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充電型電動自動車をよりエコロジカルに -- ユーザーの利用方法・メーカーの提供方法

プラグインハイブリッド車や電気自動車などの充電型電動自動車を、よりエコロジカルに利用する方法について、アイディアを述べる。これを実現するには、自動車メーカーがそのようなサービスやオプションを提供することが必要になる。

A. ドライブパターンから充電型電動自動車の最適電池容量を設定する

既存の自動車に毎日の走行距離を自動記録する装置を付ければ、ユーザーが将来プラグインハイブリッド車などの充電型自動車を購入する際に最適の電池容量を推定できる。さらに、車両購入に際してユーザーがオプションとして電池容量を選択できれば、ユーザーの購入・維持費用の節減に繋がる。

すなわち、自動車メーカーがこれらのサービス・オプションを提供すれば、ユーザーは余分の電池を搭載する必要がなく車両重量を低減できるので、ユーザー保有費用節減のみならず、国の資源・エネルギー節減に繋がる。

1.一日当りの走行距離分布と電力走行割合の関係

Mhfig1筆者は、このブログの別項記載の自動車技術会論文において、日本の自家用乗用車(登録車および軽自動車)の実働一日当り平均走行距離の分布を国土交通省・自動車輸送統計報告書の自家用乗用車・距離帯別輸送人員の統計データから推定した。

ユーザーが自動車を使用する「実働日」1日の走行距離の頻度分布データを「ドライブパターン」と言う。日本の自家用乗用車の「1日走行距離vs累積頻度のドライブパターン」は、図1の左上図のようになる。

ドライブパターンが判ると、充電型自動車が搭載する電池容量(この場合は航続距離で表す)と電力走行割合(全走行距離に対する電力走行の距離の割合、米国ではユーティリティファクター(Utility Factor、UF)と称している)を、図1左下記載の式によって図1右下図のように計算で求めることができる。

日本の自家用乗用車の平均的なドライブパターンでは、電力走行の距離割合を約70%にするには、登録自動車には60km航続の電池を、軽自動車には35km航続の電池を搭載すれば良いことが判る。

因みに、米国における同様の計算(1995年NPTSデータを用いたEPRIのMWP法)では、70%の電力走行割合には航続距離が約55mile(88Km)の電池が必要となっている。米国の自家用車は実働1日当りの平均走行距離が日本より長いため,同じ割合の電力走行をさせるにはより長い航続距離の電池が必要になる。

上の評価は、自家用乗用車の平均に対する値であるが、個々の自動車ユーザーのドライブパターンが判れば、同様の関係を求めることができ、そのユーザーに最適な電池容量を推定することができる。その実例を次に示す。

2.実際のユーザーの走行パターンデータから最適電池容量推定の実例

Mhfig2実際の自動車ユーザーの走行記録を分析して、プラグインハイブリッド車搭載の電池容量・電力走行割合の関係を推定した実例を以下示す。(このブログの別項の自動車技術会資料の付録に記載)

(1) 記録されたデータは、地方都市在住の登録車ユーザーM.H.氏の457日間28,231km走行の毎日の走行距離で、年走行距離24,890km、実働日414日、実働率91%、実働日の平均走行距離は68kmなど、日本の平均的登録者ユーザー(実働率67%、実働日平均走行距離41km)よりヘビーユーザーである。(図2 M.H.氏の走行データ)

Mhfig3(2) 主な用途が往復約30kmの通勤なので、30km~70km走行の日が多いが、一方、100~199km走行21日、200~299km走行25日、483km走行1日、675km走行1日と長距離走行もある。これらのデータは、1日の走行距離に対する頻度分布の形に整理できる。(図3 M.H.氏のドライブパターン)

Mhfig4(3) ドライブパターンが図3のように定量的に判ると、図1記載の方法によって電池容量・電力走行割合の関係を得ることができる。(図4 電池容量と電力走行割合の関係)

(4) M.H.氏の場合は、電力走行距離48km~60km(電力走行割合0.60~0.66)程度の容量の電池を搭載するのが経済的と推察される。正確には、筆者論文記載の方法により電池価格などに具体的な数値を入れれば、最適電池容量を推定できる。

(5) 既存の自動車に走行記録(毎日の走行距離)を自動記録する装置を付ければ、ユーザーが将来プラグインハイブリッド車などを購入する時に自分のドライブパターンに合った最適電池容量を推定できる。そして、車両購入に際して電池容量を選択できれば、ユーザー保有費用と資源・エネルギーの節減に繋がる。(下記の追記2を参照)

B. 行程の標高情報に基づいて電動自動車の電池充電率を計画制御する

Hilly17電動自動車ユーザーがカーナビに指定した行程から、カーナビがその行程における高度(標高)の情報を把握し、その行程における最適の電池充放電計画を計算し、それに基いて自動車駆動用電池の充電率(State of Charge, SOC)を計画的に制御すれば、無駄のない位置エネルギーの回収が可能になり、燃費の向上が図れる。

