WLTPにおけるPHEV燃料消費率のためのユーティリティファクターの検討

世界調和の燃料消費率に関する国際的な検討の場として「WLTP」がある。WLTPとは国連の「自動車基準調和世界フォーラム」(World Forum for Harmonization of Vehicle Regulations)の一環の「小型車の世界共通排出ガス試験法」(Worldwide harmonized Light-duty Test Procedure, 略称WLTP)ワーキンググループのことで、この中の「EV(E-Lab)」サブグループや「電気自動車・環境」(Electric Vehicles and the Environment, EVE )ワーキンググループなどがBEV/PHEV/HEVに関する検討作業を行ってきている。

これらのワーキンググループでは、BEV/PHEV/HEVの標準試験法や規制リファレンスガイドなどのとりまとめ・提案を行なっており、この中で「世界調和ユーティリティファクター」(Global Harmonized Utility Factor)についても統計データをまとめる方法論などの議論を行なっている。本ブログではここの中で言及しており、WLTP関係の元の資料はUNFCEのサイトから入手可能である。

世界統一試験サイクルWLTC(Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle)による
PHEVのCD(電力走行)レンジおよびCS(ハイブリッド走行)レンジの試験手順
Wltcforphev ユーティリティファクター(UF)とは、PHEVの全走行距離の中に占める充電電力による走行距離の比率すなわち電力走行(距離)割合のことで、この値には国の平均、地域の平均、任意の集団の平均から個人の値までいろいろな定義が可能である。この値は、これら集団~個人のドライブパターン(実働1日あたりの走行距離の頻度分布)から計算で求まるが、統計処理の方法でFUFやIUFのように異なった値が導出される。ユーティリティファクターを使用すれば当該集団または個人の実効的な燃料消費率・CO2排出量が計算できる。

本ブログではユーティリティファクターについて多くの箇所で論じてきたが、総括的には次の3資料が参考になる。

 ① 「プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- ユーティリティファクタ,電力・ガソリン等価合成の考え方」(「自動車技術」2014年7月号執筆記事
 ② 「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領」
 ③ 「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」

「世界調和ユーティリティファクター」とは、各国/各地域におけるユーティリティファクターを同じ基準で評価することである。このためには自動車のドライブパターンの統計データ収集作業など各国/各地域における作業が必要になる。WLTPの場では、どのような定義のユーティリティファクターを用いるかなど、世界調和試験法のワーキンググループの目的に適った検討と整理が必要と考える。なお、世界の各国/各地域のユーティリティファクターが得られれば、これらを総合した世界平均のユーティリティファクターを導出することも可能になる。

本稿執筆時点(2015年7月)までのE-Labサブグループの検討においては、フェース1として地域ごとのユーティリティファクターを適用することとし、世界調和ユーティリティファクターに関する検討を引き続き行うとしている。

具体的な提案としては、2014年の会合においてACEAからの参加メンバーから次のような提案が出されている。
 ◯ 各参加国は地域の自動車走行データに基づくユーティリティファクターを作成する
 ◯ ユーティリティファクターの導出方法をGTR 1B(GTR=国際技術規則Global Technical Regulations)に利用可能なデータベースとともに記述する

さらに、2015年のWLTP IWGの会合においてサブグループからの下記提案が説明され、WGのまとめに含めることが決定されている。
 ◯ ユーティリティファクターには、米国自動車技術会のSAE J2841に記述されているようにその導出の統計的方法によってFUFとIUFの2種の定義があるのが、この選択は参加国に委ねる
 ◯ 既に導出されている米国、EU、日本のユーティリティファクターをまだ導出されてない参加国への情報としてGTRに記述する

WLTPにおけるこれらユーティリティファクターに関する検討と平行して、EUで2020年からフェースインする排出規制によりPHEVの導入が加速されていることもあり、ACEA代表のBMWの委員によるEUにおけるユーティリティファクターの算出やこれを用いたPHEVのエネルギー効率の評価などが発表されている。(これらについては別項で解説する予定)

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トヨタ、新アーキテクチャーTNGAの特長と計画を発表

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トヨタ自動車 は、新しいアーキテクチャー(TNGA, Toyata New Global Architecture)を2015年内に発売予定のプリウスから導入開始し、他の車種にも順次展開して2020年ごろに世界販売の約半数で採用する計画を2015年3月26日明らかにした。

「アーキテクチャー」とは一般に「構造・構成・様式」などを意味し、建設産業では構造・設計法・工法、コンピューター産業では設計・ハード・ソフト技術、自動車産業ではパワートレインや車台など複数車種で共有される部品・システムの標準化様式を指す。

トヨタの「TNGA」はパワートレインユニットとプラットフォーム(車台、シャーシー)から構成されており、これらを一体的に開発することにより基本性能・商品力の向上、複数車種の同時開発による部品・ユニットの共用化などを進め、従来比で20%以上の開発効率の向上を見込んでいる。

具体的性能としては、パワートレインユニットではエンジン熱効率やトランスミッションの伝達効率の改善によりシステム全体で燃費約25%動力性能約15%以上の向上、フラットフォームではボディー剛性を従来比で30-65%の向上を図るとしている。詳しくはトヨタ自動車のプレス発表記載の説明(下記一部抜粋、写真も同サイトから転載)を参照されたい。

「新パワートレーンユニット」

 クルマの中核となるパワートレーンユニットでは、低重心化、軽量・コンパクト化、統一設計によるモジュール化など、クルマの基本骨格を決める要素をプラットフォームとパワートレーンユニット間で連携しながら新開発することで高性能・低燃費を追求するとともに、もっとかっこいいクルマ、より卓越したハンドリングにも貢献。エンジンの熱効率やトランスミッションの伝達効率を向上させることで、パワートレーンシステム全体(エンジン・トランスミッション)で燃費は約25%、動力性能は約15%以上向上。
 またハイブリッドシステム(エンジンを含むシステム全体)では、駆動ユニットの配置見直しやモーター・インバーター・電池の小型化、高効率化を図ることで燃費の15%以上向上を見込んでいる。トヨタは新パワートレーンユニットを2015年に導入開始し、ハイブリッドシステム、トランスミッション、エンジンを順次刷新していく。

「新プラットフォーム」

 新プラットフォームは、アンダーボディやサスペンションを刷新・新開発するとともに、パワートレーンユニットを低重心・低配置化することで、クラストップレベルの低重心高を実現。低く構えた、かっこいいデザイン、気持ち良いハンドリング、質感の高い乗り心地、安全・安心をお届けする衝突安全性能などに貢献。骨格構造の見直しなどにより、ボディ剛性の向上(従来比30~65%向上)を図るとともに、ボディ接合にレーザー溶接技術を採用することなどでボディ剛性を更に高めていく。トヨタは新プラットフォームを2015年中に発表予定のFF系ミディアム車から導入、FF系のコンパクト車・ラージ車、FR系の車種にも、それぞれに対応する新プラットフォームを順次展開し2020年頃には全世界の販売台数の内、約半数に導入される見込みである。

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電気自動車の充電を通信で制御、電力会社PG&Eと自動車メーカーBMWのデマンドレスポンス計画 -- BMW i3 100台、サンフランシスコで18ヶ月間テスト

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計画参加車へは最高1540ドルの報奨金

2015年1月6~9日にラスベガスで開催されたCES国際家電ショー(2015 International Consumers Electronics Show)で、ドイツの自動車会社のBMWとカリフォルニア州(北部・中部)の電力会社のPG&E(Pacific Gas and Electric Company)が「BMW i ChargeForward Program」という電気自動車の充電をデマンドレスポンス(需要家が需要量を変動させて電力の需給バランスを一致させること、略してDR)で行うテストを開始すると発表した。

Bmwchangeforward01s場所はサンフランシスコのベイエリア、期間は2015年7月から2016年12月までの18ヶ月間で、このテストに参加するBMWの電気自動車オーナーは最大1540ドルの奨励金を受け取れる。

参加できるのは、ベイエリアに居住するPG&Eの顧客で電気自動車BMW i3のオーナー、全部で100台。参加する車は居住場所での充電に際してPG&E社からの信号により最大1時間充電遅延が可能となるように設定される。ただし、自動車オーナーが外出などの予定があればその旨の意思表示を通信により行うことにより充電遅延を断ることができる。

具体的には、オーナーは出発予定時間の情報を送ることにより充電遅延を断ること(opt-out)が可能。このopt-outはその日だけ有効で、日が変わると自動的に遅延受入の状態(opt-in)に戻る。このopt-outとopt-inの割合や途中での調査への協力などの実績により、期間中報奨金の額がきまる。なお、充電負荷の低下はPG&Eが設置したスマートメーターで確認される。

プログラムへの参加者には、開始時(upfront)に1000ドルと期間中(ongoing)の協力の成績により終了時に最高540ドルの報奨金(ギフトカード)が渡される。

BMWは個々の車の充電を遠隔で操作するが、PG&Eから要請されるデマンドレスポンス量(100kW)の確保には、BMW施設内に設置される電気自動車の使用済み電池二次利用の電力貯蔵装置(200kWh)により、全体としてのバランスを取るようにしている。この貯蔵装置は、PG&Eとの充放電の双方向電力流通のほか太陽光発電から充電されるようになっている。

電力会社が能動的役割、PG&EがBMWを選考

PG&E社の発表資料によると、このテスト計画は電力会社側からの競争的引合の結果BMW社を選んだもので、条件である最低100kWの電力需要調整はPG&E社が他の工業・商業の顧客に対するデマンドレスポンス計画と同じ大きさである。このようなデマンドレスポンスの計画は、顧客にピーク時の需要カットを報奨することによって、信頼性向上、費用削減、環境保全に役立たせるもので、今回のテストが成功すると、電力から自動車への有意な金銭支払の道を開き、顧客の電気自動車購入をさらに活気付けることになる、としている。

電力会社としては、稀にしか起きないような需要のピークへの対処にデマンドレスポンスを使うことによって、配電線やトランスやその他の設備の増強を遅らせて費用の節約ができる。そして、需要の急上昇に対応する際の高価で汚染源となる化石燃料電力の購入量を減らすことができる。このような方法を将来さらに高度化することによって、風力や太陽光などの変動電力を調整・平坦化することが可能になる。

DemandresponsepeakcutBMWはPG&Eに対して次の二つの方法で電力需要の調整に協力することになっている。

① BMWは電気自動車で使用済みのLi-ion電池を二次利用した大容量電力貯蔵装置を設け、電力需要が小さい時は充電し、需要が急増した時は放電させる。この電池は、BMWがMiniEで使用したLi-ion電池200kWhでBMWの施設内に設置。

② BMWは100台のBMW i3電気自動車をリストアップして、今回のChargeForward計画に組み込む。PG&Eが何らかの理由で需要抑制が必要ななった時にインターネット経由でBMWへ信号を送り、需要抑制量とその時間を知らせる。これに従い、BMWは各自動車に信号を送って充電を一定時間停止する遠隔操作をする。

PG&EはBMWが行うこれらのサービスに対して、他のデマンドレスポンスのサービスと同様の対価を支払う。一方、BMWは参加車に対して開始時の報奨金と需要抑制に協力した程度に応じた継続中の報奨金を支払い、これらの金額が電気自動車の総保有コストの低減に活用される。テストに参加している18ヶ月間、参加者は電話アプリを通じて継続中報奨金の額を知ることができる。

「このテストの成功は、他の自動車メーカーやデマンドレスポンス協力機関に対して電気自動車による電力系統へのサービス価値を活用する道を開き、同様に電気自動車オーナーの利益になるもの」、「PG&Eのサービスエリア内の電気自動車の台数は現在6万台以上で、これらが集まると莫大な成長性ある資源となって、より柔軟で低価格でクリーンな電力を提供できる」、「このテストは、自動車メーカーが自動車電池による電力系統への調整サービスの可能性、その価値、電気自動車市場成長への効果などを判断するのに役立つ」など、PG&Eは期待を表明している。

充電集中によるピークへの対応から再生可能発電による変動への対応へ

Kieferduckgraph_2電気自動車1台への普通充電(SAE J1772 AC Level 1~2)の充電電力は、日本では現在最大200V15Aの3kWであるが、米国では220V30Aの6.6kWが主流になっている。(テスラは80A*220V=17.6kW) PG&Eのサービスエリア内の電気自動車(現在6万台)の充電が集中すると系統全体で数十万kWのピークが出ることになる。電気自動車の充電電力は1台で家1軒の使用電力の最大値に匹敵するので、配電網の末端で電気自動車が増加すると配電線やトランスの増強が追いつかない場合があり、ローカルにも充電制御が必要になる。今回のPG&EとBMWの協力によるテストも先ず充電集中などによるピークのカットのためのデマンドレスポンスと考えられる。

このような充電制御の試験計画は、米国では他にもEPRI(米国電力研究所)によるものなど電力会社や自動車メーカーの参画で進行中であるが、自動車の電力系統へのサービスに対する対価の支払いなど電力会社が他の負荷制御に対して支払ったいるのと同様の条件で行っており、このサービス対価が自動車オーナーまで還元される点など今後の実用におけるモデルになるものと期待される。

このPG&Eが電力供給しているカリフォルニア州は、風力や太陽光などの再生可能エネルギー発電の急増により、2015年ころから1年のある時期(左の図は3月の値)に昼間の電力需要の落ち込みと夕方の電力需要の急上昇の所謂「Duck Graph」(アヒルのお腹の曲線のようなグラフ)問題が予想されており、その対策のために電池などの電力貯蔵設備の増強が喫緊の課題となっている。

今回の電気自動車によるデマンドレスポンスのテストの先には、自動車電力をこの再生可能発電による変動対策に利用する方法の開発実証がある。そのためには、自動車側に次のような機能が必要になってくる。

① 車載のパワーエレクトロニクス機器による双方向電力流通(充放電)
② 系統側からの指令による車載機器の通信制御
③ 自動車の定置場所(家など)以外の勤務先や公共の場所での充放電のためのプラグインポイントの同定
④ 効果的電力サービスのための充放電電力(6kW充放電など多い方が効果的)

これら必要な機能については、「《自動車から家・ビル・電力系統への双方向電力流通サービス》 V2Xの基本的事項と成功のための7つの要件」の項を参照されたい。

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《自動車から家・ビル・電力系統への双方向電力流通サービス》 V2Xの基本的事項と成功のための7つの要件

《自動車から家・ビル・電力系統への双方向電力流通サービス》
V2Xの基本的事項と成功のための7つの要件

自動車から電力系統への電力流通サービスは、自動車から電力を出すという意味で「Vehicle-to-(供給先)」と呼ばれており、略して「V2H」(Home、家)、「V2B」(Building、ビル)、「V2G」(Grid、電力網)、「V2L」(Load、負荷)と記され、これらを総称して「V2X」と表記される。

プラグインハイブリッド車や電気自動車の電池は大きな電力(パワーkWとエネルギーkWh)を持っており、また自動車は平均して1日24時間の内1時間程度しか稼働していないので、これら自動車が駐車中の23時間にその大きな電力をナノグリッド、マイクログリッドから商用グリッドまでの各種電力系統で利用することにより電力系統をよりスマートに効率的に運用することが可能になる。

ここでは、自動車から家、ビルディング、電力系統などの負荷への双方向電力流通サービスに関わる基本的な事項を説明し、これら自動車の双方向電力流通サービスを実用として成功させるための要件を示す。

なお、本稿は筆者による次の講演内容を整理したものである。

①「自動車による電力サービス(V2X)」 日経BP・Smart City Week・SCW2012 「V2H/V2G最前線・自動車が切り開くスマートコミュニティー社会」 パネルディスカッション(2012.10.31)

② 「地域のエネルギーシステムにおけるEV・PHVの新たな役割 – 期待される役割と課題、その将来性 – 考え方などの整理」 経済産業省・次世代自動車振興センター主催「EV・PHVタウンシンポジウムin大阪」 パネルディスカッション (2012.11.22)
筆者の講演スライド

A. 双方向電力流通サービスに関わる基本的な事項

1,自動車・電力系統の連系に用いられる車種

Slide1_2電力系統と電気的に接続可能な車種は、図表1の「次世代自動車」(エネルギー・環境対応型自動車)の中でも、「電動自動車」に分類されるハイブリッド車(以下、HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)および燃料電池自動車(FCV)の4車種である。

この電動自動車の中でも系統電力を自動車駆動用電池に充電して走行するPHEVとBEVは設備および設定の追加により系統との双方向の電力流通が可能になるので、自動車・電力系統の連系における最も重要な車種と見なされている。なお、PHEVとBEVの2車種を合わせて「プラグイン自動車」(Plug-in Electric Vehicle, PEV)と呼ぶ。

2,電動自動車のエネルギー・環境的な特長

次世代自動車は従来型のエンジン駆動の自動車よりエネルギー消費が少なく且つ環境影響が小さい特長がある。ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車などの電動自動車をガソリンエンジン車と同じ条件下で比較したJHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)の総合効率検討作業部会報告書(日本自動車研究所発行2011年3月)によると、図表2(下図)のように電動自動車(とくにプラグインハイブリッド車と電気自動車)の走行距離当たりの一次エネルギー投入量(左側の図)および炭酸ガス排出量(右側の図)はエンジン自動車より低くエネルギー・環境効果に優れていることが判る。

走行のエネルギーで見ると、ハイブリッド車はガソリンなどの石油製品により、燃料電池車は主に天然ガスなどの化石燃料による一方、プラグインハイブリッド車は石油製品と系統電力により、電気自動車は全て系統電力によるので、プラグインハイブリッド車と電気自動車などのプラグイン自動車ではエネルギー消費とCO2排出が少なくなる上に一次エネルギー源の多様化が可能になる。

Primaryenergykm_2Co2km_2


3,プラグイン自動車の充電に必要な電力

Slide3日本の自動車が将来電動化された時の使用電力は図表3のように、日本の乗用車が全部BEVになった時は全発電量の8%程度、全部PHEVになった時は全発電量の6%程度なので、車への充電を夜間8時間で行うとすると必要な発電量は20GW~29GWとなる。

日本は最大需要180GWの供給に十分な設備を現在有しており、夜間需要が90GW~120GWなので現有の設備で将来の自動車電動化の際の充電に対応できる。ただし、充電が集中しないような制御は必要であり、これは自動車・電力系統のエネルギー連系システムに組み入れて調整・制御を行なっていくことになる。

4.自動車電力の特長: kWh(エネルギー)よりkW(パワー)

Slide4自動車電力の特長は、電池が保有するエネルギー(kWh)より電池が供給できるパワー(kW)の大きさにある。

図表4は1台のプラグイン自動車の電池が供給できるパワーを15kWとして乗用車全部がプラグイン自動車になった場合の全供給電力を計算したもの。日本も他の主要国と同様に自動車が持つパワーは全発電電力(GW=100万kWの単位)の7倍程度以上の大きさになっている。

自動車の消費電力の大きさが全発電量(kWh)の数%(図表3)であるのに対し、自動車の供給可能なパワーは全発電電力の数倍あり、平均的に1日23時間は駐車中の自動車のこの大きなパワーを電力系統へのサービスに利用する価値は大きい。


5.自動車による電力サービス

Slide5自動車による電力のサービスには、図表5のように停電などの非常時の電力供給サービスと定常的な電力融通サービスがある。このようなサービスを、自動車から電力を出すという意味で「Vehicle-to-(供給先)」と呼び、略して「V2H」(Home、家)、「V2B」(Building、ビル)、「V2G」(Grid、電力網)、「V2L」(Load、負荷)、「V2X」(総称)などと表記する。

非常時の電力供給が短時間(数十時間以内)の場合はBEVを利用できるが、長時間(数日間以上)の場合は電池の保有電力に限度があるために燃料タンク(ガソリン、水素)を有するHEV、PHEV、FCVなどを利用する。

定常的なサービスは系統の電力変動を抑制する目的が主であり、この場合の電力融通はパワー(kW)は大きいが短時間で双方向(アップ・ダウン)になり電池の充電率(SOC)の変動は小さい。

自動車・電力系統の連系エネルギーシステムにおける広範な電力サービスの必要性を想定すると、PHEVは最適の車種と考えられる。


6.自動車と系統との接続

Slide6プラグイン自動車は、図表6のように時間・場所・機会(TPO)に適した方法で充電される。充電インフラは、①車の定置場所での普通充電(AC 100V、200V)、②走行の目的地における普通充電または急速充電(DC)、および③走行の経由地における急速充電から構成される。

車の定置場所(普通は家)の次に勤務先における充電がBEVの航続距離延伸やPHEVの電力走行割合の増加に効果があるので、米国では官民で勤務先充電設置のキャンペーンが進められている。

Slide7勤務先に充電設備があるとプラグイン自動車の系統との接続時間が増加するので、充電の機会・時間の増加とともに自動車の電力サービスに利用可能な時間も増加する。図表7は米国の自動車の走行統計から推定した自動車の系統接続率(ある時間に系統に接続されている車の全体に対する割合)の時間変化を示したもので、家での充電に加えて勤務先充電があると系統接続率の最低値が63%から83%に20ポイント向上することが示されている。Evsenaming1


世界の充電コネクター

下の写真は、米国のコンサルタント機関EVI(Electric Vehicle Institute)が作成した世界の充電用プラグとコネクターを一覧できるポスター。このポスターのPDFファイルはここからダウンロードできる。(2015.01.05追記)
Eviconnectors


7,通信制御・双方向電力流通パワーエレクトロニクス

Slide8車載のパワーエレクトロニクスに双方向電力流通機能を持たせ、プラグイン自動車が駐車して系統と接続している間は系統側からの通信による指令を受けて充電/放電をさせることにより、自動車と電力系統の連系が容易になる。

米国のAC Propulsion社はこのような機能を持ったパワーエレクトロニクス(図表8)を開発してきており、米国で進行中のV2Gの実証試験では実際に使用されている。V2Gを本格的に行うためには、このような通信機能のある車載の双方向電力流通パワーエレクトロニクスをプラグイン自動車に装備する必要がある。

自動車と系統との双方向の電力流通には200V(米国では220~240V)の普通充電接続が適しており、電流は系統側が許す範囲で大きい方が効果が大きい。米国自動車技術会の充電規格SAE J1772のAC Level 2は最大80A(19.2kW)まで規定しており、米国の多くの充電設備が30A(6.6kW)対応となっているので、将来この容量でのV2Gが想定される。(日本の充電設備は現在15A・3kW対応なので、充電時間やV2G対応から問題がある)

8.自動車の電力サービスの対価

Slide9自由化された電力取引市場においては、電池からの早い応答の電力サービスに対してそのサービス価値に見合う対価が支払われる仕組みになっている。定常的サービスで最も価値が高いのは電力系統の周波数などを安定化する「アンシラリーサービス」へのV2Gである。

図表9は、米国の独立電力系統運用期間(ISO)におけるアンシラリーサービスの取引価格の実績例で、早い応答の周波数制御へのサービスが最も高価となっている。これらの価格は電力量ではなく接続している時間に対して支払われる値である。

Slide10このような自動車の電力サービスへの対価によって、自動車オーナーは自動車保有の総費用(Total Cost of Ownership、TCO)を削減することが可能となる。図表10は各種自動車の購入費用とエネルギー費用の総額の比較イメージで、V2G可能なPHEVの購入費用は最も高いがガソリンや電気などの出費よりもV2Gサービスで受け取る対価が大きくなり、図に示すように車の使用に伴い総費用が低下する傾向が想定される。

9,自動車の電力サービスによる太陽光発電の安定化

Slide11日本の計画の2020年~2030年の太陽光発電導入量2800万kW~5300万kWに対し,その7割の2000万kW~3700万kWの変動が想定されており、系統安定化のためのピーク電力用発電設備が必要とされている。これに対して,プラグイン自動車の導入予想からV2Gによる安定化効果を評価すると図表11のようV2Gによる太陽光発電変動の調整が可能なことが判る。

B.  双方向電力流通サービスが成功するための7つの要件

前節で述べた双方向電力流通サービスに関わる基本的事項から、このサービスが実用として成功するための7つの要件を挙げて、以下に示す。

1. V2Xのそれぞれの目的に適ったタイプの電動自動車を使用すること

V2Xに適した車種は、電動自動車の中でも系統から充電が可能なタイプの自動車(プラグイン自動車、Plug-in Electric Vehicle、略称PEV)でプラグイン・ハイブリッド車と電気自動車の2型式である。その中でも電欠・航続距離不安がないプラグインハイブリッド車はV2Xにおける制約が少ないので最も汎用的に使うことができる。

2. 自動車電池が保有するエネルギー(kWh)を供給・利用するよりも、電池が供給可能なパワー(kW)の利用を主にすること

電力系統から見た時の自動車電池の特長は、保有するエネルギー(kWh)よりも供給できる高応答速度のパワー(kW)にあり、このパワー(kW)を電力系統で利用する時はその価値は高い。

3. 勤務先における200V普通充電のインフラを整備し、双方向流通の電力を可能な限り大きくすること

自動車と系統が接続(プラグイン)している時間は、平均的に定置場所である家の次に勤務先が長い。また、双方向流通の電力は大きい方が効果的なので、欧米並みの200V・30A・6kW級が望ましい。

4. 車載のインバーター/パワーエレクトロニクスに充電・放電の双方向電力流通機能を持たせ、流通先からの指令に従ってV2X可能な構造にすること

現行の多くの車載のインバーター/パワーエレクトロニクスでは、別途充放電可能なパワーコントロールユニットが必要なためV2X実用にはコスト・運用上の制約が多い。米国のV2G実証試験で使用しているような車載の通信指令によって作動する双方向充放電可能なパワーエレクトロニクス・ユニットが望ましい。

5. 自動車・電力系統を統合してV2Gを運用する場合は、自動車と電力系統を統合して運用する技術・制度および自動車から系統への電力サービスの対価の清算・支払の方式・制度などを確立すること

自動車・電力系統間の双方向電力流通による統合運用の方式・制度は、電力の発電・送電・配電の制度に含めて公共政策として確立する必要がある。例えば、自由化された電力市場のアンシラリーサービスにおいて、電池のような高応答速度の電力サービスに対してその価値に見合った価格が設定される仕組みなど。

6. 太陽光・風力発電などの変動安定化にもV2Gを利用する仕組みをつくること

太陽光発電や風力発電は天候の変化によって定格出力の相当な割合の変動が想定されており、系統安定化のためにこの変動分を他の発電設備から補うなどの調整が必要であり、自動車電池もその役割を担うことが期待されている。これについてもアンシラリーサービスの場合と同様に利用する仕組みをつくる必要がある。

7. 自動車と電力系統を連系・統合したトータルシステムとしてのグランドデザインから実証までの開発を関連業界が共同して実施すること

米国では数年前からV2Gの試験・実証が大学・電力会社・系統運用機関(ISO)が共同して実際の電力系統と電動自動車を使用して実施されている。また、最近は米国の電力会社・系統運用機関15社と自動車メーカー8社の共同による電力系統からの指令による充電制御の実証も始まっている。このような、電力会社・系統運用機関・自動車メーカーなどの関連業界が共同して自動車と電力系統を連系・統合したトータルシステムとしてグランドデザインから実証までの開発を実施していくことが必要である。

参考 本稿に関連する資料へのリンク

プラグイン自動車・電力系統間の双方向電力流通システム-そのコンセプトと効果
勤務先充電の重要性と米DOE・EDTAのチャレンジ
米国自動車技術会の新しい充電規格、コンボコネクターとは
自動車―電力系統のインタラクション ? 自動車が系統に接続される割合は?
エネルギー・環境対応型自動車の分類・呼称・略称
自動車から電力系統への電力融通(V2G)
電気自動車導入による電力需要増加
電気新聞で対談 「プラグインハイブリッド車を展望」

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プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- BMW i3 REx に見る日本・EU・米国の差 -- 652km/Lと166km/Lと37.4km/L

Mediagallery_3「ZEVの新カテゴリー"BEVx"とは?」のページで紹介したように、カリフォルニア州のゼロエミッションビークル「ZEV」の新しいカテゴリーの「BEVx」を目指して開発されたレンジエクステンダーのBMW i3 RExは、PHEVとしては異例に長い電力走行距離(CDレンジ)のため、日本、EU、米国の各国が定めたプラグインハイブリッド車の燃料消費率には非常に高い値を示すものがあり、また国による差異も相当に大きい。以下、この辺の事情を探ってみる。(写真出所

日本におけるPHEV燃料消費率の比較

Jc08phevfc例えば、日本の国土交通省が2009年7月に決めた「プラグインハイブリッド自動車の燃費算定等に関する実施要領」に従ってBMW i3 RExの「プラグインハイブリッド燃料消費率」を計算すると実に652km/Lとなり、プリウスPHVの61.1km/LやアウトランダーPHEVの67.0km/Lより桁違いに高い非現実的な値になる。(右表) BMW i3 RExのカタログにはこの「プラグインハイブリッド燃料消費率」の値は掲載されていない。なお、2009年の国土交通省PHEV燃費算定に関する参考ページはここ

日本・EU・米国のPHEV燃料消費率の比較

では、米国やEUでのBMW i3 REx のPHEV燃料消費率はどのくらいか? 

日本・EU・米国では、自動車の燃料消費率を試験するモード・手順(JC08、NEDC、SFTPなど)が異なり、また電力走行(CDレンジ)の電費とハイブリッド走行(CSレンジ)の燃費からPHEV燃料消費率を算出する際のユーティリティファクター(UF)の定義、さらに電力/ガソリンのエネルギー加算の考え方も異なっている。

それ故これらから算出されるPHEV燃料消費率の値に違いがあっても当然であるが、日本・EU・米国のそれぞれの試験モード、ユーティリティファクター、エネルギー加算方法によるBMW i3 REx のPHEV燃料消費率の値を同じkm/Lの単位に換算して比較してみると、日本は652km/L、EUは166km/L、米国は37.4km/Lとやはり大きな違いが出ている。(下の左の表)

ここで使用した各国のモード燃費からPHEV燃料消費率を算出する式を分類して示すと(下の右の表)、日・EUが「PHEV燃料消費率1」、米が「PHEV燃料消費率2」となる。なお、筆者が自動車技術会に提案した方法は「PHEV燃料消費率3」である。詳しくは資料(12)またはこれらで引用している各国の資料を参照されたい。なお、日本は2014年に国土交通省が「プラグインハイブリッド燃料消費率」の表示の見直しを行うとしている。(12

PhevfcjapanuseuVariouscalculationmethodphev1

PHEV燃料消費率に差が出る理由

Mileagediscrepancyjama3この日本・EU・米国のBMW i3 RExのPHEV燃料消費率の652km/Lと166km/Lと37.4km/L
の差は次の理由によると考えられる。
 ① 燃費試験のモードの違い
 ② ユーティリティファクター(UF)の値の違い
 ③ 電費と燃費からPHEV燃料消費率を算出する方法の違い

① 燃費試験のモードの違い

日本自動車工業会のレポートによると、モード燃費と実燃費(ユーザーが実際に走行した場合の燃費)の乖離の程度を、ユーザーの実燃費調査データをもとに

「モード燃費到達率」=実燃費/カタログモード燃費

として整理して回帰式を求めると、日本とEUでは右の図のようになる。これから、モード燃費が30km/Lあたりの実燃費は平均的にEUで約2割、日本で約3割低くなっている。

米国(EPA)では2008年の試験方法の改訂以降、全米平均のリアルワールド(現実的)運転条件と相関したテスト条件を設定(資料)しているので、個々の値は別として全体としては乖離がほぼ解消されてきている。(右の図に「モード燃費到達率」 y=1 として参考記入)

以上から、モード燃費からの乖離の大きさは、平均的に 日本>EU>米国 と言える。なお、BMW i3 RExの日・EU・米の電費[km/kWh]は日本 9.34、EU 7.41、米国 5.6、燃費[km/L]は日本 27.4、EU 21.4、米国 16.6なので、乖離の大きさと同じ順になっている。

② ユーティリティファクター(UF)の値の違い

Ufforjapaneuus4「フォルクスワーゲンがPHEVで"猛攻撃"、EUのCO2排出規制とパワートレインの方向」のページの解説にあるように、PHEVの全走行距離に対する電力走行の割合であるユーティリティファクター(UF)の日・EU・米の値は左の図のようになっている。

BMW i3 RExの外部電力による走行距離(CDレンジ)からUFを求めると、日本(0.958)>EU(0.872)>米国(0.834) となる。日本・EUの場合、PHEV燃料消費率は、1/(1-UF) に比例するのでUFの数値から、日本>>EU となる。

③ 電費と燃費からPHEV燃料消費率を算出する方法の違い

日本とEUのPHEV燃料消費率の算出は、消費した外部充電電力量を無視して、消費したガソリン量のみで全走行距離を除す方法(上の「PHEV燃料消費率の計算方法」の表の「PHEV燃料消費率1」)を用いている。

一方、米国のPHEV燃料消費率の算出は、消費電力量を熱量で等価のガソリン量に換算してこれを消費ガソリン量に加えて、全走行距離を除す方法(上の「PHEV燃料消費率の計算方法」の表の「PHEV燃料消費率2」)を用いている。

電費と燃費からPHEV燃料消費率を算出する方法による違いは、UFが大きい領域では、日本=EU>米国 となる。

なお、米国の方法でも、動力として使用する電力を熱として低く評価しているため、消費するエネルギーを低く評価することになるのでPHEV燃料消費率は高く出る。BMW i3 RExではUFが大きいので、VoltやPrius PHVなど他のPHEVより格段に良いPHEV燃料消費率(Combinedで88 MPG)が算出されている。(下のEPAデータ表のPHEVの部分の抜粋)

米国ではこの方法を電気自動車(BEV)の燃料消費率の表示にも使用しており、BEVやPHEVの燃料消費率をガソリンのMPG(Miles Per Gallon)で表示する時はエネルギー転換・熱力学に関わるエネルギー等価性から想定されるより高め(良い燃費)の値が出ることになる。これに対し、上の「PHEV燃料消費率の計算方法」の表の「PHEV燃料消費率3」は、エネルギー等価性にもとづくより適切な評価値を与えるものと考えている。

Epa_datafile_phev

以上、①、②、③の理由により、日・EU・米のPHEV燃料消費率の値は 日本>>EU>>米国 になっていると考える。

世界調和のPHEV燃料消費率への動き

世界調和のBEV/PHEV/HEVの燃料消費率に関する国際的な検討の場として、国連の「自動車基準調和世界フォーラム」(World Forum for Harmonization of Vehicle Regulations)の一環として、「小型車の世界共通排出ガス試験法」(Worldwide harmonized Light-duty Test Procedure, WLTP)ワーキンググループおよびその中のEV(E-Lab)サブグループや「電気自動車・環境」(Electric Vehicles and the Environment, EVE )ワーキンググループなどが検討作業をしている。

これらのワーキンググループでは、BEV/PHEV/HEVの標準試験法や規制リファレンスガイドなどのとりまとめ・提案を行なっており、この中で「世界調和ユーティリティファクター」(Global Harmonized Utility Factor)についても統計データをまとめる方法論などの議論を行なっている。世界調和ユーティリティファクターの作成を本格的に行うには、自動車のドライビングパターンの統計データ収集作業など相当大掛かりなものになりそうである。

追記: 世界調和ユーティリティファクターに関するより新しい状況については、「WLTPにおけるPHEV燃料消費率のためのユーティリティファクターの検討」の項を参照されたい。

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フォルクスワーゲンがPHEVで"猛攻撃"、EUのCO2排出規制とパワートレインの方向

Future_mobility_volkswagen_p27s

VWはe-mobility戦略でPHEV(プラグインハイブリッド車)に注力

Forbes_cover050613s上のビューグラフは、フォルクスワーゲン・グループの将来技術部門のProf. Dr. Wolfgang Steigerによる講演資料の1枚で、2014年7月4日ロンドンで開催された「バークレイズ将来パワートレインシンポジウム」でプレゼンテーションされたもの。「将来の自動車交通—VWグループの持続可能なソリューション」(Future Mobility -- Volkswagen Group’s Solutions for Sustainable Mobility)と題する全31ページのPDFファイルはここからダウンロードできる。

VWグループは、自動車電動化e-mobilityに関して明快なビジョンを描いており、当面はPHEVやBEVの積極導入を進め、FCV(燃料電池車)については以前から研究開発を進めてきたが導入は2020年以降の問題と冷静に割り切っている。FCVに関するVWの方針やWinterkorn CEOの見解などは本ブログの『自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社』の中で触れている。

上のビューグラフのPHEVの導入計画を見ると、Prius PHVとVoltでPHEVを先導してきたトヨタとGMのお株を奪っており、まさにInside EVsサイトの見出し「VWがPHEVで猛攻撃を計画」(VW Group Plans PHEV Onslaught)という表現がぴったり。

2013年5月6日号のForbes誌の表紙にはVW社のWinterkorn CEOの写真と「GMとトヨタよ、ご用心—VWは間もなく地上最大の自動車メーカーになる」とあるが、果たしてVWのe-mobility戦略の先行きは?

