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「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向

Renewableh2societyエネルギーキャリアーとして電気とともに水素を利用する「水素社会」は来るか? 水素のエネルギー利用について、需要・供給・利用の可能性・課題を展望・整理し、今後の方向について見解をまとめた。(左図は、「水素社会」のイメージの例)


1. 水素エネルギーの位置づけと利用の方向

Energyconversionapplication

エネルギーの利用においては、化学、熱、光、位置、運動などのいろいろな形態の一次エネルギーを、精製、化学反応、発電などの転換プロセスを経て、利用に便利なエネルギーキャリアーにして、これを利用プロセスに供給している。(右の表) 現在は、化石燃料から製造する「炭化水素」類と、各種一次エネルギーからつくられる「電気」が主要なエネルギーキャリアー(エネルギーを運ぶ媒体)である。

1次エネルギーのうち発電に使われている割合(電力化率)は、BP統計(2013年)によると日本やフランスでは52%、OECD加盟国では44%、世界全体では41%となっている。将来、地球環境とエネルギー供給を両立させるために電力化率を70~80%以上まで上げると想定して、残りの非電力エネルギーをどのようなエネルギーキャリアーによって運ぶのが良いかを考察してみる。

エネルギーキャリアーとして電気とともに水素を利用する「水素社会」については;

 ・エネルギーの脱炭素化を達成し、低炭素社会へ移行するには、エネルギーキャリアーとしての水素をCO2排出を抑制しつつ製造・使用していく「水素社会」の実現が必要との考えがある。

 ・水素社会によって達成し得ることに、エネルギー利用端での排出が水のみというクリーン性、燃料電池による動力への変換の高効率性、などがある。これと同じ目的のことが、例えば高密度・軽量の電池などの電力貯蔵方法が開発されたら、殆ど電気のみをエネルギーキャリアーとして使用する「電化社会」によって、達成することができる。

 ・さらに、水素エネルギーの実用化までに、製造・輸送・貯蔵・利用の各段階で多くの技術改良が必要であり、このような対抗技術の可能性と水素実用化までの障壁から、水素社会の実現に懐疑的な見方もある。

Hydrogensociety1

 ・左表に示すように、現在の社会はエネルギーキャリアーとして電力+化石燃料製品(ガソリン、軽油、灯油、都市ガス、など)を主に使用している「化石燃料社会」であるが、将来は;

1. 電力+水素を主に使う「水素社会」(電力+水素から'Hydricity'という造語もある)になるか?

2. 殆ど電気のみを使う「オール電化社会」になるか?

はたまた

3. 電力+合成燃料を主に使う「合成燃料社会」になるか?この場合の「合成燃料」とは取扱いの便利な液体燃料で、将来はCO2排出をゼロまたはマイナスにできるバイオマスから製造するバイオ燃料が考えられる。

あるいは、さらに異なったエネルギー社会になるかは、地球環境からの必要度とエネルギー技術の今後の進展・ブレークスルーに懸かっている。

今、「水素社会は来るか」と問われれば、「水素社会」の定義を左の表のように社会が使用するエネルギーキャリアーとして現在の「電力+化石燃料製品」に代わって「電力+水素」を主に使用する社会とするならば、「水素社会は来ない」と答える。

では、どのようなエネルギーを使用する社会になるか? 21世紀の半ば以降を考えると、エネルギーキャリアーとして定置用には電力を主に使用し、移動用には陸上は充電電力+炭化水素燃料(主に液体)、航空は水素(液体)を使用し、これらの電力、炭化水素、水素などの二次エネルギーを生産(発電、製造などのエネルギー転換)する一次エネルギーとしてはバイオマス・太陽光・風力・原子力などを使用することになると考える。この将来エネルギーシステムについては別項で扱うことにして、このブログのテーマである水素エネルギーについて以下考察する。

2. 「水素エネルギー利用」には二つの方法

トヨタの水素燃料電池自動車「Mirai」の発表に相前後して2014年に発行された

 ・ 経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会「水素・燃料電池戦略ロードマップ~水素社会の実現に向けた取組の加速~」(2014年6月) ダウンロード

 ・ 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「水素エネルギー白書」(2014年7月) ダウンロード

