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EV走行距離の適正値など プラグインハイブリッド車の今後の方向を探る – 背景・関連トピックス --

At1305cover日経Automotive Technology」は日経BP社が発行する「自動車エンジニアのためのバイブル」、「自動車・自動車関連製品の開発・製造にかかわるエンジニア向けに発刊する日本初の自動車技術総合誌」。

Atphev3この隔月刊の専門誌の2013年5月号の「Features解説」の一つが「PHEVの本命はどれか? EV走行距離の理想を探る」というタイトルで次の書き出しの記事。

「自動車メーカー各社から発表が相次ぐPHEV(プラグインハイブリッド車)。2013年には、3メーカーから新型車が登場し、既に発売していたトヨタ自動車、米GM社と合わせて合計5社から選べるようになった。しかし、それぞれのモータ出力、EV(電気自動車)走行距離といった特徴は、いずれも大きく異なる。本命のPHEVはどれか、各社の考え方を見ていく。」

私は先日この解説に関係してAutomotive Technology編集部の取材を受けました。その時お話した内容は記事の中の「EV走行距離の適正値」の節に約1ページに亘って要領よくまとめられています。

ここではこの「EV走行距離の適正値」などPHEVの今後の方向を探る上で参考になりそうなトピックスをまとめてみました。個々の内容は既にこのブログで取り上げたものもあり、リンクから適宜元記事を参照ください。

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1.日米欧、PHEVへの要求、EV走行距離の背景

uf3countriesユーザーの全走行距離の中で外部から充電した電力によって走行する距離の割合を「ユーティリティファクター」と言うが、例えば日・米・欧のユーティリティファクターを比較すると左図のように、EV走行距離(外部充電電力で走行する距離、CDレンジとも言う)に対するユーティリティファクターは日本・EUは米国より相当高い値になっており、日本・EUは米国より平均的に短距離走行型と言える。(参考:「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」)

すなわち、平均的には日本は米国より小さい電池で同じEV走行の効果を得ることができる。図の値はその地域の平均ユーザーに対するもので、実際は個々のユーザーのドライブパターン(1日当たりの走行距離の頻度分布)が異なるので、個々のユーザーのユーティリティファクターは異なる。それ故PHEVの充電電力によるEV走行距離、すなわち電池の容量はそれぞれのユーザーに合わせて選択できることが望ましい。

2.PHEVがHEVにまして経済的メリットを得るには?

プリウス級のPHEVとHEVをガソリン+電力のエネルギー消費費用で比較すると、現状のガソリン価格(150円/L)と電力料金(昼間25円/kWh、深夜10円/kWh)では、電力走行費用はガソリン走行費用の約60%と安い。(深夜電力ならば約24%とさらに安くなる)


 プリウスPHVについて計算
  ガソリン150円/L、電力25円/kWh、深夜電力10円/kWh
  JC08審査値、EV走行電費8.74km/kWh、HEV走行31.6km/L

 JC08電費・燃費を基準として計算
  電力走行km単価  25/8.74=2.86円/km(深夜電力1.14円/km)
  ガソリン走行km単価 150/31.6=4.74円/km

 実用電費・燃費(=JC08電費・燃費x0.7) を基準として計算
  電力走行km単価 4.09円/km(深夜電力1.63円/km)
  ガソリン走行km単価 6.78円/km


一方、車両の価格はPHEVの方がHEVより現状では相当高い。例えば、プリウスPHVの場合は同格のプリウスより約90万円高価格に設定されている。このPHEVの車両価格が下がれば上記のエネルギーコストの安さから、HEVよりPHEVの方が経済的に有利になる。
プリウスPHV      電池4.4kWh 基礎額との差 90万円
アウトランダーPHEV  電池 12kWh 基礎額との差 86~93万円

PHEV車両価格が高い原因は電池コスト高によると言われている。DOEなどによると現在の電池単価(パック)は$650/kWh(約6万円/kWh)程度なので、PHEVの現在の価格はこの電池コストから推算される値よりも高い設定になっている。その一因としてはPEVの導入補助政策などがPHEV価格低下とは逆の方向に作用していることも考えられる。
[DOE: GM Volt PHEVの電池コストは$10,000/16kWh、∴PHEV用$625/kWh。Ford社CEO: Ford Focus BEVの電池コストは$12,000~$15,000、∴BEV用$522~$652/kWh]。

PHEV価格が下がって、EV走行距離40km程度(実用燃費ベース、電池容量は10kWh程度)のPHEVが補助金も含めてHEVとの価格差30万円程度になると平均的ユーザーにとってPHEVがHEVと10年全保有費用(TCO)で同程度になる。

 実用燃費基準
  [4.74x10000x10-{4.74x4000x10+1.14x6000x10}]/0.7=30.9万円

短距離走行などPEV(PEVプラグイン自動車はPHEVプラグインハイブリッド車とBEV電気自動車など系統電力充電型自動車の総称)に向いた走行環境の場合、例えば80%の距離をEV走行できるユーザーの場合は、価格差40万円程度で10年全保有費用が同程度になる。
 実用燃費基準
  [4.74x10000x10-{4.74x2000x10+1.14x8000x10}]/0.7=41.1万円