CO2排出規制でメルセデスもPHEV路線へ

Mercedes_benz_s500_phev_010711450x2このPHEV化の方針はメルセデス・ベンツも同様である。2014年5月のMercedes Benz Cクラス・エステートの発表会における開発部門トップのThomas Weberの発言によると、メルセデスではこれまでBクラスやSmartForTwoなどの電気自動車を出してきたが、これからは2020年に向かって大型の車はプラグインハイブリッド技術に絞って開発し、そのためにモデュラーアーキテクチャであるMRA(Mercedes Rear-wheel Architecture)を活用していくとしている。

EUのCO2排出規制とパワートレインの方向

Euco2このようなPHEV化の方向は、欧州で2020年からフェースインする95gCO2/kmの排出規制が推進源になっている。先のVW社Wolfgang SteigerのCO2排出に関するプレゼン資料(右図)は、2020年からの規制に向かってこれまでの各種駆動技術の改良では不十分で、プラグインによる系統電力の利用と従来燃料による航続距離確保を併用するパワートレインへの変更の必要性を示している。

EUの乗用車排出ガス・燃費規制のECE R101 rev 3によると、PHEVのCO2排出量は下の式により計算される。

 M = (De x M1 + Dav x M2) / (De + Dav)

ここで
  M = PHEVの1km当たりのCO2排出グラム数[g/km]
  M1 = 充電電力走行(Charge Depleting, CD走行)時の1km当たりのCO2排出グラム数[g/km]、規定では充電する電力のCO2排出はゼロとしているのでM1=0
  M2 = 充電電力使用後のハイブリッド走行(Charge Sustaining, CS走行)時の1km当たりのCO2排出グラム数[g/km]
  De = Annex9規定の手順による充電電力走行(Charge Depleting, CD走行)の距離
  Dav = 再充電までに燃料で走行する距離、規定により25km固定にしているのでDav=25

上の式から

 M = M2 x Dav/(De + Dav) = M2 x 25/(De+25)

PHEVによるCO2の削減係数(Reduction Factor)をFとしてM=M2/Fで表す場合は上の式から

 F = (De+ Dav) / Dav = (De+25)/25

EUの規定によるハイブリッド車Priusとプラグインハイブリッド車Prius PHV(De = 25 km)のCO2排出量は、其々89 gCO2/kmと49 gCO2/kmになっており、PHEVはHEVよりCO2排出量が45%削減されている。

MercedesphevこのEUの規定によりMercedes Benz S500のエンジン車とプラグインハイブリッド車のCO2排出量を比較すると左の表のように、充電電力走行距離30kmのS500 PHEVの削減係数はF=(25+30)/25=2.2、CO2排出量は69 gCO2/kmとなり、エンジン車の210 gCO2/kmの55%減になる。

このように.EUの2020年以降のCO2排出基準に適合するためには、上に説明したECE R101のCO2算出規定に則ったPHEV化が最も手っ取り早い方法でCO2削減に要するコストも低く、フォルクスワーゲンやメルセデスがPHEV化を積極的に進めている大きな理由と言える。(参考資料12

EUのECE R101規定では、充電する電力によるCO2排出(M1)はゼロとしているので、PHEV化の効果が大き目に計算される。実際には、その国・地域の電源構成によって異なるが、系統電力は一次エネルギーから発電・送電を経て電池への充電に至る経路でCO2を排出しているので、M1に電力のCO2排出相当値を入れてPHEVの電力+燃料による全CO2排出量を計算する方が排出規制の意図に合っている。とくに大容量の電池を搭載して充電電力走行距離が長いPHEVの場合には、このような計算は必須と考えている。

以上延べたCO2排出評価の具体的計算方法の問題は別として、総論として、現在各国とも再生可能エネルギーや原子力による発電を増加させ発電のCO2排出を削減する努力をしており、自動車のPHEV化の方向は脱石油・脱化石燃料・CO2排出削減へ繋がる最も現実的で効果のある方法と考えている。

付記1: EUにおけるPHEVのCO2排出量・燃料消費率計算の考え方について

上で説明したようにEUのECE R101 rev3によるPHEVのCO2排出量M(g/km)は下式で定義されている。

 M = (De x M1 + Dav x M2) / (De + Dav)

ここでM1は外部充電電力による電力(CD)走行時のCO2排出量、M2は燃料によるハイブリッド(CS)走行時のCO2排出量、Deは外部電力充電より走行距離、DavはCD走行を終えた後のCS走行の距離で25kmの固定としている。

同じ考えでPHEVの100km走行当たりのリッター単位の燃料消費率C(l/100km)は下式で定義されている。

 C = (De x C1 + Dav x C2) / (De + Dav)

ここでC1はCD走行時の100km当たりの消費燃料量、C2は燃料によるCS走行時の100km当たりの消費燃料量、DeとDavは上と同じ。

EUでは外部充電に使用する電力のCO2排出とエネルギー消費を無視するのでC1とM1はゼロで、再充電までに燃料で走行する距離Davは25km固定としている。

このEUのDe+Dav(25km固定)の意味について、以下考察する。

◎ Dav=25km固定とは、外部充電した電池の電力を使い切った後は燃料(ガソリン、ディーゼル)を使用してハイブリッド走行するが、この距離は外部充電電力による走行距離(すなわち電池の大きさ)に関係なく25kmと仮定してCO2排出量および燃料消費率を計算することである。

◎ 日本・国土交通省(MLIT)の2009年のPHEV燃費算定実施容量(解説・リンク)および米国・環境保護庁(EPA)の2010年PHEV燃費算定ルール(解説・リンク)では、何れも自動車の1日当たりの走行距離分布の統計値から求めた平均的なユーティリティファクター(全走行距離に占める電力走行距離の割合で外部充電電力による走行距離の関数、Utility Factor、UF)を使用することになっている。

Ufforjapaneuus4◎ EUのDe+Dav(25km固定)の評価方法をユーティリティファクターUFで表してみると、UFは外部電力走行距離を全走行距離で除した値なのでUF=De/(De+Dav)となる。このEUのDav=25km固定の場合のUF値を日本(MLIT)と米国(EPA)の燃費などの審査に使用しているUF値と比較してみると、右の図のようになる。

◎ EUのUF=De/(De+Dav)の値を日・米のユーティリティファクターUFと比較すると、EUのUFの曲線は日本と米国のUFの曲線より勾配がやや緩やかで、日本と米国の線を縫うように上昇している。すなわち、外部電力走行距離が~70kmの領域では日本に近く、70~160kmでは米国に近いと言える。外部電力走行距離(De、CD距離)が160kmよりもさらに大きくなると、EUのUFは日・米より低くなり電力走行距離割合が少なく評価されることになる。

◎ 以上から、EUのDav=25km固定による方法は、自動車の走行パターンから求めた平均的なユーティリティファクターが定義し難い場合などは、簡単な計算でPHEVの効果を近似的に算出できる便宜的な方法と言える。大容量の電池を搭載して外部電力走行距離(De、CD距離)が長いPHEVの場合にはより確度の高い方法を使用すべきと考える。

◎ PHEVの燃料消費率とCO2排出量の算出に際して、外部電力走行(CD走行)のレンジにおけるエネルギー消費量とCO2排出量をゼロとする定義式は日本とEUで使用しており、大容量の電池を搭載してCD距離が長い場合にはPHEVのエネルギー消費量(距離当たりのエネルギー消費量)とCO2排出量を過小に評価することになるので何らかの対応(参考)が必要になってくると考える。

注) 世界共通の自動車排出ガス・燃費などの試験法作成活動WLTP(Worldwide harmonized Light-duty Test Procedure)の場でもUFについて議論が行われており、上の図と似た形の日・米・EUのUFの比較図が示されている。参考の資料に引用しているこのWLTPによるUFの比較図は横軸のスケールが示されておらず、また表示されている米国のUF曲線は現在EPAが使用しているSAEの「MDIUF」ではなく以前の「FUF」による値と思われる。米国のUFについては、上記参考資料やここを参照されたい。

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プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- ユーティリティファクタ,電力・ガソリン等価合成の考え方

JidoushgijutsucoverJidoushagijutsumokuji22006年以来、自動車やエネルギー関係の雑誌や自動車技術会の年会・論文集に発表し、このサイトでも解説してきた、「プラグインハイブリッド車の燃料消費率」やそれに関連した「ユーティリティファクター」や「電力とガソリンのエネルギー等価合成」に関する調査・研究結果や関連する話題をまとめて、この度自動車技術会の会誌「自動車技術」の2014年7月号に掲載しました。

「自動車技術」7月号は「進化する環境対応車の計測技術」を特集しており、私が執筆した「プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- ユーティリティファクタ,電力・ガソリン等価合成の考え方」と題する7ページの記事はその一つ。

私の執筆記事はここからダウンロードできます。

Jidoushagijutsuabstract

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ZEVの新カテゴリー「BEVx」とは? 小型エンジンと9リッター燃料タンク  BMW i3 RExとマツダ・デミオ・RE

小型エンジンと9リッター燃料タンクのシリーズ型PHEV

BMW i3 REx

Bmwi3outside「BMW i3」は2010年にMega City Vehicle(MCV)としてコンセプトが発表された5ドアの都市型電気自動車で、その特異なスタイルとともに軽量のアルミニウム・シャーシーとCFRP(炭素繊維強化プラスチック)ボディ、強力な167bhp・25.4kg-mモーターの駆動パワーなどの特徴を有している。この市販バージョンが2013年7月に公開された。

BMW i3には、純粋の電気自動車(電池電気自動車、BEV)バージョンと航続距離延長のための小型ガソリンエンジンと9リッターの燃料タンクを装備したプラグインハイブリッド車(シリーズ型PHEV、レンジエクステンダー、REx)のバージョンがある。

このi3 RExバージョンは2輪車で使われている2気筒647cc・36bhpの小型エンジン(左のイラスト)をモーターなどの電動駆動系と一体に装荷している(中央の写真の左側)。電気自動車i3 BEVバージョンではこのエンジンのスペースが空いていてステーだけが見える(右の写真)。BEVバージョンとRExバージョンをできるだけ共通の配置・部品構成になるように計画的に設計・開発してきたことが判る。

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マツダ・デミオ・REレンジエクステンダー

Mazdarexoutsideマツダ・デミオEVはこれまで電気自動車としてリース販売されてきたが、これに航続距離延長のための小型ロータリーエンジンを搭載した「マツダ・デミオ・REレンジエクステンダー」の試作車が2013年12月に報道関係者に公開された。

デミオ・REも、シングルローター330cc・22kW(29.5bhp)の小型エンジンと9リッターの小容量燃料タンクを装備している点ではBMW i3 RExと同様であるが、デミオREではモーターなどの電動パワートレインは前部コンパートメントに置き、レンジエクステンダーエンジンと燃料タンクは後部のトランクの下に置いている。下の写真左はコンパクトに纏まったエンジンと燃料タンクのアセンブリで下の鏡でこの下部が見えるようにした模型、これを後部のトランクルーム(写真右)の下に置いている。

Demioreengine2..Demioretrunk2

従来型と新型のRExの違い、何故ガソリンタンクが9リッター?

この2車種のエンジンと燃料タンクはこれまでのレンジエクステンダーエンジン付きシリーズ型PHEVとは設計コンセプトが全く異なっている。

Chevy Voltやスズキ・スイフトのような従来型のレンジエクステンダーPHEVは外部充電電力による短距離のEV走行とガソリンによる長距離のハイブリッド走行の両方が可能なように設計されている。

一方、BMW i3 RExやマツダ・レミオ・REは、外部充電電力によって中距離をEV走行する電気自動車(BEV)であって、走行に際してドライバーの「航続距離不安」をなくすとともに実際に電池充電率が限度まで低下して電欠状態になった場合のためにガソリンエンジンからの電力で充電可能な場所まで走行可能なように設計されている。

下表の従来型と新型のレンジエクステンダーの電池容量と燃料タンク容量を比較を見ると、とくに燃料タンクの容量が大きく異なっており、新型のガソリン量が格段に少ないことが判る。

従来型REx  Chevy Volt    電池容量 16kWh   燃料タンク容量 35.2L
従来型REx  スズキ・スイフト  電池容量 2.66kWh  燃料タンク容量 43L
新型REx    BMW i3 REx    電池容量 22kWh   燃料タンク容量 9L
新型REx   マツダ・レミオ   電池容量 20kWh   燃料タンク容量 9L

このようなレンジエクステンダー走行は、自動車機能の一つである「リンプホームモード」」と似た考え方と言える。「limp-home」とは「家にたどり着く」の意味から、故障車を部品の損傷を抑えつつ低速走行で自宅や整備工場などに安全にたどり着けるようにする自動車のフェイルセーフモード/装備機能の一つである。レンジエクステンダー機能を万一の電欠時に充電場所まで走行するためのリンプホーム機能と考えるならば、小型のエンジンと9リッターのガソリンタンクは十分な出力/容量と言える。

カリフォルニア州のゼロ排出車の新カテゴリー「BEVx」

CARBの新しい規制パッケージ「先進クリーン自動車」

Carb_logo2012年1月、カリフォルニア州大気資源局(California Air Resources Board、略称CARB、カーブ)が「先進クリーン自動車」(Advanced Clean Car、略称ACC)プログラムという2018年~2025年車に適用される新しい規制パッケージの採用を決定した。

Carbacc_2この先進クリーン自動車プログラムを構成する主要な3つの規制パッケージの一つが「ゼロ排出自動車」(Zero Emission Vehicle、略称ZEV)で、この中に新しい規制目的の自動車カテゴリーの「BEVx」を設定した。

この「BEVx」は"BEV (battery-electric vehicle) with a small 'limp-home' range extending engine or APU (auxiliary power unit) -- i.e., not a series-hybrid type vehicle equipped with a full-capability engine"、すなわちリンプホーム機能の小型レンジエクステンダーエンジン(CARBの呼称はAuxiliary Power Unit、略称APU)付き電気自動車(BEV)のことで、シボレー・ボルトのような本格機能エンジン付きの従来のシリーズ型PHEVとは異なったカテゴリーとなる。

先進クリーン自動車規制の元では、BEVxはBEVと同じ基準でゼロ排出マイルに基づくクレジットを得ることができ、要求される純BEVの中の50%までをこのBEVxにすることが可能である。

なお、2018年からZEV規制の対象は大量販売メーカー(LVM, Large Volume Manufacturer, カリフォルニア州で年6万台以上販売するメーカー、GM、Ford、Chrysler, トヨタ、日産、ホンダの6社)から中量販売メーカー(IVM, Intermediate Volume Manufacturer, カリフォルニア州で年4.5千台~6万台販売するメーカー、Volkswagen、BMW、Mercedes-Benz、マツダ、富士重工、Hyundai、・・・)まで拡大する。

新カテゴリーBEVxの考え方

Carbmeetingカリフォルニア州大気資源局(CARB)がACC規制パッケージについて説明した資料の中でBEVxの考え方を知る上で次の二つのレポートが参考になる。

① CARBのACCに関する初期趣意書(ISOR
California Air Resources Board
“STAFF REPORT: INITIAL STATEMENT OF REASONS -- Advanced Clean Cars -- 2012 Proposed Amendments to the California Zero Emission Vehicle Program Regulations” (December 7, 2011)

② CARBのACCに関する最終趣意書(FSOR
California Air Resources Board
“FINAL STATEMENT OF REASONS FOR RULEMAKING -- Including Summary of Comments and Agency Responses -- 2012 Amendments to the Zero Emission Vehicle Regulations -- Public Hearing Date: (January 26 and 27, 2012)

上記ISORとFSORの記述からBEVxに関わる話題を以下ピックアップする。

● CARBに対して複数のメーカーからZEVの中にBEVxのようなレンジエクステンダーの新カテゴリーを設けるよう提案があった、という記述がISORの中にある。ニュース記事(12)には、ACC規制パッケージに関するパブリックヒアリングにおけるCARBのスタッフと委員のコメントの中にBMW社がこの種のクラス分けに特別に興味を示したという記述があり、またBMWのほかにクライスラー社とフォルクスワーゲン社がBEVxカテゴリーの新設を支持したという記述もあり、BEVxのアイディアは一部のメーカーにより提案され支持されたことが判る。

● メーカーの提案として、BEVxは限定された走行距離の延長が可能な小型エンジンのAPUを装備しているが主に外部充電によるEV走行を行う自動車で、PHEVよりもBEVに近く、APU運転モードでは充電場所までの走行が出来る程度に性能が削減される、との記述がある。

● しかし、ISORの中にあった「要求ではないが、レンジエクステンダーのAPUモード運転に際して速度制限などの性能限界を設けることをメーカーに期待する。バックアップAPUの意図は電池を充電するのではなく、車を充電場所まで走行させるためのCS(Charge Sustaining、ハイブリッド)モードで走行するためである。BEVxは改良された近隣運転能力(Regional driving capability)を求めるユーザーのためで、長距離運転に使用するためではない」という主旨の記述がFSORではなくなっている。

● CARBがBEVと同じEV走行距離のBEVxを規制上同等に扱うには理由があるとして、BEVでのドライブの場合に運転者は電池に残っている距離についてある程度控えめの想定をするが、BEVxの運転者は電池に残っている距離の全部あるいは殆ど全部を走行する想定ができる。それ故、これまで走行距離の関係でBEVの購入を考えてなかった運転者にBEVxはアピールすることができることになる、などの理由を挙げている。

BEVxの定義

Bevx3_2「BEVx」(Range-extended battery-electric vehicle)は「相対的に(外部充電)電力走行距離が長いAPU(レンジエクステンダーエンジン)付きの電気自動車」(A relatively high-electric range battery-electric vehicle (BEV) to which an APU is added)と定義されているが、FSORをもとにBEVxの主な要件を下記および右図にまとめる。正確にはCARBの関連資料を参照されたい。

1.外部充電による走行距離(CD距離)は75マイル(120.7km)以上とする(2012~2017年のBEVxの最低要求へ適合の場合)。このCD距離75マイルの値はISORにおける80マイル(128.7km)からの変更。
2.APU(レンジエクステンダーエンジン)による走行距離はCD距離以下とする。
3.APUは電池の充電電力が設定値まで低下(deplete)するまでは作動させない。
4.SULEV排ガス基準とエバポ排出ゼロ基準に適合すること。

BEVxの要件の「REx走行距離=<EV走行距離」の条件から、電力走行距離を75マイル・120kmとしてレンジエクステンダー走行距離も同じとすると、ガソリンタンク容量として2.4ガロン・9リッター辺りになると考えられてきた。(2014.4.25付けのBMW Blogによると、当局の要請によりガソリンタンク容量が1.9ガロン(7.2リッター)に減量)

この定義・仕様に合致したBEVx第1号がBMW i3 RExになるが、BMWがi3 RExの構想に基づきZEVの一つのカテゴリーとしてBEVxを提案し、それが規制に組み込まれてBMW i3 RExの導入に至る、自動車メーカーの積極的・能動的な姿勢とCARBのオープンで受容的な姿勢が、CARBの趣意書から読み取れる。

今後、CARBは、PHEVの新しいカテゴリーBEVxとPHEVの従来からのカテゴリーTZEV(Transitional ZEVの略、前のAT-PZEV、Chevy Volt、Toyata Prius PHVなど)の車の実際の使用データの提供をメーカーに要請するとしており、またCARB自身もこれらのPHEVとガソリンエンジン車など複数車を保有する家庭の使用状況を研究するとしているので、これらの実使用データの集積・分析が関連規制の評価・改良に繋がることが期待される。

BEVxのZEVクレジットのポイント

Zevcredituntil2017ZEVを販売した時に与えられる1台当たりのクレジット・ポイントは2012年から2017年まではZEV基準文書から抜粋した左の表の如く決められている。この中で、電池による航続距離(EPAにより定められた試験条件の”UDDS”による距離)が75マイル以上100マイル未満のBEVxはType1.5xに分類され、航続距離が100マイル以上のBEVxはTypeIIxに分類されて、それぞれ2.5ポイントと3ポイントが与えられる。なお、BEVxは2012年より前は定義されていなかったのでn/a(該当せず)と記されている。

Zevcreditafter20182018年以降はZEVのクレジット・ポイントの計算方法が変わり、CARBのZEV基準文書から抜粋した右の式にUDDS試験条件による航続距離を入れて計算することになる。式の注釈に書いてあるように航続距離が50マイル以下は0ポイント、航続距離350マイル以上は4ポイントで頭打ちとなる。

CARBの2017年以前のZEV基準の文書” ZERO-EMISSION VEHICLE STANDARDS FOR 2009 THROUGH 2017 MODEL YEAR PASSENGER CARS, LIGHT-DUTY TRUCKS, AND MEDIUM-DUTY VEHICLES”の最新のものはここで確認できる。

CARBの2018年以降のZEV基準の文書” ZERO-EMISSION VEHICLE STANDARDS FOR 2018 AND SUBSEQUENT MODEL YEAR PASSENGER CARS, LIGHT-DUTY TRUCKS, AND MEDIUM-DUTY VEHICLES”の最新のものはここで確認できる。

カリフォルニア州でのBMW i3 REx、BEVxかTZEVか?

2014_awards1BMW i3は2013年9月から量産が開始され欧州などでは11月から販売が始まっているが、好調な注文により2014年4月のBMWの発表では日産70台から100台への増産により初めの頃の想定の2倍の年2万台の生産ペースになっている。また、2014年4月のニューヨーク国際オートショーでは、BMW i3の基盤から新構築した設計、斬新なルート計画手法、環境に優しい構成材料などが評価されて、世界グリーンカー・オブ・ザ・イヤーと世界カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

上で引用したBMW Blogおよび2014.4.24付けの別のBMW Blogの記事から、米国カリフォルニア州でBEVxとして販売されるBMW i3 RExについては、燃料タンクの容量が2.4ガロンから1.9ガロンに減量のほか、エンジンは電池のSOCが6.5%以下まで低下した時に作動開始、RExエンジンは電池の充電には使用されず70MPH(113km/h、この速度の制限はソフトによる制限)までの巡航に十分なパワーがある、BMWの電池の保証(Warranty)は8年10万マイル(容量70%以上)だがCARB states(カリフォルニア州および同様な政策をとっている州)では10年15万マイル、電池は全体の交換を必要とせずモデュール交換が可能、など興味ある新しい情報が出ている。

Greenwhitehovstickers_2CARBのお膝元カリフォルニア州ではBEVxカテゴリー最初のBMW i3 RExへの関心は高いようだ。しかし、i3 REx がHOVレーン(規定人数以上が搭乗している車のみ走行可能な車線、ステッカーがあると一人乗車でも通行可)のステッカーの種類(BEVは白、従来のPHEVはグリーン)のどちらになるかで議論がありグリーンに決まると見られているが、グリーンステッカー(制限枚数4万枚)の残数が少なくなっている2014年3月時点でも未だ決定がなされていない。また州によるクリーン自動車補助金の額など本格販売が迫っている4月下旬まで未定となっていた。

HOVレーンのグリーンステッカーについては、4月28日に発表されたCARBのリストにBMW i3 RExが掲載され決定した。この時点で4万枚のステッカー残数が350枚程度になっていたが、カリフォルニア州議会がグリーンステッカー4.5万枚の追加発行(合計8.5万枚)の法案の審議を始めており、BMW i3 RExなどのPHEV新購入者はいずれステッカーの支給を受けられることになりそうである。

このCARBによるステッカーのリストにおけるBMW i3 RExの車種分類はChevy VoltやToyota Prius PHVと同じ「TZEV」になっており、これまでの話のようなZEVに準じる「BEVx」とはなっていない。これは現在手続き中のBMW i3 RExの仕様がCARBによるBEVxの下記条件を満たしていない(例えば、CD距離が75マイル以下、燃料タンク容量が大きいためにAPUによる走行距離がCD距離以上になる?)ためと想像される。
 1.CD距離は75マイル(120.7km)以上
 2.APUによる走行距離はCD距離以下
 3.APUは電池SOCが設定値以下で作動
 4.SULEV排ガス基準とエバポ排出ゼロ基準に適合

一方、BMW i3 RExの購入者が受け取れるカリフォルニア州のクリーン自動車リベートプログラム(CVRP)による補助額はBEV(電気自動車)などのZEVと同額の$2500に5月1日に決定した。事前の予想ではPHEVなどのTZEVが受け取れる$1500の補助と見られていた。これでBMW i3 RExの購入者は、連邦政府の$7500の税クレジットと合わせて$10,000の補助が受けられる。

上のような経緯を見ると、BEVxというTZEVとZEVの中間の新しいカテゴリーの車が導入されるまでに、クリーン自動車推進のカリフォルニア州(CARBなど)と新車種開拓の自動車メーカーのBMWとの間で多くの折衝や調整があったことが想像される。

なお、米国でのBMW i3 BEVは5月上旬納車開始、BMW i3 RExは5月下旬に納車開始

EPAの審査値:BMW i3 RExは「BEVx」の条件を満たせず

Bmwi3rexsticker_2 2014年5月下旬、BMW i3 RExのユーザーへの引き渡しが始まり、新車に掲示が義務づけられているウィンドウステッカー(左の写真)からEPAの燃費関連審査値が明らかになった。

ウィンドウステッカー記載のEPA燃費関連審査値から判断すると、BMW i3 RExは以下に示すようにCARBによる「BEVx」の条件を満たしていないことが判る。

① 外部充電によるEV走行距離(”All Electric Range”)は72マイルとなっており、「外部充電による走行距離(CD距離)は75マイル(120.7km)以上とする」の条件に合わない。
② 外部充電による走行距離にガソリンによる走行距離を足した全航続距離は150マイルと読めるのでガソリンによる走行距離は78マイルとなり、「APU(レンジエクステンダーエンジン)による走行距離はCD距離以下とする」の条件に合わない。

BMW社は、今回のBMW i3 RExのカリフォルニア州での発売に際してBEVxとしての登録を想定していたようだが、上記のようにBMW i3 RExは「BEVx」の条件を満たしていないために、VoltやPrius PHVなどのPHEVと同じ「TZEV」に分類されたと考えられる。2018年からのZEV規制に備えてBEVxを開発してきたBMWとしては、それまでにBEVxの条件に適うように仕様変更するものと考えられる。

Bmwi3epamlitdataBMW i3 RExのウィンドウステッカーに記載のデータからEPAの燃費関連審査値(CityとHighwayを加重平均した"Combined"「複合」データ)をkmおよびリッター単位に換算して右の表に示す。

この表には、レンジエクステンダーRExと並べて電気自動車BEVの値も示した。RExではBEVよりEV走行の電費が6%低くなっている。RExでは電池SOCが約6%まで低下してからエンジンが始動するために外部充電によるEV走行距離は電費の低下と合わせて約11%ほど短かい130kmになっている。

この表にはまた、BMW i3のRExとBEVの国土交通省によるJC08モードの審査値も示した。JC08モードでは、RExの電費低下は8%、外部充電によるEV走行距離は14%ほど短くなっている。なお、電池の容量はカタログより大きい22.4kWh、エンジン始動開始の電池SOCは6%となる。

JC08モード燃費とEPA複合燃費の値を比較すると、電費は1.67倍~1.72倍、燃費は1.65倍とJC08の電費・燃費はEPA複合の値よりも格段に良い値を示している。これは、EPAではユーザーの実際使用条件で達成可能な燃費を提示するための「調整」を行なっているため。EV走行に関する「0.7ファクター」のような「調整手順」についてはこのブログの「米国EPAのユーティリティファクターとPHEVテストデータ: メモ」のを参照されたい。

BMW i3 RExは「ほぼ電気自動車」、日本に向いたBEVxは?

Japanusuf2aBMW i3 REx のEPAによるEV走行距離72マイル(116km)から、米国の平均的ユーザーの電力走行割合は83.3%(左の図のSAEによる米国のMDIUFの値)となる。ZEVの新カテゴリー「BEVx」ではEV走行距離は75マイル(120.7km)以上が条件となっているのでBEVxの電力走行割合は84.2%以上となり、近距離走行を目的に購入される場合が多いBEVxで今後自宅での充電以外に勤務先など目的地での充電機会が増加していくことを考えると、実際の電力走行割合はさらに高くなり、「ほぼ電気自動車」と言えそうである。

日本でのBMW i3 RExでは、国土交通省審査値のEV走行距離196.1kmに相当するユーティリティファクター(UF)は0.958となり、これから「プラグインハイブリッド(複合)燃料消費率」を算出すると、27.4 [km/L] / (1-0.958)=652 [km/L]なので、実に652 km/Lという大きな値になる。国土交通省では、PHEVの「プラグインハイブリッド燃料消費率」表示の取り止めを決めたようで、日本のBMW i3 RExの仕様表にはこの燃費の項目は載っていない。

JC08モードの燃費は実用燃費との乖離が大きく、EPAの複合燃費が日本の実用燃費に近いので、BMW i3 REx のEPA複合のEV走行距離72マイル(116km)を用いて国土交通省規定のUFを求めると0.88となり、日本の実用燃費ベースでも電力走行割合88%の「ほぼ電気自動車」と言うことができる。

CARBによるBEVxの要件の75マイル(120.7km)のような長いEV走行距離になると、ユーティリティファクターの曲線から判るように電力走行割合の増分に対して電池容量の増分が大きくなるために費用(電池容量)に対する効果(電力走行割合)から考えて得策ではない。BEVxの特長を活かしたレンジエクステンダーを日本で導入するとしたら、UF=0.7~0.8辺りが一つの狙い目と考える。

例えば;
 電池容量:12 kWh(参考:BMW i3 22 kWh、LEAF 24 kWh、Outlander PHEV 12 kWh)
 EV走行消費電力量:11.28 kWh(SOC 6%の時にレンジエクステンダーエンジン始動)
 EV走行電費:6 km/kWh(想定実用電費)
 EV走行距離:68 km(11.28 kWh x 6 km/kWh)
 UF:0.73(国土交通省規定のUF曲線による、軽自動車の走行パターンではUFの図からUF=0.89)
 ハイブリッド燃費:17 km/L(想定実用燃費)
 燃料タンク容量:15 L(200km走行後のタンク残量約20%)
 エンジン:小型30 bhp程度(参考:BMW i3 REx 36bhp、マツダ・デミオ・REレンジエクステンダー 29.5 bhp)

このような仕様のBEVxならば、購入費用はそれほど高くなく、ガソリン消費量は大幅に減り(1/4程度)、エネルギー費用は安くなり、電欠などの航続距離不安がなく、通勤・買物などの近距離のほか中長距離ドライブに使用可能なので一家または一人1台持ちの場合にも適するなど、利点が多い。

注: 本稿は2014年4月上旬から6月上旬にかけてBMW i3 RExの米国への導入状況を中心に、BEVxに関わる進展をフォローして書き足してきた。今後、大きな進展があれば本稿への追記または別項として記載する予定である。

関連事項として「プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- BMW i3 REx に見る日本・EU・米国の差 -- 652km/Lと166km/Lと37.4km/L」をここに掲載した。(2014.09.09)

追記1:BMW i3 RExの このロードテストビデオは優れもの!!

