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2011年12月

低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?

Fuelcellsもし、このガソリンを燃料とする低温の燃料電池(SOFC)が本当に実用化したら;
 car エネルギー効率が2倍になるので、ガソリンスタンドは生き残ってもガソリンエンジン車は減っていく?
 car そして、既存のガソリンインフラが利用できるので、大規模な水素インフラ整備が必要な水素の燃料電池車は影が薄くなる?
 car さらに、コンパクトで「航続距離不安」のないSOFCレンジエクステンダーとの住み分けで、電気自動車は急速充電インフラを必要としない近距離コミューターに変わっていく?
 carcarcar まさに自動車が変わることになりそうである。

Wachsman280x120米国メリーランド大学エネルギー研究センター長のEric Wachsman教授が開発したガソリン燃料の固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、大学のプレス発表によると、エネルギー密度が約2ワット/平方cmと大きく、作動温度が650℃以下と低い、画期的なものである。これまで他のグループも2ワット/平方cm程度のエネルギー密度を実証してきているが、何れも約800℃の作動温度でボタンサイズのYSZによるもので、スケールアップに際しては問題に遭っている。

Wachsman教授等は別の材料を各種試み、アノードに薄膜GDC/ESBの2層電解質、カソードにBR07―ESB複合材料の組合せで、このエネルギー密度・作動温度のブレークスルーを達成した。この電解質は、従来のジルコニアのものに比べて電気伝導度が同じ温度で約100倍と優れている。(電極の組成は注1参照)

「2ワット/平方cm」というエネルギー密度だが、カリフォルニアでCoca-Cola、Fedex、Googleなどの各社のビルに自家発電用SOFCを納入して有名になったBloomエネルギー社のユニットがこの10分の1程度のエネルギー密度でしかも作動温度は900℃であることから、画期的な値であることが判る。

上の写真で手に持っているセルが10x10センチで200ワット発電、下の図(E.D. Wachsman, K.T. Lee; Science.)のように、これを5セル合わせたものが1センチ厚、50セル合わせたスタックが10x10x10センチの立方体で10kW発電、これを10スタック束ねた1モデュールが100kW発電となる。この図には、SOFCの出力とその適用機器の対比が示されている。このスタックは材料1kgあたり3kWの発電が可能で、内燃機関の1/3のサイズでそれ以上のパワーが出ることになる。Sofcl

Wachsman教授によると、現在の作動温度650℃は電解質と電極の改良により350℃まで下げることが出来るとのこと。この温度まで下がると、自動車の動力源としての利用可能性は大きく拡がる。SOFCの自動車搭載時の問題は、始動時における作動温度までの予熱時間で、作動温度が350℃まで下がると電池電力でスタートして走行中に燃料電池電力に切り替えるまでの電池容量が少なくて済むので、乗用車を含む各種の自動車に適用可能になる。ガソリン燃料の場合は、扱い慣れている液体燃料を、ガソリンスタンドなどの既存のインフラを通して供給できる利点がある。

このガソリン燃料電池は、電動パワートレインを持つハイブリッド車との相性が良さそうである。燃料電池をハイブリッド車のエンジンの代わりにする場合、もともと搭載している短距離走行可能の電池を使用して予熱時走行ができる。プラグインハイブリッド車の動力源として使うのは、電池容量に余裕がある上、電力系統との双方向電力流通(V2G)の特長も生かせて、最高の組合せと考えられる。

この低温ガソリンSOFCは、はたして目論見通り本当に開発・実用化できるのか? しかし、もしこのガソリン燃料電池のような液体燃料による低温SOFCが実用化されたら、自動車やその他の移動用動力源を革新する破壊的(disruptive)技術となるので、要注目である。そして、効率の良い燃料電池によりガソリン使用量は減るが石油依存には変わりはないので、長期的には脱炭素のためにも、燃料をバイオマス起源の合成燃料などに切り替えていく研究開発が必要である。

主な参考資料・図出所:
"Gasoline Fuel Cell Would Boost Electric Car Range"
MIT Technology Review, December 2, 2011

