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低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?

Fuelcellsもし、このガソリンを燃料とする低温の燃料電池(SOFC)が本当に実用化したら;
 car エネルギー効率が2倍になるので、ガソリンスタンドは生き残ってもガソリンエンジン車は減っていく?
 car そして、既存のガソリンインフラが利用できるので、大規模な水素インフラ整備が必要な水素の燃料電池車は影が薄くなる?
 car さらに、コンパクトで「航続距離不安」のないSOFCレンジエクステンダーとの住み分けで、電気自動車は急速充電インフラを必要としない近距離コミューターに変わっていく?
 carcarcar まさに自動車が変わることになりそうである。

Wachsman280x120米国メリーランド大学エネルギー研究センター長のEric Wachsman教授が開発したガソリン燃料の固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、大学のプレス発表によると、エネルギー密度が約2ワット/平方cmと大きく、作動温度が650℃以下と低い、画期的なものである。これまで他のグループも2ワット/平方cm程度のエネルギー密度を実証してきているが、何れも約800℃の作動温度でボタンサイズのYSZによるもので、スケールアップに際しては問題に遭っている。

Wachsman教授等は別の材料を各種試み、アノードに薄膜GDC/ESBの2層電解質、カソードにBR07―ESB複合材料の組合せで、このエネルギー密度・作動温度のブレークスルーを達成した。この電解質は、従来のジルコニアのものに比べて電気伝導度が同じ温度で約100倍と優れている。(電極の組成は注1参照)

「2ワット/平方cm」というエネルギー密度だが、カリフォルニアでCoca-Cola、Fedex、Googleなどの各社のビルに自家発電用SOFCを納入して有名になったBloomエネルギー社のユニットがこの10分の1程度のエネルギー密度でしかも作動温度は900℃であることから、画期的な値であることが判る。

上の写真で手に持っているセルが10x10センチで200ワット発電、下の図(E.D. Wachsman, K.T. Lee; Science.)のように、これを5セル合わせたものが1センチ厚、50セル合わせたスタックが10x10x10センチの立方体で10kW発電、これを10スタック束ねた1モデュールが100kW発電となる。この図には、SOFCの出力とその適用機器の対比が示されている。このスタックは材料1kgあたり3kWの発電が可能で、内燃機関の1/3のサイズでそれ以上のパワーが出ることになる。Sofcl

Wachsman教授によると、現在の作動温度650℃は電解質と電極の改良により350℃まで下げることが出来るとのこと。この温度まで下がると、自動車の動力源としての利用可能性は大きく拡がる。SOFCの自動車搭載時の問題は、始動時における作動温度までの予熱時間で、作動温度が350℃まで下がると電池電力でスタートして走行中に燃料電池電力に切り替えるまでの電池容量が少なくて済むので、乗用車を含む各種の自動車に適用可能になる。ガソリン燃料の場合は、扱い慣れている液体燃料を、ガソリンスタンドなどの既存のインフラを通して供給できる利点がある。

このガソリン燃料電池は、電動パワートレインを持つハイブリッド車との相性が良さそうである。燃料電池をハイブリッド車のエンジンの代わりにする場合、もともと搭載している短距離走行可能の電池を使用して予熱時走行ができる。プラグインハイブリッド車の動力源として使うのは、電池容量に余裕がある上、電力系統との双方向電力流通(V2G)の特長も生かせて、最高の組合せと考えられる。

この低温ガソリンSOFCは、はたして目論見通り本当に開発・実用化できるのか? しかし、もしこのガソリン燃料電池のような液体燃料による低温SOFCが実用化されたら、自動車やその他の移動用動力源を革新する破壊的(disruptive)技術となるので、要注目である。そして、効率の良い燃料電池によりガソリン使用量は減るが石油依存には変わりはないので、長期的には脱炭素のためにも、燃料をバイオマス起源の合成燃料などに切り替えていく研究開発が必要である。

主な参考資料・図出所:
"Gasoline Fuel Cell Would Boost Electric Car Range"
MIT Technology Review, December 2, 2011

"Gasoline SOFC under Development for Automotive Applications"
Fuel Cell Today, December 5, 2011

"With low-temp SOFC gains like this . . . why stop now?"
Ceramic Tech Today, November 18, 2011