Utilityfactorbymlit3EV走行距離40km程度(実用燃費ベース)のPHEVで、もしガソリン価格が200円/Lになると、HEVと経済的に競合可能な価格差は平均的ユーザーで45万円、短距離走行ユーザーで60万円となる。

4.4kWh電池を搭載する現行のプリウスPHVは、補助金を入れても同格のHEVとの差額は45万円程度だが、これが10kWh電池を搭載して同格のHEVと補助金込で差額30万円(ガソリン150円/L)~40万円(ガソリン200円/L)以下になれば、HEVと経済的に競合可能になる。この仕様・価格のPHEVを平均より短距離走行型のユーザーが使用するとPHEVの経済的メリットが出てくる。

因みに、実用EV走行距離40kmのPHEVでは日本の平均的ユーザーは全走行距離の6割を電気で走れることになる。(右図: 国土交通省定義の電力走行距離割合。参考「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領」)
(注: PHEVのユーザー保有費用検討は2009年自動車技術会論文集に掲載

3.EV走行距離とCO2削減の効果

Stwco2emissionw2011a_2外部充電型自動車(PEV: PHEVとBEV)のCO2削減効果は発電のCO2排出原単位(係数)によって変わる。電源のCO2排出原単位(kg/kWh)と自動車のCO2排出量(g/km)の実用燃費基準の関係は下図。(参考1「電気自動車を火力発電で動かすより、ハイブリッド車の方がCO2排出は少ない?」、参考2「エネルギー・環境対応型自動車の総合CO2排出量」)

2010年度までの日本全体の電源構成では、BEVやPHEVはHEVよりCO2排出が少なく、またPHEVでもEV走行距離が大きい車は削減効果が大きくなっている。ただし、電力会社によってCO2排出原単位は大きく異なっているで、地域によってPEV導入によるCO2削減効果は変わる。

2011年度以降は原子力発電の停止により発電のCO2排出は増加しており、現状の電源構成ではBEVやPHEVのCO2削減効果はHEVと同じレベルになっており、今は充電電力利用によるCO2削減メリットはない。

将来、日本の電源を再びCO2排出の少ない構成にすることによりPEV導入のCO2排出削減メリットが出てくる。

4.EV走行距離: 車種による違いからオプションで選択可能に

現在発売中のPHEVについて米国における「EPA複合燃費」にもとづく「EV走行距離」と「ユーティリティファクター」(UF)の値は次の通り。なお、このEPA複合燃費は都市走行と高速走行を55%・45%で調和平均したもので日本における実用燃費にも近い。


 GM Volt
  シリーズ(レンジエクステンダー)型PHEV
  電池16kWh EV走行距離38マイル UF=0.66
  (* 高負荷時はエンジン直接駆動を併用)

 フォード FusionおよびC-Max Energi
  パラレル(ブレンド)型PHEV
  電池7.6kWh EV走行距離21マイル UF=0.48

 トヨタ プリウスPHV
  パラレル(ブレンド)型PHEV
  電池4.4kWh  EV走行距離11マイル UF=0.29


以上のほか、ホンダ・アコードPHEV(電池6.7kWh、EPA EV走行距離13マイル)や三菱・アウトランダーPHEV(電池12kWh、JC08EV走行距離60.2km、EPA複合は25マイル程度か?)などが発売されており、シリーズ型~パラレル型でそれぞれ特色のあるPHEVが市場に出てきている。

これら発売されているPHEVを比較すると、PHEVの機構や電池の容量に大きな違いがあり、EV走行距離では3倍以上の開きがある。

米国のカーネギーメロン大学が行った次世代自動車による石油消費削減やCO2排出低減など国レベルでの効果の評価結果では、短期的にはHEVと小容量電池搭載のPHEVが最もコスト効率が良いとしており、米国の現行のPEV導入補助政策(4kWhから16kWhまでの電池を搭載するPEVに電池容量に応じて最大7500ドルの税額減免をする)とは異なった方向を提言している。この定量解析と考察の出典は; Michalek, J.J., M. Chester, P. Jaramillo, C. Samaras, C.-S. Shiau, and L. Lave (2011) "Valuation of plug-in vehicle life cycle air emissions and oil displacement benefits," Proceedings of the National Academy of Sciences, v108 n40 p16554-16558.