"Gasoline SOFC under Development for Automotive Applications"
Fuel Cell Today, December 5, 2011

"With low-temp SOFC gains like this . . . why stop now?"
Ceramic Tech Today, November 18, 2011

Eric D. Wachsman and Kang Taek Lee
"Lowering the Temperature of Solid Oxide Fuel Cells"
Science 18 November 2011:Vol. 334 no. 6058 pp. 935-939

Eric D. Wachsman, Craig A. Marlowe and Kang Taek Lee
"Role of solid oxide fuel cells in a balanced energy strategy."
Energy and Environmental Science, 2012, First published on the web 07 Nov 2011

注1:
 略称は次の通り。
  YSZ = yttria-stabilized zirconia
  GDC = gadolinium cerium oxide
  ESB = erbia-stablized bismuth oxide
  BRO7 = nano-sized pyrochlore bismuth ruthenate
 なお、2層電解質とは、GDC(~10μm)/ESB(~4μm) の2層


追記1: 天然ガス燃料定置用の低温SOFCを商品化

Thecube上記メリーランド大学Wachsman教授が開発した低温SOFCが、同教授が参加して設立したベンチャー企業のRedox Power Systems LLCによって天然ガス燃料・定置用燃料電池として先ず商品化されることが2013年8月メリーランド大学とRedox社から発表された。(以下、この燃料電池を「Redox燃料電池」と呼ぶ)

2012年設立されたRedox社はWachsman教授による低温SOFC関連特許の独占使用権を持っており、今後メリーランド大学とRedox社が共同でこの技術の実用化に取り組むとしている。

上の写真はRedox電池商品化第1号の「SERG 2-80 Cube」と呼ぶ皿洗い機サイズの25kW燃料電池の外観、このような形状で2kWから80kWの出力のものを構成できるとしている。このRedox電池の特長は、上の説明にあるように、SOFCとして画期的な2.5W/cm2の高出力密度と550℃の低作動温度である。

13年12月までに製作する25kW出力のプロトタイプはコンビニ店舗などの電源用で製品化・発売は2014年末の予定。Redox社によると、これまでのSOFCと比較してRedox燃料電池のサイズは1/10、コストも1/10なので、安全・高効率・高信頼性の連続的なオンサイトの電力供給が系統と接続なしでも可能になり、電力コストも現在の系統電力と競合可能になり、さらに非常の場合の自家発電として有用なもの。

Redox燃料電池の価格は少量生産で $1500/kW、大量生産で $800/kWと言っているので、Bloomエネルギー社の現行製品の 価格$8,000/kWの1/10。これはRedox電池の電解質の電気伝導度が在来の10~100倍であること、またその作動温度が在来の800℃以上に対して550℃と低いためにセル以外を含めて材料選択などが楽になることが挙げられている。

日本の家庭用燃料電池(1kW以下)の普及シナリオでは、これまでの2009年300~350万円、2012年260万円から、今後2015年50~70万円、2020年~2030年40万円となっており、Redox燃料電池の8万円/kWの価格は将に破壊的。
 「固体酸化物形燃料電池の高効率化の可能性」(原祥太郎、2013.02.22、低炭素社会技術フォーラム)

なお、最初の製品は天然ガス(メタン、都市ガス)を燃料とするが、将来、プロパン、ガソリン、灯油、軽油、バイオ燃料、水素などを使用する計画があり、自動車への適用も考えられている。

このメリーランド大学・Redox社の発表に対して、低温SOFCの実用化・将来性への期待とともに、次のようなコメントも出されている。

 ●セル以外のポンプや配管を含む全システムが未だ完成していないため、価格推定が燃料電池システムの主要構成要素のみのデータに基づいており、またきちんとした財務的な方法によっていないとのコメントがある。(上のCubeの写真もモックアップで実物ではない)

 ●燃料電池はこれまで維持費がかさみ寿命が短いなど評判が良くなく、また燃料電池ベンチャー企業の実績が芳しくないことなどに懸念を示すコメントもある。耐久性についてはWachsman教授は試験結果から10年以上の寿命があると述べている。

主な参考資料・写真出所:

●Meet the Potential Future of Electricity Generation University of Maryland
●Introducing the Redox PowerSERG 2-80 "Cube" Redox Power Systems LLC
●Redox Power Plans To Roll Out Dishwasher-Sized Fuel Cells That Cost 90% Less Than Currently Available Fuel Cells Forbes
●Could This Be the Fuel Cell to Beat All Fuel Cells? Green Tech Media
●An Inexpensive Fuel-Cell Generator MIT Technology Review
(2013.09.07)

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「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向

Renewableh2societyエネルギーキャリアーとして電気とともに水素を利用する「水素社会」は来るか? 水素のエネルギー利用について、需要・供給・利用の可能性・課題を展望・整理し、今後の方向について見解をまとめた。(左図は、「水素社会」のイメージの例)


1. 水素エネルギーの位置づけと利用の方向

Energyconversionapplication

エネルギーの利用においては、化学、熱、光、位置、運動などのいろいろな形態の一次エネルギーを、精製、化学反応、発電などの転換プロセスを経て、利用に便利なエネルギーキャリアーにして、これを利用プロセスに供給している。(右の表) 現在は、化石燃料から製造する「炭化水素」類と、各種一次エネルギーからつくられる「電気」が主要なエネルギーキャリアー(エネルギーを運ぶ媒体)である。

1次エネルギーのうち発電に使われている割合(電力化率)は、BP統計(2013年)によると日本やフランスでは52%、OECD加盟国では44%、世界全体では41%となっている。将来、地球環境とエネルギー供給を両立させるために電力化率を70~80%以上まで上げると想定して、残りの非電力エネルギーをどのようなエネルギーキャリアーによって運ぶのが良いかを考察してみる。

エネルギーキャリアーとして電気とともに水素を利用する「水素社会」については;

 ・エネルギーの脱炭素化を達成し、低炭素社会へ移行するには、エネルギーキャリアーとしての水素をCO2排出を抑制しつつ製造・使用していく「水素社会」の実現が必要との考えがある。

 ・水素社会によって達成し得ることに、エネルギー利用端での排出が水のみというクリーン性、燃料電池による動力への変換の高効率性、などがある。これと同じ目的のことが、例えば高密度・軽量の電池などの電力貯蔵方法が開発されたら、殆ど電気のみをエネルギーキャリアーとして使用する「電化社会」によって、達成することができる。

 ・さらに、水素エネルギーの実用化までに、製造・輸送・貯蔵・利用の各段階で多くの技術改良が必要であり、このような対抗技術の可能性と水素実用化までの障壁から、水素社会の実現に懐疑的な見方もある。

Hydrogensociety1

 ・左表に示すように、現在の社会はエネルギーキャリアーとして電力+化石燃料製品(ガソリン、軽油、灯油、都市ガス、など)を主に使用している「化石燃料社会」であるが、将来は;

1. 電力+水素を主に使う「水素社会」(電力+水素から'Hydricity'という造語もある)になるか?

2. 殆ど電気のみを使う「オール電化社会」になるか?

はたまた

3. 電力+合成燃料を主に使う「合成燃料社会」になるか?この場合の「合成燃料」とは取扱いの便利な液体燃料で、将来はCO2排出をゼロまたはマイナスにできるバイオマスから製造するバイオ燃料が考えられる。

あるいは、さらに異なったエネルギー社会になるかは、地球環境からの必要度とエネルギー技術の今後の進展・ブレークスルーに懸かっている。

今、「水素社会は来るか」と問われれば、「水素社会」の定義を左の表のように社会が使用するエネルギーキャリアーとして現在の「電力+化石燃料製品」に代わって「電力+水素」を主に使用する社会とするならば、「水素社会は来ない」と答える。

では、どのようなエネルギーを使用する社会になるか? 21世紀の半ば以降を考えると、エネルギーキャリアーとして定置用には電力を主に使用し、移動用には陸上は充電電力+炭化水素燃料(主に液体)、航空は水素(液体)を使用し、これらの電力、炭化水素、水素などの二次エネルギーを生産(発電、製造などのエネルギー転換)する一次エネルギーとしてはバイオマス・太陽光・風力・原子力などを使用することになると考える。この将来エネルギーシステムについては別項で扱うことにして、このブログのテーマである水素エネルギーについて以下考察する。