BMW i3 REx について知りたかったら、この「Alex on Autos」のビデオは秀逸。

この車について知りたいことを全て、流れるような英語で説明する。英語が判らなくても、必要なポイントは画面に説明が出る。普通のロードテスト番組とは違い、密度の濃い29分20秒。
(2015.05.30)

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米国EPAのユーティリティファクターとPHEVテストデータ: メモ

EPAの燃費ラベル規則改定

Epafinalrule2011年7月に米国の環境保護庁(EPA)と運輸省(DOT)高速道路安全局(NHTSA)は、2012年以降販売される全ての新車(乗用車および小型トラック)に貼ることが義務付けられるウインドーステッカー(自動車燃料経済ラベル、Monroney sticker)に関する規則の改定を公布した。この規則改定は電気自動車やプラグインハイブリッド車などの系統電力を使用する車の本格普及に備えたもの。

EPAはこの規則の改定の1年前の2010年8月に規則改定案を提示して業界や消費者からのコメント・意見を募集し、それらを踏まえて上記の規則改定を行った。この規則改定案は電気自動車やプラグインハイブリッド車などの新型の車の燃費表示に関するEPAの提案とそれに至る外部を含めた検討の経緯・内容と改定の意図・内容も含めて、綿々と242ページに亘って説明したもの。これについては本ブログの「新車に貼るステッカーの案をEPAが発表、プラグインハイブリッド車用も。広く意見を募集中」の記事で紹介している。

EPAは、2011年7月の上記規則改定の公布に際して、規則改定案に対して提出されたコメント・意見とそれに対する応答・見解をまとめた369ページの「Response to Comments」を公表している。

規則改定案の作成経緯・意図・内容の説明から、それに対するコメント・意見を整理して公表、そして規則改定の決定公布まで、この種のルール決定におけるステークホルダーの意見を集約・反映する米国の丁寧なプロセスには感心させられる。

PHEVの燃費表示に関係するユーティリティファクター

Ufstatistical4_2[注: ユーティリティファクター、CDレンジ、CSレンジ、PHEV燃費などの基本的な事項については下記を参照されたい。
  「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領
  「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」]

公布された燃費表示の規則改定の中で、プラグインハイブリッド車(PHEV)の燃費に関係するユーティリティファクアー(UF)としては米国自動車技術会(SAE)が2010年9月に発行した規格SAE J2841で定義される値を使用することを決めている。

J2841では、従来から用いられてきたフリートUF(Fleet Utility Factor, FUF)とは別の個別UF(Individual Utility Factor, IUF)を定義している。従来からのFUFは車両の走行に関する統計データから

FUF={全車の系統電力による走行距離÷全車の系統電力とガソリンによる走行距離}
で求めていたが、IUFは
IUF={(各車の系統電力による走行距離÷各車の系統電力とガソリンによる走行距離)の全車平均}
を求める方法としている。

SAEとEPAの説明によると、FUFは集団の平均の燃料消費やCO2排出を推定するのに向いており、IUFは平均的なユーザーの燃料消費やCO2排出を推定するのに向いている。

この2つの統計処理方法により2001年の全米世帯旅行調査(NHTS)の自動車走行統計データからUFを求めると、右図に示すように新定義のIUF(多数日Multi-dayのデータを処理するので「MDIUF」と表記)の値は従来のFUF値よりUF=0.5近辺で15%程度高い値になっている。このことはUFの算出において適切な統計処理方法を用いることの重要性を示唆している。なお、J2841では1日のデータが主であるNHTSの統計データを「Commute Atlanta」(アトランタ市で実施された多数日の追跡調査)のデータで補完している。

Saej2841mdiufEPAのPHEV燃費計算で使用されるこのJ2841によるユーティリティファクターMDIUFを左図に示す。横軸のCDレンジ(Charge Depleting Range、系統電力で充電した電池による電力走行距離)は400マイルまでで、400マイル以上はUFは1.0となる。

EPAテストのデータファイルにおけるPHEV燃費部分

Epaufdata2EPAでは燃費テストの結果をデータファイルにまとめて公開しており、2014年データファイルに記載されているPHEVは次の7車。

◉ Cadillac ELR
◉ Chevy Volt
◉ Ford C-Max Energi Plug-in Hybrid FWD
◉ Ford Fusion Plug-in Hybrid FWD
◉ Honda Accord Plug-in Hybrid
◉ Porsche Panamera SE-Hybrid
◉ Toyota Prius Plug-in Hybrid

この7車のPHEVの燃費・CO2排出およびユーティリティファクターの部分を抜粋して右図に示す。この部分は自動車メーカーのPHEV計算スプレッドシート(表計算ファイル)からEPAが公開用に抜粋したもので、スプレッドシートそのものはメーカーの所有物のため公開されていない。

右図の「Charge Depleting Driving Range」の欄に都市Cityと高速道路Hwyとそれらを複合したCombinedのCDレンジの距離が出ており、SAE J2841によるCDレンジとMDIUFと関係から各距離に相当す るMDIUFを求め、これらの値が「Individual Utility Factor」の欄に示されている。

UFが決まると、CDレンジの電費とCSレンジ(Charge Sustaining Range、ハイブリッド走行レンジ)の燃費から、PHEV合成燃費とPHEV合成CO2排出量が算出され、それぞれ「PHEV Composite MPGe」、「PHEV Composite CO2」の欄に示されている。

なお、米国EPAが認定したPHEV用のウィンドウステッカーの現行デザインでは、CDレンジの電費を発熱量で等価のガソリン燃費(MPGe)とし てCSレンジの燃費(MPG)と並べて表示しているが,両レンジの燃費をUFで合成したPHEV合成燃費は示されていない。しかし,ラベルに記載されている年間燃料費用や5年間節約金額などの算出にはUFを用いて計算したPHEV合成燃費が用いられている。

ここで注意する必要があるのは、ウィンドウステッカー記載の数値はユーザーが実際の条件(Real World)で達成可能と考えられる数値をより正確に反映するための「調整手順」(Adjustment Procedure)を経たものであること。プラグインハイブリッド車では、SAE J1711(HEV・PHEVの排ガス・燃費測定の推奨方法)によるテストで得られたCDレンジの燃費や距離などには0.7を乗じ、CO2排出量は0.7で除したものを記載する。なお、CSレンジの調整手順は従来車と同じ。

この「0.7ファクター」は実際の条件であり得る積極的(aggressive)運転、エアコン作動、その他の因子を考慮したもので、電気自動車およびプラグインハイブリッド車のCDレンジに適用される。自動車メーカーがEPAの事前承認を得ればこれ以外の調整方法も可能であるが、大部分は「0.7ファクター」の調整手順を選んでいるようである。

Blendedモードでは「All Electric Range」より「等価All Electric Range」を

Priusphv_epa_labelEPA の2014年燃料経済データファイルに掲載されている7車種のPHEVの内、Cadillac ELRとChevy Voltはレンジエクステンダー型のシリーズPHEVだが、他の5車種はパラレル型PHEVなのでCDレンジにおいて要求出力が設定より大きい時はエンジンが作動する所謂Blendedモードになる。

5車種のパラレル型PHEVの内、EPAの試験条件でBlendedモードになったのはPrius Plug-in HybridとPorsche Panamera SEの2車種で、他の3車種はCDレンジにおいてエンジンが作動しないAll Electric(AE)モードであった。CDレンジにおけるガソリン消費率は、一番右の欄の「PHEV Charge Depleting Fuel Consumption」に示されており、ここがゼロになっている車はAEモード、数値が記載されている車はBlendedモードの車である。

現行のEPAの規則では、ウィンドウステッカーに「All Electric Range」の値を記載することになっており、シリーズ型PHEVではこの値はCDレンジと同じで、パラレル型PHEVでもCDレンジでエンジン作動がなければCDレンジと同じ値になるが、パラレル型PHEVでエンジンが作動して Blendedモードになった場合は「エンジンが作動した時点の走行距離x0.7」の値を「All Electric Range」として記載する。[左の写真はPrius Plug-in HybridのEPA燃費情報を記載したウィンドウステッカー] Prius Plug-in Hybridでは「All Electric Range = 6 miles」となっており、「0.7ファクター」を用いて逆算すると6/0.7=8.6マイル近辺でエンジンが作動したものと思われる。

筆者は、パラレル型PHEVの場合にCDレンジでエンジン作動までに走行した距離(表示数値はその0.7倍)である「All Electric Range」はテスト条件設定に依存する値なのでウィンドウステッカーに記載する意味は少なく、むしろCDレンジでエンジン作動があっても、エンジン駆動分を差し引いた充電電力のみで走行した距離を表す「Equivalent All Electric Range」(EAER等価EVレンジ、EV走行換算距離などとも呼ばれている)を記載した方がユーザーに示す情報として意味がある、と考えている。同様の意見は規則改定案に対して提出されたコメント・意見の中にも出ている。

上記Prius Plug-in Hybridの場合のEPAテスト結果(Combined)のCDレンジの燃費0.2ガロン/100マイルとCSレンジの燃費の2.0ガロン/100マイルから、Prius Plug-in HybridのEAER(等価EVレンジ)=(1-GPM@CD/GPM@CS)xCDレンジ= (1-0.2/2)x11= 9.9マイルと計算される。

そして、Blendedモードの場合のユーティリティファクターUFは、UFの定義曲線図において横軸のCDレンジの代わりにこのEAER(等価EVレンジ)の値を用いるのがUFの定義に適うので、上記Prius Plug-in HybridのEPAテスト(Combined)の場合のUFは、CDレンジ=11マイル → UF= 0.29 の代わりに、EAER(等価EVレジ)=9.9マイル → UF=0.27 となる。

Porsche Panamera SEの場合は、EPAテスト結果(Combined)のCDレンジの燃費0.5ガロン/100マイルとCSレンジの燃費の4ガロン/100マイルから、EAER(等価EVレンジ)=(1-GPM@CD/GPM@CS)xCDレンジ=(1-0.5/4)x16=14マイルと計算される。それ故、UFはCDレンジ=16マイル→UF=0.39の代わりにEAER(等価EVレン)=14マイル→UF=0.35となる。

そもそも、米国EPA(およびその元のSAE J2841)のUFの定義曲線図の横軸は「Charge Depleting Range」となっており、日本の国土交通省のUFの定義曲線図の横軸は「プラグインレンジ/1日あたりの走行距離(km)」となっている。これらの表記はCDレンジがAEモードの場合は正しいが、Blendedモードの場合を含めると横軸は「外部充電電力による走行距離」とする方が良く、用語としては「Equivalent All Electric Range」、「EAER」、「等価EVレンジ」、「EV走行換算距離」などと表記する方が適切と考える。

参考: 日本、米国、EUのユーティリティファクター

Tableufjapaneuus3


Ufforjapaneuus_2
[注] 後日、説明を追加する予定。

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燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する

水素燃料電池車の導入には水素ステーションの整備支援や車の販売助成など政府による多額の援助が必要であるが、果たして燃料電池車に「水素を燃料とし、走行時にはCO2を一切排出せず、省エネルギー・地球温暖化対策に大いに寄与することが期待される・・・」と謳われているようなエネルギー・地球環境への効果はどの程度あるのか?

前の記事「自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、『バスに乗らない』フォルクスワーゲン社」の続きとして、本稿では「JHFC(水素・燃料電池実証)プロジェクト」によるWell-to-Wheel評価結果から水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド車、電気自動車)と比較してみる。

JHFCプロジェクトによる次世代自動車のWell-to-Wheel総合効率評価の結果から、標準ケースについては次のように言える。

「エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る」

評価方法・前提条件・各種ケースの結果など詳細については、JHFCプロジェクトの報告書またはこのブログの説明を参照下さい。

"Forget Hydrogen Cars, and Buy a Hybrid"

マサチューセッツ工科大学の雑誌「MIT Technology Review」の2014年12月12日号は"Forget Hydrogen Cars, and Buy a Hybrid"(燃料電池車は気にせず、ハイブリッド車を買おう)と題する記事を掲載している。

Forgetfcvmit_2

この記事で言っていること:

◎ FCVに関するメーカーの「燃料電池車は水しか出さない」などの宣伝文句は少し"misleading"(誤解を招く恐れがある)、車を動かす水素の大部分は現在天然ガスから製造しており、製造時に相当な量のCO2を大気に排出している。

◎ 市販されているFCVよりCO2排出の少ない車はいろいろあり、その一つハイブリッド車はFCVの約1/3のコストでリース可能。

◎ 米国環境団体UCSの計算ではヒュンダイの燃料電池車Tucson(ツーソン)はガロン38マイルのガソリン燃費相当のCO2を排出し、これは同じTucsonのガソリンエンジン車のガロン25マイル燃費よりは良い。しかしガロン38マイルより良い燃費の車は沢山あり、例えばトヨタのプリウスVはTucsonより少し車室が広くてガロン42マイル走る。Tucson FCVのリース料が月499ドルなのに対して、プリウスVは月159ドルでリースできる。

◎ 新技術によっていつかは水素がクリーンで安価になるであろう。再生可能エネルギー発電による電解水素や太陽光による直接水分解の可能性もあるが、現在のところ水素の燃料電池車の電気自動車に対する主たる優位性は燃料補給の速さにある。
(2014年12月17日追記)

「ZEV」と「EEV」

カリフォルニア州大気資源局による低公害車の分類の中に「ZEV」(Zero-Emission Vehicle)という最もクリーンな自動車を指す部類がある。八重樫武久氏は「Cordia」ブログの「エミッション・エルスオエア・ビークル」の中でZEVについて次のように述べている。

「ZEVの代表のバッテリー電気自動車(BEV)は、確かに走行時に燃焼による排気ガスを出しませんが、厳密に言えばその走行の為に、地球温暖化ガスである CO2は排出しています。当然の話しですが、充電の為に使用する電気は、どこか(elsewhere)で、エネルギーを消費し排出(emission)して作られたものです。」
このEmission Elsewhere Vehicle(どこか他所で排出する車)略して「EEV」という呼び名はStanford大学のLee Schipper教授が冗談めかしに作ったもので、八重樫さんがブログで紹介しているようにDaniel Yergin の著書"The Quest: Energy, Security, and the Remaking of the Modern World" (日本語版ダニエル・ヤーギン「探求――エネルギーの世紀」)の中で引用されている。カリフォルニア州大気資源局(CARB)で「ZEV」に分類されているバッテリー電気自動車が実際は「EEV」であるのと同様に、CARBで同じく「ZEV」に分類されている水素の燃料電池車も水素を製造する際にCO2を排出する場合は車以外でCO2を排出しているのでこれも「EEV」となる。

バッテリー電気自動車(BEV)や水素燃料電池車(FCV)が再生可能エネルギーあるいは原子力によってつくられる電力や水素によって駆動される場合は発電や水素製造におけるCO2排出がゼロなので、この場合は「ZEV」と言うことができよう。

電気自動車と燃料電池車のエネルギー効率の比較

Bevfcvelecflowcompare_2ここで、バッテリー電気自動車(BEV)と水素燃料電池車(FCV)について電力からスタートした時のエネルギー効率、すなわち電力系統が供給した電力の内で自動車の駆動に使用されるエネルギーの割合を見てみる。

一次エネルギーに再生可能エネルギーを利用するCO2排出ゼロの典型的なケースとして太陽光発電を利用する場合は、左図(Wido@WidodhのTwitterから引用)のようなプロセスになる。再エネ電力が自動車の車輪を駆動するまでに、FCVはBEVに比べて多くのステップが必要となる。オンサイトの電気分解方式ならば図の水素を輸送する高圧ガストレーラー/液化水素ローリーの部分が不要になるが、何れにしてもFCVでは電気->水素->電気のエネルギー変換を経るためにこの部分でエネルギーの60%以上を失う。

BEVとFCVの電力系統から車輪までのエネルギー効率を数値的に比較するには、下の図にあるようにBEVは充電→モーターの段階を経由するのに対して、FCVは電気分解→圧縮/液化→(輸送)→燃料電池発電→モーターなどの段階を経由するので、これらの各段階の効率を評価・積算する。

GridwheelefficiencyGridmotorefficiencyGridmotorgermanreport

上の3つの図に例示されているケースのFCV/BEVのエネルギー効率の比は、

【Ulf Bossel】 19~23/69=1/3.6~1/3
【Eberhard & Tarpenning】 (0.7x0.9x0.4)/(0.93x0.93)=1/3.4
【日本産業機械工業会調査報告】 22.9/63.9=1/2.8
となり、上記の例では電力からスタートした時のエネルギー効率は燃料電池車は電気自動車の1/2.8~1/3.6と低い。このエネルギー変換による損失は供給する電力が再エネ電力でなくても同じである。

すなわち、同じ走行をするのに、水素燃料電池車は電気自動車の2.8倍~3.6倍の電力を消費することになる。この比較は各ステップの一般的な効率から求めたもので、個々のケースについては以下のJHFC総合評価で説明するように想定する具体的な条件における値を入れて計算することになる。

Well-to-Wheelによる総合評価

一般に自動車のエネルギー消費量とCO2排出量を評価する際に、エネルギー採掘の源まで遡って、そこから車のテールパイプまで途中のエネルギー変換プロセスにおけるエネルギー損失やCO2排出を含めて評価する「Well-to-Wheel」(油井から車輪までの意味、略してWtW)の手法が用いられる。

ここでは「JHFCプロジェクト」と略称される「水素・燃料電池実証プロジェクト(Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project)」によるWell-to-Wheel評価結果から考察を行う。このJHFCプロジェクトは経済産業省が実施する燃料電池システム等実証試験研究補助事業に含まれる「燃料電池自動車等実証研究」と「水素インフラ等実証研究」から構成されるもので、Well-to-Wheel評価に関しては2006年に発行された第1期報告と2011年に発行された第2期報告がある。

なお、Well-to-Wheel評価についてはこのほか下記に示すように、米国では自動車メーカー・国立研究所・石油会社による研究、日本ではトヨタ自動車・みずほ総研による研究などがある。

● GM, ANL, BP, ExxonMobil and Shell “Well-to-Tank Energy Use and Greenhouse Gas Emissions of Transportation Fuels – North American Analysis” (2001) Download

● GM, ANL, BP, ExxonMobil and Shell “Well-to-Wheels Analysis of Advanced Fuel/Vehicle Systems — A North American Study of Energy Use, Greenhouse Gas Emissions, and Criteria Pollutant Emissions” (2005) Download

● トヨタ自動車、みずほ情報総研 「輸送用燃料のWell-to-Wheel評価 日本における輸送用燃料製造(Well-to-Tank)を中心とした温室効果ガス排出量に関する研究報告」(2004) Download

ここでは、2010年度に日本自動車研究所(JARI)が発行した報告書「総合効率とGHG排出の分析」にまとめられている上記JHFCプロジェクトのWell-to-Wheel評価結果を中心に以下の参考文献をもとに考察する。

【参考資料】

1.JHFC総合効率特別検討委員会「JHFC総合効率検討結果報告書」(日本自動車研究所発行2006年3月) Download

2.JHFC総合効率検討作業部会「総合効率とGHG排出の分析報告書」(日本自動車研究所発行2011年3月) Download

3.JHFC国際セミナー 企画実行委員会・総合効率検討作業部会 石谷久委員長 特別講演資料「総合効率とGHG排出の分析」 2011年2月28日 Download

このJHFC検討の目的について上記報告書の最初に次のように記している。

「2002 年度から経済産業省の補助事業としてスタートし,2009 年度から新エネルギー産業技術開発機構(NEDO)の助成事業「燃料電池システム等実証研究」として推進されたJHFCプロジェクトでは,燃料電池自動車を主とする各種の高効率低公害(代替燃料)乗用車のWell-to-Wheel総合効率のデータを確定することにより,燃料電池自動車の位置づけを明確にし,燃料電池自動車および燃料電池自動車用燃料供給設備の普及促進を図ることが目的のひとつに掲げられている。」

JHFCではこの調査の前に同様のWell-to-Wheel総合効率の調査を実施しており、この結果は2005年度に「JHFC総合効率特別検討委員会」による「JHFC総合効率検討結果報告書」(上記参考資料1)として日本自動車研究所から公表されている。今回参考にするWell-to-Wheel総合効率の調査(上記参考資料2)は2005年度までの結果を見直し、最新の車両の燃費データ・諸元等を用い,エネルギー消費量・CO2排出量に関わるデータやエネルギーパスなども最新の情報に基づくものを使用している。

2010年度調査では2005年度と同様に、燃料電池車を含む自動車・エネルギー・環境・水素エネルギー・燃料電池・インフラなどに関係する専門家・有識者・関係者による「総合効率検討作業部会」(石谷久委員長)を組織して、データ提供や助言を受けつつ進めている。

総合効率検討作業部会には次の35団体が参加している。

【大学・研究所】
新エネルギー導入促進協議会 東京工業大学 東京大学 横浜国立大学 筑波大学 工学院大学 国立環境研究所 産業技術総合研究所 日本エネルギー経済研究所 地球環境産業技術研究機構

【団体等】
日本自動車工業会 燃料電池実用化推進協議会 石油連盟 電気事業連合会

【企業】
トヨタ自動車 日産自動車 本田技研工業 GM ダイムラー スズキ マツダ JX日鉱日石エネルギー コスモ石油 昭和シェル石油 東京ガス 岩谷産業 大陽日酸 ジャパン・エア・ガシズ 新日鉄エンジニアリング 出光興産 栗田工業 伊藤忠エネクス シナネン 大阪ガス 東邦ガス

以上のほかに、オブザーバーとして経済産業省、NEDO、新日石総研、事務局として日本自動車研究所ほかが参加

Well-to-Wheelの範囲

WelltowheelevaluationWell-to-Wheelを総合した効率とCO2排出の評価は、図(水素燃料電池車の場合)に示すように一次エネルギーの採掘から、燃料製造、輸送、車両への充填を経て、最終的に車両走行にいたる全てのエネルギー消費を考慮した、総合的なエネルギー効率とCO2排出量を評価するもので、Well-to-TankとTank-to-Wheelに分けて評価しこれを総合してWell-to-Wheel評価としている。

評価の対象とする車種

JHFCの検討においては下記の5車種を対象としてWell-to-Wheel評価を行なっている。

●内燃機関自動車(ICEV) 燃料はガソリン、軽油、圧縮天然ガスの3種
   ガソリン(ICEV)
   ディーゼル(DICEV)
   圧縮天然ガス(CNGV)
●内燃機関ハイブリッド車(HEV) 燃料はガソリン、ニッケル水素電池
   ハイブリッド車(HEV)
●プラグインハイブリッド車(PHEV) 燃料はガソリン、リチウムイオン電池、電力走行割合は0.5
   プラグインハイブリッド車(PHEV)
●(バッテリー)電気自動車(BEV) リチウムイオン電池
   電気自動車(BEV)
●(水素)燃料電池車(FCV) 圧縮水素搭載、リチウムイオン電池
   燃料電池車(FCV)
評価対象の車種の基本性能は原則として同等としており、その他の前提条件、車種想定、各車種の燃費・電費などの具体的な数値およびその導出の基礎などは報告書に記載されている。

なお、想定しているプラグインハイブリッド車は「電力走行割合」ユーティリティファクターUF=0.5のもの。因みに、プリウスPHV(2012年式)はUF=0.48、ホンダアコードPHEV(2013年式)はUF=0.59、三菱アウトランダーPHEV(2013年式)はUF=0.72である。

Comparisonvehicles2JHFC報告書では、この一覧表に示す各種水素製造・輸送方式の燃料電池自動車(FCV)と比較の対象とする各種自動車(ICEV、HEV、PHEV、BEV)について定量的評価を行い結果を示している。

燃料電池自動車への水素の供給方式としては、JHFC プロジェクトの実証水素ステーションの各種方式を参考に、標準ケースでは化石燃料オンサイト改質8方式、化石燃料オフサイト改質6方式、商用電力オンサイト電解2方式の合計16方式を評価している。

Well-to-Tankの評価方法

Well-to-Tank評価とは、一次エネルギー(原油、天然ガスなど)の源の油田やガス田などから自動車のガソリンタンク・圧縮水素タンク、バッテリーまでのエネルギーの流れ(輸送、変換などのプロセス)を評価して、車載のタンク・バッテリーに単位(1 MJ)のエネルギーを入れるのに必要な一次エネルギー投入量と途中のプロセスで環境に排出するCO2排出量を計算することを言う。

検討の対象とするガソリン、軽油、電気、水素などの一次エネルギー源からタンク・バッテリーまでのエネルギーの流れ(パス)のそれぞれについて数値的に計算する。このJHFC報告書では80のパスについて計算してWell-to-Tankの一次エネルギーとCO2排出量を算出している。

電力の流れでは電源の構成によってエネルギー投入量とCO2排出量が大きく変わる。この検討における電源構成比には検討当時最新の経済産業省 資源エネルギー庁「平成22 年度電力供給計画の概要」(2010.3)による2009 年の推定実績を用いている。この電源構成による電力を「J-Mix」と呼びこの検討では「標準ケース」としている。

発電のCO2排出量は発電方式により異なり、この検討では電力中央研究所による電源別CO2排出原単位のデータと上記J-Mixの電源構成比から算出している。

Well-to-Tankの評価結果

Welltotankenergyco2図3-14は、標準ケース(日本の2009年の平均電源構成電力、J-MIX)におけるWell-to-Tankの燃料消費量とCO2排出量を水素燃料電池車の水素製造・供給16方式をエンジン自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車と比較したものである。

数値は、燃料1 MJ をタンク・バッテリーに充填するまでの(Well-to-Tank)エネルギー消費量(一次エネルギー投入量)および燃料1 MJをタンク・バッテリーに充填するまでに放出される(Well-to-Tank)CO2 排出量を示している。Well to Tank でのエネルギー消費量は上の目盛で,同CO2 排出量は下の目盛で読む。なお,圧縮水素の車両充填圧力は70MPa。

報告書に記載されている「標準ケース」の結果の整理(p.59)から主なものを下記転載する。

① 水素を製造するためには,現行のガソリンおよびディーゼル燃料を精製する以上のエネルギーを必要とする。
② 日本の平均電源構成を用いた水の電気分解による水素製造および電力発電は,現行のガソリンおよびディーゼル燃料以上に多くのエネルギーを必要とし,CO2 排出量も多い。
③ 現行のガソリンおよびディーゼル燃料以外で比較的必要エネルギーが少なく,CO2 排出量も少ないのは,オフサイトでNG 改質して圧縮水素(CHG)で輸送するパスと,オンサイトでの都市ガス改質のパスである。
④ オフサイト改質で製造した水素を液体水素(LH)にして輸送すると,CHG を輸送・充填するケースと比較して多くのエネルギーを必要とし,CO2 排出量も多い。


Tank-to-Wheelの評価結果

Ttwenergyconsumptionガソリン・軽油が燃料タンクに給油された状態、電気がバッテリーに充電された状態、水素が圧縮水素タンクに充填された状態から、自動車を駆動して1km走行するに要する「Tank-to-Wheel」エネルギー量(MJ)は、各自動車の想定燃費・電費から算出できる。図4-6はJC08モードでの走行の場合。

図4-6に示されているTank-to-Wheelのエネルギー消費率(MJ/km)の大小は其々の自動車のパワートレインの特長から説明できる。

●電気自動車(BEV)はエネルギーとして最も質の良い電気からモーター駆動による電力走行をするので最もエネルギー消費率が小さい。

●水素燃料電池車(FCV)は水素からの燃料電池発電を経てモーター駆動による電力走行になるので、燃料電池発電の損失の分だけ電気自動車よりエネルギー消費率が大きくなる。

●この図では、次にハイブリッド車(HEV)のエネルギー消費率が小さくなっている。ガソリンエンジンの動力を一部電力に変換して機械力走行に電力走行を組合せてハイブリッド走行するので燃料消費率がガソリンエンジン車(ICEV)の64%と効率的である。

●プラグインハイブリッド車(PHEV)は、充電電力による電力走行とガソリンエンジンによるハイブリッド走行を組み合わせるので、エネルギー消費率はハイブリッド車と電気自動車の中間になる。図4-6のハイブリッド走行の値1.17は1kmを全部ハイブリッド走行した時の値で、0.36は1kmを全部電力走行した時の値で、このJHFCの検討ではPHEVとしてユーティリティファクターUF=0.5の車を想定しているので1km走行のエネルギー消費率は1.17x(1-0.5)+0.36x0.5=0.765となる。
(図4-6記載の「*プラグインハイブリッド走行」の値の「0.59」は2009年7月に国土交通省が定めた「プラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)」の計算方法により 1.17x(1-0.5)=0.585 で算出したもの。この値はガソリン消費量のみで電力消費量は含まない。プラグインハイブリッド車のガソリンと電力の消費量を合算した値は上記の「0.765」となる)

なお、ここで充電電力におけるエネルギー消費率の値はバッテリーに充電された状態のエネルギー量(MJ)をベースにしており、通常の電費が充電器に入る前の交流電力を基準とする所謂「交流電力消費率」で表されるのと異なっているので注意が必要である。(JHFC評価では充電効率86%を想定している)

Well-to-Wheelの評価結果

Welltowheelenergyco2Well-to-TankとTank-to-Wheelのエネルギー消費量とCO2排出量を総合するとWell-to-Wheelの1km走行当たりのエネルギー消費量とCO2排出量の値が求まる。

標準ケース(J-MIX)におけるWell-to-Wheelのエネルギー消費量とCO2 排出量の算出結果(JC08 モード)は図5-3に示されている。この図でWell-to-Wheelのエネルギー消費量(左側)は上の目盛で,CO2 排出量(右側)は下の目盛で読む。

図5-3に示されている燃料電池自動車の水素製造供給16方式を、「オンサイト改質」、「オフサイト改質」、「水電解」の3種に集約して、これら集約3方式の燃料電池車のエネルギー消費量(一次エネルギー投入量)とCO2排出量をエンジン自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車と比較してみる。次の二つの図では集約したデータの最大・最小の値を線の上と下の位置で示し、最大最小の中間の値を点で示した。

PrimaryenergyperkmrCo2perkmr


なお、報告書には、筆者がJHFC評価結果から作成した上の二つの図のような縦軸にエネルギー消費量とCO2排出量をとり横軸に車種をとって端的に比較した図は掲載されていない。

JHFC「標準ケース」評価のまとめ

これらの図から判るように、JHFC標準ケースの燃料電池車のエネルギー消費量とCO2排出量には水素製造供給16方式でその大きさに差があるが、水素燃料電池自動車と他の次世代自動車とのエネルギー消費量とCO2排出量の比較結果は次のように整理できる。

エネルギー消費量(1km走行当たりの一次エネルギー投入量)

1,水電解水素を使用する燃料電池車のエネルギー消費量は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車はもとより、エンジン自動車よりも大きい。

2,最もエネルギー消費量が小さい燃料電池車でもハイブリッド車と同程度のエネルギー消費量であり、最もエネルギー消費量が小さい燃料電池車よりもプラグインハイブリッド車と電気自動車の方がエネルギー消費量が小さい。

CO2排出量(1km走行当たりのWell-to-Wheel CO2排出量)
1,どの燃料電池車のCO2排出量もエンジン自動車よりは小さい。燃料電池車水素製造供給16方式のCO2排出量の巾の中にハイブリッド車が入る。

2,最もCO2排出量の小さい燃料電池車でもプラグインハイブリッド車と同程度のCO2排出量であり、最もCO2排出量の小さい燃料電池車よりも電気自動車の方がCO2排出量が小さい。

報告書のWell-to-Wheel評価の「標準ケース」の結果の整理(p.90)にも次のように記述されており、上記と同様の結論になっている。

① 水電解を除くすべてのFCVパスで,ICEVより必要エネルギー,CO2排出量とも改善される。
② FCVとHEVを比較すると,必要エネルギーはHEVの方が少ないが,CO2排出量についてはFCVの方が少ない場合もある。
③ オフサイト大規模NG 改質CHG 輸送のFCVはHEVよりCO2排出量が少なくなっている。
④ オンサイト都市ガス改質およびオンサイトLPG改質のFCVは,ガソリンHEVに比べてCO2排出量が下回る。
⑤ CHG輸送とLH輸送のFCVを比較すると,必要エネルギー,CO2排出量の両方でLH輸送の方が大きい。
⑥ 必要エネルギー,CO2排出量とも最も少ないのはBEVおよびPHEV(EV)である。

以上、水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド車、電気自動車)および従来型エンジン自動車と比較した標準ケースの結果を総合して、

エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、水素燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る
と言えよう。

なお、このJHFCの検討では上記日本の平均電源構成(J-MIX)を用いた「標準ケース」のほか、電力では一次エネルギーを一つに固定するケース(no-MIX)について、また水素製造では副生水素、バイオマス起源水素、再生可能エネルギー電力による電解水素(国内のほか海外のパタゴニアの風力発電、オーストラリアの太陽光・太陽熱発電の電解水素を船で輸送するケースを含む)についても評価している。

また、発電プラントや水素製造プラント(オフサイト大規模改質装置のほかオンサイトの都市ガス改質装置)でCO2を回収し貯留サイトまで輸送して貯留するCCS(CO2回収・貯留)のケースも評価している。これらの検討対象のエネルギーパスは80パスあり、主要なケースの各自動車のエネルギー消費率とCO2排出量についてはデータのほか比較図が示されている。

一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合

ここで一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合についてJHFC報告書の評価結果をもとに考察してみる。

天然ガスはシェールガス採掘技術の確立により一気に供給量が増え、石炭・石油よりエネルギー量当りのCO2排出量が少ないこともあり、天然ガスの輸送燃料としての需要は今後増大していくと見られている。(OECD/IEAのMedium-Term Gas Market Report

天然ガスの水蒸気改質法は、従来から大量の水素を安価に製造する工業的に主流の水素製造方式である。JHFC評価においてはFCVへの水素供給16方式の内6方式が天然ガスベースであるが、これら各種方式の中で水蒸気改質の水素製造法が最も効率が良いので、オンサイトおよびオフサイトの改質水素方式について評価する。

一方、エンジン自動車に天然ガス燃料を使用する圧縮天然ガスエンジン自動車(CNGV)の開発・導入が加速しつつあり、これが今後ハイブリッド自動車、さらにプラグインハイブリッド車と電動化していくのは当然の方向と考えられる。そこでガソリン燃料の場合と同様に天然ガス燃料の場合も、エンジン自動車・ハイブリッド自動車・プラグインはブリッド車について評価する。

一次エネルギーを天然ガスのみに固定して次世代自動車のエネルギー・環境性能を比較する際には、電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車(水電解水素供給)への電力の供給は天然ガス火力発電を想定することになる。

一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のJHFCのエネルギー投入量・CO2排出量の評価結果は報告書p.101の図5-12に示されている。この図に示されているデータをもとに、下記の7車種(エンジン自動車と次世代自動車6車種)について1km走行当りの一次エネルギー投入量とCO2排出量を比較してみる。

 ① 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGV「エンジン自動車」
 ② 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「ハイブリッド自動車」*
 ③ 都市ガス圧縮充填の圧縮天然ガス燃料エンジンCNGVの「プラグインハイブリッド車」*
 ④ 天然ガス火力発電の電力による電池充電のBEV「(電池)電気自動車」
 ⑤ 水素ステーションで都市ガスを改質する天然ガスオンサイト改質水素使用のFCV「燃料電池車(オンサイト改質)」
 ⑥ 集中型プラントで天然ガスを改質し水素ステーションに輸送する天然ガスオフサイト改質水素使用のFCV「燃料電池車(オフサイト改質)」
 ⑦ 天然ガス火力発電の電力による水素ステーションにおける水電解の天然ガス電力-水電解水素使用のFCV「燃料電池車(水電解)」

上で*印の車種についてはJHFC報告書では評価されていないが、筆者がJHFC評価のガソリンエンジン車のICEV-HEV-PHEVの関係からエネルギー消費量・CO2排出量ともにHEV/ICEV=0.65として推算した。なお、天然ガス燃料のPHEVの電力走行距離割合(ユーティリティファクター)はガソリン燃料の場合と同じUF=0.5を想定した。

一次エネルギーを天然ガスに固定した場合のこれら7車種のエネルギー投入量とCO2排出量の比較を標準ケースと同じグラフ形式で表示すると下の2図になる。

PrimaryenergyperkmngCo2perkmng

上の2図から、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合の水素燃料電池車と他の次世代自動車および従来型エンジン自動車のエネルギー消費量とCO2排出量の比較結果は次のようにまとめられる。

エネルギー消費量(1km走行当たりの一次エネルギー投入量)

1.オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車・電気自動車より大きい。
2.水電解水素を使用する燃料電池車の一次エネルギー投入量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・電気自動車よりはるかに大きい。
CO2排出量(1km走行当たりのCO2排出量)
1.オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車のCO2排出量はハイブリッド車と同程度で、プラグインハイブリッド車・電気自動車より大きい。
2.水電解水素を使用する燃料電池車のCO2排出量は、エンジン自動車と同程度でハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・電気自動車よりはるかに大きい。
以上、一次エネルギー源を天然ガスに固定した場合の水素燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車および従来型エンジン自動車と比較した結果を総合すると、
エネルギー節減・地球環境保全への効果で見ると、オンサイトおよびオフサイト改質水素を使用する燃料電池車はエンジン自動車よりは優れているが、ハイブリッド自動車と同程度で、プラグインハイブリッド車および電気自動車より劣る
という標準ケースと同様の結論になる。

Well-to-Wheel評価 – JHFCとトヨタ自動車の効率値を比較する

一次エネルギーとして天然ガスのみを用いた場合の次世代自動車のWell-to-Wheel(総合)効率の比較評価としては、本文に記載のJHFCの評価のほかに、総合資源エネルギー調査会・第28回基本問題委員会(2012.7.5)にトヨタ自動車が提出・説明した資料「水素・燃料電池自動車(FCV)の取り組み」の中の図(p.12、下記転載)がある。

Toyotafcv284p12

この図では、燃料電池車(FCV)と電気自動車(EV)の総合効率の値がJHFCの評価結果と全く逆になっている。

すなわち、JHFCの評価結果(10.15モードの場合)ではEVの総合効率がFCVの約1.3倍となるのに対し、トヨタ自動車の資料では逆にFCVの総合効率がEVの約1.3倍となっている

トヨタ自動車によるCNGV-HV、FCV、EVの「燃料の効率」、「車の効率」、「総合効率」の値とJHFCによるこれらの効率の値を比較して下の表に示す。

Efficiencycomparisonjhfctoyota

この表のJHFC欄の効率値はJHFC報告書に記載されている評価結果から次のようにして求めた。

① JHFCの圧縮天然ガスハイブリッド車(CNG-HV)の値はJHFCの評価データを参考に推算(推算方法は本文の「一次エネルギーを天然ガスのみに固定した場合」に記載)した値から算出

② JHFCのTank-to-Wheel評価値はMJ/kmで示されているので、効率値にするためにトヨタ自動車のCNG-HVの「車の効率」34%を基準としてJHFCのMJ/km評価値 (10・15モード)から算出

③ 「総合効率」欄のJHFCの値はJHFCの評価値から算出した「燃料の効率」と「車の効率」の積として計算

この表から、FCVとEVの総合効率におけるトヨタ自動車の試算とJHFCの評価の間の差は、それを構成する「燃料の効率」と「車の効率」における以下に示すような両者の評価値の差に起因していると推測する。

① FCVの「車の効率」はJHFCの49%に対してトヨタ自動車は60%になっている。トヨタ自動車のFCVの「車の効率」の60%の値は、燃料電池での発電効率とそれ以降のインバーター・モーターなどの効率を含んだものとしては大きい値である。インバーター・モーターなどの効率から逆算すると燃料電池の発電効率は70%以上になり、現状の燃料電池効率がトップランナーでも60%程度(LHV)なのに対して大きな値を想定している。

② EVの「燃料の効率」はJHFCの40%に対してトヨタ自動車は32%になっている。トヨタ自動車のEVの「燃料の効率」32%の値は、天然ガスの「採掘・液化・運搬」効率85%、「送電」効率95%および「充電」効率86%を用いて「火力発電」の発電効率を逆算すると46%となる。この46%の値は現在発電効率57%(LHV、送電端)の天然ガス火力発電プラントが既に導入されているのに対して小さい値を想定している。

③ 上記の差に加えて、FCVの「燃料の効率」とEVの「車の効率」における其々約6%の差が両者の評価の差を大きくする方向に働いて、「総合効率」がJHFCの「EV:FCV=1.31:1」に対してトヨタ自動車の「EV:FCV=1:1.38」という全く逆の評価になったと推測する。

同じ天然ガス起源の燃料電池車とハイブリッド車・電気自動車の総合効率評価値にこのような大きな差があることは議論・憶測を呼ぶので、試算・評価の条件や根拠などが公開されていることが望ましい。
(2013年10月26日追記)

関連ブログ:
 ●『「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向』
 ●『低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?』
 ●『自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社』

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自動車メーカーによる燃料電池車の国際共同開発、「バスに乗らない」フォルクスワーゲン社

燃料電池車開発での自動車メーカーの国際提携

今年(2013年)初めから自動車メーカーの燃料電池車(Fuel Cell Vehicle, FCV)の国際共同開発の発表が続いている。

トヨタとBMWの提携

Toyotabmw1月24日、トヨタ自動車とBMWは燃料電池車の共同開発で正式合意したと発表した。トヨタは2015年に燃料電池車を市販する方針でこの提携により開発期間の短縮とコストの引き下げを目指し、 さらに20年にはBMWと共同で燃料電池の基本システム全般を新たに開発する計画。BMWはトヨタから発電装置などの基幹部品の技術供与を受け燃料電池開発を進め20年にも市販車を売り出す。

ルノー・日産とダイムラー、フォードの提携

Nissanforddaimlerjpg1月28日、ルノー・日産とダイムラー、フォードの3者は燃料電池車技術の商品化加速の合意をしたと発表した。3者の協力により燃料電池車の技術開発に関連する投資コストを低減させ、共通の燃料電池車システムを共同開発し、手ごろな価格の量産型燃料電池車を早ければ2017年に発売するとしている。

ホンダとGMの提携

Hondagm7月2日、ホンダとGMは2020年頃の実用化に向けた次世代型燃料電池システムと水素貯蔵システムの共同開発を行うことで合意したと発表した。両社はこれまでの燃料電池技術の知見を共有して小型・軽量・高性能・低コストの燃料電池システムと水素貯蔵システムを開発する。

水素供給インフラの導入支援などを閣議決定

Nihonsaikousenryakuこの間、政府は6月14日に「日本再興戦略」を閣議決定し、その中で燃料電池自動車について次のように示している。

○水素供給インフラ導入支援、燃料電池自動車・水素インフラに係る規制の見直し
・2015 年の燃料電池自動車の市場投入に向けて、燃料電池自動車や水素インフラに係る規制を見直すとともに、水素ステーションの整備を支援することにより、世界最速の普及を目指す。

さらに、日本再興戦略の「中短期工程表」では、「水素ステーションの先行整備は2015年までに4大都市圏を中心に100箇所、2016年からは普及の拡大」と記載している。

これは2011年1月の自動車メーカー・石油会社・ガス会社13社による「FCV国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」で提言され、経済産業省がこれを受けて「今後の展開」として「今回の共同声明は、エネルギー基本計画の趣旨と合致するものであり、経済産業省としても2015年の導入開始並びにその後の全国的な普及拡大を実現させるべく、必要な取り組みを進める」と発表した経緯に沿ったもの。

燃料電池車「バスに乗らない」VW・Winterkorn CEOの「見識」

1月のトヨタ-BMWの提携は、1年前から合意していた長期的戦略的パートナーとしての提携が正式になったもので、「燃料電池車」のほかに「スポーツカー」や「軽量化」分野での協業、「Li-Air電池技術」の共同研究などの項目が含まれている。これに対してその4日後に発表したルノー・日産-ダイムラー-フォードの提携と7月発表のホンダ-GMの提携は燃料電池車分野に限られている。

恰も「バスに乗り遅れるな」のような、日本のメーカーと海外メーカーの燃料電池車の共同開発提携や関連業界の動きに対して、欧州最大の自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)社はこの動きに乗らず、VW社CEOのMartin Winterkornは独自の見解を述べている。

Forbes_cover050613sWinterkorn CEOは今年3月の記者会見で、水素燃料電池車の研究は今後も続けるが、近い将来においては水素燃料電池は費用対効果から言って自動車駆動に使えそうもなく、次の10年のガソリやディーゼルのエンジン車(ICEV)の代替はプラグインハイブリッド車(PHEV)と天然ガス自動車(CNG)になると語っている。以下は発言の引用。(AutoGuide13年3月15日記事、Automotive News13年3月14日記事

「私には燃料電池車のためのインフラが見えないし、水素が妥当なコストで大規模に製造できる方法が見えない」「私は現在、消費者が購入意欲を持つような妥当なコストで燃料電池車を提供できるとは見ていない」
("I do not see the infrastructure for fuel cell vehicles, and I do not see how hydrogen can be produced on large scale at reasonable cost."" I do not currently see a situation where we can offer fuel cell vehicles at a reasonable cost that consumers would also be willing to pay.")