などの政府関係資料においても従前と同様に、下に定義する「単体水素充填貯蔵利用」と「製造水素直接利用」の二つの方法の両方を「水素エネルギー利用」として扱っている。それ故、以下、水素のエネルギー目的の利用をこの二つの方法に分けて両方のケースについて考える。

単体水素充填貯蔵利用
 単体水素を燃料電池自動車などに充填・貯蔵し利用するケース。充填する場所以外で水素製造する場合(オフサイト型)は充填場所までの単体水素の配送が必要、 充填する場所で水素を製造する場合(オンサイト型)は充填する場所までの天然ガスなどの化石燃料の配送または電力の送配電が必要。

製造水素直接利用
 天然ガスなどの化石燃料を配送して、目的の場所で改質反応などで水素を製造し、製造した水素を直ちにその場で燃料電池などに供給して利用するケース。利用する場所までの天然ガスなどの化石燃料の配送が必要。

これらの水素のエネルギー利用の可能性については、一般に次のように理解されている。

① 単体水素充填貯蔵利用

 (1) 水素を燃料とする固体高分子型燃料電池(PEFC)を動力源とする自動車の開発が進展しており、2015年頃には他の次世代自動車と性能的に競合可能なレベルのものが市販される。水素供給インフラは国・地方自治体などの補助により整備される。

 (2) 水素の入手が容易な場所においては、燃料電池利用の屋内フォークリフトや非常用電源など、水素の特性を活用した利用が進む。

② 製造水素直接利用

 (1) 天然ガス(都市ガス)、LPG、灯油などの化石燃料をエネルギー源として製造する水素による燃料電池は、家庭用、ビル用、地域用として導入される。

 (2) 固体酸化物型燃料電池(SOFC)技術の進展次第では、大型の自動車用として天然ガスなどの内部改質による利用が可能となる。

Airplanes_2水素の航空機燃料としての利用可能性

水素エネルギーキャリアーの航空機燃料としての利用は、航空機の排ガス影響などの地球環境的・国際的情勢で決まるタイミングで現実化する可能性があると考える。

 ・航空機の排出ガスによる温暖化影響は全排出の数%程度であるが、航空輸送量は増大傾向にあり、その環境影響に対する懸念が出てきている。そのため、航空機のエネルギー効率の改善努力が進められる一方で、水素の航空燃料としての利用可能性が欧州共同体・エアバスによって「Cryoplane」プロジェクトなどで検討されてきた。

 ・液体水素は航空燃料のケロシンに比べて同じ重量で熱量が約2.8倍と大きく、離陸重量を減らし最大積載量を大きくできる。しかし燃料搭載のスペースを設けたり、その他構造的には相当な変更が必要なためその実用化には早くても15~20年かかるとしている。水素の燃焼で排出するH2Oも温暖化ガスだが、CO2に比べて滞留する時間が格段に短く、その他の効果も含めてケロシンから水素燃料に変えることは環境上のメリットが大きい。

 ・水素の航空機燃料としての利用目的がCO2排出削減にあるので、水素の製造はCO2を排出しない再生可能エネルギーおよび原子力による方法になると考える。

 ・筆者の作成したエネルギー・環境ビジョン「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」では、大型航空機の燃料として水素を全面的に使用することにしている。


3. エネルギー目的の水素の供給

エネルギー目的の水素の供給について展望する。

3.1 原料と製造方法
 ・水素は電力と同様に、各種の一次エネルギーを原料として製造することができる。(左図の出所: http://images.thetruthaboutcars.com)

Hydrogeneu ・短期的には副生水素、短期~中期的には化石燃料(天然ガス、石炭)水素、長期的には再生可能エネルギー(含バイオマス)水素、原子力水素が利用される。水の電気分解による水素は、各種一次エネルギーによる電力を用いて短期的~長期的に利用される。

 ・水素製造には、副生、水蒸気改質、部分酸化、電気分解、光合成、発酵などの方法が状況に応じて用いられる。

 ・集中型製造(オフサイト型)には、水蒸気改質(天然ガス)と水蒸気ガス化(石炭)、部分酸化などが主に用いられる。分散型製造(オンサイト型)には、小型水蒸気改質(都市ガス)と電気分解(各種一次エネルギー発電)が主に用いられる。光分解などの自然エネルギー利用は、将来小規模に用いられる可能性がある。

