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2010年3月

成長に向けての原子力戦略として重要と考えられる事項

原子力委員会が「成長に向けての原子力戦略の検討にあたっての意見」を募集していましたので、次のような意見を提出しました。(2010年3月8日)

概要:20002100primaryenergy
エネルギー利用の過半を占める非電力利用への原子力の貢献について検討し、必要な研究・開発・実証を推進することは重要。(一次エネルギーの発電に使用されている割合は、日本約40%、世界約30%。残りは非電力利用)

[図は、日本原子力学会誌 07年5月号 (Vol.49, No.5, 2007)掲載の解説から]

意見:
◎ エネルギーキャリアーの中で、電気は最も便利であり、今後もその割合は増加し、一次エネルギーベースの電力化率にして50%~60%程度まで増大すると考えられます。この電力供給において、原子力の役割は現状よりもさらに増大していくべきことは当然ですが、残りの約半分を占める非電力エネルギー利用にも原子力は貢献すべきと考えています。
◎ 非電力のエネルギーキャリアーとしては、現在は化石燃料製品(ガソリン、灯油、都市ガスなど)が用いられていますが、資源および地球環境の制約から、今後は脱石油/脱化石燃料ベースの合成燃料(バイオ燃料を含む)や水素への転換が必要となってきます。
◎ 非電力エネルギーキャリアーとしては、液体燃料が最も便利なために炭素・水素からなる合成燃料が本命ですが、気体燃料の水素を利用する可能性もあります。
◎ 原子力による水素製造では、水を分解する各種のプロセスが研究されており、課題は大量供給時のコストです。原子力水素は、エネルギーキャリアーとしての利用よりも、例えば鉄鉱石の還元など産業の上流側における原料としての利用が多くなると考えられます。
◎ 炭化水素系の合成燃料製造では、炭素源として石炭やバイオマスを使用する場合、原子力による水素/熱を利用すれば、原料使用量と製造時CO2排出を抑えることができます。(原子力水素を利用すれば、CO2を炭素源とした合成燃料製造も技術的には可能)
◎ 要は、「今後想定されるエネルギー資源・環境などの条件から、原子力の非電力利用について検討・整理をして、必要な研究開発を推進していく」ことだと思います。

参考: 
① 堀 雅夫 「原子力による水素で新しいエネルギー社会に」 エネルギーレビュー 2009年5月号
② Masao Hori, "Synergistic energy conversion processes using nuclear energy and fossil fuels", International Journal of Nuclear Governance, Economy and Ecology, Vol. 2, No. 4, pp362-374 (2009) 解説・原稿

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月刊誌OHMに「自動車から電力系統への電力融通(V2G)」の解説を執筆

Ohm1003covers_22010年3月号の月刊誌「OHM」に

自動車と電力系統のエネルギー統合
「プラグイン」と「V2G」によるスマートグリッド

という記事を書きました。

雑誌OHM(オーム)は、前は電気技術者向けの雑誌でしたが、数年前から「次世代技術を先取りする経営者・マネージャー・技術者の技術総合誌」(月刊誌1冊1600円)になっています。

この解説記事の内容は;

●車はスマートグリッドの重要プレイヤー
●自動車パワーが電力系統へサービス
●米国で進むV2Gの研究・開発・実証
●自動車・電力系統間の双方向電力流通システム
●自動車・電力系統エネルギー統合の効果
 ○太陽光発電の変動調整および余剰電力均衡に対する効果
 ○自動車の電力融通サービスの価値

(このテーマ・内容に関心のある方は御一報ください。電子ファイルをお送りします。)

(図はV2Gのキャッシュバックがある場合のiPHEVの10年間保有費用をICEV、HEV、PHEVと比較したもの)

Ohmp1half_4Tco10year_5

また、次のような記事を別の刊行物に寄稿しました。

「プラグイン自動車でエネルギー利用に変革を」

系統に接続して充電した電力で走行する電気自動車やプラグインハイブリッド車などの自動車を、総称して「プラグイン自動車」(Plug-in Electric Vehicle = PEV)と言う。このプラグイン自動車が導入されると、エネルギー利用に関わる二つの変革、すなわち、①自動車の使用するエネルギー量の節減、炭酸ガス排出量の削減、一次エネルギー源の多様化、②自動車電力による系統のエネルギーマネージメントの合理化、が可能となる。

