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2005年10月

運輸部門の石油消費を大幅に削減するプラグイン・ハイブリッド車

Monthlyenergy0508covers_32005年8月号の「月刊エネルギー」(フジサンケイグループのEnergy総合誌)に「どちらが安価で地球にやさしい? 従来ハイブリッド車vsプラグイン・ハイブリッド車」というタイトルでプラグインハイブリッド車の解説を書きました。おそらくこれが日本でプラグインハイブリッド車のエネルギー効果を論じた最初のペーパーだと思います。

化石燃料で動くハイブリッド車

石油の値上がりが続く中、日本でも米国でも、トヨタのプリウスに代表されるハイブリッド車が、その燃費の良さで大人気になっている。ハイブリッド車とは、複数の動力源により駆動する方式の自動車を言う。現在、主流になっている型はガソリンエンジンと電気モーターの二つの動力源を組み合わせて、優れた低公害性、燃費、動力性能を達成している。
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このハイブリッド車のエネルギー源はガソリンで、これをエンジンにより機械エネルギーに変換し車を駆動するとともに、その一部を発電機により電気エネルギーに変換してバッテリーに貯蔵し、車の走行状態に応じてエンジン駆動とともに電気モーターによる駆動を行わせ、またブレーキ時に失われる運動エネルギーを電気として回収する。この場合、エネルギー源はガソリンで、使用する一次エネルギーは化石燃料の石油である。

Pagetopsプラグインにすると電力でも動く

最近、注目されているのはプラグイン・ハイブリッド・電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle, PHEV)と呼ばれている型のものである。これは、外部から充電するための差込みプラグを備えたもので、車を使用していない夜間などに商用電源からバッテリーを充電する。走行時には、ある距離までは主としてバッテリーからの電力で駆動し、バッテリーの充電量が減少するとエンジン駆動のハイブリッド走行に切り替わる。それ故、プラグイン・ハイブリッド車を駆動するエネルギーは、ガソリンと外部から充電された電力の両方になる。

充電する電力が何から発電されているかにより、この車が使用する一次エネルギーは、ガソリン源の石油に加えて、電力源の化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)、再生可能エネルギー(水力など)、原子力などになる。充電電力で走行した分だけ、ガソリン(石油)の使用量を減らすことが出来、充電電力に原子力や再生可能エネルギーによる電力を使用すれば、その分炭酸ガスの排出量を削減出来ることになる。

プラグイン車ではダイムラーがリード

現在、プラグイン・ハイブリッド車を発表しているのは、米国電力研究所EPRIと協力して開発したDaimlerChryslerの配達用の商用バン「Sprinter」のみである。

dcsprinterプリウスでハイブリッド車の先頭を走るトヨタは、「充電のためにプラグインする必要はありません」と広告して、未だプラグイン車市場への参入を表明していない。しかし、米国では既に幾つかの小企業が独自に、プリウスなどのハイブリッド車をプラグイン・ハイブリッド車に改造するサービスを始めており、プラグイン・ハイブリッド車が実際に走行を始めている。

米国の車(大型を除く)の半数は一日の走行距離が20マイル以下であり、既存のハイブリッド車にバッテリーを増設して充電可能にする程度の改造により、ガソリンの消費量をかなり減らすことが出来、充電の電気代を勘定しても燃料費用の節減が可能になっている。本格的なプラグイン・ハイブリッド車が市場に出ると、最初の大ユーザーは郵便配達や宅配便の車、それに輸入石油の削減に取り組む政府の使用車などと見られている。

米国でのプラグイン車導入の効果を試算

米国の車をこのプラグイン・ハイブリッド車に切り替えた場合のガソリン用石油の節減量、必要電力量、必要な新設原子力発電容量の試算が、2005年6月に開催された米国原子力学会の年会でテネシー大学のUhrig教授から発表された。(文末の参考資料) 以下、この試算と検討を要約して示す。

半数の車は1日20マイル以内の走行

米国では2004年現在2億2500万台の軽量輸送用自動車(1億3300万台の乗用車、 9200万台の軽量トラック、SUV、バン、ピックアップなど)があり、ある1日をとると、平均してこれらの車の50%は20マイル以内の走行と推定される。プラグイン・ハイブリッド・モードでは、バッテリー容量の半分(35マイル走行)まではバッテリーによる電気モーター駆動(電力走行)のみでそれ以降は通常のハイブリッド走行とし、上記台数の車が今後30年で、プラグイン・ハイブリッド・モードの走行が出来るようになるとする。

