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2008年6月

コミューター電気自動車と自動車用電池について

トヨタ自動車は08年6月11日東京都内で「トヨタ環境フォーラム」を開催し、「研究開発」「モノづくり」「社会貢献活動」の3つの分野で、低炭素社会に貢献するためのアクションプランを発表しました。

このフォーラムでは、渡辺捷昭社長が「トップスピーチ」として、この3分野におけるトヨタの取り組み方針について、また瀧本正民副社長が「サステイナブル・モビリティ実現に向けたトヨタの取り組み」について講演を行いました。

私が関心を持っているハイブリッド車(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)については、①HEVはこれまでの実績を踏まえて設定車種を拡大するなど積極的に普及を促進すること、②PHEVは現在の日米欧での実証実験の継続実施と2010年までにリチウムイオン電池搭載の車をフリートユーザー向けに販売すること、をあらためて力強く述べていました。

この講演の中で、私がとくに注目したのは、次の二つの方針です。

(1) 近距離コミューターとしての適用が期待されている小型の電気自動車(BEV)の量産化を目指した開発の加速
(2) リチウムイオン電池の性能を遥かに超える次世代電池の開発を目指して、「電池研究部」の新設

これらについて、以下感想を記します。

(1) コミューター電気自動車の開発

Ecom電気自動車(BEV)は次世代自動車の中で一定の役割を果たすと考えており、とくに日本の場合、近距離用BEVは軽自動車クラスにおけるガソリン車代替として、PHEVに次いで期待できると考えています。(左の写真はトヨタのコミューターBEVのコンセプトカー「e-com」)

ところで、08年3月に修正された米国カリフォルニア州の2012年~2014年のゼロ排出車(ZEV)規制では、新に「ゴールド車」(FCV、BEV)と「シルバープラス車」(PHEV)を組み合わせたオプションが設けられました。このゴールド車には、FCV(燃料電池車)よりBEVで対応する方が現実的と考えられます。Rav4ev

また、旧ZEV規制によって、1997年頃GMは映画「誰が電気自動車を殺したか」で取り上げられたBEV「EV1」をリース販売しましたが、トヨタはBEV「RAV4 EV」(右の写真)を販売しました。RAV4 EVは今でも愛好者が多く、トヨタのBEV技術・経験は高い評価を得ています。

このような訳で、トヨタの小型BEVはPHEVとともに期待できそうです。

(2) 自動車用電池の研究

「電池はこれからの自動車の死命を制する」と考えています。電動推進車用のリチウムイオン電池の価格が現在は10万円/kWh~、軽自動車クラスの電力走行率を10km/kWhとすると、例えば一充電あたり150km航続の軽BEVには容量15kWh、価格150万円~の電池が必要になります。

PHEVはこれよりは大分楽で、日本の軽自動車の平均的ユーザーの走行パターンで70%の距離を電力で走らせるには、一充電あたり35km航続できる容量3.5kWh、価格35万円~の電池で済みます。

この電池の値段が3万円/kWh程度まで下がると、軽自動車クラス・小型車クラスとも、自家用乗用車の平均的ユーザーの10年保有費用において、PHEVの方がガソリンエンジン車より安くなります。

今、日本も米国も、3万円/kWh程度を目標にリチウムイオン電池の開発を進めており、これは2010年代前半に達成可能と見られています。この場合でも、PHEVやBEVなどの電動推進車のコストに占める電池の割合は相当に大きく、電池の出力・エネルギー密度などの性能、耐久性、安全性の重要度から見ても、電動推進車の電池は重要な構成部品と考えられます。

そのため、現在、世界中でリチウムイオン電池の性能・コスト・耐久性・安全性向上の研究開発が活発に進められており、従来からの電池会社のほかに、新興の会社、他の分野からの参入など、まさに戦国時代の様相を呈しています。(「PHEVを巡る主な動き」参照)

リチウムイオン電池の開発では、「ケミストリー」(電極材料などの化学)と「パッケージ」(生産技術)の両方が揃っている必要があります。革新的なケミストリーの研究・提案が出されても、パッケージと結びつかなければ市場に出せません。また、パッケージの技術があっても、ケミストリーで劣っていては、市場の競争で不利になります。さらに、リチウムイオン電池は大量生産によるコストダウンがニッケル水素電池よりも急なので、製品電池を大量に継続して購入する自動車会社の「継続需要」と結びつく必要があります。

トヨタは最近、松下グループと合弁の電池会社「パナソニックEVエナジー」(出資比率: トヨタ60%、松下グループ40%)で2010年より自動車用リチウムイオン電池の本格生産を開始すると発表しました。発表されている生産台数(ニッケル水素と併せて年100万台)は、これまでに発表されている他の電池製造会社・グループより約一桁大きい規模です。

電池は電動推進車の構成部品の中で最もクリティカルな部品の一つで、その性能・コストは電動推進車の死命を制すると考えられます。そのため、電池を内部で研究・開発し、内部で製造し、自社の自動車に供給する「電池の内製化」は、これまで最も重要であったエンジンを内製してきた自動車メーカーが自動車電動化に向かう当然のビジネスモデルだと思います。

リチウムイオン電池のケミストリーで自信のある型のものが出来、パッケージ段階に移行し、大量生産によるコストダウンが可能なところまで来たとしたら、この後はこの優位を守るために絶えざるケミストリーやパッケージの改良・革新などの研究・開発が必要になります。

これからのHEVの車種拡大・高度化、PHEVの製品化・車種拡大・高度化に必須のリチウムイオン電池は、正極・負極の電極材料などはバラエティが豊富で次々に新しい研究成果が発表されており、当分の間リチウムイオン電池の改良・革新・高度化では激しい競争が予想されます。Ooba

