1、電源構成で変わる電気自動車の炭酸ガス排出量
電気自動車の場合は、電源構成により発電のCO2排出原単位が変わると、車の1km当りの二酸化炭素(CO2)排出量の値も変わってくる。ここで、各種発電方法のCO2排出量を見てみよう。
左図(出所:電気事業連合会)は、各種電源別のCO2排出量を図示したもので、縦軸の1kWh当りのCO2排出量は、所謂「ライフサイクル評価」による値で、発電燃料の燃焼時のCO2排出量のほかに、原料の採掘から発電設備の建設・運用などに関わる全てのCO2排出量を合計したものである。
発電のCO2排出原単位として定義されているものは、この中の茶色の発電燃料燃焼分によるものである。太陽、風力、原子力などがCO2排出原単位がゼロなのに比べて、化石燃料による火力発電は1kWh当り400~900g程度のCO2排出になっている。なお、これらの値は発電プラントの熱効率によって変わる。
2、石炭火力発電の割合と電気自動車のCO2排出量
電源構成による電気自動車のCO2削減効果の変化は、以前から検討されている。石炭火力が多い中国では、電気自動車導入の環境的な意義を確認するために、中国・清華大学と米国・アルゴンヌ国立研究所が共同で研究を行っている。以下は、両者共著の「中国における電気自動車の環境的意味」と題する論文(2010年発表)における主な結果である。引用している図も上記論文からの転載である。
右図は、2030年頃の将来を想定して、電源構成に占める石炭火力の割合(その他は、水力、原子力、太陽、風力などのCO2排出ゼロの発電と仮定)とその熱効率をパラメーターにして電気自動車のCO2排出量を評価し、ハイブリッド車およびエンジン自動車のCO2排出量と値が一致する点(ブレークイーブン・ポイント、図中の□印)を示したものである。ここで、2030年の平均電費・燃費は電気自動車5.00 km/kWh、ハイブリッド車25.6 km/L、エンジン自動車18.2 km/L、石炭火力発電の熱効率は40%を用いている。これらの算定根拠については原論文を参照されたい。
この図には、電気自動車のCO2排出量がエンジン自動車と同じになる石炭火力割合87%、同じくハイブリッド車と同じになる石炭火力割合60%の二つのブレークイーブン点が示されている。なお、2030年の中国の石炭火力割合については、EIA/IEA(80%前後)および中国の研究所(70%前後)の予想が示されている。これら石炭火力割合の全土平均では、2030年でもCO2排出量は [エンジン自動車>電気自動車>ハイブリッド車] となっているが、水力発電が多い北西部・中央部・南部の地域では、電気自動車の方がハイブリッド車よりもCO2排出量が少なくなると推定される。
因みに、中国の現在の石炭火力の熱効率は32%~34%、石炭火力の割合は左図のように地域により65%~98%と大きく異なっている。
これらを基にした現時点における評価では右図に示すように、中国6地域の内、南部以外では電気自動車よりハイブリッド車の方がCO2排出量が少なく、北部ではさらに電気自動車よりエンジン自動車の方がCO2排出量が少なくなっている。なお、現時点(2008年)の電費・燃費には、電気自動車4.17 km/kWh、ハイブリッド車17.9 km/L、エンジン自動車12.5 km/Lを用いている。
電気自動車導入の意義は、広く、脱・石油依存、エネルギー自給、環境保全、双方向電力流通(V2G)による自動車・電力系統のエネルギー統合、新しい交通システム・ライフスタイルの創出、産業振興などの効果にある。中でも、温暖化対策として喫緊の課題であるCO2排出削減の効果については、発電のCO2原単位が地域により大きな差があることから、電気自動車の導入に関わる方針決定・政策策定に際しては、この論文のような定量的な検討を行っておくことは重要と考える。
3.日本における電気自動車とハイブリッド車のCO2排出量比較
A. 電気自動車とハイブリッド車の燃費
ここでは、電気自動車とハイブリッド車のCO2排出量を、電気自動車は日産「リーフ」、ハイブリッド車はトヨタ「プリウス」を例にとって評価する。
リーフとプリウスのJC08モード燃費は次のとおり。
● リーフ(型式ZAA-ZE0) JC08モード電費=124 Wh/km=8.06 km/kWh
● プリウス(型式DAA-ZW30 Sグレード) JC08モード燃費=32.6 km/L