1.電池SOC計画制御の方法

(1) ハイブリッド車およびプラグインハイブリッド車のハイブリッド走行時

Downhill23これら電動自動車は、ブレーキ時および降坂時に回生ブレーキ機構によりエネルギー回収がなされる。しかし、電池容量が有限なために降坂時の回収エネルギーを全量電池に戻せず、エネルギーの無駄が生じる場合がある。

そこで、ユーザーがカーナビに指定した行程の情報から、カーナビがその行程における標高の情報を把握し、先に下り坂があるなどエネルギー回収が見込まれる場合はハイブリッド走行の電池SOCを下げるなどの制御を行うことにより、位置エネルギーの効率の良い回収・利用を行う。

(2) プラグインハイブリッド車および電気自動車の駐車充電時

プラグインハイブリッド車と電気自動車では、駐車中に系統電力からの充電を行うが、満充電にした場合は、その先の行程の標高によっては、回収エネルギーを全量電池に戻せず、エネルギーの無駄が生じる場合がある。

そこで、ユーザーがカーナビに指定した行程の情報から、カーナビがその行程における標高の情報を把握し、先に下り坂があるなどエネルギー回収が見込まれる場合は、駐車充電の最終SOC値をその後の行程の標高情報に基づき最適に制御することによって、位置エネルギーの効率の良い回収・利用を行う。

2.この方法の効果

Uphill22(1) ハイブリッド車およびプラグインハイブリッド車のハイブリッド走行時の設定SOCを、その先の行程の標高から計算して適切な値にすれば、電池が満杯で回収できない場合を避けることが出来、行程中の位置エネルギーを効率良く回収して利用することができる。

(2) プラグインハイブリッド車および電気自動車の駐車充電時に、充電の設定SOCをその後の行程の標高情報から計算して適切な値にすれば、位置エネルギーを効率良く回収して利用でき、余分な充電を避けることができる。

通常、道路には何らかの標高差があるので、通勤利用やその他走行するルートをカーナビに設定し、最適計画制御を行うことによって、位置エネルギーを効率良く回収・利用して、燃費向上を図ることができる。

3.回収位置エネルギーと水平走行可能距離の関係

重量(m)が1700kgの自動車の標高差(h)による位置エネルギー(Ep)は、重力の加速度(g)9.8m/sec2から

Ep/h = m・g = 1700 x 9.8 = 16660 [J/m] = 0.00462 [kWh/m]

電動駆動の動力効率を86%(JHFC報告書のBattery-to-Wheelの値)とすると、登坂に必要エネルギーは

Ep/h = 0.00462/0.86 = 0.00538 [kWh/m]

降坂で発電するエネルギーは、位置のエネルギーを回生する場合の動力効率として駆動(力行)の場合と同じ86%を用いると

Ep/h = 0.00462 x 0.86 = 0.00397 [kWh/m]

通常の電費はエネルギー当りの移動距離であらわすので、kWh当りの高さ(垂直距離)は上記の逆数となり

垂直(登坂)電費 = 186 [m/kWh]
垂直(降坂)電費 = -252 [m/kWh]

Hakoneodawaras 一方、電動自動車のエネルギー当りの水平走行電費は重量1700kg程度の車では

水平電費 = 6.4 [km/kWh]

と想定される。

但し、この水平電費は電池に充電された電力量を基準としたもので、通常用いられる交流電力基準の電費で示すとJHFC報告書記載の充電の効率0.86を使用して5.5[km/kWh]となる。因みに2013年式リーフ(総重量約1700kg)のEPA複合電費は5.55km/kWhである。

上記の垂直電費と水平電費から、勾配5%(100mで高低差5m)の道を登坂する時は

登坂電費 = 1 / (50/186 + 1/6.4) = 2.35 [km/kWh]

すなわち、勾配5%程度の上り坂の電費(2.35)は水平走行の電費(6.4)の4割以下に下がる。

上記の垂直電費と水平電費から、勾配5%の道を降坂する時は

降坂電費 = 1 / (-50/252 + 1/6.4) = -23.7 [km/kWh]

もし勾配が0.394%の道を降坂する時は、3.94/252=1/64なので位置エネルギーと走行エネルギーがバランスして上記降坂電費が無限大になり、電力消費がゼロで走行できる所謂「滑空」(Glidering)の状態になる。

下り坂で回生する位置エネルギーを一旦電池に充電する想定にすると充電効率としてJHFCによる86%の値を用いて

回生位置エネルギー = 0.00462x 0.86 x 0.86 =0.00342 [kWh/m]

すなわち、登坂に使用するエネルギーの0.00538kWh/mに対する降坂で回生されるエネルギーの0.00342 [kWh/m]から回生率を計算すると64%となる。

すなわち、標高差100mの位置エネルギーを回収すると、0.342kWhのエネルギーを利用でき、電費6.4[km/kWh]の車ならば2.2kmの水平走行ができる。

関東近辺の標高差の例で示すと

① 平野部と箱根の標高差500mの位置エネルギーを回収すると、1.7kWh で水平11km走行分に相当
② 平野部と軽井沢の標高差1000mの位置エネルギーを回収すると3.4kWhで水平22km走行分に相当
(例示したルート図は、Alps Labの投稿ルートからの引用)