第1の変革: 自動車のエネルギー使用量節減・炭酸ガス排出削減・エネルギー源多様化

自動車が系統電力で走行すると、一次エネルギーの採掘からタイヤが地面を蹴るまでを総合したエネルギー効率(これを油井から車輪までの効率の意味でWell-to-Wheel効率と言う)が、ガソリンエンジンの場合の2.5倍程度に向上する。さらに、車が使用する一次エネルギー源が、石油から、電源を構成する原子力・石炭・天然ガス・水力など各種の一次エネルギーのミックスに多様化される。

このエネルギー利用効率向上と一次エネルギー多様化の効果によって、プラグイン自動車の炭酸ガス排出量は、現在の日本の電源構成ではガソリンエンジン走行の1/3程度に削減される。また、ユーザーが支払う車の燃料費用も、日本の場合、1/10程度まで低廉になる。

第2の変革: 自動車電力による系統のエネルギーマネージメントの合理化

プラグイン自動車は系統電力によって充電される。この充電の大部分は電力需要が少なく、料金の安い夜間に行うことになり、昼夜の電力負荷が平準化される。プラグイン自動車充電による夜間電力需要の増加は、全乗用車がプラグイン化された場合で20GW~30GW(100万kW発電所20~30基分)程度となる。この増分は現在の昼夜の需要の差より小さく、夜間停止の火力発電を運転することで賄えるが、エネルギー自給・炭酸ガス排出抑制のためには自動車のプラグイン化に伴って電源構成を化石燃料から原子力にシフトしていくことが望ましい。

さらに、この電池の電力を必要に応じて系統側に融通すれば、系統に対していろいろな効果が期待できる。その代表的なものが自動車電池を「アンシラリーサービス」(電力系統における時々刻々の需給変動に対応した周波数・電圧維持などの系統の安定運用サービス)に利用することで、このようなサービスは「自動車からグリッドへ」の意味で、Vehicle-to-Grid、略して「V2G」と呼ばれている。車が電力融通(双方向電力流通)する系統としては、家庭・事業所・地域などの小規模系統(いわゆるマイクログリッド)から、大規模商用系統まで考えられている。

今後、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電の導入が増えていくが、これら「天気任せ、風任せ」の変動電源を系統に大量に取り入れていくには、系統側の指令によって充放電が可能な応答性の良いプラグイン自動車の電池電力の利用が重要になってくる。

プラグイン自動車のV2Gによってピークロード用の石油火力発電の運用を減らすことができれば、その分の設備・燃料消費・炭酸ガス排出・費用を削減できる。自動車側がこのサービスに見合った対価を得れば、ユーザーの自動車保有費用の低減に繋がる。

米国ではプラグイン自動車をスマートグリッドの重要構成機器と考えて、プラグイン自動車と商用電力系統を連系した実証実験が実施されている。全乗用車がプラグイン化された場合その電池が融通できる電力(キロワット)は系統の平均電力の7倍以上と大きく、また自動車は90%以上の時間(米国の統計では自動車の1日の稼働時間は平均62分)駐車しているので、駐車中にパワーがあって遊んでいる電池を活用することは理に適っている。

プラグイン自動車が取り持つ原子力と太陽光
 
プラグイン自動車と電力系統を連系して統合的に運用すると、電力需給のエネルギーマネージメントに大きな変革をもたらす可能性が出てきた。ベースロード電源の原子力発電と変動電源の太陽光・風力発電が供給する電力を、需給の状態に応じて、ピークロード用の水力発電とプラグイン自動車の電池が調整するという、エネルギー自給・炭酸ガス排出ゼロの将来エネルギーシステムを夢見ている。

日本は、原子力発電をはじめ、リチウムイオン電池、自動車、太陽光発電、風力発電などの個々のハードウエア技術で世界をリードしているので、自動車と電力系統のエネルギーを統合・活用するシステム技術でもリードできるように、関係分野での積極的な取り組みを期待したい。

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