2. 「水素エネルギー利用」には二つの方法

トヨタの水素燃料電池自動車「Mirai」の発表に相前後して2014年に発行された

 ・ 経済産業省 水素・燃料電池戦略協議会「水素・燃料電池戦略ロードマップ~水素社会の実現に向けた取組の加速~」(2014年6月) ダウンロード

 ・ 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「水素エネルギー白書」(2014年7月) ダウンロード

などの政府関係資料においても従前と同様に、下に定義する「単体水素充填貯蔵利用」と「製造水素直接利用」の二つの方法の両方を「水素エネルギー利用」として扱っている。それ故、以下、水素のエネルギー目的の利用をこの二つの方法に分けて両方のケースについて考える。

単体水素充填貯蔵利用
 単体水素を燃料電池自動車などに充填・貯蔵し利用するケース。充填する場所以外で水素製造する場合(オフサイト型)は充填場所までの単体水素の配送が必要、 充填する場所で水素を製造する場合(オンサイト型)は充填する場所までの天然ガスなどの化石燃料の配送または電力の送配電が必要。

製造水素直接利用
 天然ガスなどの化石燃料を配送して、目的の場所で改質反応などで水素を製造し、製造した水素を直ちにその場で燃料電池などに供給して利用するケース。利用する場所までの天然ガスなどの化石燃料の配送が必要。

これらの水素のエネルギー利用の可能性については、一般に次のように理解されている。

① 単体水素充填貯蔵利用

 (1) 水素を燃料とする固体高分子型燃料電池(PEFC)を動力源とする自動車の開発が進展しており、2015年頃には他の次世代自動車と性能的に競合可能なレベルのものが市販される。水素供給インフラは国・地方自治体などの補助により整備される。

 (2) 水素の入手が容易な場所においては、燃料電池利用の屋内フォークリフトや非常用電源など、水素の特性を活用した利用が進む。

② 製造水素直接利用

 (1) 天然ガス(都市ガス)、LPG、灯油などの化石燃料をエネルギー源として製造する水素による燃料電池は、家庭用、ビル用、地域用として導入される。

 (2) 固体酸化物型燃料電池(SOFC)技術の進展次第では、大型の自動車用として天然ガスなどの内部改質による利用が可能となる。

Airplanes_2水素の航空機燃料としての利用可能性

水素エネルギーキャリアーの航空機燃料としての利用は、航空機の排ガス影響などの地球環境的・国際的情勢で決まるタイミングで現実化する可能性があると考える。

 ・航空機の排出ガスによる温暖化影響は全排出の数%程度であるが、航空輸送量は増大傾向にあり、その環境影響に対する懸念が出てきている。そのため、航空機のエネルギー効率の改善努力が進められる一方で、水素の航空燃料としての利用可能性が欧州共同体・エアバスによって「Cryoplane」プロジェクトなどで検討されてきた。

 ・液体水素は航空燃料のケロシンに比べて同じ重量で熱量が約2.8倍と大きく、離陸重量を減らし最大積載量を大きくできる。しかし燃料搭載のスペースを設けたり、その他構造的には相当な変更が必要なためその実用化には早くても15~20年かかるとしている。水素の燃焼で排出するH2Oも温暖化ガスだが、CO2に比べて滞留する時間が格段に短く、その他の効果も含めてケロシンから水素燃料に変えることは環境上のメリットが大きい。

 ・水素の航空機燃料としての利用目的がCO2排出削減にあるので、水素の製造はCO2を排出しない再生可能エネルギーおよび原子力による方法になると考える。

 ・筆者の作成したエネルギー・環境ビジョン「カーボンネガティブ・エネルギーシステム」では、大型航空機の燃料として水素を全面的に使用することにしている。


3. エネルギー目的の水素の供給

エネルギー目的の水素の供給について展望する。

3.1 原料と製造方法
 ・水素は電力と同様に、各種の一次エネルギーを原料として製造することができる。(左図の出所: http://images.thetruthaboutcars.com)