このWinterkorn CEOはForbes誌5月6日号の表紙を飾っている。写真の下には「GMとトヨタよ ご用心—VWは間もなく地上最大の自動車メーカーになる」と刺激的なキャプションが。そして中の記事のタイトルは「如何にしてフォルクスワーゲンは世界を制するか」。

フォルクスワーゲン・グループ企業の一つAudiもVWと同じく水素燃料電池車を研究開発してきており、燃料電池駆動のA7を開発してきた。AudiのTronシリーズのE-Tron、G-Tronに次ぐ「H-Tron」の名前も出ていて、3月のWinterkorn CEOの燃料電池車に対する消極発言にも影響されずに8月のテストに向けて準備中と見られていた。

ところが、6月中旬Audiの技術チーフWolfgang Dürheimerが「燃料電池車は完成して研究用として運転可能である。と同時に、水素の燃料電池車は今後10年以内にシリーズ生産車の役割を担わないこともかなり確かである」と語っており、AudiもVWと同じく水素燃料電池車の開発導入には消極的な方針に変わったように見える。

この燃料電池車「バスに乗らない」判断をしたフォルクスワーゲン社が、政府による燃料電池車開発導入援助や内外の水素ロビーの動きに惑わず、プラグインハイブリッド車・天然ガス自動車の開発方針を貫くのか、Forbes誌が言う「地上最大の自動車メーカー」フォルクスワーゲン社の今後の方向は要注目。

燃料電池車の性能は良いが水素ステーション整備は高コスト

Ariakehydrogenstation燃料電池車は自動車としての性能はエンジン自動車に遜色なく、燃料電池発電・モーター駆動なので電気自動車と同じく音は静かで加速もスムース、1回3分の水素充填で航続距離は500km以上で実用域に達している。価格は各メーカーが500万円以下の目標を提示しているが、市場で同等の性能の他車種と競合するには補助金などの購入助成が必要であろう。

水素燃料供給のための水素ステーションの建設費は現状1基6億円程度で、これを研究開発と実証試験により2015年時点で4億円、2020年時点で2億円に下げることを目論んでいる。このコストダウンが実現してもガソリンステーションの建設費1基0.7億円~1億円と較べると相当に高い。

日本再興戦略の「中短期工程表」には水素ステーションの先行整備は2015年までに4大都市圏を中心に100箇所と明記されており、水素ステーションの商用レベル運用には相当大きい国の支援が必要となろう。

メディアは燃料電池車に期待

新聞各紙はこのような自動車メーカーの「合従連衡」の動きを報じ、燃料電池車の特長・課題の解説や開発導入の意義・効果などをコラムや社説で論じている。以下、日本経済新聞と読売新聞の論調。

日本経済新聞は4月10日の「ニュースこう読む」のコラムで「燃料電池車が生むかもしれない『シェール級革命』」の記事を掲載し、温暖化などの問題を睨めば日本が率先して燃料電池車革命を起こし世界に広げていく価値は大きいと述べている。

日本経済新聞はまた7月5日の社説で、「燃料電池車は走行時に温暖化ガスを出さないので、環境面で重要性が増している。日本の電力供給に不安があることも考えれば、ハイブリッド車やEV以外にも選択肢が広がるのは望ましい。」とその導入に期待を表明し、「燃料電池車の購入や水素充填施設の建設に、政府の補助金を求める声が広がる可能性もあろう。財政事情の厳しさや、民間による競争を促す点から、国の資金支援はできるだけ慎重に考えたい。充填施設の建設費を引き下げるための新技術を生み出すなど、企業が知恵を絞ることも必要になる。」と結んでいる。

日本経済新聞はさらに7月21日の「検証」欄に「燃料電池車、量産間近に」と題する記事を掲載し、CO2などを排出しないため「究極のエコカー」の燃料電池車の特長を解説し、最近のメーカー間の連繋について「普及競争に向け業界の合従連衡も盛んだ」とし、政府の支援については「政府は成長戦略の柱の1つに燃料電池車産業の振興を位置付ける。従来禁じられていたガソリンスタンドと水素ステーションの併設を認めるなど、環境整備にも動き出している。ただ15年に100カ所以上という建設計画を実現するには、補助金制度などで一層の支援体制が求められる。」と述べ、燃料電池の普及による経済波及効果に触れたあと、「世界の新車販売は17年にも年1億台を超え、12年比で年2000万台以上の車が地球上で増える。自動車から排出される有害物質の削減は人類にとって避けて通れない課題だ。燃料電池車の普及へのハードルは高いが、暮らしや産業、日本のエネルギー問題を変える可能性を秘めている。」と結んでいる。

Fcvfeatures読売新聞は7月3日「燃料電池車 ホンダ量産化に期待 GMと提携 3陣営で開発競争」の見出しで報じ、燃料電池車は「次世代エコカーの本命」とする解説を載せている。(右、解説を抜粋)

読売新聞はさらに7月17日の社説で、燃料電池車の仕組みと特長や課題である燃料電池車の価格と水素ステーションの整備について説明した上で、燃料電池車価格引き下げへの各社の技術革新と水素ステーション整備への政府の後押しの必要性を述べ、「エコカーを巡っては、トヨタとホンダが先行した、電気モーターとガソリンエンジンで走るハイブリッド車(HV)が普及している。一方、EVは走行距離の短さなどから伸び悩んでいる。日本各社は、HVとEVの性能向上を目指すとともに、燃料電池車の開発を急ぎ、エコカーの選択肢を増やしてもらいたい。開発を主導できれば、日本の産業競争力の強化にもつながるだろう。」と論じている。

このように新聞論調は燃料電池車は次世代自動車の本命としてその開発導入に期待を表明している。

水素燃料電池車のエネルギー・地球環境への効果

水素燃料電池車の導入には水素ステーションの整備支援や車の販売助成など政府による多額の援助が必要であるが、果たして燃料電池車に「水素を燃料とし、走行時にはCO2を一切排出せず、省エネルギー・地球温暖化対策に大いに寄与することが期待される・・・」と謳われているようなエネルギー・地球環境への効果はどの程度あるのか? このブログの次の記事「燃料電池車はどの程度エコか?」でJHFCの検討結果から燃料電池車のエネルギー消費量・CO2排出量を他の次世代自動車(HEV、PHEV、BEV)と比較してみる。

追記1: FCVについて自動車メーカー首脳は「かく語りき」

上記本文をまとめた2013年7月以降、世界の自動車メーカーの首脳が水素燃料電池車(FCV)に関して率直で興味のある見解を述べている。以下、評判になっている語録を出典とともに記す。語りのニュアンスを伝えるために適宜原文も付けた。

テスラ自動車CEO イーロン・マスク (Elon Musk)

Musk2_22013年10月21日、ドイツ・ミュンヘンのTelsa Service Centerにおいて、イーロン・マスクがTesla社の欧州における活動展開について説明した中でのFCVに関するコメント。(写真

「オーゴッド、燃料電池は全くデタラメだ。水素はロケットの上段には良いが、車には適さない」

"Oh god, a fuel cell is so bullshit. Hydrogen is suitable for the upper stage of rockets, but not for cars."

録画ビデオの29分17秒あたりから、FCVについて語っている。グラスを片手にくだけた調子で聴衆を笑わせながらBEVのFCVに対する優位性を語っている。

日産自動車CEO カルロス・ゴーン (Carlos Ghosn)

Ghosn2013年11月20日、東京モーターショーに際して日産自動車のカルロス・ゴーン社長は記者会見の中でFCVはさまざまな問題があって普及するにはしばらく時間がかかるとの見解を示した。(写真、ニュース

「私は2015年にFCVを量販すると言っているライバルメーカーを好奇心と興味を持って見ています」

「どこに水素インフラがありますか? 誰がインフラを建てるのですか?」

「それが我々が燃料電池に対する大志をある方向へ延期した理由だ」

"I would be very curious and interested to see competitors who say they are going to mass market the car in 2015"
"Where is the infrastructure? Who’s going to build it?"
"That's why we have postponed, in a certain way, some of our ambitions in terms of fuel cells."

米国フォルクスワーゲンCEO ジョナサン・ブラウニング (Jonathan Browning)

Browning2013年11月20日、ロスエンジェルス・モーターショーに際して、米国フォルクスワーゲン社CEOのジョナサン・ブラウニング(写真)は記者との懇談の中で米国におけるディーゼル自動車の拡販について話した後、FCVの発表が益々注目を集めるようになってきている燃料電池の技術について聞かれて、次のように答えている。

「大部分の人は軽油を買う場所は知っているが、FCVに水素を充填する場所は知らない。燃料電池はまだ議論の段階」

When asked about fuel cell technology--we're increasingly seeing more fuel-cell vehicles being shown off--he said:
"most people know where to get diesel, people don't know where to fill a fuel cell vehicle, fuel cell is just discussion at this point."

フォルクスワーゲングループ主席役員 ルドルフ・クレブス (Rudolf Krebs)

Krebs2013年11月20日、ロスエンジェルス・モーターショーに際してフォルクスワーゲングループの電動車部門主席役員のルドルフ・クレブス(写真)の記者会見におけるFCV関連の発言は次のとおり。

 VWは2018年にはe-mobilityで世界最大になる意図を持っている。

 「VWは大きな水素自動車プログラムを進めており、燃料電池を搭載した多くの自動車を試験中だが、2020年まではFCVが大量に導入されることはないと明言する。

 水素は供給インフラがまだ整備されてなく、今のFCV技術では在来車に比べて非常に高価で信頼性が低い。

 FCVは排気管からの排出はゼロで電気自動車のような航続距離の問題はないが、エネルギー効率が低いことが気がかりだ。

 水素を自動車に用いて意味があるのは再生可能エネルギーを使用する場合のみであるが、その場合でも電気分解で水素を製造するときに40%のエネルギーを損失し、それを700気圧に加圧して、車に貯蔵、発電などさらに損失が生じる。最後には、100の電気エネルギーが30か40になってしまう。」

Krebs was speaking at the Los Angeles motor show, where the VW Group reiterated its intention to become the world’s biggest player in e-mobility by 2018 by producing electric and hybrid vehicles in all car segments and across all of its brands.

"We have a huge hydrogen car programme ongoing," said Krebs.
"We have a lot of cars that are being tested with a fuel cell stack, but we have to make clear that hydrogen vehicles in bigger numbers will not happen before 2020. There is no infrastructure available and the technology is extremely expensive and not as reliable as conventional vehicles."

He pointed out that although hydrogen had the benefits of zero tailpipe emissions and none of the driving range issues attached to battery-electric vehicles, there are still concerns over the efficiency of producing the energy.

"We still have the problem that hydrogen mobility only makes sense if you use green energy – you have to use green electricity, then convert it from electric to hydrogen, during which you lose about 40 per cent of the initial energy," explained Krebs.
"Then you have to compress the hydrogen to 700bar to store it in the vehicle, which costs you further efficiency. After that, you have to convert the hydrogen back to electricity through the vehicle’s fuel cell, which brings another efficiency loss. In the end, from your original 100 per cent electric energy, you end up with between 30 and 40 per cent efficiency."

米国トヨタ自動車販売・上級副社長・ボブ・カーター (Bob Carter)

Carter2_22014年1月14日、デトロイトで開催されたオートモーティブ・ニュース世界大会において、米国トヨタ自動車販売・上級副社長・ボブ・カーター(写真)は自動車メーカーは我々の顧客や社会や環境の長期的要請に応えるべきで、その点でFCVは大きな可能性を有しているという主旨の講演をした。

 「今やFCV技術とそれをサポートするインフラの実現性について否定する人達に不足しないと実感しています。イーロン(マスク、Tesla)やカルロス(ゴーン、日産)やジョナサン(ブラウニング、VW)がFCVについて何を言おうと気にしていません。その人達が他の技術に栓をしたり或いは無視をしても、構いません。

 このことで思い出したのは、ガソリンがガロン1ドルだった頃にトヨタがハイブリッド技術の採用をきめた時皆が当惑して考え込んだことです。その時のプリウスはPR戦術や科学実験だと言われたのです。その車を私達は米国で220万台売り、全世界で600万台近く売ったのです。」

"Now, I realize there is no shortage of naysayers regarding the viability of this technology and the infrastructure to support it. Personally, I don’t care what Elon, Carlos or Jonathan say about fuel cells. If they want to "plug in and tune out" other technologies, that’s fine.

It reminds me of all the head scratching when Toyota made a commitment to hybrid technology back when gasoline was a buck a gallon. The Prius was dismissed as a PR gimmick and a science experiment. Well, we’ve since sold over 2.2 million hybrids in the U.S., and nearly 6 million sales worldwide."
(2014.06.21)

関連ブログ: 
 ●『「水素社会」は来るか? 今後の水素エネルギー利用の方向』
 ●『低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?』
 ●『燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する』

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ホンダ・アコードPHEVのプラグインハイブリッド燃料消費率

Accordphevcover_2米国で昨年(2012年)11月に「2014 Accord PHEV」として仕様が発表され、本年(2013年)1月から販売されていたホンダの「アコードPHEV」の日本での発売が発表された。メーカー発表の諸元(下表)を見ると燃費の優れたセダンで、既発売のプリウスPHVやアウトランダーPHEVと合わせてユーザーの選択肢が拡がったが、当面は法人・官公庁向けのリース販売のみとなっている。Accordphevspec

以下、このアコードPHEVのプラグインハイブリッド燃料消費率など燃費関連データについて考察してみる。

1.ホンダ・アコードPHEVのプラグインハイブリッド燃料消費率

Hondaaccordphevdatajc08アコードPHEVの燃費関連データをまとめて左表に示す。

充電電力使用時走行距離(充電電力で走行している領域においてエンジンが作動しない全電力走行の場合はEV走行換算距離(等価EVレンジ)と同じ値になる)が37.6kmなので、これからユーティリティファクター(略してUF、電力走行距離割合)を計算することになる。

日本の自動車の走行データに基づくユーティリティファクター(UF)の値としては、①筆者が2007年に導出したものと、②国土交通省が2009年に提示したものがある。下の図は、外部充電電力による走行距離(EV走行換算距離)を横軸にユーティリティファクターを縦軸にとって関係を示したもので、①「堀」の値は2004年自動車輸送統計報告書から全国の自家用乗用車・登録自動車(小型車・普通車)を対象として導出したもの、②「国交省」の値は「JCAP自動車使用実態調査より」と記載されているが対象車種などの詳細は示されていない。

Ufcomparemlitandhori3j_2アコードPHEVのEV走行換算距離の37.6kmからユーティリティファクターUFを上記国土交通省の実施要領(国自環第85号、2009年7月)記載の式から算出するとUF=0.58795となる。

アコードの場合、充電電力で走行している領域(プラグインレンジ、CDレンジ)でも走行負荷によってはガソリンエンジンが作動するパラレル型(Blended)PHEVであるが、JC08モードではガソリンエンジンの作動はなく「専ら外部充電による電力により走行」する「AE(All Electric)モード」であったので、下記の計算式によって、プラグインハイブリッド燃料消費率が算出される。*

  プラグインハイブリッド燃料消費率=ハイブリッド燃料消費率/(1-UF)

アコードPHEVの数値を入れると、 [プラグインハイブリッド燃料消費率=29.0/(1-0.58795)=70.4km/L] と計算される。

*注: 「ユーティリティファクター」や「プラグインハイブリッド燃料消費率」の算出については、別記事の「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領」で解説をしている。

なお、ユーティリティファクターおよびプラグインハイブリッド燃料消費率の導出においては、①使用した統計の母集団の平均と同じドライブパターン*の走行、②充電は1日1回で走行は満充電の状態から開始の条件を想定している。

*注: 「ドライブパターン」とは「1日あたりの走行距離の頻度分布」でこちらの図のようにドライブパターンのデータからユーティリティファクターが求まる。

国土交通省がPHEV用に定義した代表的表示燃費の「プラグインハイブリッド燃料消費率」(「複合燃料消費率」とも呼ぶ)は、充電電力とガソリンの両方を消費して走行した全距離(km)を消費したガソリン量(L)のみで割った値であることに注意が必要である。すなわち、外部充電に要した電力消費量は計算に入っていない。(PHEVのユーティリティファクターと燃費に関する一般的問題についてはこちらの記事の注記1を参照)

2.PHEV3機種の燃費関連データの比較とPHEV代表燃費表記の課題

一般にPHEVが大きなバッテリーを搭載すると外部充電電力による走行距離の割合が大きくなり、ガソリンを消費してハイブリッド走行する距離の割合が小さくなる。国土交通省定義の「プラグインハイブリッド燃料消費率」はガソリン消費量のみで全距離を割って算出し電力消費は計算に入ってないので、搭載するバッテリーの容量が大きくなると、プラグインハイブリッド燃料消費率の値は大きくなる。プラグインハイブリッド燃料消費率には、バッテリー容量(正確には一充電消費電力量)のほかに電力消費率とハイブリッド燃料消費率の値も影響する。

3phevjc08comparison2右表は国内で販売されている3機種のPHEVの燃費関連のデータを比較したもの。

トヨタのプリウスPHVは4.4kWh容量のバッテリーを搭載してEV走行換算距離が26.4kmなので、ユーティリティファクターは0.48となり48%の距離を外部充電電力で走行する。プラグインハイブリッド燃料消費率は、残りの52%の距離をハイブリッド走行するために消費するガソリン量で全走行距離を割るので61.0km/Lと計算される。

ホンダのアコードPHEVは6.7kWh容量のバッテリーを搭載してEV走行換算距離が37.6kmなので、ユーティリティファクターは0.59となり59%の距離を外部充電電力で走行する。プラグインハイブリッド燃料消費率は、残りの41%の距離をハイブリッド走行するために消費するガソリン量で全走行距離を割るので70.4km/Lと計算される。

三菱のアウトランダーPHEVは12kWh容量のバッテリーを搭載してEV走行換算距離が60.2kmなので、ユーティリティファクターは0.72となり72%の距離を外部充電電力で走行する。プラグインハイブリッド燃料消費率は、残りの28%の距離をハイブリッド走行するために消費するガソリン量で全走行距離を割るので67.0km/Lと計算される。

右表には記載してないが、GMのレンジエクステンダー型PHEVのボルトは16kWh容量の大きなバッテリーを搭載しているので、この2013年型をもし日本に持ってきてJC08モードで走行させた場合はユーティリティファクターが0.83程度になると想定され、83%の距離を外部充電電力で走行する。プラグインハイブリッド燃料消費率は、残りの17%の距離をハイブリッド走行するために消費するガソリン量で全走行距離を割るので141km/Lという大きな値に計算される。

この表のプラグインハイブリッド車3機種は、いずれもプラグインハイブリッド燃料消費率が60km/L 以上と通常のエンジン自動車の燃費とはかけ離れた値になっており、一般ユーザーにとってその意味を理解し難い場合がある。このプラグインハイブリッド燃料消費率は、平均的ドライブパターン(厳密には、ユーティリティファクターを導出するのに使用した統計の母集団の平均ドライブパターンと同じようなドライブパターン)のユーザーが1日1回の充電で満充電から走行開始する場合にこの値で全走行距離を割ると消費するガソリン量になることを意味している。*

*注: ただし、JC08燃費の実用燃費から乖離の問題があり、実用燃費・電費がJC08燃費・電費の2/3と仮定するとEV走行距離(ユーティリティファクター)とハイブリッド燃料消費率の両方が下がるので、実用のプラグインハイブリッド燃料消費率はJC08の半分程度に下がる。

ただ、プラグインハイブリッド車が大容量のバッテリーを搭載して走行距離の過半を外部充電電力で走る時に、プラグインハイブリッド燃料消費率にその電力消費量が含まれていない点は代表的燃費として問題がないとは言えない。この課題については別記事において考察し代表的燃費表示のための方法を検討している。

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自動車電動化の動向調査 — ある一日(6月12日)の情報紹介

Meguruugoki私は2005年からプラグインハイブリッド車を中心に自動車電動化によるエネルギー・環境効果の研究をしており、その一環として自動車電動化を巡る世界の動きを調査・分析してきています。

この調査・分析を「自動車電動化を巡る主な動き」(2009年までは「PHEVを巡る主な動き」)と題する資料に時系列の表形式でまとめて、ユニバーサルエネルギー研究所のサイトに2005年分から掲載しています。(直近の情報は1ヶ月ごとに追加して上記サイトで数ヶ月後に公開)

収集整理する主なニュース・情報としては海外発信のものを中心に月15~20項目を選んでいます。自動車電動化に関係する情報はこの調査を開始した8年前に比べると最近は格段に増加しており、現在は毎月180件ほどの情報をファイルとして整理保存しています。

以下、昨日(2013年6月12日)1日に私が読んだここ2,3日のニュースから主なものを簡単に紹介してみます。

①トヨタ・ヨーロッパ: 電力がクリーンでなければEVを入れる意味がない

Toyota_prius_phvトヨタ・ヨーロッパの政府・環境担当ヘッドが地球環境NGOのRTCCに対して「ヨーロッパの電力の多くが再生可能エネルギーによって供給されていない現状では、プラグイン自動車を入れる意味がない」などと語って話題になっています。

充電する電力の脱炭素化で自動車消費エネルギーのWell-to-Wheel(総合)CO2排出量を減らすことの重要性を述べています。脱炭素のために電源構成に占める再生可能エネルギー発電の割合を増加させると系統安定化(Firming)のためのアンシラリーサービス必要量が増え、自動車電池と電力系統間の双方向電力流通(V2G)が有用になり、この点からプラグイン自動車の導入が必要になってくることになります。

②テスラの電池パックの単価

Tesla_battery_packテスラの電池の値段を聞かれて同社CEOのElon Muskがインタビューを途中で打ち切ったニュースが出ていましたが、Green Car Reportsではテスラの電池パックの単価について「一般に言われている$400/kWhではなく$170/kWh程度」ではと考察しています。

それにしても、テスラが使用している乾電池型の「18650」セルの市場単価は$100/kWh以下もあり、テスラがこのような汎用品を使ったのは先見の明があったと言えそうです。

③コンボ型急速充電に動き

Combinedchargingsystemsae米国自動車技術会が急速充電の規格としてコンボ方式を発表(2012年10月)してから8ヶ月経ちますが、ヨーロッパなどでチャデモ方式設置のニュースはあってもコンボ方式の進展のニュースはあまり聞こえてきませんでした。この間、BMWはGMとコンボ方式の使用試験を行なってきており、今週(13年6月11日)BMWほこれらの使用試験が完了したことを発表しました。既に、BMW i3 EVとGM Spark EVでは急速充電にコンボ方式の採用が決まっており、これら機種が米国で導入される時点でコンボ充電が使用されると述べています。(ニュースBMW発表

コンボ方式の規格もようやく動き出したようですね。ここに解説を載せていますが、コンボ型にすることによって車側に切る普通充電と急速充電を一体化したインレット(ソケット)の面積を小さくできるメリットがあるとは言え、この急速充電用コネクター(プラグ)はチャデモよりも大きい! 一方、販売好調のテスラは独自の急速充電「スーパーチャージャー」方式(現在90kW、将来120kW)で全米にネットワークを広げる勢いで、急速充電インフラの先行きは要注目。

④DOEのプラグイン自動車用の燃費に新指標「eGallon」

Egallonプラグイン自動車がどの程度経済的か一般の人に判りやすいように、DOEが電力走行した時にガロン何$のガソリンで走ったことになるのかを示す「eGallon」という指標を導入しました。DOEはこのガソリン走行と電力走行のコスト比較が簡単に理解できるように説明した「eGallon」サイトを開設しました。(ニュースDOEのeGallonサイト

この指標では、例えば電力走行するとガロン$1.14のガソリンで走ったことに相当することを示して、レギュラーガソリンの市場価格のガロン$3.65より遥かに安いことを実感させるようにしています。「eGallon」は有用で面白い指標ですが、上のDOEサイトの説明には欠陥があるとのコメントも出ています。

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昨日のその他の主なニュースは;

Aptera2e⑤EPRI(米国電力研究所)がプラグイン自動車のTCO(全保有費用)を計算して現状でもガソリン自動車とコンパラブルと評価(ニュースEPRI発表・ダウンロード

⑥米国の幾つかの州で道路財源としてのEV課税の動きがありミシガン州でも議論(ニュース

⑦研究機関Naigantによる2020年までの世界のHEV、PEV導入予測の発表

⑧2011年に資金難から開発を中止していたユニークなスタイルの軽量3輪自動車の「Aptera 2」(BEVの「2e」およびPHEVの「2h」)が中国の資金で復活?(ニュース

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EV走行距離の適正値など プラグインハイブリッド車の今後の方向を探る – 背景・関連トピックス --

At1305cover日経Automotive Technology」は日経BP社が発行する「自動車エンジニアのためのバイブル」、「自動車・自動車関連製品の開発・製造にかかわるエンジニア向けに発刊する日本初の自動車技術総合誌」。

Atphev3この隔月刊の専門誌の2013年5月号の「Features解説」の一つが「PHEVの本命はどれか? EV走行距離の理想を探る」というタイトルで次の書き出しの記事。

「自動車メーカー各社から発表が相次ぐPHEV(プラグインハイブリッド車)。2013年には、3メーカーから新型車が登場し、既に発売していたトヨタ自動車、米GM社と合わせて合計5社から選べるようになった。しかし、それぞれのモータ出力、EV(電気自動車)走行距離といった特徴は、いずれも大きく異なる。本命のPHEVはどれか、各社の考え方を見ていく。」

私は先日この解説に関係してAutomotive Technology編集部の取材を受けました。その時お話した内容は記事の中の「EV走行距離の適正値」の節に約1ページに亘って要領よくまとめられています。

ここではこの「EV走行距離の適正値」などPHEVの今後の方向を探る上で参考になりそうなトピックスをまとめてみました。個々の内容は既にこのブログで取り上げたものもあり、リンクから適宜元記事を参照ください。

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1.日米欧、PHEVへの要求、EV走行距離の背景

uf3countriesユーザーの全走行距離の中で外部から充電した電力によって走行する距離の割合を「ユーティリティファクター」と言うが、例えば日・米・欧のユーティリティファクターを比較すると左図のように、EV走行距離(外部充電電力で走行する距離、CDレンジとも言う)に対するユーティリティファクターは日本・EUは米国より相当高い値になっており、日本・EUは米国より平均的に短距離走行型と言える。(参考:「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」)

すなわち、平均的には日本は米国より小さい電池で同じEV走行の効果を得ることができる。図の値はその地域の平均ユーザーに対するもので、実際は個々のユーザーのドライブパターン(1日当たりの走行距離の頻度分布)が異なるので、個々のユーザーのユーティリティファクターは異なる。それ故PHEVの充電電力によるEV走行距離、すなわち電池の容量はそれぞれのユーザーに合わせて選択できることが望ましい。

2.PHEVがHEVにまして経済的メリットを得るには?

プリウス級のPHEVとHEVをガソリン+電力のエネルギー消費費用で比較すると、現状のガソリン価格(150円/L)と電力料金(昼間25円/kWh、深夜10円/kWh)では、電力走行費用はガソリン走行費用の約60%と安い。(深夜電力ならば約24%とさらに安くなる)


 プリウスPHVについて計算
  ガソリン150円/L、電力25円/kWh、深夜電力10円/kWh
  JC08審査値、EV走行電費8.74km/kWh、HEV走行31.6km/L

 JC08電費・燃費を基準として計算
  電力走行km単価  25/8.74=2.86円/km(深夜電力1.14円/km)
  ガソリン走行km単価 150/31.6=4.74円/km

 実用電費・燃費(=JC08電費・燃費x0.7) を基準として計算
  電力走行km単価 4.09円/km(深夜電力1.63円/km)
  ガソリン走行km単価 6.78円/km


一方、車両の価格はPHEVの方がHEVより現状では相当高い。例えば、プリウスPHVの場合は同格のプリウスより約90万円高価格に設定されている。このPHEVの車両価格が下がれば上記のエネルギーコストの安さから、HEVよりPHEVの方が経済的に有利になる。
プリウスPHV      電池4.4kWh 基礎額との差 90万円
アウトランダーPHEV  電池 12kWh 基礎額との差 86~93万円

PHEV車両価格が高い原因は電池コスト高によると言われている。DOEなどによると現在の電池単価(パック)は$650/kWh(約6万円/kWh)程度なので、PHEVの現在の価格はこの電池コストから推算される値よりも高い設定になっている。その一因としてはPEVの導入補助政策などがPHEV価格低下とは逆の方向に作用していることも考えられる。
[DOE: GM Volt PHEVの電池コストは$10,000/16kWh、∴PHEV用$625/kWh。Ford社CEO: Ford Focus BEVの電池コストは$12,000~$15,000、∴BEV用$522~$652/kWh]。

PHEV価格が下がって、EV走行距離40km程度(実用燃費ベース、電池容量は10kWh程度)のPHEVが補助金も含めてHEVとの価格差30万円程度になると平均的ユーザーにとってPHEVがHEVと10年全保有費用(TCO)で同程度になる。

 実用燃費基準
  [4.74x10000x10-{4.74x4000x10+1.14x6000x10}]/0.7=30.9万円

短距離走行などPEV(PEVプラグイン自動車はPHEVプラグインハイブリッド車とBEV電気自動車など系統電力充電型自動車の総称)に向いた走行環境の場合、例えば80%の距離をEV走行できるユーザーの場合は、価格差40万円程度で10年全保有費用が同程度になる。
 実用燃費基準
  [4.74x10000x10-{4.74x2000x10+1.14x8000x10}]/0.7=41.1万円

Utilityfactorbymlit3EV走行距離40km程度(実用燃費ベース)のPHEVで、もしガソリン価格が200円/Lになると、HEVと経済的に競合可能な価格差は平均的ユーザーで45万円、短距離走行ユーザーで60万円となる。

4.4kWh電池を搭載する現行のプリウスPHVは、補助金を入れても同格のHEVとの差額は45万円程度だが、これが10kWh電池を搭載して同格のHEVと補助金込で差額30万円(ガソリン150円/L)~40万円(ガソリン200円/L)以下になれば、HEVと経済的に競合可能になる。この仕様・価格のPHEVを平均より短距離走行型のユーザーが使用するとPHEVの経済的メリットが出てくる。

因みに、実用EV走行距離40kmのPHEVでは日本の平均的ユーザーは全走行距離の6割を電気で走れることになる。(右図: 国土交通省定義の電力走行距離割合。参考「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領」)
(注: PHEVのユーザー保有費用検討は2009年自動車技術会論文集に掲載

3.EV走行距離とCO2削減の効果

Stwco2emissionw2011a_2外部充電型自動車(PEV: PHEVとBEV)のCO2削減効果は発電のCO2排出原単位(係数)によって変わる。電源のCO2排出原単位(kg/kWh)と自動車のCO2排出量(g/km)の実用燃費基準の関係は下図。(参考1「電気自動車を火力発電で動かすより、ハイブリッド車の方がCO2排出は少ない?」、参考2「エネルギー・環境対応型自動車の総合CO2排出量」)

2010年度までの日本全体の電源構成では、BEVやPHEVはHEVよりCO2排出が少なく、またPHEVでもEV走行距離が大きい車は削減効果が大きくなっている。ただし、電力会社によってCO2排出原単位は大きく異なっているで、地域によってPEV導入によるCO2削減効果は変わる。

2011年度以降は原子力発電の停止により発電のCO2排出は増加しており、現状の電源構成ではBEVやPHEVのCO2削減効果はHEVと同じレベルになっており、今は充電電力利用によるCO2削減メリットはない。

将来、日本の電源を再びCO2排出の少ない構成にすることによりPEV導入のCO2排出削減メリットが出てくる。

4.EV走行距離: 車種による違いからオプションで選択可能に

現在発売中のPHEVについて米国における「EPA複合燃費」にもとづく「EV走行距離」と「ユーティリティファクター」(UF)の値は次の通り。なお、このEPA複合燃費は都市走行と高速走行を55%・45%で調和平均したもので日本における実用燃費にも近い。


 GM Volt
  シリーズ(レンジエクステンダー)型PHEV
  電池16kWh EV走行距離38マイル UF=0.66
  (* 高負荷時はエンジン直接駆動を併用)

 フォード FusionおよびC-Max Energi
  パラレル(ブレンド)型PHEV
  電池7.6kWh EV走行距離21マイル UF=0.48

 トヨタ プリウスPHV
  パラレル(ブレンド)型PHEV
  電池4.4kWh  EV走行距離11マイル UF=0.29


以上のほか、ホンダ・アコードPHEV(電池6.7kWh、EPA EV走行距離13マイル)や三菱・アウトランダーPHEV(電池12kWh、JC08EV走行距離60.2km、EPA複合は25マイル程度か?)などが発売されており、シリーズ型~パラレル型でそれぞれ特色のあるPHEVが市場に出てきている。

これら発売されているPHEVを比較すると、PHEVの機構や電池の容量に大きな違いがあり、EV走行距離では3倍以上の開きがある。

米国のカーネギーメロン大学が行った次世代自動車による石油消費削減やCO2排出低減など国レベルでの効果の評価結果では、短期的にはHEVと小容量電池搭載のPHEVが最もコスト効率が良いとしており、米国の現行のPEV導入補助政策(4kWhから16kWhまでの電池を搭載するPEVに電池容量に応じて最大7500ドルの税額減免をする)とは異なった方向を提言している。この定量解析と考察の出典は; Michalek, J.J., M. Chester, P. Jaramillo, C. Samaras, C.-S. Shiau, and L. Lave (2011) "Valuation of plug-in vehicle life cycle air emissions and oil displacement benefits," Proceedings of the National Academy of Sciences, v108 n40 p16554-16558.

