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2008年12月

画期的(?)電力貯蔵装置EESUの新しい特許

2008年12月16日、EEStor社のウルトラキャパシターEESU(電気エネルギー貯蔵ユニット)の新しい特許が公告されました。EESUについてはこのブログで最初の頃からフォローをしています。原理や経緯についてはここに纏めてあります。

EesubyeestorEESUの新しい特許は11ページに亘り、技術内容、構成図(右図)や性能などかなり詳しい説明が出ています。核となる部分は、アルミナ被覆のチタン酸バリウム粉末とプラスチック(ポリエステルの1種のポリエチレンテレフタラート、略称PET) のマトリックス。このユニットを3万1千個並列にして全容量30ファラッド、体積2.63立方フィート(28.3リッター)、重量は282ポンド(128Kg)、電力貯蔵容量52KWh、満充電の所要時間3~6分、とのこと。

プリウス級自動車の電費を6Km/KWh程度として、52KWhの電気容量は300Km以上の航続距離を持つことになり、実用的には充分。52KWhを3~6分で充電するとなると、1040KW~520KWという大きな電源を必要とし、これは家庭では難しく、ガソリンステーションならぬ「充電ステーション」の出番? 電源容量を減らすには、別のキャパシターに貯め置いた電気を移送するなどの方法も考えられ、対処方法はいろいろありそう。

以上の内容を見ると、これはまさにDisruptive Technology(破壊的技術)。GM-Volt.comgas2.orgなどもこのニュースを報じていますが、解説もコメントも、当然のことながら、この技術に懐疑的です。

電力貯蔵におけるブレークスルーは最も期待されているもので、二次電池、燃料電池、キャパシターで、いろいろな新技術の提案が出ています。EEStor社のEESUには多くの疑問がありますが、電力貯蔵の本物の「Disruptive Technology」が登場した時は、自動車業界のみならずエネルギー業界の地図を塗り替えるような大きな影響が想定され、当分は目が離せない分野。これについては「PHEVを巡る主な動き」の中でフォローしています。

Eestor_logoTests追記:
08年10月にEEStor社の商標(左)が登録されました。

この登録申請の書類には、EESUの仮仕様(右)が記載されています。これを見ると、24ボルトx26.7Ah=0.64KWhで、重量2.2Kg、容積10cm立方、価格が52~63ドル。1KWhにすると、価格82ドル~98ドルと1万円以下の安さです。(09.01.10)

追記2:
EEStor社のEESUについては、ニュース、論評、議論を行っている次のサイトが面白い。

EEStor社のウルトラキャパシター: 電気自動車とともに電池の革新は始まるか?」
EEStory.com:EEStor社に関するニュース、レビュー、議論」

とくに後者のForumでは、EESUを種にいろいろなテーマで活発な議論をしており、米国におけるこの種の技術的話題に関心を持って交流を楽しむ層の厚さを感じます。(09.01.10)

追記3:

Marketwireが伝えるところでは、EESUの4輪自動車への世界独占使用権を持つカナダのZENN自動車の株主総会(年次および特別)が09年3月に開催され、同社の電気自動車cityZENN、ドライブトレーンZENNergyへのEESUの適用を含むラインアップ拡大計画が報告された。この中には、既存のガソリンエンジン車を電気自動車へ改造するキットも含まれている。

EEStor社ではEESUの本格生産設備の建設を進めているとのことで、ZENN社はその進展を待っている状態とのこと。ZENN社のIan Clifford社長は、「株主の皆さんの心配も判るが、これはわが社のコントロール外のこと。EEStor社が開発している技術はわが社のみならず全世界の環境・社会に恩恵を与える革新的な技術であり、そう早く出来る訳にはいかないようだが、出来次第EEStor技術を適用した製品を出せるよう準備をしている」と述べている。(09.3.28)

追記4

09年4月、EEStor社はEESUに使用するチタン酸バリウム粉末の比誘電率が-20~65℃の範囲で目標の22,500を達成(第三者確認)したことを発表(1)した。

09年5月、ZENN自動車は、EEStor社が09年4月に発表したEESUの材料試験結果の精査・確認を完了した。ZENN自動車は今後EEStor社に$2M~$5Mの追加投資を行い、EEStor社株式のZENN自動車の持分を現在の3.5%から最大10.5%に上げる。ZENN自動車の株は、上記09年4月のEEStor社発表時に70%値上がりしている。(Reutersほか報道)(09年7月19日)