Hydrogeneu ・短期的には副生水素、短期~中期的には化石燃料(天然ガス、石炭)水素、長期的には再生可能エネルギー(含バイオマス)水素、原子力水素が利用される。水の電気分解による水素は、各種一次エネルギーによる電力を用いて短期的~長期的に利用される。

 ・水素製造には、副生、水蒸気改質、部分酸化、電気分解、光合成、発酵などの方法が状況に応じて用いられる。

 ・集中型製造(オフサイト型)には、水蒸気改質(天然ガス)と水蒸気ガス化(石炭)、部分酸化などが主に用いられる。分散型製造(オンサイト型)には、小型水蒸気改質(都市ガス)と電気分解(各種一次エネルギー発電)が主に用いられる。光分解などの自然エネルギー利用は、将来小規模に用いられる可能性がある。

3.2 貯蔵方法
 ・貯蔵方法としては、ガス(高圧~常圧)、液体水素、有機ハイドライド、吸蔵金属、カーボンナノチューブなどが研究開発されている。

 ・吸蔵貯蔵技術にブレークスルーがない限り、水素燃料電池車のような小型の移動体の車上貯蔵は高圧ガス貯蔵に、船や航空機のような大型の移動体における貯蔵は液体水素になると考える。

 ・有機ハイドライドによる車上貯蔵も考えられるが、自動車の場合はタンク+脱水素機器が70MPa圧縮法より嵩張るのでメリットは少ないが、船や電車のような大きな移動体ならば可能性はある。(有機ハイドライドの得失については次項参照)。

 ・貯蔵媒体ではないが、水素を成分とするアンモニアのエネルギーキャリアーとしての利用は、アンモニアの電気分解合成と直接燃料電池が実用的になると、可能性が出てくる。

3.3 輸送方法
・輸送方法としては、タンカー・コンテナ船、トレーラー・タンクローリー、トラック、パイプラインなどが検討されている。

 ・オフサイト水素製造の場合は、利用の密度・規模により、タンクローリー配送あるいはパイプライン配送が選択される。海外からの水素の移送利用はタンカー・コンテナ船によることになる。液体水素、有機ハイドライド法など、それぞれ問題点があり、海外から水素の長距離輸送が実用的に成立するか疑問である。

Toluenebs有機ハイドライド法の得失

 ・有機ハイドライド法として最近提案されている「トルエン ⇔ メチルシクロヘキサン(MCH)」のサイクルによる水素化反応と脱水素反応を組み合わせた水素貯蔵は、体積貯蔵密度および質量貯蔵密度の両方で2010年DOE目標をほぼ達成している。

 ・有機ハイドライド法の問題点は、例えば上記トルエン⇔MCHの場合、脱水素反応時に 205kJ/mol の吸熱(水素化反応時には同じく205kJ/molの発熱)をすることで、水素を取り出すときに温度200~300℃の熱供給が必要なことである。この大きさは、水素の発熱量が240kJ/mol(LHV)で、1molのMCHに3molのH2が取り込まれるので、脱水素反応に水素発熱量の28%が必要で、水素燃料電池車のエネルギー効率(Well-to-Tank効率)を下げることになる。

 ・水素化時の発熱の有効利用が可能で脱水素時の吸熱に何らかの余剰熱が利用できる条件があればエネルギー効率低下の問題は軽減されるが、水素を固体高分子型燃料電池で利用する場合などは脱水素とともに水素精製が必要であることなど、実用利用に際しては課題がある。


4. 今後の水素エネルギー利用の方向

水素エネルギーに関して、その特性やこれまでの技術進展から将来の可能性を推測すると、次のようになる。

 ①エネルギー転換・利用の個別のプロセスで中で使用する水素量は増加する。例えば、天然ガスや灯油を燃料とする定置型燃料電池、あるいは天然ガスなどを燃料とする移動用燃料電池のように、水素がプロセス内で発生し直ぐに発電に消費されるような「製造水素直接利用」のケースは増える。