このカーネギーメロン大学の評価の結論は;

「短期的にはHEVと小容量電池搭載のPHEVは、CO2排出削減と石油代替効果において最もコスト効率が良い。
将来、大容量バッテリ搭載のPEVは、もし「低価格/長寿命の電池・高額なガソリン価格・低CO2排出の発電」の条件が揃えば、最も低コストでより大きなメリットを提供する可能性がある。
最も効率のよい政策は「炭素税・キャップアンドトレード・ガソリン税」などの外部性を直接対象にすることで、このような政策が無い現状においては電動自動車推進のための連邦政府の補助や政策は、大容量電池ではなく小容量電池の選択に注力することによって、より低いコストでより大きなメリットを得ることができる」

この評価は、PEVの適切なEV走行距離に対して国・社会のメリットという観点から検討したものだが、ユーザー個人のメリットという観点からはどうであろうか?

PEVを購入・利用する際の一般ユーザーの心理として、購入の際は出来るだけEV走行距離の長い車を好み、利用の際は出来るだけEV走行割合が多くなるように充電に努める傾向があるようだ。このユーザー心理を受容しつつ適切な車種・仕様選択の助けになる方法として、ユーザー毎のドライブパターン(1日あたりの走行距離の頻度分布)から最適のEV走行距離を算出・提示するサービスがある。この最適EV走行距離のデータをもとに各ユーザーに適した電池容量をオプションで選べるようになればPHEV使用のメリットが大きくなる。

ユーザーのドライブパターンを今乗っている車(PEVである必要はない)に細工して記録できるようにし、このデータからユーティリティファクターを計算して、そのユーザーに最適のEV走行距離を算出・提示するサービスをメーカーがユーザーの目に見える形で提供すれば、ユーザーはPHEVを使用するメリットを事前に確認できる。さらに、電池容量/EV走行距離がオプションで選択可能になればPHEV普及の大きな推進力になると思っている。(参考「プラグインハイブリッド車の最適電池容量 -- ユーザー各人のドライブパターンを知る」)

5.普及時期の考察

Metiscenarios次世代自動車の導入予測は日本および世界の多くの機関から発表されている。政府による政策立案やエネルギー研究機関によるシナリオや予測は、国の将来の望ましいエネルギー・環境・産業などの方向を探るため、次世代自動車の積極的導入の傾向がある。一方、業界やその関係の調査機関による将来予測は現実の延長として控えめな傾向がある。経済産業省が2010年にまとめた「次世代自動車戦略」における次世代自動車目標も「政府普及目標」と「民間努力見通し」の2本立てになっている。(参考「次世代自動車戦略2010」)

Ueriscenarioユニバーサルエネルギー研究所は2009年に自動車電動化による石油消費削減とCO2排出低減の効果を調べるために、21世紀半ばに至るHEV、PHEV、BEVの導入シナリオとその効果を定量評価した。(参考「ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの次世代自動車導入の環境・エネルギーへの効果」)

このシナリオでは、PHEVを2015年~2020年に本格導入開始し、保有台数で2025年頃にHEVを抜き2030年頃にはICEVを抜いて主流になるシナリオを想定している。これにより「新・国家エネルギー戦略」などに示されているエネルギー消費効率、石油依存脱却などの目標を達成できる。Ueriscenarioresults

6.次世代自動車導入に関わる重要項目

次世代自動車、その中でもエネルギー・環境的に重要なハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車などの電動自動車の導入に関わる重要項目として、下記が挙げられる。

 ◉ エネルギー・環境政策と整合をとった自動車電動化政策
 ◉ 電源構成のCO2排出低減化
 ◉ 電動化技術の開発(とくに電池の性能向上・コスト低減)
 ◉ 充(放)電インフラの整備とV2B・V2Gによるエネルギー統合利用
 ◉ 政府による導入普及への助成政策(キーテクノロジー開発助成など)
 ◉ PHEVのエンジン/燃料電池燃料のバイオベースへの転換(長期)

当面は下記のように、HEVの導入加速、それに連動したPHEV化の進展、近距離コミューターBEVの着実導入などが重要と考える。

 ◉ 米国においてPEVは2012年に3倍増の実績、2013年に2倍増が予想されている。まだ絶対数が少ないので当分は倍々増の導入が進む。1月末のチューDOE長官の発言にあるように、オバマ大統領の2015年PEV100万台の目標は後退したが、新に9年計画で自動車電動化を着実に進める戦略を提示している。

 ◉ 日本ではHEV導入が急速に進んでいるが、PHEV化は車両価格が割高のために遅い。PHEVについてはメーカーによる価格削減努力とクリーンエネルギー自動車等導入費補助金の仕組変更が重要となる。

 ◉ 充電インフラ整備では、米国が2013年1月から始めた「ワークプレイス充電チャレンジ」(参考)のように「勤務先充電」設備の充実が、集合住宅居住者への導入促進や電力走行割合の増加に急速充電器の増設よりも経済的・効果的と考える。

 ◉ BEVは搭載する電池のコスト・重量によりEV走行距離が制限され、BEVの主な市場は近距離コミューター・近距離商業車利用などで、電池のコスト削減・エネルギー密度向上などによりBEV市場の拡大は着実に進むが、エネルギー環境対応車の主流はHEVからPHEVの路線と考える。

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勤務先充電の重要性と米DOE・EDTAのチャレンジ

勤務先充電のメリット

Workplacecharging自動車で通勤している人は、都会では少数派だが地方では多い。米国の自動車利用の統計では、下の表のように平均として勤務先に駐車している時間割合は家の次に多い。(左の図の出所Chargingtpo

それ故、プラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(BEV)などのプラグイン自動車(PEV)の利用において、勤務先に充電設備があれば次のようなメリットがある。

Ufforvariouschargingoccasion(1) プラグインハイブリッド車を利用して通勤している人にとっては、家での充電に加えて目的地でも充電ができれば、充電電力での走行(EV走行)の割合が増加し(左図)、車のEVレンジが通勤の片道の距離より大きい場合はEV走行のみで済ますことも可能となる。

(2) 電気自動車を利用して通勤している人にとっては、家での充電に加えて目的地でも充電ができれば、例えその車の電池航続距離が往復距離以上の場合でも、渋滞や寄り道などの際の「航続距離不安」(Range Anxiety)を軽減することが出来る。

(3) 勤務先での駐車時間(勤務時間の数時間)の内に充電ができれば、上に述べたプラグイン自動車利用者に対するメリットのほかに、今まで充電設備がない集合住宅住まいの人でも、家で充電する代わりに勤務先で充電するサイクルにすることにより、プラグイン自動車を利用する可能性が出てくる。この場合は休日などの走行を考えると電気自動車よりプラグインハイブリッド車の方が適している。

米国の「勤務先充電チャレンジ」

米国では以前から勤務先充電(Workplace Charging)の重要性が認識されUCLAなどがその効果について研究していた。

130131dcautoshow106e13597458235762013年1月のワシントン自動車ショーの機会に、DOEのChu長官と全米電動自動車協会(EDTA)のWynne会長が共同で「勤務先充電チャレンジ」を発表(DOEEDTA)し、企業側が勤務先充電の数を今後5年間に10倍にする目標を示した。発表では、このチャレンジに加わるGoogle、Siemens、GE、3Mや自動車メーカーのGM、Ford、Chrysler、日産、Teslaなど13企業の名前が挙げられている。130131dcautoshowevpartners(写真の出所

米国政府はこれに先立って2012年3月にオバマ大統領が「どこでもEV大挑戦」(EV Everywhere Grand Challenge)を打ち上げ、2012年8月に米国エネルギー省(DOE)が「10年以内にガソリン車なみに入手可能なプラグイン自動車を世界に先駆けて米国で生産する」というチャレンジ目標を達成する3つのシナリオを含む構想をパブコメしていた。

上記2013年1月のワシントン自動車ショーでの共同発表に合わせて、DOEは「勤務先充電チャレンジ」(Workplace Charging Challenge)を組み込んだ「どこでもEV青写真」(EV Everywhere Blueprint)を発表している。

勤務先充電設備の要件

Googleworkplacecharging「勤務先充電」の充実は自動車電動化推進に最も効果がある方策の一つである。日本におけるこれからの勤務先充電設備の設置に際しては、その定着・継続のために経済性・公平性・将来性などに留意して充電設備は次の要件を満たしていることが望ましいと考えている。(右の写真はCALSTART & Google "Workplace Charging Workshop"の資料から)

 ① 200V普通充電で30A・6kWの容量にする(注1参照)
 ② 充電電力量、充電時間、充電回数などに応じた適切な課金をする
 ③ 充電集中による電力ピーク・電力契約料金増などを抑えるために、輪番制やデマンドレスポンスなどの適切な充電制御をする
 ④ プラグイン自動車利用者の増加に従って設備を増設する
 ⑤ 将来のV2B~V2Gなど自動車電力の系統利用の可能性を検討して設計する

注1: 現在の日本のプラグイン自動車の普通充電は200V・15A・3kWまでだが、米国ではSAE J1772 Level 2で220V・30A・6.6kWのプラグイン自動車が販売されており(日産のリーフも米国では2013年型から6.6kWを標準またはオプションで装備)、市販の充電設備(EVSE)もLevel 2は30A・6.6kW容量になっている。3kWから6kW充電にすることにより充電時間が半分になることはユーザーにとって利便性が大きく、また将来のV2B~V2Gなどの容量型の系統サービスにおける効果も大きい。

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プラグインハイブリッド車:目的地への距離による電池SOCの計画制御(追記1)

Soccontrolkeisanrei22009年にこのブログに「続・充電型電動自動車をよりエコロジカルに -- ユーザーの利用方法・メーカーの提供方法」(2009.12.24記載)として、「目的地への距離に基づいてプラグインハイブリッド車の電池充電率を計画制御する」方法について書きましたが、最近(2012年11月)これと同様のアイディアの「EV+」をFord社がC-MaxとFusionのPHEVとHEVに標準装備し、特許を申請したと発表しました。(上記ブログ記事の追記1を以下再録して解説します)

筆者提案の方法

プラグインハイブリッド車のユーザーがカーナビに指定した目的地が充電可能な場所である場合、車が目的地に到着した時に自動車駆動用電池の充電率(State of Charge, SOC)が許容最低の値になるように、電池充放電計画を計算してSOC制御を行えば、プラグインハイブリッド車のエンジンによる駆動距離を小さくすることが出来、系統充電による電力走行距離を大きくすることが出来ます。

この設定した目的地への距離によりSOC制御を行う方法は制御プログラムの追加のみで費用はあまり掛からず、ハイブリッド走行(CSモード)にかかる距離すなわちEV走行(CDモード)を超える距離を運転するトリップ毎に一定の効果が期待できます。それ故、この方法をメーカーが装備・提供しユーザー設定で使用可能にすることにより、ガソリン使用量減少・CO2排出削減・ユーザー費用節減などの効果が期待できます。(右の表はSOC計画制御の効果の試算例、詳しくは上記ブログ参照)

Ford社の方法

Cmx13_models_detailflip_smartgauge米国のFord自動車がこのアイディアと同様の機能の特許を申請し、PHEVのFord C-Max EnergiとFusion EnergiおよびHEVのFord C-MaxとFusionに「EV+(plus)」(イー・ヴィー・プラス)と名付けて標準装備しました。

「EV+」はGPS によりHEV・PHEV が家に近づくと自動でEV モードになり、HEV では排ガスや音なしで走行でき、PHEV では筆者の上記アイディアと同様に充電場所にSOC 最低で到着できるのが特長。Ford社は「車上データの活用により車をより賢くする探索の最初の例」と言っています。

左の写真は「SmartGauge®」、EV+はこの一部でFord社がメーカー装備としている通信・エンタメシステムの「Ford Sync®」にGPSを組み込み位置同定を行なってSOCを制御するアルゴリズムを動かしているそうです。
(Ford社のプレス発表による)

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プラグインハイブリッド車の最適電池容量 -- ユーザー各人のドライブパターンを知る

プラグインハイブリッド車は、電気自動車とハイブリッド車の両方の特長を持っており、その燃費性能は次の3つの数値で表すことができる。
 ① 充電した電力で何km走るかという充電電力使用時走行距離、
 ② 電力走行時に1kWh電力で何km走るかという電力消費率、
 ③ ハイブリッド走行時の1リッターのガソリンで何km走るかというハイブリッド燃料消費率

例えば、トヨタ・プリウスPHVの燃費性能(国土交通省審査値)は次のようになっている。
 ① 充電電力使用時走行距離: 26.4 km、
 ② 電力消費率: 8.74 km/kWh、 
 ③ ハイブリッド燃料消費率: 31.6 km/l

また、三菱・アウトランダーPHEVの燃費性能(国土交通省審査値)は次のようになっている。
 ① 充電電力使用時走行距離:60.2 km、
 ② 電力消費率:5.90 km/kWh、 
 ③ ハイブリッド燃料消費率:18.6 km/l

一般に自動車の燃費は、ガソリン1リッター何kmという値で表すのが普通なので、プラグインハイブリッド車についても、上の3つの燃費性能を一つにまとめた「プラグインハイブリッド燃料消費率」(複合燃料消費率)という値を国土交通省が定義しており、この燃費もメーカーのカタログに掲載されている。プリウスPHVの場合はこの値は61.0 km/l、アウトランダーPHEVの場合は67.0 km/lとなっている。

Ufcomparemlitandhori2j系統電力とガソリンの2つのエネルギーにより走行する場合に、どちらをどのくらい消費するかは、充電と充電の間に走る距離によって変わる。国土交通省では、日本の自動車が1日あたり走行する距離の統計データをもとに、プラグインハイブリッド車の電池容量と充電電力走行距離の全走行距離に占める割合の関係を提示している。は、プラグインハイブリッド車の電池容量によってきまる充電電力による走行距離(横軸)と電力走行距離割合(「ユーティリティファクター」と呼称、縦軸)の関係を示したもの。 

「プラグインハイブリッド燃料消費率」は、このユーティリティファクターとプラグインハイブリッド車の燃費性能を用いて次式で計算することになっている。(ただし、外部充電電力走行時にエンジン駆動が加わる所謂「ブレンド走行」の条件では別の式)

プラグインハイブリッド燃料消費率 = ハイブリッド燃料消費率/(1-ユーティリティファクター)

プリウスPHVの場合は充電電力使用時走行距離=26.4kmなので図からユーティリティファクター=0.483となりプラグインハイブリッド燃料消費率=61.0 km/l になり、アウトランダーPHEVの場合は充電電力使用時走行距離=60.2kmなので図からユーティリティファクター=0.723となりプラグインハイブリッド燃料消費率=67.0 km/lになる。

因みに、上記国土交通省のプラグインハイブリッド燃料消費率はガソリン消費量のみに着目し電力消費は含めてないが、米国環境省のプラグインハイブリッド車の燃費表示は電力消費量を熱量的に等価のガソリン量に換算・加算した等価燃費を使用している。ガソリンと電力のエネルギー等価性を考慮したプラグインハイブリッド燃料消費率の表示に関する考察はここに提示している。

さて、このプラグインハイブリッド燃料消費率は、あくまでも日本の平均的ユーザーのドライブパターン(1日あたりの走行距離の頻度分布)と同じ場合に当てはまるもので、個々のユーザーには其々のドライブパターンがある。

460020_2自動車関連の情報・サービスを提供する総合自動車ニュースサイトの「レスポンス」の三浦編集長のプリウスPHVの場合について計算してみよう。Miuras_phv3_driving_patternレスポンスの2012年8月の【PHVオーナーの夏】「妻は30kmのEVモードを望んでいる」の記事に出ていた111日間の走行距離のデータ(表)を1日走行距離(距離範囲の中点を使用)の累積頻度で整理すると、右図のようになる。三浦家の場合、1日の走行距離が30km以内の日が全体の2/3を占めているが、一方で200km~600km走行の頻度が5%以上あり、日本平均と比較するとこの図のさらに長距離側の割合が多く「長距離走行型」と言える。

Miuras_uf2このドライブパターンから、三浦家のユーティリティファクターを求めてみると(計算方法はここの「走行パターンとユーテリティファクター」の項参照」)、左図に示すように同じ容量の電池を搭載した場合に電力で走行する割合が日本平均より少なくなる。ただし、通常のユーティリティファクターの算出では充電は1日1回で満充電から走行開始と仮定しているので、三浦家のように出先で継ぎ足し充電をする場合は電力走行割合は図の値より高くなる。

三浦家の場合、どの程度の電池容量がコストパーフォーマンス的に最適かは、電池コストなどを入れて評価する必要があるが、ユーティリティファクターのカーブの形から見て三浦夫人が希望する30~40kmが一つの選択肢と言えそうである。

レスポンスの三浦家のデータはPHEVでの111日間の記録であるが、別掲のMH氏の457日間のドライブパターンのデータのように長期になると推定の信頼性が高まる。MH氏のドライブパターンとそれから求めたユーティリティファクターを下の3つの図に示す。なお、ドライブパターンを求めるにはその人の1日あたりの走行距離の分布を知ることが出来れば良いのでプラグインハイブリッド車で取る必要はなく、今乗っているエンジン自動車などで取れば良い。

Mhfig2_3Mhfig3_2Mhfig4_2

プラグインハイブリッド車は将来、搭載する駆動用電池の容量をオプションで選択できるようになることが考えられ、その時のためにユーザーは自分のドライブパターンを把握しておくことは有用と考える。(別掲記事の追記2)

このためには、今乗っている車(PHEVである必要はない)の1日あたりの走行距離を記録しておけば良い。それにはカーナビに1日あたりの走行距離記録機能を装備したり、あるいはスマートフォンを利用してそのような記録サービスを提供したり、あるいは車のCANデータから1日あたり走行距離の記録・利用を可能にするなどの方法がある。

ユーザー個人のドライブパターンが判れば、ユーザーが将来プラグインハイブリッド車を購入する際に最適の電池容量を知ることでき、また標準搭載の電池容量でどのくらいの燃費が期待できるかを知ることができる。これについては筆者が数年前から自動車技術会などで提案しており、自動車メーカーは出来るだけ早く新車および既販売の自動車でデータ取得を可能にして将来のプラグインハイブリッド車ユーザーにサービスすべきと考えている。これはまたユーザーの囲い込みにもなると思う。

なお、ユーティリティファクターやカタログ燃費値(国土交通省審査値)はJC08モード基準なので実用燃費とは相当乖離していることに注意が必要である。上の方法でユーザーが最適電池容量を求める際には実用燃費性能で評価する必要があり、その際にはCarlifeNaviの「マイカー管理」や「e燃費」のデータは各人の実際の燃費を推測する上で役立つものと考えている。

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走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題

[本稿は、筆者が自動車技術会2012年春季大会で口頭発表し、その後自動車技術会論文集Vol.43, No.6, November 2012に掲載した資料「電力とガソリンの等価合成によるPHEV燃料消費率の表示」をもとに作成した。「その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領」はここ。]

Phevmodes2プラグインハイブリッド車(PHEV)は、最初の一定距離は外部電力によって充電した電気による電力走行をし、電池の充電率(SOC)が一定値まで減少した後はエンジン駆動のハイブリッド走行に切り替わる。エンジン自動車(ICEV)やハイブリッド車(HEV)では駆動エネルギー源はすべてガソリンなどの燃料であるのに対して、PHEVの駆動エネルギー源は外部から充電した電力とガソリンなどの燃料の二種類になる。このようなPHEVのエネルギー消費率を単一の代表的燃費値で表示する場合の、エネルギー消費率の単位・尺度(Metrics)、電力/燃料の共通単位への変換、電力/燃料の走行距離割合による加重などについて考察し、代表的燃費表示のための合理的方法を提示する。


走行領域・走行モード・電池SOC・燃料消費率

PHEVでは一般に、外部充電電力による電力走行の領域をCharge Depleting(CD)レンジと呼び、エンジン駆動によるハイブリッド走行の領域をCharge Sustaining(CS)レンジと呼んでいる。この二つの領域における電池のSOCおよびエンジン用燃料の消費率を、走行距離との関係で示すと図のように示される。

Aemode左図は、CDレンジを全部電力で走行する場合、すなわちAll Electric(AE)モードで走行する場合であり、シリーズ型(Range Extender)PHEVやパラレル型PHEVでCDレンジにおいてエンジン駆動がない条件の場合が該当する。


Blendedmode右図は、CDレンジにおいて電力駆動にエンジン駆動が加わるBlendedモードで走行する場合で、パラレル・ハイブリッド型PHEVでCDレンジにおいてエンジン駆動がある条件の場合が該当する。

なお、実際の走行では電池SOCおよび燃料消費率とも走行条件によって変動するがこれらの図においては模式的に直線で示している。


走行パターンとユーティリティファクター

PHEVのエネルギー消費を評価する場合、全走行距離に占める外部充電電力によって走行する距離の割合を想定する必要がある。この割合は米国自動車技術会(SAE)では「ユーティリティファクター」(Utility factor、UF)と呼称している。筆者が2006年に自動車技術会に発表したPHEVに関する論文では「電力走行(距離)割合」と呼んでいた。

UFの値は自動車の走行(ドライブ)のパターンで決まってくる。一人一人のドライブパターンが異なるのでUFも各人で異なる。そのため燃費表示などに使用する時は国全体の平均的なUFを定義して使用することになり、自動車走行に関する統計調査値から国全体の平均的UFを計算することになる。

HoriufこのドライブパターンからUFを算出する基本的な方法を左図に示す。この場合、使用したドライブパターンは、対象とする集団(個人を対象とするUFの場合は一人)の実働1日(車を使用した日)あたりの走行距離の頻度分布を言う。左図で使用した走行距離の頻度分布は、国土交通省が全国規模で年3回調査・発表している「自動車輸送統計報告書」の2004年のデータに基づいている。この輸送統計は、無作為に抽出した自動車の一定期間内各日の走行距離、走行目的、乗車人員などを調査したものであるが、公表されている乗用自動車(登録車および軽自動車)のデータはこれらを計算処理して一走行(トリップ)距離帯別の輸送人員に整理している。そのため左図に示したドライブパターンの値は、公表されているデータから仮定を置いて一日あたり走行距離別の自動車台数頻度を推定したものである。もし元の調査データを入手できれば、より確かなドライブパターンとUFの算出が可能と考える。


現在日本におけるPHEVの燃費表示に使用する公式のUFは、国土交通省が2009年に「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」等の一部改正に際して自動車工業会に通達した「プラグインハイブリッド自動車の燃費算定等に関する実施要領」の中に、図および近似式で示されている。同通達の中ではこのUFの値は「JCAPデータ自動車使用実態調査による」となっているが、対象車種・データ数・統計処理方法などは公表されていない。

Ufcomparemlitandhori2jこの国土交通省のUFの値と筆者による登録自動車のUFの値を比較すると、右図に示すように、異なる統計データから導出された二つのUF値が良い一致を示している。


Ufstatistical4米国の環境保護庁・運輸省道路交通安全局(EPA・NHTSA)によるPHEVの燃費算定には、SAEが2010年に改訂したPHEVのUFに関する規格SAE J2841記載の新しく定義されたUFを使用することになっている。それまでのFleet Specific UFも新しいIndividual Specific UFも、何れも2001年の全米世帯旅行調査(NHTS)の自動車走行統計データに基づいているが統計処理の方法が異なっており、左図に示すように新定義のUFは従来の値よりUF=0.5近辺で15%程度高い値になる。このことは、UFの算出において適切な統計処理方法を用いることの重要性を示唆しており、日本の燃費算定に使用するUFについても、使用する統計データおよび統計処理方法の精査・確認が必要と考える。


Uf3countriesなお、世界共通の自動車排出ガス・燃費などの試験法作成活動WLTP(Worldwide harmonized Light-duty Test Procedure)の場でもUFについて議論が行われており、右図のように日・米・EUのUFの比較が示されている。なお、EUのUFは簡易式によるもので統計データに基づいていない。日・米・EUのUFを同じCDレンジについて数値的に比較すると、日・EUは米より相当高い値になっており、日本・EUは平均的に短距離走行型であることを示している。


エネルギーの等価換算と走行レンジの合成

PhevflowchartPHEVの電力消費率とガソリン消費率は、CDレンジおよびCSレンジについて規定の燃費試験法に則って測定される。この試験結果を単一の代表的燃費値で表示する場合、左図に示すように電力とガソリンのエネルギー消費を等価換算など何らかの方法で一本化し、さらにCDレンジとCSレンジのエネルギー消費をUFを用いて合成する必要がある。(注: UFを用いて加重合算することを「合成」(Composite)と呼ぶ)


Equation1PHEVの単位距離当たりのエネルギー消費は、CDレンジの電力消費率およびCSレンジの燃料消費率を合わせたもので、UFを用いて(1)式により合成する。(注: Blendedモードの場合はCDレンジにおいてもガソリン燃料の消費がある。本稿ではAEモードについてのみ(1)式以下を示しているが、Blendedモードについても同様に式を導出することができる)

このようにPHEVの代表燃費をCDレンジとCSレンジのエネルギー消費をUFにより合成して導出する方法は、その前提として「走行はCDレンジから開始、充電は1日に1回、全国平均と同じドライブパターンの走行」を想定している。

PHEVの代表的燃費の単位としては、ICEVやHEVと同様に単位ガソリン量当たりの走行距離で示すのが一般ユーザーに最も理解しやすいと考えられており、[km/L]の単位(米国では[miles/gallon]、[MPG])で表示する方法が普通用いられている。単位ガソリン量当たりの走行距離で示す場合はCDレンジの電力消費[km/kWh]をエネルギー的に等価のガソリン燃費[km/L]に換算するなどして、これを以下の式を用いてCSレンジのガソリン燃費[km/L]と合成する。


ここで燃費N [km/L] は単位距離あたりのガソリン消費率C[L/km]の逆数になるので、燃費は(2)式により計算される。Equation2


PHEVの代表的燃費算出の考え方と例

3representativesここでは、電力とガソリンのエネルギー消費からPHEVの代表的燃費を算出する考え方とその例について考察する。


① 電力消費を無視してガソリン消費のみで評価

Equation3電力消費を無視してガソリン消費量のみを用いて代表的燃費を算出する場合、上記の(2)式の分母の第1項はゼロとなるため (2)式は(3)式のようになる。

この評価方法は、日本(国土交通省)およびEU(UN)で規定され、使用されている。

例えば、2012年式プリウスPHV のJC08モードの場合、CSレンジ燃費=31.6[km/L] およびUF = 0.483[-]なので、(3)式によりPHEVの代表燃費(「複合燃料消費率(プラグインハイブリッド燃料消費率)」と呼称)は61.1 [km/L] と計算される。(「複合」の意味に関しては注記1を参照)

この評価方法は、ガソリン消費量のみで全走行距離を除すので大きな電池を搭載してUFが大きくなる場合、ガソリン消費量が小さくなるので代表燃費値が過大になる欠点がある。


② 電力消費を発熱量で等価のガソリン消費に換算して評価

Equation45電力を熱量で等価のガソリンに置き換えて代表的燃費を算出する場合、上記の(2)式でCDレンジの電力消費のガソリン等価燃費はAEモードの場合 (4)式になるので、(2)式は(5)式になる。

ここでガソリンと電力の熱換算係数のH[kWh/L]として次の値が用いられている。
 H = 8.89[kWh/L] 32.0[MJ/L] (EPAのガソリン発熱量)
 H = 9.14[kWh/L] 32.9[MJ/L] (日本のガソリン発熱量)

この評価方法は、EPAでは既に使用されており、日本の新燃費基準報告書の中の別添6「電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車の取扱いについて」では将来のPHEVなどの燃費評価として示されている。

例えば、2011年型Chevrolet VoltのEPA City/Highway複合燃費の場合は、CDレンジの電力消費= 4.5[km/kWh]、CSレンジの燃費 = 16[km/L]、UF =0.64[-] なので、(5)からPHEVの代表的燃費 = 26[km/L] = 60[MPGe]と計算される。

この方法では電力とガソリンを熱量で等価換算しており、動力として使用する充電電力を熱として低く評価しているため、大きな電池を搭載してUFが大きい場合に、代表燃費値が大きく出る傾向がある。

注: EPAの燃費ラベルの最終デザインでは、上記のように複合燃費をユーティリティファクターで合成したPHEVの「合成燃料消費率(合成燃費)」はラベル上に数値的に明示されないように決まったが、ラベルに記載されている年間燃料費用と5年間節約金額は合成燃費を用いて計算されていると考えられる。また、このVoltの合成燃費(60MPGe)は、EPAが全車種について燃料経済リーダー車を決めるときに使用されている。(これについては、「GMのボルトのEPA燃費ラベル」)の「追記1:新デザインによる2012年式VoltのEPAラベル」を参照されたい。



③ ガソリン・電力のエネルギー変換率により換算して評価

これは、ガソリンと電力間のエネルギー変換率を用いて、電力を等価のガソリンに置き換えて代表的燃費を算出する方法である。数値的には、(4)式でガソリンから電力へのエネルギー変換率をη[-]として、AEモードの場合は (6)式を用いて計算することになる。Equation6

この考え方による燃費算出方法は、1980年代から米国で代替燃料による燃費の表示方法として検討されてきており、2000年にはDOEがCAFE(企業別平均燃費)基準に適用する電気自動車の燃費表示のためにこの考え方による「石油等価燃料経済計算」のルールを決めている. この計算指針では上記のエネルギー変換率ηの値として米国の化石燃料発電の発電効率の平均値0.328を用いている。

ただし、電力消費量をガソリン消費量に変換する式の中に、充電電力駆動への大きなインセンティブとしてFuel Content Factor(値は6.67)なる係数を入れており、最終的なガソリンと電力の換算係数は、19.5~21.7[kWh/L]と発熱量で等価の換算(②の8.89[kWh/L])の2倍以上となり、充電電力駆動に大幅に有利な燃費を算出するようになっている。


エネルギー変換率によるPHEVの代表的燃費表示

CDレンジがAEモードの場合のエネルギー等価・UF合成による代表的燃費の一般的計算式は(7)式で表される。Equation7

ここで、ガソリンから電力へのエネルギー変換率(η)をどのようにとるかによって、PHEVの代表的燃費の値が変わる。

前節の「PHEVの代表的燃費算出の考え方と例」で示した3種類の評価方法を一般的な(7)式に当てはめた場合、ηの値は次のようになる。

① 電力消費を無視してガソリン消費のみで評価: η=∞
② 電力消費を発熱量で等価のガソリン消費に換算して評価: η=1.0
③ ガソリン・電力のエネルギー変換率により換算して評価 η=0~1の値


Gaselecconversion熱力学的に意味のあるガソリンから電力へのエネルギー変換率として、同じ化石燃料を用い発電の主流である火力発電の熱効率を参考にするのが妥当と考える。現在、日本の火力発電の平均熱効率は42%程度であり、新設のプラントはコンバインドサイク48%(石炭IGCC)~60%(天然ガスGTCC)程度となっており、平均熱効率は今後も向上していくものと考えられる。以上から、PHEV代表燃費に使用するガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの値としては、0.5程度が適当と考える。

ガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの参考になる値として、「JHFC 総合効率特別検討委員会」2010年報告書の一次エネルギー源から車両(燃料タンク・電池)までのWell-to-Tank効率から、ガソリンと電力の一次エネルギー量の比を計算してみる。単位車載エネルギーあたりの一次エネルギー量は、ガソリンでは1.2 [MJ/MJ]、電力(日本の2009年度電源構成、車載電力は電池における値、水力・原子力の一次エネルギーはゼロと仮定)では2.5 [MJ/MJ]となっているので、充電効率0.86の補正をしてガソリン・電力の一次エネルギーの比として1.2/2.5/0.86= 0.56が得られる。

ここで、ガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの値をパラメーターとして、JC08モードの燃費・電費の試験値からPHEVの代表的燃費を計算した例を下表に示す。この表のパラメーターηの値としては、上記①電力消費を無視してガソリン消費のみで評価η=∞、②電力消費を発熱量で等価のガソリン消費に換算して評価η=1.0、および③ガソリン→電力のエネルギー変換の熱力学的考察から火力発電の熱効率を参考にη=0.5、をとった。


Phevfuelconsumptioncompare4
(7)式による代表的燃費の算出は、UFが0から1までの範囲、すなわちハイブリッド車(HEV、UF=0)からPHEVを経て電気自動車(BEV、UF=1)に至るまでシームレスに適用可能なので、表にはHEVとBEVの計算例も含めた。なお、表中のGMのVoltについてはJC08モードでの試験結果はないので、[JC08モード燃費 = EPA複合燃費 x 1.5 ] と仮定して得られる燃費とUFを用いた。

表で、エネルギー変換率ηが0.5の燃費値は熱力学的にも意味があるとともに、一般ユーザーにとっても実用の際の燃費との乖離などの違和感がない値となっている。(ただし、PHEVの代表的燃費算出の元になっているモード燃費の実用燃費との乖離の問題は別)

エネルギー・環境対応型自動車の導入促進のために、企業別平均燃費規制方式のように充電電力駆動の車の燃費値を高く設定して政策的インセンティブとすることも考えられるが、一般ユーザーを対象としたPHEVの表示燃費には科学的に意味のある定義・算出方法が必要と考える。

