載している。

これは2011年1月の自動車メーカー・石油会社・ガス会社13社による「FCV国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」で提言され、経済産業省がこれを受けて「今後の展開」として「今回の共同声明は、エネルギー基本計画の趣旨と合致するものであり、経済産業省としても2015年の導入開始並びにその後の全国的な普及拡大を実現させるべく、必要な取り組みを進める」と発表した経緯に沿ったもの。

燃料電池車「バスに乗らない」VW・Winterkorn CEOの「見識」

1月のトヨタ-BMWの提携は、1年前から合意していた長期的戦略的パートナーとしての提携が正式になったもので、「燃料電池車」のほかに「スポーツカー」や「軽量化」分野での協業、「Li-Air電池技術」の共同研究などの項目が含まれている。これに対してその4日後に発表したルノー・日産-ダイムラー-フォードの提携と7月発表のホンダ-GMの提携は燃料電池車分野に限られている。

恰も「バスに乗り遅れるな」のような、日本のメーカーと海外メーカーの燃料電池車の共同開発提携や関連業界の動きに対して、欧州最大の自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)社はこの動きに乗らず、VW社CEOのMartin Winterkornは独自の見解を述べている。

Forbes_cover050613sWinterkorn CEOは今年3月の記者会見で、水素燃料電池車の研究は今後も続けるが、近い将来においては水素燃料電池は費用対効果から言って自動車駆動に使えそうもなく、次の10年のガソリやディーゼルのエンジン車(ICEV)の代替はプラグインハイブリッド車(PHEV)と天然ガス自動車(CNG)になると語っている。以下は発言の引用。(AutoGuide13年3月15日記事、Automotive News13年3月14日記事

「私には燃料電池車のためのインフラが見えないし、水素が妥当なコストで大規模に製造できる方法が見えない」「私は現在、消費者が購入意欲を持つような妥当なコストで燃料電池車を提供できるとは見ていない」
("I do not see the infrastructure for fuel cell vehicles, and I do not see how hydrogen can be produced on large scale at reasonable cost."" I do not currently see a situation where we can offer fuel cell vehicles at a reasonable cost that consumers would also be willing to pay.")

このWinterkorn CEOはForbes誌5月6日号の表紙を飾っている。写真の下には「GMとトヨタよ ご用心—VWは間もなく地上最大の自動車メーカーになる」と刺激的なキャプションが。そして中の記事のタイトルは「如何にしてフォルクスワーゲンは世界を制するか」。

フォルクスワーゲン・グループ企業の一つAudiもVWと同じく水素燃料電池車を研究開発してきており、燃料電池駆動のA7を開発してきた。AudiのTronシリーズのE-Tron、G-Tronに次ぐ「H-Tron」の名前も出ていて、3月のWinterkorn CEOの燃料電池車に対する消極発言にも影響されずに8月のテストに向けて準備中と見られていた。

ところが、6月中旬Audiの技術チーフWolfgang Dürheimerが「燃料電池車は完成して研究用として運転可能である。と同時に、水素の燃料電池車は今後10年以内にシリーズ生産車の役割を担わないこともかなり確かである」と語っており、AudiもVWと同じく水素燃料電池車の開発導入には消極的な方針に変わったように見える。

この燃料電池車「バスに乗らない」判断をしたフォルクスワーゲン社が、政府による燃料電池車開発導入援助や内外の水素ロビーの動きに惑わず、プラグインハイブリッド車・天然ガス自動車の開発方針を貫くのか、Forbes誌が言う「地上最大の自動車メーカー」フォルクスワーゲン社の今後の方向は要注目。

燃料電池車の性能は良いが水素ステーション整備は高コスト

Ariakehydrogenstation燃料電池車は自動車としての性能はエンジン自動車に遜色なく、燃料電池発電・モーター駆動なので電気自動車と同じく音は静かで加速もスムース、1回3分の水素充填で航続距離は500km以上で実用域に達している。価格は各メーカーが500万円以下の目標を提示しているが、市場で同等の性能の他車種と競合するには補助金などの購入助成が必要であろう。

水素燃料供給のための水素ステーションの建設費は現状1基6億円程度で、これを研究開発と実証試験により2015年時点で4億円、2020年時点で2億円に下げることを目論んでいる。このコストダウンが実現してもガソリンステーションの建設費1基0.7億円~1億円と較べると相当に高い。

日本再興戦略の「中短期工程表」には水素ステーションの先行整備は2015年までに4大都市圏を中心に100箇所と明記されており、水素ステーションの商用レベル運用には相当大きい国の支援が必要となろう。

メディアは燃料電池車に期待

新聞各紙はこのような自動車メーカーの「合従連衡」の動きを報じ、燃料電池車の特長・課題の解説や開発導入の意義・効果などをコラムや社説で論じている。以下、日本経済新聞と読売新聞の論調。

日本経済新聞は4月10日の「ニュースこう読む」のコラムで「燃料電池車が生むかもしれない『シェール級革命』」の記事を掲載し、温暖化などの問題を睨めば日本が率先して燃料電池車革命を起こし世界に広げていく価値は大きいと述べている。

