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2012年12月

走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題

[本稿は、筆者が自動車技術会2012年春季大会で口頭発表し、その後自動車技術会論文集Vol.43, No.6, November 2012に掲載した資料「電力とガソリンの等価合成によるPHEV燃料消費率の表示」をもとに作成した。「その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領」はここ。]

Phevmodes2プラグインハイブリッド車(PHEV)は、最初の一定距離は外部電力によって充電した電気による電力走行をし、電池の充電率(SOC)が一定値まで減少した後はエンジン駆動のハイブリッド走行に切り替わる。エンジン自動車(ICEV)やハイブリッド車(HEV)では駆動エネルギー源はすべてガソリンなどの燃料であるのに対して、PHEVの駆動エネルギー源は外部から充電した電力とガソリンなどの燃料の二種類になる。このようなPHEVのエネルギー消費率を単一の代表的燃費値で表示する場合の、エネルギー消費率の単位・尺度(Metrics)、電力/燃料の共通単位への変換、電力/燃料の走行距離割合による加重などについて考察し、代表的燃費表示のための合理的方法を提示する。


走行領域・走行モード・電池SOC・燃料消費率

PHEVでは一般に、外部充電電力による電力走行の領域をCharge Depleting(CD)レンジと呼び、エンジン駆動によるハイブリッド走行の領域をCharge Sustaining(CS)レンジと呼んでいる。この二つの領域における電池のSOCおよびエンジン用燃料の消費率を、走行距離との関係で示すと図のように示される。

Aemode左図は、CDレンジを全部電力で走行する場合、すなわちAll Electric(AE)モードで走行する場合であり、シリーズ型(Range Extender)PHEVやパラレル型PHEVでCDレンジにおいてエンジン駆動がない条件の場合が該当する。


Blendedmode右図は、CDレンジにおいて電力駆動にエンジン駆動が加わるBlendedモードで走行する場合で、パラレル・ハイブリッド型PHEVでCDレンジにおいてエンジン駆動がある条件の場合が該当する。

なお、実際の走行では電池SOCおよび燃料消費率とも走行条件によって変動するがこれらの図においては模式的に直線で示している。


走行パターンとユーティリティファクター

PHEVのエネルギー消費を評価する場合、全走行距離に占める外部充電電力によって走行する距離の割合を想定する必要がある。この割合は米国自動車技術会(SAE)では「ユーティリティファクター」(Utility factor、UF)と呼称している。筆者が2006年に自動車技術会に発表したPHEVに関する論文では「電力走行(距離)割合」と呼んでいた。

UFの値は自動車の走行(ドライブ)のパターンで決まってくる。一人一人のドライブパターンが異なるのでUFも各人で異なる。そのため燃費表示などに使用する時は国全体の平均的なUFを定義して使用することになり、自動車走行に関する統計調査値から国全体の平均的UFを計算することになる。

HoriufこのドライブパターンからUFを算出する基本的な方法を左図に示す。この場合、使用したドライブパターンは、対象とする集団(個人を対象とするUFの場合は一人)の実働1日(車を使用した日)あたりの走行距離の頻度分布を言う。左図で使用した走行距離の頻度分布は、国土交通省が全国規模で年3回調査・発表している「自動車輸送統計報告書」の2004年のデータに基づいている。この輸送統計は、無作為に抽出した自動車の一定期間内各日の走行距離、走行目的、乗車人員などを調査したものであるが、公表されている乗用自動車(登録車および軽自動車)のデータはこれらを計算処理して一走行(トリップ)距離帯別の輸送人員に整理している。そのため左図に示したドライブパターンの値は、公表されているデータから仮定を置いて一日あたり走行距離別の自動車台数頻度を推定したものである。もし元の調査データを入手できれば、より確かなドライブパターンとUFの算出が可能と考える。


現在日本におけるPHEVの燃費表示に使用する公式のUFは、国土交通省が2009年に「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」等の一部改正に際して自動車工業会に通達した「プラグインハイブリッド自動車の燃費算定等に関する実施要領」の中に、図および近似式で示されている。同通達の中ではこのUFの値は「JCAPデータ自動車使用実態調査による」となっているが、対象車種・データ数・統計処理方法などは公表されていない。

Ufcomparemlitandhori2jこの国土交通省のUFの値と筆者による登録自動車のUFの値を比較すると、右図に示すように、異なる統計データから導出された二つのUF値が良い一致を示している。