ガソリンから電力へのエネルギー変換率ηの値として、火力発電の現在から近い将来における効率値などを参考にすると、η=0.5程度を用いたPHEV代表的燃費の定義が最も合理的なものと考える。

まとめ

● 電力とガソリンの2種のエネルギーにより駆動されるPHEVのエネルギー消費率を単一の代表的燃費値で表示する方法について考察した。
● CDレンジとCSレンジのエネルギー消費の合成に必要なユーティリティファクターの値は、代表的な統計調査データから適切な統計処理方法で算出されるべきと考える。
● ガソリン→電力のエネルギー変換率ηが0.4~0.6の範囲の燃費値は熱力学的にも意味があるとともに、ユーザーにとって違和感がない値と考えられる。
● エネルギー・環境対応型自動車の導入促進のために、充電電力駆動の車の代表的燃費値を高く設定して政策的インセンティブとすることも考えられるが、一般ユーザーを対象とした表示燃費には科学的に意味のある定義・算出方法が必要と考える。
● PHEVの代表的燃費の定義には、ガソリンから電力へのエネルギー変換率としてη=0.5程度を用いるのが最も合理的と考える。

注記1: 燃料消費率(燃費)における「複合」の意味

米国環境保護庁(EPA)が認定(Certify)する燃料消費率(燃費)には、都市部(City)走行燃費と高速道路(Highway)走行燃費と、この二つの燃費が下の式により結合された(Combined)燃費の3つがあります。(「mpg」はMiles per Gallonの略)
  Combined mpg = 1 / [(0.55/city mpg) + (0.45/highway mpg)]
このEPAのCityとHighwayの「Combined」燃費を日本では「複合燃費」と呼んでいます。

一方、本稿ではPHEVの代表的燃費表示としてユーテリティファクターによりCDレンジとCSレンジの二つの燃費・電費から合成された(Composite)燃費を合成燃料消費率(合成燃費)としていますが、国土交通省ではPHEVの代表燃費は「複合燃料消費率(プラグインハイブリッド燃料消費率)」と呼んでいます。

すなわち、日本では「複合」という言葉が、EPAのCityとHighwayの「Combined」と、CDレンジとCSレンジの「Composite」の、両方の意味に使用されているので注意が必要です。
(2013.1.11)

注記2: 「複合」、「等価」、「合成」の使い方

本稿では、「複合」、「等価」、「合成」について、別に定義されている以外では、次のような使い方をしています。
 ◎ 複合(燃費)=EPAによる都市部(City)走行燃費と高速道路(Highway)走行燃費を加重調和平均したCombined(複合)燃費
 ◎ 等価(燃費)=ガソリンと電力の消費量を何らかの考え方で同じ単位に換算して合算し走行距離を除したEquivalent(等価)燃費
 ◎ 合成(燃費)=ユーティリティファクターによって電力走行とガソリン走行を加重調和平均したComposite(合成)燃費

注記3: プラグインハイブリッド車の燃料消費率 -- ユーティリティファクタ,電力・ガソリン等価合成の考え方

プラグインハイブリッド車の燃料消費率、ユーティリティファクタ、電力・ガソリン等価合成の考え方や関連する話題については、自動車技術会の会誌「自動車技術」2014年7月号に掲載した表題の解説へのリンクがある。(2014.7.30)

(2013.1.12)

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メモ: 三菱アウトランダーPHEVの「複合燃料消費率」など

Btn_phev2009年頃からコンセプトが発表されていた三菱アウトランダーPHEVがいよいよ2013年1月に発売されことになりました。SUVと4WDが特徴的なプラグインハイブリッド車で、新しい機構もあり、楽しみな車です。

三菱自動車のアウトランダー予約受付開始のプレスリリースから、PHEV特有の複合燃料消費率の計算方法やその他気の付いた点をメモしました。

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1.アウトランダーPHEVの複合燃料消費率の計算方法

上の諸元表でEV走行可能距離(充電電力走行距離、CDレンジなどとも呼称)が60.2kmなので、これから電力走行距離割合(ユーティリティファクター、略してUF)を計算することができます。

Ufcomparemlitandhori2j日本の平均的ユーザーを対象とするユーティリティファクターUFについては、筆者が2007年に導出したものと、国土交通省が2009年に提示したものがあります。左の図は、電池による充電電力走行距離を横軸に、UFを縦軸にとって、その関係を示したものです。なお、この図で、「堀」の値は国土交通省の2004年自動車輸送統計報告書より自家用乗用車・登録自動車(小型車・普通車)を対象として導出したもので、「国交省」の値は「JCAP自動車使用実態調査より」となっていますが対象車種などの詳細は示されていません。

アウトランダーPHEVのEV走行可能距離の60.2kmから、国土交通省提示のユーティリティファクターUFを求めると、UF=0.7229(この計算は国土交通省提示の近似式から計算)となります。

複合燃料消費率は、この場合CDレンジを全部電力で走行するモード(AEモード)と考えられるので、計算式は、
  複合燃料消費率=ハイブリッド燃料消費率/(1-UF) となり、
  複合燃料消費率=18.6/(1-0.7229)=67.1km/L と計算されます。
この値は、上記諸元表の67.0km/Lとほぼ一致しています。

ここで注意しなければいけないのは、国土交通省がPHEV用に定義した「複合燃料消費率(「プラグインハイブリッド燃料消費率」とも呼ぶ)とは、充電電力とガソリンの両方を消費して走行した全距離(km)を消費したガソリン量(L)のみで割った値です。すなわち、電力の消費量は計算に入っていません。(PHEVのユーティリティファクターと燃費に関する一般的問題については、文末の注記1を参照)


アウトランダーPHEVの場合には、12kWh容量の大きなバッテリーを搭載しているのでユーティリティファクターが約0.72となっていますが、これは平均的なドライブパターン(一日当りの走行距離の分布)のユーザーが使用した時に72%の距離を充電電力で走行するという意味です。この場合は残りの0.28すなわち28%の距離をガソリンを消費してハイブリッド走行しますが、この28%の距離を走行するのに消費したガソリン量で全部の距離を割っていますので、算定された「複合燃料消費率」は67.0km/Lと大きな値になります。

極端な例として、GMのレンジエクステンダー型PHEVのボルトは16kWh容量の大きなバッテリーを搭載しているので、もし日本に持ってきてJC08モードで走行させた場合にユーティリティファクターが0.81程度になると想定され、この場合は19%の距離のハイブリッド走行で消費するガソリン量で算定するので「複合燃料消費率」は126km/Lという大きな値に計算されます。

[追記] 
 2014年発売のレンジエクステンダー型PHEVのBMW i3 RExの「プラグインハイブリッド燃料消費率」を、この2009年の国土交通省実施要領に従って計算すると実に652km/Lという値になる。
 国土交通省は2014年に「プラグインハイブリッド燃料消費率」の表示の見直しを行うことを発表(1,2)しており、BMW i3 RExの仕様表(2014年4月現在の主要諸元)には「プラグインハイブリッド燃料消費率」の項目は記載されていない。また、2014年以前発売の他社のPHEVでも2015年以降のカタログの仕様表には同様に「プラグインハイブリッド燃料消費率」の項目の記載がなくなっている。

一方、トヨタのプリウスPHVの場合は4.4kWh容量のバッテリーを搭載しているので、ユーティリティファクターは約0.48となり、52%の距離のハイブリッド走行で消費するガソリン量で算定するので「複合燃料消費率」は61km/Lと計算されます。

要するに、ガソリン消費量のみを考慮している「複合燃料消費率」の定義では、バッテリーの大きさが「モノを言う」のです。だからと言ってこの「複合燃料消費率」の定義は「意味がない」わけではありません。平均的なドライブパターンのユーザーならば、消費するガソリン量はこの「複合燃料消費率」で全走行距離を割った値になります。これに、充電した電力量を加えた値が走行のための全エネルギー消費量になります。なお、充電電力量の計算には、「電力消費率」(km/kWh)が必要ですが、今回のプレスリリースの上記諸元表には記載されていませんでした。

2.今回の発表で気の付いた点

① いずれ国土交通省審査値が正式に発表されたらカタログなどに記載されると思いますが、「電力消費率」[km/kWh]の値と「一充電消費電力量」[kWh/回]の値は重要な情報ですので、諸元表に含めて頂きたい項目と思っています。

② 上の「アウトランダーPHEV主要諸元(予定)」の表の注釈2に、「一般ドライバーの約90%は、1日の平均走行距離が60km以下。(出典:JCAP自動車使用実態調査)」とありますが、この元の調査の目的、対象とした地域、整理方法、標本数などから、こう言い切ることにどの程度説得性があるか気になるところです。もっとも、上記国土交通省のユーティリティファクターも、使用したデータ数・処理方法、対象車種などの詳細はありませんが「JCAP自動車使用実態調査」から導出したようになっていますので、調査内容を検討した結果ならば問題ないと思います。

③ 急速充電がメーカー・オプションで設定されていますが、PHEVの通常の使い方では急速充電は必要と考えられず、それよりもAC200Vの普通充電(SAE J1772 AC Level 2相当)を現在の15Aから30Aにした方が実質的と思います。米国ではLevel 2のEVSE(車外充電機器)は公共用も含めて30A~32A対応となっており、いずれ日本もこの方向に進むと考えられるので、PHEVとしては大きめの電池を搭載しているアウトランダーに先鞭をつけて頂きたいところです。

追記1: 三菱自動車 新型アウトランダーPHEVを正式発表(2012年12月26日)
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 発売日: 2013年1月24日
 
 価格: 332万4000円~429万7000円。2012年度クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金(上限額43万円)が適用された場合の実質的な車両本体価格は289万4000円から。
 
 仕様: ここ

上記仕様表から燃費・電費などのPHEVの燃料消費関連データを抜粋して右の表に示す。
(2012.12.26)

注記1: PHEVのユーティリティファクターと燃費に関する一般的問題

国土交通省によって規定されているユーティリティファクターやそれを用いたプラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)の審査値の導出においては次のような仮定を置いています。

 ①規定されているユーティリティファクターは、ある母集団の走行データから統計的に求めており、これらの母集団の平均と同じドライブパターンの車に適用すると仮定している。
 ②規定されているユーティリティファクターは、充電は1日1回で走行は満充電の状態から開始すると仮定している。
 ③ユーティリティファクターの図の横軸の「充電電力走行距離」は「EV走行換算距離」と同じで、EV走行に使用可能な電池容量すなわち「一充電消費電力量」と「電力消費率」の積になるが、この「電力消費率」はJC08モードテストの値であり、得られた審査値はJC08モード値と同じ電費・燃費で走行すると仮定している。

実際の走行はユーザーによって千差万別であり、ユーザーの走行条件次第で実走行燃費は審査値から乖離することになります。このようなPHEVのユーティリティファクターと燃費の問題はアウトランダーに限った話ではないので、別項で議論することにします。この中のプラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)の定義の妥当性については、「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」の項で考察しています。
(2012.12.26)

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2015年ころ発売の第4世代新型プリウス

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第4世代新型プリウスのラスベガスでの発表イベント「2016 Toyota Prius World Premiere」は、2015年9月9日13時(日本時間)からライブ配信された。

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トヨタのプレス発表(日本語)はここ

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今後のエネルギー・環境対応型自動車は、当面はハイブリッド車、続いてプラグインハイブリッド車を主流として導入されていくと考えている。この長期的な車型変遷のエネルギー・環境への効果については、筆者が2008年に自動車技術会に発表した論文「HEV、PHEV導入によるエネルギー需給変化とCO2削減の効果」で定量的に評価している。

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ハイブリッド車の先導的な車種は、ハイブリッド技術のパイオニア・トヨタの「プリウス」であり、1997年発売の第1世代(10型、上の写真の左)、2003年発売の第2世代(20型、上の写真の中)、2009年発売の第3世代(30型、上の写真の右)と進化してきている。筆者は2007年にクラウンからプリウスのNHW20型に乗り換えた時、その斬新なメカニズム、圧倒的な燃費などに感激した。そしてこれまで5年間の使用経験から、その経済性・信頼性を実感している。

さて、2015年ころ発売の第4世代新型プリウスだが、新聞や雑誌などで既に報道されており、その技術・スタイルなどについては、いろいろな推測が出ている。今後、世界の有力メーカーから多くのハイブリッド車が発売されるので、先行しているトヨタも熾烈な競争に晒されるが、先輩格のプリウス各車種は技術・販売両面でその優位性を保つべく進化していくものと考えられる。以下、Green Car Reportに掲載されたJohn Voelckerの「2015トヨタプリウス・噂の総まとめ」などをもとに、その技術・仕様を探ってみる。

2015toyotaprius011左の写真は2010年Toyota Design Internshipにおける工業デザイナーEric Leongによる「2015Prius」のデザインスタディ作品(ここから転載)。

発表・発売時期: 毎年1月にデトロイトで開催される「北米国際オートショー」の2014年1月か、或いは2015年1月の発表が考えられるが、発表後数ヶ月で発売されるとして2015年1月発表の場合は2016年式になるので2014年1月発表の2015年式と当初は想定されていた。既にそれを過ぎたので、これからある国際自動車ショーの機会を注目していくことになるが、その間リークやスパイショットなどで以下の推測もアップデートされていく。

【追記: Automotive Newsの2014年6月30日の報道によると、次期(第4世代)プリウスの生産開始は予定より6ヶ月遅れて2015年12月になる見通しとのこと。これからユーザーの手に渡るのは、予定より大幅に延期されて2016年1月以降と見られている。また、別の報道によると第4世代プリウスのプラグインバージョン(PHV)の生産開始は2016年10月と見られている。

第4世代プリウスについては、トヨタ技術陣が2015年春の生産開始に向けて新しい自動車アーキテクチャと次世代ハイブリッドシステムの仕上げに取り組んできたところであるが、一説では最高の燃料経済性の達成のためにボディやシャシーを含む仕上げ・微調整のための遅れとしている。なお、第4世代プリウスでは、後で述べるようにTNGAと呼ぶ新しいアーキテクチャ(プラットフォームとパワートレイン/ハイブリッドシステム)を採用することにしている。】

バッテリーパック: 経験・信頼性の高いNi-MH電池を継続するか、Li-Ion電池に変更するか、大きな疑問点だが、地域によって変えることもありそうである。トヨタの嵯峨宏英専務役員は、2012年5月Automotive Newsに、米国で生産開始する第4世代プリウスのバッテリーは多分Li-ion電池になる、と語っている。なお、トヨタは米国でのプリウスの販売台数は2015年に20万台に増加すると見ていたが既にこれを超えそうであり、米国工場での生産準備を進めているとのこと。

軽量化: トヨタは第2世代プリウスの時にアルミ車体を検討したが設備投資コストがが高く生産量がそれに見合うだけ大きくないとの理由で放棄したと言う。第4世代プリウスでは車重の70kg軽量化の仕様を決めたようである。

Ftbhtoyota空力特性: これは新型プリウスが抜本的改良をする部分と考えられる。2012年のジュネーブ・モーターショウで発表したFT-Bhコンセプト車(左の写真)は抗力係数Cd=0.235と、5ドアハッチバックコンパクト車としては非常に良い値であった。

Ns4toyotaスタイル: 第4世代プリウスのスタイリングは空力抵抗の最も小さい形状になることは明らかで、前面面積、断面積、長さなどが最も影響する。前述のFT-Bhコンセプト車や2012年1月デトロイトで発表されたNS4-PHVコンセプト車(右の写真)のスタイルからもヒントが得られそう。なお、Stage-10による2012年10月のスケッチと解説はここに、「Car and Driver」誌の2014年3月の予想図と記事はここに、掲載されている。

タイヤ: 転がり抵抗の低いタイヤの採用は予想できるが、トヨタは技術現状を超えたレベルまで推進しているようで、タイヤメーカーに、新しい、革新的な、超低転がり抵抗タイヤへの取組について話しているとの報道もある。

4WD化: プリウスが4WD(AWD、全輪駆動)になるとの推測もある。これまでプリウスの4WDはなかったので、プリウスVや、あるいはもしプリウスのクロスオーバーSUVが出れば、これらの車種で4WDもあり得るかもしれない。

燃費: 英国のAutoExpressは、第4世代プリウスの英国での燃費として米ガロン基準で75MPGと言っている。これを米国EPAのテストサイクルによる複合燃費に換算すると60MPGになる。第3世代(30型)のEPA複合燃費は50MPG(21.3km/L)なので、第4世代のプリウスは現行より20%の燃費向上になる。これからJC08での燃費を比例で求めると、第3世代プリウス(ZVW30、車両重量1310kgの場合)の32.6km/Lが39km/L程度に向上すると推測される。

追記1: 米国の自動車サイト「LEFT LANE」による2015年型プリウスのスパイ写真
Left Lane 2013.05.24 記事レスポンス紹介記事

2015prius1_1200この記事では、「これまでの噂では、プリウスの次期モデルは伝統的なウェジ型を捨ててより主流のセダン的なデザインになるという話だったが、これらのスパイ写真ではこの噂とは違っている。厳重にカモフラージュされているが、このプロトタイプでは鋭く傾斜しているウィンドシールドや平坦なリアのガラス部分など第4世代プリウスはその車名の馴染みの形状を維持しているようだ。(略)
次期プリウスは電動四輪駆動(electronic four-wheel drive system)になるという話もあったが、このテストカーの写真からはその点についての手掛かりは殆どない」などと報じている。

このサイトに掲載されている12枚の写真には運転席周りも写っており、EVボタンが空調系コントロールの下に見えている。
(2013.05.28)

追記2: 米国の自動車サイト「Motor Trend」による2015年型プリウスのスパイ写真

2015toyotapriusprototypecenterstack米国の自動車誌Motor Trendのサイトが2015年型プリウスのスパイ写真38枚を掲載している。(2013.05.28記事写真

写真はLeft Lane掲載のものと同じソースのようだが、枚数と画素数はMoter Trendの方が多い。

読者のコメントの中には、「外装も内装もミュール*の部品だ。ダッシュ周りは現行のLexus CT hybridのもの、ボティは2013年プリウスに厚板でカモフラージュしただけ。特筆すべきものなし」と、冷めた意見も。

(* ミュールmuleとは、開発中のパワートレインのみを載せた初期プロトタイプ車のこと。パワートレイン以外のボディやその他に既存車両の部品を使用する)
(2013.05.29)

追記3: 米国におけるトヨタ自動車・小木曽氏の講演から、次世代プリウス関連部分

Toyota_hybrid_toursトヨタ自動車は2013年8月28日米国ミシガン州イプシランティで有力メディアを集めて「2013トヨタ・ハイブリッド・ワールドツアー」(2013 Toyota Hybrid World Tour)を開催した。この会合ではトヨタのハイブリッド車種全部を初めて1ヶ所に集めて展示し、トヨタの幹部が15年前にトヨタがハイブリッド車プリウスを世に出してから今日までを振り返り、さらに将来に向ってトヨタのハイブリッド化・プラグインハイブリッド化の方向を語るなど、力の入った会合のようだった。

この会合でのトヨタ自動車・小木曽聡常務理事の英語講演は、1993年に小木曽氏が「G21計画」に配属されプリウス開発に携わった頃を振り返るなど率直で興味深い。この講演から第4世代「2015年式プリウス」(以下「次世代プリウス))に関する部分を拾ってみる。

● プリウスを1997年に発売して以来、ToyotaとLexusブランドでPHVも含めてハイブリッド車を23モデル出してきた。次世代プリウスの発売は実質改造されたハイブリッドパワートレイン系の到来を示し、広くToyotaとLexusブランドのモデルで新時代が始まることになる。

● 新しいハイブリッド・パワートレインは、大きく改善された燃費、さらにコンパクトなパッケージ、それによる軽量と低コストを実現する。このパワートレインで重要なのはバッテリーとモーターとエンジン技術。バッテリーでは出力密度が重要。

● これまでNi-MHとLi-ionバッテリーを研究・開発・生産を増強してきており、将来に向ってLi-airやLi以外のMgやその他を用いた電池化学の研究を進めている。

● 次世代プリウスは出力密度を上げた新しい小型モーターと先進バッテリー技術の組み合わせ。現行プリウスのモーターは初代プリウスの4倍の出力密度だが次世代はさらに高くなる。

● 現行プリウスのガソリンエンジンの熱効率は38.5%だが、次世代プリウスは40%以上で世界最高。

● プリウスは米国で長年にわたり燃料経済のキング。これまでの3世代平均で毎世代約10%燃費を向上させてきた。この調子で記録を更新すること、自分の記録を破ることは大変難しいが、記録を破る意気込みでやっている。

Toyotatnga● 私の経歴はシャーシ屋、このような次世代プリウスのパワートレインの進展は大幅に改良されたシャーシがあってこそ。次世代プリウスはTNGA(筆者注: Toyota New Global Architecture、Automotive.com 2013.11.01記事の中の写真→)と呼ぶ新しいアーキテクチャを採用し、その中で低重心で高剛性のシャーシを使用する。その他の改良も含めて乗り心地・ハンドリング・俊敏性・空力性能が良くなっている。

● 次世代プリウスの開発と平行してプリウスPHVの開発も進めている。これまで2年間のPHVオーナーの声を聞いて、All-Electric Range(AER、充電電力使用時走行距離)を増やして欲しいというリクエストを検討中。(筆者注: 現行プリウスPHVのJC08モードの充電電力使用時走行距離26.4kmより増える可能性を示唆)

● PHVオーナーはまたもっと便利な充電操作を希望しており、電磁界共振のワイヤレス充電を開発中で、日・米・欧で2014年にシステムの検証を開始する。
(2013.08.30)

追記4: 米メディアのトヨタ自動車・嵯峨氏のインタビュー記事から、次世代プリウス関連部分

2013年10月10日の米国自動車メディアAutomotive Newsは、トヨタ自動車のドライブトレーン技術担当取締役の嵯峨宏英氏のトヨタ自動車のドライブトレーン将来技術に関する談話を掲載している。

その中で、ハイブリッド車のバッテリーについて、「次世代プリウスはニッケル水素(Ni-H)電池とリチウムイオン(Li-ion)電池の組み合わせになろう」"Saga said the next Prius may offer a combination of the batteries"と語っている。

これはNi-HとLi-ionを組み合わせた新しい電池かと一瞬期待を持ったが、この記事を引用している米国の別のサイトの表現では"The next Prius may well contain a mix of lithium-ion batteries and the old-style nickel units"と換えており、次世代プリウスはNi-H電池を搭載するモデルとLi-ion電池を搭載するモデルから構成されるという意味のようである。上の本文中の「バッテリーパック」の項の記述と同様の趣旨と考えられる。

嵯峨氏は「Li-ion電池は同じエネルギーをNi-H電池より30%小さい容量で出すが、Ni-H電池の寿命と耐久性はずば抜けている。しかしプリウスPHVではLi-ion電池は必須(must)」とも語っており、次世代プリウスでもNi-H電池は捨て難く、Li-ion電池搭載のモデルと両方を提供する可能性を示唆していると考える。

なお、この記事にはエンジン、ミッション、燃料電池車、電気自動車などの将来方向についても興味ある話が出ている。
(2013.10.22)

追記5: 次期プリウスはAWD(4輪駆動)を検討中 オプションでリチウムイオン電池も

Automotive Newsは2014年7月14日、次期プリウスはオプションでリチウムイオン電池が選べるほか、4輪駆動(AWD)もオプションになる可能性があると報じている

これはトヨタのパワートレイン担当の嵯峨光栄・専務役員との7月7日のインタビューに基づく内容で、要点は次の通り。

① 電池は低価格のニッケル水素とリチウムイオンの2種から選択できる。

② 駆動方式は現行の前輪駆動のほかに4輪駆動の可能性がある。嵯峨氏の表現では ”I think we will possibly do it.”(多分そうすると考えている)。

③ 次期プリウスに搭載される新ハイブリッドシステムはより小さく、より軽く、より効率的になると期待されているが、嵯峨氏は具体的内容は示さなかった。

④ 「電池は両方とも改良され、その他の改良もあって、皆様を驚かすような燃料経済性になると考えている」"The batteries will be renewed. Everything will be revised. And I think we will come up with a fuel economy that will surprise everyone" 数値は示さなかった。

⑤ 「大型の車の場合は今まで例がない新しいコンセプトを加えるだろう」"In case of large-size [vehicles], we will add unprecedented new concepts"とも語っている。

なお、本文の「発表・発売時期」の項に追加しているように、Automotive Newsは2週間前の2014年6月30日の報道で、次期プリウスの生産開始は予定より6ヶ月遅れて2015年12月になる見通しとしている。
(2014.07.14)

追記6: 「次期プリウスで新しいハイブリッド技術の開拓」のニュース

Ts040hybrid2トヨタは量産車向けのハイブリッドシステム「THS、Toyota Hybrid System」の技術をモータースポーツに適用した「THS-R、Toyota Hybrid System - Racing」を開発してきている。レースでは急激な減速・加速に伴う大きなパワーのエネルギー回生や力行(駆動)が必要で、トヨタではモータージェネレーター・ユニット (MGU)により機械力⇔電力のエネルギー変換を採用し、回生した電力の充電と力行のための電力の放電に電池に代わって大電力(kW)の出し入れが可能なスーパーキャパシター(日清紡の電気二重層キャパシター)を使用したシステムを開発し、2006年の国内「スーパー耐久」の十勝24時間レースの頃から実地に試験・改良を重ねてきた。

Yoshiakikinoshita4この成果が、最近のル・マン24時間レースおよびFIA 世界耐久選手権(WEC)で活躍しているプロトタイプレーシングカーのトヨタ・TS030 HYBRID(2012年)やトヨタ・TS040 HYBRID(2014年)となっている。(写真は木下美明・トヨタレーシングチーム代表)

こうなると今度はレースの成果を量産車の性能向上にフィードバックするのは当然の方向と考えていたら、2014年6月17日オーストラリアのDrive.comが「次期プリウスで新しいハイブリッド技術の開拓」と題する興味のあるニュースを発信した。

これはトヨタ・レーシングチーム代表の木下美明TMG社長へのインタビュー記事で、その要点を意訳すると次の通り。正確には原文を参照されたい。

① トヨタはル・マンなどのレースをスーパーキャパシターを量産車に取り込む一つの手段として見ている。次期プリウスでスーパーキャパシターと電池を組み合わせた統合ハイブリッドシステムを導入することも出来よう。

② ハイブリッドシステムの重要課題の一つは高速走行におけるブレーキ時のエネルギーの急速回生である。

③ 今回のレースに使用したシステムはプリウスのよりも60倍優れており、この技術をプリウスに応用できたらプリウスのエネルギー効率はさらに良くなろう。

④ 将来は我々のレース経験から開発したハイブリッド電池システムのようなのが利用できよう。

⑤ この技術の量産車への適用時期は確言し難いが、多分あと5年以内であろう。

スーパーキャパシターと電池を組み合わせたシステムをハイブリッド車に適用した例では、AFS Trinity社のものがあり、本ブログでも2010年9月に「AFS Trinity社の電池・ウルトラキャパシター併用システムの特許確定」と題して紹介している。このほか、Voltの開発に絡んだGMでの可能性検討、米国アルゴンヌ国立研究所とMaxwell Technology社・Gold Peak Battery社の共同研究、伊ピニンファリナ社と仏ボラーレ社の電気自動車Bluecarなどの検討・開発例がある。

トヨタがレース経験に基づくスーパーキャパシター・電池システムをHEVやPHEVなどの量産車に適用することを大いに期待しているが、2015年12月生産開始の次期プリウスで最初から導入する可能性は少ないと見ていた。

前項記載のトヨタ嵯峨専務役員の「大型の車の場合は今まで例がない新しいコンセプトを加えるだろう」とのコメントから、キャパシター利用のハイブリッドシステムの技術をレクサスなどの大型HEVで先ず導入する可能性はあると考え、上記Drive.comの2014年6月のニュースを1ヶ月遅れで紹介した。なお、重量の大きい車ではエネルギーの回生・力行時のパワーが大きいのでキャパシターの効果が顕著になると想定される。
(2014.07.15)

追記7: トヨタ、新アーキテクチャーTNGAの特長と計画を発表

トヨタ自動車 は、新しいアーキテクチャー(TNGA, Toyata New Global Architecture)を2015年内に発売予定のプリウスから導入開始し、他の車種にも順次展開して2020年ごろに世界販売の約半数で採用する計画を、2015年3月26日明らかにした。この内容はここに掲載。
(2015.03.29)

追記8: この車は次期プリウスか?(動画とスチル)

Green Car Reportsサイトは2015年5月15日"Is This The Next Toyota Prius Hybrid Captured On Video?"と題して、PRIUSchatフォーラムに掲載された次期プリウスらしいカムフラージュされた車が給油している動画を紹介している。



「今、お忍び中の第4世代プリウスを目撃したと思う」と題して動画を投稿した人曰く、「家内と私はカリフォルニアからラスベガスに行く途中、給油のためベーカーで止まりました。出発しようとした時、ロードテスト中らしいカバーを付けた車が目につきました。よく見るとプリウスらしいのです。横を通りながら動画をとりましたがあまりうまくは撮れていません。皆さん、どう思いますか?」(2015.05.14 2:36 PM投稿) これに対して1日で40件以上の感想が寄せられている。次期プリウスへのファンの関心は高い。
(2015.05.16)

このほか、「タイでテスト中の次期プリウスのスクープ写真」(?)がこのサイト()に紹介されている。
(2015.06.07)

2015年8月に入って、いろいろな写真・動画(例えば、123456)が出てきている。なかでも、CarAdvice(2015.08.30)サイトが掲載したPrius Club Malaysiaによるスクープ写真はこちら。これは同じCarAdvice(2015.07.08)が引用しているスケッチによく似ている。
(2015.08.05~08.30)

追記9: 第4世代の新型プリウスは2015年9月9日ラスベガスで発表

第4世代の新型プリウス(Toyota Prius 2016)は、これまで9月17日~27日にフランクフルトで開催される国際モーターショー2015(IAA Cars 2015)でデビューと予想されていたが、9月8日にLas Vegasでメディア向けに発表されることになった。(Bloombergの2015.8.19の報道
(2015.08.19)

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米国自動車技術会の新しい充電規格、コンボコネクターとは

米国の自動車技術会(SAE)から、電気自動車およびプラグインハイブリッド車用の充電カップラーの規格SAE J1772の改訂版(J1772_201210)が2012年10月15日に発表されました。これは従来からある交流用の規格のLevel 1とLevel 2に直流用の規格Level 1とLevel 2が加わったものです。

Saej1772n1_2SAEの充電規格は左の表のような構成になっています。従来からの交流のLevel 1とLevel 2に、新たに直流のLevel 1とLevel 2が加わりました。(注: 急速充電のことをこれまでのLevel 1(100V)とLevel 2(200V)の流れで「Level 3」と呼ぶ人もいますが、新しい分類では今回規格化した急速充電は「DC Level 1」と「DC Level 2」になります)

交流(普通)充電に加えて直流(急速)充電を行う車は、車側のインレット(充電を行うための車側の差し込み口)がこの交流と直流が一体化したものになります。これが通称「コンボ・カップラー」(Combo Coupler)と呼んでいるものです。普通充電のみの車は従来と同じで、交流Level 1とLevel 2用のインレットを使用します。

Saecombo右の図は、直流の急速充電を行う車に使用されるインレットとコネクター(プラグとも言う)です。図の左側が、従来の交流(Level 1とLevel 2)と新しい直流(Level 1とLevel 2)を一体化したインレット(車側の差し込み口)です。この上側は従来の交流と同じ形状になっていますので、普通充電の場合は従来型のコネクターをこのインレットの上側に挿すことになります。新しい直流の急速充電は右側のコネクターをインレットの上下に挿すことになります。この時に下の2本のピンが直流の電力用で上側は直流充電の通信用に使用されます。

なお、この説明では、EVSE(Electric Vehicle Supply Equipment、車外充電設備)の各部の名称として、下の図に示す欧州自動車工業会のネーミングを参考にしました。(この図の日本語の括弧内は日本での通称)

このコンボコネクターを含むSAEの新充電規格SAE J1772の詳細は、ここからSAE非会員の一般の人は$66(約5000円)を払って資料をダウンロードすれば知ることができます。

ところで、このSAEのコンボ方式の規格化については日本でもいろいろ報道されていますが、説明に一部不正確なものがあります。

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日本と異なる規格採用=米国、EV急速充電で」(時事通信2012.10.16)

この記事に、「しかし、急速充電のみに対応するチャデモ方式に対し、コンボ方式は、普通充電用と急速充電用のプラグを一体化。」とありますが、インレット (車側の差し込み口)を一体化しているのであり、コネクター(ケーブルについている差し込み、プラグ)は普通充電用は従来型を使用し、急速充電用は新しいコンボ(一体)型を使用します。

日の丸EV、はや孤立感 米充電規格に「チャデモ」落選」(日本経済新聞2012.10.21)

この記事の中のチャデモとコンボの比較表で、コンボは「プラグが1種類 (急速用と普通用が1体)」とありますが、コンボでも表の中のチャデモの方の記述の「プラグが急速用と普通用の2種類」が正しい。この表にあるコンボのコネクター(プラグ)の写真は急速充電専用のもので、普通充電用は従来型のコネクター(プラグ)を使用します。

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これらの記事を見ると、コネクター(ケーブル側につく差し込み、プラグ)とインレット(車側の差し込み口)を混同している節が見受けられます。以下はコンボ方式の補足解説です。詳しくは、規格の資料や図面を参照下さい。

• コンボ方式は、今までの普通充電用のインレット(車側の差しこみ口)と急速充電用の2本のピンを組み合わせた瓢箪型のインレットを使用する充電方式。急速充電は、通信用に普通充電の部分を使用する。

• このように組み合わせることにより、普通充電に加えて急速充電を行う場合、車側に切るインレットの面積を従来の普通充電用と急速充電用の二つから一つにすることができるので、自動車車体側の設計・製造上は楽になる。

• コンボ方式でも普通充電の場合は従来の普通充電用コネクター(SAE-J1772)を使用する。急速充電には、インレットと同じ形の瓢箪型のコネクターを使用する。

• それ故、チャデモ方式の急速充電がついている車の普通充電には、従来のEVSE(車外の充電器)、ケーブル、コネクター、車側インレットが、そのまま使える。しかしコンボ方式の急速充電機は、コネクター形状も通信方式も違うので、チャデモ方式の車には使用できない。

• なお、米国と欧州では、コンボコネクタ-の外郭線は同じ形状だが、普通充電が米国単相・欧州3相なので、普通充電部分のピンの数が欧州は1本多い。

Evsename2

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コンボ方式充電のメカニズム

コンボ方式充電のメカニズムについては、下のYoutubeビデオが判りやすい。(2014.08.24追記)

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世界の充電コネクター

米国で電気自動車のコンサルタントなどをしているEVI(Electric Vehicle Institute)が、世界の充電用プラグとコネクターが一覧表になっている便利なポスター(下の写真)を作成した。このポスターのPDFファイルはここからダウンロードできる。(2015.01.05追記)

Eviconnectors


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Synthesistの自動車に関するツイッターから(2011年10月~2012年4月)

電気自動車・プラグインハイブリッド車などの自動車電動化を巡る最近の主な動き全般については、下記を参照下さい。
 ●自動車電動化を巡る主な動き (2012年分、適宜アップデート中)
 ●自動車電動化を巡る主な動き (2011年分)

ACプロパルション社CEOのTom Gageが辞職(2011.10.09)

ACプロパルション社CEOのTom Gageが辞職した。(ニュースソース) テスラやEVミニのドライブトレーン技術はこの会社から。ACプロパルション社発表「彼はEVコミュニティに留まるだろう」、「辞職は取締役会との合同決定」、「中国でのEV市場拡大などがよりスムースに」など。

Tom Gage辞職に関連して、ACプロパルション社の技術で電気ミニバンLuxgenを製造している台湾のYulon社の話も出ている。ACプロパルション社のインバーターは系統との大電力の充放電が可能なので、V2Gなど自動車・グリッド間のエネルギー統合運用で重要な技術。

プリウスPHVとボルトの燃費(2011.11.05)

11月5日の朝日新聞に来年1月発売のプリウスPHVの燃費は現行プリウスの2倍のリッター61キロと出たので、プラグインハイブリッド車の燃費について解説をしている私のブログ記事へのアクセスは普段の10倍に増えた。PHVへの関心は高い。

プリウスPHVに関連して、シボレー・ボルトの日本での「燃費」を100km/L以上と推算しているブログ記事にもアクセスが多い。日本のPHEV「複合燃料消費率」の定義は、ガソリン消費のみを考慮しているので、電池の大きさがモノを言ってしまう。

自動車-グリッド・インタラクション(2011.11.24)

2011年9月に次世代エネルギー産業会議で講演した「自動車-グリッド・インタラクション」の資料を掲載しました。内容は、プラグイン自動車による電力系統のシステムおよび配電レベルへの影響、電力系統への各種サービス、電力系統との統合システムの方向、など。

東京モーターショーの印象(2011.12.10)

東京モーターショーに行ってきた。場所が東京ビッグサイトになったせいか大変な人だった。トヨタの小型ハイブリッドの「アクア」はコンパクトで良くできていると思った。ただ、今乗っているプリウスが私のカーライフにぴったりなので、アクアに乗り換える気にはならなかった。

トヨタ・スバル共同開発のスポーツカー「86(ハチロク)/ BRZ」の人気は凄く、写真を撮る列には40分と書いてあった。全般に、電気自動車やプラグインハイブリッド車などのエコカーよりもスポーツタイプの方が人だかりが多かった。この辺はメデイァの報道から受ける印象と違った。

「自動車―電力系統のインタラクション」、OHM誌に掲載(2011.12.13)

今、書店に出ている技術総合誌「OHM」12月号の特集「スマートモビリティ: 自動車はこれからどうなる?」に、「自動車―電力系統のインタラクション」と題する5ページの記事を掲載しました。11年9月に次世代エネルギー産業会議で講演したもの。概要はここ

GEの充電器、アマゾンで通販(2011.12.15)

米国のアマゾンで、壁掛け式のGE製電気自動車用充電器「WattStation」を売っている。208-240V40Aの仕様で$1,099。日本円にすると約8万6千円と安い。日本で同種の壁掛け式は、半分の容量(200V20A)で約15万円。

ガソリン燃料の低温SOFC(2011.12.31)

ガソリンを燃料とし、出力密度が高く、これまでよりも低い温度で作動する燃料電池(LT-SOFC)の開発が進んでいる。これが実用化したら自動車はどう変わるか? 現状と考察をメモにした。「低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?」

今後の水素エネルギー利用に関する見解(2012.01.05)

「今後の水素エネルギー利用」について見解をまとめた。水素利用を大別して考察。①配送水素単体利用(水素単体を配送して利用) ②改質水素直接利用(化石燃料などを配送して、改質・水素生成し、その場で燃料電池などに供給して利用)

見解の要約: 生成する水素を直接その場で燃料電池で利用するような「改質水素直接利用」のケースは増加するが、「水素単体がエネルギーキャリアーとしてパイプラインやタンクローリーなどの整備されたインフラを通じて大規模に流通・利用される」ような「配送水素単体利用」のケースは限定的。

米国でリーフ改良、レベル2充電は6.6kWへ(2012.03.22)

米グリーンカーレポートによると「2013年型の日産リーフ: ヒーター改良、レザーオプション、6.6kW充電」。リーフのユーザーは「シートのオプションやヒーターでは買い換えないが、6.6kW充電では買い換えるかも」とのコメントがあった。

私は前から「200V普通充電は30Aに」と言ってきたが、日本の普通充電設備は依然として大部分が3kW用。米国の大手の充電設備メーカーの機器は、初めから220V-30A=6.6kWに対応済みだ。日本向けの車は3kW充電の儘なのかな?