 ②増加する水素需要の中では、産業の上流側での合成燃料原料や製鉄還元材としての水素需要が大きく、この供給には将来、世界的には再生可能エネルギー起源の水素および原子力をエネルギー源とする水素(1)が利用される。

 ③しかし、単体水素をパイプラインやタンクローリーなどにより供給するオフサイト型あるいは単体水素を充填する場所で製造するオンサイト型による「単体水素充填貯蔵利用」は、ガソリンや灯油などの炭化水素燃料に比べると取扱技術上の難しさがあり、コストが高く利便性が低い。今後この単体水素利用を本格化するには、配送・充填・貯蔵などの水素供給インフラの技術・コストにおける相当なブレークスルーが必要である。

 ④一方、水素エネルギー利用の目的である環境・エネルギー上の効果(ベネフィット)を定量的に分析し、効果を把握しておく必要がある。燃料電池自動車に関して水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)が行ったCO2排出量とエネルギー使用量の他の次世代自動車との比較(報告書)はこの効果分析の例である。

  この比較から、「エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る」なる

 ⑤エネルギー利用の選択に際しては効果の比較や代替技術の有無などから判断することになるが、「単体水素充填貯蔵利用」はこのような水素利用が有利な或いは必須な限られた地域・場所・施設・機種において採用されることになる。

以上から、今後の水素エネルギー利用は次のように進むと考える。

「単体水素充填貯蔵利用」
 ・「単体水素がエネルギーキャリアーとして整備されたインフラを通じて大規模に流通・利用される」状況になるためには、水素の供給インフラ整備や貯蔵など技術・コスト上の課題を解決する必要がある。それ故、水素燃料電池自動車は、水素配送インフラが整備された限られた地域で導入される程度と考える。一方、水素利用の効果が大きい航空機動力、閉空間動力(フォークリフト)、独立電源(非常用電源)などの用途では単体水素充填貯蔵利用が進むと考える。

「製造水素直接利用」
 ・メタン(天然ガス、都市ガス)、プロパン・ブタン(LPG)、ガソリン・灯油・軽油などの炭化水素(現在は石油などの化石燃料起源)をエネルギー源とする定置用燃料電池利用(PEFC/SOFCなど、効率的には内部改質のSOFCが有利)は、上記の水素配送・貯蔵の問題がないので、家庭用、ビル用、地域用として導入が進むと考える。この際、発生する余剰電力を電力系統へ逆潮流させ合理的価格での売電を可能にすれば、電気・熱エネルギー利用の合理的・効率的運用が可能になる。

 ・これら炭化水素を燃料とする燃料電池は、今後移動用燃料電池としての利用が可能になる。ガソリンSOFCのような液体燃料の燃料電池が実用化すると、既存のガソリン配送インフラを利用できる上、コンパクトで効率的な電源であるため自動車での利が可能性になる。

 ・定置用および移動用として導入される燃料電池に使用される炭化水素燃料は、将来バイオマスを原料として原子力または太陽・風力などのCO2排出ゼロのエネルギーから合成される。

要するに、「炭化水素燃料を配送し生成する水素を直接その場で燃料電池で利用する」ような「製造水素直接利用」のケースは増加していくが、「単体水素を(配送・)充填・貯蔵して利用する」ような「単体水素充填貯蔵利用」のケースは効果の大きい用途に限定される。

水素エネルギー利用の主流となる「製造水素直接利用」は燃料電池による高効率エネルギー利用が特長であるが、都市ガス(天然ガス)・LPG・灯油などを使用するので水素利用とは言え化石燃料製品利用である。将来これらの化石燃料製品をバイオマス原料のカーボン・ニュートラルさらにカーボン・ネガティブの合成燃料に変えて脱炭素・高効率のエネルギー利用にしていくことになる。

以上まとめると「将来の社会が使用する二次エネルギー(エネルギーキャリアー)は、電力が主でこれに合成燃料と単体水素が加わって構成され、これらの二次エネルギーは再生可能エネルギーおよび原子力から生産(発電・製造などのエネルギー転換)される」となる。