この方法は、ナビや電動自動車制御系のソフトウエアの設定変更のみで可能なのであまり費用が掛からず、標高差の大きい地域を走行するユーザーにとってはそれなりの効果が期待できるものなので、ユーザー設定で使用可能にするなどの利用が考えられる。

なお、上記の登坂に使用するエネルギーに対する降坂で回収するエネルギーの比率(回生の率)は、駆動(力行)の動力効率(Battery-to-Wheel)と回生の動力効率(Wheel-to-Motor出力)と充電効率(Motor出力-to-Battery充電電力)の3つの値の積である。それ故、この回生の率は動力効率・充電効率の値の取り方により変わり、例えばこれらの効率を86%から1%低い85%に想定すると回生の率は64%から61%に下がる。

参考:JHFC総合効率検討作業部会「総合効率とGHG排出の分析報告書」(日本自動車研究所発行2011年3月) Download

Originalblog 注) 本記事(2014.07.27作成)は元の記事(←ファイル)から下記の修正を行って再計算・脩文したものである。
車両総重量 1000kg→1700kg
動力効率 70%→86%
充電効率 80%→86%

追記1:

上記の「行程の標高情報に基づいて電動自動車の電池充電率を計画制御する」と同様のシステムが、『ナビ協調システム』として株式会社デンソーから第41回東京モーターショー(09年10月24日~11月4日 幕張メッセ)に出展されたことを知りました。

10月22日に行われたデンソーの東京モーターショー関連のプレスブリーフィングにおいて、加藤宣明社長は「自動車産業の変革点におけるデンソーの取り組み」と題するスピーチの中で出展予定の同社の『ナビ協調システム』について次のように説明しています。

「これは、カーナビの情報を元に、エアコン、オルタネータなどと連携させ、エネルギーの効率的な利用を可能にするものです。例えば、カーナビ情報と連携することにより、上り坂の次にすぐ下り坂があることが分かれば、走るエネルギーが多く必要な上り坂では発電を抑え、逆に下り坂では発電するという制御を行い、エネルギーの節約に結びつけるものです。」

同じアイディアのようですね。(09年11月3日)

追記2:

上に、「車両購入に際して電池容量を選択できれば、ユーザー保有費用と資源・エネルギーの節減に繋がる」と書きましたが、これは筆者が08年10月の自動車技術会秋季大会で講演し、09年7月の自動車技術会論文集に掲載した資料の中に記載した内容です。

10年2月のGazoo.com/日刊自動車新聞の「トヨタ自動車、電気自動車やプラグインハイブリッド車のバッテリー容量に選択制の導入検討」の記事によると、トヨタ自動車がこの提案を実現してくれるようです。

「トヨタは、近距離走行が多いユーザー向けにバッテリー容量が少なめのタイプ、標準タイプ、走行距離が長いユーザー向けにバッテリー容量が多いタイプなど、1モデルごとに3タイプ程度の仕様をラインアップして、購入者が選べるようにする考え。この考え方はPHVだけでなく、EVでも採用していく。

PHVやEVに関する現在の技術では、バッテリーの容量が車両価格を大きく左右する。搭載するバッテリーの容量を少なくすることにより、車両価格を抑えることが可能になるため、「こうした取り組みがEVやPHVの普及拡大につながる」(トヨタ幹部)としている。」

電池容量が選択可能になると、とくにプラグインハイブリッド車の場合に好ましい効果が出てくると思います。何故ならば、プラグインハイブリッド車の場合は電池切れの心配がないために、大きめな容量ではなく、そのユーザーのドライブパターンに合った最も経済的なジャスト容量の電池を選択搭載することが可能だからです。

そのために、現在ユーザーが乗っている自動車に走行記録(毎日の走行距離)を自動記録する装置を付ければ、将来プラグインハイブリッド車を購入する時に、自分のドライブパターンに合った最適電池容量を上の図1に記載した式によって推定できます。このドライブパターンは、勿論、電気自動車購入の場合にも参考になります。

自動車メーカーが、既存の車やこれから売り出す車に、この「日毎走行距離自動記録」ができるような装置/設定をしてくれれば、車両購入に際して電池容量の最適の選択ができ、ユーザー保有費用と資源・エネルギーの節減に繋がります。私が今乗っているプリウスでは、既にカレンダー機能を持っていて毎朝音声で通知してくれます。これに一寸した細工をするだけで、「日毎走行距離自動記録」が可能な筈です。プラグインハイブリッド車購入に際してこの記録を読み出して、この記録から計算される電池容量に基づいて電池容量を決定すれば良い訳です。(ドライブパターンが変わる場合は、このデータを基に推定) これはユーザーにとって有難いサービスであるとともに、メーカーにとっても顧客の囲い込みに有利になると考えられます。

さらに、この「充電型電動自動車をよりエコロジカルに -- ユーザーの利用方法・メーカーの提供方法」とその続編で述べている方法を併用すれば、将にエコロジカルな自動車利用が可能になります。(10年2月9日・2月12日改1)

追記3:

図2のエクセルによる作図方法を修正し、表示を修正した図をアップロードしました。データおよびその後の計算には変更はありません。(10年11月17日)

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