米国で今年発売される2013年式リーフから220V充電が2倍の6.6kWになる件、2011/12年式も6.6kWにアップグレード可能な話があったが、米国であったオンラインのリーフファンとのミーティングで、この方法はないことが確認された。(2012.04.12)

電気自動車などのWell-to-WheelのCO2排出量(2012.03.30)

電気自動車、ハイブリッド車、PHEV、エンジン車のWell-to-WheelのCO2排出量のブログをアップデートした。これまでは発電所の上流のCO2排出を入れてなかったが、JHFCの総合効率部会報告書の数値を入れて図にまとめた。 ページの最下部の追記4。

自動車のエネルギーにガソリンのほか電気も加わったので、Well-To-WheelのWell(油井)の表現がふさわしくなくなり、一次エネルギー源の意味で「Source」を使った「Source-To-Wheel」の表現を用いるようになってきた。

PHEV燃費表示の解説をアップデート(2012.04.17)

トヨタ・プリウスPHVが1月末から一般に発売され、その燃費が「リッター61km」ということでPHEVの燃費について調べる人が多くなった。私が解説しているサイトへのアクセスも多くなったので、内容を整理してアップデートした。

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エネルギー・環境対応型自動車の総合CO2排出量

Stwco2emissionw2011a電気自動車・ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車などの「エネルギー・環境対応型自動車」の「エネルギー源から車輪まで」を総合した二酸化炭素(CO2)排出量を、最近のJHFCのWell-To-Wheel評価のデータを入れて計算してみました。詳細は「電気自動車を火力発電で動かすより、ハイブリッド車の方がCO2排出は少ない?」のサイトの最後の方の「注記4」および「注記5」にまとめてあります。

自動車が使用するエネルギーがガソリンのほか電気も加わってきたので、Well-To-Wheelの「Well」(油井)やTank-To-Wheelの「Tank」(ガソリンタンク)の表現がふさわしくなくなり、一次エネルギーの源の意味で「Source」、自動車のエネルギー貯蔵(タンクや電池)の意味で「Vehicle」を使用した「Source-To-Wheel」や「Vehicle-To-Wheel」の表現を用いています。

上記サイトにも書いてありますが、新しい燃費計測基準の「JC08」モードによる燃費は、従来からの「10・15」モードの値よりもユーザーの実走行時の燃費に近いと言われていますが、一般ユーザーの普通の走行条件では「JC08」モードの値を出すことは先ず困難であり、実燃費とは未だ相当乖離しています。

Stwco2emissionw2011bこれに対して、米国の環境保護庁(EPA)が制定している燃費は、都市部走行(City)、高速道路走行(Highway)とそれらの複合(Combined)の3データが示されており、これらの値は日本の「JC08」モード燃費よりも低く、日本での実走行燃費にかなり近いと考えられますので、上記サイトの注記4ではEPA複合燃費で評価した「Source-To-Wheel」のCO2排出量の結果を示しました。(上の図)

ただ、「JC08」モード燃費は実用燃費と乖離しているとは言え、公式には各所で使われていますので、注記5では各車種について「JC08」モードによって評価した「Source-To-Wheel」のCO2排出量の結果を示しました。(下の図)

これらの図から判るように、電気自動車やプラグインハイブリッド車のCO2排出量は自動車を充電する系統電力のCO2排出原単位によって変わり、この発電のCO2排出原単位は電力会社の電源構成によって変わるので自動車を使用する地域によって変わり、また年度によって電源構成などが変われば変動します。なお、日本全体では、発電のCO2排出原単位の平均値に相当する自動車のCO2排出量を見ることになります。

詳しい導出過程などは、上記サイト、とくにその中の注記4と注記5をご覧下さい。

追記1: 2011年度の10電力の電源別発電電力量構成

Fepc0212powershare2012年6月13日、電気事業連合会から2011年度の10電力会社の電源別発電電力量構成が発表になった。

それによると
 地熱および新エネルギー 1.4%
 水力 9%
 石油等 14.4%
 LNG 39.5%
 石炭 25%
 原子力 10.7%
となっている。

2010年度と比較すると、原子力のシェアが28.6%から10.7%に大幅に低下し、その過半をLNGの29.3%から39.5%への大幅増加で補っている。なお、電事連発表の2002年から2011年までの各年度の電源別発電電力量構成比は右図の通り。

この電源構成から2011年度平均のCO2排出原単位(排出係数)を電力中央研究所報告書(「日本の発電技術のライフサイクルCO2排出量評価」2010年7月発行)の電源別CO2排出量のデータなどを参考に推定すると、約0.51kgCO2/kWhとなる。また、2012年6月現在、全原子力発電が稼働していないので、このような原子力ゼロの場合のCO2排出原単位を同様に概算すると約0.56 kgCO2/kWhとなる。この推定条件は、2011年度の原子力発電のシェア10.7%を全部LNGが肩代わりしてLNGシェアが50.2%になるとした場合で、もし原子力のシェア減の一部を石炭によって補うとするとCO2排出原単位は0.56 kgCO2/kWhより大きくなる。なお、別項に記載のように計算条件は不明だが2012年のCO2排出原単位として0.58 kgCO2/kWhという値も報じられている

上の「発電のCO2排出原単位 vs. 自動車のCO2排出量」の関係図に、2009年度および2010年度の電力10社平均の使用端CO2排出原単位(排出係数)の電事連発表値に加えて、2011年度電力10社平均のCO2排出原単位と原子力発電ゼロの場合の電力10社平均のCO2排出原単位の筆者推定値を記載した。
 2009年度 0.412 kgCO2/kWh(電事連発表値)
 2010年度 0.413 kgCO2/kWh(電事連発表値)
 2011年度 0.51 kgCO2/kWh(筆者推定値=電事連発表値、追記2参照)
 原子力発電ゼロの場合 0.56 kgCO2/kWh(筆者推定値)

なお、例えば、同じLNG火力発電でも汽力か複合か、またその温度によっても効率が変わるため、詳細な電源構成の条件を入れないと正確なCO2排出原単位は算出できない。ここに示した「筆者推定値」は、電気事業者から確定値が発表されるまでの参考程度と考えて頂きたい。
(2012.6.20)

追記2: 2011年度の電力10社平均のCO2排出原単位の電事連発表値

2011年度の電力10社平均のCO2排出原単位が2012年12月に発表されていました。筆者推定値の0.51 kgCO2/kWhと同じ値でしたのでその旨追記しました。
(2013.7.15)

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低温ガソリンSOFCで自動車が変わる?

Fuelcellsもし、このガソリンを燃料とする低温の燃料電池(SOFC)が本当に実用化したら;
 car エネルギー効率が2倍になるので、ガソリンスタンドは生き残ってもガソリンエンジン車は減っていく?
 car そして、既存のガソリンインフラが利用できるので、大規模な水素インフラ整備が必要な水素の燃料電池車は影が薄くなる?
 car さらに、コンパクトで「航続距離不安」のないSOFCレンジエクステンダーとの住み分けで、電気自動車は急速充電インフラを必要としない近距離コミューターに変わっていく?
 carcarcar まさに自動車が変わることになりそうである。

Wachsman280x120米国メリーランド大学エネルギー研究センター長のEric Wachsman教授が開発したガソリン燃料の固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、大学のプレス発表によると、エネルギー密度が約2ワット/平方cmと大きく、作動温度が650℃以下と低い、画期的なものである。これまで他のグループも2ワット/平方cm程度のエネルギー密度を実証してきているが、何れも約800℃の作動温度でボタンサイズのYSZによるもので、スケールアップに際しては問題に遭っている。

Wachsman教授等は別の材料を各種試み、アノードに薄膜GDC/ESBの2層電解質、カソードにBR07―ESB複合材料の組合せで、このエネルギー密度・作動温度のブレークスルーを達成した。この電解質は、従来のジルコニアのものに比べて電気伝導度が同じ温度で約100倍と優れている。(電極の組成は注1参照)

「2ワット/平方cm」というエネルギー密度だが、カリフォルニアでCoca-Cola、Fedex、Googleなどの各社のビルに自家発電用SOFCを納入して有名になったBloomエネルギー社のユニットがこの10分の1程度のエネルギー密度でしかも作動温度は900℃であることから、画期的な値であることが判る。

上の写真で手に持っているセルが10x10センチで200ワット発電、下の図(E.D. Wachsman, K.T. Lee; Science.)のように、これを5セル合わせたものが1センチ厚、50セル合わせたスタックが10x10x10センチの立方体で10kW発電、これを10スタック束ねた1モデュールが100kW発電となる。この図には、SOFCの出力とその適用機器の対比が示されている。このスタックは材料1kgあたり3kWの発電が可能で、内燃機関の1/3のサイズでそれ以上のパワーが出ることになる。Sofcl

Wachsman教授によると、現在の作動温度650℃は電解質と電極の改良により350℃まで下げることが出来るとのこと。この温度まで下がると、自動車の動力源としての利用可能性は大きく拡がる。SOFCの自動車搭載時の問題は、始動時における作動温度までの予熱時間で、作動温度が350℃まで下がると電池電力でスタートして走行中に燃料電池電力に切り替えるまでの電池容量が少なくて済むので、乗用車を含む各種の自動車に適用可能になる。ガソリン燃料の場合は、扱い慣れている液体燃料を、ガソリンスタンドなどの既存のインフラを通して供給できる利点がある。

このガソリン燃料電池は、電動パワートレインを持つハイブリッド車との相性が良さそうである。燃料電池をハイブリッド車のエンジンの代わりにする場合、もともと搭載している短距離走行可能の電池を使用して予熱時走行ができる。プラグインハイブリッド車の動力源として使うのは、電池容量に余裕がある上、電力系統との双方向電力流通(V2G)の特長も生かせて、最高の組合せと考えられる。

この低温ガソリンSOFCは、はたして目論見通り本当に開発・実用化できるのか? しかし、もしこのガソリン燃料電池のような液体燃料による低温SOFCが実用化されたら、自動車やその他の移動用動力源を革新する破壊的(disruptive)技術となるので、要注目である。そして、効率の良い燃料電池によりガソリン使用量は減るが石油依存には変わりはないので、長期的には脱炭素のためにも、燃料をバイオマス起源の合成燃料などに切り替えていく研究開発が必要である。

主な参考資料・図出所:
"Gasoline Fuel Cell Would Boost Electric Car Range"
MIT Technology Review, December 2, 2011

"Gasoline SOFC under Development for Automotive Applications"
Fuel Cell Today, December 5, 2011

"With low-temp SOFC gains like this . . . why stop now?"
Ceramic Tech Today, November 18, 2011

Eric D. Wachsman and Kang Taek Lee
"Lowering the Temperature of Solid Oxide Fuel Cells"
Science 18 November 2011:Vol. 334 no. 6058 pp. 935-939

Eric D. Wachsman, Craig A. Marlowe and Kang Taek Lee
"Role of solid oxide fuel cells in a balanced energy strategy."
Energy and Environmental Science, 2012, First published on the web 07 Nov 2011

注1:
 略称は次の通り。
  YSZ = yttria-stabilized zirconia
  GDC = gadolinium cerium oxide
  ESB = erbia-stablized bismuth oxide
  BRO7 = nano-sized pyrochlore bismuth ruthenate
 なお、2層電解質とは、GDC(~10μm)/ESB(~4μm) の2層


追記1: 天然ガス燃料定置用の低温SOFCを商品化

Thecube上記メリーランド大学Wachsman教授が開発した低温SOFCが、同教授が参加して設立したベンチャー企業のRedox Power Systems LLCによって天然ガス燃料・定置用燃料電池として先ず商品化されることが2013年8月メリーランド大学とRedox社から発表された。(以下、この燃料電池を「Redox燃料電池」と呼ぶ)

2012年設立されたRedox社はWachsman教授による低温SOFC関連特許の独占使用権を持っており、今後メリーランド大学とRedox社が共同でこの技術の実用化に取り組むとしている。

上の写真はRedox電池商品化第1号の「SERG 2-80 Cube」と呼ぶ皿洗い機サイズの25kW燃料電池の外観、このような形状で2kWから80kWの出力のものを構成できるとしている。このRedox電池の特長は、上の説明にあるように、SOFCとして画期的な2.5W/cm2の高出力密度と550℃の低作動温度である。

13年12月までに製作する25kW出力のプロトタイプはコンビニ店舗などの電源用で製品化・発売は2014年末の予定。Redox社によると、これまでのSOFCと比較してRedox燃料電池のサイズは1/10、コストも1/10なので、安全・高効率・高信頼性の連続的なオンサイトの電力供給が系統と接続なしでも可能になり、電力コストも現在の系統電力と競合可能になり、さらに非常の場合の自家発電として有用なもの。

Redox燃料電池の価格は少量生産で $1500/kW、大量生産で $800/kWと言っているので、Bloomエネルギー社の現行製品の 価格$8,000/kWの1/10。これはRedox電池の電解質の電気伝導度が在来の10~100倍であること、またその作動温度が在来の800℃以上に対して550℃と低いためにセル以外を含めて材料選択などが楽になることが挙げられている。

日本の家庭用燃料電池(1kW以下)の普及シナリオでは、これまでの2009年300~350万円、2012年260万円から、今後2015年50~70万円、2020年~2030年40万円となっており、Redox燃料電池の8万円/kWの価格は将に破壊的。
 「固体酸化物形燃料電池の高効率化の可能性」(原祥太郎、2013.02.22、低炭素社会技術フォーラム)

なお、最初の製品は天然ガス(メタン、都市ガス)を燃料とするが、将来、プロパン、ガソリン、灯油、軽油、バイオ燃料、水素などを使用する計画があり、自動車への適用も考えられている。

このメリーランド大学・Redox社の発表に対して、低温SOFCの実用化・将来性への期待とともに、次のようなコメントも出されている。

 ●セル以外のポンプや配管を含む全システムが未だ完成していないため、価格推定が燃料電池システムの主要構成要素のみのデータに基づいており、またきちんとした財務的な方法によっていないとのコメントがある。(上のCubeの写真もモックアップで実物ではない)

 ●燃料電池はこれまで維持費がかさみ寿命が短いなど評判が良くなく、また燃料電池ベンチャー企業の実績が芳しくないことなどに懸念を示すコメントもある。耐久性についてはWachsman教授は試験結果から10年以上の寿命があると述べている。

主な参考資料・写真出所:

●Meet the Potential Future of Electricity Generation University of Maryland
●Introducing the Redox PowerSERG 2-80 "Cube" Redox Power Systems LLC
●Redox Power Plans To Roll Out Dishwasher-Sized Fuel Cells That Cost 90% Less Than Currently Available Fuel Cells Forbes
●Could This Be the Fuel Cell to Beat All Fuel Cells? Green Tech Media
●An Inexpensive Fuel-Cell Generator MIT Technology Review
(2013.09.07)

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自動車―電力系統のインタラクション – 自動車が系統に接続される割合は?

Ohmcover1112_2次世代エネルギー産業会議・第19回会議(2011年9月28日東京工業大学)で自動車-グリッド・インタラクションに関する講演をしました。講演は約1時間で、プラグイン自動車(PEV)と電力系統(グリッド)の相互関係(インタラクション)について、重要な幾つかの課題・可能性を取り上げて解説しました。技術総合誌「OHM」の2011年12月号にその内容が紹介されています。

Horiarticlep1a「OHM」誌では、特集「スマートモビリティ―自動車はこれからどうなる?」の中で「自動車―電力系統のインタラクション―プラグイン自動車で実現する系統との双方向電力流通」と題する5ページの記事にまとめてくれました。編集部が講演の中から選んだテーマは次のとおりです。

 ● PEVによる電力系統のシステムレベル・配電レベルへの影響
 ● PEVによる電力系統への各種サービス
 ● PEVの充電設備の海外の動向
 ● 自動車・電力系統を統合したシステム

このようなプラグイン自動車と電力系統を統合したシステムの各種の可能性を考える時、動きまわる車が平均的にどの程度の割合で電力系統に接続できるか、その利用可能割合(数値的には対象とする車のうち系統に接続している割合、「Availability」「系統接続率」)を知る必要があります。

このためには、自動車がどのような使われ方をしているかの統計的な調査データが必要です。米国には、NHTS(National Household Travel Survey)など綿密に計画された調査とその結果をいろいろな目的に利用可能なように整理されたデータがあります。これらのデータから、米国の平均として1日24時間の任意の時刻における自宅に駐車している割合、あるいは自宅または勤務先に駐車している割合などが計算できます。

Availability左の図は、NHTSの調査データから自動車の系統接続率の時刻による変化を推算したものです。自動車と系統を接続する充電ポイント(双方向電力流通を考える時は「プラグインポイント」と呼んだ方が良い)が、家にしかない場合は車が外へでている昼間の接続率は65%程度まで低下しますが、もし勤務先にもプラグインポイントがあれば、昼間の最低でも85%程度の接続率になります。深夜は車は殆ど家で系統に繋がっているので100%の接続率になります。

このような自動車の系統接続率から、プラグイン自動車はその大きなパワー(kW)をかなりの割合で系統へ融通(V2G)できる素地を持っており、将来の電力システムにおいて重要なプレーヤーになり得ると言えます。これに、燃料電池やガスエンジンなどの分散型のコジェネレーション機器のパワーが加わることになれば、これまでとは違った画期的なエネルギーシステムが構築できると考えられます。

なお、講演で使用したパワーポイントは、ここからダウンロードできます。

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@Synthesist1932の自動車に関するTwitterから(2011年1月~9月)

トヨタ燃料電池車2014年発売(11.01.04)

Toyota02「トヨタ、燃料電池車14年発売へ、コスト減で1年前倒し」(中日新聞の2011年1月4日)のグッドニュースへの感想6項目 ①FCVのコストダウンの決断ができた。もともとPEFCに各社があんなに高い値段を言っていたこと自体がおかしかったのか?

続「トヨタ、燃料電池車14年発売へ・・・」への感想 ②国際的に、FCV推進への動きはEVブームの中でも却って根強い。③国際・国内・社内のFCV開発ファミリへの配慮として良さそう。④FCVでスパートを見せることで、次世代車開発レースのペースを握れる?

続2「トヨタ、燃料電池車14年発売へ・・・」への感想 ⑤全国的な水素インフラ整備は無理だが、限られた地域で助成によるインフラ整備により政策的導入はあり得る。⑥燃料電池は、コストダウンされても乗用車での実用的導入は難しいと思われるが、自動車以外での燃料電池の用途は広く有望だと思う。

200V普通充電は30Aに(11.01.30)

最近米国で新しく発表になった電気自動車は220V-30Aの6.6kW充電が多い。Ford Focus EVも6.6kWだ。24kWh電池の充電がLEAFの3.3kW約7時間に対して6.6kWでは3時間半で済む。米国のリーフ購入予定者から車載充電器 のパワーアップの要望が出ている。

米国のディーラーは「LEAFの次のモデルは、SAEレベル2(low) 220V-15A=3.3kW 充電時間=約8時間とレベル2(high) 220V-30A=6.6kW 充電時間=約4時間、急速充電は・・・」と説明しているとか?

普通充電は今後6.6kWになっていくだろう。米国の大手の充電設備(EVSE)メーカーのCoulomb、AeroVironment、ECOtalityなどの機器は、初めから220V-30A=6.6kWに対応済みのようだ。日本の公共用充電インフラは200V-30A=6kWに対応しているか?

BEVのコマーシャル(11.05.28)

電気自動車の洒落たコマーシャル、同系列の2つ。ルノー日産、この45秒辺りにレンジエクステンダーのボルトが出てくる。

急速/普通充電用コンボコネクター(11.08.11)

Combocoupler米国の自動車技術会(SAE)と電気学会(IEEE)が、遂に電気自動車・PHEV用の「コンボコネクター」の標準化を発表。J1772規格の交流と直流のレベル1とレベル2を カバーするので、交流は110V-15Aか240V-80A(19.2kW)まで、直流は最大90kWまでを、一つのコネクターで通電可能。

SAEとIEEEの両学会は、今年の4月にスマートグリッド関連の自動車技術に関して戦略的パートナーシップを結んでいた。半年足らずで今回の発表、来年 第1四半期には基準化する予定。自動車とグリッドとのV2Gのための通信はPLCで、現構造にピンの追加は不要とのこと。

このSAEとIEEEのコンボコネクターの出典。 メデイア報道SAE発表SAE・IEEEのパートナーシップ(4月)

このプラグイン自動車用の「コンボコネクター」は、SAEが来年第1四半期に規格化すると発表しただけで、未だ確定していない。SAEと米国メーカーは、急速充電でCHAdeMOが先行しているので、かなり焦っているのでは? 

現に、ワシントン州などハイウエイ沿いに急速充電設置のDOE予算がついており、今年中に執行しなければならず、現状ではCHAdeMOを採用するしかない。・・・

[注記] コンボコネクター(カップラー)など「プラグイン自動車充電設備の海外の動向」については、「次世代エネルギー産業会議・第19回会議」(2011.9.28)で行った講演「自動車-グリッド・インタラクションなど自動車電動化を巡る最近の動き」の中で触れており、その時のパワーポイントがここに置いてあります。興味のある方はこの資料のp.36-p.51あたりをご参照ください。(12.03.29)

近距離BEVコミューター(11.09.30)

電気自動車が役立つシチュエーションの代表的なものは、①市内移動 ②通勤。これには1人乗り以上・1輪以上の超軽量車で充分な場合が多い。最近はこの目的の電動車コンセプトが発表されている。この中ではVWのコンセプトモデル「NILS」に注目している。

Nilsvwe1315964280005_4VWが公開したコンセプトモデル「NILS」は究極のBEVコミューターか? 1シーター、全長3m、ボディ幅0.86m、高さ1.2m、17インチアルミホイール、重量460kg、航続距離65km、最高速130km/h、充電は230V・2時間。 

電動2輪スポーツDVD(11.09.30)

電動2輪はモータースポーツ・ファンが熱心。"Zero Emission/Maximum Speed"の副題がついた「Charge」というDVDが発売されている。

大型車の電動化コンバージョン(11.09.30)

大きな自動車の電動化は石油依存からの脱却に大きな効果がある。この効果を出来るだけ早く出させるには今走っている大型車のコンバージョン(改造)が重要。これは、プリウスのPHEVコンバージョンのパイオニア CalCarsなどが今熱心に取り組んでいるテーマ

Lutzsolsticesunglasses630この電動車への改造に関して、あのChevy Voltの生みの親 Bob Lutz が、改造ベンチャーの「VIAモーター」に入ったということが話題になっている。彼は、フォードやクライスラーで副社長などを歴任した後、GMの副会長になった人。(Bob Lutzの写真は記事のAutoblogのサイトから転載)

VIAモーターのレンジエクステンダー機構「E-REV」はトラックなどの大型車の改造に向いているようで、この種のシリーズハイブリッド型パワートレーンがこれからの改造車の主流になるか?

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シボレー・ボルトの日本での燃費は?

Chevyvoltjsae レスポンスの記事、『シボレーボルトを日本初公開、市販は未定』『GMジャパン石井社長、ボルトの実証走行「できるだけ早く始めたい」』などにあるように、シボレー・ボルトがいよいよ日本で公開された。記事によると、GMジャパンは日本での販売については未定だが、「技術的なところと営業的なところをにらんでのデモを日本でこれから進めていきたい」と述べている。

 そこで、もしボルト(Chevrolet Volt)が日本で販売された場合の燃費がどのくらいになるか、国土交通省が決めたプラグインハイブリッド車の燃費算定方法によって推定してみた。この算定方法は「プラグインハイブリッド自動車の燃費算定等に関する実施要領」(2009年7月、国土交通省通達)に示されており、本サイトでも2010年7月の項で解説している。

Priusphv2012 この要領により算定された2012年式プリウスPHVのグレードS(型式DLA-ZVW35-BHXEB)の「プラグインハイブリッド燃料消費率」などカタログなどに表示する各種燃費関連値を右表にしめす。なお、このプリウスPHVのユーティリティファクター(UF)は0.483で、この値は日本の平均的ユーザーならば全走行距離の48.3%の距離を系統から充電した電力で走行することを意味している。

Chevyvolt2 シボレー・ボルトについて、日本でこれと同じJC08モードによる燃費測定を行ったとして、上記要領で規定されている「プラグインハイブリッド燃料消費率」などカタログなどに表示する各種燃費関連値を推定してみたのが左表である。この結果を見ると、シボレー・ボルトのプラグインハイブリッド燃料消費率は、実に126 km/l(MPG表示で296 miles/gallon)という高い値になった。これは、プリウスPHVの同燃料消費率61 km/lの2倍以上の値である。

 何故このような高い燃費になったか? この理由は

 ○ ボルトは12.9kWh(交流側測定)の充電電力を使用して
 ○ 米・環境保護庁(EPA)複合燃費モードでは35マイル(56km)の距離を電力で走るのに対し
 ○ JC08モードでは電費がEPA複合の約1.5倍と想定されるので同じ充電電力で84kmの距離を電力で走ることになり
 ○ これから求まるユーティリティファクター(全走行距離の中で充電電力で走る割合)が81%となり、全走行距離の19%しかガソリンで走行しないために
 ○ ガソリン消費量のみを評価する「プラグインハイブリッド燃料消費率」が126 km/lと非常に大きくなる。

 要するに、ガソリン消費量のみを考慮している「プラグインハイブリッド燃料消費率」の定義では、電池の大きさが「モノを言う」のである。

 以上の推算は、電気自動車リーフとハイブリッド車プリウスのEPA複合モードの燃費データと日本のJC08モードの燃費データの比較に基づいて、適切な駆動系のセッティングとアクセル・ブレーキ操作で試験すると仮定して、下の付録に示すような方法で行ったものである。

 簡単な推算なので、プラスマイナス2割程度の誤差があるかも知れないが、それでも「プラグインハイブリッド燃料消費率」の定義では100 km/lを超えそうである。

 (プラグインハイブリッド車の燃費として米国と日本では異なった表示方法を用いている。カタログなどに表示する燃費関連データとしてどのような値が良いか、もう少し検討をしてまとめたいと思っている。)

【付録】

1.EPA複合モードとJC08モードの比

 電費
   リーフ EPA 4.73 km/kWh JC08 8.06 km/kWh

 燃費
   プリウス EPA 21.3 km/l JC08 32.6km/l

 JC08電費/EPA電費=1.70
 JC08燃費/EPA燃費=1.53

以下の計算では、(JC08電費および燃費)/(EPA電費および燃費)=1.5と想定して、下記のボルトのEPA燃費データからJC08の燃費データを推算した。

2.ボルトのEPA燃費データ

 充電電力走行範囲(CDレンジ)
   充電電力による航続距離: 35 miles(56 km)
   100 mile走行の使用電力: 36 kWh
   電力走行に使用する充電量: 12.9 kWh

 ハイブリッド走行範囲(CSレンジ)
   ガソリン走行時の燃費: 37 MPG(16 km/l)

Utilityfactorbymlit33.ボルトのJC08燃費データ

  充電電力走行時の電費=6.5 km/kWh
  レンジエクステンダー走行時の燃費=24 km/l
  充電電力走行時の距離=84km
  ユーティリティファクター=0.81

 ここで、日本のユーティリティファクター(UF)は国土交通省の関係式(右図)から求めた。

 「プラグインハイブリッド燃料消費率」は下の式から求めた。

 FC(P) = 1 / { UF/ FC(E) + ( 1 - UF ) / FC(H) }

   FC(P) : プラグインハイブリッド燃料消費率 [km/l]
   FC(E) : 充電電力使用時燃料消費率 [km/l]
   FC(H) : ハイブリッド燃料消費率 [km/l]
   UF : ユーティリティファクター [-]

 ボルトは充電電力使用時(電池SOCで約30%以上)は充電電力のみで走行してエンジンの作動がないので、燃料消費はゼロのため充電電力使用時燃料消費率(km/l)は∞となる。

 上の式からボルトのプラグインハイブリッド燃料消費率 [km/l]は、
   FC(P)=126 km/l
となる。

追記: 2012年式のプリウスPHVの諸元が発表されたのでプリウスPHVの燃費の表を更新した。前に掲載してあった2009年12月に市場導入された約600台のプリウスPHVの燃費については、「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その1.国土交通省によるPHEV燃費測定・表示の要領」の記事の中の「プラグインハイブリッド車の型式指定データ」のを参照されたい。(2011.12.05)

追記2: 2013年式Chevy VoltのEPAデータが発表されたので、それに基づき上記付録2項の「ボルトのEPA燃費データ」のJC08条件における値を再評価した。

ボルト2013年式のEPA燃費データに基づくJC08燃費データの推定

EPA発表のボルト2013年式の燃費データ
 充電電力走行範囲(CDレンジ)
   充電電力による航続距離: 38 miles(56 km)
   100 mile走行の使用電力: 35 kWh
   電力走行に使用する充電量: 13.3 kWh
 ハイブリッド走行範囲(CSレンジ)
   ガソリン走行時の燃費: 37 MPG(16 km/l)

EPAデータに基づくJC08燃費データの推定
 (JC08電費および燃費)/(EPA電費および燃費)=1.5として
  充電電力走行時の電費=6.9 km/kWh
  レンジエクステンダー走行時の燃費=24 km/l
  充電電力走行時の距離=92km
  ユーティリティファクター=0.83(国土交通省による係数より算出)

 「プラグインハイブリッド燃料消費率」FC(P)は下の式から

 FC(P) = FC(H) /( 1 - UF )
   FC(P) : プラグインハイブリッド燃料消費率 [km/l]
   FC(H) : ハイブリッド燃料消費率 [km/l]
   UF : ユーティリティファクター [-]

   FC(P)=141 km/l  となる。
(2013.06.22)

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レンジエクステンダーならではの対策 -- ボルトの「シールドガスタンク」と「メンテナンスモード」

Volt_2010「レスポンス」のサイトに「ボルトのオーナー、燃費公表…98.2km/リットル」という面白い記事が出ていた。

このボルトのオーナーは3ヶ月前にボルトを購入し、主に通勤に使用して現在までの走行距離が2390km。この人の通勤距離42kmはボルトの電池航続距離(EPA複合燃費ベースで56 km)の範囲内で、帰宅後に毎日充電しているため、エンジンが始動することは殆どなかったとのこと。そのため購入以来一度も燃料補給をしておらず、車載モニターは平均燃費は231マイル/ガロン(約98.2km/リットル)を表示。

ボルトのようなシリーズ型プラグインハイブリッド車(GMは「航続距離延長型電気自動車、EREV」と呼んでいる)は、このような使い方では、まさに「電気自動車」そのもので、搭載しているエンジンを始動することもなく、タンクのガソリンを消費することなく、何時までも使うことができることになる。

Display_voltところが、このような状況はガソリンやエンジンにとって好ましくない。長時間タンク内にあるガソリンは蒸発や酸化で成分が変化していき、エンジンに悪影響を与える可能性もある。この問題を避けるために、GMはボルトに「シールドガスタンク」と「メンテナンスモード」と言う対策を講じている。(この情報の出所

「シールドガスタンク」とは、ガソリンの蒸発を防ぐ加圧密封のガソリンタンクのこと。タンクの材質は最近使用されているプラスティックではなく、錫・亜鉛メッキ(hot-dip)の1.4mm厚軽量鋼。タンクの圧力開放弁は3.5psi、真空開放弁は-2.3psiに設定してあり、万一の加減圧に対応している。

シールドガスタンクによって、ガソリン蒸気の漏出と水分の漏入を防げるが、それでもタンク内のガソリンは定期的に消費・補給する必要がある。このために、ボルトでは「メンテナンスモード」を設けている。

Volttank2メンテナンスモードとは、6週間エンジンの始動がない場合にドライバーにメンテナンスのためにエンジン始動の警告を出す。ドライバーが警告後24時間以内にエンジン始動をしない場合は、エンジン自体が一定時間動き、一定量のガソリンを消費し、エンジン潤滑も行うようにしている。さらに、ガソリン補給を1年間行わなかった場合も、メンテナンスモードによって古いガソリンを消尽するまでエンジンが動き、ドライバーに新燃料を補給させる。

メンテナンスモードは、ドライバーが満タン(9.3ガロン)にして1年間15,000マイルを電気で走行した場合に平均燃費が1,600MPG(682km/L)になる程度のガソリンを消費することになる。

(使用したボルトの写真の出所はWikiおよびGM-Volt.com

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電気自動車を火力発電で動かすより、ハイブリッド車の方がCO2排出は少ない?