追記5

エネルギーと人類の将来について討論する米国のサイト「Oil Drum」に、「Who Killed the Electric Gas Tank?」と題する、EEStor社のEESUに関する6ページの優れた解説が出ている。この解説の後に、195件約50ページの討論が延々と続いている。この解説の中で、上記theeetory.comやbariumtitanate.blogspot.comでここ2,3ヶ月間に議論されている、EESUの実現性を示唆する専門家の見解にも言及しており、EESUの新展開に期待を持たせる内容になっている。(09年7月30日)

追記6

theeestory.comのサイトに、EEStor社の創始者でEESUを発明・開発しているDick Weir氏の38分間の電話インタビュー(録音テープがリーク?)の速記録が出ている。これまで、ステルス・カンパニーと言われて謎に包まれていたEEStor社とEESUについて、中心人物が率直に進展状況、将来計画などを語っている。

Image_100183827_lもし、この内容が本当ならば、エネルギー分野で大きな技術革新が起きることになる。例えば「EESUのコスト$100~$150/Kwh」は、リチウムイオン電池の将来目標コストの1/3~1/2で、これまでに出ているEESUの高エネルギー密度、短時間充電、超長寿命などの特長と合わせて、まさに電力貯蔵のGame Changerと言える仕様である。09年第4四半期にZENN自動車に最初のEESU製品を提供するとのことなので、その結果を待ちたい。

右図は、このインタービュー内容を要約して報じているAllCarElectric.comに掲載されていたEESU搭載電気自動車とエンジン車の比較である。(09年7月30日)

追記7

EEStor社のウルトラキャパシターEESUの4輪自動車への世界独占使用権を持つZENN自動車は、09年9月同社のビジネス戦略を次のように改定すると発表した。①開発中の高速走行可能の電気自動車「cityZENN」の開発・生産は取り止める、②EEStor社のEESUを使用したドライブトレイン「ZENNergy」の販路を拡大する。これにより、ZENN社のリソースを最大効率的に配分し、将来の収益の最大化を図る、としている。

「ZENNergy」ドライブトレインを数多くの電動自動車製造会社に供給することになれば、消費者は多様なEESU駆動電動自動車を利用できる、とZENN社は言っている。(09年10月3日)

追記8:

EEstor社は、09年(暦年)第4四半期中にZENN自動車にEESU製品を提供することになっていたが、10年1月の現在、そのようなニュースは伝わってこない。

EESUの仕様・性能をリチウムイオン電池などと比較した、EEStor社をソースと称する表(下)が、ZENN自動車のZENNenergyのサイトに掲載されている。EESUについては、キャパシター専門家が、メカニズムから言ってもあり得ないと否定的なのは勿論だが、多くの人も、この表に示されているような電力貯蔵性能のあまりの良さから、懐疑的な見方をしている。
Eesucomparisontable1
一方で、有名ベンチャーキャピタルのKleiner Perkins 社が出資をし、防衛産業のLockheed Martin 社がライセンス契約をし、中小メーカーだが電気自動車メーカーのZENN自動車が社運を賭けた投資をしていることもあり、また石油代替エネルギーや電力貯蔵のブレークスルーへの期待から、科学・技術ファンなどいろいろな人達が、野次馬も含めて、インターネットを通じてその可能性・実現性について様々な議論を楽しんでいる。

数年に亘って繰り広げられてきた、この「技術開発ドラマ」もそろそろ終局を迎えようとしているのか、「ウルトラキャパシター EEStor-EESU」を主題とするドキュメンタリー・フィルムを製作する話が持ち上がっている。映画・TVディレクターのMichael Bliedenが興味を示して、「EEStor社のニュース・レビュー・討論サイト」と称しているTheEEStory.com(追記2)と接触を始めている。
(10年1月10日)

追記9:

2011年2月、カナダのZENN自動車の創業者・CEOでEEStor社のEESU開発に多額の投資をしてきたIan Clifford氏がCEOを辞任し、副会長に就任した。ZENN自動車のEEStor社との関係は持続するとのこと。ZENN自動車は近距離用の「NEV」規格電気自動車製造からEESU駆動系供給業に転向したが、EESUの実現は依然として不明のまま。ソースはMarketwireGreen Car Congressなど。(2011年7月24日)

追記10:

EEStor社が設立された2000年頃からの進展を、Dipity Timelineを用いて時系列で整理したサイトがある。EESUのこれまでの経緯を一覧で見ることができ、各イベントには説明とさらにソースへのリンクがついている。(11年7月24日)

追記11:

EEStor社は”どっこい生きていた”。3年間の沈黙の後、2012年5月15日EEStor社はウルトラキャパシターEESUの開発進展を発表(プレスリリース)した。

その発表によると、EESUの20ミクロン層については製造プロセスの信頼性向上で進展があった、誘電率(Permittivity)では未だ商業生産に必要なレベルには達していない、誘電率の改良後に独立機関で試験をして認証を得る予定、その後に多層EESUを製造し技術の効果を実証する、製造システムについては自動化などを進めている、などと述べている。

EEStor社に資金を提供し、その見返りにEESU技術の自動車などへの適用の権利を得ていたカナダのZENN自動車社は最近25万ドルを起債し、さらに40万ドルの起債を予定しており、EEStor社と「新技術協定」を締結し権利を拡大することを発表(プレスリリース)した。新しい協定では、ZENNは50万ドルを投資し、世界中のあらゆる自動車にEESU技術を適用する独占権を持つことになる。(ただし、1輪、2輪、3輪の自動車および軍事用自動車は除く) 今後の進展のマイルストンで追加の資金提供をし、新技術協定による全支払額は3千50万ドル(前の協定による50万ドルを含む)になるとしている。上記のEEStor社の進展公表もこの協定に沿って行ったもの。

これらの最近のEEStor社とZENN社の動きについては、これらのサイト()にニュース・概要が、Clean Breakのサイトに最近の経緯などが出ている。また、EEStor-EESUを常時ウォッチしているThe EEStory.comのサイトにはこれまでの状況も含めて多くの記事が出ている。
(2012.5.18)

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協働的エネルギー転換プロセス = 原子力は化石燃料・バイオマスに熱を供給、高効率エネルギー転換、炭素資源ノーブルユース

私は、ここ数年、原子力と化石燃料またはバイオマスの両方を使用して、発電、水素製造、合成燃料製造などのエネルギー転換を行わせる方法について、研究・調査を行っています。同じテーマについて、以前、このブログで日本原子力学会誌に掲載した解説の紹介をしましたが、以下、やや詳しく説明をします。

Synergisticfiguretable1一次エネルギーを転換
一次エネルギーの化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)、原子力再生可能エネルギー(太陽、バイオマス、風力、水力など)は、通常左図に示すように、より使いやすいエネルギー形態の電気、ガソリン・灯油・軽油・都市ガスなどの「エネルギーキャリアー」(エネルギーを運ぶ媒体のこと、二次エネルギー~最終エネルギーとも呼ばれる)に転換されて、エネルギー利用に供されている。

エネルギーキャリアーには水素や合成燃料も
現在のエネルギーキャリアーは、石油や天然ガスなどの化石燃料から製造されるガソリン・灯油・軽油や都市ガスなどの「炭化水素」と、化石燃料・原子力・水力により発電される「電気」が主であるが、将来は石炭や天然ガスの液化による「合成燃料」やバイオマスから製造される「バイオ燃料」、あるいは各種一次エネルギーから製造される「水素」もエネルギーキャリアーとして重要になってくると見られている。

Synergisticfiguretable2これまでの個別的方法
一次エネルギーからエネルギーキャリアーへの転換には、これまで、個々の一次エネルギーを単独に使用する「個別的」方法が用いられてきた。化石燃料と原子力を夫々、炭化水素、電気、水素に転換する代表的なプロセス例を右図に示す。この中で黒字で示すものは、既に実用段階のもの、青字は研究・開発段階のものである。