トヨタが新設する「電池研究部」は、リチウムイオン電池の先の次世代電池の開発を目指すとしていますが、当面のリチウムイオン電池の改良・革新・高度化のために、従来からある電池研究陣に加えて外部の研究や研究者の取り込みを含む多くのリソースの投入は最重要と思います。

囲碁に「大場より急場」という格言があります。次世代自動車の開発では、「大場」は水素自動車や本格電気自動車(電池航続距離400km以上)、「急場」は先ずハイブリッド車、そしてプラグインハイブリッド車、次に近距離型電気自動車と考えられます。これら急場の車のクリティカル部品であるリチウムイオン電池における優位確保は最優先業務として進められと見ています。(右の盤面は「大場より急場」の例題、黒番)

Toyota_ft_ev_14compprv追記:
08年1月11日からデトロイトで開催された北米国際自動車ショーで、トヨタは電気自動車(BEV)のコンセプトモデル「FT-EV」(4人乗り、航続距離80Km)を展示しました。今後、トヨタは近距離BEVコミューターを2012年までに米国市場に導入する予定としています。(09年1月11日)

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原子力と水素

Hess08vol33no1 水素エネルギー協会(HESS)は、「水素をエネルギー媒体としたクリーンで持続可能なエネルギー社会の実現を推進している産学により作られた日本を代表する団体」で、その機関誌「水素エネルギーシステム」は年4回発行されています。2008年3月に発行された号では、「近未来の水素製造とコスト」のテーマで6編・33ページの特集を掲載しています。

 その中で、私は「原子力と水素」の編を執筆しました。内容は、「原子力水素製造の特長・方法・コスト」、「原子力水素の利用分野・用途」、「原子力水素--需要への対応、技術の方向」、「原子力水素を利用した将来のエネルギー供給構造」などです。その中から、2、3紹介します。

 利用分野・用途の節では、航空機での水素利用について次のようにその将来性に言及しました。

 水素の自動車以外の運輸利用では、鉄道・船舶・航空の推進・電源のための燃料電池用燃料のほか、航空機のジェットエンジン用燃料がある。

 航空機の排出ガスによる温暖化影響は現在は全排出の3%程度であるが、航空輸送量は増大傾向にあり、その環境影響に対する懸念が出てきている。そのため、航空機のエネルギー効率の改善努力が進められる一方で、水素の航空燃料としての利用可能性が欧州共同体・エアバスによって「Cryoplane」プロジェクトとして検討されている。

 液体水素は航空燃料のケロシンに比べて同じ重量で熱量が約2.8倍と大きく、離陸重量を減らし最大積載量を大きくできる。しかし燃料搭載のスペースを設けたり、その他構造的には相当な変更が必要なためその実用化には早くても15~20年かかるとしている。水素の燃焼で排出するH2Oも温暖化ガスだが、CO2に比べて滞留する時間が格段に短く、その他の効果も含めてケロシンから水素燃料に変えることは環境上のメリットが大きい。

 水素の航空機燃料としての利用が実現すると、その目的がCO2排出削減にあるので水素の製造においてもできるだけCO2を排出しない方法が好ましく、ハブ空港が要求するような大量の水素需要に対して原子力はその特性から最も適した供給源になると考えられる。

 また、最後に、次のように「原子力と水素」の方向を展望しました。

 エネルギーの脱炭素化を達成し、低炭素社会へ移行するには、エネルギーキャリアーとしての水素をCO2排出を抑制しつつ製造・使用していく「水素社会」の実現が必要と考えられている。

 水素社会によって達成し得ることに、エネルギー利用端での排出が水のみというクリーン性、燃料電池による動力への変換の高効率性、などがある。これと同じ目的のことが、例えば、高密度・軽量の電池などの電力貯蔵方法がもし開発できたら、オール電化の社会によって達成できる。さらに、水素エネルギーの実用化までに、製造・輸送・貯蔵・利用の各段階で多くの技術改良が必要であり、このような対抗技術の可能性と水素実用化までの障壁から、水素社会の実現に懐疑的な見方も出ている。

 エネルギーキャリアーとして、電力+化石燃料製品(ガソリン、軽油、灯油、都市ガスなどの炭化水素)を主に使用する現在の社会から、将来は電力+水素を主に使う水素社会になるか、あるいは電力を主に使う電化社会になるか、または電力+合成燃料(炭化水素、バイオ燃料など)を主に使う社会になるか、 関係するエネルギー技術の今後の進展・ブレークスルーに懸かっている。

 将来の社会がいづれの方向に向かうにしても、これらのエネルギーキャリアーを製造する一次エネルギーは、持続的供給・CO2排出抑制が可能な特性を有する必要がある。

 原子力は、現時点での水素の需要に対しては原子力電力(深夜時間帯は大部分が原子力電力)による水の電気分解で対応でき、将来の水素社会が要求する大量の水素需要に対しては開発中の原子炉熱による水の熱化学分解での対応が期待される。また、近未来に大きな水素の需要が生じた場合は、天然ガス水蒸気改質への原子炉熱供給方式が、従来の天然ガス燃焼(自燃)方式より資源節減・CO2排出削減、製造コストなどで優位となる。

 このように、原子力は単独で、あるいは化石燃料やバイオマスなどの炭素資源との協働的プロセスによって、水素などエネルギーキャリアー製造の基幹的な役割を担っていくと考えられる。

 「原子力と水素」の原稿はここからダウンロードできます。

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