Ufstatistical4米国の環境保護庁・運輸省道路交通安全局(EPA・NHTSA)によるPHEVの燃費算定には、SAEが2010年に改訂したPHEVのUFに関する規格SAE J2841記載の新しく定義されたUFを使用することになっている。それまでのFleet Specific UFも新しいIndividual Specific UFも、何れも2001年の全米世帯旅行調査(NHTS)の自動車走行統計データに基づいているが統計処理の方法が異なっており、左図に示すように新定義のUFは従来の値よりUF=0.5近辺で15%程度高い値になる。このことは、UFの算出において適切な統計処理方法を用いることの重要性を示唆しており、日本の燃費算定に使用するUFについても、使用する統計データおよび統計処理方法の精査・確認が必要と考える。


Uf3countriesなお、世界共通の自動車排出ガス・燃費などの試験法作成活動WLTP(Worldwide harmonized Light-duty Test Procedure)の場でもUFについて議論が行われており、右図のように日・米・EUのUFの比較が示されている。なお、EUのUFは簡易式によるもので統計データに基づいていない。日・米・EUのUFを同じCDレンジについて数値的に比較すると、日・EUは米より相当高い値になっており、日本・EUは平均的に短距離走行型であることを示している。


エネルギーの等価換算と走行レンジの合成

PhevflowchartPHEVの電力消費率とガソリン消費率は、CDレンジおよびCSレンジについて規定の燃費試験法に則って測定される。この試験結果を単一の代表的燃費値で表示する場合、左図に示すように電力とガソリンのエネルギー消費を等価換算など何らかの方法で一本化し、さらにCDレンジとCSレンジのエネルギー消費をUFを用いて合成する必要がある。(注: UFを用いて加重合算することを「合成」(Composite)と呼ぶ)


Equation1PHEVの単位距離当たりのエネルギー消費は、CDレンジの電力消費率およびCSレンジの燃料消費率を合わせたもので、UFを用いて(1)式により合成する。(注: Blendedモードの場合はCDレンジにおいてもガソリン燃料の消費がある。本稿ではAEモードについてのみ(1)式以下を示しているが、Blendedモードについても同様に式を導出することができる)

このようにPHEVの代表燃費をCDレンジとCSレンジのエネルギー消費をUFにより合成して導出する方法は、その前提として「走行はCDレンジから開始、充電は1日に1回、全国平均と同じドライブパターンの走行」を想定している。

PHEVの代表的燃費の単位としては、ICEVやHEVと同様に単位ガソリン量当たりの走行距離で示すのが一般ユーザーに最も理解しやすいと考えられており、[km/L]の単位(米国では[miles/gallon]、[MPG])で表示する方法が普通用いられている。単位ガソリン量当たりの走行距離で示す場合はCDレンジの電力消費[km/kWh]をエネルギー的に等価のガソリン燃費[km/L]に換算するなどして、これを以下の式を用いてCSレンジのガソリン燃費[km/L]と合成する。


ここで燃費N [km/L] は単位距離あたりのガソリン消費率C[L/km]の逆数になるので、燃費は(2)式により計算される。Equation2


PHEVの代表的燃費算出の考え方と例

3representativesここでは、電力とガソリンのエネルギー消費からPHEVの代表的燃費を算出する考え方とその例について考察する。


① 電力消費を無視してガソリン消費のみで評価

Equation3電力消費を無視してガソリン消費量のみを用いて代表的燃費を算出する場合、上記の(2)式の分母の第1項はゼロとなるため (2)式は(3)式のようになる。

この評価方法は、日本(国土交通省)およびEU(UN)で規定され、使用されている。

例えば、2012年式プリウスPHV のJC08モードの場合、CSレンジ燃費=31.6[km/L] およびUF = 0.483[-]なので、(3)式によりPHEVの代表燃費(「複合燃料消費率(プラグインハイブリッド燃料消費率)」と呼称)は61.1 [km/L] と計算される。(「複合」の意味に関しては注記1を参照)

この評価方法は、ガソリン消費量のみで全走行距離を除すので大きな電池を搭載してUFが大きくなる場合、ガソリン消費量が小さくなるので代表燃費値が過大になる欠点がある。


② 電力消費を発熱量で等価のガソリン消費に換算して評価

Equation45電力を熱量で等価のガソリンに置き換えて代表的燃費を算出する場合、上記の(2)式でCDレンジの電力消費のガソリン等価燃費はAEモードの場合 (4)式になるので、(2)式は(5)式になる。