新しい燃費計測基準の「JC08」モードによる燃費は、従来からの「10・15」モードの値よりもユーザーの実走行時の燃費に近いと言われている。しかし、一般ユーザーの普通の走行条件では「JC08」モードの値を出すことは先ず困難であり、実燃費とは未だ相当乖離している。
これに対して、米国のEPA(環境保護庁)が制定しているEPA燃費は、都市部走行(City)と高速道路走行(Hwy)と、それらの複合(Combined)の3データが示されており、これらの値は日本の「JC08」モード燃費よりも低く、日本での実走行燃費にかなり近いと考えられる。
● リーフ EPA複合電費=34 kWh/100 miles (City 32 Hwy 37)=4.73 km/kWh
● プリウス EPA複合燃費=50 miles/gallon (City 51 Hwy48) = 21.3 km/L
以下、EPA燃費(複合燃費)を用いて評価する。
B. プラグインハイブリッド車とエンジン自動車の燃費
電気自動車とハイブリッド車に加えて、参考までに、プラグインハイブリッド車とエンジン自動車のCO2排出量も同時に比較する。
プラグインハイブリッド車としては、仮想的にリーフの電費とプリウスの燃費を持ち、ユーティリティファクター(全走行距離に占める充電電力走行距離割合の平均、略して「UF」)が0.5の車を想定し、CO2排出量を評価した。(因みに、トヨタ・プリウスPHVはUF [JC08モード] = 0.462、シボレー・ボルトはUF [EPA 複合モード] = 0.64)
● プラグインハイブリッド車 電費=4.73 km/kWh 燃費=21.3 km/L UF=0.5
エンジン自動車としては、日産「ヴァーサ」(Versa、日本名:ティーダ)について評価した。ヴァーサは、日産が 2009年から2010年にかけて全米11州の主要都市で「リーフ」の展示・試乗ツアーを行った時などに、試乗車として使用したリーフのプロトタイプ車* のベースとなった車である。(* ミュールmuleと言い、開発中のパワートレインのみを載せた初期プロトタイプ車のこと)
● ヴァーサ EPA複合燃費=30 miles/gallon(City 28 Hwy 34)= 12.8 km/L
C. CO2排出量の計算方法
CO2排出原単位
○ 発電のCO2排出原単位: パラメーターとして0~1.0 [kg-CO2/kWh]の範囲、(記号CP)
○ ガソリンのCO2排出原単位: 2.80 [kg-CO2/L] (追記3に説明してあるが、2011年2月21日に掲載した最初の計算では、環境省によるガソリンのCO2排出原単位の2.32[kg-CO2/L] を使用していた。これはタンクまでの上流側のCO2排出を含まない値である。電気の計算では発電プロセスまで遡って評価しているので、ガソリンの上流側排出分として20%増の2.80[kg-CO2/L] を使用することに変更した。以下の文章および図にも、この変更による修正を加えた)
CO2排出量の計算式
・電気自動車のCO2排出量= CP/4.73 [kg-CO2/km]
・プラグインハイブリッド車のCO2排出量=0.5xCP/4.73 + (1-0.5) x 2.80/21.3 [kg-CO2/km]
・ハイブリッド車のCO2排出量=2.80/21.3 = 0.1315 [kg-CO2/km]
・エンジン自動車のCO2排出量=2.80/12.8 = 0.219 [kg-CO2/km]
D. CO2排出量の計算結果
左図は、発電のCO2排出原単位(kg-CO2/kWh)を横軸に、電気自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、エンジン自動車のCO2排出量(g-CO2/km)を縦軸に示したもの。エンジン車とハイブリッド車は、発電と関係ないので当然一定となる。
この図から、発電のCO2排出原単位が約0.63 kg/kWhの値をブレークイーブン点として、それ以下の発電CO2排出原単位では自動車CO2排出量は電気自動車が最も少なく、次にプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車の順になる。発電CO2排出原単位が約0.63 kg/kWhのブレークイーブン点以上では、自動車CO2排出量はハイブリッド車が最も少なく、次にプラグインハイブリッド車、電気自動車の順になる。電気自動車とエンジン車のブレークイーブン点は約1.04 kg/kWhなので、この図の範囲内ではCO2排出はエンジン車が最も大きい。