Eric D. Wachsman and Kang Taek Lee
"Lowering the Temperature of Solid Oxide Fuel Cells"
Science 18 November 2011:Vol. 334 no. 6058 pp. 935-939

Eric D. Wachsman, Craig A. Marlowe and Kang Taek Lee
"Role of solid oxide fuel cells in a balanced energy strategy."
Energy and Environmental Science, 2012, First published on the web 07 Nov 2011

注1:
 略称は次の通り。
  YSZ = yttria-stabilized zirconia
  GDC = gadolinium cerium oxide
  ESB = erbia-stablized bismuth oxide
  BRO7 = nano-sized pyrochlore bismuth ruthenate
 なお、2層電解質とは、GDC(~10μm)/ESB(~4μm) の2層


追記1: 天然ガス燃料定置用の低温SOFCを商品化

Thecube上記メリーランド大学Wachsman教授が開発した低温SOFCが、同教授が参加して設立したベンチャー企業のRedox Power Systems LLCによって天然ガス燃料・定置用燃料電池として先ず商品化されることが2013年8月メリーランド大学とRedox社から発表された。(以下、この燃料電池を「Redox燃料電池」と呼ぶ)

2012年設立されたRedox社はWachsman教授による低温SOFC関連特許の独占使用権を持っており、今後メリーランド大学とRedox社が共同でこの技術の実用化に取り組むとしている。

上の写真はRedox電池商品化第1号の「SERG 2-80 Cube」と呼ぶ皿洗い機サイズの25kW燃料電池の外観、このような形状で2kWから80kWの出力のものを構成できるとしている。このRedox電池の特長は、上の説明にあるように、SOFCとして画期的な2.5W/cm2の高出力密度と550℃の低作動温度である。

13年12月までに製作する25kW出力のプロトタイプはコンビニ店舗などの電源用で製品化・発売は2014年末の予定。Redox社によると、これまでのSOFCと比較してRedox燃料電池のサイズは1/10、コストも1/10なので、安全・高効率・高信頼性の連続的なオンサイトの電力供給が系統と接続なしでも可能になり、電力コストも現在の系統電力と競合可能になり、さらに非常の場合の自家発電として有用なもの。

Redox燃料電池の価格は少量生産で $1500/kW、大量生産で $800/kWと言っているので、Bloomエネルギー社の現行製品の 価格$8,000/kWの1/10。これはRedox電池の電解質の電気伝導度が在来の10~100倍であること、またその作動温度が在来の800℃以上に対して550℃と低いためにセル以外を含めて材料選択などが楽になることが挙げられている。

日本の家庭用燃料電池(1kW以下)の普及シナリオでは、これまでの2009年300~350万円、2012年260万円から、今後2015年50~70万円、2020年~2030年40万円となっており、Redox燃料電池の8万円/kWの価格は将に破壊的。
 「固体酸化物形燃料電池の高効率化の可能性」(原祥太郎、2013.02.22、低炭素社会技術フォーラム)

なお、最初の製品は天然ガス(メタン、都市ガス)を燃料とするが、将来、プロパン、ガソリン、灯油、軽油、バイオ燃料、水素などを使用する計画があり、自動車への適用も考えられている。

このメリーランド大学・Redox社の発表に対して、低温SOFCの実用化・将来性への期待とともに、次のようなコメントも出されている。

 ●セル以外のポンプや配管を含む全システムが未だ完成していないため、価格推定が燃料電池システムの主要構成要素のみのデータに基づいており、またきちんとした財務的な方法によっていないとのコメントがある。(上のCubeの写真もモックアップで実物ではない)

 ●燃料電池はこれまで維持費がかさみ寿命が短いなど評判が良くなく、また燃料電池ベンチャー企業の実績が芳しくないことなどに懸念を示すコメントもある。耐久性についてはWachsman教授は試験結果から10年以上の寿命があると述べている。

主な参考資料・写真出所:

●Meet the Potential Future of Electricity Generation University of Maryland
●Introducing the Redox PowerSERG 2-80 "Cube" Redox Power Systems LLC
●Redox Power Plans To Roll Out Dishwasher-Sized Fuel Cells That Cost 90% Less Than Currently Available Fuel Cells Forbes
●Could This Be the Fuel Cell to Beat All Fuel Cells? Green Tech Media
●An Inexpensive Fuel-Cell Generator MIT Technology Review
(2013.09.07)

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