3.2 貯蔵方法
 ・貯蔵方法としては、ガス(高圧~常圧)、液体水素、有機ハイドライド、吸蔵金属、カーボンナノチューブなどが研究開発されている。

 ・吸蔵貯蔵技術にブレークスルーがない限り、水素燃料電池車のような小型の移動体の車上貯蔵は高圧ガス貯蔵に、船や航空機のような大型の移動体における貯蔵は液体水素になると考える。

 ・有機ハイドライドによる車上貯蔵も考えられるが、自動車の場合はタンク+脱水素機器が70MPa圧縮法より嵩張るのでメリットは少ないが、船や電車のような大きな移動体ならば可能性はある。(有機ハイドライドの得失については次項参照)。

 ・貯蔵媒体ではないが、水素を成分とするアンモニアのエネルギーキャリアーとしての利用は、アンモニアの電気分解合成と直接燃料電池が実用的になると、可能性が出てくる。

3.3 輸送方法
・輸送方法としては、タンカー・コンテナ船、トレーラー・タンクローリー、トラック、パイプラインなどが検討されている。

 ・オフサイト水素製造の場合は、利用の密度・規模により、タンクローリー配送あるいはパイプライン配送が選択される。海外からの水素の移送利用はタンカー・コンテナ船によることになる。液体水素、有機ハイドライド法など、それぞれ問題点があり、海外から水素の長距離輸送が実用的に成立するか疑問である。

Toluenebs有機ハイドライド法の得失

 ・有機ハイドライド法として最近提案されている「トルエン ⇔ メチルシクロヘキサン(MCH)」のサイクルによる水素化反応と脱水素反応を組み合わせた水素貯蔵は、体積貯蔵密度および質量貯蔵密度の両方で2010年DOE目標をほぼ達成している。

 ・有機ハイドライド法の問題点は、例えば上記トルエン⇔MCHの場合、脱水素反応時に 205kJ/mol の吸熱(水素化反応時には同じく205kJ/molの発熱)をすることで、水素を取り出すときに温度200~300℃の熱供給が必要なことである。この大きさは、水素の発熱量が240kJ/mol(LHV)で、1molのMCHに3molのH2が取り込まれるので、脱水素反応に水素発熱量の28%が必要で、水素燃料電池車のエネルギー効率(Well-to-Tank効率)を下げることになる。

 ・水素化時の発熱の有効利用が可能で脱水素時の吸熱に何らかの余剰熱が利用できる条件があればエネルギー効率低下の問題は軽減されるが、水素を固体高分子型燃料電池で利用する場合などは脱水素とともに水素精製が必要であることなど、実用利用に際しては課題がある。


4. 今後の水素エネルギー利用の方向

水素エネルギーに関して、その特性やこれまでの技術進展から将来の可能性を推測すると、次のようになる。

 ①エネルギー転換・利用の個別のプロセスで中で使用する水素量は増加する。例えば、天然ガスや灯油を燃料とする定置型燃料電池、あるいは天然ガスなどを燃料とする移動用燃料電池のように、水素がプロセス内で発生し直ぐに発電に消費されるような「製造水素直接利用」のケースは増える。

 ②増加する水素需要の中では、産業の上流側での合成燃料原料や製鉄還元材としての水素需要が大きく、この供給には将来、世界的には再生可能エネルギー起源の水素および原子力をエネルギー源とする水素(1)が利用される。

 ③しかし、単体水素をパイプラインやタンクローリーなどにより供給するオフサイト型あるいは単体水素を充填する場所で製造するオンサイト型による「単体水素充填貯蔵利用」は、ガソリンや灯油などの炭化水素燃料に比べると取扱技術上の難しさがあり、コストが高く利便性が低い。今後この単体水素利用を本格化するには、配送・充填・貯蔵などの水素供給インフラの技術・コストにおける相当なブレークスルーが必要である。

 ④一方、水素エネルギー利用の目的である環境・エネルギー上の効果(ベネフィット)を定量的に分析し、効果を把握しておく必要がある。燃料電池自動車に関して水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)が行ったCO2排出量とエネルギー使用量の他の次世代自動車との比較(報告書)はこの効果分析の例である。

  この比較から、「エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る」なる

 ⑤エネルギー利用の選択に際しては効果の比較や代替技術の有無などから判断することになるが、「単体水素充填貯蔵利用」はこのような水素利用が有利な或いは必須な限られた地域・場所・施設・機種において採用されることになる。