Synergisticfiguretable3協働的方法とは
これに対して、原子力と化石燃料またはバイオマス(再生可能エネルギー)の両方を使用してエネルギー転換を行わせる方法を「協働的」プロセスと呼んで、そのメリット、可能性などを調べてきた。左図では、協働的プロセスの中で原子力が絡む組み合わせ6通りを示している。原子力と化石燃料/バイオマスの両方を夫々の特長を生かして使用する協働的プロセスを創出することによって、高い効率で炭化水素、水素、電気などのエネルギー・キャリアーに転換できる可能性がある。

原子力熱を化石燃料・バイオマスへ供給
原子力をエネルギー目的に使用する場合、利用可能なエネルギー形態は実際的には熱のみである。熱エネルギーをタービン発電機や熱化学分解法によって電気や水素に転換する場合、熱力学的サイクルを経るために、高熱源と低熱源の温度で決まる効率の制限を受ける。協働的プロセスの狙いは、発電、水素製造、合成燃料製造プロセスにおいて、熱を必要とする化学反応に原子力熱を供給し、これを反応生成物の化学エネルギーに転換し、その後のプロセスで有効に利用していこうと言うものである。原子力熱供給がなければこれらの熱は化石燃料の燃焼などにより供給されるものなので、その分の化石燃料の節減に資する

Ijngee_scoverijngee_2
期待される効果
化石燃料やバイオマスと原子力の協働によるエネルギー転換プロセスにより、次の効果が期待できる。
◎ 化石燃料やバイオマスの燃焼不要によるこれら炭素資源の使用量の節減とCO2排出量の削減、炭素資源のノーブル・ユースの増進
◎ 化石燃料/バイオマスと原子力の両方を高効率で利用するので両資源の節約
◎ 高効率の資源利用と安価な原子力熱コストによる経済性。

Horiijngeepage1s_2具体的なプロセスなど詳しくは、下記のペーパーを参照されたい。

① Masao Hori, "Synergy of Fossil Fuels and Nuclear Energy for the Energy Future", OECD/NEA Third Information Exchange Meeting on the Nuclear Production of Hydrogen: Presentation (October, 2005)
② 堀 雅夫 「原子力は化石燃料に熱を供給しよう!! 高効率エネルギー転換、化石燃料ノーブルユース」 月刊エネルギー Vol.39 No.02 p.26-31 (2006)
③ 堀 雅夫 「化石燃料による協働的エネルギー転換プロセス」 日本原子力学会誌、Vol.49, No.5, p.359-364 (2007)
④ Masao Hori, “Synergistic Energy Conversion Processes Using Nuclear Energy and Fossil Fuels” Proceedings of International Symposium on Peaceful Applications of Nuclear Technologies in the GCC Countries, Jeddah, Saudi Arabia (November, 2008) (⑤の原子力国際ジャーナルに掲載)
⑤Masao Hori, "Synergistic energy conversion processes using nuclear energy and fossil fuels", International Journal of Nuclear Governance, Economy and Ecology (IJNGEE), Vol. 2, No. 4, pp362-374 (2009) http://www.inderscience.com

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中東・湾岸協力会議加盟国の原子力国際シンポジウムに参加して

Programcover2008年11月3日~4日、中東の湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council、略してGCC)加盟の6ヶ国による初の原子力国際シンポジウムがサウジアラビアのジェッダで開催されました。豊富な石油資源を持っているGCC加盟国がエネルギー源として原子力利用の検討を始めたのです。私は、このシンポジウムに招待され、講演を行いました。以下は、シンポジウムの概要とGCCの原子力利用への動きです。

 <-- プログラムの表紙

シンポジウム開催までの経緯 -- GCCサミットによる原子力平和利用の決定 --

 (1) 2006年12月、リヤドで開催された湾岸協力会議に加盟しているアラブ首長国連邦・バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビアの6カ国の代表による第27回最高評議会(サミット)において、「国際基準・システムに調和した平和目的の原子力技術利用とそのための共同計画」が決定された。
 
 (2) 同月開催されたGCC加盟国の大学・高等教育機関学長委員会の会合において、上記決定に基づいて「原子力平和利用国際シンポジウム」を開催することが決議された。
 
 (3) このシンポジウムのオーガナイザーとして、GCCにおいて唯一原子力工学科を有するサウジアラビアのキングアブドルアジズ大学(KAU)が選ばれ、同国のアブドラ国王の支援で開催されるることになった。

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