Books将来展望の参考になる資料

 ・水素の特性や水素のエネルギー利用の究極的目的から、「水素のエネルギー利用が好機であるか」、「各種一次エネルギーからの水素生産・利用のコスト・障害・技術開発必要性はどのくらいか」、などを冷徹に評価した上で、利用方策を策定することが肝要と考える。水素エネルギー一般に関するビジョンでは、米国のNational Research Council による「The Hydrogen Economy: Opportunities, Costs, Barriers, and R&D Needs」報告書(英文、The National Academies Press発行、2004年)が参考になる。

 ・長期的には、水素生産の一次エネルギーは、再生可能エネルギーや原子力に頼らざるを得ない。原子力水素に関しては、水素エネルギー協会の機関誌「水素エネルギーシステム」(Vol.33, No.1, 2008)掲載の「原子力と水素」、原子力水素研究会の「原子力による水素エネルギー」(原子力システム研究懇話会発行、2002年)とエネルギー高度利用研究会の「原子力による運輸用エネルギー」(原子力システム研究懇話会発行、2007年)、国際原子力学会協議会の「Nuclear Production of Hydrogen: Technologies and Perspectives for Global Deployment」(英文、American Nuclear Society発行、2004年。PDFファイルのダウンロード可能)などがある。


(2013年7月13日および2015年1月11日改訂編集)

関連ブログ:
「低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?」
「自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社」
「燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する」

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自動車―電力系統のインタラクション – 自動車が系統に接続される割合は?

Ohmcover1112_2次世代エネルギー産業会議・第19回会議(2011年9月28日東京工業大学)で自動車-グリッド・インタラクションに関する講演をしました。講演は約1時間で、プラグイン自動車(PEV)と電力系統(グリッド)の相互関係(インタラクション)について、重要な幾つかの課題・可能性を取り上げて解説しました。技術総合誌「OHM」の2011年12月号にその内容が紹介されています。

Horiarticlep1a「OHM」誌では、特集「スマートモビリティ―自動車はこれからどうなる?」の中で「自動車―電力系統のインタラクション―プラグイン自動車で実現する系統との双方向電力流通」と題する5ページの記事にまとめてくれました。編集部が講演の中から選んだテーマは次のとおりです。

 ● PEVによる電力系統のシステムレベル・配電レベルへの影響
 ● PEVによる電力系統への各種サービス
 ● PEVの充電設備の海外の動向
 ● 自動車・電力系統を統合したシステム

このようなプラグイン自動車と電力系統を統合したシステムの各種の可能性を考える時、動きまわる車が平均的にどの程度の割合で電力系統に接続できるか、その利用可能割合(数値的には対象とする車のうち系統に接続している割合、「Availability」「系統接続率」)を知る必要があります。

このためには、自動車がどのような使われ方をしているかの統計的な調査データが必要です。米国には、NHTS(National Household Travel Survey)など綿密に計画された調査とその結果をいろいろな目的に利用可能なように整理されたデータがあります。これらのデータから、米国の平均として1日24時間の任意の時刻における自宅に駐車している割合、あるいは自宅または勤務先に駐車している割合などが計算できます。

Availability左の図は、NHTSの調査データから自動車の系統接続率の時刻による変化を推算したものです。自動車と系統を接続する充電ポイント(双方向電力流通を考える時は「プラグインポイント」と呼んだ方が良い)が、家にしかない場合は車が外へでている昼間の接続率は65%程度まで低下しますが、もし勤務先にもプラグインポイントがあれば、昼間の最低でも85%程度の接続率になります。深夜は車は殆ど家で系統に繋がっているので100%の接続率になります。

このような自動車の系統接続率から、プラグイン自動車はその大きなパワー(kW)をかなりの割合で系統へ融通(V2G)できる素地を持っており、将来の電力システムにおいて重要なプレーヤーになり得ると言えます。これに、燃料電池やガスエンジンなどの分散型のコジェネレーション機器のパワーが加わることになれば、これまでとは違った画期的なエネルギーシステムが構築できると考えられます。

なお、講演で使用したパワーポイントは、ここからダウンロードできます。

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