以上から、今後の水素エネルギー利用は次のように進むと考える。

「単体水素充填貯蔵利用」
 ・「単体水素がエネルギーキャリアーとして整備されたインフラを通じて大規模に流通・利用される」状況になるためには、水素の供給インフラ整備や貯蔵など技術・コスト上の課題を解決する必要がある。それ故、水素燃料電池自動車は、水素配送インフラが整備された限られた地域で導入される程度と考える。一方、水素利用の効果が大きい航空機動力、閉空間動力(フォークリフト)、独立電源(非常用電源)などの用途では単体水素充填貯蔵利用が進むと考える。

「製造水素直接利用」
 ・メタン(天然ガス、都市ガス)、プロパン・ブタン(LPG)、ガソリン・灯油・軽油などの炭化水素(現在は石油などの化石燃料起源)をエネルギー源とする定置用燃料電池利用(PEFC/SOFCなど、効率的には内部改質のSOFCが有利)は、上記の水素配送・貯蔵の問題がないので、家庭用、ビル用、地域用として導入が進むと考える。この際、発生する余剰電力を電力系統へ逆潮流させ合理的価格での売電を可能にすれば、電気・熱エネルギー利用の合理的・効率的運用が可能になる。

 ・これら炭化水素を燃料とする燃料電池は、今後移動用燃料電池としての利用が可能になる。ガソリンSOFCのような液体燃料の燃料電池が実用化すると、既存のガソリン配送インフラを利用できる上、コンパクトで効率的な電源であるため自動車での利が可能性になる。

 ・定置用および移動用として導入される燃料電池に使用される炭化水素燃料は、将来バイオマスを原料として原子力または太陽・風力などのCO2排出ゼロのエネルギーから合成される。

要するに、「炭化水素燃料を配送し生成する水素を直接その場で燃料電池で利用する」ような「製造水素直接利用」のケースは増加していくが、「単体水素を(配送・)充填・貯蔵して利用する」ような「単体水素充填貯蔵利用」のケースは効果の大きい用途に限定される。

水素エネルギー利用の主流となる「製造水素直接利用」は燃料電池による高効率エネルギー利用が特長であるが、都市ガス(天然ガス)・LPG・灯油などを使用するので水素利用とは言え化石燃料製品利用である。将来これらの化石燃料製品をバイオマス原料のカーボン・ニュートラルさらにカーボン・ネガティブの合成燃料に変えて脱炭素・高効率のエネルギー利用にしていくことになる。

以上まとめると「将来の社会が使用する二次エネルギー(エネルギーキャリアー)は、電力が主でこれに合成燃料と単体水素が加わって構成され、これらの二次エネルギーは再生可能エネルギーおよび原子力から生産(発電・製造などのエネルギー転換)される」となる。

Books将来展望の参考になる資料

 ・水素の特性や水素のエネルギー利用の究極的目的から、「水素のエネルギー利用が好機であるか」、「各種一次エネルギーからの水素生産・利用のコスト・障害・技術開発必要性はどのくらいか」、などを冷徹に評価した上で、利用方策を策定することが肝要と考える。水素エネルギー一般に関するビジョンでは、米国のNational Research Council による「The Hydrogen Economy: Opportunities, Costs, Barriers, and R&D Needs」報告書(英文、The National Academies Press発行、2004年)が参考になる。

 ・長期的には、水素生産の一次エネルギーは、再生可能エネルギーや原子力に頼らざるを得ない。原子力水素に関しては、水素エネルギー協会の機関誌「水素エネルギーシステム」(Vol.33, No.1, 2008)掲載の「原子力と水素」、原子力水素研究会の「原子力による水素エネルギー」(原子力システム研究懇話会発行、2002年)とエネルギー高度利用研究会の「原子力による運輸用エネルギー」(原子力システム研究懇話会発行、2007年)、国際原子力学会協議会の「Nuclear Production of Hydrogen: Technologies and Perspectives for Global Deployment」(英文、American Nuclear Society発行、2004年。PDFファイルのダウンロード可能)などがある。


(2013年7月13日および2015年1月11日改訂編集)

関連ブログ:
「低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?」
「自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社」
「燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する」

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