日本経済新聞はまた7月5日の社説で、「燃料電池車は走行時に温暖化ガスを出さないので、環境面で重要性が増している。日本の電力供給に不安があることも考えれば、ハイブリッド車やEV以外にも選択肢が広がるのは望ましい。」とその導入に期待を表明し、「燃料電池車の購入や水素充填施設の建設に、政府の補助金を求める声が広がる可能性もあろう。財政事情の厳しさや、民間による競争を促す点から、国の資金支援はできるだけ慎重に考えたい。充填施設の建設費を引き下げるための新技術を生み出すなど、企業が知恵を絞ることも必要になる。」と結んでいる。

日本経済新聞はさらに7月21日の「検証」欄に「燃料電池車、量産間近に」と題する記事を掲載し、CO2などを排出しないため「究極のエコカー」の燃料電池車の特長を解説し、最近のメーカー間の連繋について「普及競争に向け業界の合従連衡も盛んだ」とし、政府の支援については「政府は成長戦略の柱の1つに燃料電池車産業の振興を位置付ける。従来禁じられていたガソリンスタンドと水素ステーションの併設を認めるなど、環境整備にも動き出している。ただ15年に100カ所以上という建設計画を実現するには、補助金制度などで一層の支援体制が求められる。」と述べ、燃料電池の普及による経済波及効果に触れたあと、「世界の新車販売は17年にも年1億台を超え、12年比で年2000万台以上の車が地球上で増える。自動車から排出される有害物質の削減は人類にとって避けて通れない課題だ。燃料電池車の普及へのハードルは高いが、暮らしや産業、日本のエネルギー問題を変える可能性を秘めている。」と結んでいる。

Fcvfeatures読売新聞は7月3日「燃料電池車 ホンダ量産化に期待 GMと提携 3陣営で開発競争」の見出しで報じ、燃料電池車は「次世代エコカーの本命」とする解説を載せている。(右、解説を抜粋)

読売新聞はさらに7月17日の社説で、燃料電池車の仕組みと特長や課題である燃料電池車の価格と水素ステーションの整備について説明した上で、燃料電池車価格引き下げへの各社の技術革新と水素ステーション整備への政府の後押しの必要性を述べ、「エコカーを巡っては、トヨタとホンダが先行した、電気モーターとガソリンエンジンで走るハイブリッド車(HV)が普及している。一方、EVは走行距離の短さなどから伸び悩んでいる。日本各社は、HVとEVの性能向上を目指すとともに、燃料電池車の開発を急ぎ、エコカーの選択肢を増やしてもらいたい。開発を主導できれば、日本の産業競争力の強化にもつながるだろう。」と論じている。

このように新聞論調は燃料電池車は次世代自動車の本命としてその開発導入に期待を表明している。

水素燃料電池車のエネルギー・地球環境への効果

水素燃料電池車の導入には水素ステーションの整備支援や車の販売助成など政府による多額の援助が必要であるが、果たして燃料電池車に「水素を燃料とし、走行時にはCO2を一切排出せず、省エネルギー・地球温暖化対策に大いに寄与することが期待される・・・」と謳われているようなエネルギー・地球環境への効果はどの程度あるのか? このブログの次の記事「燃料電池車はどの程度エコか?」でJHFCの検討結果から燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(HEV、PHEV、BEV)と比較してみる。

追記1: FCVについて自動車メーカー首脳は「かく語りき」

上記本文をまとめた2013年7月以降、世界の自動車メーカーの首脳が水素燃料電池車(FCV)に関して率直で興味のある見解を述べている。以下、評判になっている語録を出典とともに記す。語りのニュアンスを伝えるために適宜原文も付けた。

テスラ自動車CEO イーロン・マスク (Elon Musk)

Musk2_22013年10月21日、ドイツ・ミュンヘンのTelsa Service Centerにおいて、イーロン・マスクがTesla社の欧州における活動展開について説明した中でのFCVに関するコメント。(写真

「オーゴッド、燃料電池は全くデタラメだ。水素はロケットの上段には良いが、車には適さない」

"Oh god, a fuel cell is so bullshit. Hydrogen is suitable for the upper stage of rockets, but not for cars."

録画ビデオの29分17秒あたりから、FCVについて語っている。グラスを片手にくだけた調子で聴衆を笑わせながらBEVのFCVに対する優位性を語っている。

日産自動車CEO カルロス・ゴーン (Carlos Ghosn)

Ghosn2013年11月20日、東京モーターショーに際して日産自動車のカルロス・ゴーン社長は記者会見の中でFCVはさまざまな問題があって普及するにはしばらく時間がかかるとの見解を示した。(写真、ニュース

「私は2015年にFCVを量販すると言っているライバルメーカーを好奇心と興味を持って見ています」

「どこに水素インフラがありますか? 誰がインフラを建てるのですか?」

「それが我々が燃料電池に対する大志をある方向へ延期した理由だ」

"I would be very curious and interested to see competitors who say they are going to mass market the car in 2015"
"Where is the infrastructure? Who’s going to build it?"
"That's why we have postponed, in a certain way, some of our ambitions in terms of fuel cells."

