エネルギー・環境対応型自動車の総合CO2排出量
電気自動車・ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車などの「エネルギー・環境対応型自動車」の「エネルギー源から車輪まで」を総合した二酸化炭素(CO2)排出量を、最近のJHFCのWell-To-Wheel評価のデータを入れて計算してみました。詳細は「電気自動車を火力発電で動かすより、ハイブリッド車の方がCO2排出は少ない?」のサイトの最後の方の「注記4」および「注記5」にまとめてあります。
自動車が使用するエネルギーがガソリンのほか電気も加わってきたので、Well-To-Wheelの「Well」(油井)やTank-To-Wheelの「Tank」(ガソリンタンク)の表現がふさわしくなくなり、一次エネルギーの源の意味で「Source」、自動車のエネルギー貯蔵(タンクや電池)の意味で「Vehicle」を使用した「Source-To-Wheel」や「Vehicle-To-Wheel」の表現を用いています。
上記サイトにも書いてありますが、新しい燃費計測基準の「JC08」モードによる燃費は、従来からの「10・15」モードの値よりもユーザーの実走行時の燃費に近いと言われていますが、一般ユーザーの普通の走行条件では「JC08」モードの値を出すことは先ず困難であり、実燃費とは未だ相当乖離しています。
これに対して、米国の環境保護庁(EPA)が制定している燃費は、都市部走行(City)、高速道路走行(Highway)とそれらの複合(Combined)の3データが示されており、これらの値は日本の「JC08」モード燃費よりも低く、日本での実走行燃費にかなり近いと考えられますので、上記サイトの注記4ではEPA複合燃費で評価した「Source-To-Wheel」のCO2排出量の結果を示しました。(上の図)
ただ、「JC08」モード燃費は実用燃費と乖離しているとは言え、公式には各所で使われていますので、注記5では各車種について「JC08」モードによって評価した「Source-To-Wheel」のCO2排出量の結果を示しました。(下の図)
これらの図から判るように、電気自動車やプラグインハイブリッド車のCO2排出量は自動車を充電する系統電力のCO2排出原単位によって変わり、この発電のCO2排出原単位は電力会社の電源構成によって変わるので自動車を使用する地域によって変わり、また年度によって電源構成などが変われば変動します。なお、日本全体では、発電のCO2排出原単位の平均値に相当する自動車のCO2排出量を見ることになります。
詳しい導出過程などは、上記サイト、とくにその中の注記4と注記5をご覧下さい。
追記1: 2011年度の10電力の電源別発電電力量構成
2012年6月13日、電気事業連合会から2011年度の10電力会社の電源別発電電力量構成が発表になった。
それによると
地熱および新エネルギー 1.4%
水力 9%
石油等 14.4%
LNG 39.5%
石炭 25%
原子力 10.7%
となっている。
2010年度と比較すると、原子力のシェアが28.6%から10.7%に大幅に低下し、その過半をLNGの29.3%から39.5%への大幅増加で補っている。なお、電事連発表の2002年から2011年までの各年度の電源別発電電力量構成比は右図の通り。
この電源構成から2011年度平均のCO2排出原単位(排出係数)を電力中央研究所報告書(「日本の発電技術のライフサイクルCO2排出量評価」2010年7月発行)の電源別CO2排出量のデータなどを参考に推定すると、約0.51kgCO2/kWhとなる。また、2012年6月現在、全原子力発電が稼働していないので、このような原子力ゼロの場合のCO2排出原単位を同様に概算すると約0.56 kgCO2/kWhとなる。この推定条件は、2011年度の原子力発電のシェア10.7%を全部LNGが肩代わりしてLNGシェアが50.2%になるとした場合で、もし原子力のシェア減の一部を石炭によって補うとするとCO2排出原単位は0.56 kgCO2/kWhより大きくなる。なお、別項に記載のように計算条件は不明だが2012年のCO2排出原単位として0.58 kgCO2/kWhという値も報じられている。
上の「発電のCO2排出原単位 vs. 自動車のCO2排出量」の関係図に、2009年度および2010年度の電力10社平均の使用端CO2排出原単位(排出係数)の電事連発表値に加えて、2011年度電力10社平均のCO2排出原単位と原子力発電ゼロの場合の電力10社平均のCO2排出原単位の筆者推定値を記載した。
2009年度 0.412 kgCO2/kWh(電事連発表値)
2010年度 0.413 kgCO2/kWh(電事連発表値)
2011年度 0.51 kgCO2/kWh(筆者推定値=電事連発表値、追記2参照)
原子力発電ゼロの場合 0.56 kgCO2/kWh(筆者推定値)
なお、例えば、同じLNG火力発電でも汽力か複合か、またその温度によっても効率が変わるため、詳細な電源構成の条件を入れないと正確なCO2排出原単位は算出できない。ここに示した「筆者推定値」は、電気事業者から確定値が発表されるまでの参考程度と考えて頂きたい。
(2012.6.20)
追記2: 2011年度の電力10社平均のCO2排出原単位の電事連発表値
2011年度の電力10社平均のCO2排出原単位が2012年12月に発表されていました。筆者推定値の0.51 kgCO2/kWhと同じ値でしたのでその旨追記しました。
(2013.7.15)
| 固定リンク
「自動車」カテゴリの記事
- 運転が楽しいトヨタ・プリウス(2007.09.23)
- 2015年ころ発売の第4世代新型プリウス(2012.11.19)
- 走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題(2012.12.15)
- 電気自動車導入による電力需要増加(2009.11.09)
- 月刊誌OHMに「自動車から電力系統への電力融通(V2G)」の解説を執筆(2010.03.17)
コメント
平成22年の電気事業者ごとの実排出係数・調整後排出係数等の公表ありました。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14702
全電源平均で0.56となっています。沖縄電力が0.935 関西が0.31です。やはり採用されている図の数字はかなり違和感があります。実排出係数がありますので、これを採用されたらどうでしょうか。
よろしくお願いします。
投稿: fushikiz | 2012.04.26 18:19
Fushikizさん、コメント有難うございます。
別項の
http://hori.way-nifty.com/synthesist/2011/02/co2-3323.html?cid=70668940#comments
にも書きましたが、ご指摘のように発電のCO2排出係数については、2009年度ではなく、出来たら2012年3月までの2011年度のものを使用したいと思っています。
Fushikizさんのコメントの環境省の
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14702
のデータで、発表は2012年1月ですが2010年度(2010年4月~2011年3月)のもので、震災の影響は半月程度しか入っていません。
2010年度の10電力(プラス2社)の平均の実排出係数(使用端CO2排出原単位 kg-CO2/kWh)は、下記の電事連→経産省の資料にあるように「0.413」で、09年度の「0.412」より僅かに 0.001の増加です。これは震災の影響が半月程度なので、この程度で済んだと考えられます。
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004606/2011_04_01.pdf
日本の平均のCO2排出係数の11年度の実績と12年度の予想の数値を調べて、ブログ掲載の図に追加したいと思っています。数値がない場合は、言いたいことを説明文で補足することを考えています。
投稿: Synthesist | 2012.04.28 11:26