試算では、上記の半数の車が1日15マイルの走行(全部電力走行)、残りの半数の車が1日35マイルの電力走行をしその後は通常のハイブリッド走行に切り替わるとしている。このようなプラグイン・ハイブリッド・モードの走行によるガソリン燃料の節減量は、非ハイブリッドガソリン走行の燃費を1ガロン当り 20マイルとすると、1日あたり670万バレル、石油消費量にして74%の削減になる。

電気で走るとガソリンの1/3~1/2の費用

走行費用に関しては、電気モーター、バッテリー、充電などを含む電気駆動システムの総合効率を70%、プラグインにすることによる重量増によるエネルギー増を15%と仮定すると、電力走行では1マイル当たり3.6セントの費用となり、これはガソリン価格を1ガロン2ドルとした時のガソリン走行1マイル当り10セントの1/3程度と、電力走行の方が相当安くなる。
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ガソリン価格には税金が含まれているので、将来輸送用のエネルギーの主力が電力に切り替わったときにも全税収が同額になるように電力料金に税金が掛かるとして計算すると、電力走行の費用は1マイル当り5.4セントになるが、それでもガソリン走行の半分くらいの費用である。

家庭における充電の可能性については、1日35マイルの電力走行分を8時間で充電する場合で220ボルト12アンペア、2倍の急速充電でも24アンペアで、最近の家庭では普通200アンペア以上の容量があるので問題ない。

充電用は100万KWの発電所200基

さて、充電のための電力供給はどのくらいになるか? 8時間充電では422 GW、すなわち100万KWの発電所422基相当の電力が必要になる。現在の米国の全発電容量は約850 GWなので、夜間またはその他の時間でも、このような電力量を供給する余裕はない。もっとも米国での時差から実際の充電時間は8時間以上になり、また現在ある余剰電力も考えると、新たに必要になる発電設備は多分100万KW発電所200基程度となろう。この様な原子力発電所の増設を今後30年間に行うことは大変な仕事ではあるが、実現可能である。

短期的に導入可能、輸入石油削減に効果

現在のハイブリッド車を提案しているようなプラグイン・モードが可能な車に改良するのは、自動車メーカーにとって工学設計上の課題ではあるが、克服できない難題ではない。

結論として、米国の運輸部門の石油消費を削減するためのこのプラグイン・ハイブリッド車による方法は、現在検討されている他の方法に比べて、より簡易で、より早く達成出来、費用対効果も良い。石油輸入問題解決に短期的に大きな効果を及ぼし得る実現可能な唯一の方法と考えられる。

日本でも効果、現実的な方法

Uhrig教授が提案するプラグイン・ハイブリッド車導入によって運輸部門の化石燃料消費を削減する方法は、日本においても輸入石油依存から脱却してエネルギー・セキュリティを向上させ、炭酸ガス排出を削減する上で、早い時期から導入可能な現実的な方法と考えられる。

トヨタ、ホンダなど日本の自動車メーカーはハイブリッド車の市販で先行し、技術的にも世界の先頭を走っているので、これを本格的にプラグイン化する素地は十分にある。一方、原子力発電は既に日本の電力供給の1/3を占めており、実用電源として確立している。それ故、プラグイン・ハイブリッド車の導入と原子力発電の増設を連携的に進め、燃料・電力の供給インフラを各々の量的変化に対応して整理・整備していけば、輸送部門のエネルギーの供給安定化とクリーン化を短中期的に実現していくことができよう。

長期的には、電気自動車、さらにクリーンエネルギー起源の合成燃料や水素を利用するエンジン、燃料電池、その組合せなど、より高度な目標に向かって行くことになろう。

プラグイン・ハイブリッド車の日本での導入効果 -- 試算 --

プラグイン・ハイブリッド車を日本で導入した場合の効果について、Uhrig教授と同様の手法を使用して、概略評価を行った。

自家用乗用車を対象

PVehicleJプラグイン・ハイブリッド車を導入する車種として、自家用乗用車で、普通車・小型車などの「登録自動車」と「軽自動車」を対象とした。国土交通省・陸運統計要覧による平成15年度の統計データから、対象車種について表の値を使用した。