2009年度の電気事業の発電のCO2排出原単位は0.412 kg/kWhなので、自動車のCO2排出量の現時点・全国平均の値は、電気自動車が最も少なく、次にプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、そしてエンジン車の順になっており、この差は今後電源構成の脱化石燃料化が進めば大きくなっていく。
環境省の「電気事業者別のCO2排出係数」のサイトに、電力会社別のCO2排出原単位の2009年度の実績値が示されている。それによると、各電力会社のCO2排出原単位[kg-CO2/kWh](図中に↓で記入)は、北海道電力 0.433、東北電力 0.468、東京電力 0.384、中部電力 0.474、北陸電力 0.374、関西電力 0.294、中国電力 0.628、四国電力 0.407、九州電力 0.369、沖縄電力 0.931、となっている。 これから、電気自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車のCO2排出量に関わる相対的優位性は、自動車を使用する地域によって変わることが判る。
発電のCO2排出は、原子力発電の導入などにより低下してきており、電気事業連合会では2012年度までの目標として0.34 kg-CO2/kWhを掲げている。(使用端、炭素クレジット調整前の値)
なお、この図のCO2排出量やブレークイーブン点などは、想定した車種の燃費・電費、ユーティリティファクターなどの設定で変わるので、大凡の傾向を示したものと考えて頂きたい。次世代自動車導入の環境・エネルギーへの効果やプラグインハイブリッド車のユーティリティファクターなどについては、別項の解説(1、2)を参照されたい。
追記1:
世界の主要国の2006年の発電のCO2排出原単位(下記)を、上の「発電のCO2排出原単位と自動車のCO2排出量」の関係図に追加した。
フランス 0.08763 kg-CO2/kWh
ブラジル 0.09840 kg-CO2/kWh
カナダ 0.22358 kg-CO2/kWh
EU27国 0.39295 kg-CO2/kWh
日本 0.44820 kg-CO2/kWh
ドイツ 0.45788 kg-CO2/kWh
英国 0.53715 kg-CO2/kWh
米国 0.6129 kg-CO2/kWh
中国 0.8356 kg-CO2/kWh
オーストラリア 0.95253 kg-CO2/kWh
インド 1.27053 kg-CO2/kWh
これらの国の中で、原子力発電約80%・水力発電約10%のフランスのCO2排出原単位は0.087 kg-CO2/kWh、水力発電約80%・原子力発電約3%のブラジルのCO2排出原単位は0.09840 kg-CO2/kWh、水力発電約60%・原子力発電約15%のカナダのCO2排出原単位は0.022 kg-CO2/kWhと格段に小さい値になっており、電気自動車のCO2排出量も非常に小さくなる。
なお、引用した各国のCO2排出原単位のデータは、英国の環境・食料・農村地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs, DEFRA)とエネルギー・気候変動省(Department of Energy and Climate Change, DECC)による”2010 Guidelines to DEFRA /DECC’s GHG Conversion Factors for Company Reporting (Annex 10 International Electricity Emission Factors)”による2006年の使用端における値である。(2011.07.25)
追記2:
2011年3月の東電・福島第1原子力発電所などの震災による事故、その後の中電・浜岡原子力発電所の政府要請による運転停止につづき、他の社の原子力発電所も定期検査後の再稼働が延期されており、各社は電力需要を賄うために火力発電の稼働率を高めて対応している。このため、発電のCO2排出量が増加しており、2012年度の電力会社のCO2排出原単位は、目標値0.34 kg-CO2/kWhに対して0.58 kg-CO2/kWh程度になりそうだと報じられれいる(EcoJapan 2011年7月19日)。この値は2009年度の実績値の0.412 kg/kWhより大幅な増加となる。