ここでガソリンと電力の熱換算係数のH[kWh/L]として次の値が用いられている。
 H = 8.89[kWh/L] 32.0[MJ/L] (EPAのガソリン発熱量)
 H = 9.14[kWh/L] 32.9[MJ/L] (日本のガソリン発熱量)

この評価方法は、EPAでは既に使用されており、日本の新燃費基準報告書の中の別添6「電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車の取扱いについて」では将来のPHEVなどの燃費評価として示されている。

例えば、2011年型Chevrolet VoltのEPA City/Highway複合燃費の場合は、CDレンジの電力消費= 4.5[km/kWh]、CSレンジの燃費 = 16[km/L]、UF =0.64[-] なので、(5)からPHEVの代表的燃費 = 26[km/L] = 60[MPGe]と計算される。

この方法では電力とガソリンを熱量で等価換算しており、動力として使用する充電電力を熱として低く評価しているため、大きな電池を搭載してUFが大きい場合に、代表燃費値が大きく出る傾向がある。

注: EPAの燃費ラベルの最終デザインでは、上記のように複合燃費をユーティリティファクターで合成したPHEVの「合成燃料消費率(合成燃費)」はラベル上に数値的に明示されないように決まったが、ラベルに記載されている年間燃料費用と5年間節約金額は合成燃費を用いて計算されていると考えられる。また、このVoltの合成燃費(60MPGe)は、EPAが全車種について燃料経済リーダー車を決めるときに使用されている。(これについては、「GMのボルトのEPA燃費ラベル」)の「追記1:新デザインによる2012年式VoltのEPAラベル」を参照されたい。



③ ガソリン・電力のエネルギー変換率により換算して評価

これは、ガソリンと電力間のエネルギー変換率を用いて、電力を等価のガソリンに置き換えて代表的燃費を算出する方法である。数値的には、(4)式でガソリンから電力へのエネルギー変換率をη[-]として、AEモードの場合は (6)式を用いて計算することになる。Equation6

この考え方による燃費算出方法は、1980年代から米国で代替燃料による燃費の表示方法として検討されてきており、2000年にはDOEがCAFE(企業別平均燃費)基準に適用する電気自動車の燃費表示のためにこの考え方による「石油等価燃料経済計算」のルールを決めている. この計算指針では上記のエネルギー変換率ηの値として米国の化石燃料発電の発電効率の平均値0.328を用いている。

ただし、電力消費量をガソリン消費量に変換する式の中に、充電電力駆動への大きなインセンティブとしてFuel Content Factor(値は6.67)なる係数を入れており、最終的なガソリンと電力の換算係数は、19.5~21.7[kWh/L]と発熱量で等価の換算(②の8.89[kWh/L])の2倍以上となり、充電電力駆動に大幅に有利な燃費を算出するようになっている。


エネルギー変換率によるPHEVの代表的燃費表示

CDレンジがAEモードの場合のエネルギー等価・UF合成による代表的燃費の一般的計算式は(7)式で表される。Equation7

ここで、ガソリンから電力へのエネルギー変換率(η)をどのようにとるかによって、PHEVの代表的燃費の値が変わる。

前節の「PHEVの代表的燃費算出の考え方と例」で示した3種類の評価方法を一般的な(7)式に当てはめた場合、ηの値は次のようになる。

① 電力消費を無視してガソリン消費のみで評価: η=∞
② 電力消費を発熱量で等価のガソリン消費に換算して評価: η=1.0
③ ガソリン・電力のエネルギー変換率により換算して評価 η=0~1の値


Gaselecconversion熱力学的に意味のあるガソリンから電力へのエネルギー変換率として、同じ化石燃料を用い発電の主流である火力発電の熱効率を参考にするのが妥当と考える。現在、日本の火力発電の平均熱効率は42%程度であり、新設のプラントはコンバインドサイク48%(石炭IGCC)~60%(天然ガスGTCC)程度となっており、平均熱効率は今後も向上していくものと考えられる。以上から、PHEV代表燃費に使用するガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの値としては、0.5程度が適当と考える。

ガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの参考になる値として、「JHFC 総合効率特別検討委員会」2010年報告書の一次エネルギー源から車両(燃料タンク・電池)までのWell-to-Tank効率から、ガソリンと電力の一次エネルギー量の比を計算してみる。単位車載エネルギーあたりの一次エネルギー量は、ガソリンでは1.2 [MJ/MJ]、電力(日本の2009年度電源構成、車載電力は電池における値、水力・原子力の一次エネルギーはゼロと仮定)では2.5 [MJ/MJ]となっているので、充電効率0.86の補正をしてガソリン・電力の一次エネルギーの比として1.2/2.5/0.86= 0.56が得られる。

ここで、ガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの値をパラメーターとして、JC08モードの燃費・電費の試験値からPHEVの代表的燃費を計算した例を下表に示す。この表のパラメーターηの値としては、上記①電力消費を無視してガソリン消費のみで評価η=∞、②電力消費を発熱量で等価のガソリン消費に換算して評価η=1.0、および③ガソリン→電力のエネルギー変換の熱力学的考察から火力発電の熱効率を参考にη=0.5、をとった。


Phevfuelconsumptioncompare4
(7)式による代表的燃費の算出は、UFが0から1までの範囲、すなわちハイブリッド車(HEV、UF=0)からPHEVを経て電気自動車(BEV、UF=1)に至るまでシームレスに適用可能なので、表にはHEVとBEVの計算例も含めた。なお、表中のGMのVoltについてはJC08モードでの試験結果はないので、[JC08モード燃費 = EPA複合燃費 x 1.5 ] と仮定して得られる燃費とUFを用いた。

表で、エネルギー変換率ηが0.5の燃費値は熱力学的にも意味があるとともに、一般ユーザーにとっても実用の際の燃費との乖離などの違和感がない値となっている。(ただし、PHEVの代表的燃費算出の元になっているモード燃費の実用燃費との乖離の問題は別)

エネルギー・環境対応型自動車の導入促進のために、企業別平均燃費規制方式のように充電電力駆動の車の燃費値を高く設定して政策的インセンティブとすることも考えられるが、一般ユーザーを対象としたPHEVの表示燃費には科学的に意味のある定義・算出方法が必要と考える。

ガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの値として、火力発電の現在から近い将来における効率値などを参考にすると、η=0.5程度を用いたPHEV代表的燃費の定義が最も合理的なものと考える。

まとめ

● 電力とガソリンの2種のエネルギーにより駆動されるPHEVのエネルギー消費率を単一の代表的燃費値で表示する方法について考察した。
● CDレンジとCSレンジのエネルギー消費の合成に必要なユーティリティファクターの値は、代表的な統計調査データから適切な統計処理方法で算出されるべきと考える。
● ガソリン→電力のエネルギー変換率ηが0.4~0.6の範囲の燃費値は熱力学的にも意味があるとともに、ユーザーにとって違和感がない値と考えられる。
● エネルギー・環境対応型自動車の導入促進のために、充電電力駆動の車の代表的燃費値を高く設定して政策的インセンティブとすることも考えられるが、一般ユーザーを対象とした表示燃費には科学的に意味のある定義・算出方法が必要と考える。
● PHEVの代表的燃費の定義には、ガソリンから電力へのエネルギー変換率としてη=0.5程度を用いるのが最も合理的と考える。

注記1: 燃料消費率(燃費)における「複合」の意味

米国環境保護庁(EPA)が認定(Certify)する燃料消費率(燃費)には、都市部(City)走行燃費と高速道路(Highway)走行燃費と、この二つの燃費が下の式により結合された(Combined)燃費の3つがあります。(「mpg」はMiles per Gallonの略)
  Combined mpg = 1 / [(0.55/city mpg) + (0.45/highway mpg)]
このEPAのCityとHighwayの「Combined」燃費を日本では「複合燃費」と呼んでいます。

一方、本稿ではPHEVの代表的燃費表示としてユーテリティファクターによりCDレンジとCSレンジの二つの燃費・電費から合成された(Composite)燃費を合成燃料消費率(合成燃費)としていますが、国土交通省ではPHEVの代表燃費は「複合燃料消費率(プラグインハイブリッド燃料消費率)」と呼んでいます。

すなわち、日本では「複合」という言葉が、EPAのCityとHighwayの「Combined」と、CDレンジとCSレンジの「Composite」の、両方の意味に使用されているので注意が必要です。
(2013.1.11)