想定した走行パターン

プラグイン・ハイブリッド車とした時の商用充電電力のみによる走行(電力走行)のパターンについては、国土交通省「自動車輸送統計報告書」などを参考にして次のように想定した。

 (1) 登録自動車については、バッテリーにより電力走行可能な最大距離を1日当り50Kmとして、6割の車が実働1日当り平均20Kmの電力走行、4 割の車が実働1日当り平均40Kmの電力走行をするとした。全走行距離に対する電力走行の割合は、この想定では69%になり、その分ガソリンが節減されることになる。

 (2) 軽自動車については、バッテリーにより電力走行可能な最大距離を1日当り40Kmとして、半数の車が実働1日当り15Kmの電力走行、半数の車が実働1日当り30Kmの電力走行をするとした。全走行距離に対する電力走行の割合は、この想定では78%になり、その分ガソリンが節減されることになる。

電力走行のコスト

電力走行のコストの評価には、Uhrig教授が使用したガソリン車とプラグイン・ハイブリッド車・電力走行の駆動効率値を用い、電力価格として東京電力の深夜B料金(23時~7時の時間帯、基本315円+6.3525円/KWh)を用いた。

(1) 登録自動車は、1Km走行当り電力コスト3.04円となり、ガソリン走行(レギュラーガソリン リッター122円)1Km走行当りの燃料費14.6円の約1/5になる。電力走行により安くなる年当りの差額は平均79,300円。

(2) 軽自動車は、1Km走行当り電力コスト2.44円となり、ガソリン走行の1Km走行当り11.0円の約1/4.5になる。電力走行により安くなる年当りの差額は51,000円。

上記ガソリン価格に含まれる53.8円/リットルのガソリン税を除いた価格で比較すると、電力走行コストはガソリン走行の6割安程度になる。走行距離当りガソリン税相当の額が電力走行にもかかるとすると、電力走行コストはガソリン走行の3割安程度になる。

家庭の大きな電力需要

家庭における充電電力は、最大の1日50Kmの電力走行を夜間8時間で充電する場合で、100ボルト23.7アンペアとなる。車1台当り充電に使用する電力量は平均で月200KWHとなり、車の電力走行の充電は家庭における大きな電力需要となる。

電力需要の平坦化、原子力発電の必要性

将来、対象とした車種の全数がプラグイン・ハイブリッド車になったとして、想定した走行パターンの電力走行をした分を夜間8時間で充電するとした場合、必要電力(需要端)は4470万KW、約45GWになる。

現在、一日のピーク電力と深夜電力時間帯8時間の需要には50GW 程度の差があるので、上記の充電電力の相当部分は余剰電力で補うことが可能であろう。車の電力走行が普及すると、昼間と夜間の電力需要が平坦化して、発電プラントの設備利用率は高くなる。ただ、現在の深夜電力時間帯でも原子力はベースロードとして稼動しており、新しい需要に対しては主として火力発電の稼動によって補填することになる。

将来のわが国のエネルギー自給率向上・地球環境保全の見地、そしてプラグイン・ハイブリッド車を導入する趣旨から、電力走行の増加に対しては、電源構成を原子力などのクリーンで自給可能な発電にシフトする必要がある。

上記は、米国での試算と同じ手法による概算である。評価の確度を上げるには、自動車輸送統計の距離別帯・流動表の分析による走行パターンの想定、プラグイン・ハイブリッド車のデータに基づく電力走行距離の最適化や電力駆動効率の設定などが必要と考える。

[参考資料]
(1) Robert Uhrig, "Nuclear Generated Electricity for Hybrid-Electric Vehicles" TRANSACTION OF THE AMERICAN NUCLEAR SOCIETY, June 2005, Volume 92, p.86-87
(2) Robert Uhrig, "Using Plug-in Hybrid Vehicles to Drastically Reduce Petroleum-Based Fuel Consumption and Emissions" THE BENT OF TAU BETA PI, Spring 2005 p.13-19Energymay2006covers

注:本稿は「月刊エネルギー」誌2005年8月号に掲載した原稿を編集・加筆したものである。元の記事のPDFファイルはここに置いてあります。

また、これにその後の進展を加えた「月刊エネルギー」誌2006年5月号掲載の「エネルギー自給と地球環境保全へ まずプラグインハイブリッド車を! その効果は」の原稿はここ、PDFファイルはここに置いてあります。


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