1、電源構成で変わる電気自動車の炭酸ガス排出量

Pres_nucl_riyu_co2_inde01_l電気自動車の場合は、電源構成により発電のCO2排出原単位が変わると、車の1km当りの二酸化炭素(CO2)排出量の値も変わってくる。ここで、各種発電方法のCO2排出量を見てみよう。

[注] 燃料電池車(FCV)のCO2排出量については、本プログ内の別項目「燃料電池車はどの程度エコか? JHFCの検討結果からエネルギー消費量とCO2排出量を他の次世代自動車と比較する」を参照されたい。

左図(出所:電気事業連合会)は、各種電源別のCO2排出量を図示したもので、縦軸の1kWh当りのCO2排出量は、所謂「ライフサイクル評価」による値で、発電燃料の燃焼時のCO2排出量のほかに、原料の採掘から発電設備の建設・運用などに関わる全てのCO2排出量を合計したものである。

発電のCO2排出原単位として定義されているものは、この中の茶色の発電燃料燃焼分によるものである。太陽、風力、原子力などがCO2排出原単位がゼロなのに比べて、化石燃料による火力発電は1kWh当り400~900g程度のCO2排出になっている。なお、これらの値は発電プラントの熱効率によって変わる。

2、石炭火力発電の割合と電気自動車のCO2排出量

電源構成による電気自動車のCO2削減効果の変化は、以前から検討されている。石炭火力が多い中国では、電気自動車導入の環境的な意義を確認するために、中国・清華大学と米国・アルゴンヌ国立研究所が共同で研究を行っている。以下は、両者共著の「中国における電気自動車の環境的意味」と題する論文(2010年発表)における主な結果である。引用している図も上記論文からの転載である。

Futurechina右図は、2030年頃の将来を想定して、電源構成に占める石炭火力の割合(その他は、水力、原子力、太陽、風力などのCO2排出ゼロの発電と仮定)とその熱効率をパラメーターにして電気自動車のCO2排出量を評価し、ハイブリッド車およびエンジン自動車のCO2排出量と値が一致する点(ブレークイーブン・ポイント、図中の□印)を示したものである。ここで、2030年の平均電費・燃費は電気自動車5.00 km/kWh、ハイブリッド車25.6 km/L、エンジン自動車18.2 km/L、石炭火力発電の熱効率は40%を用いている。これらの算定根拠については原論文を参照されたい。

この図には、電気自動車のCO2排出量がエンジン自動車と同じになる石炭火力割合87%、同じくハイブリッド車と同じになる石炭火力割合60%の二つのブレークイーブン点が示されている。なお、2030年の中国の石炭火力割合については、EIA/IEA(80%前後)および中国の研究所(70%前後)の予想が示されている。これら石炭火力割合の全土平均では、2030年でもCO2排出量は [エンジン自動車>電気自動車>ハイブリッド車] となっているが、水力発電が多い北西部・中央部・南部の地域では、電気自動車の方がハイブリッド車よりもCO2排出量が少なくなると推定される。

Generationmixchina因みに、中国の現在の石炭火力の熱効率は32%~34%、石炭火力の割合は左図のように地域により65%~98%と大きく異なっている。

Currentchinaこれらを基にした現時点における評価では右図に示すように、中国6地域の内、南部以外では電気自動車よりハイブリッド車の方がCO2排出量が少なく、北部ではさらに電気自動車よりエンジン自動車の方がCO2排出量が少なくなっている。なお、現時点(2008年)の電費・燃費には、電気自動車4.17 km/kWh、ハイブリッド車17.9 km/L、エンジン自動車12.5 km/Lを用いている。

電気自動車導入の意義は、広く、脱・石油依存、エネルギー自給、環境保全、双方向電力流通(V2G)による自動車・電力系統のエネルギー統合、新しい交通システム・ライフスタイルの創出、産業振興などの効果にある。中でも、温暖化対策として喫緊の課題であるCO2排出削減の効果については、発電のCO2原単位が地域により大きな差があることから、電気自動車の導入に関わる方針決定・政策策定に際しては、この論文のような定量的な検討を行っておくことは重要と考える。

3.日本における電気自動車とハイブリッド車のCO2排出量比較

A. 電気自動車とハイブリッド車の燃費

ここでは、電気自動車とハイブリッド車のCO2排出量を、電気自動車は日産「リーフ」、ハイブリッド車はトヨタ「プリウス」を例にとって評価する。

リーフとプリウスのJC08モード燃費は次のとおり。

 ● リーフ(型式ZAA-ZE0) JC08モード電費=124 Wh/km=8.06 km/kWh
 ● プリウス(型式DAA-ZW30 Sグレード) JC08モード燃費=32.6 km/L

新しい燃費計測基準の「JC08」モードによる燃費は、従来からの「10・15」モードの値よりもユーザーの実走行時の燃費に近いと言われている。しかし、一般ユーザーの普通の走行条件では「JC08」モードの値を出すことは先ず困難であり、実燃費とは未だ相当乖離している。

これに対して、米国のEPA(環境保護庁)が制定しているEPA燃費は、都市部走行(City)と高速道路走行(Hwy)と、それらの複合(Combined)の3データが示されており、これらの値は日本の「JC08」モード燃費よりも低く、日本での実走行燃費にかなり近いと考えられる。

 ● リーフ(2011) EPA複合電費=34 kWh/100 miles (City 32 Hwy 37)=4.73 km/kWh
 ● プリウス(2011) EPA複合燃費=50 miles/gallon (City 51 Hwy48) = 21.3 km/L

以下、EPA燃費(複合燃費)を用いて評価する。

B. プラグインハイブリッド車とエンジン自動車の燃費

電気自動車とハイブリッド車に加えて、参考までに、プラグインハイブリッド車とエンジン自動車のCO2排出量も同時に比較する。

プラグインハイブリッド車としては、仮想的にリーフの電費とプリウスの燃費を持ち、ユーティリティファクター(全走行距離に占める充電電力走行距離割合の平均、略して「UF」)が0.5の車を想定し、CO2排出量を評価した。(因みに、2009年トヨタ・プリウスPHVはUF [JC08モード] = 0.462、2012年トヨタ・プリウスPHVはUF[JC08モード] = 0.483、シボレー・ボルトはUF [EPA 複合モード] = 0.64)

 ● プラグインハイブリッド車 電費=4.73 km/kWh 燃費=21.3 km/L  UF=0.5

エンジン自動車としては、日産「ヴァーサ」(Versa、日本名:ティーダ)について評価した。ヴァーサは、日産が 2009年から2010年にかけて全米11州の主要都市で「リーフ」の展示・試乗ツアーを行った時などに、試乗車として使用したリーフのプロトタイプ車* のベースとなった車である。(* ミュールmuleと言い、開発中のパワートレインのみを載せた初期プロトタイプ車のこと)

 ● ヴァーサ(2011 1.8L Automatic) EPA複合燃費=30 miles/gallon(City 28 Hwy 34)= 12.8 km/L

C. CO2排出量の計算方法

CO2排出原単位
 ○ 発電のCO2排出原単位: パラメーターとして0~1.0 [kg-CO2/kWh]の範囲、(記号CP)
 ○ ガソリンのCO2排出原単位: 2.80 [kg-CO2/L] (追記3に説明してあるが、2011年2月21日に掲載した最初の計算では、環境省によるガソリンのCO2排出原単位の2.32[kg-CO2/L] を使用していた。これはタンクまでの上流側のCO2排出を含まない値である。電気の計算では発電プロセスまで遡って評価しているので、ガソリンの上流側排出分として20%増の2.80[kg-CO2/L] を使用することに変更した。以下の文章および図にも、この変更による修正を加えた)

CO2排出量の計算式
 ・電気自動車のCO2排出量= CP/4.73 [kg-CO2/km]
 ・プラグインハイブリッド車のCO2排出量=0.5xCP/4.73 + (1-0.5) x 2.80/21.3 [kg-CO2/km]
 ・ハイブリッド車のCO2排出量=2.80/21.3 = 0.1315 [kg-CO2/km]
 ・エンジン自動車のCO2排出量=2.80/12.8 = 0.219 [kg-CO2/km]

D.  CO2排出量の計算結果

Co2emissionvehicle8with28r左図は、発電のCO2排出原単位(kg-CO2/kWh)を横軸に、電気自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、エンジン自動車のCO2排出量(g-CO2/km)を縦軸に示したもの。エンジン車とハイブリッド車は、発電と関係ないので当然一定となる。

この図から、発電のCO2排出原単位が約0.63 kg/kWhの値をブレークイーブン点として、それ以下の発電CO2排出原単位では自動車CO2排出量は電気自動車が最も少なく、次にプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車の順になる。発電CO2排出原単位が約0.63 kg/kWhのブレークイーブン点以上では、自動車CO2排出量はハイブリッド車が最も少なく、次にプラグインハイブリッド車、電気自動車の順になる。電気自動車とエンジン車のブレークイーブン点は約1.04 kg/kWhなので、この図の範囲内ではCO2排出はエンジン車が最も大きい。

2009年度の電気事業の発電のCO2排出原単位は0.412 kg/kWhなので、自動車のCO2排出量の現時点・全国平均の値は、電気自動車が最も少なく、次にプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、そしてエンジン車の順になっており、この差は今後電源構成の脱化石燃料化が進めば大きくなっていく。

環境省の「電気事業者別のCO2排出係数」のサイトに、電力会社別のCO2排出原単位の2009年度の実績値が示されている。それによると、各電力会社のCO2排出原単位[kg-CO2/kWh](図中に↓で記入)は、北海道電力 0.433、東北電力 0.468、東京電力 0.384、中部電力 0.474、北陸電力 0.374、関西電力 0.294、中国電力 0.628、四国電力 0.407、九州電力 0.369、沖縄電力 0.931、となっている。 これから、電気自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車のCO2排出量に関わる相対的優位性は、自動車を使用する地域によって変わることが判る。

発電のCO2排出は、原子力発電の導入などにより低下してきており、電気事業連合会では2012年度までの目標として0.34 kg-CO2/kWhを掲げている。(使用端、炭素クレジット調整前の値)

なお、この図のCO2排出量やブレークイーブン点などは、想定した車種の燃費・電費、ユーティリティファクターなどの設定で変わるので、大凡の傾向を示したものと考えて頂きたい。次世代自動車導入の環境・エネルギーへの効果やプラグインハイブリッド車のユーティリティファクターなどについては、別項の解説(12)を参照されたい。

追記1:

世界の主要国の2006年の発電のCO2排出原単位(下記)を、上の「発電のCO2排出原単位と自動車のCO2排出量」の関係図に追加した。

フランス 0.08763 kg-CO2/kWh
ブラジル 0.09840 kg-CO2/kWh
カナダ 0.22358 kg-CO2/kWh
EU27国 0.39295 kg-CO2/kWh
日本 0.44820 kg-CO2/kWh
ドイツ 0.45788 kg-CO2/kWh
英国 0.53715 kg-CO2/kWh
米国 0.6129 kg-CO2/kWh
中国 0.8356 kg-CO2/kWh
オーストラリア 0.95253 kg-CO2/kWh
インド 1.27053 kg-CO2/kWh

これらの国の中で、原子力発電約80%・水力発電約10%のフランスのCO2排出原単位は0.087 kg-CO2/kWh、水力発電約80%・原子力発電約3%のブラジルのCO2排出原単位は0.09840 kg-CO2/kWh、水力発電約60%・原子力発電約15%のカナダのCO2排出原単位は0.022 kg-CO2/kWhと格段に小さい値になっており、電気自動車のCO2排出量も非常に小さくなる。

なお、引用した各国のCO2排出原単位のデータは、英国の環境・食料・農村地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs, DEFRA)とエネルギー・気候変動省(Department of Energy and Climate Change, DECC)による”2010 Guidelines to DEFRA /DECC’s GHG Conversion Factors for Company Reporting (Annex 10 International Electricity Emission Factors)”による2006年の使用端における値である。(2011.07.25)

追記2:

2011年3月の東電・福島第1原子力発電所などの震災による事故、その後の中電・浜岡原子力発電所の政府要請による運転停止につづき、他の社の原子力発電所も定期検査後の再稼働が延期されており、各社は電力需要を賄うために火力発電の稼働率を高めて対応している。このため、発電のCO2排出量が増加しており、2012年度の電力会社のCO2排出原単位は、目標値0.34 kg-CO2/kWhに対して0.58 kg-CO2/kWh程度になりそうだと報じられれいる(EcoJapan 2011年7月19日)。この値は2009年度の実績値の0.412 kg/kWhより大幅な増加となる。

発電のCO2排出原単位が0.58 kg-CO2/kWhの場合、上の「発電のCO2排出原単位と自動車のCO2排出量」の関係図から判るように、電気自動車のCO2排出量が最も少ないのは変わらないが、その値はプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車と接近する。(2011.07.26)

追記3:

2011年2月21日に掲載した最初の評価では、電気は発電ロス・送電ロスなどの上流側の排出を含んでいるのに対して、ガソリンは環境省の排出原単位を値を使用していたので、タンクに充填された状態をベースにしており、その上流側の石油掘削・精製・輸送などのCO2排出は含まれていなかった。そこで、上流側の排出を約20%としたガソリンのCO2排出原単位2.80 kg-CO2/Lを使用して、再計算と考察を行った。

参考までに、上流側のCO2排出について、各国の評価例を以下に示す。

英国の例
本評価と同様の方法でBEVのCO2排出量をICEVと比較したEcometrica社の"Your electric vehicle emits 75 gCO2/km... at the power station"と題するレポートでは、上流側のCO2排出として、BEVの場合は75g/kmから85g/kmに増加するので約13%、ディーゼルICEVの場合は159 g/kmから187 g/kmへ増加するので約18%、ガソリンICEVでは99 g/kmから118 g/kmへ増加するので約19%の値を示している。

米国の例
米国のEPA(環境保護庁)の簡易計算計算方式では、発電のCO2排出は、「eGRID2010」(Version 1.0)という発電のCO2排出を計算するソフトを用いて郵便(zip)コードにより送配電ロスを勘案した地域の値を出す。これに石炭掘出から発電所までの輸送のロスの米国平均の1.06を掛ける。ガソリンのCO2排出原単位は、8887g/gallon(2.348kg/L)を使用し、ガソリンの生産、すなわち掘削・精製・輸送など、に関わるCO2排出増として、米国平均の1.25を掛ける。

中国の例
上記清華大学・ANLペーパーのハイブリッド車CO2排出量から逆算すると、ガソリンの排出原単位として2.80 kg-CO2/Lを使用していると推察され、このペーパーの主旨からこの値はタンクより上流の排出を含んだ値と考えられる。また、このペーパーでは、石炭火力による電気自動車への電力供給においてはCO2排出の99%は発電によるとしており、発電の上流側でのCO2排出は1%以下ということになる。

日本の例
日本のJHFCのWell-to-WheelのCO2排出評価では、電力は各電源ミックスについて上流側も入れて評価し、これに送電ロスなども含めて、BEV1km走行当り49gのCO2排出量を算出している。ガソリンのWell-to-Tankの値は、ICEVおよびHEVについてWell-to-Wheelの全CO2排出の内の18.6%となっているので、上流側排出のテールパイプ排出に対する増加分で表すと22.9%となる。

上記の各国の例から、テールパイプからのCO2排出量に対して、ガソリンの自動車タンク上流側のCO2排出は十数%から二十数%、電力については発電所の上流側のCO2排出は1%以下から十数%、という値になると言える。

今回改訂した上記計算の考え方では、ガソリンは油井からの全ての排出を含めているが、電力については発電所の上流側の値が含まれていない。その意味で、ガソリン自動車側にやや厳しい評価と言える。この辺は機会があったら、見直したいと思っている。

なお、燃料消費のみならず、プラント建設・材料・運転からリサイクル・廃棄までのライフサイクルについての評価も自動車メーカーなどで行われている。下記は、Ricardo社による次世代車を含む各種の車型について比較評価した最近のレポート。
Preparing for a Life Cycle CO2 Measure
(2011.9.10)

追記4: 電力とガソリンの両方を Source-To-Wheel (STW*) で評価した場合

* 一次エネルギーの採掘源から自動車の駆動輪までのエネルギー効率やCO2排出量の評価を行うことを一般に、「油井から車輪まで」の意味で「Well-To-Wheel(WTW)」と呼んでいる。自動車に使用するエネルギーがガソリン、軽油に加えて電気や水素を含むようになると、一次エネルギーも石油から、天然ガス、石炭、ウラン、再生可能エネルギーなどと多様化しており、一次エネルギーの採掘源を「Well(油井)」と限定するのは適当ではなくなっており、「エネルギー源」の意味で「Souce」を用い「Source-To-Wheel」、略して「STW」が使用されている。また、油井から自動車のガソリンタンクまでの意味でWell-To-Tank、タンクから車輪までの意味でTank-To-Wheelが使用されてきたが、Tankの代わりに電池が使用されることもあるので、Well-To-Vehicle(WTV)、Vehicle-To-Wheel(VTW)が使用されている。

上記「追記3」の日本の例の項で、「ガソリンは油井からの全ての排出を含めているが、電力については発電所の上流側の値が含まれていない。その意味で、ガソリン自動車側にやや厳しい評価と言える。この辺は機会があったら、見直したいと思っている」と書いた。今回、電力について発電所の上流側も含めた評価を行ったので、以下その結果を記す。

参考にした資料は、「水素・燃料電池実証プロジェクト」(JHFC)の「総合効率検討作業部会」の「総合効率とGHG排出の分析」報告書(平成23年3月、日本自動車研究所発行)で、全文はここからダウンロードはできる。

追記3では、同じJHFCが平成15~17年度に実施したWell-to-Wheelの総合効率のまとめの資料を参照したが、今回参考にした資料は前回の資料に対し「平成22年度に入手可能な範囲でのデータ更新」をして、「燃料電池自動車(FCV)を主とした、各種の高効率低公害車(代替燃料)乗用車の我が国(日本)固有の条件を考慮し、計算に用いる入力データは妥当性かつ透明性に配慮し,W t W (Well to Wheel)総合効率などのデータを検討し、外部研究者が検証可能な客観的な数値データとしてまとめる」ことがゴールと説明(総合効率検討作業部会・石谷久委員長資料)してある。

この「総合効率検討作業部会」は、JHFCプロジェクトとは独立した各界の有識者による評価委員会として関係分野の研究者・専門家に広く参加を依頼して組織しており、東大、東工大、横浜国大、筑波大、工学院大学、産総研、国環研、エネ研、RITE、トヨタ・日産・ホンダ・GM・ダイムラーなど7自動車メーカー、ガス会社、石油会社、その他関連企業、自動車工業会、電事連など合計35団体が参加している。(経産省、NEDOなどがオブザーバー、日本自動車研究所などが事務局)

この報告書によると、燃料の採掘・輸送から発電を経て需要端の電気自動車に至るまでのCO2排出原単位(2009年度)は0.471[kg/kWh]、一方2009年度の発電所以降のCO2排出原単位は0.412[kg/kWh]なので、発電所より上流側の排出は発電所以降の排出の0.471/0.412=1.143倍、すなわち約14%に相当する。(これら数値の出典の図や説明は下の付録を参照されたい)

Stwco2emissionepa2一方、ガソリンについては、この報告書にタンク搭載エネルギーに対する一次エネルギーの比が1.2と示されており、このことから追記3と同じく上流側の排出を20%としたガソリンCO2排出原単位2.80 kg-CO2/Lを使用する。

上記の数値を用いて、電力とガソリンについて、Source-To-Wheel(エネルギー源から車輪まで)の自動車のCO2排出量を計算する。

今回のCO2排出量の計算式は;
 ・電気自動車のCO2排出量= CPx1.143/4.73 [kg-CO2/km]
 ・プラグインハイブリッド車のCO2排出量=0.5x1.143xCP/4.73 + (1-0.5) x 2.80/21.3 [kg-CO2/km]
 ・ハイブリッド車のCO2排出量=2.80/21.3 = 0.1315 [kg-CO2/km]
 ・エンジン自動車のCO2排出量=2.80/12.8 = 0.219 [kg-CO2/km]

この計算結果を、前の図と同じく、横軸に「発電のCO2排出原単位」縦軸に「自動車のCO2排出量」により示す。なお、横軸の「発電のCO2排出原単位」は、電力会社のデータにより電事連や環境省などが発表する需要端1kWh当たりの発電所以降の発電のCO2排出原単位である。

発電所の上流の採掘・輸送などによるCO2排出は、国により異なるのでこの図は日本の場合を示すものであり、日本国内でも厳密に言えば各電力会社で電源構成や地理的状況が2009年度電源構成平均とは異なっているため多少異なってくると思われる。

P60figs付録:出典の図および数値導出の説明

1,上記「総合効率とGHG排出の分析」報告書で上流側CO2排出の参考にした図はp.60の図3-14。(右図はその関係部分の抜粋)
2,この図の一番上がガソリンで、「単位車載エネルギーあたり一次エネルギー投入量[MJ/MJ]」の値の「1.2」を使用した。
3,この図の上から5番目が電力で、「日本MIX充電」の「単位車載エネルギーあたりCO2排出量[g‐CO2/MJ]」であらわした値の「152」を使用した。この値は、電池に入った後のエネルギー[MJ]なので充電効率86%を入れて交流側(電力需要端)のkWhに変換すると152x3.6x0.86 = 471 [gCO2/kWh]になる。
 一方2009年度の発電所以降のCO2排出原単位は412[g/kWh]なので、発電所より上流側の排出は発電所下流の排出の471/412=1.143倍、すなわち約14%に相当する。
 なお、この報告書では2009年度の「電源構成比」(p.21の表3-11)と電中研による「発電起源別のCO2 排出」のデータ(p.50の表3-30)も示されており、この報告書の条件で求めた2009年度の需要端における発電のCO2排出原単位は406[g/kWh]と計算されるが、前記電事連の412[g/kWh]との差は小さく、ここでは電事連の値を用いた。
(2012.03.29)

追記5: JC08モードによるSource-To-Wheel(STW)の総合CO2排出量

追記4までは、実際的なCO2排出をみるために、実用燃費に近い燃費としてEPAの複合燃費にもとづいて電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、エンジン車の各車種について、Source-To-Wheel(エネルギー源から車輪まで)の総合CO2排出量を評価してきた。

Stwco2emissionjc08本項では、上記4車種についてJC08モードによる国土交通省審査値をもとに、Source-To-Wheelの総合CO2排出量 [gCO2/km]を計算した。この結果を前と同様のスケールで図に示す。横軸は電力会社のデータにより電事連や環境省などが発表する需要端1kWh当たりの発電所以降の発電のCO2排出原単位、縦軸は各車種の1km走行当たりのSTWのCO2排出量である。

本項でも、電力の発電所より上流のCO2排出は発電所下流の14.3%、ガソリンの車載タンクより上流のCO2排出は車のテールパイプから排出する量の20%の値を使用した。これらの値は追記4に記載の「総合効率とGHG排出の分析」報告書(平成23年3月、日本自動車研究所発行)から引用しており、その詳細は追記4を参照されたい。

今回の各車種を代表させた車とそのJC08モード燃費は次のとおり。

 ・電気自動車:日産・リーフ(ZAA-ZE0)電費 8.06 km/kWh
 ・ハイブリッド車:トヨタ・プリウス(DAA-ZVW30 グレードS)燃費 30.4 km/L
 ・プラグインハイブリッド車:トヨタ・プリウスPHV(DLA-ZVW35 グレードS) CDレンジ電費 8.74 km/kWh、CSレンジ燃費 31.6 km/L、ユーティリティファクター 0.483
 ・エンジン車:日産・ティーダ(DBA-C11、1.5L、CVT)燃費 18.0 km/L
(注: プラグインハイブリッド車は2012年式プリウスPHVの国土交通省審査値が出たので使用、ティーダ(米国名・ヴァーサ)は同審査値のある1.5L・CVTの値を使用)

なお、Source-To-Wheelの総合CO2排出量は次の式により計算しているので、それぞれの車種に任意の電費、燃費、ユーティリティファクターを入力すれば、同様の計算が可能である。

 ・電気自動車のCO2排出量= CP/NE [kg/km]
 ・ハイブリッド車のCO2排出量=CG/NG [kg/km]
 ・プラグインハイブリッド車のCO2排出量=UF x CP/NE + (1-UF) x CG/NG [kg/km]
 ・エンジン自動車のCO2排出量=CG/NG [kg/km]

ここで
 CP:発電のCO2原単位 [kg/kWh](一次エネルギー源から自動車(交流側)までの需要端1kWh当たりのCO2排出量。本計算では、電力会社のデータにより電事連や環境省などが発表する需要端1kWh当たりの発電所以降の発電のCO2排出原単位を1.143倍したもの)
 CG:ガソリンのCO2排出原単位 [kg/L](環境省によるガソリンのCO2排出原単位の2.32[kg/L]にタンク上流の CO2排出分20%を加えたもの、本計算では. 2.80 [kg/L]を用いた。
 NE:電費 [km/kWh]
 NG:ガソリン燃費 [km/L]
 UF:ユーティリティファクター [-](全走行距離に対する電力で走った距離の割合)

なお、上記のプラグインハイブリッド車の計算は、CDレンジを全部電力走行した場合、すなわちAE(All Electric)モードの場合で、CDレンジにおいて一部エンジン走行が入るBlendedモードの場合は別の式になる。
(2012.3.31)

追記6: 別項目を立てましたので、そちらも御覧ください。

上の結果を要約して、別項目の「エネルギー・環境対応型自動車の総合CO2排出量」に概要を書いており、新しい内容も追加していますので、そちらもご参照下さい。
http://hori.way-nifty.com/synthesist/2012/04/co2-e34e.html

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GMのボルトのEPA燃費ラベル

Voltlabelv6_slide6GMのプラグインハイブリッド車Chevrolet Volt(ボルト)の米国環境保護庁(EPA)の燃料経済ラベル(Monroney Label、EPA燃費ラベル)が2010年11月に公表された。(これに関するプレスリリーズはここ

ボルトの燃費については、一時GMが燃費「230MPG」(98km/L)と発表して話題(ここの追記2参照)になったが、これでEPAの正式の値が決定した。

ボルトのEPA燃費ラベル(左)の内容は下記。

充電電力走行範囲(CDレンジ)
 充電電力による航続距離: 35 miles(56 km)
 充電電力走行時のガソリン等価燃費: 93 MPGe(39 km/L)
 100 mile走行の使用電力: 36 kWh
 年15000 mile電力走行の電力費用; $ 601

ハイブリッド走行範囲(CSレンジ)
 ガソリンエによる航続距離: 344 miles(553 km)
 ガソリン走行時の燃費: 37 MPG(16 km/L)
 100 mile走行の使用ガソリン: 2.7 gallons(10.2 L)
 年15000 mileガソリン走行のガソリン費用: $ 1302

充電電力とハイブリッド走行の全走行(CDレンジ+CSレンジ)
 全走行のガソリン等価燃費: 60 MPGe(26 km/L)
 全航続距離: 379 miles(610 km)

注: 
 ① ボルトではCDレンジは全部電力で走行(純EV走行)。表記の燃費はEPA Cityモード とEPA Highwayモードの各燃費を「City 55% Highway 45%」で複合したもの。
 ② 電力のガソリン等価燃費MPGeは電力使用量を33.7 kWh = 1 gallonでガソリンに換算したもの。
 ③ 全走行のガソリン等価燃費はユーティリティ・ファクターを使用して充電電力走行燃費とハイブリッド走行燃費を合成したもの。
 ④ ガソリン価格は$3.20/gallon、電力価格は11cents/kWhを使用(何れもEPA燃費ラベルの提示案の段階から変更されている)
 ⑤ 用語、PHEV燃費、ユーティリティ・ファクターなどの解説は、本サイト内の、などを参照されたい。

(注: 以下はEPAテスト結果の詳細を入手してないので推測、今後アップデートする可能性あり)

考察:

① ボルトの電費は、ラベルの「36 kWh/100 miles」からCityとHighwayのCombined(複合)で2.8 miles/kWh、4.5 km/kWhと計算される。これは、リーフのEPA複合電費の4.7 km/kWhと近い。

② ラベルには、ボルトの充電電力走行距離(CDレンジ)35 milesの使用電力は12.9 kWhと記載されている。ボルトの電池は、定格電池容量16 kWhで実質使用範囲は当初は8 kWhであったが、最近の報道では実質使用範囲10.4 kWhで、電池SOC(充電状態)にして20%乃至25%から85%乃至90%の間の65%をCDレンジの走行に使用するとしている。交流使用電力12.9 kWhで電池側使用電力10.4 kWhとすると、充電効率は10.4/12.9=81%となる。

③ 全走行のガソリン等価燃費は、下記の式によりユーティリティ・ファクター(UF)を使用して充電電力走行燃費とハイブリッド走行燃費を合成し、さらにCityとHighwayの値を複合して、"combined composite"の燃費を算出したものと考えられる。

 MPGe(Composite) = 1 / { UF/ MPGe(CD) + ( 1 - UF ) / MPG(CS) }

  MPGe(Composite):全走行合成のガソリン等価燃費
  MPGe(CD) : CDレンジ(電力走行)のガソリン等価燃費
  MPG(CS): CSレンジ(ハイブリッド走行)のガソリン燃費
  UF : ユーティリティファクター

Utilityfactorus2使用したユーティリティファクターは、米国自動車技術会作成の「自動車運行調査データを使用したプラグインハイブリッド車のユーティリティファクターの定義」SAEJ2841(2010年9月発行、有料)に準拠したもの。

実際の計算では、EPAのCity、Highwayなどの各テストサイクルごとに特有のユーティリティファクター(Cycle Specific Utility Factor)を定義して使用する。詳しくは、上記SAE資料およびEPA/NHTSA資料(例えばFederal Register[PDF、約18MB])を参照されたい。なお、ボルトのCDレンジにおける電費などの電気的特性はCityとHighwayで類似しており、両ケースのユーティリティファクターとして大凡0.64が用いられたようである。すなわち、米国の平均的ユーザーがボルトを使用すると全走行距離の64%を純EV走行することになる。

右図はNRELの資料からの抜粋で、図中の”From 2001 NHTS”の線はSAEJ2841と同じく2001年調査の全米自動車走行パターンに基づくユーティリティファクターを示している。横軸の”Driving Distance”はCDレンジ距離、すなわち充電電力により純EV走行の航続距離。因みに、図中の”From AVTA Fleet”の線は米国DOEの先進自動車試験活動の一環としてPHEVフリート車両の走行データを纏めたもので、フリートでは全米自動車平均より走行距離が長い傾向がある。(注: この図の「2001 NHTS」の線から、ボルトの充電電力による航続距離35 miles(56 km)では、ユーティリティ・ファクター(UF)は0.58となるが、前述のようにEPA審査結果ではUF=0.64が用いられている。今回のEPA審査では、2010年9月発行の新しいJ2841規格で定義されている「MDIUF」というユーティリティファクターを使用することになっており、これは図の「2001 NHTS」の値とは異なる。この辺の事情は「走行パターンとプラグインハイブリッド車の燃費特性 その2. ユーティリティファクターとPHEV燃費表示の課題」を参照されたい。)

④ 国土交通省が2009年7月に決定したプラグインハイブリッド車(PHEV)の燃費性能の測定と表示の方法(資料および参考資料)では、PHEVの代表燃費値として「複合燃料消費率(プラグインハイブリッド燃料消費率)」が定義されており、下記の式で計算される。

FC(P) = 1 / { UF/ FC(E) + ( 1 - UF ) / FC(H) }

 FC(P) : プラグインハイブリッド燃料消費率 [km/l]
 FC(E) : 充電電力使用時燃料消費率 [km/l]
 FC(H) : ハイブリッド燃料消費率 [km/l]
 UF : ユーティリティファクター [-]

この「プラグインハイブリッド燃料消費率」の計算において、CDレンジの充電電力使用時燃料消費率には、EPAのような使用電力量を熱量的に等価のガソリン量に換算した値を用いず、CDレンジでエンジンがキックインしてガソリンを消費した場合のみ有限の値になり、エンジンのキックインがない場合はガソリン消費量がゼロなので無限大の値となり、右辺分母の第1項はゼロとなる。

ボルトのEPAテスト結果から、上の式で「プラグインハイブリッド燃料消費率」を求めると、CDレンジが純EV走行のために右辺の分母の第1項がゼロとなり88 MPG(37.5 km/L)という値になる。

この式によるプリウスPHVの「プラグインハイブリッド燃料消費率」審査値は57.0 km/Lとなっている。プリウスはCDレンジでもエンジンから動力を供給するブレンド走行が可能であるが、JC08モードのテスト条件ではエンジンのキックインは生じなかった。

仮にボルトを日本の方式でテストして「プラグインハイブリッド燃料消費率」を出すとすると、日本のJC08モードでは、ボルトのCDレンジ(純EV航続距離)が80 kmを超え、日本の走行パターン基準のユーティリティファクターが0.8以上になる可能性があり、ガソリン燃費の向上と合わせて、「プラグインハイブリッド燃料消費率」は100 km/Lを超えそうである。

もっとも、プリウスPHVも電池容量を今の5.2kWhから増やしていくと考えられる。もしプリウスPHVが今の倍の約10kWhの電池を搭載した場合、EV走行距離が50 kmを超え、ユーティリティファクターが0.7程度となり、「プラグインハイブリッド燃料消費率」が100 km/L程度になることが考えられる。

追記1: 新デザインによる2012年式VoltのEPAラベル

「新車に貼るステッカーの案をEPAが発表、プラグインハイブリッド車用も。広く意見を募集中」のブログで説明したProposed Ruleに対するコメントを入れて、2011年5月EPAは米国で販売される乗用車とライトトラック(SUV、ミニバン、ピックアップトラック)全車の窓ガラスに、貼り付ける新しいステッカーのデザインを公表した。

この詳しい内容については、EPA/NHTSA "Revisions and Additions to Motor Vehicle Fuel Economy Label; Final Rule"(Wednesday, July 6, 2011)と題するFederal Register, Vol. 76, No. 129を参照されたい。

2012voltlabelこの新しいデザインによる2012 Chevrolet Voltのウィンドウステッカーは左図のようになっている。新旧デザインを比較すると、全体に記述が簡略になり、配置も変わり、一般の人に見易いようになっている。

内容的な変更点としては、
 新しいラベルで追加された項目:
  ・平均的新車に対して5年間で節約できる金額を追加(右上)
  ・年間の燃料(PHEVの場合はガソリン+電力)の金額を追加(左下)
  ・燃料経済と温室効果ガスの尺度が1~10の数字と位置で追加(右下)
 前のラベルから削除された項目:
  ・ユーティリティファクターで合成したPHEVの複合燃費(60MPGe)を削除(左下)
  ・Charging Routines(充電間隔による燃費の値)を削除(右下)

なお、ユーティリティファクターで合成したPHEVの「複合燃料消費率」(Combined Composite)は、数値的に明示されないようになったが、年間燃料費用と5年間節約金額は複合燃料消費率を用いて計算されていると考えられる。(注:EPAでは、「Combined」はCityとHighwayの燃費を複合した意味、「Composite」はユーティリティファクターでガソリン燃費と電力消費を合成した意味で使用している。国土交通省では、「複合燃料消費率」はユーティリティファクターでガソリン燃費と電力消費を合成したプラグインハイブリッド車燃料消費率の意味で使用している)

Epafueleconomyleadersまた、このPHEVの複合燃料消費率(Voltの場合60MPGe)は、右図のようにEPAが全車種について燃料経済リーダー車を決めるときに使用されている。
(2012.12.03)

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