注記2: 「複合」、「等価」、「合成」の使い方

本稿では、「複合」、「等価」、「合成」について、別に定義されている以外では、次のような使い方をしています。
 ◎ 複合(燃費)=EPAによる都市部(City)走行燃費と高速道路(Highway)走行燃費を加重調和平均したCombined(複合)燃費
 ◎ 等価(燃費)=ガソリンと電力の消費量を何らかの考え方で同じ単位に換算して合算し走行距離を除したEquivalent(等価)燃費
 ◎ 合成(燃費)=ユーティリティファクターによって電力走行とガソリン走行を加重調和平均したComposite(合成)燃費

注記3: プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- ユーティリティファクタ,電力・ガソリン等価合成の考え方

プラグインハイブリッド車の燃料消費率、ユーティリティファクタ、電力・ガソリン等価合成の考え方や関連する話題については、自動車技術会の会誌「自動車技術」2014年7月号に掲載した表題の解説へのリンクがある。(2014.7.30)

(2013.1.12)

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メモ: 三菱アウトランダーPHEVの「複合燃料消費率」など

Btn_phev2009年頃からコンセプトが発表されていた三菱アウトランダーPHEVがいよいよ2013年1月に発売されことになりました。SUVと4WDが特徴的なプラグインハイブリッド車で、新しい機構もあり、楽しみな車です。

三菱自動車のアウトランダー予約受付開始のプレスリリースから、PHEV特有の複合燃料消費率の計算方法やその他気の付いた点をメモしました。

Outlanderspec_2

1.アウトランダーPHEVの複合燃料消費率の計算方法

上の諸元表でEV走行可能距離(充電電力走行距離、CDレンジなどとも呼称)が60.2kmなので、これから電力走行距離割合(ユーティリティファクター、略してUF)を計算することができます。

Ufcomparemlitandhori2j日本の平均的ユーザーを対象とするユーティリティファクターUFについては、筆者が2007年に導出したものと、国土交通省が2009年に提示したものがあります。左の図は、電池による充電電力走行距離を横軸に、UFを縦軸にとって、その関係を示したものです。なお、この図で、「堀」の値は国土交通省の2004年自動車輸送統計報告書より自家用乗用車・登録自動車(小型車・普通車)を対象として導出したもので、「国交省」の値は「JCAP自動車使用実態調査より」となっていますが対象車種などの詳細は示されていません。

アウトランダーPHEVのEV走行可能距離の60.2kmから、国土交通省提示のユーティリティファクターUFを求めると、UF=0.7229(この計算は国土交通省提示の近似式から計算)となります。

複合燃料消費率は、この場合CDレンジを全部電力で走行するモード(AEモード)と考えられるので、計算式は、
  複合燃料消費率=ハイブリッド燃料消費率/(1-UF) となり、
  複合燃料消費率=18.6/(1-0.7229)=67.1km/L と計算されます。
この値は、上記諸元表の67.0km/Lとほぼ一致しています。

ここで注意しなければいけないのは、国土交通省がPHEV用に定義した「複合燃料消費率(「プラグインハイブリッド燃料消費率」とも呼ぶ)とは、充電電力とガソリンの両方を消費して走行した全距離(km)を消費したガソリン量(L)のみで割った値です。すなわち、電力の消費量は計算に入っていません。(PHEVのユーティリティファクターと燃費に関する一般的問題については、文末の注記1を参照)


アウトランダーPHEVの場合には、12kWh容量の大きなバッテリーを搭載しているのでユーティリティファクターが約0.72となっていますが、これは平均的なドライブパターン(一日当りの走行距離の分布)のユーザーが使用した時に72%の距離を充電電力で走行するという意味です。この場合は残りの0.28すなわち28%の距離をガソリンを消費してハイブリッド走行しますが、この28%の距離を走行するのに消費したガソリン量で全部の距離を割っていますので、算定された「複合燃料消費率」は67.0km/Lと大きな値になります。

極端な例として、GMのレンジエクステンダー型PHEVのボルトは16kWh容量の大きなバッテリーを搭載しているので、もし日本に持ってきてJC08モードで走行させた場合にユーティリティファクターが0.81程度になると想定され、この場合は19%の距離のハイブリッド走行で消費するガソリン量で算定するので「複合燃料消費率」は126km/Lという大きな値に計算されます。