このカーネギーメロン大学の評価の結論は;

「短期的にはHEVと小容量電池搭載のPHEVは、CO2排出削減と石油代替効果において最もコスト効率が良い。
将来、大容量バッテリ搭載のPEVは、もし「低価格/長寿命の電池・高額なガソリン価格・低CO2排出の発電」の条件が揃えば、最も低コストでより大きなメリットを提供する可能性がある。
最も効率のよい政策は「炭素税・キャップアンドトレード・ガソリン税」などの外部性を直接対象にすることで、このような政策が無い現状においては電動自動車推進のための連邦政府の補助や政策は、大容量電池ではなく小容量電池の選択に注力することによって、より低いコストでより大きなメリットを得ることができる」

この評価は、PEVの適切なEV走行距離に対して国・社会のメリットという観点から検討したものだが、ユーザー個人のメリットという観点からはどうであろうか?

PEVを購入・利用する際の一般ユーザーの心理として、購入の際は出来るだけEV走行距離の長い車を好み、利用の際は出来るだけEV走行割合が多くなるように充電に努める傾向があるようだ。このユーザー心理を受容しつつ適切な車種・仕様選択の助けになる方法として、ユーザー毎のドライブパターン(1日あたりの走行距離の頻度分布)から最適のEV走行距離を算出・提示するサービスがある。この最適EV走行距離のデータをもとに各ユーザーに適した電池容量をオプションで選べるようになればPHEV使用のメリットが大きくなる。

ユーザーのドライブパターンを今乗っている車(PEVである必要はない)に細工して記録できるようにし、このデータからユーティリティファクターを計算して、そのユーザーに最適のEV走行距離を算出・提示するサービスをメーカーがユーザーの目に見える形で提供すれば、ユーザーはPHEVを使用するメリットを事前に確認できる。さらに、電池容量/EV走行距離がオプションで選択可能になればPHEV普及の大きな推進力になると思っている。(参考「プラグインハイブリッド車の最適電池容量 -- ユーザー各人のドライブパターンを知る」)

5.普及時期の考察

Metiscenarios次世代自動車の導入予測は日本および世界の多くの機関から発表されている。政府による政策立案やエネルギー研究機関によるシナリオや予測は、国の将来の望ましいエネルギー・環境・産業などの方向を探るため、次世代自動車の積極的導入の傾向がある。一方、業界やその関係の調査機関による将来予測は現実の延長として控えめな傾向がある。経済産業省が2010年にまとめた「次世代自動車戦略」における次世代自動車目標も「政府普及目標」と「民間努力見通し」の2本立てになっている。(参考「次世代自動車戦略2010」)

Ueriscenarioユニバーサルエネルギー研究所は2009年に自動車電動化による石油消費削減とCO2排出低減の効果を調べるために、21世紀半ばに至るHEV、PHEV、BEVの導入シナリオとその効果を定量評価した。(参考「ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの次世代自動車導入の環境・エネルギーへの効果」)

このシナリオでは、PHEVを2015年~2020年に本格導入開始し、保有台数で2025年頃にHEVを抜き2030年頃にはICEVを抜いて主流になるシナリオを想定している。これにより「新・国家エネルギー戦略」などに示されているエネルギー消費効率、石油依存脱却などの目標を達成できる。Ueriscenarioresults

6.次世代自動車導入に関わる重要項目

次世代自動車、その中でもエネルギー・環境的に重要なハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車などの電動自動車の導入に関わる重要項目として、下記が挙げられる。

 ◉ エネルギー・環境政策と整合をとった自動車電動化政策
 ◉ 電源構成のCO2排出低減化
 ◉ 電動化技術の開発(とくに電池の性能向上・コスト低減)
 ◉ 充(放)電インフラの整備とV2B・V2Gによるエネルギー統合利用
 ◉ 政府による導入普及への助成政策(キーテクノロジー開発助成など)
 ◉ PHEVのエンジン/燃料電池燃料のバイオベースへの転換(長期)

当面は下記のように、HEVの導入加速、それに連動したPHEV化の進展、近距離コミューターBEVの着実導入などが重要と考える。

 ◉ 米国においてPEVは2012年に3倍増の実績、2013年に2倍増が予想されている。まだ絶対数が少ないので当分は倍々増の導入が進む。1月末のチューDOE長官の発言にあるように、オバマ大統領の2015年PEV100万台の目標は後退したが、新に9年計画で自動車電動化を着実に進める戦略を提示している。

 ◉ 日本ではHEV導入が急速に進んでいるが、PHEV化は車両価格が割高のために遅い。PHEVについてはメーカーによる価格削減努力とクリーンエネルギー自動車等導入費補助金の仕組変更が重要となる。

 ◉ 充電インフラ整備では、米国が2013年1月から始めた「ワークプレイス充電チャレンジ」(参考)のように「勤務先充電」設備の充実が、集合住宅居住者への導入促進や電力走行割合の増加に急速充電器の増設よりも経済的・効果的と考える。

 ◉ BEVは搭載する電池のコスト・重量によりEV走行距離が制限され、BEVの主な市場は近距離コミューター・近距離商業車利用などで、電池のコスト削減・エネルギー密度向上などによりBEV市場の拡大は着実に進むが、エネルギー環境対応車の主流はHEVからPHEVの路線と考える。

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