発電のCO2排出原単位が0.58 kg-CO2/kWhの場合、上の「発電のCO2排出原単位と自動車のCO2排出量」の関係図から判るように、電気自動車のCO2排出量が最も少ないのは変わらないが、その値はプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車と接近する。(2011.07.26)
追記3:
2011年2月21日に掲載した最初の評価では、電気は発電ロス・送電ロスなどの上流側の排出を含んでいるのに対して、ガソリンは環境省の排出原単位を値を使用していたので、タンクに充填された状態をベースにしており、その上流側の石油掘削・精製・輸送などのCO2排出は含まれていなかった。そこで、上流側の排出を約20%としたガソリンのCO2排出原単位2.80 kg-CO2/Lを使用して、再計算と考察を行った。
参考までに、上流側のCO2排出について、各国の評価例を以下に示す。
英国の例
本評価と同様の方法でBEVのCO2排出量をICEVと比較したEcometrica社の"Your electric vehicle emits 75 gCO2/km... at the power station"と題するレポートでは、上流側のCO2排出として、BEVの場合は75g/kmから85g/kmに増加するので約13%、ディーゼルICEVの場合は159 g/kmから187 g/kmへ増加するので約18%、ガソリンICEVでは99 g/kmから118 g/kmへ増加するので約19%の値を示している。
米国の例
米国のEPA(環境保護庁)の簡易計算の計算方式では、発電のCO2排出は、「eGRID2010」(Version 1.0)という発電のCO2排出を計算するソフトを用いて郵便(zip)コードにより送配電ロスを勘案した地域の値を出す。これに石炭掘出から発電所までの輸送のロスの米国平均の1.06を掛ける。ガソリンのCO2排出原単位は、8887g/gallon(2.348kg/L)を使用し、ガソリンの生産、すなわち掘削・精製・輸送など、に関わるCO2排出増として、米国平均の1.25を掛ける。
中国の例
上記清華大学・ANLペーパーのハイブリッド車CO2排出量から逆算すると、ガソリンの排出原単位として2.80 kg-CO2/Lを使用していると推察され、このペーパーの主旨からこの値はタンクより上流の排出を含んだ値と考えられる。また、このペーパーでは、石炭火力による電気自動車への電力供給においてはCO2排出の99%は発電によるとしており、発電の上流側でのCO2排出は1%以下ということになる。
日本の例
日本のJHFCのWell-to-WheelのCO2排出評価では、電力は各電源ミックスについて上流側も入れて評価し、これに送電ロスなども含めて、BEV1km走行当り49gのCO2排出量を算出している。ガソリンのWell-to-Tankの値は、ICEVおよびHEVについてWell-to-Wheelの全CO2排出の内の18.6%となっているので、上流側排出のテールパイプ排出に対する増加分で表すと22.9%となる。
上記の各国の例から、テールパイプからのCO2排出量に対して、ガソリンの自動車タンク上流側のCO2排出は十数%から二十数%、電力については発電所の上流側のCO2排出は1%以下から十数%、という値になると言える。
今回改訂した上記計算の考え方では、ガソリンは油井からの全ての排出を含めているが、電力については発電所の上流側の値が含まれていない。その意味で、ガソリン自動車側にやや厳しい評価と言える。この辺は機会があったら、見直したいと思っている。
なお、燃料消費のみならず、プラント建設・材料・運転からリサイクル・廃棄までのライフサイクルについての評価も自動車メーカーなどで行われている。下記は、Ricardo社による次世代車を含む各種の車型について比較評価した最近のレポート。
Preparing for a Life Cycle CO2 Measure
(2011.9.10)
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