[追記] 
 2014年発売のレンジエクステンダー型PHEVのBMW i3 RExの「プラグインハイブリッド燃料消費率」を、この2009年の国土交通省実施要領に従って計算すると実に652km/Lという値になる。
 国土交通省は2014年に「プラグインハイブリッド燃料消費率」の表示の見直しを行うことを発表(1,2)しており、BMW i3 RExの仕様表(2014年4月現在の主要諸元)には「プラグインハイブリッド燃料消費率」の項目は記載されていない。また、2014年以前発売の他社のPHEVでも2015年以降のカタログの仕様表には同様に「プラグインハイブリッド燃料消費率」の項目の記載がなくなっている。

一方、トヨタのプリウスPHVの場合は4.4kWh容量のバッテリーを搭載しているので、ユーティリティファクターは約0.48となり、52%の距離のハイブリッド走行で消費するガソリン量で算定するので「複合燃料消費率」は61km/Lと計算されます。

要するに、ガソリン消費量のみを考慮している「複合燃料消費率」の定義では、バッテリーの大きさが「モノを言う」のです。だからと言ってこの「複合燃料消費率」の定義は「意味がない」わけではありません。平均的なドライブパターンのユーザーならば、消費するガソリン量はこの「複合燃料消費率」で全走行距離を割った値になります。これに、充電した電力量を加えた値が走行のための全エネルギー消費量になります。なお、充電電力量の計算には、「電力消費率」(km/kWh)が必要ですが、今回のプレスリリースの上記諸元表には記載されていませんでした。

2.今回の発表で気の付いた点

① いずれ国土交通省審査値が正式に発表されたらカタログなどに記載されると思いますが、「電力消費率」[km/kWh]の値と「一充電消費電力量」[kWh/回]の値は重要な情報ですので、諸元表に含めて頂きたい項目と思っています。

② 上の「アウトランダーPHEV主要諸元(予定)」の表の注釈2に、「一般ドライバーの約90%は、1日の平均走行距離が60km以下。(出典:JCAP自動車使用実態調査)」とありますが、この元の調査の目的、対象とした地域、整理方法、標本数などから、こう言い切ることにどの程度説得性があるか気になるところです。もっとも、上記国土交通省のユーティリティファクターも、使用したデータ数・処理方法、対象車種などの詳細はありませんが「JCAP自動車使用実態調査」から導出したようになっていますので、調査内容を検討した結果ならば問題ないと思います。

③ 急速充電がメーカー・オプションで設定されていますが、PHEVの通常の使い方では急速充電は必要と考えられず、それよりもAC200Vの普通充電(SAE J1772 AC Level 2相当)を現在の15Aから30Aにした方が実質的と思います。米国ではLevel 2のEVSE(車外充電機器)は公共用も含めて30A~32A対応となっており、いずれ日本もこの方向に進むと考えられるので、PHEVとしては大きめの電池を搭載しているアウトランダーに先鞭をつけて頂きたいところです。

追記1: 三菱自動車 新型アウトランダーPHEVを正式発表(2012年12月26日)
Outlanderphevmlit
 発売日: 2013年1月24日
 
 価格: 332万4000円~429万7000円。2012年度クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金(上限額43万円)が適用された場合の実質的な車両本体価格は289万4000円から。
 
 仕様: ここ

上記仕様表から燃費・電費などのPHEVの燃料消費関連データを抜粋して右の表に示す。
(2012.12.26)

注記1: PHEVのユーティリティファクターと燃費に関する一般的問題

国土交通省によって規定されているユーティリティファクターやそれを用いたプラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)の審査値の導出においては次のような仮定を置いています。

 ①規定されているユーティリティファクターは、ある母集団の走行データから統計的に求めており、これらの母集団の平均と同じドライブパターンの車に適用すると仮定している。
 ②規定されているユーティリティファクターは、充電は1日1回で走行は満充電の状態から開始すると仮定している。
 ③ユーティリティファクターの図の横軸の「充電電力走行距離」は「EV走行換算距離」と同じで、EV走行に使用可能な電池容量すなわち「一充電消費電力量」と「電力消費率」の積になるが、この「電力消費率」はJC08モードテストの値であり、得られた審査値はJC08モード値と同じ電費・燃費で走行すると仮定している。

実際の走行はユーザーによって千差万別であり、ユーザーの走行条件次第で実走行燃費は審査値から乖離することになります。このようなPHEVのユーティリティファクターと燃費の問題はアウトランダーに限った話ではないので、別項で議論することにします。この中のプラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)の定義の妥当性については、「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」の項で考察しています。
(2012.12.26)

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