米国フォルクスワーゲンCEO ジョナサン・ブラウニング (Jonathan Browning)

Browning2013年11月20日、ロスエンジェルス・モーターショーに際して、米国フォルクスワーゲン社CEOのジョナサン・ブラウニング(写真)は記者との懇談の中で米国におけるディーゼル自動車の拡販について話した後、FCVの発表が益々注目を集めるようになってきている燃料電池の技術について聞かれて、次のように答えている。

「大部分の人は軽油を買う場所は知っているが、FCVに水素を充填する場所は知らない。燃料電池はまだ議論の段階」

When asked about fuel cell technology--we're increasingly seeing more fuel-cell vehicles being shown off--he said:
"most people know where to get diesel, people don't know where to fill a fuel cell vehicle, fuel cell is just discussion at this point."

フォルクスワーゲングループ主席役員 ルドルフ・クレブス (Rudolf Krebs)

Krebs2013年11月20日、ロスエンジェルス・モーターショーに際してフォルクスワーゲングループの電動車部門主席役員のルドルフ・クレブス(写真)の記者会見におけるFCV関連の発言は次のとおり。

 VWは2018年にはe-mobilityで世界最大になる意図を持っている。

 「VWは大きな水素自動車プログラムを進めており、燃料電池を搭載した多くの自動車を試験中だが、2020年まではFCVが大量に導入されることはないと明言する。

 水素は供給インフラがまだ整備されてなく、今のFCV技術では在来車に比べて非常に高価で信頼性が低い。

 FCVは排気管からの排出はゼロで電気自動車のような航続距離の問題はないが、エネルギー効率が低いことが気がかりだ。

 水素を自動車に用いて意味があるのは再生可能エネルギーを使用する場合のみであるが、その場合でも電気分解で水素を製造するときに40%のエネルギーを損失し、それを700気圧に加圧して、車に貯蔵、発電などさらに損失が生じる。最後には、100の電気エネルギーが30か40になってしまう。」

Krebs was speaking at the Los Angeles motor show, where the VW Group reiterated its intention to become the world’s biggest player in e-mobility by 2018 by producing electric and hybrid vehicles in all car segments and across all of its brands.

"We have a huge hydrogen car programme ongoing," said Krebs.
"We have a lot of cars that are being tested with a fuel cell stack, but we have to make clear that hydrogen vehicles in bigger numbers will not happen before 2020. There is no infrastructure available and the technology is extremely expensive and not as reliable as conventional vehicles."

He pointed out that although hydrogen had the benefits of zero tailpipe emissions and none of the driving range issues attached to battery-electric vehicles, there are still concerns over the efficiency of producing the energy.

"We still have the problem that hydrogen mobility only makes sense if you use green energy – you have to use green electricity, then convert it from electric to hydrogen, during which you lose about 40 per cent of the initial energy," explained Krebs.
"Then you have to compress the hydrogen to 700bar to store it in the vehicle, which costs you further efficiency. After that, you have to convert the hydrogen back to electricity through the vehicle’s fuel cell, which brings another efficiency loss. In the end, from your original 100 per cent electric energy, you end up with between 30 and 40 per cent efficiency."

米国トヨタ自動車販売・上級副社長・ボブ・カーター (Bob Carter)

Carter2_22014年1月14日、デトロイトで開催されたオートモーティブ・ニュース世界大会において、米国トヨタ自動車販売・上級副社長・ボブ・カーター(写真)は自動車メーカーは我々の顧客や社会や環境の長期的要請に応えるべきで、その点でFCVは大きな可能性を有しているという主旨の講演をした。

 「今やFCV技術とそれをサポートするインフラの実現性について否定する人達に不足しないと実感しています。イーロン(マスク、Tesla)やカルロス(ゴーン、日産)やジョナサン(ブラウニング、VW)がFCVについて何を言おうと気にしていません。その人達が他の技術に栓をしたり或いは無視をしても、構いません。

 このことで思い出したのは、ガソリンがガロン1ドルだった頃にトヨタがハイブリッド技術の採用をきめた時皆が当惑して考え込んだことです。その時のプリウスはPR戦術や科学実験だと言われたのです。その車を私達は米国で220万台売り、全世界で600万台近く売ったのです。」

"Now, I realize there is no shortage of naysayers regarding the viability of this technology and the infrastructure to support it. Personally, I don’t care what Elon, Carlos or Jonathan say about fuel cells. If they want to "plug in and tune out" other technologies, that’s fine.

It reminds me of all the head scratching when Toyota made a commitment to hybrid technology back when gasoline was a buck a gallon. The Prius was dismissed as a PR gimmick and a science experiment. Well, we’ve since sold over 2.2 million hybrids in the U.S., and nearly 6 million sales worldwide."
(2014.06.21)

関連ブログ: 
 ●『「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向』
 ●『低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?』
 ●『燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する』

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